2017年8月16日 (水)

監査報告書の透明化(長文化)に監査役等はどう向き合うか?

旬刊商事法務の最新号(8月5日、15日合併号)の巻頭座談会は「会計監査の実効性確保と監査役の役割」というテーマでして、かなり長いのですが当該特集記事を一気に拝読いたしました。学者(弥永教授)、企業実務家(三井物産常勤監査役)、会計実務家(あずさ監査法人の会計士)に司会が弁護士・公認会計士の資格を保有された方の合計4名の座談会です。不正リスク対応基準、会社法改正、CGコード、監査法人版ガバナンス・コードといった制度改正の流れの中で、「監査役と会計監査人の連携」がどう変わってきたか、変わるべきか、といった論点について語り合うというもので、「監査のいま」を確認するためにとても有益でした。

ただ、長い対談の中で、私的に一番関心を抱いたのは、タイトルのとおり「監査報告書の透明化(長文化)に監査役はいかに対応すべきか」といった、「監査のこれから」の課題についての議論でした。金商法上の制度と会社法上の制度という、大きな違いはありますが、私自身も監査報告書の長文化が施行されますと、監査役制度には大きな影響が出るものと考えていましたので、やはりご専門家の方々も同様に感じておられることに少し安堵いたしました。ただ、監査役や会計監査人の法的責任を論じることで、「長文化、透明化といっても、結局は金太郎飴の文章が無難ではないか」といった議論に進展してしまい、制度の趣旨が没却されてしまうおそれもありそうで、注意が必要かもしれません。

今回のテーマが「会計監査の実効性確保・・・」ということなので、ターゲットは大規模上場会社の監査役等の方々ということになりそうです。監査役等と会計監査人がいかにコミュニケーションを図るか、という課題はもうずいぶん長い間議論されてきましたが、あまり世間の話題にはなりません。たとえば東芝とPwCあらた監査法人との「意見不表明」「結論不表明」の話題はとても大きく報じれましたが、東芝の監査委員会とPwCとの間でどのようなやりとりがあったのかはあまり報じられませんでした(記者会見の様子をみると、監査委員会はほぼ会社の利益を代弁していたかのように映りました)。もし、監査報告書の長文化と監査役等の関与が制度化された場合には、もう少し平時からのリスク管理が見える化される(その結果として有事には証拠化される)ことになるでしょうね。

コミュニケーションの取り方について、三井物産常勤監査役の方が「どんな情報が欲しいのかは、自分からこれが欲しいと言わなければ相手はわからない。相手に提供すべき情報も同じである」とおっしゃるのはまことにその通りかと。私も非上場会社ではありますが、監査役として、会計監査人との意見交換ではギブ&テイクに徹するようにしています(その際、経営執行部の行動を客観的に評価する姿勢は不可欠です)。できれば「業務監査」の課題が「会計監査」にどのような影響を及ぼすのか、そのあたりも説明するようにしています。そのためには監査役にも会計的知見が求められますし、会計監査人にも業務監査の知見が求められます。来るべき監査報告書の長文化の時代に備えて、いまから会計監査人と監査役等との適切なコミュニケーションの取り方を習慣とする必要がありそうですね。

8月 16, 2017 監査役の理想と現実 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年7月26日 (水)

JALの公募増資手続きにNOを突き付けた監査役の方々

日経朝刊「出光、合併への賭け(上)」で、さっそく出光さんが公募増資に動いた内幕が描かれています。7月4日付けエントリーで私が想定したシナリオにかなり近いものだったようです。定時株主総会における現経営陣への賛成票比率を知って「これならいける!」って、それじゃやっぱり公募増資とはいえ実質は「第三者割当」と同じような気もしますが・・・(^^; ただ出光事件の内幕といえば雑誌「選択」7月号が一番核心に迫っていますよね(創業家側のキーマンとされる方がやはり別にいらっしゃるわけでして。今朝の日経記事も、この「選択」記事を事前に読んでおりますと、経営陣の覚悟や相談役の退任の経緯等、すんなりと頭に入ります)。

さて、出光興産公募増資事例に関する裁判所の判断については、今後いろいろと法律家の方々による意見が出てくると思うのですが、実は(ご承知の方もいらっしゃると思いますが)公募増資に対する差止仮処分が争われた事例というのは過去にも2006年の日航による公募増資事例がありますね。ただ、支配権争いの局面ではなく、既存株主の持ち分希薄化が問題とされた事例です。

一般株主が申立人(債権者)となって、日航さんの公募増資の差止を仮処分として争ったのですが、(新株発行の権限を取締役会に認めている会社法の下では)38%の希薄化は会社法が予定している株主の不利益の範囲内であって、被保全権利は認められないとして却下されました。ただ、この裁判では、そもそも公募増資を決議した取締役会に手続き違反があることも申立人が主張したそうですが、これも差止の理由にはならないとされたそうです(詳細な決定理由はわかりませんが・・・)。

ところで、この日航さんの公募増資を決定した取締役会の手続きは「大いに問題だ」と主張しておられたのが当時の日航の監査役であった3名の方々でした(日経ビジネス「JAL増資手続きは非常に問題」)。経営陣は2006年6月、臨時取締役会開催日に監査役に招集の連絡を入れ、電話では「議題については言えない」とのことで、結局は監査役3名とも欠席のまま公募増資が決まったそうです。次の取締役会では、監査役3名が連名で抗議文を社長に提出したとのこと。

監査役全員に(すでに決まている)取締役会の議題も伝えることなく、開催当日の朝に招集して事実上欠席を余儀なくさせるというのは、いくら監査役に議決権がないとしても、果たして「取締役会の決議の効力に影響を及ぼさない軽微な瑕疵」と言えるのでしょうかね?これでは監査役が善管注意義務を果たすことを事実上不可能にしてしまっているわけで、最近の取締役会改革(モニタリングモデル、監督機能の発揮)の流れからすると、招集通知の不発送に匹敵するほどの手続き違背があるように思います。このような内幕をマスコミに堂々と公表する監査役の気持ちも理解できます。

ただ、これだけ明確な監査役の意思を社長やマスコミに示すことができるのも、この監査役の方々が、経済団体の元会長さんだったり、メガバンクの元頭取さん、巨大企業の元社長さんだったりしたからでしょうね(やはり経営経験からくる自信、プライドはすごいなぁと)。社長OBの方々が相談役ではなく、他社の社外役員に就任すべきと言われていますが、このようなモノ言う監査役さんがたくさん登場するのでしたら、これはこれで歓迎すべきかもしれませんね。

 

7月 26, 2017 監査役の理想と現実 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年11月30日 (水)

ガバナンス・コードは「監査役会の実効性評価と概要開示」を要請すべきではないか

企業の情報管理に大きな影響を及ぼしそうな最高裁決定が出たようですね(たとえば毎日新聞ニュースはこちら)。当ブログでもかつて金商法166条の解釈問題として取り上げた事件に関する上告審です(2013年のブログエントリーーはこちらです)。近時、フェア・ディスクロージャー・ルールの取り扱いなども議論されていますので、企業の情報開示に向けた取り組みは要注意ですね。

さてここからが本題ですが、GPIFの最高投資責任者の方が「今後は株式運用にESG投資の要素をとりいれる」姿勢を明らかにして反響を呼んだことが、本日(11月30日)の日経朝刊一面に掲載されていました。日本企業のガバナンスを論じるにあたり、その役割が海外からわかりにくいとされている監査役(監査役会)制度も、ガバナンス投資が注目される中で(もうすこし?)光があたっても良いのではないかと、個人的には思います。

11月24日に公益社団法人日本監査役協会のHPに3本の興味深い研究報告がリリースされました。(①「会計不正防止における監査役等監査の提言-三様監査における連携の在り方を中心に-」 ②「『コーポレートガバナンス・コード(第4章)』の開示傾向と監査役としての視点-適用初年度における開示分析-」 ③「選任等・報酬等に対する監査等委員会の意見陳述権行使の実務と論点-中間報告としての実態整理-」)

私的には③の監査等委員会の実態調査と実務上の論点整理がとても興味深いのですが、なるほど・・・と得心したのが監査役会の実効性評価に関する提言です。協会によるアンケート調査結果では、9割の会社が「監査役会の実効性評価はやっていない(検討中との回答も含めます)」と回答されていますが、上記①の会計不正防止における監査役等監査の提言では、今後実施すべきであると明記されています。また、②のガバナンス・コードの開示傾向の中でも、監査役の視点として監査役会の実効性評価も検討すべきであると述べられています。

多くの会社が「監査役会の実効性評価などやっていない」と回答している中で、協会がやるべきだと述べたところはナイスですね(これを決断された委員の方々に敬意を表します)。これは「監査役等監査」とあるように、監査役会だけでなく、監査委員会も、また監査等委員会もやるべきだ、ということだと思いますので、ぜひともガバナンス・コードの見直しの中では監査役会の実効性評価の導入を要請していただきたいと思います。私からすると、「当社では常勤監査役を中心に、監査役制度の実効性評価を行っています。その評価プロセスと結果の概要は以下のとおりです・・・・」と積極的に動く監査役会の存在は、それだけで監査環境の整備に資するものと考えます。

たしかにコードの本家本元である英国では監査役(監査役会)という制度はありませんが、日本のガバナンス・コードでは監査役制度も「取締役会の役割・機能」の一翼を担うものとして捉えられている以上、日本独自の監査役会の実効性評価とその概要開示を(本則市場に上場する企業を対象とした)補充原則の中に含むというのも十分考えられるのではないかと(また、エクスプレインする企業の理由にも興味があります)。

社外取締役を2名以上選任せよ、と要請するガバナンス・コードの影響からか、監査等委員会設置会社に移行する上場会社が700社にも及ぶということですが、まだまだ圧倒的に監査役会設置会社が多いのが現実です。「海外から(監査役制度は)わかりにくい」と指摘されていますが、むしろ監査役の活躍風景を海外に紹介して、その実効性を理解してもらうためにも実行性評価とその開示は有益ではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

11月 30, 2016 監査役の理想と現実 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2016年9月16日 (金)

監査役狙い撃ち訴訟における「平時と有事の分岐点」-大阪地裁判決

判例時報2298号(8月21日号)には、公益通報者保護法関連や監査役関連の気になる判例が掲載されていますが、なかでも監査役、取締役監査等委員の皆様には参考になりそうな大阪地裁平成27年12月14日判決が注目です。ゴルフ場経営会社(会社更生法による手続中)の監査役さん(監査役会設置会社における弁護士の社外監査役)だけが更生会社管財人(原告)から監査見逃し責任を追及された裁判でして、結論的には監査役さんが勝訴した(請求棄却となった)事件です(たしか金融商事判例にも掲載されていたような記憶があります)。

前掲・判例時報の解説部分にも記載されていますが、従来監査役さんの法的責任追及といえば、多くの取締役の責任追及に交じって(付け足しで?)訴えられたケースが多く、原告側もあまり監査役さんの責任追及には熱心ではない傾向にありましたが、最近は大原町農協事件最高裁判決やセイクレスト事件大阪高裁判決のように、監査役さんが「狙い撃ち」されるケースが増えているようです。本件も、他の役員の方々については和解が成立しているものの、この社外監査役さんだけは(和解が成立しなかったようで)高額の損害賠償請求の査定申立てがなされたものです。

前掲の大原町農協最高裁判決やセイクレスト事件高裁判決と同様、イエローフラッグ理論によって監査役さんが、取締役さん達の善管注意義務違反に該当する事実を「認識していた、もしくは認識しえたかどうか」が争われており、判決では取締役さん達の善管注意義務違反行為が当該監査役さんには明白とはいえなかった(したがって、是正権限を行使しなかったからといって任務懈怠とはいえない)と判断されました。当該会社は親会社から業務委託契約、金銭消費貸借契約等の名目によって会社資金を吸い取られていったのですが、取締役会の承認決議を得るための資料等からは「おかしい」と気づくこと(取引の異常性に疑義を示すこと)は困難であり、また異常性に気づかなかったので具体的な調査義務もなかったとのこと。つまり「監査役の有事と平時の分岐点」がどこにあるのか、という点に関する判断が個別の事情をもとに詳細に判決で示されています。

結論からすれば(解説者も同じ意見ですが)妥当な判断とは思いますし、勝訴したとはいえ上場会社の監査役、監査等委員の皆様にも警鐘を鳴らすに十分な内容です(ちなみに判決は確定しています)。また、どういった場合に監査役さんが敗訴リスクを負うのか、ということだけでなく、外形的に利益相反取引に近い内容の取引が行われている場合には、取引に事故が生じますと提訴リスクが顕在化する、という点にも注意が必要です。監査役の法的責任に疑義が生じないためにどうすべきか(グレーゾーンに踏み込まないためにどうすべきか)、という点についても考えさせられる事例です。また、監査役さんの「平時と有事の分岐点」について検討する機会がありましたら詳細に解説したいと思います。

 

9月 16, 2016 監査役の理想と現実 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年11月 3日 (火)

