2013年4月 1日 (月)

証券取引等監視委員会VS日本風力開発-バトル勃発

当ブログもいよいよ(ドリコム時代も含めて)9年目に突入いたしました。これからもどうぞよろしくお願いいたします。<m(__)m>

ということで、9年目突入にふさわしい話題でございます。先週金曜日(3月29日)、証券取引等監視委員会は日本風力開発社(マザーズ)に対し、風力発電機の販売あっせん手数料が実態なく売上として架空計上されたまま有価証券報告書が提出されている、として平成21年3月期の報告書の訂正命令(訂正報告書の提出命令)を同社に発出するよう金融庁に勧告を行いました(SESCのリリースはこちら)。拙著新刊「法の世界からみた会計監査」の第2章「弁護士・会計士の守秘義務は七難隠す?」のコラムでもご紹介しているとおり、会計監査人の交代において、監査法人側が(沈黙を破って)監査契約解除に関する反論声明を出した事件として、2010年当時はかなり話題になった一件であります。

そして、この提出命令勧告を受けて、日本風力開発社は、同日「SESCの認定したところは客観的事実に反するものである、我々は当時の監査法人の無限定適正意見をもらっているし、また調査委員会報告、その他弁護士、会計士らによる(問題なし、との)意見も受領している、今後は審判で堂々と自社報告書の正当性を説明いたします」と発表(風力開発社のリリースはこちら)。SESCに対して宣戦布告であります。過去にはTTG社、ペイントハウス社等で訂正命令が発出されたことはありますが、堂々と争われることを想定して訂正命令が出るのは初めてではないかと思われます。

昨年9月28日、大阪地裁は三洋電機減損ルールの会計処理の適法性について、金融庁が課徴金処分を出したにもかかわらず、これを「違法ではない」と判断しています。その理由のひとつとして、三洋電機の課徴金処分は「(三洋電機による)妥協の産物」であり、これが審判で争われたわけではない、としています。つまり、三洋減損ルールの会計処理の違法性については、審判で争われたらどうなっていたのか、わからないとの前提があるようです。今回の日本風力開発の売上架空計上の件については、2010年7月に弁護士、会計士による調査委員会が、その会計処理は会計基準に照らして問題はない、との意見を出しております。したがいまして、もし今後、同社が審判で争うということになりますと、まさに同社の会計処理が会計基準に適合したものかどうか、という点が争点になるかもしれません。

ただし、以前「会計士と弁護士とのミゾ」としてブログで書いたのですが、会計処理が正しいかどうか、ということと法律上の虚偽記載にあたるかどうか、という点は「全く同じ、というものではない」ことを認識しておく必要があると思われます。SESCは金商法上の「虚偽記載」にあたると主張しているのに対して、会社側が「過年度決算の必要性はない」と反論するのは争点がかみ合わない可能性があります。現時点からみれば、過年度の会計処理が許容されないからこそ過年度決算の訂正を図るわけですが、これはあくまでも会計上の相対的真実の原則に基づくものであり、過去の時点では会計処理が許容されるように思えたことに相当の理由があれば、現時点では正しい決算とは言えないけれども(会計上はセカンドオピニオンは認められません)、法律上の「虚偽記載」(法令違反)には該当しない場合もありえます。この点、当局側は主に事実の存否という点で「虚偽記載」に当たるかどうかを主張し、会社側が当時の会計基準を引用して、その処理方法に問題がない、という反論をしてしまいますと、議論が成り立たない可能性があります。

会計処理の具体的な問題点のご紹介は省略いたしますが、興味深いのは、当時の(解任されたとされる)会計監査人が存在を知った(取引関係者担当者間における)合意書の評価であります。同社の最初の調査委員会は、この合意書には法的効力がないばかりか、相手方の悪意・重過失も明白なので取引的不法行為も成立しない、という前提で扱っておられますが、ちょっとここは私的には疑問が残ります(そもそも、この合意書が作成されないままでオモテの取引が成立したのかどうか、その経済的合理性こそ問題になるのではないかと)。いずれにしても、同社二番目の調査委員会の意見書を前提としますと、同社の連結子会社、取引先を含め、そのビジネスモデルの実態が示され、その中で、同社が販売あっせん手数料を受領する取引が経済的に意味のあるものと解されるかどうか、その解釈の中で合意書がどのような意味を持つのか、というあたりが争点になるのではないかと(もし真剣に争われるとすれば、この審判手続きは野次馬的におもしろいものになりそうです)。

それにしても、この騒動の発端とされた「覚書(合意書)」は、どうして当時の会計監査人が知るところとなったのでしょうか?このあたりは同社のリリース等からは明らかにされていないのですが、2010年当時の朝日「法と経済のジャーナル」の記事によると、取引先の社内調査によって合意書の存在が発覚し、これを日本風力開発社の監査人が入手したようです。もし、この記事の内容が事実だとしますと、当時の会計監査人としては、この合意書の文面から取引実態を調査するしか方法がないと思われます。仮に、こういった不正が疑われる場面において、取引先の会計監査人と連絡を取り合って合意書作成の具体的な事情について裏付けがとれるのであれば、もう少し局面が変わっていたのでしょうか?今回の不正リスク対応基準の設定にあたり、不正摘発型の監査手続き(たとえば取引先企業の監査人との意見交換等)の導入は見送られたのですが、かりに今回のバトルにおいて、訂正命令が発令されない、ということになりますと、またこういった手法が検討されることになるのでしょうか?(これは私の単なる素朴な疑問であります)

本来、会計監査人が投資家保護のために対処しなければならないところ、当局が前面に出てきた意味は大きいと思います。この事例の行く末はまたまた「市場の番人」たる会計士の役割を考えるための試金石になりそうです。ところで、解除された監査法人さんの後を引き継いだ監査法人さんは2011年に公認会計士協会から(品質管理に問題あり、として)監査事務所としての登録申請を拒否されておりますが、こういった事情もあることを念のため、申し添えておきます。

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2012年10月11日 (木)

金融庁・不正対応監査基準(案)を法的に考える(その1)

