2016年3月24日 (木)

消費者庁・公益通報者保護法の改正審議はいよいよワーキングチームへ

3月23日の日経朝刊(社会面)でも大きく取り上げられましたが、消費者庁の公益通報者保護制度の実効性検討委員会は、22日に第1次報告書最終案をとりまとめました(TBSニュースでは、私は一番手前に映っています。まだ消費者庁HPでは最終案がアップされていないようです)。報告書では他省庁が所管する事業に関わる不正等事実について、消費者庁に通報窓口を設置することや調査権も付与すること、自ら関与した不正について通報した場合に減免を受けられるような、いわゆる社内リニエンシー制度を策定すること等を提言することが盛り込まれました(企業コンプライアンスとの関連で詳しく報じているのは こちらの朝日新聞ニュースです)。

また、今回の検討委員会における最大の課題(最大の目標?)である「公益通報者保護法の改正」については、改正の必要性は提言されましたが、さらなる検討が必要とのことで、舞台は有識者検討会から法改正検討チームに移ることになりました。詳細はまた消費者庁でリリースされた後に述べますが、会社法や刑法、労働法に詳しい学者の方々も委員に名を連ねる方向で検討されているようです(通報者に不利益取扱いを行った企業に対して行政措置を発動することだけでなく、刑事罰を課すということも検討課題となっています)。

これは私の個人的な意見ですが、10年ぶりの公益通報者保護法改正が実現するための課題としては、①法改正が必要であることを裏付ける立法事実が存在すること(これは多くの企業不祥事が内部通報や内部告発によって発覚している事実や、現実に通報者が不利益な取扱を受けている事実から明らかではないかと思います)、②既存の法制度(民法、民事訴訟法、要件事実論、刑法、会社法、労働法等)と改正法案との整合性をしっかり見極めることです(消費者庁がどんなに頑張っても、内閣府や国会審議で却下されては「苦労も水の泡」です)。しかし、法改正に向けて最も重要なことは、国益通報者保護法の改正が、単に通報者の地位保全や企業のコンプライアンス経営に資するだけでなく、消費者の生命、身体、財産の安全確保にとって不可欠なものであることが広く理解されることだと思います。国民からの支援がなければ、最後の高いハードルはなかなか越えることはできないのではないか・・・と(別に弱気で申し上げているわけではないですが)感じています。

とりあえず検討委員会は予定されていた全10回の会合を終えましたが、今後の審議状況等に動きがありましたらご報告させていただきます。消費者庁アドバイザー、同検討委員会委員として、約2年間法改正に向けた作業に携わってきましたが、既存の法律を改正することがいかに難しいかということを痛切に感じております。4月1日には改正景表法が施行され、課徴金制度がいよいよ動き出します。そこでは企業の内部統制システムの整備が強く要請されることになりますが(たとえ課徴金事案を生じさせても、企業が相応の内部統制を構築していれば免責される等)、このたびの公益通報者保護法の改正審議においても、企業の自助努力がリスク回避に結び付くような方向でまとまるよう尽力したいと思います(ワーキングチームの一員として・・・たぶん)。

3月 24, 2016 公益通報者保護法と労働紛争 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2013年2月15日 (金)

大王製紙の有事ふたたび・・・このまま嵐は去っていくのか?

創業家との紛争の末、北越紀州製紙社の持ち分法適用会社としてリ・スタートされた大王製紙社ですが、どうも北越紀州製紙さんとの間で、やや問題が表面化している模様であります。大王製紙社の最近のインサイダー疑惑、粉飾決算に関する内部告発問題など、ガバナンスおよびコンプライアンス問題が浮上していることから、北越紀州製紙社は「大王製紙社において特別調査委員会を設置してはっきりさせよ」と提案されたそうです(北越紀州製紙側のリリースはこちら)。これに対して、大王製紙側は、すでに内部告発者からヒアリングも済ませて、裏付けのない私的意見であることがはっきりした、またインサイダー疑惑についても弁護士や社内調査の結果から問題なし、とのことなので調査は不要である、と回答をされたそうであります(大王製紙側のリリースはこちら)。

内部告発は製紙業界の業界新聞、金融庁、そして東証に対してなされたようですが、とくに話題になったのは今年1月から2月にかけて業界新聞に(連載モノで)内部告発文が掲載されたことかと思います。告発されたのは(たしか業界紙の紹介では)49歳の企画課長の方だったので、まさに経営の中枢にいらっしゃる方です(現在は関連会社に異動されたようですが)。そのような立場の社員が自社の粉飾決算やインサイダー問題などを(告発者が特定できる形で)業界新聞に告発し、また新聞社側も、裏付けがあるものとしてほぼ一面を使って大きく報じたものなので、製紙業界において話題にならないはずはなく、北越紀州製紙社が特別調査委員会を設置するように提案するのも当然のように思うのでありますが、いかがでしょうか(注-なお、「とおりすがりの研究者」さんのコメントでは、この内部告発文の内容は、相当に推測、私見に基づくものだった、とのことです。公正を期すために付記させていただきます)