モノ言う監査役さんを支援する重要判例-昭和HD監査費用請求事件高裁判決

本日発刊の判例時報2015年11月1日号(2268号)に、監査役さん(監査委員会、監査等委員会の取締役さんも含む)にとって重要な判例が紹介されています。当エントリーでも2009年にご紹介した昭和ホールディングス(旧昭和ゴム)さんの支配権争いに関連する事件ですね。株主から提訴請求を受けた監査役(社外監査役)さんが、自ら会社を代表して経営陣の善管注意義務違反を主張して損害賠償請求訴訟を提起した事例に関連する裁判です。

6年前のエントリーでも述べているとおり、支配権争いの内実は複雑なので、ここでも触れませんが、要は監査役さんが(会社を代表して)社長さんを訴えた訴訟は二つあり、ひとつは勝訴、ひとつは敗訴したというものです。今回判例時報で紹介されている判例は、この二つの裁判ではありません。この訴訟提起に要した監査費用(625万円)について、監査役さんは立て替えていたそうで、その費用を会社側に会社法388条に基づいて償還請求しました。すると会社側は「原告は、監査役の職務として取締役を訴えたものではなく、(大株主と組んで?)会社の経営を混乱に陥れる目的で提訴したのだから払う必要はない」と抗弁。結論としては、横浜地裁の一審、東京高裁の控訴審とも監査役さんの費用償還請求が認められ、判例時報ではこの控訴審判決が紹介されています(なお、原審地裁判決も全文掲載されています)。

監査役によって支出された費用が監査のために必要なものだったか否かが争われた事案についての判例は、これまで公表されたものが見当たらないようで、判例時報の論評でも「本判決は貴重な先例として参考となる」と解説されています。

会社側は「監査役の提訴は監査権限の濫用であり、会社法388条の『監査役の職務執行に必要でない』費用に該当する」と主張しました。しかし裁判所は、監査役による費用償還を定める法388条には、株主代表訴訟の提訴とは異なり(法847条1項ただし書き)目的要件が定められていないこと、監査役にとって取締役への提訴は重要な善管注意義務履行の一環であることから、およそ「いやがらせ目的」といったことが明らかなほどの権利濫用が認められないかぎり(つまり会社側が不当目的による提訴と立証できないかぎり)、監査役の職務執行に必要でない費用とは認められない、と判示しています。判決理由には掲げられていませんが、監査役が取締役の違法行為差止請求権を行使するにあたり、仮処分命令を申し立てる場合には担保は不要とする会社法385条2項の趣旨なども参考になるのかもしれません。

ご参考までに

(費用等の請求)
第388条 監査役がその職務の執行について監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む。)に対して次に掲げる請求をしたときは、当該監査役設置会社は、当該請求に係る費用又は債務が当該監査役の職務の執行に必要でないことを証明した場合を除き、これを拒むことができない。
1 費用の前払の請求
2 支出した費用及び支出の日以後におけるその利息の償還の請求
3 負担した債務の債権者に対する弁済(当該債務が弁済期にない場合にあっては、相当の担保の提供)の請求

今年施行された改正会社法施行規則100条3項6号でも、取締役会が決議すべき内部統制システムの基本方針の一つとして「監査役の職務の執行について生ずる費用の前払い又は償還の手続きその他の当該職務の執行について生ずる費用又は債務の処理に係る方針に関する事項」が規定されました。監査費用の償還に関する会社法388条の趣旨を明確にして、監査役が職務執行に消極的にならないための規定です。(平成24年の判決ということでやや古めですが)今回公表された判決は、この施行規則の趣旨をさらに明確にするものであり、監査役さんとしては、たとえ取締役を訴えて敗訴の可能性があるとしても、訴訟を提起することに合理性があるのであれば、積極的に訴えることが求められている(会社の利益につながる)、ということかと。

いや、むしろ取締役の善管注意義務違反が疑われる事態において、監査役さんが何もしないということについて、監査役さん自身の善管注意義務違反が認められやすくなるのかもしれません。株主から(監査役に対して)提訴請求がなされた場合などは要注意ですね。ただ、この監査費用の償還に関する裁判は、あくまでも「訴訟費用」の償還が争われたものであり、弁護士費用は含まれていないということです(ちなみに、弁護士報酬は6000万円を超えていたのですね・・・(^^; こちらも諸事情あってのことかとは思いますが、実際に報酬がいくら支払われたのかはわかりません・・・)。もし弁護士報酬が「監査費用」の一部として償還請求された場合には、おそらく「相当な額」を裁判所が認定をして、会社側に支払いを命じることになろうかと思われます(ダスキン株主代表訴訟の判決確定を受けて、原告株主代理人に対する会社の報酬支払金額が争われた例が参考になりそうですね)。

11月 3, 2015 監査役の理想と現実 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2015年5月26日 (火)

コーポレートガバナンス・コードを見据えた監査役監査基準の改正

本日(5月25日)の日経朝刊法務インサイドで報じられていますが、日本監査役協会の監査役監査基準が、意見公募を終えていよいよ改定されるようです。7月の理事会で承認された後に確定版となるとのこと。今回の改正は会社法改正に伴う・・・という点もありますが、なんといってもコーポレートガバナンス・コードにおいて求められる監査役の役割と責任という点を監査基準に明確に導入した点が最大の特徴でしょう。(良いか悪いかは別として)私も正直「ここまで変わるとは・・・」と驚きました。日本監査役協会の監査役監査基準には(数々の批判等にさらされながらも信頼され続けてきた)長い伝統があり、近時では(セイクレスト事件、ニイウスコー事件判決等)裁判所でも監査役の善管注意義務のレベルを検討するモノサシとして斟酌されていますが、「ああ、そういえば2015年ころガバナンスなんとか?って、話題になっていたよね(笑)」などと、5年後くらいにガバナンス・コードが語られることがないことを祈っております(^^;

ということで(?)、私は今週、名古屋、大阪、福岡におきまして、日本監査役協会主催の研修会講師をさせていただいております。本日は初日の名古屋(ミッドランドスクウェア)でしたが、3月決算会社の会社法監査が終了した直後とあってか、たくさんの監査役の方にお越しいただき、ホールはほぼ満席でございました(どうもありがとうございます)。とりわけ今回の研修は、監査役監査基準の改正において、「監査役はコーポレートガバナンス・コードの趣旨を十分認識して」監査に臨むことが新たに求められることから、近時監査役さんの周囲で話題になっている諸論点を、ガバナンス・コードへの対応という視点から解説をしています。

私自身もいくつかの上場会社のガバナンス・コード対応のお手伝いをしていますが、①株主との対話、議決権行使、上場規則による制裁、といったコード(指針)の実効性確保のための各制度による整理、②開示規制(15項目)と行為規制(58項目)へのコンプライの区別、③情報開示で求められるものと対話によって求められるものの区別、④コンプライオアエクスプレインかコンプライ&エクスプレインか、⑤会社と機関投資家との間において対話に求めるもののギャップ、といったいろいろな視点から、各企業にふさわしい対応を目指すことは意外とむずかしいと感じています。ガバナンス・コードは監査役だけでなく外部会計監査人も名宛人になっていたりするので、外部会計監査人をコードとの関係では「内側の関係者」として、外部のステークホルダーを意識することも必要です。

私は制度作りに関与した者ではなく、あまり偉そうに言える立場ではありません。ただ、取締役会議長として、また(任意機関ですが)指名・報酬委員会委員として、さらには社長の外部評価委員会委員として二つの上場会社の実際のガバナンス運営に深くかかわっている当事者なので、ガバナンス・コードは制度会計的視点(対外的PR重視)よりも管理会計的視点(社内目標として中長期の価値向上の社内努力重視)で対処すべきではないか、と考えています。監査役さんの監査環境整備のために、ぜひとも監査役さんにもガバナンス・コードを理解していただきたいですし、改正会社法の主要論点を学ぶことが、実はガバナンス・コードとも深い関わりがあることについても具体例をできるだけ示して解説させていただきます。本日の名古屋の研修会終了後、何名かの監査役さんに感想をお聴きしましたが、かなり自信を持てる内容だと思います。お話する私のほうも3時間半はあっという間でした。

今回の監査役監査基準により、監査役の果たすべき役割も大きく変わろうとしています。あまりにも性急すぎる・・・という意見もあるかもしれませんが、実際に改正される以上は、これをぜひとも自社のリスク管理能力の向上に活かしていただきたいと思います。

5月 26, 2015 監査役の理想と現実 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2015年2月 5日 (木)

ガバナンス改革-有事にこそ監査役の積極的対応に期待します

毎年恒例の日本監査役協会リスクマネジメント講座の全国ツアーが来週から始まります。「近時の事例から学ぶ監査役の有事対応2015」ですが、地元大阪の2日間で始まり(いずれも満席でして、どうもありがとうございます)、2月中旬には名古屋、福岡と回り、3月は東京で3日連続(明治記念館、東京プリンス2日)となります。体調管理に配慮しまして、また元気にお話させていただくつもりです。

さて、この1年はガバナンス改革という社会の変化もあり、また監査役さんにとって興味深い事件や裁判が多かったので話題はてんこ盛りですが、この2日間(2月2日、3日)の適時開示をみましても、複数の監査役さんが同時に辞任される会社が続きました。まさに有事対応の場面です。いずれの会社も経営権争いに絡んだものと思われますが(そのうち1社は年末の臨時株主総会で決着がついたものと思うのですが)、辞任によっていずれも監査役の定員数を満たさない状況となり、1社は臨時株主総会において株主側が3名の監査役追加選任を請求したようで、もう1社は仮監査役の選任申立てを行う予定している、とのことです。

経営陣と意見が合わない、といったことであれば、次の株主総会終結時に辞任することで折り合いをつけることも考えられるところですが、次の監査役さんも決まらないままに、複数の監査役さんが同時に辞任する、というのはよほど深い理由があるのでしょう(辞任理由は「一身上の都合」ということですが)。リリースで示されているように、たとえ一方的に辞任をしたとしても、次の監査役(仮監査役)さんが決まるまでは「権利義務監査役」として必要最小限度の監査業務を継続しなければなりません(継続しなければ善管注意義務違反に問われるおそれがあります)。

監査役に就任した経緯や社内人事、大株主との関係等、社内の事情も知らないまま軽々には申し上げられませんが、有事にこそ監査役さんが中心になって対応しなければならないこともあるように思います。なぜなら平時こそ取締役さん方にとって「経営判断原則」が適用され、法的な責任が問われるような事態が想定されないものの、有事となれば状況は一変し、取締役さんの利益相反、開示(虚偽記載)、インサイダー情報の不適切な取扱い、不公正ファイナンスその他会社法、金商法上のルール違反行為のリスクが急激に高まるからです。監査役さん方にとっては、有事こそ経営監視役として株主の受託責任を履行しなければならないわけでして、そこで降りてしまうというのは株主にとっても、会社にとっても痛いはずです。

このたびの改正会社法施行規則(案)をみても、三様監査(内部監査、会計監査人監査、監査役監査)の扇の要が監査役さんです。詳しくはまた研修の際に申し上げますが、監査役さんの監査環境整備は一般投資家への開示対象となり、また機関投資家との対話の内容になると思います(その根拠はご説明いたします)。有事にこそ、会社や取締役が不幸に陥らないための監査役さんの知見や行動が求めれるはずです。たとえ有事が到来せずとも、有事のリスク管理を見据えた平時の監査環境整備が求められる時代だと考えています。

2月 5, 2015 監査役の理想と現実 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年11月 7日 (金)

コーポレート・ガバナンス改革と日本監査役協会会長の交代

規模の大小を問わず、最近の上場会社では、新しい機関設計の形態である「監査等委員会設置会社」への移行を真剣に検討されているところも増えているそうですね。議決権行使助言会社の賛同表明なども後押しとなり、社外取締役選任推奨のプレッシャーの中で(監査等委員会設置会社への移行に関する)定款変更に動く会社も出てくることが予想されます。ただ、「第1号」ということになると勇気が必要ですよね。とくに監査等委員たる取締役の方々は、監査等委員としての取締役の職務を誰から教わるのでしょうか?自社の管理担当役員や法務部員から教わっても大丈夫でしょうかね?それって監査の独立性からみておかしくないですかね?うーーん、ナゾです。

そのような時代の流れの中、私も市場関係者の方からお聞きして初めて知ったのですが、40周年を迎える日本監査役協会の会長さんが、11月5日に交代されたそうです(監査役協会さんのHPでもリリースされています)。新日鉄住金の太田会長が退任され、日本証券取引所の広瀬会長(同社取締役監査委員)が就任されたことが公表されています。太田会長は3年半会長を務められたそうで、本当にお疲れ様でした。法制審議会会社法制部会の委員、金融庁のコーポレートガバナンス有識者会議のメンバーも務められ、このガバナンス改革の中心で活躍されたことが印象に残ります。「いつも出勤したら、まずあなたのブログを読むんだよ~」とおっしゃっておられたましたが、ホントにお話しやすい会長さんでした。

私も監査役協会とおつきあいをさせていただくようになって8年ほどしか経っておりませんので、歴代の会長さんをよく存じ上げている、というわけではありませんが、証券市場に関連する会社から会長さんが選出される、というのは初めてではないでしょうか。私の個人的な感覚では、監査役は会社法上の機関ですが、近時のガバナンス改革の流れとも合致しているように思います。

会社の仕組みだけでなく、仕組みが機能するための「株主との対話」が求められる時代、とくに監査役制度が外からはわかりにくい、と言われています。そこで監査役が企業価値向上にどのように影響を及ぼすのか、社外取締役や会計監査人が監査役とどう連携をとっているのか、企業自身にとって説明をしなければならない場面が増えてくるはずです。とくに国内・国外機関投資家を問わず、直近業績に関連する話題だけでなく、長期保有を前提とした企業価値向上に関わる話題についても対話の対象となってくるはずですから、監査役の「期待価値」も評価されるものと思います。

拙ブログでも何度も述べているように、監査役が株主代表訴訟や第三者損害賠償請求訴訟の被告に巻き込まれるリスクも確実に増えています。したがって、監査役が訴訟で敗訴しないための行為規範、訴訟に巻き込まれないための行為規範を勉強する必要性も高まっています。そのような時期に、市場関係者の中から会長さんが選出された、ということで、これからの日本監査役協会の活動や意見の発信に期待をしています。私もまた社外監査役に就任する日がくるかも(?)しれませんので、新たな気持ちで勉強させていたきたいと思っております(「そんなことより、このまえ体調を悪くしてキャンセルになった講演はどうするんだ?」とのお声も聞こえてきそうですが・・・・・)。

11月 7, 2014 監査役の理想と現実 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年1月15日 (水)

恫喝されても監査をやりぬくのが「職業的懐疑心」ではないか?

