2021年9月27日 (月)

不正発見ではなく不正予防にある「抜き打ち検査」の実効性

9月24日の読売・朝日のニュースによりますと、囲碁の日本棋院は、棋士がAI(人工知能)を使って不正に着手するのを防ぐため、対局中の棋士に対してスマホなどの電子機器を持っていないか、抜き打ちで身体・手荷物検査を初めて実施した、と報じています(たとえば朝日新聞ニュースはこちらです)。抜き打ち検査を行う側の理事の方は「本当にいやな仕事。できたらやりたくないが、やむを得ない」とおっしゃっておられますが、「性悪説」に基づく抜き打ち検査は本当にやりたくないです。

大手のジェネリック医薬品メーカーの相次ぐ不正発覚を契機に、厚労省でもジェネリック医薬品メーカー46社に対して「抜き打ち検査」を行ったそうですが、おそらく表向きは「不正発見のため」ですが、実質的には「不正予防のため」ではないでしょうか。本業の不正調査で過去に何度か抜き打ち検査(正確には抜き打ち調査ですが)をやったことがありますが、そもそも抜き打ち検査で不正が発見できるほど甘くないというのが実感です。「不正の発見」が目的というのではなく、「こんな調査があるからやめとこう」と不正の機会を収奪する目的で行うのが正しい姿勢だと思います。「できればやりたくない」と思っている監査部の人たちも「社内から犯罪者を出さないために行うのであり、決して疑いが前提ではない」と自分に言い聞かせておられました。

なお、過去の経験からいくつかコメントを申し上げると、①内部通報者を特定させないためには有効である(一定頻度で本当に抜き打ち調査が行われる、という認識が社員に広まると「誰かが通報したのでは?」といった詮索が行われない傾向にある)、②「不正調査の目的からみて、抜き打ち調査は(社員に対する過度のプライバシー権の侵害ではないか」と誰かがクレームを言い出す(だからこそ、抜き打ち調査があることについてあらかじめ同意してもらう、「不正」ではなく「不正のおそれ」自体が調査の対象であることを伝えておくことが大切。なお、記事のように調査で発見されたモノがあれば、その所持自体をペナルティの対象とすることも一案です)、③抜き打ち調査といいながら実施すると、「抜き打ち」にならないことがときどきある(誰かが先に「抜き打ち調査を行う」という情報を現場に流す・・・これ自体、懲戒モノですが・・・)。

いずれにしても、調査対象となる現場の皆様への説明と協力要請がとても大切です。よほどの重大不正の疑いが存在するのであれば納得されるかもしれませんが、そうでなければ、平時からの「抜き打ちあるよ」といった広報とルール作りは必須かと思います。

余談ですが、最近はフォレンジックス事業者から「テレワーク環境でも抜き打ち調査が可能な情報漏洩防止システム」が発売されています。情報漏洩事件がテレワーク中にVPNを通じて起きるということが増えていて(たとえばこちらの記事ご参照)、情報漏洩事件における被害の重大性にかんがみると、このようなシステムも必要なのかもしれません。

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2021年6月23日 (水)

フォレンジック調査の有効性はチームとのコミュニケーションが最も重要と考える

6月10日に開示された(株主への圧力問題に関する)東芝の調査報告書はいろいろなところで話題になっています。その調査報告書では、AIを活用したメール分析が威力を発揮したことが6月12日の日経朝刊で報じられていました。東芝の調査は会社法316条に基づく調査委員によるものですが、一般の第三者委員会調査においても、もはやフォレンジック調査はあたりまえですし、テキストマイニングによる分析も、多くのフォレンジック事業者が行っているものと思います。

昨日まで私が委員として調査をしていた案件でも、大手のフォレンジック事業者のチームとともに2カ月間の調査を進めましたが、いくらAIを活用したとしても、一番重要なのは調査委員とフォレンジックチームとのコミュニケーションです。フォレンジックチームの方々に、調査委員会がどのような対象事実に関心を持っているのか、どのような事実が出てきたら委員会のヒアリングが前に進むのか、といった委員会活動全体の流れを理解していただけるかどうか。いくら委員会から重要な検索ワードをフォレンジックチームにお伝えしたとしても、いくらワード間の関連性をAIで分析したとしても、調査委員会の局面が大きく変わるということはむずかしいと思います。

