2010年8月22日 (日)

「代表取締役」と「社長執行役員」どっちがCEO(最高経営責任者)?

今朝の日経新聞で知ったのですが、ゼンショーさんの連結子会社であるココスジャパンさん(JASDAQ)のリリースによりますと、収益回復に向けた経営戦略の一環として、代表取締役の交代ならびに社長執行役員の新設を発表しておられます。そして代表取締役にはココスジャパンさんの取締役の方が就任され、新設された社長執行役員には親会社であるゼンショーさんの関係者の方が就任される、とのこと。つまり同じ上場会社に「代表取締役」と「社長執行役員」が別々に就任される、ということのようであります。ファミレス業界は依然厳しい経営環境にありますので(私も他人事ではございませんので)、経営戦略の転換に向けたゼンショーさんならびにココスジャパンさんの対応がたいへん気になるところであります。

最近は「社長執行役員」さんがいらっしゃる会社はとくに珍しいものではないと思われますが、ただ普通は「代表取締役兼社長執行役員」という肩書で、お一人の経営トップの方が兼務されているのがほとんどではないでしょうか。かつてライブドアの社内取締役さんがほとんど機能しえなかったときに、取締役資格を有していなかった方が「社長執行役員」として切り盛りしておられたケースはありましたが、あのときも特別な事情があったためであり、業務執行を行いうる者が併存されるケースというのは、すくなくとも上場会社ではあまり聞いたことがございません。また中古車販売のガリバーさんのように、ご兄弟で「社長ふたり体制」という企業もあるようですが、社内での役割分担はあるでしょうけれど、経営責任は連帯して負担されることは明らかでしょうから、ちょっと本件とは事情が異なるものと思います。

ちなみに前記ココスジャパンさんのリリースによると「社長執行役員は経営業務執行を権限とする」とありますが、普通に考えれば経営業務執行を取締役会から包括的に委任されるのは株主に責任を負う代表取締役ではないでしょうか。社長執行役員はあくまでも「重要な使用人」ですから、取締役会における専決事項として取締役会によって選任されるわけですよね。会社とは雇用関係にたつだけでありますので、最高経営責任者はココスジャパンさんの取締役さんではないかと素直に考えるのでありますが、どんなものでしょうか?

たとえば社長執行役員さんは、「社長」であっても株主代表訴訟の被告にはならないですし、監査役による監査の対象にもなりません。(もちろん、取締役会における業務執行決定の在り方を通じて監査する、ということは言えると思いますが、かりに会社に著しい損害が及ぶような職務執行がなされた場合には、監査役は差止請求権を行使することはできないということになります)また、たとえば利益相反取引や親会社の利益を不当に優先するような取引がなされた場合でも、取締役ではないので、善管注意義務違反という問題も直接的には生じないようにも思えます。1億円以上の報酬をもらっていても開示の対象とはなりません。ということは、あくまでも業務執行者である代表取締役の監視監督のもとにある「社長」と考えれば良いのでしょうか。ちなみに、会社法では「業務執行取締役」の制度がありますので(会社法363条1項2号)、取締役会が個別に決定した業務の執行を取締役以外の者に担当させることはできないものと思われます。

どうもリリースを読むと、社長執行役員さんの方がCEOのようなイメージを抱くのでありますが、やはり株主に対して直接責任を負う方こそ(法律家らしからぬ言い方で恐縮ですが)会社で一番偉い人のように思います。対外的な代表権だけでなく、対内的にも取締役会から包括的な委任を受けた決定権限はまず第一に(社長ではなく)代表取締役にあると思うのでありますが。いずれにしても、監査役の方々の内部統制監査にあっては、たいへんムズカシイ統治構造のように思えます。

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2009年1月 5日 (月)

アトリウム社の利益相反取引と取締役の法的責任

不動産流通化事業、サービサー事業を主たる業務とするアトリウム社(東証1部、クレディセゾンの上場子会社)の社長さんが、自身が金融機関から借り入れている金員の返済目的で、アトリウム社より19億8200万円の融資を受けていたところ、担保として差し入れていた社長さん保有の自社株の市場価格が下落したために11億円の貸倒引当金が繰入れ計上されたことが新聞報道されております。(詳しくは毎日新聞ニュースをご参照ください。なお、問題になっている半期報告書では、その70ページにおいて引当に関する開示がなされております。)つまり社長さんが自社株を売って20億円を返済できない限り、アトリウム社の社長さんに対する融資金が焦げ付き、相当の損害を被る可能性が出てくることになります。なお、会社側はこの会社法上の利益相反取引(会社法356条1項2号、同法365条1項)については「取締役会の承認を得ているので問題はない」とのこと。