さて昨日に引き続き、9月下旬に素案が公表されました企業会計審議会(監査部会)「不正対応監査基準」に関する話題であります。昨日は、

さて、明日(もしくは明後日)は、この続きとして、不正対応監査基準(案)で中心テーマとされている「不正リスクの評価問題」と「不正の端緒の把握」との法律的な関係について述べてみたいと思います

と書きましたが、皆様方(とくに会計士や税理士の方々)よりいただいたコメントやメールなどを読ませていただきまして、もうワンクッション、予備知識として申し上げておいたほうが良いのではないか、と思われる事項がございますので、とりあえず(その1)ということで寄り道をさせていただきます。

まずひとつめは、当ブログで過去に何度もご説明させていただいているのですが、なかなかご理解いただけていないようなので、確認のために書かせていただきます。公認会計士・監査法人に「不正発見義務」があるといいましても、それは結果責任を問われるわけではない、ということであります。運悪く、被監査企業が粉飾決算を行っており、これを監査法人が見破ることができずに適正意見を書いてしまったとしても、直ちに「不正発見義務違反」になる、というわけではございません。

私法上、準委任契約に基づく公認会計士の職務上の義務は「為す債務」であり、財務諸表が適正に作成されているかどうかを一般的な注意を尽くして監査のうえ、意見を表明する義務であります。ここに「不正発見義務」が含まれると考えるならば、それは「不正を発見できるよう最善の努力を尽くす義務」であり、最善を尽くしたけれども粉飾を見破れなかった場合には、何ら民事上の責任は問われません。救急患者が運び込まれた救急病院の当直医師の例を何度も挙げましたが、ほぼ同様に考えられるところです。

したがいまして、不正発見のために最善の努力を尽くす義務とは、いったいなんだろうか?というところに、たとえば不正対応監査基準が参考にされる可能性があるだろう、ということであります。監査基準は公認会計士に向けられた行為規範たる性質をもつものなので、課徴金処分や懲戒処分の根拠にはなったとしても、基準違反がそのまま民事上の善管注意義務違反や過失ありと認定されるわけではありません。民事上の義務違反を合理的に推認させる根拠にはなりうるものかと思いますが、監査制度が投資家のために必要と思われる範囲を超えてまで不正発見のための監査を要求するということはありえないわけです(このあたりの手当てについては「その2」で述べたいと思います)。こういったことを前提として、不正発見義務の中身を、法的性質から明らかにしておくことが議論の整理のためには必要だと考えております。

そしてもう一点、あらかじめ認識しておいたほうがよろしいと思われる点がございます。それは「監査見逃し責任」という公認会計士・監査法人の民事責任が問われる際に要件とされている「因果関係」と会計士の責任との関連性であります。公認会計士が契約責任を問われる場合(善管注意義務違反)であっても、また不法行為責任を問われる場合(職業人として要求されるレベルの注意義務を尽くさなかったことによる過失)であっても、当該会計士のミスと粉飾決算による株主や会社の損害との因果関係が立証されることが必要ではないか、といった問題です。

とくにご注意いただきたいのは、金融商品取引法上の開示責任であります。監査証明業務に従事している公認会計士は、虚偽記載によって(正確には虚偽記載の開示書類に対する意見表明によって)株主が損害を被った場合には、自らミスがなかったことを立証しなければ責任を負うことになります。これだけでもたいへん会計士には厳しい不法行為の特別規定なのでありますが、さらに厳しいのは因果関係の立証であります。金商法による開示責任につきましては、公認会計士の責任を追及する場合、原則に立ち戻って原告側が会計士のミスと損害との間における因果関係を立証しなければなりません。

本来ならば、「会計士が適正な業務を遂行していたとしても、粉飾は見破れなかった。だから不適切な監査業務と粉飾決算による株主の損害とは因果関係が認められない(不適切な監査を行ったために、粉飾が見破れなかったという関係には立たない)」と主張することで、会計士は免責されるはずであります。しかし、金商法の条文はそのようになっていないのであります。条文は虚偽記載と株主の損害との因果関係を問題としているのであり(「虚偽記載により生じた損害」)、会計士の注意義務違反(任務懈怠)と損害との因果関係を問題にはしていないのです。ということは、たとえ原則どおりに株主側が不法行為に基づく因果関係を立証する責任があるとしても、比較的容易に因果関係を立証することが可能になる、ということです。

ライブドア事件判決やアーバンコーポレーション事件判決などを契機に、金商法上の開示責任(不法行為責任の特別規定)は、①「公表」の時期、②損害の範囲、そして③ガバナンス(誰のどのような行動が「相当な注意の抗弁」として免責対象となるか)の三点から、商法学者や実務家を含めて、とてもホットな話題になっております。そもそも株主保護のための規定ですから、今後、公認会計士・監査法人の民事責任も、金商法上の開示責任規定を根拠に問われることが予想されます。そこでの会計士のリーガルリスクの現状を踏まえたうえで、この不正対応監査基準を考える必要があると思われます。

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2012年10月10日 (水)

金融庁・不正対応監査基準はなぜ具体的事件を想起させるのか?

9月下旬に金融庁HPにて、「不正に対応した監査の基準の考え方(案)」と題する新しい監査基準の素案が審議会資料として公表されております。いろいろと忙しかったもので、遅ればせながらやっと目を通し終えました。本素案につきましては監査役と会計監査人の連係などを含め、山ほど申し上げたいことがございますが、2回にわたって法律家の視点から(もちろん、外野の一弁護士としての視点にすぎませんが)、コメントをしたいと思います。なお、本素案を読むに際し、昨年12月22日付け日本公認会計士協会による報告書「財務諸表監査における不正」も参考になります。

まず、この不正対応監査基準の内容は、前回の審議会に欠席されていらっしゃった委員の方の意見書にもありますように、オリンパス事件を想起させる内容となっていることは明らかであります。あくまでも例示ではありますが、監査手順や監査法人の品質管理の場面において、かなりオリンパス事件を意識した形で基準が作成されているように思えます。ひょっとすると「場当たり的」なルール改正であり、「ともかく作りました」といったアリバイ対策で基準が策定されたのでは?といった意見も出るかもしれません。しかし、大手監査法人が「思い出したくもないような」こういった具体的な事件の想起というのは、ルールを作る側とすれば当然に意識するところであります。