昨年から、ある社会福祉法人のコンプライアンス体制支援をしていますが、この法人が弁護士に支援を求めるに至った要因は、今般の産業競争力強化法の施行に対処することもありますが、なんといっても経理担当者による大きな業務上横領事件が発生したことにあります(もちろん事件の報道もされました)。

同法人の経理担当社員が長年にわたり、合計1億円ほどの金員を横領していた、という事件です。税金の一括納付と集金業務とのタイムラグを利用して、少しずつ着服しては架空の「未収金」を積み上げていたようです。厚労省の定期監査、会計士資格を有する監事さんらの監査もくぐり抜けていました(こういった監査は主に事業所が中心であり、本部は手薄になるようです)。

同法人の内部監査担当者はといいますと、不正の疑惑を感じていたので経理担当者に質問をしてみたものの、「お前は内部の同僚を疑うのか!」と恫喝され、その後は質問できなくなってしまいました。まぁ、厚労省監査でも、また会計士資格を持った監事の監査でも「問題なし」だったので、それ以上には疑わなかった、とのことのようです(実際には疑惑は残っていたものの、これを追及しなくてもよい理由がみつかった、というのがホンネではないでしょうか)。

では、この経理担当者の横領がなぜ発覚したかといいますと、最近、新たに同法人の財務担当理事(監事ではありません)に就任した方の前職が上場会社の常勤監査役でして、「おや?未収金の積み上がり方が異常ではないか。なぜ、ここ数年、これほど未収金が増えているのか、質問してみよう」ということで、経理担当者を呼び出して疑問点をすべて質問されました。経理担当者も、最終的には横領の事実を認めたとのこと。質問の最中は「そんな細かいことまで」とかなり批判をされたそうですが、いわゆる職業上の懐疑心を発揮した好例ではないでしょうか。

そういえば昨年12月4日の日経新聞朝刊に、食材偽装を発表した松屋さんの事件が掲載されていまして、松屋の総務部の社員の方が「うちのテナントにも偽装はないのか、一度調べてみよう」ということで、各テナントさんに「偽装を行っていないことの確認書」に署名するようにお願いに回ったそうです。最初は各テナントさんから「いままでの付き合いがあるのだから、なにもそこまでしなくても」と批判をされたそうですが、断固この要求をまげなかったため、結果的にたくさんのテナントさんが偽装を告白したとのこと。これも監査する者の職業上での懐疑心の発揮事例だと思います。

昨年、ネットワンシステムズ社の第三者委員会報告書が話題になりましたが、あのネット社の不正行為者も、経理部や内部監査部を恫喝し「お前の家族がどうなっても知らないぞ」「地下鉄では用心しろ」などと言われ、やむなく追及の手を緩める、という衝撃的な記載がありました。また、最近のニュース記事では、あの長野県建設業厚生年金基金の24億円持ち逃げした担当者は、保険会社からの質問に対して「そんな質問をするのなら、これから保険会社を変えるぞ!」と恫喝され、その後3年ほど追及の手を緩めています。

こうやって実際の事件を眺めてみますと、不正行為者にとって、「恫喝」は意外と監査担当者が相手だと有効な手法だと言えます(もちろん、そんな行動は絶対にあかんことですが・・・)。恫喝された方からしてみますと、なにも精神的な苦痛を背負ってまで、不正を追及することもない、という正当化理由をどっかで見つけてくるようです。しかし、本当の職業的懐疑心というのは、恫喝を受けたとしても、ひるまずに不正の疑惑を解明する姿勢があってのことではないでしょうか。少なくとも、監査という役割を担っている以上、「ちょっと細かすぎるのではないか、そんなことどうでもよいでしょ」と言われようが、監査に協力するよう相手方を説得しつづける姿勢が求められていると思います。

1月 15, 2014 監査役の理想と現実 | | コメント (10) | トラックバック (0)

2013年12月 6日 (金)

監査役の平均任期はガバナンス報告書で開示すべきである

昨日(12月4日)は、一般社団法人監査懇話会にお招きいただき、2時間ばかりですが監査役と監査人との連携についてお話させていただきました。監査役の方がお集まりになる組織といえば日本監査役協会が著名ですが、こちらも監査役および元監査役の方々300名ほどの会員組織でして、WEBページをご覧いただけばおわかりのとおり、たいへん活発な活動をされています。月1回の研修の講師は、12月が私でしたが、前月は野村修也先生、そして来月はIFRSでおなじみのあずさ監査法人の山田辰巳先生だそうで、(私以外は)毎月なかなか豪華な顔ぶれです(セミナー講師の一覧はこちら)。また、昨年もお招きいただきましたが、ここの会員の方々はかなり監査役制度について先進的な意見をお持ちの方も多いようで、手ごわい理論派の方が多い、というのが昨年来の私の印象です。

さて、講演終了後、約20名の監査役、監査役経験者の方々との食事会にもお招きいただいたのですが、そこでたいへんショッキングなお話をお聴きしました。金融機関の監査役の方々が1期4年の任期を全うすることなく退任される例が多いという話をしたところ、実は懇話会に参加しておられる監査役経験者の方の半数以上が「私も任期4年を全うしていない」ということでした。ほとんどの方が常勤監査役をされていたようですが、会社の内規に従って中途退任を余儀なくされたとか、会社の人事政策に従って中途で退任せざるをえなかったとのお話が出ていました。とりわけ取締役の任期が定款で1年とされている会社などでは、監査役が4年も役員として就任しているのはバランスを欠く、との社長からの説得によって辞めざるを得なかった、といった(耳を疑うような)お話も。

そもそも監査役の職務の独立性を確保するために、会社法では1期4年という監査役の任期が定められています。株主からも、最低4年は身分が保証されることを前提として、独任制機関としての監査を行うことが期待されている(信認されている)はずです。にもかかわらず、会社の慣行や人事政策、取締役の任期とのバランスといった理由で退任を余儀なくされるというのは、「一身上の都合」ではなく「会社の都合」によって辞めさせられるというのが実情ではないかと。適時開示の辞任理由に偽りあり、ということです。会社法によって監査役の権限は強化されているのですが、こういった監査環境の下では適切な監査権の行使は期待できません。

もちろん監査役制度の在り方は、各社それぞれの社風や慣行、グループ会社管理の手法などによって異なるわけですから、かならずしも「任期が短いのはけしからん」とまでは言えません。ただ、その会社が監査役制度に何を期待しているのか、人事政策と監査役監査とはどちらを優先しているのか、ということは一般投資家にも「企業のリスク管理」を知る上で重要な情報だと思います。したがって、たとえば証券取引所の有価証券上場規程にあるコーポレートガバナンス報告書の中で、過去10年以内に退任された社内監査役の方々の平均任期を開示するべきだと考えます。

平均任期が4年以上であれば監査役に適任者を選ぶ社風が認められるものと考えられますし、また2年以下ということであれば、そもそも取締役になれなかった方のポストではないか、親会社の人事政策上の待機ポストに過ぎないのではないか、といった推定が働きます(そうなりますと、社長と対立する可能性もあるような監査役の職務執行は期待できないのでは・・・と思われます)。企業集団内部統制が話題になっている昨今、グループ会社の監査役の平均任期についても関心がありますが、そこまではちょっと煩雑すぎるきらいもありますので、せめて親会社の監査役さんの平均任期だけでも開示の対象となれば投資家に対する貴重な情報提供になるのではないでしょうか。

企業のリスク管理の優劣は、営業政策や商品開発のように目に見える業績によって判断できるものではありません。つまりリスク管理の視点からは「存在価値」に投資するのではなく「期待価値」に投資せざるをえないのです。将来に対する期待価値を推定できるだけの情報は開示されるべきであり、そのモノサシのひとつが監査役の平均任期だと思います。

12月 6, 2013 監査役の理想と現実 | | コメント (12) | トラックバック (0)

2013年10月 8日 (火)

監査環境に変化をもたらす(であろう)監査役・監査人の連携ガイダンスの改訂

今週から書店で発売されている中央経済社の月刊誌「企業会計」の11月号に拙稿「コーポレートガバナンスと不正リスク対応基準」を掲載いただきました(目次はこちらです。ちなみに拙著「法の世界からみた会計監査」の書評も掲載いただきました。北大の荻野先生、どうもありがとうございます<m(__)m>)このたびの論稿では、モニタリングの実効性を高めて、上場会社としての健全なガバナンスを構築するためには監査役と監査人との連携が不可欠であることを(具体的な方策とともに)強調しています。

そして本日(10月7日)、日本公認会計士協会、日本監査役協会のHPにて「監査役若しくは監査役会又は監査委員会と監査人との連携に関する共同研究報告の改正について」と題するガイダンスの公開草案が公表されました(たとえば日本監査役協会のHPはこちら)。商法(会社法)改正に合わせて「連携に関する共同研究報告」が新たに公表されたのが平成17年ですが、監査基準の改訂、監査における不正リスク対応基準の新設に合わせて、このたびの共同研究報告の改正に至りました。

大きな会計不祥事が発生するたびに「連携」という言葉が周知されていない現実に虚しさを感じておりましたので、どこまで改正されるのだろうか・・・と期待はしておりましたが(まだザッと目を通しただけですが)、私が予想していた以上に「不正対応」というところに焦点は合っており、「連携の本気度」は高いように見受けられます。改訂された監査基準が「各段階に応じて」監査役と連携せよ、とあるので、契約締結時、監査計画時、四半期レビュー時、期末監査時と、それぞれ平時のコミュニケーションの重点項目が詳細に例示されているところは評価できます。また有事のコミュニケーションは「随時項目」として、これもまたかなり詳細に例示されており、行為規範性が高まっているものと思います。

もちろん、これはモデル例であり、個別の企業の連携方法はそれぞれの企業で協議されることになります。しかし個別企業の連携方法を協議する際にも、この共同研究報告は参照されることになりますので、その運用にあたっては双方の法的義務(善管注意義務)の履行としての行為規範になりうるものではないでしょうか。つまり監査人・監査役双方の監査環境の整備にとってもかなり有益なものになるように思います。とりわけ会社法上の存在である監査役さんにとっては、「連携」を通じて情報開示に関与することになるわけで、監査役制度の有用性を海外の機関投資家の方々に理解してもらうためのツールとして機能することが期待されます。

本ガイドラインは企業集団の監査にも適用されるものであること、コミュニケーション不全が双方の監査の結果にも影響しうるということが明記されたこと、監査法人の重要事項(第三者による監査法人の品質に関するレビュー結果、当局による検査結果等)が監査役の審査対象たりうることなど、いろいろと話題になりそうな論点も含まれております(ちなみに日本公認会計士協会から10月4日に「レビュー結果等の開示について」という通知が出ていますが、この研究報告の公表に合わせて、ということだったのですね)。これらの論点につきましては、また10月下旬から始まる監査役協会(大阪、名古屋、福岡)でのセミナーのときに解説をさせていただく予定です。

上場当時から粉飾決算が行われていたプロデュース社の株主損害賠償請求訴訟では、監査法人の品質管理の法的責任、そして監査役の粉飾見逃し責任が追及されているようです。今後も大きな会計不正事件が発覚した場合には、モニタリングの不全が厳しく問われることは間違いないと思います。被告として訴訟で訴えられること自体がリーガルリスクになるわけで、冒頭の拙稿でも述べているとおり、こういったガイドラインは単に監査役・監査人の方々が理解するだけでは市場の健全性に役立つというわけではないと思います。

機関投資家をはじめとする投資家・株主の皆様方が理解をし、「連携」を後押ししなければ監査環境までは変わるには至りません。市場関係者の皆様には、粉飾決算が露呈してから「監査役・監査法人はいったい何をしていたのだ」と怒るのではなく、平時から「いったい監査役・監査法人は不正を見逃さないように何を議論しているのだ」と質問をしていただきたいのです。期待ギャップは関係者(経営者、モニタリング、投資家、そして当局や取引所)全員によって埋めていく努力が求められるのでして、それが過剰な規制によって効率性を阻害せず、健全に成長する証券市場を形成していくことに寄与するものと考える次第です。