たしかに取締役会の承認決議による利益相反取引ですから、手続上はその有効性に問題ないのかもしれませんが、承認のある利益相反取引でも、もし会社に損害が発生した場合には取締役の任務懈怠責任が問われますので、このアトリウム社の役員さん方(取締役会決議で20億円の融資に賛成された取締役の方々、そしてなんら異議をとめなかった監査役の方々も)は、かなり憂鬱な日々を送っておられるのではないでしょうか。とりわけ取引の直接相手方でいらっしゃるアトリウム社の社長さんの場合、会社法428条1項によって無過失責任とされておりますので、このままアトリウム社の株価が上昇せず、また20億円ほどの個人資産も存在しないとなりますと、その取引責任は現実化するものと思われますし、かなり厳しい状況ではないかと推察されます。

ところで会社法428条1項といいますと、基本的には無過失責任を規定した条文であると認識されておりますが(おそらく会社法の時代になっても、裁判官はそのように理解している)、東大のT教授の商事法務論文(1763号、1764号に掲載されております。2年ほど前に同志社のロースクールの演習でも活用させていただいた著名論文ですが)では、利益相反取引の直接相手方である取締役は、無過失を立証して免責を主張することはできないが、「任務懈怠がなかった」ことを証明することで免責される余地はある、と述べておられます。たしかに428条1項の文言解釈としても、このT先生の見解は妥当するように思います。この「任務懈怠≠帰責事由」を前提とする解釈の場合、その明確な切り分けが問題となりますが、T先生は利益相反取引が「公正な取引」と言えるかどうか、という点で仕切っておられ、たとえ(取引時の状況から)公正な取引であって、その後当該取引に起因して会社に損害が発生したとしても、その直接相手方である取締役には任務懈怠がない、よって損害賠償責任は負わない、とする見解であります。非通例的取引としての利益相反取引が、実際に会社にとって不可欠な場合(会社の存続にとってやむをえない場合)があることは、監査役などをしておりますと理解できるところでありまして、この「公正な取引」でスクリーンをかける・・・というのは実務家からみても、納得できるように思います。ただし、何が「公正な取引」にあたるか?と言われますと、これは明確に線引きできるようにも思えませんし、日本のように「善管注意義務」と「忠実義務」とを分けた判例が形成されていない場合には、なおさら困難ではないかと思われます。

今回のアトリウム社の社長さんの場合、20億円の融資契約時には融資金に見合った評価額の自社株を担保として差し入れているわけでして、(自社株取得規制に関する論点もありますが、ここでは置いといて)その後も評価額が低減するたびに自宅その他の個人資産を追加担保として差し入れておられる様子です。会社の調達金利に1%未満の上乗せもされているとのこと。こういったケースでは、20億円の融資の時点では、担保評価額等からみて公正な取引である、として先のT教授の見解によれば社長さんでさえ「任務懈怠はなかった」として、免責される余地もあろうかと思われます。ただ、利益相反取引が、元来会社にとって利益の上がることまでは要件とはいえないまでも、先の毎日新聞ニュースで八田進二教授がコメントされているように、資本の毀損を生じかねないようなリスクを背負ってまで、会社が20億円を社長さんに融資しなければいけないのか、リスクと裏腹の関係にあるであろう会社のリターンもよくわからないまま、この取引が行われたとすれば、やはり公正な取引とはいえないようにも思われます。このあたり、取締役会に出席されていた監査役の方々は、どういった質問をされたのでしょうか?なお私の理解の進んでいないところもありますので、またどなたか適切なアドバイスをいただければ幸いです。