今回の我々の調査委員会では、ほぼすべての委員会にフォレンジックチームにも参加してもらって、ヒアリングの進捗状況なども理解をしていただき、いまどんなメールが出てくれば、どんな事実が明らかとなるのか、たとえば今から10年前までメールを時系列に並べると、その時系列の流れはどんな重要事実を推認させることになるのか、といったことも、委員会からの指示なくしてフォレンジックチームの判断において調査を進めていただいたので、「このメールをヒアリングで出すことで、もはや言い逃れはできないだろう」と自信をもってヒアリングに臨めました。

もちろんフォレンジックチームの方々はプロとはいえ法律の専門家ではありません。したがって、委員会とのコミュニケーションはとても苦労されることと思います。ただ、100個探し出してくれたメールの中から、たとえ1個でも「お宝メール」が出てくれば、委員会も元気が出てきます。そういった貴重な経験を今回は何度もさせてもらいました(調査委員のほうでも、現時点でフォレンジックチームに何ができるのか・・・といったことへの理解が必要ですね)。

現時点での第三者委員会調査にはフォレンジック調査は不可欠、と言われており、データ解析やAI活用といった最先端の技術を駆使することに光が当たります。ただ、実際に調査に携わる者からすれば、フォレンジック調査にも技術的な限界はあるわけで、むしろ限りある資源を最大限に利用するためには、生身の人間どうしの意思疎通がどれだけできているか、意思疎通を図るスキルをお互い持ち合わせているか、その意思疎通のための時間をどれだけ作ることができるか、というところが大切だと思います(とりわけ今回の調査委員会では、そのようなコミュニケーションの重要性を痛感いたしました。事業者名を出すことは控えますが、本当にお世話になりました)。

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2021年1月18日 (月)

コロナ禍における会計不正事件が発覚するのは3~5年後と考える

1月16日の朝日新聞朝刊7面に「不適切会計 高止まり-昨年JDIなど58社60件」と題する記事が掲載されておりました。コロナ禍においても上場会社の会計不正事件の発覚が高止まりしている、とのことで、監査法人などのチェックが厳しくなっていることも発覚の高止まりの要因であると分析されています。

ただ、記事では会計不正事件は発生してから発覚するまで、どの程度の期間を要するか・・・という点は明らかにされていません。記事で紹介されているJDI事例も、またエフオーアイ事例も、そしてUMCエレクトロニクスの事例も、(調査期間の選定理由にもよりますが)少なくとも発生から4~5年ほど経過した後に発覚しています。

昨年、私が第三者委員会の委員長を務めたハイアス&カンパニーも2015年ころから不適切な会計処理が行われていたことは報告書記載のとおりです。つまり、不適切な会計処理が開始されてから3~5年ほどは(経営者が認識しているかどうかは別として)投資家は「過去の決算数値」についても、また「将来の会計不正リスク」についても騙され続けている、ということです。赤字なのに黒字決算であったり、公募増資が行われていたり、優良企業として資本提携の対象になっていたりすると、もう目も当てられないことになってしまいます。

ところで、当ブログで何度も申し上げているとおり、コロナ禍の監査は会計監査にせよ監査役監査にせよ、かなり問題を抱えているのが現実です。私が相談を受けているかぎりにおいては、まず監査役監査は平時からの監査自体が手薄になってしまった(監査が不十分であった)企業が多く、また、会計監査においては、経理部や監査役から(財務報告の信頼性の疑義を払しょくするために)必要な情報が会計監査人に届いていない企業も多いようです。そのうえで新型コロナに起因した業績悪化が明確になってきた企業も出てきており、海外子会社だけでなく、国内グループ会社を含めて不適切な会計処理が行われている件数は間違いなく増えているはずです。

