(企業会計ネタから企業価値ネタに移ると、いつもアクセス数が半減してしまいますが・・・・やっぱり興味の中心にあるものですんで御容赦ください・・・・・・)
経済産業省の企業価値研究会にも参加されていた現役裁判官(部付検事)さんが、「議決権制限株式を利用した買収防衛策」と題して、「いままでの日本でも、また欧米諸国でもあまり例をみない」プランを公表されています。(商事法務1742号)商法では導入困難であり、新しい会社法で初めて導入可能となる「議決権制限プラン」、さっそく拝読させていただきました。(いつもの言い訳ですが、これ、法曹としての感想ではなく、一監査役としての感想ですので、悪しからず。こういったスキームを法曹として講評することは到底おこがましいので。)
商事法務1739号の「条件決議型ワクチンプラン」につきましては、正直申しまして、けっこうスッと頭に入ってきたんです。だから疑問点もけっこう自然に湧いてきました。しかしながら、うーーーーーん、このスキーム「わかりまへん」
そもそも、全部の株式について、会社法108条2項3号の規定を利用して「株主総会において議決権を行使することができる事項」を「株主総会の議題となる事項の全部」と定款で定めることって、できるんでしょうか?ここで予定されているのは、株主の権利のうち、いくつかの権利に限定された「議決権制限」株式であり、「行使の条件」だけを特別に変更するというのは、ちょっと予定されていないとみるのが素直な解釈だと思います。つまり、議決権行使には制限はなくて、行使条件だけが制限があるというのは、この会社法108条2項3号を適用できない、というのがまず私の意見です。
このプランの作者でいらっしゃる葉玉裁判官は、たとえば20%超の株式取得者が現れていない平時においては、こういった定款変更によって、普通株式に議決権行使条項を付加した場合は「議決権制限株式」にはならないと考えていらっしゃるようで、だからこそ、会社法115条(公開会社の場合、議決権制限株式が半分以下でなければならない、という規定)の規制はクリアできる、と説明されています。その根拠としては「議決権を行使することができる事項」について制限がされない株式については、たとえ行使条件が存在する場合でも、それは「議決権制限株式」には該当しないことが、会社法の文言解釈によって導きうる、と説明されます。
そのあたりが、私が根本的にわからない部分です。会社法108条2項3号は、一般的に議決権制限株式が「種類株式」の一種であるからこそ、ひとくくりに規定されているわけで、イとロの項目を特別に分けて考えることはできないと思います。たとえば、普通に考えても、2種類の議決権制限株式を発行したいと考えて、ひとつは「3つの事項に関する議決権の制限あり」「行使条件は、6か月間株式を保有していること」、もうひとつは行使条件を定めずに無議決権株式とすることなど、つまりイとロがセットになって定款変更の対象となるのであって、だからこそ文言的にも108条2項3号は「三 株主総会において議決権を行使することができる事項 イ 株主総会において議決権を行使することができる事項 ロ 当該種類の株式につき、議決権の行使の条件をさだめるときは、その条件」と、文言が重複的に使用されているものと解釈するのが自然だと思います。ロの部分で「行使条件」だけを定めて、イで「議決権の行使をすべて認める」ならば「種類株式ではない」「議決権制限株式ではない」と考えるとしたら、なぜ手続だけ108条2項に持ち込むのか、ちょっと理解がむずかしいように思います。(まあ、この108条を使わないと、株主平等原則違反になってしまうからだと思いますが。種類株式の発行手続によるならば、そもそも平等原則違反の問題はクリアできますので)
また、このイとロを区別することが解釈的に合理性があることを根拠つけるために、議決権制限株式の総量規制を定めた商法222条4項と、会社法115条の制度趣旨の差を指摘されていますが、これも説得的とはいえないように思います。現商法222条4項の解釈として、たしかに総量規制を超えた議決権制限株式を発行する手続については、会社法115条とは異なり、絶対的無効、と解する説が多いとは思いますが、決議の無効確認訴訟の提訴期間の制限条項があるために、事実上、有効扱いをせざるをえないとする学説も多いのは事実です。したがって、そういった解釈上の疑義をなくすために会社法115条は総量規制を超えた議決権制限株式の発行も一応有効としたものと考えるのが素直でして、(つまり解釈上の問題点を立法的に解決した、とみるのが素直です)文言の差異から一義的に葉玉裁判官の説が導かれるとは思えません。
その他にも、20%超の株式取得者が現れたとたんに、いままで「議決権制限株式」でなかったすべての普通株式が、すべて「議決権制限株式」に変わってしまう根拠、その結果として総量規制違反の状態が出現するために、その状態を是正すべき会社の措置のもどかしさ(この部分がはっきり申し上げて、素人である会社の人間がどうしたらいいのか、わからない、たいへん不安を感じるところです)、さらに是正措置を実際にとりたくてもとれない場合の会社経営陣の任務懈怠責任の不透明さ、(そもそも、是正措置をとりたくてもとれないようなスキームを導入したこと自体の責任を追及されたらどうするの?など)有事におけるスピーディな判断が要求される買収防衛システムとしては、ちょっとムズカシイのではないか・・・と考えてしまいました。
まだまだ、理論的な疑問点について、書きたいことが山ほどございますが、明日は子供のPTA行事がありますんで、また他のときにでもエントリーしたいと思います。おそらくたいへん精緻で優秀なスキームなんだとは思いますが、いかんせん商事法務のわずか8頁では、私の頭で整理できるほどの「わかりやすさ」は発見できませんでした。ゴメンナサイ。。。