中央青山監査法人に試練の時
(中央青山のシニアマネージャーの方を存じ上げておりますので、まずは「ほどんどの方がまじめに監査、コンサルに取り組んでおられること」を十分承知していることだけ、ご理解いただき、お読みいただくようお願いいたします・・・・)
「弁護士の逮捕」という記事はときどき新聞でお目にかかりますが、「会計士の逮捕」というものはあまり見かけませんでした。たとえば「弁護士、痴漢で逮捕」という見出しはありますが、「会計士、痴漢で逮捕」という見出しもあまり記憶にありません。会計士さんでも、そういった破廉恥罪で検挙されるケースもあろうかと思いますが、おそらく読者を惹きつけるほどのインパクトが「会計士」と「痴漢」の間に生まれないのかもしれません。
カネボウ粉飾決算に関与したとされ、中央青山の元社員(中央青山のHPでは「元」となっています)が4名逮捕された、との報道は、やはり「監査」という言葉の響きが「正義、誠実」をイメージさせるものであるだけに、「会計士逮捕」という衝撃をより強いものにしています。
新聞報道では「連結はずし」を指南した、とありますが、本当に検察庁は「連結はずし」の点で逮捕に踏み切ったのでしょうか?連結はずしでの粉飾というのは、たとえば先に逮捕されている銀行出身の役員さんやベテランの経理マンでも思いつくわけでして、「指南」というのもちょっと否認されてしまうと故意を認定できないということでマズイ気がしますし、粉飾に気づきながら後で「適正意見」を出した点で犯罪の故意を認定すると、会計士の「動機の解明」(修正を指導したにもかかわらず、なぜ説得されて適正意見を書いたのか、翻意をしたことで、会計士にどのようなメリットがあったのか)でツマヅく可能性がありますよね。
ということで、検察庁が「否認している公認会計士」を逮捕にまで追い詰めるためには、もうすこし「公認会計士ならではの専門技術」をもって指導的立場を果たしたことが立証でき、かつ故意の認定において「逃げられない」部分を押さえているものと推測いたします。もちろん逮捕のための手段ですから、「逃げられないことが確実であれば」別に大きな争点ではなくてもいいわけです。(「連結はずし」に加担したかどうか、ということは後でじっくり捜査すればいいわけでして)たとえば粉飾の根拠としては「未実現利益による繰り延べ税金資産」の計算あたりを根拠としているのではないか、と思いますがどうでしょうか。親子会社間での親会社保有商品の売買なんですが、連結ベースでは利益はまだ発生していないのですが、親会社に売上がある以上は単体ベースでは親会社は税金を支払う必要があり、(でも将来的には子会社が在庫商品を売却することが予定されていますので未実現の利益があるということで)そこに「繰り延べ税金資産」が計上できるわけです。この繰り延べ税金資産であれば、銀行などで一時問題になっていました「将来の利益発生可能性」や「将来の保有している有価証券の値上がり予想」などの曖昧な評価の問題もなく資産を計上できます。税効果会計導入後、カネボウはこの「未実現利益による繰り延べ税金資産」を利用して債務を圧縮していたようで、2000年3月から2003年3月までの間に、144億円ほどまで繰り延べ資産を膨らませ、在庫商品も2倍にまで膨れ上がっています。2003年ころから、ホームページで「これはおかしいぞ!」と訴えておられた会計士さんもいらっしゃいます。
「連結はずし」という手法はあまりにも素人っぽいもので、なにか会計士さんの指導とは結びつきにくいようにも思えますが、税効果会計導入後の繰り延べ税金資産の利用ということであれば、その技術面においても、強引さがすこし和らいでいる点においても、会計士さん主導の粉飾と「評価」されやすいのではないでしょうか。また「連結はずしを誰が考えたか」という点について、先に逮捕された経営陣の証言に頼るのでは、会計士さん方が否認されてしまうと、(言った、言わないの世界になってしまって)その故意認定が若干弱くなってしまいますが、2000年3月以降の会計手法や在庫商品の数量変化、そして経営再建中にもかかわらず、高い税金を支払ってまでして子会社に商品を押し込んでいる不自然さなどから、客観的な事実の積み重ねによって会計士さん方の「故意」を認定できる、ということも想定されます。
こういったケースで、会計士さん方の刑事弁護人は、どういったポイントから否認事件の弁護を組み立てるのだろうか・・・と、つい職業的な発想で考えてしまいました。
実は、足利銀行が、中央青山に対して違法配当に加担していた、として民事訴訟を起こすことを決めたというニュースのほうが、中央青山にとっては本当の意味での「試練」だと思うのですが、これはまた改めてエントリーしたいと思います。
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