10月 8, 2013 監査役の理想と現実 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2013年9月17日 (火)

ひさしぶりの「モノ言う監査役」と業務調査権限の積極的行使

9月17日夕方:追記あります。

ここのところ経営陣にモノ申す監査役さんの話題に乏しかったのですが、ひさしぶりのモノ言う監査役さんネタです。戦略PR支援企業であるJDQ上場のプラップジャパン社では、本日(9月17日)、臨時株主総会が開催される予定であり、そこでは新たに二人の取締役選任議案、および社長、専務取締役の解任議案が(それぞれ会社提案、株主提案として)上程される予定です。株主提案に関するリリースですが、7月17日付けのこちらのリリースをご覧になると、社長側、大口株主側で支配権争いが生じ、その支配権も極めて拮抗していることがわかります(だからこそ、経営の安定を図るために社長側より新たな取締役選任議案が上程されたものと思います)。※ちなみにプラップ社の社長さんて、あのNHKラジオのビジネス英会話の杉田敏さんなんですね。もうずいぶん長くやっていらっしゃいますよね。

大口株主側は、社長さんらの不適切な行動(おもに利益相反問題のようです)について問題視しており、その事実について監査役が調査すべき、と主張していました。ところが社長側は、そのような必要はないとして審議することを拒否し、結局監査役による調査権行使に関する決議は承認されませんでした。この事実経過をリリースで知った私は、そもそも監査役の業務調査権限というのは、監査役に認められた重要な権能であり、人から言われて調査をするものではなく、監査役会での審議により、自発的に調査権行使の必要性を判断すべきではないか、と思っていました。

その後、プラップジャパン社の内紛劇は法廷に持ち込まれていたようですが、9月13日、つまり臨時株主総会の直前になり、ふたたび株主側からのリリースが出たことで、同社の監査役(監査役会)の動きが新たに判明しました。実は、監査役の調査権限行使に関する取締役会での審議の終了後、直ちに(7月24日)、同社の監査役会は調査権限行使のために自ら動き出していたようです(大口株主による株主提案権行使に関するリリースはこちら)。そして、リリースによりますと、監査役会は第三者委員会(調査委員会)を設置し、現社長、専務らの不適切行為があったことを断定した内容の第三者委員会報告書の受領を取締役会に報告した、とのことです。

現社長、専務、創業家にとって厳しい内容の調査結果を報告したのは第三者委員会ですが、支配権争いという内紛状態の中で、4名の監査役からなる監査役会が自ら調査権限行使に乗り出し、その結果として現社長らに厳しい判断が下されたわけですから、とくに監査役がモノを言った事例とは言いにくいところです。しかし、たとえ監査役自身が有事に突然権限を行使したとは言えない場合でも、普段からの監査環境の整備があったからこそ、有事になるや否や独自の判断で調査委員会を設置して、独立性の確保された中で、厳しい委員会報告が出たうえで、それを現社長にはっきりと示すことができたものと考えています。議決権保有状況では、どうも創業家、現社長さん側のほうが厚みがあるように思えますが、このようなリリースが出され、どのような結果となるのか、本日の総会の結果に注目しておきたいと思います。

9月17日午後5時35分追記

臨時株主総会の決議に関するリリースが同社HP上に出ております。会社上程議案が可決されたようです。

9月 17, 2013 監査役の理想と現実 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年7月 2日 (火)

コーポレートガバナンスとキャリアとしての監査役ポスト

本日(7月1日)の日経新聞朝刊のサーベイ欄にて、企業統治に関するインターネットアンケートの結果が公表されています。5年前と比べて、日本企業のガバナンス(企業統治)が「よくなった」と回答された方が21%(悪くなったと回答された方が11%)ということだそうで、その理由としては「社外取締役が増えてきた」ことを挙げた方が最も多かったようです。

ただ、グラフを良く読みますと、「よくなった」と回答された方も、「悪くなった」と回答された方も、今後のガバナンス向上のために必要なものは?との問いに対して「独立した取締役の選任」「社外取締役の増員」よりも、圧倒的に「監査役の機能強化」を挙げておられます。少しだけガバナンスが良くなった印象があるのは「社外取締役制度の効果」かもしれないけれども、本格的なガバナンス向上には、やはり監査役制度の向上ということが期待されている、ということなのでしょうか。

しかしその割には、あまりガバナンス問題の典型例である「監査役の乱」が話題になることは少ないように思います。今年も当ブログではベリテ社の事例を何度か取り上げました。ブログ右のコメント欄をご覧の通り、当ブログにお越しになる方の間ではとても注目された案件でしたが、株主総会の結果も報じられず、世間的にも関心を寄せられることはありませんでした(監査役の監査環境の整備、向上を願う者のひとりとして、とても残念ではありますがこれが現実なのでしょう)。

ガバナンス向上に必要なものとして「監査役の機能強化」が期待されていることはアンケートの結果でわかりましたが、私は前から申し上げるとおり、ガバナンス向上のためには、監査役の機能強化よりも監査役の監査環境の整備のほうが重要だと思います。監査環境が整備されなければ、いくら機能を強化しても監査役の権限は「宝の持ち腐れ」「絵に描いた餅」にすぎないからです。(以下、本題に入りますが、本日のエントリーは少しムッとされる方もいらっしゃるかもしれません。あくまでも私の個人的見解でありまして、推測にわたるところも多いことをあらかじめ申し上げます。)

ところで、これは監査環境という問題とは離れますが、実際に監査役が機能している企業とそうではない企業との見分け方のひとつとして、監査役のキャリアに関する企業慣行のようなものが挙げられるものと思います。監査役制度を重視する傾向にある企業では、それなりに監査役さんのキャリアにも影響が出ているのではないか、といったお話です。

すなわち、監査役というポストが、当該企業の執行部においてどの程度重視されているかという点は、常勤監査役(常任監査役)のポストにどのようなキャリアの方が座るか・・・というところである程度わかる、というものではないかと。たとえば取締役執行役員だった方が監査役に就任するのが慣行だとすると、違法性監査を超えて妥当性監査にまで積極的に踏み込む方が多いようで、執行部も監査役の意見を尊重する傾向にあります。また、監査役が「上がり」のポストではなく、その後親会社の取締役や重要子会社の代表者に就任するような慣行のある会社も結構ありますが、こういった会社でも、監査役さんには「大過なく過ごす」ことよりも「積極的に職務をこなす」ことが期待されているようで、執行部のメンバーも監査役の意見には真摯に耳を傾けることが多いように思われます。

いっぽう、重要な取引先から監査役として迎えられる方は、4年の任期も満了せずに、派遣先の人事政策によって辞任に至るケースも多いので、どうも積極的な監査権限の行使は期待できない傾向があるように思います(もちろん推測です、そうでない方もいらっしゃいますので、これは一般論として、ということで)。監査役キャリアに関する会社慣行によって、結局のところ、執行部は監査役に対してどのような意識を持つのか、かなり変わってくるのではないでしょうか。また、これが監査環境の整備状況にも影響を及ぼすのではないかと考えています。

最後になりますが、10年ほど前までの、いわゆる事後監査中心主義による監査役監査が主流の時代の感覚を持った執行部の方々がまだまだ多いのには驚きます。2000年前後から、日本の監査役監査もリスク・アプローチが主流となり、いわゆる事前監査の手法を採り入れた監査となりました。海外の思想による影響からかもしれませんが、リスク管理は後ろ向きの仕事ではなく、経営判断と密接に結びついた前向きの仕事に変わりつつあります。このことにいち早く気づいた会社は監査役さんのキャリアにも配慮するようになってきたように思います。

7月 2, 2013 監査役の理想と現実 | | コメント (5) | トラックバック (0)

2013年6月21日 (金)

監査役解任議案が上程された場合の一般株主の判断基準とは?

この時期はどうしても定時株主総会の話題を取り上げたくなりますが、昨年来、「モノ言う監査役」「監査役の乱」として本ブログでも取り上げておりましたベリテ社(東証2部)の6月28日の定時株主総会の行方について、今年も関心を抱くところです。すでに株主向けの定時株主総会招集通知が東証にて公表されていますが、注目はなんといっても第4号議案(常勤監査役解任に関する議案)です。注意すべきは、この議案は会社提案ではなく、株主提案として上程されているもので解任に関する理由はすでに公表されておりました今回、招集通知には、この株主提案に対する常勤監査役さんの反対意見および監査報告についての個別意見が(全文のまま)別紙として掲載されています。さらに、この監査役意見に関する提案者たる株主さんからの反論の意見も添付されています。なお、あらかじめ申し上げますが、本エントリーは関係当事者の対応について論難するものではなく、あくまでも監査役の監査環境に関心をもつ者としての個人的な意見にすぎないものです。念のため。

昨年3月ころ、ベリテ社の常勤監査役さんは、情報提供に基づいて(おそらく内部通報かと思われます)、取締役関与による不正取引の疑惑を指摘し、監査役会が独自に第三者委員会を設置、その後この第三者委員会の報告結果に不満を抱いた取締役会が、別途第三者委員会を設置して検証し、結果として取締役会は、不正取引の疑義は解消された、むしろモニタリングに問題あり、と報告しました。その後、昨年9月には今回株主提案を出しておられる株主さんが当該常勤監査役の解任を求める臨時株主総会の開催を会社側に求めたのですが、結局12月には、会社側と株主側とで、今後のベリテ社における監査制度の在り方を協議することで、臨時株主総会の開催まではしないことで落ち着きました。

このような経緯を通じて、この6月の定時株主総会では改めて同じ株主さんから、常勤監査役の解任に関する提案が出された、というものです。監査役解任議案は特別決議が必要なので、出席株主の3分の2の解任賛成の決議が必要となりますが、当該株主さんは親会社株主であるため(議決権ベースで52%保有)、可決される可能性は高いものと思われます。ただ、かりに私がベリテ社の一般株主であり、第4号議案について賛否を判断するとすれば、もう少し判断に必要な資料がなければ企業価値向上のために監査役さんを解任するが妥当なのかどうか、それともこのような監査役さんがいるからこそ安心して経営を任せられると考えるべきなのか、判断ができないように思われます。

なんといっても、会社提案ではなく、株主提案として監査役解任が提案されたのですから、提案者は普段の常勤監査役の仕事を見ている方々ではありません。不正の疑惑(結果的にはなかったとされていますが)を自力で見つけることができなかったこと自体が監査役の任務懈怠にあたることは当然ありませんので(監査役は善管注意義務に違反したこと、つまり最善の努力を怠ったことが任務懈怠であり、結果責任は問われません)、この株主さんからも、また株主提案に賛成する取締役会からも、監査役が解任されるべき任務懈怠についての根拠事実に関する説明は一切記載されておりません。なので、私が一般株主であれば、まず監査役さんに解任する正当理由はどこにあるのか、どのような注意義務に反したがゆえに、不正の疑惑を自力で見つけることができなかったのか、というところの説明を求めることになろうかと思います。

つぎに、これは素朴な疑問ですが、株主総会の当日出席が困難な株主にとりまして、議決権行使書を発送する前提として、昨年4月に取締役会が公表しないと決めた監査役会の依頼による第三者委員会報告書の全文もしくは要旨の公表がなければ、常勤監査役さんの「とんでもない行動」は判明しないのではないでしょうか。そもそも3月の時点では取締役会はリリースにおいて、この監査役会が設置した第三者委員会に全面的に協力するとありました。にもかかわらず、この第三者委員会報告書の全文公表を監査役会が求めたにもかかわらず、これを取締役会が拒否して、別の第三者委員会を設置したわけですから、常勤監査役さんが解任されるに値するような資質が欠けていたのかどうかは、このあたりの報告書を読んでみなければ判明しないものと思います。しかしなぜ、これほどの大問題になっているのに、取締役会は最初の第三者委員会報告書を公表しないのか、素朴な疑問が残ります。それとも一般株主は会社側に要求すれば、この監査役会設置の第三者委員会報告書を読ませていただけるのでしょうか?このあたりはよくわからないところです。提案されている株主の方も、こんな委員会に2000万円も費用を出させたことはけしからん!と意見を述べておられますが、取締役会も全面的に協力するとして設置された以上は、取締役会もナットクのうえで出されたものだと思いますので、ちょっと的外れの意見ではないでしょうか。そもそも私が大株主さんの立場だったら2000万円の費用を負担させたこと以上に、「おまえのおかげで金融庁から調査が入ったではないか。この信用毀損をどうしてくれるのか!」と言うはずですが、そのようなことは一切出ておりません。ということはやはり合理的な疑いが客観的に存在したのではないか、と推測してしまうわけです。

さらに、昨年12月の会社リリースでは、当該株主さんと会社との間で今後の監査制度の在り方について協議をするとありましたが、具体的にはどのような協議があったのか、またその協議がどのような内容だったからこそ、今回の解任提案に至ったのか、そのあたりについても知りたいところです。いや、そこがもっとも大事なところではないかと思います。思いつきの提案ではなく、約半年間かけで大株主と会社側でどのようなモニタリングシステムが当社にとって有効と考えたのか、その時間軸に基づく真摯な姿勢が認められれば、会社が賛同する株主意見と、これに反対する監査役意見のどちらが企業価値向上にとって傾聴に値するものであるかを一般株主が推測しうる資料になるものと思います。