行政が、市場の健全性確保のために会計不正事件の防止を図る場合、方法としては事前規制と事後規制の手法があることはご承知のとおりであります。最近は課徴金制度の多用によるSESC(証券取引等監視委員会)の頑張りなどによって事後規制的手法が注目を集めております。しかし、監査基準の改正は(投資家の証券被害を未然に防止するといった)事前規制的手法であり、公認会計士・監査法人の監査の行為規範となるものです。したがいまして、事前規制(ルールの定立)にとって重要なことは、会計士さん方に「こういった行動をせよ」と明示して、守るべき規範の中身を明らかにするところにあります。

では、そういった新しいルールを会計士さんにどうやって遵守してもらうか、というのが次の課題であります。会計士さん方にルールを守ってもらうためには、当該ルール違反には課徴金処分や懲戒処分という厳罰(?)が待っている・・・という事後規制的手法も考えられます。しかし、それは投資家が損をしてしまった後の問題でありまして、どのような理由があるにせよ、投資家の利益を未然に防止する、という行政目的を達成することはできません(つまり金融庁が一般国民から責任を問われる、という事態になってしまいます)。したがいまして、投資家の利益を未然に防止しながらも、会計士さんに新しい行為規範を遵守してもらう必要があるわけです。

そこで考えられるのが、規範遵守に向けた会計士さんの「職業倫理」の向上と、犯罪行為の想起、ということになります。たとえば今回の不正対応監査基準では、前半に職業的懐疑心の強化、ということが挙げられていますが、これは内容は抽象的かもしれませんが、公認会計士としての職業倫理の向上、ということと密接に結びついているものと思われます。そしてもうひとつが「犯罪行為の想起性」であり、これがまさにオリンパス事件を想起させる内容とされているところであります。

一般事業会社においてコンプライアンスルールを策定する場合にも、「想起性」がよく活用されるところであります。本来は社長が常に社内ルールの遵守を徹底させ、ヒヤリ・ハット事例があれば厳しく叱責する、というのが最も効果的なのでありますが、社内の全役職員が「思い出したくない、思い出すだけで嫌な気分になってしまうような」事件について、これを想起させるルールになっておりますと、かなり効率的に、長期間にわたってルールの規範的効力が維持されます。具体的には、たとえばルール違反の疑いが生じた場合、現場担当者が内部監査や法務担当者に「これってルール違反でしょうか」と聞きに来られるケースが増える、という効果が生じます。これと同様の効果が今回の不正対応監査基準の素案には活用されているものと思われます。

さて、明日(もしくは明後日)は、この続きとして、不正対応監査基準(案)で中心テーマとされている「不正リスクの評価問題」と「不正の端緒の把握」との法律的な関係について述べてみたいと思います。職業的懐疑心というところだけを強調してしまいますと、それこそ監査報酬がどれだけアップしても足りない、ということになってしまいそうで、経済界からも反対されそうでありますが、このあたりにバランスへの配慮の跡が見え隠れしているように思います。

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2011年3月22日 (火)

福岡魚市場株主代表訴訟判決と取締役の子会社不正調査義務

東日本大震災関連の話題が続きましたが、ひさしぶりに当ブログらしいエントリーを書かせていただきます。といいましても備忘録程度でありますが、株式会社福岡魚市場の取締役3名が、株主代表訴訟において18億円ほどの損害賠償を命ぜられたそうであります。(朝日新聞の「法と経済のジャーナル」で知りました。ちなみに西日本新聞ニュースはこちらです。恥ずかしながら、これまで全く気付いておりませんでした)すでに最高裁のHPより、判決全文が閲覧可能であります。

同社の100%子会社であるF社が「グルグル回し取引」(架空循環取引の一種)を平成11年ころから行い、不良在庫が異常に積みあがっていたにもかかわらず、親会社取締役(F社の非常勤取締役や非常勤監査役も兼務)ら3名は、十分な調査もせずに15億円ほどの貸付債権を放棄し、また新たに3億円を融資して、これも焦げ付いたため、結局同社に18億円ほどの損害が発生した、被告3名はグルグル回し取引を早期に発見していれば、このような損害は発生しなかった、というのが原告側の主張のようであります。被告側は、このような架空取引は相手方のある不正行為であるため、なかなか不正を発見することができなかった、よって善管注意義務、忠実義務違反の事実はないと反論しておりました。判決は、取締役らは従来から不良在庫の存在を認識していたこと、あるいは公認会計士より子会社の在庫について確認の必要性を指摘されていたことなどから、親会社取締役らは不正の疑惑解明のための作為義務は存在した、と認定されております。

またきちんと判決全文を読んだうえで整理をしたいと思っておりますが、子会社における不正会計問題が頻繁に発覚する昨今、親会社取締役の不正調査に関する法的責任を論じた貴重な判決ではないかと思われます(まだ、ざっと目を通しただけですが)。具体的には公認会計士から「不正在庫」の調査等を指摘された時点(まさにこれが子会社不正に関する「異常な兆候」への取締役のアクセスの時点)以降の親会社取締役の作為義務(善管注意義務違反の根拠)の内容が注目されるところです。ライブドア株主損害賠償請求訴訟の第一審判決において、監査役の監査見逃し責任が認められる根拠も、会計士からの粉飾の疑惑を監査役が知った時点でありました。

そういえば福岡魚市場さんは、平成8年ころにも代表者の有価証券投資による多大な損害に関する取締役の法的責任を問う裁判がありました。しかしこのたびの代表訴訟では、取締役らが不正に関与していたから、というのではなく、監視義務を怠っていた、ということで損害賠償が認められておりますので、(同社は上場会社ではございませんが)おそらく今後の子会社調査に関する損害賠償請求訴訟等にも影響を及ぼす可能性がありそうです。

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2006年10月 5日 (木)

不正会計の予防に向けて(その4)

