2018年6月15日 (金)

決算「不適正」で説明責任を尽くすべきは上場会社も同様

本日、ある会合で、最近のコーポレートガバナンスに関連する話題として最も印象的なものは社外取締役によるインサイダー規制違反(疑惑)とのことでした。ご承知のとおり、ふたり続けて上場会社の社外取締役の方がインサイダー規制違反によって証券取引等監視委員会の調査対象となりました。「会社の情報管理体制の問題というよりも、一個人の行動に関する問題なので静観している」といったところかもしれません。しかし、証券市場の「酸いも甘いも」熟知した経営者OBの方々が、どうしてインサイダー取引に及んだのかは理解不能です。このあたりは会社側がきちんと調査のうえ説明責任を果たすべきと考えます。

さて、「説明責任」ということでは、6月13日の日経朝刊に「決算不適正、株主説明を」との見出しが躍っていました。金融庁や日本公認会計士協会を中心に、監査法人が適正意見を出さない場合に、その理由を株主に詳細に説明するルールの策定が検討されているそうです。昨年の東芝、PwC間の「限定付き適正意見」の開示を巡る問題が契機となっていることは間違いありません。東芝さんの株主総会でも、PwCさんに説明を求める株主動議が出されましたが、結局は却下されてしまい、日本取引所自主規制法人理事長も問題視されていました。

会計監査人(監査法人)が、一定の場合に守秘義務を解除して、詳細な説明を求められることには異存ありません。ただ、監査法人側に詳細な理由説明を求めるのであれば、会社側にもその理由に対する意見について説明を求めるべきです。なぜなら決算書については第一次的には会社側に作成責任があり、経営者は会計検査人に対して「確認書」を提出する立場にあるからです。会社側が会計ルールに従って真正に作成したと宣言している財務諸表について、無限定適正意見は書けないと会計監査人が主張しているわけですから、当然に会社側は反論すべき立場にあると思います。

いくら会社側と会計監査人との対立があるといっても、この対立は「どっちが勝つか」という(利益獲得を目指した)問題ではなく、投資者・株主保護を目指す双方の意見の擦り合わせ、つまり双方の勝利を目指す対立です。この対立の構図は、一般の投資者・株主に開示して情報の非対称性を解消すべきです。この点はしっかりと抑えておく必要があると思います。また、このように双方に詳細な意見を開示させる、ということで、本来の会計監査人の役割を投資者・株主が理解するきっかけとなり、いわゆる監査の重要性を投資者・株主が理解する道筋になると考えます。

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2017年8月 9日 (水)

東芝の会計監査(意見表明)問題は「三方よし」で終結するか?

今年4月12日の当ブログにて「東芝四半期報告書-なぜ『限定付適正意見(結論)』がもらえなかったのか?」と題するエントリーを書きましたが、なんだか最近のマスコミ報道によりますと、ホントにそんなところで終結しそうな雰囲気になってきたような気がいたします。ただ、当時は東芝さんの四半期報告書が問題視されていましたが、現在は有価証券報告書への意見表明が問題になっていますので、当時よりもさらに当事者の方々には深刻な問題ですね。さらにロイターさんが報じているように有価証券報告書は「限定付き適正」だが内部統制報告書は「不適正」という意見が出された場合、東芝さんとしては特設注意市場銘柄からの解除が困難になる可能性もあるため、予断を許さないように思います。

さて、またまた大手町や内幸町あたりの会計専門家の方々から怒られそうな(実際、怒られてます-笑)話題で恐縮ですが、どうも素朴な疑問が湧いてきてしかたがありません。東芝さんの元会計監査人である新日本監査法人さんと、現会計監査人であるPwCあらた監査法人さんとで、WHの61億ドルに上る損失を17年3月期に計上すべきだったのか、16年3月期までに計上すべきだったのか、壮絶なバトルが繰り広げられているとのニュースが報じられています。

つまり、新日本さんが正しければPwCさんが間違っていて、PwCさんが正しければ新日本さんが間違っている、もし新日本さんが間違っている場合には会計不正の共犯か、もしくは監査見逃し責任を問われる、PwCさんが間違っていたら監査放棄の責任を問われる・・・といった構図になるのでしょうか。しかしどうもこの構図は解せません。

たしかに東芝さんが「不正とわかっていて隠した」のであれば、会計事実の存否を巡ってこのような構図が語られることもナットクするのですが、会計処理に関する見解の相違というところの問題であれば、会計上のミスというところはあったとしても少し違った構図になるような気がいたします。会計基準は法律ではないので、基準の解釈に相違があったとしても法的責任には直結しません。つまり、新日本さんも正しいけど、PwCさんも正しい、という結論はありうるだろうなぁと。いくら投資家に迷惑をかけたとしても、一定の時間内に、一定の報酬で、つまりリスクアプローチを所与の前提として相対的真実を追求するわけですから、会計監査の性(さが)としてやれることには限界があるだろうなぁと。