そして最後になりますが、取締役不正の疑義を知った監査役さんが、取締役に相談することなく第三者に相談したことの是非が論じられています。しかし本件で常勤監査役さんが問題視していたのは(昨年3月19日付会社リリースによると)、社内から情報提供を受けて、取締役の不正取引に関する疑義を抱いた、ということですから、軽々に取締役に相談できる内容ではなかったはずです。もし監査役さんが取締役さん方に対して不用意に相談や報告をしていれば、当該取締役さんによって証拠を隠ぺいされてしまいかねず、そのほうがよっぽど監査役として善管注意義務違反(任務懈怠)であり、資質に欠けることになってしまうのではないでしょうか。これは一昨年のゲオ社の取締役の不正取引の情報を得た監査役会が独自に調査委員会を設置した事例などからも明らかだと思われます。この点、株主側の意見については、あまり説得力のないもののように思われます。

もちろん、監査役の解任については、それほどの理由がなくても多数決(特別決議)の要件さえ満たせば可能ではあります(損害賠償については「正当な理由」の有無が問題となりますが)。しかし企業価値向上という視点からすれば、やはり一般株主は株主と監査役のどちらの意見が正しいのか、少数株主としては冷静に判断すべきだと思いますので、あえて個人的な意見を述べた次第です。なんといっても、あのトライアイズ事件では、監査役の資質に欠けると解任理由を述べた会社側が、最終的には(監査役さんに対して)名誉毀損に関する謝罪公告を出したほどの問題なのです。今回は株主提案なので、そのような事態には至らないと思いますが、株主提案による解任議案ということであれば、大株主さんに聞くこともできず、やはり会社側に一般株主として知りたいことの説明を冷静に求めてみたいところです。

6月 21, 2013 監査役の理想と現実 | | コメント (19) | トラックバック (0)

2013年4月 8日 (月)

監査役会の同意なき監査役選任決議の効力と裁量棄却判決

先週木曜日(4月4日)、物言う監査役として毅然と経営陣と闘ったある監査役の方の裁判がすべて終結した旨のリリースが出ておりました。当該監査役と会社との和解内容は、おそらく今後、会社と闘う監査役の方を支援する代理人報酬(監査費用)の相当性にも影響を及ぼすものではないかと思いますし、本当にここまで自身の信念に従って闘ってこられた元監査役の方には敬服いたします。

監査役は独任制機関(ひとりひとりが会社の機関)でありますので、自らの意思で監査権限を行使しうる立場にあります。しかし監査役会が設置された会社の場合、多数決による監査役会意見が会社法上の法的効果を生じさせることがあり、上場会社の監査役会(3名以上で構成)においては、監査役間での意見合意が得られず、全員一致の監査役会意見が形成できない場面というのも想定されるところであります。上記「物言う監査役」さんの場合も、まさに監査役会でも意見合意がみられない状況があったように記憶しております。

ところで、ここのところ、6月総会の準備のために、最近の株主総会対策に参考となる判例の解説が法律雑誌やセミナー等でなされることが多いのですが、この監査役会における意見形成の瑕疵が、株主総会決議にどのような影響を及ぼすのか、参考となる判決が出ております。

各種セミナー等でも紹介され、また月刊ジュリスト4月号特集「会社法の実務」でも採りあげられているイー・キャッシュ社株主総会決議取消訴訟判決(東京地裁平成24年9月11日 資料版商事法務343号42頁)は、監査役会の招集通知を受領していない監査役が存在するにもかかわらず、残りの監査役で監査役会を開催しても、その監査役会の同意は無効であり、株主総会の監査役選任議案の取消事由に該当すると判示しております。会社法では、監査役の選任議案を会社が株主総会に上程する場合、事前に監査役会の同意を得なければならない、とされているのでありますが、その同意が無効である以上は、招集手続等に法令違反があるものとして、当該監査役選任に関する総会決議の取消事由にあたる、というものであります。

但しこの判決では、他の2名の監査役は新たな監査役選任については同意をしており、また決議の取消を求めている原告(元監査役)も、(監査役選任議案上程を審議する)取締役会には出席して、何も異議を述べていない、という事実を認定したうえで、このような状況であれば、招集手続きに重大な違法があるとはいえず、会社法831条2項により裁判所の裁量によって棄却(つまり決議は有効のまま)とされています。この結論については、有識者の方々も、概ね妥当な判断であると解説されているようです。

確かに、この判決も事例判決であり、おそらく先例等を踏襲したものと思われます。また監査役は単独で監査意見を述べることができるにもかかわらず、これを述べていない以上、監査役会の同意がないことについて、裁量棄却で処理することは考えられるところであります。しかし、株主総会参考書類には「監査役会の同意を得ております」と虚偽の情報が開示されているのであり、実際に同意がないことと併せますと重大な違法手続きに該当しない、と簡単に処理できるものかどうかは検討に値するものと思われます。とりわけ会社側の新しい監査役追加選任の理由は「重要性を増した監査役の機能の一層の充実強化を図るため」と記載されており、そのように監査役制度の重要性を会社が十分に認識しているのであれば、監査役会の同意を確認せず、さらに株主に対して虚偽の情報を開示する、というのは全く矛盾した対応だと思われます。

さらに、上場会社の場合、3名の監査役のうち2名は社外監査役であり、意見の異なる社外監査役が適法に監査役会に招集されていれば、その合意内容は覆される可能性があったのではないでしょうか(理念的には、社外監査役にはそのようなことも期待されているのではないかと)。たしかに平時の監査役には、いかなる監査業務を行うかは広い裁量権が付されているものと思われます(最近はリスクアプローチによる監査手法が主流です)。しかし、監査役はいったん有事となると(いわゆる黄色信号が点滅すると)、その裁量権は収縮し、監査役としての善管注意義務を尽くすべき具体的な行為規範も明確になります。たとえば一人の社外監査役から、具体的な問題を指摘された場合、もう一人の社外監査役はその問題を認識することになりますから、その時点で有事に必要な措置をとらなければ法的責任を追及される可能性が平時と比べると格段に高まります。ということは、監査役会が開催されていれば過半数の結論がひっくり返る(1:2→2:1)可能性は十分あるわけで、単純に平時の感覚で二人の監査役が同意していたから実質的には監査役会が開催されて同意があったものと同じ、とは到底言えないものと理解しております。

監査役会での協議は軽視されてはならない、ということを、冒頭の監査役さんの事件で私は学びました。株主のほとんどの方々は、招集通知を読んだうえで、前日までに書面で議決権を行使するわけですが、監査役会の同意に関する虚偽情報の開示は、こういった株主の議決権行使や当日参加のうえでの質問にも影響を及ぼすものと思われます。そう考えますと、有事における監査役会における協議が持つ意義と、その情報開示の重要性に鑑みるならば、この判決のように軽微な瑕疵として裁量棄却にしてよいかどうかは、若干疑問を感じるところであります。

4月 8, 2013 監査役の理想と現実 | | コメント (1) | トラックバック (0)

2012年10月29日 (月)

中小規模会社の監査役のための監査環境を考える

先週は日本監査役協会主催の研修会におきまして、監査役さん向けの法律講座「経営執行部の理解をより深めるためのコンプライアンス体制」の講師を務めさせていただきました(23日が福岡、26日が大阪、名古屋は11月)。当ブログで告知させていただいたこともありまして、地元大阪ではほぼ満席となりまして(250名定員のところ223名)、本当にどうもありがとうございました。<m(__)m>「有事対応のための平時の監査環境作り」を中心にお話しさせていただきましたが、なにぶんマニュアルのないところでの試論にすぎない部分も多かったので、咀嚼しにくいところもあったかもしれません。コンプライアンス体制のベストプラクティスや合格点レベルの作り方は、講演で申し上げました通り、各社によって異なります。各社での体制作りのためのヒントにしていただけますと幸いでございます。

さて、九州および大阪での講演終了後、数名の方より同じ質問をいただきました。講演の中では大規模上場会社、グループ企業親会社、中小規模上場会社に分けて、監査役の監査環境の特徴を解説させていただきましたが、「では、中小規模の未上場会社の場合はどうなのか?監査環境作りのうえで特徴はないのか?」といったものです。すいません、ついウッカリ中小規模の未上場会社の監査役さんのための解説を失念しておりました。たいへん申し訳ございませんでした。

私の考えとしましては、基本的には中小規模上場会社の場合と同様だと認識しております。そもそもモニタリングに割くことができる人的資源に限りがありますので、内部統制監査に特化した形での監査には適していないものと考えています。常勤監査役さんがいらっしゃる場合が多いと思いますので、いわゆる「歩き回る監査」(往査中心の監査)を念頭に置かれることが前提となるかと思います。ただし、大規模上場会社のグループ子会社のように、たとえば親会社の執行役員が子会社の非常勤監査役を兼ねている、というようなケースでは、そもそも「歩き回る監査」にも限界があります。したがいまして、そういった組織では、内部統制監査に近い形でリスクアプローチに徹した監査役監査を念頭に置かれることが妥当かと考えられます。

中小規模上場会社の場合、経営トップもしくは親会社の意向が経営判断に強く反映することになります。いわば経営トップもしくは親会社のワンマン的支配によって組織のコンプライアンス体制が特徴付けられますし、モニタリング部門の人数も少ないとあって、なかなか監査環境が整備されにくいものと思われます。したがいまして、そこでの監査環境の整備のレベルは、(レジメにも書きましたように)監査役の法的責任が問われない程度の最低限度のレベルとは何か、法的責任は問われないが、監査役がコンプライアンス体制の不備を指摘すべき「合格点」のレベルとは何か、という点を中心に検討することになります。

ここで注意すべきは、中小規模会社の監査役に参考となるべき判例が存在することです。大原町農協(監事)の監査見逃し責任に関する最高裁判決、そして釧路生協(監事)組合債事件札幌高裁判決などは、いずれも中小の組織の監事(監査役)の責任を認めた事例であります。事例の内容は来年2月~3月の講演会の際に解説いたしますが、こういった事例を通じて、監査役が自浄能力を発揮しなければ、自らの法的責任が問われてしまうレベルというものが見えてきます。ひとつは監査役として(平時の定例的な職務として)法が期待する行動をとらなかった場合の問題点と、不正の兆候に触れた時点から(つまり有事に至った場合)の監査役の懐疑心をもった行動を明確にできなかった場合の問題点があります。どうしても監査役としてノーと言えない状況を打破するためには、こういった判例の傾向を知り、気持ちを後押しさせる必要があります。

また、上記の判例に登場する監事(監査役)の方々は、いずれも法律や会計の知見に乏しい素人の方ばかり、ということも注意すべき点です。「不正の兆候」というものが、法律や会計の専門家でないと判明しないような高いレベルを法は要求していません。誰もが気づいて当然、という程度の「不正の兆候」とは何か?ということも、大切な問題であります。まずは日本監査役協会等の研修に積極的にご参加いただき、このレベル感を認識していただいたうえで、「不正の兆候」を知るための補完(組織に内部監査的業務の責任者を指定することや、仕組み作りの提言を行うこと)に従事していただくことが肝要かと思われます。これらはすべて、経営トップと監査役との信頼関係を維持しつつも、監査役としての職務においてモノを言いやすくするための工夫とお考えいただければ結構でございます。

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2012年10月 1日 (月)

監査役の懐疑心と「社長との信頼関係構築」は矛盾するか?