昨日の「通行手形としての日本版SOX法の意義」には、たくさんのアクセス、そして非常に質の高いコメントを頂戴しまして、本当にありがとうございました。会計ネタは、このブログでもっともアクセス数が伸びるエントリーでして、先日の日経新聞でご紹介いただいたときに次ぐほどのアクセス数を記録いたしました。もちろん、皆様方のコメントの厚さに依拠するところが大きいわけでして、元記事の内容が薄いぶん、皆様方の厚いコメントで補っていただけますと幸いです。また、熱いコメントに対して、きちんとお返事をさせていただこうかと考えております。

さて、本来ならば昨日のエントリーの続編をすぐにでもアップすべきところではございますが、またまた気になる金融審議会ニュースが出ておりまして、いつも拝見させていただくブログでもあちこちで話題になっているところですので、すこしだけ私のブログでも採り上げておきます。またまた企業会計モノではございますが、金融審議会におきまして、会計士の独立性を確保することを目的として、企業不正を発見した会計士さんに、金融庁(証券取引等監視委員会?)への通報義務を課そう、といった提案が(金融庁より)出されたそうであります。これは朝日ネットニュースだけが記事として掲載しておりまして、同日の日経ニュースでは、会計士(監査法人)のローテーション期間の短縮化が議論されたことを記事として掲載しておりますね。

ニュースはこちら でありますが、その内容を少しだけ要約いたしますと「ライブドアやカネボウの粉飾決算事件などにより、会計監査制度の見直しを進めている金融庁は、監査人が企業の重大な不正行為を発見した場合には、当局への通報を義務付ける仕組みの導入を、公認会計士制度部会で提案した。会社と監査人との癒着防止、独立性確保のためのものであり、審議会で意見がまとまれば公認会計士法などの改正に盛り込む方針。この提案に対しては賛成意見も出たが「監査の検察化を招きかねない」との慎重意見も出ている。(その他、監査報酬の決定権を取締役会から監査役に移すことも検討課題とされている)」といったところでしょうか。このブログで再三、問題としてきました「監査人の不正発見義務」「監査人の不正調査権限」といったところとダイレクトに結びつくような(金融庁による)提案かどうかは、ちょっと上の記事では明らかではないようです。たまたま監査業務のなかで不正経理を発見することは監査人にとっても起こりうるところでして、会社法監査におきましても、法397条におきまして、会計監査人の監査役に対する不正行為報告義務が規定されているところであります。もちろん、会社が「贈賄」や「株主への利益供与」など、不正行為の会計処理について「使途不明金」などで処理しているケースなどでは、(違法行為は存在しても、会計的には適正と認められますから)そもそも違法行為を報告する義務など監査人にはありえないのではないか、といった理論的な問題(いわゆる「期待ギャップ」問題)もあるわけですが、実務慣行としては日本公認会計士協会の実務指針においても追認されているところですし、例外的に会計監査人に認められる「業務監査」のひとつとして考えられるところであります。この会社法監査の考え方を、証取監査にも採用して、(監査役ではなく)金融庁への報告義務を課す、といった制度変更が問題となっているだけであれば、「職責」という意味におきましては、それほど会計士さんのこれまでのお仕事と大きく異なることはないようにも思えますがいかがでしょうか。(業務監査権限を持つ監査役への報告義務というのは、そもそも監査役の職務遂行を適正なものとするために会計監査制度に当然に含まれるものであって、いっぽうの金融庁への報告義務というのは、監査人が会社から付託された義務の範囲外の特別の行為規範ではないか、といった理論上の問題は残るかもしれませんが。)

ただ、もしこういった制度の導入が、公認会計士法の改正によって、会計士さん方の職責の変更にまで及ぶとしたら、これは大きな問題でありまして、「不正発見義務」「不正調査権限」の問題と結びつく可能性も否めないように思われます。私の理解するところでは、そもそも公認会計士さんの監査業務における職責といいますのは「財務諸表の適正性監査」のみではなかったかと思います。このあたりは昨日のエントリーに対するコメントとも関連するかもしれませんが、内部統制報告実務に関する監査業務というものも、はたして本来の公認会計士さんの職責からみるとかなり異質なものではないでしょうか。(これまでも内部統制監査というものは実際に行われていたのですが、それはあくまでも財務諸表監査に付随するもの、もしくはその適正性を補完するもの、として行われていたものですよね)そういった異質なものがなし崩し的に会計士さんの職責として含まれていくとすれば、その延長線上に「コンプライアンス経営維持に貢献する」職責といったものも、くっついてしまう可能性も出てくるように思います。いわば、「期待ギャップ」を埋めてしまうような政策を金融庁が考えることもあながち否定できないようにも思えます。ただ、そこまでいきますと、これはもう会計士さん特有の専門家責任の範囲が拡大することは自明のこととなりますし、「不正」「重大な違法」「立証責任」などの言葉が「法律用語」として仕事のうえに乗っかってきますので、おそらく監査人という仕事がとんでもないことになってしまうはずであります。ここのところは、以前と同様、私は慎重な議論が必要だと思いますし、監査人の検察化などは到底ありえない話だと考えております。

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2006年9月15日 (金)

不正会計の予防に向けて(その3)

ちょうど1年前の2005年9月16日に 不正監査防止のための抜本的解決策 というエントリーをたてまして、そのころから不正会計予防と公認会計士さんの役割といったことを真剣に考えるようになりました。カテゴリーの「不正監査防止のための・・・」をクリックしていただきますと、(赤面しそうな内容のものもありますが)これまでの関連エントリーがお読みいただけます。1年前に考えていたことが、よりいっそう現実的な問題になりつつあるようでして、概ねハズしてはいなかったんだなぁ、とホッと胸をなでおろしているところであります。公認会計士さん方の不正発見義務といいますか、積極的な不正調査権限というものにつきまして、またまた少し考えているところをまとめておきたいと思います。