そのように考えておりましたところ、7月25日の朝日新聞さんの記事あたりから最近にかけて、PwCさんが「これは会計上の誤謬だ」と主張を少し変えていることが気になりっております。これまではPwCさんが「不正会計」と主張されていたのが「会計上の誤謬(ミス)」と指摘するように変わったのは、とりあえず限定付き適正意見を表明する余地を残しているという意味合いだと推測されます(ただ投資家側からみて61億ドルという巨額の損失計上の可能性が「そこさえ注意して開示情報をご覧になっていただければ安心ですよ」と言えるものなのかどうか、これはかなり微妙な気がしますが・・・)。

ただ、ここからは会計素人の素朴な意見ですが、会計不正を主張してしまうと(法的責任を問われる可能性のある)新日本さんも「引っ込みがつかなくなる」ので、PwCも正しい、新日本も(当時の東芝の状況からすれば)正しい、といった着地点を当事者が模索しているのではないかと推測(邪推?)しております。会計処理方法の誤り(会計上の誤謬)ということであれば、今後はどっちからでも「相手が誤っている」と主張しておけば(とりあえずは)済む話であり、法律上は注意義務違反を問われる可能性も極めて低い、というところに着地できるからです。

これでPwCさんが「限定付き適正意見」を表明することになれば、東芝さんも(内部統制報告書問題は残るものの)とりあえずは上場廃止を免れることになりますし、PwCさんも新日本さんも、当局や業界内での裁定は別として、世間的に法的責任を追及されるリスクは極めて低くなりますし、まさに「三方よし」ですね(こういうことを言うから怒られるのですよね・・・笑)。ただ、これはあくまでも日本人的感覚であり、「俺が会計基準だ」と言って憚らない欧米の会計監査人もこの理屈にナットクされるかどうかはわかりません。いずれにしても8月10日にはどのような意見が表明されるのか、またまた世間の関心が高まるところです(両方の監査法人さんからはふだん、アドバイザリー業務を含めてとてもお世話になっているにもかかわらず、ブログネタにしてしまってゴメンナサイ・・・<(_ _)>)。

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2017年5月 8日 (月)

監査法人を悩ます新たなIESBA「違法行為への対応」指針

昨年10月ころから「先生、またこんな新しい指針ができるんですよ。どう対応したらよいものか・・・」と大手監査法人の幹部の方々からご相談を受けていたのがIESBA(国際会計士倫理基準審査会)の「違法行為への対応」という国際倫理規程の新設問題です。今年7月15日から倫理規程の適用開始(その後、倫理規程の改正を受けた国際監査基準の改訂)ということが決定しておりますが、あまり世間で話題にならないなぁと思っておりましたところ、ようやく最新の中央経済社「企業会計」2017年6月号に特集座談会記事が掲載されました。IESBAの前ボードメンバーでいらっしゃる加藤厚先生や国際会計に詳しい法律学者の弥永真生先生をはじめ、豪華なメンバーでの座談会です。

公益通報者保護法(および今後の法改正)への対応といった、私自身が関心の深い項目への議論もなされ、たいへん興味深く拝読させていただきました。ここで座談会の内容についてご紹介することは避けますが、これは「倫理規範」とはいえ、監査法人の方々は、またまた悩みの種がひとつ増えるのではないでしょうか。財務報告の信頼性に関わる違法行為だけでなく、たとえば労働基準法違反、性能偽装行為、燃費偽装行為、その他消費者の安全を害する違法行為を見つけたときには、これを報告しなければならないといった問題、報告すべきは違法行為だけでなく、その「おそれ」も含まれているという問題、さらには作為だけではなく、「見て見ぬふりをする」といった経営者らの不作為の違法についても対応しなければならない問題など、公認会計士、監査法人を悩ます多くの課題が浮かび上がります。

オリンパス事件をきっかけとして、平成25年に「不正リスク対応監査基準」が策定されましたが、そのときにも「この基準は確認的なものであり、新たな義務を会計士・監査法人に課すものではない。きちんと誠実に仕事をしている会計士は今まで通りやればよいのだ。やっていない会計士への警告的な意味合いが強いのだ」といった意見がたくさん出ていました。このたびの座談会のご議論を拝読していて、「なるほど、今回の『違法行為への対応』倫理規程についても、4年前と同じような議論がなされるのだろうな・・・」との予感がいたします。ただ、今回の国際倫理規程の新設、それに続く国際監査基準の改訂は、監査を担当する会計士だけでなく、一般の民間企業で勤務する企業内会計士の方々にも(国際基準の改訂を通じて)遵守が求められますので、そのあたりの解説はきちんとされる必要はありそうですね。

「企業会計」という雑誌が会計専門職、経理担当者を対象としたものである以上、会計士・監査法人の立場での対応だけが話題になっていますが、私はこの倫理基準は会計士向けではあるものの、市場関係者全体に強い要請が含まれていると考えています。このたびの東芝さんとPwCあらた監査法人さんとのやりとりをご覧になってもおわかりのとおり、投資家に有益な情報を提供して市場の健全性を確保するためには、財務報告のサプライチェーンに関与するすべての人たちが違法行為への対応について協働する必要があります。だからこそ、この倫理規程には何度も「公共の利益」なる文言が登場します。これは平成25年の不正リスク対応基準が策定したときに何度も解説されていたはずです。とりわけ監査の対象となる上場企業、(企業内会計士であれば)ご自身が財務報告の作成責任者や監督者となる上場企業において、ガバナンスや内部統制の健全化が図られていなければ、会計士・監査法人による違法行為への適切な対応など困難です。