日本監査役協会のHPにおきまして、「重大な企業不祥事の疑いを感知した際の監査役等の対応に関する提言 ―コーポレート・ガバナンスの一翼を担う監査役等に求められる対応について―」と題する、たいへん興味ある報告書が公表されております(内容は、どなたでもお読みいただけます)。監査役が不正の兆候(黄色信号)を感知した場合に、どのような行動に出るべきなのか、いわゆる監査役の有事対応に関する行動原則を示したものであり、これまであまり検討されてこなかったところに光をあてたものです。

近時、監査役の「監査見逃し責任」に関する法的責任が追及される事例が増えてきておりますが、たとえ訴訟に至らずとも、「もし監査役が適切な有事対応ができていれば、もっと早期に不正を発見できたのではないか」と思われる企業不祥事も散見されます。しかし、実際のところ監査役の善管注意義務違反といえるためには、いったいどのような監査役の行動が注意義務に反するものなのか、未だに不明なところが多いように思われます。こういった監査役の有事対応に関するガイドラインが公表されたことは、(もちろん法的な基準になるものではありませんが)監査役による積極的な有事対応を促し、監査役の善管注意義務、忠実義務の中身を考えるうえで、今後参考になるところではないでしょうか。

さて、監査役が感知すべき不正の兆候(黄色信号)に焦点をあてることは、監査役の善管注意義務を論じるにあたって有益であることは間違いないのですが、もうひとつとても有益なことがございます。それは監査役による「健全な懐疑心の保持」と「経営執行部との信頼関係の構築」とが矛盾しないようにバランスを維持するためのツールとなりうる点であります。

監査役がその職責を全うするためには、「健全な懐疑心をもって監査に臨むように」といわれます。取締役の職務執行の適法性を監視・検証することが監査役の本来の業務である以上、健全な懐疑心をもって監査に臨まねばならないことは当然のことと思います。しかし、現実の企業社会において、監査役が「懐疑心をもって監査に臨む」ということは結構むずかしいものであります。そもそも同僚の役員を「不正をやっていないか」という疑いの目をもってヒアリングする、ということになりますと、「まじめにやってるのにうるさいやつだ、あいつにはもう情報は流さない」ということで社内の重要な情報にアクセスできないことになります。また、架空循環取引等が行われていないか、という目で在庫確認を行おうとすると、「あなたは自社製品に誇りをもっていないのですか、そんないい加減な商品を自社が作るとでも思っているのですか」と、これまた現場責任者から嫌われれてしまい、協力が得られずに効率的な監査が不能となってしまうことになります。

監査業務の有効性・効率性を向上させるためだけでなく、問題発生時に監査役の要求を経営執行部に尊重してもらうためにも、監査役は日常監査の段階から、経営執行部との信頼関係を構築しておく必要があります。そこで監査役としては定例監査を通じて、経営執行部から情報を入手したり、または内部監査部門や会計監査人との連携を図ることで「不正の兆候(黄色信号)」を探すことになります。そして、不正の兆候に接した時点から、監査役は健全な懐疑心をもって非定例の深度ある監査手続きをとることになります。平時は役員や現場責任者の協力を得ながら情報を収集するわけですから、ここでは円滑な信頼関係が求められます。しかし、不正の兆候を感知した時点から、経営執行部に対する現実的な疑惑の目を向けることになります。

ただ、ここでも合理的な理由もなく疑いの目を向けるということは、監査役と経営執行部との信頼関係を破壊する要因になってしまいます。そこで、「疑われても仕方がないような合理的な理由があること」(つまり「不正の兆候」があること)をヒアリング対象の取締役に説明をすることで、経営執行部との信頼関係を維持しながら健全な懐疑心を働かせることになるわけです。また、今回の日本監査役協会による研究報告のようなものがあれば、不正の兆候を感知した場合には、監査役が動かざるを得ないことが行動指針として紹介されるわけですから、これも経営執行部との信頼関係を維持しながら監査業務を遂行することに資するものとなります。

このように、監査役が「不正の兆候(黄色信号)」に基づいて有事対応(非定例の深度ある監査手続き)をとった場合、かりに取締役の不正行為が明らかにならなかった場合であっても、「当社の監査役はまじめに監査業務を行っているのだ」という認識を経営執行部にもたれることになります。すくなくとも「なんかうるさいやつだ」と批判されることはないはずです。また、他の取締役や監査役が、有事意識を共有するきっかけになることも予想され、さらなる調査に進展することにもなります。不正事実が合理的に疑われるだけの資料の収集や、入手した情報による分析など、だれもが「不正事実を疑われても仕方がない」判断根拠をきちんと監査役が把握していれば、およそ経営者との信頼関係の破壊にはつながらないものと思います。

「不正の兆候」理論は、監査役のリーガルリスクが顕在化した場面で活用されるものと思われがちでありますが、このように健全な懐疑心を持ちながらも、他の役員との信頼関係を維持し、ひいては監査環境の整備を向上させる平時の場面でも活用されるものと理解をしております。

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2012年6月21日 (木)

小さな謝罪広告が監査役制度に遺した大きな功績

(6月21日午後11時 訂正あります)

本日(6月21日)の日経新聞朝刊の社会面右下に、ほんの5行程度の小さな広告ではありますが、トライアイズ社(4840 JDQ)作成に係る謝罪広告が掲載されております。また、同社HPでも、本日付にてもう少し詳しい内容でリリースされています。その題名は、

「当社元監査役古川孝宏氏に対するお詫び」

広告内容を、そのまま引用することは避けますが、その概要は、

当社は元監査役の職務対応について、その在職中に任務を懈怠した、として名誉を毀損する表現があったが、これらの表現や記述を撤回するとともに、元監査役に対して陳謝します

というものであります。本件謝罪広告は、判決に基づくものではなく、当事者間における裁判上の和解条項の履行としてなされたもの、のようであります。

トライアイズ事案につきましては、もう3年ほど前のお話でありまして、経営執行部と元監査役との間で監査方法に関する紛議が生じ、これに異議をとどめた監査役に対して会社側から「監査役解任議案」が上程されました。その上程議案の理由として、株主総会の招集通知には「この監査役には任務懈怠があり、監査役としての資質や能力に欠ける」とされ、残念ながら総会では3分の2の解任賛成票が集まり解任された、という経緯がございます報じられています※。もう2年半以上前ですが、何度か当ブログでも採りあげまして、 「トライアイズ元監査役が遺したものを無駄にしてはならない」として、総括したことがございます。

※・・・なお、古川氏は、この3分の2の賛成票が集まった、というのは疑義があるとしています。この点は、私自身も法律的な観点から関心がございますので、別途検討してみたいところです。

現在も未だ上記古川氏とトライアイズ社との間では、別件裁判が係属中でありますので、ここで上記広告に至るまでの経緯を推測に基づいてお話をすると関係者にご迷惑をかけることになります。したがいまして、あくまでも上記謝罪広告が公表された限りでの感想しか申し上げることはできませんが、この謝罪広告の重要なポイントは「元監査役」に対する会社側からの陳謝、という点であります。私は未だかつて会社法関連の事件で、監査役や取締役の職務執行の適正を確認するための謝罪広告というものは存じ上げません。おそらく、こういった謝罪広告は極めて貴重なものだと認識しております(もし、同様の謝罪広告が過去にございましたら、講学上も勉強しておきたいと思いますので、どなたかお教えいただけましたら幸いです。かならず付記させていただきます)。

私も過去にわずか数例はありますが、(監査役や社外取締役側にて)同様の紛争事案を経験したことがございます。しかし、いずれのケースにおいても、相手方企業が内紛を対外的に公表してはならない、という「守秘義務」にこだわり、高額な和解金と引き換えに一切の対外的公表は当事者が控える、という(民事調停上の)和解条項を付して終結しました。古川氏としては、会社側の「仕打ち」に対する個人的な感情もあるかもしれません。しかし、ここまで謝罪広告にこだわったのは、「監査役として」間違ったことはしていなかった、ということを正式な会社情報として開示せよ、という気持ちの現れだと思います。たしかに株主総会では解任されてしまいましたが、いまでも古川氏は「監査役」という職務に誠実に向き合い、監査役としての職務を適切に履行されたことを世間に伝えたかったことは間違いないと思います。

当ブログでこの謝罪広告を紹介させていただく一番の目的は、(古川氏の気持ちとは異なるかもしれませんが)当時のトライアイズ社の株主総会の状況に私がとても暗い気持ちになったからであります。監査役が自信をもって監査業務を遂行すれば、ときに経営執行部と対立することは当然であります。経営執行部としては、監査役解任議案を上程する、といったことも、予想されるところかもしれません。当時、元監査役の意見は招集通知に記載され、さらに株主の皆様宛にHPを開設して、堂々と監査役としての意見を公表しました。しかしながら、一般株主の方々の反応の中には(もちろん元監査役の意見に賛同された方も多かったのですが)お家騒動はやめろ、監査役が騒ぐと株価が落ちるから騒ぐな、ずいぶんと変わった監査役さんがいて会社も迷惑ですね、といった意見も聞かれるところでした。監査役が堂々とモノを言う、というのは、一般株主からはこのように映るのか・・・と、とてもつらい気持ちになったのを覚えております。

「モノ言う監査役」が珍しければ珍しいほど、「おかしな監査役さん」という感覚を一般株主の方に持たれるのはとても残念です。しかし監査役が取締役の職務執行を停止させる仮処分には担保は積む必要はありません。この会社法上の趣旨を実務上で実現するためには、単純に監査役に認められている権限を強化することにもまして、堂々と権限を行使できる環境を整備することにこそ目を向ける必要があります。そうでなければ、今後も監査役制度は機能しないはずであります。このたびの古川氏の行動も、けっして古川氏個人と経営陣との個人的な紛争によるものではなく、古川氏が監査役として誠実に職務を執行することに起因する紛争であったことを、一般株主を含めた投資家の皆様に知っていただける機会になったものと確信いたします。そういった意味においては、実に画期的なものであると評価いたします。

本当に小さな小さな広告ではありますが、監査役制度の発展に向けて、大きな前進であり、大きな功績を遺したものとなりました。最後になりますが、この裁判をここまで続けてこられた古川氏と、支えてこられた代理人弁護士の方々に敬意を表したいと思います。

6月 21, 2012 監査役の理想と現実 | | コメント (6) | トラックバック (1)

2012年4月10日 (火)

監査役全国会議のコーディネータは緊張しました(パシフィコ横浜)

本日(4月10日)、パシフィコ横浜国立大ホールにて開催されました日本監査役協会第74回監査役全国会議「今、日本のコーポレート・ガバナンスに何が問われているのか-監査役への今日的期待-」にて、基調発表ならびにシンポのコーディネーターをさせていただきました。時節柄、代表的な企業不祥事を検証し、なぜ監査役がこれを早期に発見できなかったのか、どうしたら「気づき」と「勇気」を監査役が備えることができるのか、といったことを起点として、投資家サイド、会計監査人サイド、監査役(監査委員)サイドから、いろいろと語っていただく、というものです。

約2300名の監査役の皆様の前で発表ならびに司会を務めるのはたいへん緊張いたしました。おそらくひとりでしゃべる方が、コーディネータを務めるよりも楽だと思います(笑)。各パネリストの良さを引き出したり、ご本人がお話になりたいことを、シナリオの流れの中でどう組み入れるか、時間が足りなくなれば、どこを省いてしまうか瞬時に判断する等、結構気を使います。懇親会のときはさすがにヘロヘロでしたが、新日鉄の常任監査役の方に「僕ね、毎日あなたのブログ、楽しみにしてるんだよ~」と(やけに握力の強い手で)腕をつかまれて、少し元気になりました(^^;;

東大の岩原先生の基調講演も(これまた時節柄、得した気分で)有益なものでしたが、私が「参加してよかったぁ」と感じたのはキッコーマン会長の茂木さんのお話でした。リーマンショックの後、民主導経済についての反省がなされつつありますが、だからといって官主導に戻るのではなく、民主導経済の行き過ぎについて一部修正がなされるべき、その修正方法等について、監査役監査へのヒントがあることを理解いたしました。また健全な資本市場を形成する前提として、「日本にも敗者復活戦が必要」とのご主張には納得いたしました。

月刊監査役7月号に全国会議の様子が掲載されるそうですので、まだまだ速記録の確認等たいへんだとは思いますが、監査役の不祥事対応というかなり難しいテーマを今後、検討される際の「たたかれ台」になっていれば幸いでございます。いろいろと勉強させていただいたパネリストの関孝哉さん(コーポレート・プラクティス・パートナーズ代表取締役)、山田眞之助さん(日本公認会計士協会常務理事)、そして堀岡弘嗣さん(東芝 取締役監査委員)の皆様に感謝申し上げます。

※※※※※

なお、本日の全国会議の際には申し上げませんでしたが、2年前の横浜パシフィコでの全国会議には、東京電力の常務取締役の方がパネリストとしてご登壇され、おそらく日本でもっともすすんだ内部統制システムを紹介、参加された皆様方から絶賛を浴びておられました。パンデミック対策が話題だったころ、私も「東電さんのBCPは、さすが日本一、優秀な方々が集まってないと、これほどのものは作れないなぁ」と感心していたものです。その頃、だれも今日の東電さんの事態など予想できなかったわけでして、2年前の全国会議の速記録を改めて読み返し、コンプライアンス経営のむずかしさ、はかなさを感じております。あれだけ絶賛された東電さんの内部統制システムさえ(私も昨年、NBLに論文を掲載していただきましたが)、平時のリスク管理体制への疑問、有事の危機対応への批判が止むところはありません。社会の公器たる企業を形成するため、だれが社内の問題を指摘できるのか、どうすれば指摘できるのか、平時にこそ真剣に検討する必要があるという気持ちになります。

企業が有事に至ったとき、ひとりひとりの役職員の姿をみれば誠実であるのに、なにゆえ企業として、ここまでボタンの掛け違いが生じてしまうのでしょうか。本当にコンプライアンス経営のむずかしさを知るためにも、いまこそ2年前の監査役全国会議の記録を読み返すことが有意義ではないかと思う次第です。

4月 10, 2012 監査役の理想と現実 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2012年2月22日 (水)

不適切会計事件発覚で薄氷を踏む思いの監査役の方々。。。

(2月22日 午前 追記あります)

ただいま日本監査役協会セミナーの全国ツアーまっただ中でありまして、昨日(月曜日)は名古屋でお話をさせていただきました。講演終了後、中部地区の協会担当の方が「昔はもっと監査役さんにとって『のどかな時代』でしたよ。最近はホント、監査役さんもタイヘンな時代になってきましたよね」とのつぶやき・・・・(本年もお世話になりました<m(__)m>)。いや、私もそう思います。「閑散役」などと揶揄される時代はもう終わったのかなぁと。

