2005年9月29日 (木)

LLP(有限責任事業組合)研修会

関西では初めて、ということですが、日本公認会計士協会近畿会、大阪弁護士会、日本弁理士会近畿支部合同によるLLP,LLC制度研修会が開催されましたので、さっそく夕方から参加させていただきました。(ちなみに、LLPとは今年8月より施行されております「有限責任事業組合」のことです。)講師の先生は、いまや「LLPの伝道師として全国行脚されていらっしゃる」(?)経済産業省経済産業政策局のの石井芳明課長補佐ということでして、石井氏の商事法務、金融法務事情等の論稿なども予習しまして、気合十分で参上いたしました。会場は超満員、別ホールで急遽ライブ中継開催。さすが、士業オンリーの研修会向けにアレンジされており、講演短め、質疑応答長め、といった時間設定。その講演内容につきましては、基本的にはほぼ金融法務事情の石井氏の論文のうち、1746号(2005年8月合併号)で記載されているものに尽きるようでしたが、「職務発明の、LLPへの実施権帰属の可否」から始まり、やはり予想通り各士業からの質問攻めとなり、あっという間に制限時間、最後は質問打ち切りまで相成りました。(この様子を収録したものがDVDで公認会計士協会近畿会より販売されるそうです。ご興味のある方は一度、ご確認されてはいかがでしょうか)

しかし、研修というのもナマで参加するのも有意義ですね。いろいろと参考になる話をお聞きしましたが、こんな私でも印象に残った点が2点ございました。
ひとつめは、LLPの立ち上げ、運営の要件のなかに、「共同事業要件」というものがあります。いちおう債権者保護の観点から、LLPの構成員は事業上の意思決定と業務執行への全員参加が義務付けられています。この要件は準則主義、形式主義によって「要件該当性」が判断されますから、立ち上げについてはあまり問題ではないのですが、「運営の要件」(つまり継続性が必要)でもあるわけです。当然のことながら、LLPは小さな規模の団体や「入相所帯」の団体に利用されるケースが多いわけですから、LLPの運営は人間関係や団体同士の「山あり谷あり」ですよね。そうしますと、団体運営の途中でLLPの存在要件を満たさない可能性が出てくるわけです。あれ?ということはいつのまにかLLPは要件の該当性が欠けた段階で消えてしまうんでしょうかね?

「登記があるから、法主体は継続的に認められるじゃないか」では無理のようです。今回のLLPの登記は権利の主体性を認めている(つまり法人主体を認めている)わけではありません。たしかに、組合契約登記には、相手の悪意を擬制する効力(つまり、お前は有限責任の団体と知って、取引したんだから、いまごろ無限責任を追及するのはおかしいぞ、といえる効力)はありますが、これも「運用の途中で要件該当性」がなくなってしまえば、その時点から先に取引を開始した第三者との関係では「虚偽登記」になっちゃいますから、擬制の効力すら否定されてしまいます。
これって、考えてみると非常に怖くないですか?有限責任組合だと思って行動していた組合員でも、ちょっと中身がおかしくなると「無限責任」を問われる可能性が出てくる、ということですよね。(もちろん、どこまでの活動にさかのぼって無限責任を問われるか、という問題は残りますが)普通、こういった疑問が生じた場合には、すでに80万ものLLPを有するアメリカの法律解釈を参考にして解決すればよさそうだと思うんですが、この「共同事業要件」というのは、いわば経済産業省と財務省(課税関係)との妥協の産物、という性質をもつ要件とのことで、簡単に答えがみつかるようにも思えないんです。もし、これが弱点だとするならば、LLPと取引をする債権者側代理人からすれば、「共同事業性」というひじょうに曖昧な要件にターゲットをしぼって、その法主体性の欠如を主張し(つまり有限責任のメリットを否認して)、もっともお金をもっている組合員を被告として組合債権(このような事態になった以上、「組合債権」ということもできないかもしれませんが)全額の回収を図る、ということが検討できそうです。(もし、この問題が解決済で、「この本のここに書いてありますよ」というご指摘がございましたら、どうか教えてください)

もうひとつは、LLPが所有する不動産の登記方法でした。(分割禁止特約条項を利用したLLP財産の対抗要件)中身は講演著作権との関係でお話できませんが、法務省課長補佐と石井氏との「綱引き」のなかで、法務省、経済産業省いずれの既成の縄張りをも崩すことなく、あみだされた便法誕生の経緯なんですが、「うわあ、やっぱり官僚って頭いい!」とえらく感動いたしました。(と同時に、こんな妙案を考え出す人たちがゴロゴロしてるんだから既成の縄張りというのは崩れないんだ、と納得もいたしました)また、そういった問題解決への糸口をつかむ方法論のようなものも、実際に聞いてみないとわからないもんだ、と「得した気分」になりました。

東京の人にとっては、このような研修会って、参加できる機会が多いんでしょうね。やはりうらやましいです。それから、「マジック1」となった今、「もし明日この研修会が開催される予定だったら、参加者はどうなっていたんだろう・・・・」などと、いまさらながら、主催者でなくとも胸をなでおろしていたところであります。

三会をおまとめいただいた日本公認会計士協会近畿会のみなさま、そして石井様、本当にきょうはありがとうございました。

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