東芝・PwCあらた(ひょっとしたら次の監査人?)問題を契機として、この守秘義務の解除問題ともかかわる新たな国際基準への関心が高まると思いますが、これは単なる監査法人だけの問題ではなく、財務報告のサプライチェーンに関与するすべての関係者の問題として捉える必要があります。なお、老婆心ながら本規程は会計監査以外のアドバイザリー業務を担当されている会計士の方々、企業内会計士の方々にも適用されますので、その適用開始日についてはご注意されたほうがよろしいのではないかと思います。

 

 

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2017年2月15日 (水)

東芝の内部統制に関する不備と「経営者の不適切なプレッシャー」

東芝さんは2月14日に予定していた四半期報告書の提出を、会計監査人のレヴューが得られないとして1か月延長すると発表しました。朝日新聞WEBで記者会見の様子を動画視聴しましたが、不正疑惑が持ち上がったこと、そしてメモリー事業すら手放すことも検討していること(他社に過半数の株式を譲渡してもかまわない)に言及した会見には驚きました。あと、日経の田中記者が会計的見地から(個人的には)ナイスと思える質問をされていた印象を受けました。

今年に入って「PPA(パーチェス・プライス・アロケーション)の過程において内部統制上の不備がある」との内部通報があったようですね。ウェスチングハウスのCEOに対して、同社の社員からの内部通報あり・・・ということなので、すべて海外で不正疑惑が申告されたというものだそうです。ただ、東芝さんのリリースを読む限り、内部通報の内容である内部統制上の不備と、その後の調査で判明した「経営者による不適切な圧力」との関係がよくわからなかったですね(どなたか質問してほしかったです)。また国内で第一報を受けたのは経営陣なのでしょうか、それとも監査委員会なのでしょうか。監査委員会が調査の主体のようですが、調査で判明した事実は経営陣と共有するのでしょうか?海外の主要会社の経営トップの不正疑惑ですから、チャイニーズウォールが必要な気もしますが。。。

しかし、そもそも東芝さんのリリースに登場する「内部統制の不備を示唆する内部通報」とか「不適切なプレッシャーを懸念する指摘」とか、「経営者による内部統制の無効化が仮にあった場合」等、ほとんど日本語が理解できません。たしか昨年6月の時点で、東芝さんは「当社の財務報告に関する内部統制は有効とは言えない」と宣言しておられるので、無効なものを無効化するというのはどういった意味なのでしょうか?後でどっちとでもとれるような評価を示す言葉のように思えます。事実関係は調査中だとしても、公表文書の内容が不明な点は釈明する必要があるように感じました。

内部統制上の不備がどのようなものか私にも想像できませんが、S&Wを買収したWEC社のPPAについては日本でも監査が厳格になっていますので、結果的に「四半期レヴューにおいて会計監査人を騙した」ような結果となれば、やっぱり無視できない不正だと思います。以前紹介したアメリカの行動経済学者ダン・アリエリーさんの「ズル-嘘とごまかしの行動経済学」で、会計監査人を騙すのは簡単、「監査上の重要性」を活用すればいいだけ、ということが解説されていました。S&W買収金額を少なく見積もっておけば、PPAも自社監査チームだけで対応すればよい(つまり全体からみればS&Wの買収価格は重要性に乏しい)として、「PPA期限間際になって過大な債務が発覚した、のれんで処理します」と言いやすい・・・といったことを誰かが考えたのでしょうか(このあたりは会計のご専門の方のご意見もコソっとお聴きしてみたいところです)。

もちろん勝手な想像ですが、ともかく内部統制の不備が全体の決算数字への影響が軽微であったとしても、かりに監査を妨害するようなものであるとすれば、かなり重大な問題ではないかと考えます。法律事務所による調査結果への関心が高まるところです。

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2016年12月 9日 (金)

内部監査部門の強化は不正発見力向上につながるか-その2

今週月曜日(11月5日)の日経法務面では内部監査部門の不正発見力に関する特集記事が組まれていました。そういえば私も今年の8月18日付けエントリーで、内部監査部門強化が不正発見につながるのか?といった問題提起をしておりました。内部監査部門といえば指導的役割が中心であり、現場の不正を発見するような役割がそれほど期待されていないのではないか、もし期待されるのであればいくつかの前提条件が必要ではないか・・・といったこと書きました。

上記日経記事では、最近のコーポレートガバナンス・コードでの要請事項との関係で、不正発見力向上に向けた内部監査部門の底上げに取り組む企業事例が紹介されています。監査役や社外取締役らとの連携によって統制環境の健全化に役立つような体制作りが始まっているそうです。ただ、8月18日のエントリーにコメントいただいた「場末のコンプライアンス」さんが