昨日、名古屋から東京に移動しまして、毎月楽しみにしている某研究会に参加いたしました。その研究会で、昨年11月に開示されましたインネクスト社の架空循環取引に関する第三者委員会報告書が取り上げられましたので、結構長い報告書ではありますが、ざっと目を通しました。当時の代表取締役の方が一部役員を巻き込んで多額の架空売り上げを計上している点や、親会社からの強いプレッシャーが動機となるなど、かつてのアイ・エックス・アイ社の架空循環取引事例にとても似ております。同社の監査役さん方も、おかしいのでは?と感じておられたようで、売掛金回収が進まない点を代表者にヒアリングしたり、監査役会で独立して滞留債権の管理をされておられたそうです。でも、在庫チェック等においても、経営者側の「にせもの商品」にだまされてしまい、この第三者委員会も「責任を問うのは酷かもしれないが、道義的責任はある」と結論付けておられます。

オリンパス事件や大王製紙事件だけでなく、このインネクスト社の報告書、つい最近(2月17日)にリリースされた共同PR社の報告書、そしてゲオ社の報告書もそうですが、いずれも経営トップが関与する重大な不正会計事件について、「おかしいな」と監査役が感じてはいるのですが、経営トップから「それなりの理由」を述べられると、それで納得してしまって、それ以上の非定例の深度ある監査までは踏み込まない。もし、そこで踏み込んでいたら、不正は早期に発見され、過年度の決算訂正額も変わっていたはずで、むしろ自浄能力が発揮される事例になったのではないか、とも思われます。

最近のこういった不適切会計事例をみますと、監査役さん方が「青天の霹靂」で会計不正の発覚に至る、というものは少なく、やはり不正の兆候が監査役さんの目の前にその姿を現しているケースが多いことに気づきます。先のインネクスト社の事例でも、証券取引等監視委員会が調査に訪れたとき、「ああ、やっぱり!」と悔やんだ監査役さんもおられたのかもしれません。どの事例も、明らかに監査役さんの法的責任あり、と認めたものはありませんが(オリンパス事件はちょっと横に置いといて)、どの第三者委員会の報告書も、監査役さんの対応について疑問を呈しておられます。正直、私自身の感覚としても「これはちょっとビミョーかも・・・・」と思える事例もあるわけでして、ヒヤヒヤされていらっしゃる監査役の方もおられるかも、と推測いたします。

ただ、かくゆう私の推測も、実は「後出しじゃんけん」的発想にとりつかれているところはあります。後で重大な不正会計事件が発生したからこそ、「なんで監査役さんたちは、もう一歩踏み込まなかったのか」とエラそうに言えるわけですが、もし不正の兆候が杞憂に過ぎなかった場合だと「あいつら、細かいことばかり言う連中だな」と、経営執行部に文句を言われ、事後はなかなか重要な情報が監査役さんの耳に入らなくなるのでは・・・との不安にかられるわけでして。そのあたりの不安が、監査役さんの意識の切り替え(平時➔有事)を遅らせてしまうところもあるわけです。監査役さんの「監査見逃し責任」を法的に追及する場合には、このあたりまで考慮したうえで判断する必要があると思います(かなり自己弁護的な感想ではありますが)。

ところで以前、大王製紙社の事例を扱ったときにも申し上げましたが、この「不正の兆候」に接する監査役さんの行動を検証するにあたり、第三者委員会委員の皆様は、監査役会と会計監査人との普段の情報交換会(たとえば報告会等)で、いったい何が話し合われていたのか、あまり気を使っておられないように思いました(おそらく、このあたりを突っ込んで触れているのはオリンパス事件における甲斐中報告書と監査役等責任調査委員会報告書ぐらいではないかと)。監査法人の責任、監査役の責任をそれぞれ別個に検討されているわけですが、最近は監査法人さんの主導によって「情報交換」の場が毎年何回も設定される上場会社も多いわけでして、会計監査上の問題点があれば、それぞれの立場から相談が持ち込まれるのが通常ではないでしょうか。※(追記あり)これは監査法人や監査役の法的責任を判断するうえで、極めて重要なポイントではないかと思うのでありますが、あまり実態が報告書等で示されるケースが少ないようです。

監査見逃し責任については、まだ監査役の皆様への(世間からの)期待ギャップがそれほど大きくないがゆえに「監査役はいったい何をしてきたのだ!」とお叱りを受けることも少ないのかもしれません。しかし、最近の不祥事続発の状況のなかで、監査役さんが自社の異常事態(有事)であることを認識せざるをえない「不正の兆候」とは何か、また問われる場面も増えてくるのではないかと予想されます。ホント、のどかな時代は終わったのかもしれません。。。

(2月22日午前9時25分追記)何名かの現役監査役の方からメールをいただき、当社ではそのような情報交換会はやっていない、こちらから要望しなければ情報交換会は開催されないといったご意見をいただきました。したがいまして、どこでも制度化されている、というわけではないことを付言しておきます。

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2012年1月30日 (月)

監査役とデジタルフォレンジック(セミナーのお知らせ)

日曜日(1月29日)の日経新聞ニュースに「情報隠しの検査強化 金融庁、消去メール復元できるシステム」と題する記事が掲載されており、銀行や保険会社の検査にフォレンジックを導入することが報じられております。検査妨害や忌避があっても、正確な電子情報を入手できるように、とのことで、会計不正事件などの第三者委員会などでも既に不祥事調査に使われていることも記されています。

携帯やパソコンのHD性能が飛躍的に向上したため、たとえ携帯メールやパソコンメールを消去しましても、「復元ソフト」によって復元できることは「大相撲賭博事件」➔「八百長事件」の騒動で広く知られるようになりました。しかし、昨年12月16日に公表されました株式会社ゲオ・ホールディングスの社外調査委員会報告書によりますと、社内調査を進めようとした第三者委員会は、すでに社員によって「復元を困難にするソフト」を使ってパソコン内のメールが消去されていたため、残念ながら(フォレンジックの専門家でさえ)復元ができなかった、とのことであります。つまり不正を行う者からすれば、すでに「消去メール復元ソフト」の存在は当たり前であり、その復元ができないようにするためのソフトを使ってメールを消去する、というのが恒常的に行われることになると思われます。

ただ、いくら復元を困難にするソフトを使ってメールを消去したとしても、そもそも「何を消去するか」はデジタルではなく、人の作業、つまりアナログによって行われるわけですから、そこには「消し忘れ」が発生します。現に、上記ゲオHDの社外調査委員会は、社員による復元ソフト防止の処理を忘れていた部分を見つけて、そこから重大な証拠メールを発見し、不明朗な取引に経営者が関与している事実を認定しました。

また、メール復元ソフトにせよ、復元を妨害するソフトにせよ、すべてのメーカーのPCに対応できているわけではありません。またアプリケーションによっては「文字化け」が発生してうまく機能しないこともあります。したがいまして、復元妨害ソフトによって首尾よくメールを消去したと思っていても、レベルの高い復元ソフトによって「あっという間に」復元できてしまうこともあります(要は技術レベルの高いほうが勝る、ということでしょうか)。最近は「メールが偽造されたものでないことの証明」なども訴訟で必要となってきておりますので、やはり社内調査や第三者委員会における調査技法として、今後もデジタルフォレンジックの必要性は相当に高いものとなることが予想されます。

さて、今年も2月8日の大阪を皮切りに、東京、名古屋、福岡におきまして、日本監査役協会主催のリスクマネジメントセミナーの講師をさせていただきます。今年は内部通報・内部告発への監査役さんの対応を中心にお話をさせていただきますが、とくに内部統制監査の対象としての内部通報制度の在り方、業務監査にける実査(往査)の対象としての内部通報制度の運用、そして内部告発によって不祥事が発覚した有事の対応等について、具体的な事例を用いて解説いたします。とくに上記ゲオHD社の事例のように、監査役に内部通報が届いたときに、監査役がどこまで調査をすべきか、どこから社外の第三者に調査を任せるべきか、その区別の基準や、監査役が知っておくべきデジタルフォレンジックの内容などにも触れております。監査役の身の処し方次第では、上記のとおり、調査の直前に社員によって証拠が抹消されてしまい、やむなく高額な費用をもって第三者委員会の調査に委ねざるを得ない事態となります。監査役による社内調査の方法やタイミングなど、実践的な方策について検討いたします。

内部統制監査実務に有益なのはオリンパス配転命令高裁判決(平成23年8月31日。これは東京地裁判決との対比で検討)、そして実査(往査)実務に有益なのは上記ゲオの一連の不正事件に対する社外調査委員会報告書(平成23年12月16日)、ということで、この二つにつきましてはじっくりと判例や報告書の内容を解説し、そして実務への影響について検討いたします。その他、オリンパス損失飛ばし事件、大王製紙事件、九電賛成意見メール投稿依頼事件、共同PR社事件なども含め、ヘルプライン+ガバナンスによって実効性ある不正抑止を実現する工夫(具体的な方法)について考えてみたいと思います。

さらに、会社法改正議論のなかでも、比較的改正が確実と思われる①事業報告への内部統制運用状況記載義務付け、②監査役監査の実効性確保のための報告体制の充実など、監査役の内部統制監査にとって影響が出てきそうな点もありますので、そのあたりを中心に解説をさせていただく予定です。

もうすでに満席となっております会場もありますが、日本監査役協会以外の非会員の皆様もご参加いただけますので(会員の方よりも、すこし聴講料がお高いですが)、管理部門の方で、聴講をご希望の方がいらっしゃいましたら、ぜひ日本監査役協会の研修セミナーのコーナーからお申込みいただければ幸いでございます。また多くの監査役の皆様とお会いできるのを楽しみにしております<m(__)m>

1月 30, 2012 監査役の理想と現実 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年10月20日 (木)

「物言う監査役」から「物言わねばならない監査役へ」

2年ほど前はガバナンス論議のなかで「物言う監査役」さんに光があたりましたが、最近の監査役事情をみると(ヒトゴトのように申しますが)「きちんと意見を言わないとたいへんな時代になったもんだ」と痛感しております。

オリンパス元社長解職騒動では、本日(19日)会社側から過去のM&A案件におけるコンサルタント報酬の詳細「事実」が公表されましたが、買収価格の3割もの報酬額が合理的であることを主張するところで「当社の監査役会より、適法である旨の意見をいただいております」(ええ!?ここで監査役会に振られてしまうの!?)

九電やらせメール事件では、第三者委員会の事実認定を無視した社内調査報告書が公表されましたが、これをみた第三者委員会委員長の方が「この社内調査報告書を了承した取締役会で社外役員や監査役は何も言わなかったのか?善管注意義務違反のおそれがあるのではないか?」との疑問(を超えた怒り?)を呈されました。

大王製紙元会長の不明朗支出事件では、(無担保貸出合計額が105億円程度、ということだそうですが)少なくとも2011年3月期の有価証券報告書に記載されていた23億5000万の「短期貸付金」について、監査役や監査法人がどのような監査をしていたのか、そこで疑問が呈されていれば、7月以降の不明朗な支出は防げたのではないか、との批判が出ております。子会社の会計監査まで担当しているわけではないとは思いますが、連結ベースでの開示書類作成は親会社の取締役の職務執行なので、親会社の監査役さんの業務範囲であることは間違いないものと思います。

そしてゲオ社の不明朗なコンサルタント料支払い疑惑では、創業家株主からの申出により、監査役会が事実解明のための調査を(外部の専門家らとともに)早急に行い、近々報告書を提出する、とされております(どうも、臨時株主総会の様子からみますと、会社側と株主側で和解的な解決が図られたような気もしますが、やはり調査報告は出されるのでしょうね)。

こうやって有事に立ち至った上場会社の監査役さんの置かれた立場をみますと、以前に比べて重要なポジションとして社会的にも期待されるようになったように思いますが、その反面、ガバナンス不全に陥った(と社会的に評価された)場合には、まさに矢面に立たされ、重い責任を負担しなければならない場面が増えているように思われます。経営者からは「経営判断の適法性」を担保する監査役意見が拠り所とされ、また会計監査人からは、監査責任の一端を担うものとして責任の共有を期待され、この傾向は今後もますます高まるものになるのではないでしょうか。

「物言う監査役」さんが社会から期待されるのであれば、会社法改正論議のなかで出ているとおり、監査役の権限強化、ということが必要なのかもしれません。しかし「物言わねばならない監査役」さんが期待されるのであれば、そこでは「権限強化」よりも、監査役さんの監査環境の整備のほうが重要です。監査役スタッフの充実、内部監査部門との連係、内部統制の運用状況の相当性審査など、監査役が経営執行部とビジネス情報を共有できる環境を整えなければ、「手足を縛られたまま泳げ」と言われるのに等しいのではないかと。

10月 20, 2011 監査役の理想と現実 | | コメント (7) | トラックバック (0)

2011年2月14日 (月)

監査役監査とコンプライアンスの接点について考える

ときどきお仕事や研究会などでお世話になっておりますKPMGさんが「日本企業の不正に関する実態調査2010」を公表されたそうで、要旨を興味深く拝見させていただきました。不正の発覚経路につきましては、やはり「内部通報による不正発見」が一番多かったそうであります。また「業務処理統制」や「管理者によるモニタリング」で不正が発見される傾向もここ数年強くなったようですので、やはり内部統制報告制度の実施によって不正の早期発見および不正抑止の効果は、各企業とも、そこそこ出ているのではないでしょうか?