金融相懇談会の東証に対する要望(自主規制部門を分離しての上場認容)ということが14日の新聞にも掲載されておりましたし、私が参加させていただいておりますIPO研究会でも話題になっておりましたが、今後の証券取引所や証券業協会における自主規制としての上場審査基準の厳格化が議論されるなかでの関心事は、どうやって持続的成長を実行できる企業を見抜くべきか、つまり上場準備段階において不正会計の兆候の発見方法と、その上場審査対象企業に本当の支配力のある会社(個人)はいったい誰なのか(特定できるのかどうか)、といったところだそうです。いずれの関心事につきましても、グループ経営が主流となっているなかで「選択と集中」をはかる企業グループ全体の現況を上場審査段階で把握したいでしょうし、また新興上場企業の寿命が早ければ3年から5年と言われているなかで、上場企業自体が健全に売買(企業再編)されるための会計の健全性が確保されているかどうか、といったところの問題が共通しているようです。取引所ルールと証券業協会の自主ルールとの関係がいったいどうなるか、といった問題も残るわけですが、ともかく審査基準の厳格化の実効性を確保するために「公認会計士さん(監査法人)に存分に活躍してもらいたい」といった方向での期待が高まりつつある(会計上のコンプライアンス実現への期待)ようですので、そこに「監査人への積極的な調査権限の付与」が検討課題として上がってくるように思われます。これは証券取引等監視委員会の権限が強化されるとしても、それと並行して自主ルールの一貫として浮上してくる問題のようですね。

投資事業組合とその会計基準の変更について

47826082 ライブドアの会計監査を担当された田中慎一さんと、著名ブロガーの保田隆明さん(ちょー・ちょー・いい感じ)による共著「投資事業組合とは何か」(ダイヤモンド社 9月1日発売)を興味深く拝読いたしました。私の友人(大阪弁護士会ではかなり有名な弁護士さん)が、「今度の堀江氏の刑事裁判はひょっとしたら無罪になるかも。投資事業組合の実体に焦点をあてて弁護したらおもしろい結果になるかもよ」などとおっしゃっておられたので、「ほんまかいな?」と思って、ちょっと勉強のために購入しました。会計専門家の方からすれば、当たり前のことかもしれませんが、私くらいのレベルの者にとりましては、投資事業組合の社会的有用性、経済的意義、運用実務などが非常にわかりやすくコンパクトに解説されたものとして、たいへん有意義な本であります。この本を読み、私自身の堀江氏の刑事事件に対する予想が変わる、ということはありませんでしたが、投資事業組合に対する会計基準の変更に関する記述は、とりわけ興味深いものでした。そもそも株式会社のような「組織法」ではなく契約法によって組織が出来上がっている投資事業組合の支配力(緊密者)の判定というものは、非常に曖昧な基準ではないかという気がして、これを監査人の方はどういった証拠に基づいて連結対象かどうかを判断するのだろうか、これはひょっとして監査人に相当な調査権限が存在しなければ「契約部分の真実性」まで合理的に認定することは困難ではないか、下手をすると、判断する監査人によって、結論がバラバラになってしまうのではないか、レビューする監査法人の上部審査の方々についてはどうか、と素直に思うところであります。ただ一方におきまして、積極的な調査権限を監査人に認めるということは、監査人自身に不正発見義務を認めることとなり、非常に広大な範囲において監査人の債務不履行(不法行為)が認定される余地が出てくるのではないか、まさに(この本のコラムにあるとおり)会計士受難の時代に突入するのではないか、といった危惧も残るところであります。著者はこういった調査権限を付与すべきである、といった立場のようでありますが、果たして公認会計士協会によるコンセンサスは得られる問題なのかどうか、そのあたりがとても関心のあるところであります。

そこで、私自身の見解としましては、やはり現行の監査人の報酬制度を前提とするかぎりにおきましては、監査人(公認会計士または監査法人)に積極的な不正発見義務というものを認めて、不正経理の証拠発見までを期待するのは、かなりしんどいのではないか、と思います。現実にお金をいただいている企業について、その監査のなかで「たまたま」不正を発見した場合には監査役に報告をする、というあたりまでは可能でしょうが、そもそも性悪説を前提とした不正発見作業を行うということは、うーーん、かなり現実感に乏しい気がします。ということでして、監査人に不正経理発見の権利と義務を付与することについてはいろいろとクリアすべき問題がありそうですんで、慎重を期すべきたと思います。そもそも「不正の発見」作業というものは、法律と会計の融合物だと理解しております。今後、法律家と会計専門家の共同作業が必要な場面だと思い、私自身も関心を寄せている分野であります。このあたりの議論はいろんな方々の意見をお聞きして、勉強したいところです。(ただこのたびの本における投資事業組合と会計基準の変更といったあたりを読んでおりますと、監査人にとってバイアスのかかった状態で、会計基準の解釈を行うことを防止する役割としましては「不正発見義務」といった概念も有効なのかもしれないなぁ・・・などとも考えたりしております。このあたりはまた「不正会計予防に向けて」(4)でまとめておきたいと思っております。)

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2006年8月28日 (月)

不正会計の予防に向けて(2)

アメリカではスタンフォード大学などの調査によって、株主集団訴訟の提起件数が、ここ10年で最も少ない水準まで下がっているとの報告が出ているそうです。(読売ニュース)この要因として、アメリカの景気好調、といった要因と並んで、SOX法による不正会計防止策の効果が出たのではないか、との意見もあるようです。企業コンプライアンスのために内部統制実務が大きな影響を与える、といった実証がもし本当になされるのであれば、これはまた大きなニュースになるのかもしれません。

さて先日、福岡の法務担当者でいらっしゃるぴてさんからTBをいただきました。じつは私もホンネのところでは「金融商品取引法による内部統制報告実務と監査役の役割との関係」といったところはよくわからないのです。前回のエントリーでご紹介させていただいた月刊監査役8月号の連載記事も拝読させていただきましたが、要は監査役の業務は金融商品取引法のうち、四半期報告書、内部統制報告書そして有価証券報告書が適正に作成されるところの内部統制の構築がもっとも重要なポイントである、といった内容でして、(紙面上の制限のためだと思いますが)それでは具体的にどのように対応すればよいのか、といったところまで突っ込んだ解説はなされておりませんでした。で、今回はちょっとだけ私論ではございますが、金融商品取引法における内部統制報告実務と監査役との関係について述べてみたいと思います。(またまたツッコミドコロの多いテーマだと思われますので、どうかいろんな方からのツッコミを期待しております。)