(リスクアプローチによる効率的な監査を実現するため)には、現場を知る監査、検査部隊が必要であり、米国SECの初代委員長同様、現場の手口を知り尽くしている人間を配置しなければ成果は上がらず、現状のような縦割りで、結果的に内部監査基準に精通した人間のみを養成するような人材育成では、到底難しい話でしょう。

と指摘されているとおり、監査部門を担う方々のスキル、それも個々の監査部門の社員による努力ではなく、全社挙げての内部監査のスキルアップという面にも光をあてる必要があるかと思います。

最近、私が担当した某社の会計不正事件の調査では、経理部門と監査部門との力の差をまざまざと見せつけられました。経理部門は日頃から営業部門とのコミュニケーションをはかっていて、さらにローテーションによって営業を経験している経理社員も存在することから、営業から上がってきた数字をみただけで異常な取引を行っている可能性を感じとっていました。不正・誤謬の初期段階であれば、経理が営業と話をして正しい数字に修正させますので(監査法人に知られることもなく?)何事もなかったかのように不正・誤謬が解消されます。

しかしその会社の監査部門の担当者は、あまり他の部門との交流がなく、ローテーションも活発ではないので「現場感覚が乏しい」というのが実情でした。数字をみても、営業活動の様子が思い浮かばないということから、ヒアリングも実効性が上がらない。たとえば事業部門と経理部門の交渉の末、経理部門のプロの業によって「かなりクロに近いグレー」が「かなりシロに近いグレー」にドレッシングされたとしても、その事実を内部監査部門が把握することはできない、という状況でした。経理部門が不正撲滅に熱心な状況であればよいのですが、役員クラスから「なんとかしろ」と言われると、会計監査人に適正意見をもらうためのストーリーを作る側に回ってしまう。そのような中で、不正を発見すること以前に、不正の兆候に気づくことですら、やはり監査部門が「ノルマに追われている状況にある現場を知る」ことがとても大切ではないかと思いました。

上記の日経記事では「内部監査部門の役割向上のためには独立性強化や専門性向上、非業務執行役員との連携が不可欠」とされています。しかし、それ以前に「内部監査部門は社内で様々な職場を経験する、もしくは事業部門や経理部門とのコミュニケーションによって(トップからのミッションを果たすために必死になっている)現場の感覚を習得する」といったことが必要だと考えます。少なくとも監査部門に経理の経験の長い人を置くだけで、他部門が監査部門を見る目が変わるのではないでしょうか。

 

 

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2016年11月22日 (火)

上場会社「経営者確認書」に込められた社長コミットメントの本気度

本日(11月21日)発売の週刊エコノミストに、「異常な東芝のバイセル取引、旧経営陣不問なら資本市場に禍根」と題する浜田康氏の論稿(3000字)が掲載されています。前にも申し上げたとおり、浜田さんはもうすぐ証券取引等監視委員会の委員に就任されるご予定ですので注目度は抜群ですね。浜田さんの名著「粉飾決算」でも、東芝会計不正事件に対して厳しい指摘をされていましたので、今回の論稿も「米国会計基準違反は明らか」といったご解説を含め、とても参考になりました。

とりわけ金融庁と検察庁との意見対立の諸要因に触れておられ、長銀事件最高裁判決で検察が慎重になるのもわかるが、10年前と現在とでは、資本市場を取り巻く環境変化は極めて重要であり、司法が長銀事件の判断をそのまま東芝事件に持ち込むことは不適切だと述べておられます。その理由とするところは上記エコノミスト誌をお読みいただくとして、私も浜田さんが指摘されるように、10年前と今とでは社会情勢が異なる、資本市場の健全性確保の要請は高い、という点は全く同感です。ただ、司法判断を立件の方向へ変えるためには、資本市場を取り巻く環境が変わったということだけでなく、もう少し越えるべきハードルがあるように感じるのです。

たとえば「会計基準と罪刑法定主義(憲法31条)との関係」です。刑事立件のためには、会計事実が存在しないにもかかわらず存在するかのような表示がされている場合であれば「公正なる会計慣行違反」ですんなりいきます。しかし、会計事実はあるけれども、その会計処理に問題がある場合、つまり「会計慣行」自体を問題とする場合は別途検討が必要です。金商法が米国会計基準にお墨付きを付与している(日本国内で使ってもよいとする権原を付与する)ことはわかるのですが、では米国会計基準が日本の刑事処分を下すための法令と同等の正当性が認められるためには、どうしても「罪刑法定主義」との関係をクリアする必要があります。

そこで、米国会計基準(の解釈指針)は法と同等の慣行性、周知性は認められるのか、またその慣行性や周知性があることを実行者は認識していたのかどうか、PC取引の取引不正だけで、東芝全体の業績に対して投資家の判断を誤らせるだけの重要性があるか、またそのことを実行者が認識していたかどうか、そしてその実行者は旧経営陣との間で、このような事実を共有していたかどうか、といった点です。また「同業他社では同じようなことが慣行としてされていなかったのか』という点も、可罰的違法性や故意を論じるにあたっては重要になってくると思います。