不正が発生しても、発生からそれほど時間が経過していなければ社内で(とりあえず適正に)処理できる場合も多いので、会社も株主もそれほど大きな損失を被ることもないでしょう。ただ、さすがに「あやしい」と思っても「会計処理に問題あり」と声を上げることができる環境は築かれていないはずです。上記朝日の記事で紹介されていたUMCエレクトロニクスの事例では、5件もの公益通報(申告および内部通報)によって不正疑惑が定時株主総会の直前に発覚しましたが、役職員の誰一人として総会で「粉飾の疑義」を指摘できる人がいませんでした。

昨年同様、今年も「定時株主総会は6月に開催すること」にこだわる上場会社が多いと思いますが、そうなると、とても監査の不十分性は総会でも有報でも語られませんから、不正会計のリスクはますます高まることになります。今年の6月総会では令和元年改正会社法が施行されますので「社外取締役が期待された職務を果たしたのであれば、その内容」を事業報告に記載することになりますが、ホント、大丈夫でしょうかね(^^;?

また、架空循環取引における取引相手の破たん(相手方にトラブルが発生すること)や国税による調査、株主からの調査要請などの「不正発覚の端緒」も、おそらく不正開始から数年内に偶発的に発生する可能性が高いと思われます。そうしますと、コロナ禍における会計不正事件は、これから3年~5年ほどで社会的に認知される(会社もしくは第三者から公表される)ことになるのでしょうね。

1月16日の日経朝刊3面記事では「今年の上場見通し 100社規模」と報じられており、相変わらずコロナ禍でもIPO企業の数は高い水準で推移するようです。ただ、3~5年後に上場前からの不正が発覚する、たとえ後悔して不正会計を途中で(コソっと)止めたとしても、過去の不正を東証は許してくれない、ということを前提としますと、これからIPO企業に投資をされる方はガバナンス評価を怠らないことが肝心だと思います。

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2020年4月17日 (金)

監査法人の「意見不表明」でピンチ?-素朴な疑問が残るJDI不適切会計事件に関する第三者委員会報告書

4月16日夜の日経ニュースで初めて知りましたが、会計不正事件で揺れるJDI(ジャパンディスプレイ)の過年度有価証券報告書(訂正後)について、会計監査人(あずさ監査法人)が「意見不表明」「限定意見」を出したそうです。意見不表明の根拠としては「2013年4月に吸収合併した親会社などの会計帳票および勘定科目残高明細などについて網羅的に保存されていないため、財務諸表全体の監査ができない」とのこと。 第三者委員会報告書の指摘に従って訂正した有価証券報告書について、会計監査人から適正意見がもらえない、というのはあまり聞いたことがありません(報告書作成の時点で、第三者委員会は会計監査人と全く協議はされなかったのでしょうか?)。

そういえば先日、4月13日に開示されたJDI社の不適切会計処理に関する第三者委員会報告書をちょうど読了したところでした。会計不正の手法については、典型的なパターンが多いようです。公益通報者保護法の改正法案が今国会に提出されていますが、「公益通報」の取扱いにかなり問題があったのではないかと思われる点など、いろいろと興味深い点がありました。

ただ、本日は詳しくは書きませんが、当該報告書を読んで、そもそもの「素朴な疑問」がいくつか湧きました。JDI社の第三者委員会は、不適切会計の疑惑が生じたことから設置されたのですが、その不適切会計を申告したのは、報告書で「主犯格」とされている(すでに死亡された)A氏の告発です。その告発では「経営陣に指示されて不正会計処理をしてしまった」とされていますが、その「経営者が関与しているかどうか」という点が「不正の疑義ある事実」とはされていないのです。しかし、152名ものフォレンジック部隊を調査に投入しているので、普通であれば告発がある以上、メールや電子ファイルの調査によって「不適切会計に関する経営陣の認識」にターゲットを絞って調査するわけですが、そのような調査に関する記載も見当たりません(このあたりは実際は調査されたのでしょうか?)

