2009年3月26日 (木)

新興企業の粉飾決算と「不正のトライアングル」

今週は事務所に日経新聞の夕刊が届けられるのを楽しみにしています。シリーズ「人間発見」は元最高裁判事の団藤重光先生(95歳)が語る「反骨精神を貫いて」。20年ほど前の司法試験受験生なら、皆様ご存じの刑法(刑事訴訟法)学者の方(後日、大隅健一郎先生の後任として最高裁判事に就任されます)ですが、今日の掲載分は戦中・戦後の東大の教官だったころのお話でした。団藤先生と作家三島由紀夫との交流は初めて知りましたし、三島の代表作「仮面の告白」が団藤先生の刑事訴訟法理論を文学化したもの、というのはビックリです。(また、三島由紀夫の刑事訴訟法の答案が、非常に出来がいいので団藤先生が保存していたところ、団藤先生の飼い犬がその答案を食べてしまった、というのもスゴイ・・・飢えていたのは人間も犬も同じだったのでしょうね)団藤先生の考え方を一番理解していたのが三島由紀夫だった、ということですから、もし三島が法曹になっていたら、いったいどんな学者になっていたのでしょうかね?

さて本題でありますが、本日、某研究会にて(私の尊敬しております)著名な会計士さんからお聞きしたお話ですが、とても面白いものだったので備忘録としても書きとめておきたいと思います。新興企業が粉飾決算(正確には有価証券報告書への虚偽記載)に手を染めるか否かは、だいたい上場してから3年目くらいが分岐点になる、とのことであります。それにはちゃんとした理由が3つあるとのこと。(以下のような理由だそうであります。)

ひとつは新興企業の場合、比較的単純な事業内容のままで上場しているため、ビジネスモデルが陳腐化してきて、上場後3年くらい経過するとキャッシュフローに陰りが出始める。そうすると、メインバンクのほうから、短期借入を更新するために、中期事業計画を出せ、と迫られる。その事業計画は、どうしてもバラ色の計画内容になってしまい、これが経営者にとってのプレッシャーになる。

ふたつめは、「株価ノイローゼ」。公開後の一般株主からの突き上げが厳しくなり、経営者は株価の変動に一喜一憂するようになる。経営者としては、内部統制やガバナンスなど、しっかりとした組織作りをしたいにもかかわらず、そういった行動はほとんど株価向上へ貢献せず、逆にちょっとした業績の浮沈が株価に大きく影響を及ぼすことを肌で感じるようになると、「一般投資家」というよりも、「現在の株主」に喜んでもらうことばかりを考えるようになる。

そして三つめは、会計士のローテーション制度。7年→5年に変更ということになると、上場前の2年(法定監査の義務付け期間)と上場後の3年で、経営者のクセまで知った会計士が、その新興企業を去ることになり、同一の監査法人といってもまったく別の会計士が担当者としてやってくる。これまでは顔色をみたたけで経営者のウソがわかる会計士だったのが、ほとんど会社のことを何も知らない会計士に変わっただけで、経営者は粉飾への欲望がふつふつと湧いてくる。

そういえばCFE(公認不正検査士)の方であればご承知のとおり、ビジネスマンが不正に手を染めるにあたっては「不正のトライアングル」がそろったときにリスクが非常に高くなるわけでありまして、そのトライアングルというのは機会、正当化根拠、動機(プレッシャー)と言われております。たとえば上に述べた三つの理由のうち、銀行から事業計画の提出を迫られ、これに縛られることは粉飾に手を染める動機(プレッシャー)であります。また株価ノイローゼに陥って、現在の株主に喜んでもらうことだけに専心するようになりますと、粉飾してでも株価を上げようとすることへの「正当化根拠」になりそうであります。また会計士のローテーション制度については、粉飾決算を計画するための「機会」と言えるものであります。不正リスク管理という面からみましても、この会計士の方がおっしゃる「新興企業上場後3年めの粉飾決算リスク」のお話についてはナットクできそうな気がいたしました。

もちろん本当に事件になっている粉飾決算の場合、経営トップ単独で敢行できるものではなく、取引先に協力者がいるとか、他の役員が黙認しているわけでして、また先頃のプロデュース社の件のように上場前から粉飾決算が始まっていたという例もあるわけでして、すべて一般化できるようなものではありませんが、とりわけ「銀行による突き上げ」という点については粉飾に向けての大きな要因になりそうな気がいたします。そもそも上場後3年を経過しても業績が右肩上がり・・・ということであれば問題はないのでしょうが、銀行経営自体の健全化ということも、上場企業の「粉飾決算への傾斜」を低減するためには必要なのかもしれません。