もう一点、いつも会計専門職の方々とお話をしていて、法律家と会計専門職との間で認識の差があるように感じるのが「経営者確認書」の持つ意味です。監査法人さんは、経営者が「間違いありません」と財務報告の作成責任にコミットするからこそ適正意見を出すわけです。したがって、この経営者確認書はとても重視されます(受託者責任を尽くすという意味でも重要視されますよね)。しかし法律家はかなり形式的なものだと理解しているのではないでしょうか。たとえば手術の前に、患者さんは「どんな事態になっても私は文句を言いません」という同意書を提出しますが、ミスが発生すれば普通に損害賠償請求権を行使することはあたりまえです。あくまでも「それくらいの気持ちで財務諸表を作成しました」といったものではないかと。金商法上の内部統制報告制度には独自の開示規制(民事上及び刑事上)が条文化されているにもかかわらず、この10年間一度も問題にされたことがないのも、おそらく同様の理由からだと思います。

私も「10年前とは保護法益に関する社会的評価が大きく変わったのです」と言って司法判断の変容に期待したいのですが、どうしてもこのあたりをクリアしなければ最高裁を説得することはむずかしいように感じています。また、私なりの「ではそうすればよいか?」といった解決策は別途、講演等で述べたいと思います。

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2016年10月10日 (月)

東芝会計不正事件-歴代社長立件にはいくつかの壁がある

10月9日の毎日新聞朝刊(社会面)に、「東芝不正会計問題 元PC責任者から聴取 監視委、3社長の指示確認」との見出しで、カンパニー部門の元社長の方が、金融庁から任意で聴取を受けたことが報じられていました(有償版ですが、ネットニュース記事はこちらです)。証券取引等監視委員会の委員長が12月で退任されるようですので(次は元広島高検検事の方のようです)、委員長最後の大仕事として金融庁は組織として気合いが入っているとの風評が聞こえてきますね。しかし、気合いが入る真の理由は、やはり金融行政のグローバルな連携が深まる中で、「エンロンではあれだけ経営者が厳罰を受けたのに、東芝では誰もお咎めなしということはおかしいのではないか」といった海外からの批判が高まっているからだと私は思います

金融庁の積極的な対応とは裏腹に、上記毎日新聞記事でも解説されているように、検察庁はいまだ東芝歴代トップの方々の立件には消極的なようで、刑事責任を問えるかどうかは流動的のようです。まずなんといっても8年ほど前に検察が敗れた長銀事件最高裁判決の存在は大きいと考えます。長銀事件の最高裁では、やはり多くの裁判官が「絶対的真実主義」を重視して有価証券報告書虚偽記載罪の構成要件を解釈しています。検察出身の古田裁判官だけが唯一「相対的真実主義」を加味して有価証券報告書の虚偽性を判断せよ、といった補足意見を述べておられましたが、おそらくこのあたりが検察庁が及び腰になる一因ではないかと思います。財務報告の視点による東芝社PC取引の見方は、法律家が得意な絶対的真実主義と、会計士が得意な相対的真実主義のどちらを根底におくかで大きく異なるはずです(このあたりを詳しくお知りになりたい方は、初版2013年の拙著「法の世界からみた『会計監査』」をお読みいただければと)。

さらに、今年法案が成立した改正刑事訴訟法における「司法取引」は未だ施行されていませんので、検察による経済事件の立件には、いわゆる「積み上げ捜査」手法が採用されるのが原則です。つまり、歴代の3人の社長さんを立件したいのであれば、その下のカンパニー幹部の方々の身柄も拘束して、事実上の不起訴合意をとりつけたうえで、検察官面前調書を作成することになると思います。そして歴代トップの方々による「プレッシャー」はあったにせよ、カンパニー社長さん方の犯罪事実を確定するわけですが、その際に気になるのが財務アドバイザー(監査法人)の存在です。たしか東芝事件では会計監査人のほかに、アドバイザー業務を提供していた大手監査法人さんがおられた(ように報じられている)わけですが、おそらくカンパニーとの間で、綿密なコミュニケーションが重ねられていたはずです。そうなりますと、歴代トップの方々を立件する際にはカンパニー社長さん方の犯罪に、監査法人も加担していたようにも受け取られかねず、そのあたりの取扱いは大いに悩ましいところではないでしょうか。

そしてもう一つ気になりますのが、金融庁による立件手法に対する検察庁の信頼感ではないかと。先日、東京電力株式のインサイダー取引を巡り、金融庁の法的解釈を覆す司法判断が二つ出ました(情報提供者が勤め先証券会社から解雇処分を受けたのですが、重要事実の伝達にはあたらないとして解雇処分を無効とした判決、そして情報受領者が、金融庁から課徴金処分を受けたのですが、この金融庁の処分が取り消された判決です。新聞にも掲載されていました)。行政処分である課徴金は、その迅速性や柔軟性が持ち味だとは思うのですが、やはり司法相手でガチンコ勝負となりますと、(インサイダー取引を規制する条文の構成が非常に複雑なだけに)事実認定を裏付ける証拠に甘さが残るわけでして、このあたりが検察庁からいま一つ信頼を置かれない要因ではないかと推測いたします(なお、この点は未だ私の「仮説」にすぎませんので、今後は検証が必要になります)。

