2015年12月21日 (月)

監査法人が課徴金処分を下された場合の監査役会による再任拒否

halcome2005さんがコメントで述べておられるとおり、平成26年改正会社法との関係で、監査役さん方にとって悩ましい課題に直面することになりましたね。もうすでにネット上では話題になっていますが、東芝さんの監査を担当しておられる新日本有限責任監査法人さんに、今回の会計不正事件との関係で金融庁による行政処分が発出される可能性が高まってきたそうです。ちなみにその「可能性」はCPAAOBによる12月15日付け勧告書に盛り込まれた監査法人の運営上の不備事由から推察されます。

担当公認会計士ではなく、「監査法人に不当証明があった、品質管理に問題があった、審査業務を怠っていた」として法人自体に処分が下されるとなりますと、現在新日本監査法人さんと監査契約を結んでいる会社は(監査法人との)監査契約を解消する必要があるのではないか?、不再任としなければ改正会社法で会計監査人の選任・解任権限を持つことになった監査役(会)としては善管注意義務違反に問われるのではないか?といった懸念が生じてきます。

まだ発出されたわけではないので(具体的な処分次第では)杞憂に終わることもありえますが、マスコミが報じるところによると業務改善命令の他に、課徴金、新規契約締結禁止命令等の行政処分が当該監査法人さんに発出されるとのこと(一応、これらの処分はワンセットで発出されることが想定されているようですね)。そこで、私なりには一応監査役もしくは監査役会としての対応について争点を整理したうえで、監査役会としての有事対処の方策を検討してみました(これはまさに監査役さん方にとっては「有事対応」のひとつです)。そこで、来年2月1日の大阪を皮切りにラストの東京まで、来年も日本監査役協会の「監査役の有事対応を考える」ための全国講演をさせていただきますので、そのときに(拙案を示しながら)詳細な対処方法を監査役の皆様方と一生懸命に考えてみたいと思います。もちろん、個別の案件に関する具体的な考え方を述べることはできませんので、今回の事件を契機に架空の事案を想定しての監査役の対応を検討する、というものです。

なお、行政処分のひとつとして「新規契約締結の禁止処分」も予想されていますが、会計監査人の再任はこの「新規契約締結」にはあたらないとの当局の考え方が示されています(過去における公認会計士・監査法人に対する懲戒処分等の考え方について」パブコメ回答参照)。また、金融庁設置法21条に基づく「監査法人の責任の在り方」と題する金融庁建議によれば、監査法人の社員の監査見逃し(不当証明)は監査法人自体の監査見逃し(不当証明)として取り扱われるべき、と理解されていますので、このあたりはすでに整理されているものと扱ってよいのではないかと。

最終的には会社法340条の解釈(とりわけ同条の制度趣旨の理解、同法1項2号の文言)、事業報告に記載された「選任・解任・不再任に関する監査役会としての方針」の解釈(どこの会社も抽象的な文言ですよね)、そしてコーポレートガバナンス・コード補充原則3-2①、3-2②あたりをどう活用するかが重要かもしれませんね。いずれにしても、ほとんどの上場会社がコンプライしているガバナンス・コード原則3が関係する以上は「ひな形」「マニュアル」に頼るわけにはいかないと思います。

12月 21, 2015 監査法人の処分と監査役の対応 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2015年12月11日 (金)

課徴金納付命令?-監査法人への制裁的行政処分の重み

コメントを頂戴しているとおり、消費者庁の公益通報者保護制度の実効性検討委員会もいよいよ佳境に入っておりまして、昨日はNHK特集のクルーもたくさん取材に来られたようです(すいません、私は役員会と重なってしまい欠席してしまいました・・・)。内部通報や内部告発がこれだけ話題になり、「公益通報目的」による内部資料の第三者提供の適法性も議論される中で、公益通報者保護法の改正についてマスコミも大きく取り上げていただけることは歓迎するところです。

(ここから本題ですが)12月10日の朝日新聞朝刊だけが報じていますが、東芝の監査を担当している新日本有限責任監査法人さんに対して、金融庁は課徴金納付命令(公認会計士法34条の21の2、第1項)を発出することを検討しているそうです(正確には公認会計士・監査審査会が、金融庁に課徴金勧告を行う、とうことかと)。東芝さんの監査において、故意に不正監査をやったということではなく、監査において注意を怠ったとの理由のようです。もし新日本さんに対して課徴金納付命令が出されますと、日本で初めての監査法人に対する課徴金処分となります。

(いったいどなたが記者さんにリークされたのかはわかりませんが)上記朝日の記事は、処分内容についてかなり詳細に報じているもので、業務改善命令と併せて課徴金処分が下される可能性があり、さらに6カ月程度の新規契約締結を禁止する処分が下されることも考えられるとのこと。この記事内容は、現行の公認会計士法の運用実務面からみてもかなりリアルだと思います(いくら制裁的課徴金制度が取り入れられているからといっても、現契約の解消と課徴金処分の併課となると、あまりにも(処分による)監査法人の経済的負担が大きすぎるので、併課するのであれば、あくまでも新規契約の締結停止に絞ることになると思います)。

業務改善命令だけで済むのであれば、オリンパス事件のときと同様、「組織監査の仕組みが不全」との理由で処分が出され、監査法人側としても「より一層の品質管理の向上に努めてまいります」で済むのかもしれません(同法34条の21、第2項第3号参照)。しかし課徴金処分は行政処分に関する根拠条文が異なりますので、監査法人の社員による不適切監査があったと認定される場合にのみ発出されることになります。裁量的課徴金処分ではありますが、よほど軽微でないかぎり、当局は課徴金納付命令を発出しなければならないので、発出されるとすれば「本事件における監査法人のミスは看過できないもの」と当局が判断したことになります。もちろん監査法人側としては、課徴金勧告に不服があれば審判手続きによって争うこともできます(公認会計士法の規定による課徴金に関する内閣府令第2条以下)。

金融庁から「会計士の監査ミスがあった」と判断されますと、新日本監査法人さんとしても、株主代表訴訟や金商法に基づく損害賠償請求訴訟を提起されるリスクが高まります(もちろん、行政処分の前提となる監査ミスの認定が、そのまま民事訴訟における注意義務違反になるわけではありませんが、提訴されるリスクは高まることは間違いないでしょう)。また、今年11月に策定された日本監査役協会「会計監査人の評価及び選定基準策定に関する監査役等の実務指針」によりますと、金融庁による検査で指摘を受けた事項については、監査役等のその後の対応に影響するだけでなく、「評価にも反映されるべきである」とされているので、現在監査契約を締結している対象企業との関係においても「指摘事項」に関する十分な説明が必要になるものと予想されます。

単純に大手監査法人に課徴金処分が下されるかどうか、ということだけでなく、もし下されるのであれば、当局はどのような点を「公認会計士の監査上のミス」と判断するのか、という点にも注目が集まることになります(「不正リスク対応基準」に準拠したものになるのでしょうか?「2013年3月期における監査に問題あり」ということだと基準適用前、ということですかね)。

12月 11, 2015 監査法人の処分と監査役の対応 | | コメント (2) | トラックバック (0)