会社法上の内部統制システムの整備もそうだとは思うのですが、とりわけ金融商品取引法上の内部統制報告実務における監査といいますのは、証取法上の財務諸表監査とは異なり「プロセス監査」なんですよね。数字が正しいかどうか、といった結果の監査とは大きく異なる点ではないかと認識しております。だから前のエントリーでも少し書きましたが、プロセスの監査である以上は基本的に毎日の業務プロセスを監査して、一年間のシステムの稼動状況をチェックしなければ有効性を監査することはできないと思います。いわゆる財務諸表監査における抜き打ちでの試査というのは、過去のある一時点における計算過程の正しさは認識できますが、一年間毎日、同じ過程で数字が算出されていくことについてはなんらの推定も働かないはずです。結果を監査するということであれば、会計基準を変更して適用したり、適用上の誤りを是正することで無限定適正意見を出すこともできると思われますが、プロセス監査の場合には、過去に遡ってプロセスの誤りを修正するということは不可能ですから、いざ監査の段階になって監査人と経営者との有効性に関する評価に食い違いが発生した場合には容易に交渉によって修正を図るということができないはずです。したがいまして、内部統制監査については、おそらく監査報告書作成の時点において混乱が生じないよう、監査人による非監査業務(いわゆる内部統制システムが適正に構築されるよう相談に応じる業務)を行ってもよいことになるものと思われます。

さて、このように内部統制監査に関与すべき公認会計士(監査法人)は、本来ならば毎日監査対象企業に出向いて業務プロセスの状況を記録すべき立場にあるわけですが、もちろんそんなことは出来ないわけでして、四半期報告のために会社に出向くたびごとに、なんらかの記録をとるくらいしか現実には関与できませんよね。したがいまして、ここで「監査に必要な資料を毎日記録した」と同視できる程度のなんらかの「フィクションの世界」が必要になってきます。ここに登場してくるのが、非常に重宝できる「統制環境」とか「全社的内部統制システム」といった概念です。つまり財務報告の信頼性を担保するための、細かい業務プロセスに不備がありその報告の信頼性に疑問がある場合であっても、そういった不備を見つけ出してすぐに是正できるほどの経営陣の力量があると内部統制監査人(監査法人もしくは会計士さん)が認めれば、統制環境の優秀さを考慮して、総合的な判断によって経営者の有効性評価は適正であるとの結論を導くことが可能となってくるはずであります。したがいまして、さきほどの「フィクション」の話ですが、内部統制監査を担当する会計士さんにすれば、監査役と内部監査人との連携によって、自分が毎日業務プロセスを認識していた、と言えるほどの情報共有関係を築くことが可能であれば、そこには「統制環境が極めて良好」といった評価が生まれ、総合的な判断として内部統制が有効に機能しているとの評価を得やすくなるものと予測しております。会社法上の監査役は、会計監査人の監査方針などの相当性を判断する立場にありますが、財務報告の信頼性を確保するための業務監査報告につきましては、内部統制システムの運用状況をきちんと(内部統制監査を兼任している)会計監査人に報告し、また日々の会計監査人からのアドバイスをきちんと業務監査に生かす工夫を行うこと、また外部監査人である監査役と内部監査人との監査に関する連携をきちんと明確にして、これも報告すること、これが監査役と金融商品取引法との関係におきまして、監査役にとって最も重要な役割ではないかと考えておりますが、いかがでしょうか。

さて、金融商品取引法上の内部統制監査人と会社法上の機関である会計監査人とは、概念的にはまったく別個の存在ですし、たまたま証取法上の財務諸表監査人と内部統制監査人とは兼任できるといった実務方針があるために、内部統制監査人と会計監査人とも兼任できるということになったわけでありますが、そうしますと、結論的には会計監査人は内部統制システムが有効と評価されるための相談業務に応じる、といった非監査業務を行うことはできることになります。で、ここまで来るのであれば、いっそのこと会計監査人には非監査業務としての「不正発見義務」まで認めてしまってもいいのではないか、というのが次の論点になってまいります。そもそも、アメリカのSOX法においては、企業会計業務に関与する弁護士には、たとえその企業から報酬を得ていたとしても不正をSECに報告すべき義務が課されておりますし、また日本におきましても、マネロン問題に絡んで、弁護士に被疑者密告義務を課そうとしているところであります。(弁護士会は大いに反対をしておりますが)そう考えますと、会計士さん方が企業から報酬を得ているとしましても、その企業の不正を暴きだして、これを監査役もしくは証券取引等監視委員会に対して告発する義務を付託したとしましても、今のご時世、それほど違和感のあるような結論ではないような気もします。会計士さんの不正発見技術(いわゆるフォレンジック)に関する問題点とか、国家権力の一翼を補完する役割論なども絡みますので、また改めてエントリーしたいと思っております。

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2006年8月26日 (土)

不正会計の予防に向けて(1)

著名な弁護士の先生方のご推薦をいただき、日本取締役協会の内部統制部会に入会させていただきました。(いろいろとご配慮いただき、厚く御礼申し上げます)さっそく研究会に参加させていただきまして、これまた日本を代表する商社の内部統制システム構築の進捗状況などといろいろと研究させていただき、非常に有意義な時間を過ごすことができました。また、研究会の内容等につきましては、関連エントリーの際にでも、お話できる範囲でご報告申し上げます。