いずれにしましても、やはり相対的真実主義の考え方を基本として会計処理方法の虚偽性を問うことには大きな壁があるようです。平成17年の会社法改正で、会計帳簿の適時性、正確性が初めて条文化されたわけですから、私は現行法上は過料(行政罰)とされている会計帳簿の虚偽記載を刑事罰化すべきだと考えます(もちろん「納税以外に記帳する意味などない」とおっしゃる中小事業者の方々による反対はあると思いますが)。有価証券報告書や計算書類になる前の会計帳簿の記帳を問題にすることができれば、粉飾事件に対する検察庁の壁はかなり低くなるのではないかと思うのですが。

最後に、検察庁の消極論が現状のままだと、他の上場会社にとって危惧される点があります。エンロン事件以来、アメリカでは役員に対する厳罰化によって、大きな会計不正事件が起きていなことが評価されつつありますので、米国SOX法のような厳罰主義の規制が、日本のすべての上場会社の役員に適用される時代が到来するかもしれません。おそらく上場会社の役員の方々にとってみれば、東芝事件の歴代トップの方々が立件されるほうが胸をなでおろすことになるかもしれませんね。

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2016年8月30日 (火)

社内アンケート調査の「自由記述欄」は不正発見の端緒となりうるか?

さて、昨日に引き続き、先週の日本監査役協会長浜合宿における某監査役さんとの懇親会で盛り上がった話題をひとつご紹介します。

三菱自動車工業燃費不正事件に関する第三者委員会報告書にて、燃費不正を早期に発見する余地があったとして、社内アンケートに関する同社の不十分と思われる調査内容が紹介され、マスコミでも話題になりました。自由記述欄に「虚偽記載」を疑わせる内容が記載されたものの、一通りの調査で「不正事実は存在しなかった」と結論つけたことについて、「なぜコンプライアンス部門が中心になって調査をしなかったのか、開発部門に調査を丸投げしてしまえば、自部門の不正など隠すに決まっているではないか」といった論調が目立ちました。

本件について、某社の監査役さんが、「うちの会社でもコンプライアンス調査のために全社員アンケートを実施しているが、よほど不正疑惑が明確になっていない限り自由記述欄は見落としてしまいがち。うちの会社はまじめな会社であり、不正なんて起きないといったバイアスが働くから、どうしてもビッグデータ処理によるリスク・アプローチのほうに注意が向いてしまうのですよ。なんか三菱さんの件は、(それほど熱心に調査をしなかったことについて)わかる気がします」とのこと。そういえば、私も「自由記述欄」というのは、アンケートに回答した社員の労務上の不平不満が書かれていることが多いためか、ここに不正の兆候が潜んでるという意識は、よほど懐疑心を発揮しなければ見落としてしまうことが多いように感じています(もちろん専門家としてやってはいけないミスですが)。

先日、コンプライアンス対応で著名な同業者の方と食事をしたとき、第三者委員会における社内アンケートの極意についてお聞きしました。この「自由記述欄」に社員が告発したくなるような工夫を施すことがとても大事とのことでした(ここではその工夫について書くことは控えます)。どのように自由記述欄を活用すれば、社員が告発する気になってくれるか・・・というところがアンケートの勝負ドコロだそうです。

しかし、これは実際に企業不祥事が発覚した直後の社内アンケート調査ですし、当然のことながら第三者委員会の委員に高い懐疑心が存在するからこそ有効であって、平時のアンケート調査の場面とは相当異なる状況にあると考えられます。有事ではなく、平時から「高い職業的懐疑心」を持つことは、監査役さんや内部監査部門には要求されるところですが、実際にはなかなか困難なのですね。「ハイ、きちんとアンケート調査もやりましたよ」と、監査手続きを履行すること自体に関心が向けられているわけです。毎度申し上げるところではありますが、「オオカミ少年」を社内で許容する組織風土がなければ「職業的懐疑心」自体が組織で成り立たない気もいたします。

ちなみに本日(8月29日)、デロイトトーマツさんが、内部通報制度の運用に関する調査結果を公表されており、3分の2の企業で外部に通報窓口を設置しているものの、年間通報受理件数が10件未満の会社は72%に上るそうです(デロイトさんの調査結果はこちら)。通報制度に関心の高い企業ですら、事実上は内部通報制度が十分には機能していないのが実態です。この結果をみるに、通報窓口担当者が通報者の秘密を保持しうるスキルを磨くことと同時に(実務をみていて、これは最も重要!)、「内部通報制度」を機能させる組織風土を、時間をかけて形成する努力が必要だと再認識するところですね。

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2016年4月22日 (金)

厳格な監査の前提となる「オオカミ少年監査」を考える

(4月22日午前 追記あり)