また、2018年5月に、従業員からの公益通報が役員に届くわけですが、その通報対象事実がまさに不適切会計に関する事実でした。その後、通報を受理した役員が調査を続行している間に、会計不正を主導していたとされるA氏に、まったく別の横領に関する不正行為が発覚します。結局、このA氏は横領事件について懲戒解雇となり、その直後に不適切会計の告発に至ります。しかし、A氏の横領事実をどのように社内の経営陣が確知するに至ったのか、報告書を読んでも全くわからないのです。A氏はJDIにおいて強大な権限を有していたそうです。しかし、そのような権力を誇っていたA氏の横領事実を、取締役らがいかにして確知したのか(そして懲戒処分まで出すに至った経緯)は、JDIに自浄能力があるのかどうかを外部から判断する(評価する)際にどうしても知りたい事実です。なぜ記載がないのか、よくわかりませんでした。

そしてもう1点ですが、このJDIの不正問題はとても珍しいケースです。何が珍しいかといいますと、自死された(とされる)主犯格のA氏は、横領事件と不適切会計事件の両方に手を染めています。一方は私利私欲のため、もう一方は「業績が悪化している会社のため」です。しかし、この二つの動機は両立するものでしょうか?報告書では、A氏はJDI社ではとても評価が高く「男気」があり、部下からの信頼もとても厚かったと記載されています。そんな「男気」のあったA氏が、会社のために不正会計に手を染めることまではわかりますが、5億円以上もの金員を私欲を満たすために領得するのでしょうか?また、自死する寸前に(男気のある人が)「私は経営陣に嵌められた」と告発するでしょうか?もし二つの動機が両立するのであれば、その両立を合理的に説明できるほどの真因分析が必要です。その真因分析の対象事実こそ、フォレンジックで明らかにならなかったのか、そのあたりに素朴な疑問が湧きました。

こんなご時世ではありますが、本業の不正調査やガバナンス構築支援の関係で、いろいろと忙しくしております(もちろん関係者との面談は控えております)。時間のない中で上記報告書を読みましたので、ひょっとしたら読み飛ばしている点もあるかもしれません。もし上記の素朴な疑問について、お読みになった方から「その点は報告書のココに書いてありますよ」といったご示唆をいただけましたら幸いです。

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2019年4月12日 (金)

社長に嫌われると監査役にされてしまう東証1部企業は実在した!

4月12日は朝から財務省や日本取締役協会などでお話をさせていただくので手短に(早く寝ます)。

本日(4月11日)の夕方に開示された某会社(東証1部)の第三者委員会報告書がスゴイ内容です。

社長に嫌われた(実績を残せなかった)取締役さんが「おまえは重箱の隅をつつくようなマネがうまいから監査役にしてやる」と言われてホントに監査役にされてしまったそうです。東証1部の会社でこれはちょっと悲しい。。。💦2名の社外監査役の方々はどんな思いで職務を全うされていたのでしょうか。。。

しかし「社長の親密女性関係マップ」を作成したフォレンジックス調査を見たのは初めてです(私とほとんど年齢変わらんのに・・・ウーーン、元気やなぁ。。。。😵 こういう人生もあるんか。。😖コメント以上)

すいません、忙しいのでGWにちゃんと読ませていただきます。

 

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2018年6月15日 (金)

決算「不適正」で説明責任を尽くすべきは上場会社も同様

本日、ある会合で、最近のコーポレートガバナンスに関連する話題として最も印象的なものは社外取締役によるインサイダー規制違反(疑惑)とのことでした。ご承知のとおり、ふたり続けて上場会社の社外取締役の方がインサイダー規制違反によって証券取引等監視委員会の調査対象となりました。「会社の情報管理体制の問題というよりも、一個人の行動に関する問題なので静観している」といったところかもしれません。しかし、証券市場の「酸いも甘いも」熟知した経営者OBの方々が、どうしてインサイダー取引に及んだのかは理解不能です。このあたりは会社側がきちんと調査のうえ説明責任を果たすべきと考えます。

さて、「説明責任」ということでは、6月13日の日経朝刊に「決算不適正、株主説明を」との見出しが躍っていました。金融庁や日本公認会計士協会を中心に、監査法人が適正意見を出さない場合に、その理由を株主に詳細に説明するルールの策定が検討されているそうです。昨年の東芝、PwC間の「限定付き適正意見」の開示を巡る問題が契機となっていることは間違いありません。東芝さんの株主総会でも、PwCさんに説明を求める株主動議が出されましたが、結局は却下されてしまい、日本取引所自主規制法人理事長も問題視されていました。