さて、約2週間ほど前に「不正会計の予防に向けて(序)」と題して、企業における全社的リスク管理の一貫として不正会計予防を真剣に考えてみたいと申し上げておりましたが、その続編をすこし検討してみたいと考えております。この問題について本格的に検討する前に、いくつかの問題整理が必要ではないか、と思っております。その一つは、金融商品取引法における内部統制報告実務と監査役との役割関係というものであります。まだ月刊監査役8月号は読んでおりませんが、この月刊誌に森濱田松本法律事務所の著名な先生が金融商品取引法と監査役との役割ということを主たるテーマとして論稿を発表していらっしゃいます。このテーマ、実はいままであまり議論されてこなかったのではないか、と思います。このあたりのテーマについて、私自身が考えている問題整理をこの週末にでも、きちんとエントリーをしておきたいと思います。議論のポイントは、①会社法上の会計監査人と金融商品取引法上の内部統制報告実務に出てくる監査法人(公認会計士)とは基本的に別人である、(たまたま内部統制報告実務のうえでは同一の会計士もしくは監査法人が担当してもいい、ということになっているだけのこと)ということと、②内部統制監査というものは、結果の監査ではなく、基本的にはプロセスの監査であるため、内部統制報告実務において、経営者の有効性評価の内容を監査する人間は「原則としては毎日のプロセスを会社にへばりついて観察していなければいけないのであって」、それが困難ということであれば、誰かの力を必要とすること、③もし、会計監査人である会計士(監査法人)が、会社法からみて「非監査業務」であるはずの「内部統制監査」を同じ人間がやってもいい、ということになれば、これは会社法サイドからすれば異例の事態を認めることになるのであって、もしそういった非監査業務を会計監査人がやってもいいのであれば、監査法人改革の主題ともいえる「不正監査発見業務」というものも会計監査人に求めてもいいのではないか、といった問題が出てくること、こういったあたりでしょうか。

前回のエントリーで今後の内部統制報告実務を議論するにあたり、「統制環境」「全社的統制システム」といった用語がキーワードになるのではないかと申し上げましたが、ここにもそういったキーワードが登場してまいります。もし、ご紹介しました「月刊監査役」8月号でも、私と同じ問題意識のもとで、役割論が整理されておりましたら、「マネしとんちゃうか?」と言われるのも問題でありますので、続編を中止することもありますが・・(笑)

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2006年8月11日 (金)

不正会計の予防に向けて(序)

8月10日の日経朝刊の一面に「企業買収急増1月~7月7,8兆円」という見出しがあり、日本でもM&Aが企業の日常的経営手段になりつつある、とりわけルールの整備によってTOBが3兆円レベルにまで活発化してきたとありました。王子と北越、AOKIとフタタのような経営者不同意型TOBも連日新聞紙上を賑わせておりますし、おそらく上場企業の経営者にとっては株価の動向というものがとても気になる時代になってきたことは間違いないようです。こんな株価至上主義のような時代になりますと、日本の経営者としては、最近のアメリカのようにストックオプション付与の時期を操作することによって自分の私利私欲を満たそうといった目的ではなく、「わが社のため、わが社従業員のため」といった愛社精神を満たそうとする(これも名誉欲というものかもしれませんが)目的による不正経理の誘惑は高まっていくでしょうね。ともかく株価を上げて現金価格、株式交換比率を高めるためには、粉飾でもなんでもやってしまおう!といったインセンティブが経営陣にはたらくことは十分予想できるわけでして、経営者の関与する不正経理事件、つまりカネボウ事件のような刑事事件に発展する事例は増えることはあっても、減ることは絶対にありえないと思います。

そこで、株価至上主義の世の中で、どうやって経営者の関与する不正会計の増加を予防していくか、ということを真剣に検討することになるわけですが、いわゆる金融商品取引法における内部統制報告実務(日本版SOX法)や、国際会計基準への適合(コンバージェンス、オフバランス取引のオンバランス化)といったところがどこまで不正経理の予防に役立つかといいますと、かなり悲観的ではないでしょうか。私も会計士の先生方と一緒にシステム導入のお仕事をさせていただいておりますが、そういったシステムの導入が現場における財務情報伝達の誤謬の極小化とか、現場担当者レベルの不正を見抜く手段にはなりえても、経営者自ら主導する不正経理操作の防止にはほとんど無力ではないかと思います。(もちろん業務の効率化のためには大いに役立つことは事実でありますが)これは最近のアメリカにおけるCOSOの中小公開企業向けのSOX法適用ガイドラインなどをみてもわかります。比較的小さな公開企業ですから、SOX法対応の費用にも限りがあるわけでして、法目的を全て満たすというのは現実には難しいわけです。そこで、財務情報の正確性確保のためには、ともかく経営陣が誠実に職務を執行することを信頼することを前提条件として、業務執行担当者レベルでの費用のかからない方法によるシステムの稼動を保証して、現場レベルでの不正防止に尽力しようというのが実態であります。このように財務情報の信頼性確保のために、現場における不正防止に向けられた諸策は検討されておりますが、経営者自らの内部統制違反行為に対してはほとんど有効な方策はありません。日本における内部統制報告実務というものも、おそらく企業の開示情報が正しいということを担保するためにはかなり有効に機能するとは思うのですが、そもそも金融庁企業会計審議会に内部統制部会を発足させる大きな原因となった「経営者関与型の不正経理を防止する」ことには、果たしてどの程度有効に機能するものか、極めて疑わしいところだと思っております。

ということで、そうなりますと、この経営者関与型不正経理の予防ということのためには、もっと他のところで施策を検討する必要があるわけですが、ここで登場せざるをえないのが監査をする人たち、つまり会社法上の監査役(あるいは監査委員会を構成する取締役)やプロの会計監査人たる監査法人(公認会計士)といった立場の方々の権限と責任の問題になろうかと思います。これからますます「不正経理への誘惑にかられる人たち」と向き合っていくのは、こういった立場の方々でしょうから、その「立ち位置」をどうしたら、もっとも効果的に不正経理を予防できるのか、そのあたりが現在、公認会計士・監査審査会や、日本監査役協会あたりで真剣に検討されているところではないでしょうか。

「不正経理」の問題ですから、どうしても矢面に立つのは財務会計的な知見を有しているプロの会計士、税理士の方々だと思います。とりわけ会社の機関とされ、また証券取引法上の監査業務を担う監査法人の方々は、これからのM&A全盛の時代にあって、ますます重要な立場になっていくものと予想しております。現在の会社法では、会計監査人は「不正を発見した場合」の監査役への報告については規定されているものの、不正を摘発する義務(不正発見義務)までは会計監査人の善管注意義務の範囲としては規定されておりません。もちろん証券取引等監視委員会が今以上に強大な権力組織となって、上場企業の不正摘発にバンバン登場するようになれば話は別ですが、昨今の「民間への権限委譲」の発想からするならば、そういった不正摘発権限を証券発行企業に最も近い位置にいらっしゃる会計士の方々と、証券行政の一部を事実上担うこととなる主幹事証券会社のほうへ振り分ける方策がとられるのが現実的ではないかと思います。さて、それでは今後、監査業務に携わる会計士の方々は、こういった不正発見義務というものを職責として負うことになるのか、もしそうなったらどんな問題が発生するのか、そのあたりをまた次のエントリーで考えてみたいと思っております。