竹野内豊さんと松雪泰子さんが共演する企業法務モノ弁護士ドラマが始まりました。どなたが法律監修をされていらっしゃるのかは存じ上げませんが、いやいやリアルです。東京駅近くに拠点を構える(?)大手法律事務所の先生方にぜひともご覧いただきたい!(タイムチャージの相場やアソシエイト弁護士の訴訟対応についてのご感想もお聞きしたい!)と感じたのは私だけでしょうか?(いや、別に嫌味でもなんでもございませんが・・・)

さて、7月から日本公認会計士協会の会長に就任される方のインタビュー記事によると、企業の会計監査を担当する会計士に不正事例の研修を義務付けられるそうですね(4月19日日経新聞朝刊より)。このたびの東芝事件による会計士の信用不安に対する対応のひとつですが、十分な監査時間の確保、監査報酬の引き上げ等に対する企業の理解を得る目的もあるのかもしれません(なお、次期会長さんの19日毎日新聞インタビュー記事のほうでは、とても共感できる提言をされており、また別のエントリーで話題にさせていただきたいと思います)。ちなみに4月1日の日経新聞では、監査法人が外部の目を採用して厳格監査に励む、との紹介記事もありました。

監査法人や監査役さん方が、会計不正に厳格な姿勢で取り組むことは素晴らしいと思いますが、いつも監査役さんや監査法人さんの危機対応を間近でみている立場からすれば、どうか「オオカミ少年」になることを怖がらないでください!と申し上げたい(これはもちろん自戒を込めて、そう強調したいところです)。会計不正など、会社側が本気で隠した場合には、平面図ではわかるはずもなく、時間軸を持った立体図で(たとえば3期分を比較して)ようやく不正の疑惑に気付くのが通常の経過ではないかと。しかも「疑惑」が「投資行動に影響を及ぼしうるほどの重要性のある会計不正」と確信できることは稀です。

したがって、監査役さんや監査法人さんが「これは不正ではないか?」と声を上げるにあたっては、10回中7回は「グレーだが不正は認定できなかった」との結論に至り、「あの監査役、あの監査法人はオオカミ少年だ!いいかげんなことばっかり言いやがって、何を考えているんだ」と会社側から批判され、情報を遮断される、契約を解消される、法人の信用を落とす、といったリスクも覚悟しなければならないと考えます。それが嫌であれば、疑惑を見つけても声を上げることもせず、勇気のない自分を「時間がない」といった理由で慰めながら不正を見逃してしまうリスクを甘受すべきです。そして内部告発や金融庁からの要請が先行するような、誰がみてもおかしな会計不正、今自分たちが「おかしい」と声をあげないと今度は自分たちが法的リスクを抱えてしまうと思われる会計不正だけに手を上げる・・・といった状況に甘んじることになり、今後も東芝事件はときどき繰り返されることになります。

結局のところ、私は監査法人さんや監査役さんが「オオカミ少年」と呼ばれることを覚悟しなければ、今以上の厳格な会計監査は困難だと思います。もちろんフォレンジック調査を導入し、個々の会計士のスキルを磨き、監査法人さんの品質を向上させることで、このオオカミ少年リスクを低減させることはできるでしょう。しかし最後は個々の監査人が不正の有無を判断するのですから、オオカミ少年リスクがなくなることはありません。それどころか、最近は監査法人が「不正疑惑」を指摘した場合には、(ご承知の方も多いと思いますが)法律事務所が会社側について「もしそちらの主張を通して当社が上場廃止になった場合、貴法人はどのように責任をとるつもりなのか」といった質問を繰り返し、また大手監査法人のコンサルタントチームが会社側をバックアップして会計処理の適正性を主張する、といった事態が増えることは間違いありません。そのような状況のなかで、監査法人さんは(追加報酬請求の拒絶や契約解消の意思表明におびえながらも)不正疑惑を解明する姿勢を示さなければならないのです。

それでも監査法人側が「不正と闘う」意思を明確に示しうるためには、「不正あり」と声を上げたにもかかわらず、不正の認定はできなかったということが上場企業の監査一般に「普通にありうる」といった土壌を形成する必要があります。監査基準委員会報告書240、同250あたりを活用して、会計監査を担当する監査法人の意見形成に関与できる法律家を増やす努力も必要かもしれません。もしくは、「それではあまりにも市場を混乱させてしまうことになり、弊害が大きい」といった意見が強いのであれば、そもそも不正の有無にかかわらず、会計不正を発生させる危険性の高い内部統制の不備をきちんと情報開示できるJ-SOXの運用を市場で形成する、といった方策も考えられます。3年ほど前に、J-SOXの効率性を上げるための法改正はなされましたが、未だに有効性を上げるための法改正はなされていません。本当に不正会計を許さない会計監査を目指すのであれば、監査法人さんや監査役さんが「おかしい」とか「取締役会(統制環境)に不備がある」といった声を上げやすい監査環境を早期に構築する必要があると思います。

(追記)

本文とは関係ありませんが、監査法人の国際監督機関IFIARの本部事務局が東京に設置されるとのこと、まことにおめでとうございます。やはり大手町のフィナンシャルタワーに設置されるのでしょうか?苦節5年?会計教育研修機構さん等、会計監査関係者の皆様方ががんばってきた甲斐があったのではないかと。