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2007年2月23日 (金)

IXI社の粉飾決算疑惑

ろじゃあさんがフォローされているアイ・エックス・アイ社(民事再生中)の粉飾決算のお話でありますが、これは私が関係会社に近い立場におりますので、詳細はお話できませんが、一般論としてひとことだけ付言させていただきます。

朝日新聞ニュースが詳しく報道されておられますが、この事件を全体的に考えますと、架空循環取引(宇宙遊泳よりももっとすごいかも。モノがそもそも存在したのかどうかすら不明)から脱退声明を出す「勇気のある企業」の存在もさることながら、「これはおかしいのではないか」と声を上げた監査法人の存在も特筆すべきだと思います。(これは、たとえば・・・のお話ですが)協力企業間の決算期のズレを利用して、納品、買戻しを繰り返している実態を監査法人間で積極的に協力して解明したり、エンドユーザーに対して、納品の確認を求めて、モノの存在を検証したりと、監査法人が徹底した「独立第三者」ぶりを発揮したことで、(にっちもさっちもいかなくなった循環取引参加企業のひとつにおきまして)問題が表面化したものでありまして、監査法人の「あるべき姿」が垣間見えた特徴的な事例であります。なお、ここでいう「あるべき姿」といいますのは、なにも刑事事件の捜査活動をする、という意味ではなく、内部管理体制に裏付けられたお金の流れが明確にならないかぎりは「適正意見」を出さないといった断固たる対応のことを意味しております。たしかに、監査法人がこれまでの架空循環取引の継続を「見抜けなかったのか」と非難することは簡単かもしれませんし、途中で監査法人が交替していることから、なにか特別な事情もあったのかもしれませんが、時代が変わり、みすず監査法人さんが解体移管、というところまで来てしまった現在、「監査法人が(守秘義務に悩みつつも)その気になれば、公開企業も変われる」ことを実務において示した貴重なケースではないか、と思います。(ただ、監査法人さんが事の重大性を指摘してもなお、「バレなければいいのでは?」と呑気なことをおっしゃる役員さんがいらっしゃいますと、これも困り者であるわけですが。。。)以前「粉飾の論理」という新刊をご紹介させていただきましたが、このケースにつきましても、あと何年か先に事件が落ち着いてから、どこかの記者さんが、その一部始終をドキュメントとして公表することには大きな意義があると考えております。(もちろん、私は守秘義務がございますので、お話はできませんが)

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2005年9月21日 (水)

粉飾決算に加担する動機とは?(2)

最近のエントリーを読んでくださった方々から、きょうメールをいただきました。どちらも参考になる書物の紹介でして、「まだお読みになっていなければ、一度目を通されたらいかがでしょうか」というものでした。(どうもありがとうございました。)

一冊は、ある監査法人のシニアマネージャーの方からのご推薦で、「不正を許さない監査」(2002年 日経新聞社)。中央青山監査法人の代表社員でいらっしゃる浜田康さんの執筆された書物です。そしてもう一冊は、大手商社に勤務され、事業再生ビジネスを担当されている方からのご推薦で、「りそなの会計士はなぜ死んだのか」(2003年 毎日新聞社)。毎日新聞社経済部記者の山口敦雄さんの執筆された書物です。どちらも、事務所近くの旭屋で購入してみました。

おそらく、このブログをお読みになっている経理担当者の方、会計士の方は、この「りそな・・・」のほうは既にご承知の方も多いかもしれません。とりあえず4時間ばかりで一気に読んでしまいました。亡くなった平田さんという朝日監査法人(2003年当時38歳)のシニアマネージャーは、金融監督庁(当時)への出向経験などもあり、企業財務部向けの出版物も著していた有能な会計士でした。りそな銀行監査の現場責任者たる地位にあり、その実質国有化(一時国有化という選択も議論されていたようです)をめぐって、銀行、監査法人、共同監査法人などの板挟みのなかで苦悩していたことを、作者である経済部記者は詳細に検証しています。このたびの一連の不正監査問題を考えるにあたって、参考となるものであることは間違いのないところでしょうが、私自身この本を読んで「会計士さんが粉飾へ加担する動機」として、以前のエントリーでは「ひとつ検証を忘れていたもの」があることに気づきました。専門家特有の「パブロフの犬」症候群です。これ、私が弁護士業務をやっておりまして、狡猾な依頼者から「この弱みをつかれたら、どうしよう」と真剣に考えた経験があります。

