監査法人の業務停止とは?
大学の先生や、現役裁判官の人から「そろそろ内部統制ネタや監査役ネタに戻ってちょうだい。ソレしか興味ないんだから・・・」とメールや面談で冷たいクレームをいただきましたが、もうすこしだけレアな話題について。
フジサンケイビジネスアイの記事によりますと、中央青山監査法人に対する金融庁の処分は1ヶ月間の業務停止処分の見込み、とのことです。(ほかのニュース記事では、まだそんな具体的な情報が出ておりませんので、どこまで信用性があるのかは疑問ですが。)
弁護士の懲戒処分としての「業務停止」といいますのは、「1月」もあれば「2年」もあります。弁護士には監督官庁がありませんので、その弁護士が所属する単位弁護士会が懲戒請求を通じて審査、決定をします。「なんだ、1ヶ月の業務停止って、ずいぶん甘いんではないの?」と言われることもありますが、たとえ1ヶ月であろうとも、弁護士にとって「業務停止」は経営面において致命的です。事務所から「法律事務所」の看板をはずさなければならず、係属中の民事、刑事事件すべて辞任しなければならず(期日延長の申請もできません)、顧問契約も解除します。また、事務所に来るのはいいのですが、クライアントと電話で応対することもできません。もし応対するのであれば「私、いま懲戒処分によって業務停止中ですので、相談には応じられません」とハッキリ申出なければなりません。推測するに、事務所のホームページも閉鎖しなければダメだと思います。これらの停止措置をとったことは別途弁護士会に報告しなければなりません。とりわけ事件の辞任、顧問契約の解除は大きなダメージでして、このコンプラの時代、懲戒事由を承知のうえで再度顧問契約をまきなおしていただけるような奇特な企業さんはいらっしゃらないはずです。
さて、監査法人の「業務停止」というのは、どういったイメージなんでしょうか?とりわけ大型監査法人の業務停止というのは、800社にも及ぶ上場企業との監査契約や、それ以外のコンサル契約、任意監査契約について、解除しなければならないのでしょうか?オフィシャルHPは閉鎖しなければならないのでしょうか?企業の経理面で困ったことがあったら、どういう対応をするのでしょうか?弁護士の業務停止と同じイメージであるならば、これはたいへんな経済界での混乱が生じることになりそうですから、きっとまた違ったイメージなんでしょうね。
ただ、「業務停止1ヶ月」という処分が下されるとしても、その後に「足利銀行」事件での処分が大問題になってしまう可能性が残ります。たしかに、今年1月25日、足利銀行の件では、すでに金融庁によって「戒告」処分が下されています。しかし、これはさまざまな調査の末、中央青山監査法人の内部管理に不適切な点があった、との事実を捉えて「戒告」とされたものです。しかし、きょう足利銀行は正式に宇都宮地裁に対して、粉飾決算による違法配当分の返還請求を提起しました。つまり中央青山に粉飾決算の根拠となる不正監査があったことをこれからの民事裁判で足利銀行が明らかにしようとしています。しかも、この足利銀行の請求は(株主らによる一般民事訴訟とは異なり)預金保険機構(内部調査委員会)の指導のもとに起されたものです。つまり、エリートコースを歩む裁判官身分や検察官身分、会計士身分の人たちのグループが知恵を出しあって、「これならいける」と判断して提訴したものでありますから、被告としてはかなり「つらい」裁判になってしまいます。そうしますと、さらに「故意」による粉飾関与、という問題が重なってくることも予想され、たいへん厳しい事態も考えられるのではないでしょうか。
(一部の方より、「最近このブログ、コメントつけにくいなあ」と言われました。どうか、遠慮なくいろんなご意見、ご批判つけてください。しょぼっちいコメントも大歓迎ですよ。べつに格調高いブログを目指しているものでもなく、とにかく会社法制や企業会計を考えるマニアックな方の集うブログであればいいと思っていますので。)
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