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2016年3月13日 (日)

会計不正-監査法人規制の先に垣間見える事後規制について

Img_0471先日、こちらのエントリー(粉飾決算の不正)にて浜田康先生の新刊をご紹介しましたが、その浜田先生のご著書の中で、「衝撃的ともいえる感銘を受けた」とされる本の序文が引用されていました。その本(左写真の古書)をなんとかアマゾンで取り寄せまして、週末、(まだ3分の1程度ですが)一生懸命に読んでおります。いや、もう読み始めたら止まらないほどワクワクする一冊でして、3年前に出版した「法の世界からみた会計監査」を執筆する前に、なぜこの本の存在を知らなかったのか・・・と思うと後悔と反省しきりです(同じ同文館出版なので、編集者の方が教えてくれてもよかったと思うのですが・・・笑)。

本書は、執筆当時の河井検事が数多くの疑獄事件を手がける中で「異常な興味と関心をもって研究を続けた」成果とご自身で紹介されています。まさに法と会計の狭間に横たわる会計粉飾事件の解決に責任を持つ立場の方だからこそ本書を書きあげられたものと推察します。4年ほど前に、こちらのエントリー(公正なる会計慣行と古田最高裁判事の補足意見)でも申し上げましたが、長銀事件最高裁判決をテーマとしたシンポにおいて、「なぜ公認会計士や会計学者の方々は、検察官出身の古田最高裁判事の補足意見を絶賛するのか」といった疑問も、検察官ご出身の河井先生の本著を読んでナットクした次第です。やはり「粉飾摘発の歴史」を知ることは重要です。

会計上の粉飾と法律上の責任(三訂版) 河井信太郎著 同文館出版 1975年 3,800円)

500頁を超える力作です。本の内容を詳細にご紹介するようりも、上記浜田先生も引用されておられる序文(初版のはしがき)をご紹介したほうがよいと思います。

一般に簿記や会計を専攻したものは、法律に暗く、逆に法律を専攻したものにとっては、簿記、会計の素養は薄いにもかかわらず、企業会計における個々の会計処理は殆どすべて法律上の効果を生ずる問題である。まことに会計の実務は簿記、会計と民、商、刑事法や証取法、税法等の交錯する谷間に発生する問題の解決にある感が深い。本書は、この点の問題点を捉えて、解明を試みたもので、会計の実務に携わる人にとっては転ばぬ先の一本の杖として、同学の士に対しては問題点提起の意味において、多少とも参考となれば、私の望外の喜びである。思うに、資本主義経済の健全育成はその病根を発見して、これを解明することにあると確信する。この病根の基盤をなすものは会計上の粉飾であり、これを解明するものは、法律上の責任の追及である

私の手元に届いたのは三訂版でして、河井先生が広島高裁検事長に就任されていたころのものですが、初版は昭和39年(1964年)に出版されていますので、河井先生が東京地検特捜部の部長だったころに執筆されたものです(特捜部長という立場でこのような大作をよくお書きになれたものだと驚きます)。

もちろん50年前と現在とでは会計や監査を取り巻く環境が違いますし、また関連法令も変わっております。しかし大きな粉飾事件が発生して、監査法人は何をしているんだ!監査役はどうしたんだ!もっと規制を厳しくしろ!といった社会的批判が渦巻く中で、期待ギャップに悩みながら市場の健全性確保、債権者保護のために関係者が尽力されているのは全く現在と変わらないことがわかります。

ただ本書は一貫して「監査役など、社長の息のかかった人間が選任されているので何の役にも立たない。会計監査人による監査でも限界がある。そもそも経営者に迎合する監査法人は商売繁盛となり、良心的な監査を行う法人は閑古鳥が鳴くであろう。だからこそ最後は法律の出番なのだ」といった持論が展開されていますので、そのあたりは会計実務に携わる方々には少し異論のあるところかもしれません。

間もなく公表される金融審議会ディスクロージャー・ワーキンググループの報告書や、すでに公表されている会計監査のあり方に関する懇談会取りまとめ報告書、経産省「企業と投資家の対話促進委員会報告書」等で論点とされている事項の理解にも有益な一冊です。

また河井先生が提言されている①弁護士法23条による照会制度に匹敵する日本公認会計士協会による照会制度や②会社法上では行政罰として規定されている株式会社の計算書類等の記帳義務違反の刑事罰化といったことも、未だ実現はされていませんが、今後の法改正の課題になるのではないでしょうか。いや、おそらく東芝事件を契機とする会計監査制度に対する新たな規制手法の実効性が認められない場合には、今度こそ事後規制としての会計監査に対する司法の積極的介入が真剣に検討されるようになるものと確信しています(IFRS全盛の時代となればなるほど、会計基準の解釈に経営者自身による見積り、価値評価が重視されればされるほど、最終的には司法権による会計制度への介入が真剣に検討されるはずです)。

本書では1964年当時に河井先生が執筆されたもう一冊「経理不正と法律上の責任」についてもしばしば言及されておられるので、そちらも取り寄せました。また読み終えましたらご紹介したいと思います。

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