退任する会計監査人の意見表明と「監査人の独立性」
本日(5月18日)は被災地支援特別講演に多数ご参集いただきまして、本当にありがとうございました<m(__)m>定員(30名)を超えて31名の方にご参加いただき、155,000円の参加費用を頂戴いたしました。これに、私の分(ただし、寄付控除の関係で別途振り込みですが-笑)を合わせまして、全額を日本赤十字社を通じて東日本大震災の義援金とさせていただきます。大分、高知、名古屋など、はるばる遠方からお越しの方もいらっしゃいまして、たった2時間ばかりでしたが、一生懸命「パワハラ対応と企業のリスク管理」についてお話させていただきました。終了後も、皆さま方からのご質問にお答えしておりましたので、すべて終了したのは2時間40分後、ということでした。なにぶん事務所の手弁当で企画いたしましたので、少々不手際もございましたが、このたびの解説が少しでも企業や従業員の皆様の実務に参考になれば幸いでございます。
さて、原発やユッケ食中毒事件の話題をとりあげておりました関係で、ここのところ当ブログにふさわしくないアクセス数となっておりましたが、今日の話題はやっと平時のアクセス数に戻るべく(笑)、当ブログらしいマニアックな時事ネタであります。もう完全に出遅れ感のある話題ですが、東証2部のマーベラスエンターテイメント社の5月10日付け「会計監査人の変更に関するお知らせ」が会計やディスクロージャー専門家の方々のブログで取り上げられております。私も思わず、退任会計監査人の意見欄を読み、驚きの声をあげそうになってしまいました。
マーベラス社の合併におきまして、合併当事会社のそれぞれの会計監査人(A監査法人とS監査法人)に対して合併後の監査報酬の見積もり依頼があり、結局A監査法人が選任されることになったわけでありますが、S監査法人はマーベラス社の会計監査人退任にあたり、自分たちは純増するこれからの作業量に合った見積もり金額を出した、それは当然に現在の報酬額よりも低くなるわけがなく、作業に見合った加算額を提示した。にもかかわらず、A監査法人は我々の提示額を「大きく下回る」金額を提示したので、これを了承した、という書きっぷり。(選任会計監査人の意見欄などがもしあったら、どんなことが書かれていたのでしょうか)読んだ瞬間、日本を代表するS監査法人が、これまた日本有数の(最近とても元気な)A監査法人にケンカを売っているのではないか、と思ってしまいました。
たしか「退任会計監査人の意見欄」が新設された趣旨は、会計監査人の異動において、その独立性が脅かされることを防止するためだったと理解しております。そして、被監査会社側の「監査人異動に至った理由、経緯」の記載が不十分もしくは真実ではない場合には、世間一般に被監査会社の恣意的な監査人変更要請を会計監査人が甘んじて受けたように疑われてしまうので、今回の場合S監査法人は「A監査法人とS監査法人の監査の品質を比較されたうえでS監査法人が選任されなかったのではなく、あくまでも監査報酬で折り合いがつかなかったためである」ことを明確にしておこう、という趣旨で意見付記されたものと推測いたします。
つまり、S監査法人としては、自法人だけでなくA監査法人の名誉のためにも、我々は決してマーベラス社および合併当事会社の「都合のいい監査をする法人」に成り下がったものではなく、あくまでもマーベラス社側が監査報酬をケチろうとしたことが原因でこういった結果になったのだ、ということを世間に公表したかったのだろう、と推測いたします。たとえば、あずさ監査法人から監査法人トーマツに会計監査人を変更した日本ルツボ社のリリース場合、変更理由のところで正直に「昨今の業績からみたら、なんとか監査費用を低くしないとやっていけない、そこで他のところに見積もりを出したら、トーマツさんが安くしてくれる、といってくれたので、そっちにします」と書いておられます。マーベラスさんが、こういった書き方をしてくれていたら、S法人の意見付記はなかったのではないかと。
普通、合併存続会社側の監査法人が、そのまま継続して監査にあたる、ということですから、S監査法人側もそのつもりで見積もりを出したのかもしれませんが、そのあたり「ぬかり」があったのでしょうか?また、マーベラス社の株式をめぐって、2008年4月にS監査法人の会計士さんがインサイダー取引で課徴金処分を受けた(懲戒処分も)、といった事情もありましたので、そのあたりのイメージを払しょくする目的もあったのかもしれません。いずれにしましても、「退任監査人の意見付記」の話題から離れて、大手監査法人の間で、「大きく下回る」ほど、そんなに監査報酬って違うというのは少々ビックリネタであります。監査法人の品質管理には、個々の会計士の監査レベルの維持と、監査法人全体としての監査レベルの維持の二つの「品質」が問題となるわけですが、ふたつの監査法人の品質にそれほど大きな差があるとは思えないわけでして、そうなりますと、監査上のリスク・アプローチからみて、どれだけの作業量を監査に要するのか?というあたりの見解の差ではないかと思われます。しかし、A監査法人さんは、存続会社のガバナンスを知らないわけでして、むしろ監査リスクを高めに設定するのが通常ではないかと(素人的には)思うのでありますが、そのあたりはどうなんでしょうか?
オピニオンショッピングの世界ならまだしも、大手監査法人の間で「損して得取れ」のような営業姿勢があるとは思いたくないのがホンネのところであります。監査報酬に大きな差があるとすれば、それは格調高い「監査に対する思想信条」の違いである、といったお話があってほしいと願うところです。監査に携わる会計士の先生方は、たぶん触れたがらない話題だと思いますので(笑)、あまりコメントはつきそうにないのでありますが、個人的にはとても関心のある話題であります。(どちらの監査法人にもお世話になっておりながら、オバハンネタのように書いてしまいました・・・・失礼)
| 固定リンク | コメント (17) | トラックバック (0)