単純に、社員の内部告発があっただけでは、その信憑性にも問題がありますので「有事」とはいえないかもしれません。しかし、本社の機密情報にアクセスしうる立場にあると(一般には思われる)企画課長の方が、おそらく職を賭して業界紙に告発した、ということからすれば無視するわけにもいかないと思われます。とくに上場会社ということなので、ステークホルダーたる一般株主に対しても説明責任があるわけで、もし特別調査委員会が「お金がかかる」ものであるならば、せめて社内調査委員会の調査結果程度は開示すべきではないでしょうかね。そもそも業界新聞も、裏付けがあるものと確信して、あれだけの内容の内部告発文を堂々と掲載しておられたわけですから、当該新聞社への大王製紙社としての対応(たとえば報じられた内容は事実無根であり法的措置をとる、等)がどうであったのかも知りたいところであります。また、外形的にはインサイダー取引があったと疑われても仕方のない状況が存在したことは間違いないわけですから、これも調査結果を公表されることが自浄能力ある企業としての姿ではないかと思うのですが。

私的な見解ではありますが、大王製紙社は(現在のところ)再び有事に至っているもののように見受けられます。内部告発をされた社員の方が、いまどのような処遇となっているのか、社内調査に対しては真摯に回答されたのかどうか、委員会設置の提案を拒絶した大王製紙社に対して、今後北越紀州製紙側としてはどう対応するのか等いろいろと興味がございますが、ともかく早期の幕引きを図ろうとされている大王製紙社として、本当にこのまま嵐は静かに去っていき(北越紀州製紙社との信頼関係も維持されて)再び平穏に事業を展開することになるのかどうか、有事対応支援を時々本業としている者としては注目しておきたいところであります。

2月 15, 2013 公益通報者保護法と労働紛争 | | コメント (7) | トラックバック (0)

2005年9月 9日 (金)

公益通報者保護法と労働紛争

9月8日の日経朝刊1面に、2007年の法案提出に向けて「労働契約法」制定の準備が始まる、との記事が掲載されております。最近の企業再編などの影響で、2001年に47000件(年間)ほどだった労働紛争相談件数も、2004年には16万件に上り、労使紛争も急激に増加しています。顧問企業からの法律相談も、私の事務所の場合、人事部からの労務相談が圧倒的に多いのが現実です。

労働紛争の解決にあたって、今後大きな影響を与えそうな新しい法律がふたつほど、来年4月1日から施行される予定になっています。ひとつは公益通報者保護法で、もうひとつは労働審判法です。(また2、3年先には「労働契約法」が施行されるのでしょうね)およそ3回の審判期日によって、労使紛争を解決するシステム(裁判官身分の審判官も参加)ですから、紛争処理スピードがたいへん速くなりますので(ただし、どちらかの異議申立によって通常訴訟へ移行する可能性あり)、いままでの労働紛争処理機関もそのまま存続はしますが、かなりの労使紛争に(労働審判制度が)適用される可能性が高いと思われます。紛争の対象となっている労働者側の利益自体が小さいために、なかなか弁護士の協力が得られないような場合であっても、裁判官身分の審判官や、連合推薦の審判官などが判断に関与しますので、自分ひとりで申立ててもその権利保障の機会が確保される点が大きいですね。いっぽうで企業側としては、これまで労働者側が「泣き寝入り」していたような事案でも、簡単迅速に司法判断を得られるシステムができることから、その防御対策は十分検討しておく必要に迫られそうです。

とりわけ、来年4月1日に施行される「公益通報者保護法」による労働者の通報への対応問題を今後どのように検討するか、企業側としては非常に悩ましいところです。すでにご承知のとおり、企業の労働基準法違反行為、労働組合法違反行為については、この新法における通報の対象行為として指定されております。ですから、労使紛争の前提となっている違法事実や違法と解釈されるおそれのある労務対策について、審判や裁判の前に、この労働者もしくは委託を受けた別の労働者から「事業者に対する通報」がなされ、「是正」に関する企業としての対応を証拠化されることが予想されます。証拠化されるものは、通報に対する企業(もしくは外部窓口機関)の回答の場合もありますし、また通報を受けた後の企業の内部処理文書を文書提出命令の申立などによって提示要求されるケースも考えられます。こういった公益通報者保護法を利用した証拠が労働審判手続、もしくは労働裁判で提出された場合、その個別の事件処理のみに利用されるだけならばまだしも、その企業の労務コンプライアンスの姿勢まで公開され、社会的に非難されるような事態に発展することは、企業にとってはなんとしてでも避けたいところであります。

この公益通報者保護法は、労働問題に限られるものではなく、ひろく企業のコンプライアンス経営の向上に資するものとして、また違法行為を告発した通報者自身の労働法上の権利保護が図られるものとして制定されておりますが、とりわけ労働問題にしぼってその運用を検討してみますと、先に述べたような利用方法が想定されます。したがいまして、あと半年後に迫った労働審判法や公益通報者保護法をにらんで、労務コンプライアンスの整備と、内部通報制度(おそらく、どこの企業でもこういった名称ですでに策定はされていると思いますが)の運用面での整備(事業者への通報がなされた場合の文書の残し方や、回答方法、窓口機関の指定、判断機関や判断プロセスの整備など、開示要求がなされても運用に不正が疑われないようなシステムの整備)をもう一度点検されてはいかがでしょうか。

ちなみに、「労働者契約法」については、いまのところ刑罰による罰則規定を置くことが想定されておりませんので、公益通報者保護法による「法律違反行為の通報」の対象にはならないかもしれません。

9月 9, 2005 公益通報者保護法と労働紛争 | | コメント (3) | トラックバック (0)