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2005年9月16日 (金)

不正監査防止のための抜本的解決策

連日、メールやコメントなど、多数頂戴しました。(お返事が書けておらず、たいへん申し訳ございません。)今回の中央青山監査法人の粉飾加担疑惑の件、まだ本論に入っていないのですが(一番書きたかったのは足利銀行による民事賠償請求事件なんですが)、ちょっとだけ頂戴しましたコメントなどをもとに、関連問題について考えてみたいと思います。

やぶ猫さんが、「公認会計士の憂鬱」と題するエントリーのなかで、以下のとおり問題提起されています。

「いい仕事」をすれば「顧客」が満足し、評価が上がって、収入と地位があがる。という単純なビジネスモデルが公認会計士の監査業務にはあてはまらないようであることが問題だと思います。

「会計監査」というお仕事が、投資家そして会社債権者のために奉仕する職業でありながら、その報酬は監査対象である企業から得るのが「定め」である以上、やぶ猫さんのおっしゃるとおり、ビジネスモデルと監査業務の間に「噛み合わない」部分が存在することはいたしかたない現実だと思います。この現実を冷静にみるかぎり、たとえこれから2008年ころまでに「日本版SOX(企業改革法)」が制定されたとしましても、日本企業と会計監査人との関係は変わらず、不正監査発生の温床は存続するとしか考えられません。

そこで、どうすれば抜本的に不正監査を防止することができるか、その解決方法について検討してみたいと思います。(あくまでも試論ですから、ご批判大歓迎です)

ひとつめは会計監査というものが、今後1433兆円の国民資産を「貯蓄」から「投資」へ振り向けるための「社会インフラ」となるわけですから、会計監査業務を国家権力によって行うものとして、その権力を公認会計士に委託する、というものであります。これは私が8月8日のエントリー「弁護士が権力をもつとき」で書きましたとおり、LAT37Nさんのブログを読んでの提案です。ただ、そのときにも述べましたが、民間人がいきなり権力を移譲されることの弊害はたいそう恐ろしいものがありまして、あまり現実的な対策ではない、というのが自論であります。

つぎに、ハーバードビジネスレビュー10月号でも提案されておりますとおり、企業と監査法人との契約について一定期間は解約できないものとし、また延長もできないものとする、契約期間終了時は、別の監査法人と監査契約をしなければならないものとする、(クライアントにおける監査法人のローテーション)という手法を用い、いわば企業にとって税務署員的な立場に監査人が置かれるような提案であります。これは不正監査防止という目的からみると、非常に現実的な改善策のようにも思われます。ただ、この手法は、たしかに会計監査人が企業と協調して粉飾を容認する動機が生まれることはないとは思えるのですが、逆に考えますと、投資家のため、会社債権者のために一生懸命「役に立つ監査を行う」動機も生まれなくなってしまいます。企業の特質をもっと知ろうとか、新しい監査基準を学ぼうとか、もっと正確な監査を行おう、という意欲がわかなくなり、会計監査自体の品質が急激に悪くなってしまう懸念があります。不正防止のためとはいえ、社会全体の会計監査の進歩を止めてしまうような方策は、その弊害のほうが大きくなってしまうのではないでしょうか。

そこで監査の質の向上をはかりながら、なおかつ不正監査防止のインセンティブを確保する方策として残るのは、会計監査を「司法その他の紛争解決機関」のマナ板に乗せることが考えられます。これまで、会計監査の適法性そのものが司法の場で争点となったのは、日本コッパース事件その他、わずかしかありません。これはひとえに弁護士が会計に関する知識や会計基準の動向に疎いことによるものであろうと思います。(現実に、日本コッパーズ事件においては、原告側代理人が会計実務に精通していたら、争点が変更され勝訴できたのではないか、との意見が根強く主張されています)いままでのように、会計監査人が企業との委託契約のみによって監査業務を委託されている関係でしたら、なかなか監査の品質を争点とする紛争解決の機会も存在しなかったと思いますが、いよいよ新会社法が施行されますと、会計監査人も会社の機関となります。もし、会計監査人の職務に不正のおそれがある場合には、株主から職務中止命令の申立がなされ、実際に損害が発生した場合には代表訴訟を提起される可能性もあります。取締役と会計監査人との間において監査意見に食い違いが発生した場合には、会計監査人は株主や監査役に対して「説明責任」が発生します。こういった紛争に関する事後的な適法性審査を有効に活用することで、会計監査人の客観的な品質が社会で評価の対象となり、クライアント獲得競争が「企業との癒着」とは無関係な「自由競争」のもとで行われるようになると思うのですが、いかがでしょうか。(もちろん、こういった会計監査品質の事後判断というのは、企業会計に精通した法律家の存在を前提とするわけですが)理想論を超えた「空想論」に近いものかもしれませんが、「投資サービス法」の誕生を迎える日本の未来に向けて、その一翼を担う公認会計士さん方も「公正なルール」にのっとった実力の世界でクライアントをつかむ土台作りこそ、もっとも現実的な不正監査回避の方法ではないでしょうか。

会計監査人の倫理意識の向上、金融庁による行為規範による規制問題というのが、おそらく今後の「不正監査」防止のための打開策としてはオーソドックスなものになろうかと思いますが、それらはこれまでの企業と会計監査人との関係をそのまま維持することを前提としています。今回の事件が、いったいどのような動機のもとで行われたのか、明らかにはなっておりませんが、企業と会計監査人との向き合う姿勢が変わらない以上は、やはり今後も些細な動機によって、同じことが繰り返されるのではないかと危惧しています。

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