会計監査人(監査法人)が、一定の場合に守秘義務を解除して、詳細な説明を求められることには異存ありません。ただ、監査法人側に詳細な理由説明を求めるのであれば、会社側にもその理由に対する意見について説明を求めるべきです。なぜなら決算書については第一次的には会社側に作成責任があり、経営者は会計検査人に対して「確認書」を提出する立場にあるからです。会社側が会計ルールに従って真正に作成したと宣言している財務諸表について、無限定適正意見は書けないと会計監査人が主張しているわけですから、当然に会社側は反論すべき立場にあると思います。

いくら会社側と会計監査人との対立があるといっても、この対立は「どっちが勝つか」という(利益獲得を目指した)問題ではなく、投資者・株主保護を目指す双方の意見の擦り合わせ、つまり双方の勝利を目指す対立です。この対立の構図は、一般の投資者・株主に開示して情報の非対称性を解消すべきです。この点はしっかりと抑えておく必要があると思います。また、このように双方に詳細な意見を開示させる、ということで、本来の会計監査人の役割を投資者・株主が理解するきっかけとなり、いわゆる監査の重要性を投資者・株主が理解する道筋になると考えます。

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2017年8月 9日 (水)

東芝の会計監査(意見表明)問題は「三方よし」で終結するか?

今年4月12日の当ブログにて「東芝四半期報告書-なぜ『限定付適正意見(結論)』がもらえなかったのか?」と題するエントリーを書きましたが、なんだか最近のマスコミ報道によりますと、ホントにそんなところで終結しそうな雰囲気になってきたような気がいたします。ただ、当時は東芝さんの四半期報告書が問題視されていましたが、現在は有価証券報告書への意見表明が問題になっていますので、当時よりもさらに当事者の方々には深刻な問題ですね。さらにロイターさんが報じているように有価証券報告書は「限定付き適正」だが内部統制報告書は「不適正」という意見が出された場合、東芝さんとしては特設注意市場銘柄からの解除が困難になる可能性もあるため、予断を許さないように思います。

さて、またまた大手町や内幸町あたりの会計専門家の方々から怒られそうな(実際、怒られてます-笑)話題で恐縮ですが、どうも素朴な疑問が湧いてきてしかたがありません。東芝さんの元会計監査人である新日本監査法人さんと、現会計監査人であるPwCあらた監査法人さんとで、WHの61億ドルに上る損失を17年3月期に計上すべきだったのか、16年3月期までに計上すべきだったのか、壮絶なバトルが繰り広げられているとのニュースが報じられています。

つまり、新日本さんが正しければPwCさんが間違っていて、PwCさんが正しければ新日本さんが間違っている、もし新日本さんが間違っている場合には会計不正の共犯か、もしくは監査見逃し責任を問われる、PwCさんが間違っていたら監査放棄の責任を問われる・・・といった構図になるのでしょうか。しかしどうもこの構図は解せません。

たしかに東芝さんが「不正とわかっていて隠した」のであれば、会計事実の存否を巡ってこのような構図が語られることもナットクするのですが、会計処理に関する見解の相違というところの問題であれば、会計上のミスというところはあったとしても少し違った構図になるような気がいたします。会計基準は法律ではないので、基準の解釈に相違があったとしても法的責任には直結しません。つまり、新日本さんも正しいけど、PwCさんも正しい、という結論はありうるだろうなぁと。いくら投資家に迷惑をかけたとしても、一定の時間内に、一定の報酬で、つまりリスクアプローチを所与の前提として相対的真実を追求するわけですから、会計監査の性(さが)としてやれることには限界があるだろうなぁと。

そのように考えておりましたところ、7月25日の朝日新聞さんの記事あたりから最近にかけて、PwCさんが「これは会計上の誤謬だ」と主張を少し変えていることが気になりっております。これまではPwCさんが「不正会計」と主張されていたのが「会計上の誤謬(ミス)」と指摘するように変わったのは、とりあえず限定付き適正意見を表明する余地を残しているという意味合いだと推測されます(ただ投資家側からみて61億ドルという巨額の損失計上の可能性が「そこさえ注意して開示情報をご覧になっていただければ安心ですよ」と言えるものなのかどうか、これはかなり微妙な気がしますが・・・)。