そもそも「公正なる取引」か否か、といった極めて経営判断の妥当性に近いところで司法判断が下されることにはかなり懐疑的ではありますが、取締役会でこの融資に賛同された取締役の方々に任務懈怠があったかどうか、という点については、むしろリスク管理に関する内部統制システムの構築(運用)義務違反の有無を検討したほうがスッキリするのではないでしょうか。実体として「公正取引」かどうか、といった点よりも、手続きをしっかり踏んだうえでの経営判断だったのかどうか、プロセスチェックの妥当性を検討するほうが司法判断には乗っかりやすいように思います。また、いずれにしましても、40%程度の株式を支配するクレディセゾン社が、本件についてどのような対応をとるのか、そのあたりも注目されるところです。

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2005年9月13日 (火)

新会社法における取締役の責任

ひとつ前の商事法務(1740号)に、日本私法学会シンポジウムの資料が掲載されておりますが、新会社法423条1項(商法266条1項に対応)のもとでの「取締役の責任判断基準」について、京大の潮見教授の斬新な解釈理論が報告されております。とりわけ「取締役の会社に対する善管注意義務違反行為による損害賠償責任」の捉え方を、会社法の条文マターで解釈する伝統的な考え方ではなく、過失の客観化が進んできた民法理論を用いて再構築する考え方は、ぜひ判例理論としても新会社法のもとで展開されてほしいと思います。たしかに、最高裁の考え方は企業の法令違反行為=取締役の任務懈怠(取締役の無過失抗弁)という伝統的な解釈によるものですが、この判断基準ですと原告代理人としては、企業の法令違反を基礎付ける事実だけを立証すれば、取締役の「任務懈怠」が強く推定されてしまって、司法の場において、具体的な場面における取締役の行為規範を形成する機会が薄れてしまいますね。せっかく取締役にも社外取締役や常勤など経営参画のパターンが分かれ、取締役の内部統制システムの構築義務なども含め、ガバナンスの問題が社会で評価されつつあるところですから、「お上による規制」ではなく、原告と被告との一生懸命しのぎを削る法廷において、どういった立場のどういった取締役の行為が「任務懈怠」となるのか主張立証を尽くさせて、さまざまな場面での責任判断について司法のもとで「判例」によって形成されることが、今後の規制緩和の進む「小さな政府」のもとでの行為規範の作られ方として適切だと思います。そういった「これからの」司法判断の基準として、潮見教授が示唆されている「任務懈怠があったか、なかったか」「任務懈怠行為=過失評価」「企業の法令違反の事実があったとしても、取締役は、法令違反の認識の有無だけでなく、その他自らの行動評価も含めて、任務懈怠がなかったことの主張が許される」という取締役の責任理論が、新会社法のもとで一気に判例理論として適用されていくことを期待したいと思います。

なお、この潮見教授の解釈理論について詳細を紹介することはできませんので、もし興味のある方は商事法務1740号をお読みください。しかし、こういったものを具体的な訴訟の場において、裁判官に理解してもらうだけの文章力って、ムズカシイかもしれません。なんせ、私のイメージでは斬新な解釈理論を裁判所で採用してもらうためには、「一回読んで、すっとわかる」ものでないと受け入れられないと確信しているからです。「2回読んで理解できる」ものではダメです。1回読んで裁判官がスッと頭に入る・・・、そういった準備書面を書ける能力、これがどうしても必要です。(もちろん、私にはありませんが。。。)

商法266条1項の「法令違反」という言葉が、会社法423条1項では「任務懈怠」という言葉に変わりましたし、実際私がよく担当している医療過誤訴訟の裁判におきましても、医師の過失を基礎付ける理論として、過失の客観化理論はかなり適用されておりますので、今後の新会社法における実務での適用可能性は、かなり確率が高いと思うのですが。

(追記 9月13日)

現役の裁判官の方より、ご丁寧にメールをいただきました。

「1回読んで理解できる裁判官もいれば、2回読まないと理解できない者もいるので、それは読み手側の能力にもよるのではないでしょうか?」

なるほど・・・ごもっともでございます。ただ、私は「1回読んで理解していただく程度のわかりやすさ」でないと、たいへんな激務でお忙しい裁判官の方がたには、取り上げていただけない、といった部分をニュアンス的に表現したかったのです。やっぱり、私の文章能力が乏しかったかもしれません。(笑)

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