今年、私は関西の著名な医師の脱税事件の弁護人を務めました。彼の病院には、処置に困った西日本の大学病院から、つぎつぎと難病患者が紹介されて来院します。彼の治療には、その難病患者のグレードに合わせた医療機器が必要になってきます。彼はその医療機器を購入するのに、正規の病院経営利益では賄えないため、脱税でプールした資金を投入します。冷静な第三者である私は「たしかにあなたが私利私欲で脱税したことではないのは理解できるが、納税は国民としての義務でしょう。」と尋ねます。しかし、彼は確信犯だった。「そりゃ、経営者としては頭では理解できます。しかし、遠く九州から親に連れられて難病患者がやってきて、目の前にしたら、現場医師としては治すしかないでしょう」目の前に倒れている人をみたら、ともかく治療する。これは私が何度もみてきた医師の、善悪や損得を超えた職業病(パブロフの犬症候群)です。昔ながらの徒弟制度(イソ弁)のなかで高い職業倫理をたたきこまれる弁護士も同様です。自分の仕事が、弁護士倫理に反しないように、クライアントの利益保護のために全力を尽くす、という意識を常に持つことを余儀なくされて10年もたちますと、善悪、損得は二の次にして、ともかく顧客の利益のために行動してしまう、という「悲しい性(さが)」が芽生えてきます。もちろん頭では、もうひとつの弁護士倫理(社会的正義に悖る行為に及んでまで、依頼者の利益確保をしてはならない)も理解はしているのですが、やはり行動までは止められない。止めるものがあるとすれば、それは善悪や損得とは離れた場所にあるもっと他の要素(女房子供のこと、両親のこと、うまい酒を飲むこと、きれいなオネーチャンと遊ぶこと、その他の雑念)によって行動が制止できるからだと思います。

 頭では理解できても、実行が裏腹となってしまう。長年の現場における監査業務から染み付いた条件反射的行動というのは、おそらく公認会計士さん達が行う監査の場面においても起こりうるものではないでしょうか。監査法人の理事会レベルで会計監査基準の変更を現場に求めた場合でも、現場責任者たる社員の方々にとっては、素直に監査法人の意向に添えないケースもあって不思議ではないと思います。この「りそなの会計士はなぜ死んだか」では、平田会計士は、現場をまかされた監査人として、現場を離れるという選択肢はなかった、そもそも監査法人の現場の会計士に「現場を降りる」というのは敗北であり、なるべく降りないように努力するというのが「当然の論理」であった、と推測されています。これは記者が亡くなった平田会計士への思いによって多少「美化」された表現だとは思います。私はすこし作者とは異なる感覚ではありますが、「クライアントからの要望に善処する」条件反射的な現場会計士の職業意識が、平田さんの体中に染み付いていたものと思います。

今回のカネボウ粉飾事件で逮捕された会計士さんは、この平田さんと異なり、代表社員という地位にあったわけですから、そこには「代表社員は営業してナンボ」という経営面での動機や、監査法人の合併事情によって、その昔からの顧客売上を落としてはならないという組織面での動機などもあるでしょうが、やはりパブロフの犬症候群のような、倫理や規則などでは行動を制御できない部分の条件反射的行動こそ、さらに大きな動機ではなかったのでしょうか。

9月20日のネット報道によりますと、公認会計士協会から四大監査法人に対して、7年以上の監査経歴を有する企業監査担当者については、(たとえ2004年の改正公認会計士法の条件をクリアしている場合であっても)速やかに対象企業の変更をすることが望ましいとの表明がなされたそうです。現場を離れてはいけない、という職業意識が染み付いている現場担当会計士さん方の不正関与への「行動」を止めるためには、これもやむをえない方策なんでしょうか。ただ、この方策は一時的な効果しか持ち得ない、というのが、上に述べたとおりの私の見解からの予想であります。

(9月22日 追記)

4名の会計士さんのうち、複数名の方が「粉飾関与」を認める供述を始めた、ということです。関与を認めたことと、有罪であることを認めることとは違いますが。

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2005年9月15日 (木)

粉飾決算に加担する動機とは?