ただ、ここからは会計素人の素朴な意見ですが、会計不正を主張してしまうと(法的責任を問われる可能性のある)新日本さんも「引っ込みがつかなくなる」ので、PwCも正しい、新日本も(当時の東芝の状況からすれば)正しい、といった着地点を当事者が模索しているのではないかと推測(邪推?)しております。会計処理方法の誤り(会計上の誤謬)ということであれば、今後はどっちからでも「相手が誤っている」と主張しておけば(とりあえずは)済む話であり、法律上は注意義務違反を問われる可能性も極めて低い、というところに着地できるからです。

これでPwCさんが「限定付き適正意見」を表明することになれば、東芝さんも(内部統制報告書問題は残るものの)とりあえずは上場廃止を免れることになりますし、PwCさんも新日本さんも、当局や業界内での裁定は別として、世間的に法的責任を追及されるリスクは極めて低くなりますし、まさに「三方よし」ですね(こういうことを言うから怒られるのですよね・・・笑)。ただ、これはあくまでも日本人的感覚であり、「俺が会計基準だ」と言って憚らない欧米の会計監査人もこの理屈にナットクされるかどうかはわかりません。いずれにしても8月10日にはどのような意見が表明されるのか、またまた世間の関心が高まるところです(両方の監査法人さんからはふだん、アドバイザリー業務を含めてとてもお世話になっているにもかかわらず、ブログネタにしてしまってゴメンナサイ・・・<(_ _)>)。

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2017年5月 8日 (月)

監査法人を悩ます新たなIESBA「違法行為への対応」指針

昨年10月ころから「先生、またこんな新しい指針ができるんですよ。どう対応したらよいものか・・・」と大手監査法人の幹部の方々からご相談を受けていたのがIESBA(国際会計士倫理基準審査会)の「違法行為への対応」という国際倫理規程の新設問題です。今年7月15日から倫理規程の適用開始(その後、倫理規程の改正を受けた国際監査基準の改訂)ということが決定しておりますが、あまり世間で話題にならないなぁと思っておりましたところ、ようやく最新の中央経済社「企業会計」2017年6月号に特集座談会記事が掲載されました。IESBAの前ボードメンバーでいらっしゃる加藤厚先生や国際会計に詳しい法律学者の弥永真生先生をはじめ、豪華なメンバーでの座談会です。

公益通報者保護法(および今後の法改正)への対応といった、私自身が関心の深い項目への議論もなされ、たいへん興味深く拝読させていただきました。ここで座談会の内容についてご紹介することは避けますが、これは「倫理規範」とはいえ、監査法人の方々は、またまた悩みの種がひとつ増えるのではないでしょうか。財務報告の信頼性に関わる違法行為だけでなく、たとえば労働基準法違反、性能偽装行為、燃費偽装行為、その他消費者の安全を害する違法行為を見つけたときには、これを報告しなければならないといった問題、報告すべきは違法行為だけでなく、その「おそれ」も含まれているという問題、さらには作為だけではなく、「見て見ぬふりをする」といった経営者らの不作為の違法についても対応しなければならない問題など、公認会計士、監査法人を悩ます多くの課題が浮かび上がります。

オリンパス事件をきっかけとして、平成25年に「不正リスク対応監査基準」が策定されましたが、そのときにも「この基準は確認的なものであり、新たな義務を会計士・監査法人に課すものではない。きちんと誠実に仕事をしている会計士は今まで通りやればよいのだ。やっていない会計士への警告的な意味合いが強いのだ」といった意見がたくさん出ていました。このたびの座談会のご議論を拝読していて、「なるほど、今回の『違法行為への対応』倫理規程についても、4年前と同じような議論がなされるのだろうな・・・」との予感がいたします。ただ、今回の国際倫理規程の新設、それに続く国際監査基準の改訂は、監査を担当する会計士だけでなく、一般の民間企業で勤務する企業内会計士の方々にも(国際基準の改訂を通じて)遵守が求められますので、そのあたりの解説はきちんとされる必要はありそうですね。

「企業会計」という雑誌が会計専門職、経理担当者を対象としたものである以上、会計士・監査法人の立場での対応だけが話題になっていますが、私はこの倫理基準は会計士向けではあるものの、市場関係者全体に強い要請が含まれていると考えています。このたびの東芝さんとPwCあらた監査法人さんとのやりとりをご覧になってもおわかりのとおり、投資家に有益な情報を提供して市場の健全性を確保するためには、財務報告のサプライチェーンに関与するすべての人たちが違法行為への対応について協働する必要があります。だからこそ、この倫理規程には何度も「公共の利益」なる文言が登場します。これは平成25年の不正リスク対応基準が策定したときに何度も解説されていたはずです。とりわけ監査の対象となる上場企業、(企業内会計士であれば)ご自身が財務報告の作成責任者や監督者となる上場企業において、ガバナンスや内部統制の健全化が図られていなければ、会計士・監査法人による違法行為への適切な対応など困難です。

東芝・PwCあらた(ひょっとしたら次の監査人?)問題を契機として、この守秘義務の解除問題ともかかわる新たな国際基準への関心が高まると思いますが、これは単なる監査法人だけの問題ではなく、財務報告のサプライチェーンに関与するすべての関係者の問題として捉える必要があります。なお、老婆心ながら本規程は会計監査以外のアドバイザリー業務を担当されている会計士の方々、企業内会計士の方々にも適用されますので、その適用開始日についてはご注意されたほうがよろしいのではないかと思います。

 

 

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2017年2月15日 (水)

東芝の内部統制に関する不備と「経営者の不適切なプレッシャー」

東芝さんは2月14日に予定していた四半期報告書の提出を、会計監査人のレヴューが得られないとして1か月延長すると発表しました。朝日新聞WEBで記者会見の様子を動画視聴しましたが、不正疑惑が持ち上がったこと、そしてメモリー事業すら手放すことも検討していること(他社に過半数の株式を譲渡してもかまわない)に言及した会見には驚きました。あと、日経の田中記者が会計的見地から(個人的には)ナイスと思える質問をされていた印象を受けました。

今年に入って「PPA(パーチェス・プライス・アロケーション)の過程において内部統制上の不備がある」との内部通報があったようですね。ウェスチングハウスのCEOに対して、同社の社員からの内部通報あり・・・ということなので、すべて海外で不正疑惑が申告されたというものだそうです。ただ、東芝さんのリリースを読む限り、内部通報の内容である内部統制上の不備と、その後の調査で判明した「経営者による不適切な圧力」との関係がよくわからなかったですね(どなたか質問してほしかったです)。また国内で第一報を受けたのは経営陣なのでしょうか、それとも監査委員会なのでしょうか。監査委員会が調査の主体のようですが、調査で判明した事実は経営陣と共有するのでしょうか?海外の主要会社の経営トップの不正疑惑ですから、チャイニーズウォールが必要な気もしますが。。。

しかし、そもそも東芝さんのリリースに登場する「内部統制の不備を示唆する内部通報」とか「不適切なプレッシャーを懸念する指摘」とか、「経営者による内部統制の無効化が仮にあった場合」等、ほとんど日本語が理解できません。たしか昨年6月の時点で、東芝さんは「当社の財務報告に関する内部統制は有効とは言えない」と宣言しておられるので、無効なものを無効化するというのはどういった意味なのでしょうか?後でどっちとでもとれるような評価を示す言葉のように思えます。事実関係は調査中だとしても、公表文書の内容が不明な点は釈明する必要があるように感じました。

内部統制上の不備がどのようなものか私にも想像できませんが、S&Wを買収したWEC社のPPAについては日本でも監査が厳格になっていますので、結果的に「四半期レヴューにおいて会計監査人を騙した」ような結果となれば、やっぱり無視できない不正だと思います。以前紹介したアメリカの行動経済学者ダン・アリエリーさんの「ズル-嘘とごまかしの行動経済学」で、会計監査人を騙すのは簡単、「監査上の重要性」を活用すればいいだけ、ということが解説されていました。S&W買収金額を少なく見積もっておけば、PPAも自社監査チームだけで対応すればよい(つまり全体からみればS&Wの買収価格は重要性に乏しい)として、「PPA期限間際になって過大な債務が発覚した、のれんで処理します」と言いやすい・・・といったことを誰かが考えたのでしょうか(このあたりは会計のご専門の方のご意見もコソっとお聴きしてみたいところです)。