昨日は、「中央青山監査法人に試練の時」のエントリー、たくさんの方にお読みいただき、ありがとうございました。いろいろなご批判のコメント、TB、ダイレクトメールを頂戴し、はじめて一日4ケタのアクセス数となりました。このようなマニアックな「場末」のブログを「お気に入り」に入れていただき、厚くお礼申し上げます。(風俗チックなTB、こまめに消さないといけないようになりましたが)

会計士さんの「証券取引法違反(虚偽記入)」の「故意」について、昨日すこしばかり考えておりましたが、何人かの方がご指摘のとおり、たしかに、積極的に「指南」したことまでの積極的な加担の意思は「故意」認定のためには、かならずしも必要ではありません。極端な話、「連結はずし」がカネボウの副社長さんが考え出したものであったとしても、その実情を知ったうえで、やむなく会計士さんが「適正意見」を書いたとしましても、粉飾決算を「容易にする」認識があるかぎりは犯罪成立要件に欠けるところはないと思います。したがいまして、会計士さんの犯罪に向けた「故意」というものを、粉飾回避に関する不作為といった客観的事実から導くことも(犯罪成立要件の充足ということからみると)可能なんでしょうね。

ただ、そうなると会計士さん方が、「企業の粉飾」をとめられなかった(つまり不作為の)動機って何だったんでしょう?法曹でない方にはちょっとわかりにくいかもしれませんが、刑事事件の場合、動機というのは犯罪の成否とは無関係ですが、検察官が立件するにあたっては非常に重要な意味を持つわけです。動機が解明できないままでの立件は、「供述調書の不自然さ」という点を刑事弁護人につかれて、とりわけ否認事件では無罪の確率が高まりますし、またたとえ有罪に持ち込める事件でありましても、検察官による求刑の基本となる「量刑判断」が難しくなるからです。したがって、最近たいへん増えております外国人の刑事事件などでも、(犯罪は認めているんだけど)動機がわからないために、「こんな文化がちがう国の人が、そんな動機で犯罪するかよ」と笑い話になりそうな「無理やりに動機を作っちゃった」ような調書にも遭遇する場合があります。そういった意味で今回のケース、代表社員の方々がどういった動機で「粉飾を容認したのか」そのあたりが捜査機関にとりまして、ひじょうに神経を使うところではないでしょうか。その点、もし「連結はずし」も含めて、会計士主導型で粉飾を計画していった、ということであれば、動機の部分が多少不明瞭であったとしましても、弁護人に突っ込まれる余地が少なくなりますし、「積極的に粉飾決算に加担したことへの社会的非難、専門家としての重い責任」という名目も立ちますので、検察官の量刑判断も下しやすくなります。

そんなわけでして、昨日のエントリーのとおり、この元代表社員の方々の刑事事件につきましては、「動機解明の困難さ」を多少なりともパスするために、(否認事件の「故意」を立証するにあたって)「粉飾加担の認識として絶対に逃げられない部分」が必要と推測した次第であります。(米国公認会計士のKOHさんよりご指摘を受けましたとおり、「未実現利益による繰り延べ税金資産」というのはマニアックすぎましたが・・・)

あと、すこし視点は違いますが、逮捕された「4名」の皆さんがすべて粉飾加担の事実を否認されておられるのでしょうかね?そのあたり、あまり報道されていませんね。それぞれの弁護人が各々の情報交換するのを捜査機関が嫌っているのでしょうか?こういったケースでは、弁護士として「真実義務」「弁護士の倫理規定」に違反しないスレスレのところまでは情報交換するのが鉄則です。まちがっても捜査機関による「誤導」や「誘導」(おい、もう○○ははいちゃったよ、おまえも楽になれよ、というやつです)だけからは被疑者、被告人を守る必要があります。検察官による接見禁止がかかっていたら、準抗告(いわゆる検察官とのケンカですが)してでも面会可能にしてあげるのが基本ですし。逮捕された4名の方に、職務上の上下関係が存在していたのであれば、もっとも下の立場の人に「不起訴、釈放」をちらつかせて、真実を供述させる、という方法もとられるかもしれません。

公認会計士さんの数々のブログで、今回のテーマが取り上げられておりますが、「カネボウ担当で運が悪かった」的なイメージのエントリーも散見されます。私は専門外なので、そのあたりの実態はわかりませんが、もし「ほかでも同じことはよくあるよ」ということでしたら、余計に動機の解明ってムズカシイのではないでしょうか。旧経営陣の粉飾への動機が比較的容易に納得できるところに落ち着くのに対して、会計士の方々の動機というのが、どういったところに落ち着くのか、今後の報道に注目していきたいところです。(なお、一部の新聞では、旧経営陣が代表社員に対して「いまあなたがたの意見を聞いて修正に応じたら、過去の決算は間違いだった、ということになる。それであなた方は問題になりませんか」と脅されたということらしいです。さて、旧経営陣にこう言われて、監査実務を担当してきた方は本当にビビってしまって、旧経営陣の言いなりになりますか?これが動機でしたら、刑事弁護人にとってツッコミドコロ満載ですよ♪)

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