もちろん勝手な想像ですが、ともかく内部統制の不備が全体の決算数字への影響が軽微であったとしても、かりに監査を妨害するようなものであるとすれば、かなり重大な問題ではないかと考えます。法律事務所による調査結果への関心が高まるところです。

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2016年12月 9日 (金)

内部監査部門の強化は不正発見力向上につながるか-その2

今週月曜日(11月5日)の日経法務面では内部監査部門の不正発見力に関する特集記事が組まれていました。そういえば私も今年の8月18日付けエントリーで、内部監査部門強化が不正発見につながるのか?といった問題提起をしておりました。内部監査部門といえば指導的役割が中心であり、現場の不正を発見するような役割がそれほど期待されていないのではないか、もし期待されるのであればいくつかの前提条件が必要ではないか・・・といったこと書きました。

上記日経記事では、最近のコーポレートガバナンス・コードでの要請事項との関係で、不正発見力向上に向けた内部監査部門の底上げに取り組む企業事例が紹介されています。監査役や社外取締役らとの連携によって統制環境の健全化に役立つような体制作りが始まっているそうです。ただ、8月18日のエントリーにコメントいただいた「場末のコンプライアンス」さんが

(リスクアプローチによる効率的な監査を実現するため)には、現場を知る監査、検査部隊が必要であり、米国SECの初代委員長同様、現場の手口を知り尽くしている人間を配置しなければ成果は上がらず、現状のような縦割りで、結果的に内部監査基準に精通した人間のみを養成するような人材育成では、到底難しい話でしょう。

と指摘されているとおり、監査部門を担う方々のスキル、それも個々の監査部門の社員による努力ではなく、全社挙げての内部監査のスキルアップという面にも光をあてる必要があるかと思います。

最近、私が担当した某社の会計不正事件の調査では、経理部門と監査部門との力の差をまざまざと見せつけられました。経理部門は日頃から営業部門とのコミュニケーションをはかっていて、さらにローテーションによって営業を経験している経理社員も存在することから、営業から上がってきた数字をみただけで異常な取引を行っている可能性を感じとっていました。不正・誤謬の初期段階であれば、経理が営業と話をして正しい数字に修正させますので(監査法人に知られることもなく?)何事もなかったかのように不正・誤謬が解消されます。

しかしその会社の監査部門の担当者は、あまり他の部門との交流がなく、ローテーションも活発ではないので「現場感覚が乏しい」というのが実情でした。数字をみても、営業活動の様子が思い浮かばないということから、ヒアリングも実効性が上がらない。たとえば事業部門と経理部門の交渉の末、経理部門のプロの業によって「かなりクロに近いグレー」が「かなりシロに近いグレー」にドレッシングされたとしても、その事実を内部監査部門が把握することはできない、という状況でした。経理部門が不正撲滅に熱心な状況であればよいのですが、役員クラスから「なんとかしろ」と言われると、会計監査人に適正意見をもらうためのストーリーを作る側に回ってしまう。そのような中で、不正を発見すること以前に、不正の兆候に気づくことですら、やはり監査部門が「ノルマに追われている状況にある現場を知る」ことがとても大切ではないかと思いました。

上記の日経記事では「内部監査部門の役割向上のためには独立性強化や専門性向上、非業務執行役員との連携が不可欠」とされています。しかし、それ以前に「内部監査部門は社内で様々な職場を経験する、もしくは事業部門や経理部門とのコミュニケーションによって(トップからのミッションを果たすために必死になっている)現場の感覚を習得する」といったことが必要だと考えます。少なくとも監査部門に経理の経験の長い人を置くだけで、他部門が監査部門を見る目が変わるのではないでしょうか。

 

 

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