いっぽう監査役監査で不正が発覚する割合というのは極めて低いようです。監査役は本当に監査をしているのか?と言われそうですが、重要なのは、誰かが不正を見つけて、きちんと監査役のところへ報告されるかどうか・・・・・ということですので、まァ現実的な数字ではないかと思います。

さて、監査役監査とコンプライアンスの関係について、少し考える機会がございました。普段、コンプライアンスのお話は経営者向けのものが多いので、これまではあまり監査役さん向けにお話をしたことがありませんでした。どうしても「違法性監査」という監査役監査の本質が頭から抜けないものでして、「法に照らして取締役の職務執行を監視検証する」というところから出発しますと、「社会からの要請への対応」という最近のコンプライアンスの考え方が監査役監査とはあまりマッチングしないのではないか・・・と思っていたからであります。

しかし会社法382条は監査役の取締役会に対する報告義務について規定しており、そこには取締役の法令定款違反の事実と並んで「不正の行為をし、若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき」「著しく不当な事実があるとき」も監査役は(取締役会設置会社の場合)取締役会に報告義務があることが明記されています。ここで法令定款違反の事実とは別個に不正の行為やその「おそれ」が報告義務の対象になっていることがミソでありまして、たとえば新基本法コンメンタール2 235頁によりますと、「この不正の行為という概念は必ずしも明確ではないが、法令定款違反には該当しないが、社会的に不当な行為も含む概念として解釈するならば、監査役の報告義務の範囲は拡充されたものと理解できる」と解説されております(中央大学法科大学院の野村修也先生のご解説)。また「著しく不当な事実」というのも、法令定款違反ではないが、それを決定すること・行うことが妥当でない場合を指すと解されているおうであります(こちらは会社法コンメンタール8 402頁 砂田先生のご解説)。

もちろん、社内における監査役の活動として、取締役の職務執行の妥当性にまで意見を述べることについて法が規制しているわけではなく、むしろ監査役に期待される役割(ベストプラクティス)と考えることはできるわけですが、「報告義務」となりますと、むしろ監査役に課せられた法的責任、という意味合いが強くなります。そこに、不正もしくは不正行為のおそれがあると認められるときにも法的に報告義務があるとなりますと、やはり監査役さんはコンプライアンス的な発想を要求されるのかもしれないなァ・・・・・と、ぼんやりと考えるようになりました。つまり「違法」とまでは言えないかもしれないが、取締役の職務執行が社会的な評価を毀損してしまうおそれがあれば、それに監査役は気づく必要があります。また、取締役の違法行為だけでなく、コンプライアンス上疑義のある職務執行があれば、これを自ら調査することも法的義務として考えられるのかもしれません。

報告の対象が「法令定款違反の事実」ということになりますと、さきほどのKPMGさんの報告書ではございませんが、管理者のモニタリング結果がきちんと監査役さんに伝達される体制の整備が必要となってくるものと思います。(会社法施行規則100条3項3号等)。しかし不正の「おそれ」が報告義務の対象に含まれるとなりますと、今度は監査役さんのコンプライアンス的発想に基づく「気づき」が大切になってくるわけでありまして、今回の私の監査役協会でのセミナー主題であります「監査役さんの有事における気づき」というものも、ベストプラクティスを越えて、法的責任にも関連するテーマになってくるのではないか・・・と考えたりしています。

2月 14, 2011 監査役の理想と現実 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年1月24日 (月)

監査役(監事)の監査見逃し責任を認めた判例の検討

たしか10日ほど前に証券取引等監視委員会の再編(有報の虚偽記載検査を専門とする開示検査課のパワーアップ)に関する新聞記事が出ておりましたが、あまりブログ等でも話題になっていないようですね。某監査法人さんのアンケートでは昨年よりも「企業が感じているリスク・ランキング」で下がっておりましたが、私は断然、上場会社の虚偽記載リスク(およびそれに伴う役員さんの法務リスク)及び監査法人の行政処分リスクが増大することは間違いないと思っているのですが・・・・・。民主党の新成長戦略によって証券取引所も「積極路線」になるようですし。。。。。

さて私事ではございますが、今年もいよいよ2月の福岡を皮切りに、東京、大阪、名古屋にて日本監査役協会の研修会セミナーの講師をさせていただきます。テーマは昨年同様「監査役の有事対応と平時における予防的監査」ということでありますが、講演の内容は昨年とは全く異なりますので、昨年受講された監査役の方々にもぜひ、今年も受講いただければ幸いでございます。

とりわけ、今年は有識者懇談会で大きなテーマとなりました「監査役の『法的義務』と『ベストプラクティス』の関係」、「平成23年改正の監査役監査基準の重要な改正ポイント」、そして先日少しだけ触れました「釧路市民生協組合債高裁判決からみた『監査役の業務監査と会計監査』の整理」あたりのテーマについて触れてみたいと思っております。これらのテーマを、5ないし6ほどの設問形式のなかで、監査役さんのとるべき対応(期待される対応)を検討しながら研修していきましょう・・・・・という趣向でございます。また、「ベストプラクティス」といいつつも、何かあれば監査役監査基準は法的責任追及の根拠となるのではないか、それらしいことが改正基準の前文にも記載されているのではないか・・・といったところも、すぐに答えが出るわけではございませんが、監査役の皆様と考えていきたいところであります。

釧路市民生協組合債事件で4名の監事の方々に注意義務違反が認められるわけでありますが、これを一昨年の大原町農協最高裁判決や、同年のライブドア損害賠償請求事件における監査役(監事)の注意義務違反の認定過程と比較すると、かなり「監査役の有事対応の在り方」を考えるうえで参考になるのではないかと思っております。比較検討の前提問題としまして、2006年の消費生活協同組合法の改正前の状況につきましても、おおよそ調べてみましたが、生協の監事も株式会社の監査役と(当時の法律を前提としましても)それほど差異はないようです(あるとすれば組合員の中から監事が選出されること、最終的に行政による監督がなされることぐらいでしょうか)。もちろん、判決文の詳細を含め、この(結論が分かれております)地裁、高裁判断へのきちんとした法的検討は、また追って法律雑誌にて書かせていただきたいと思っております。

1月 24, 2011 監査役の理想と現実 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2011年1月17日 (月)

春日電機元社長逮捕事件から改めて考える監査役監査の機能

すでにいろいろなブログでも話題になっておりますが、春日電機元社長の方が会社法違反で逮捕された、とのこと。当ブログでも本件は2年以上前から話題にしておりましたので、感慨深いものがございます(以下のエントリー、ご参照)。

伝家の宝刀 金商法193条の3は春日電機を救えるか?

また2009年には、この春日電機の監査役さんへのインタビュー記事(春日電機監査役を紹介する朝日新聞ニュース)なども掲載され、興味深く拝読したことを記憶しております。私自身もZAITEN2009年3月号に本件に関する監査役さんの対応を中心に論考を書かせていただきました。ただ乗っ取り前から、社内の生え抜きの役員と資金流用に関する謀議を行っていた、という事実は存じ上げませんでした。元社長さんは、逮捕直前のインタビューに「脇が甘い会社は乗っ取られるのは当たり前」とのコメントを残していますが、その真意は、そういった「寝返る」生え抜きの役員の存在に(創業者一族が)気づかなかった点を捉えて、そのように表現したのではないでしょうか。この逮捕事件、大株主になった元社長がどのようにしてこの協力者となる役員に接近していったのか(また、寝返る可能性をどこで知ったのか)が非常に興味の湧くところであります。

さて、上記のZAITENにも書きましたが、金商法193条の3の新設により、会社ぐるみの会計不正事件の予防・発見に向けた監査法人と監査役との連携・協調の時代がはじまったのではないか、と期待をしていたところ、いきなり春日電機でこの金商法193条の3による「不正事実の届出通知」が監査法人から内容証明によって監査役に届けられました。監査役がこれに応える形で仮処分を申し立てたということになり、本件は一躍有名な事件となりました。内容証明を受け取った春日電機の監査役は、その後、(今回逮捕された)代表取締役を相手に違法行為差止仮処分、臨時株主総会開催禁止の仮処分を求め、いずれも東京地裁で認められました。いわゆる「監査役の乱」と(当時)呼ばれる典型的な事例でありましたが、その後監査役さんの頑張りもむなしく、春日電機は残念ながら上場廃止となり、このたびは元社長逮捕に至ったわけであります。ちなみに金商法193条の3の条文は以下のとおりであります。

第193条の3  法令違反等事実発見への対応

公認会計士又は監査法人が、前条第1項の監査証明を行うに当たつて、特定発行者における法令に違反する事実その他の財務計算に関する書類の適正性の確保に影響を及ぼすおそれがある事実(次項第1号において「法令違反等事実」という。)を発見したときは、当該事実の内容及び当該事実に係る法令違反の是正その他の適切な措置をとるべき旨を、遅滞なく、内閣府令で定めるところにより、当該特定発行者に書面で通知しなければならない。

2 前項の規定による通知を行つた公認会計士又は監査法人は、当該通知を行つた日から政令で定める期間が経過した日後なお次に掲げる事項のすべてがあると認める場合において、第1号に規定する重大な影響を防止するために必要があると認めるときは、内閣府令で定めるところにより、当該事項に関する意見を内閣総理大臣に申し出なければならない。この場合において、当該公認会計士又は監査法人は、あらかじめ、内閣総理大臣に申出をする旨を当該特定発行者に書面で通知しなければならない。

一 法令違反等事実が、特定発行者の財務計算に関する書類の適正性の確保に重大な影響を及ぼすおそれがあること。

二 前項の規定による通知を受けた特定発行者が、同項に規定する適切な措置をとらないこと。

3 前項の規定による申出を行つた公認会計士又は監査法人は、当該特定発行者に対して当該申出を行つた旨及びその内容を書面で通知しなければならない。

このたびの春日電機元社長逮捕の報道を読んでおりますと、さすが監査役の乱を起こすほどの監査役さんだけあって、元社長は当該監査役の存在をかなりおそれていたようであります。

決済なく4,5億円融資 春日電機元社長ら不正認識か(朝日新聞)

上場会社でありながら、取締役会における専決事項である「多額の融資」について、元社長は、就任後わずか3日で取締役会の決議を得ずに決定をしていたそうで、その理由は取締役会に諮ると監査役の反対にあうから、ということだそうです。たしか3日ほど前の読売新聞ニュースにも同様のことが書かれてありました。

私が担当したある上場会社の経営トップが関与する不正会計事件でも、監査役がこれまで参加していた会議への関与を社長から拒絶されるようになり、重要案件の経営判断が(監査役の出席する)取締役会ではなく、ごく一部の役員間のみで決定されるようになっていきました。当該会社の元社長は「監査役は3人ともまじめな人たちだから、架空循環取引の存在を知れば、阻止される可能性が高かったために疎外した」と後日の検察官調書で述べております。

また、先日(12月8日)モデレーターを務めさせていただいた社外取締役シンポに登壇されたニッセンHDの社長さんも、私が「独立性要件が厳格になったとしても、社長さんが仲の良いお友達を連れてきて、『まあ、お手柔らかに』と(社外取締役に)就任してもらえば済む話ではないのですか?」と意地悪な質問をさせていただいたところ、

「とんでもない!うちの会社でもし私が友達を社外取締役に就任させようとしたら監査役の人たちが黙ってないですよ。一発で反対意見です。」

とのご回答でした。監査役さんの威光がガバナンスに色濃く影響を与えていることがとても印象的でありました。

監査役という存在は、いまでこそ「物言う監査役」がもてはやされる時代となりましたが、「存在すること自体が経営者にとって脅威」と大隅健一郎先生が「株式会社法変遷論」(有斐閣 昭和62年改訂版)のなかで存在価値を主張しておられます。たとえ「監査役の乱」を起こさずとも、そこに監査役が存在するだけでも違法行為から企業を遠ざける機能があることはまぎれもない事実であります。

監査役が存在するだけで「脅威」といえるためには?

ただ、単に監査役にだれがなっても、またどのような監査を行っていたとしても、経営者にとって「脅威」となるのではないと考えます。経営者が「脅威」と感じるのは、普段から監査役としてのお仕事をきちんとされておられるから、ということは当然のことであります。ニッセンHDの社長さんから、シンポの打ち合わせの際にニッセンの監査役さん方のお仕事ぶりを聞いておりましたが、そこでの監査役としての厳格な仕事ぶりが社長の信頼を得るようになり、先の発言につながっていることがわかります。春日電機の監査役さんの積極的な対応も、このような方だからこそ社長さんにとっては避けたい存在だったものと推察されます。

脅威といえるためには、まさに「平時」における監査役さん方の社内における心構えと厳格な監査業務を通じた経営陣との信頼関係の構築にあると考えています。また、そういった信頼関係があるからこそ、たとえば監査役を遠ざけるような言動が経営陣に見え隠れしたとき、これを監査役は「異常な兆候」と認識して、(不正発見の端緒となる)定例監査から非定例監査に移行するための、ひとつの合理的な理由にできるのではないかと考えております。たとえ外からは見えにくくとも、社内にあっては「物言う監査役」であることは不正の兆候発見のためには不可欠ではないか・・・・・と考えております。

1月 17, 2011 監査役の理想と現実 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年8月23日 (月)

監査役制度を支える「もうひとつの基盤」について

昨日のエントリーは未だ多くの方にお読みいただいているようでして(23日午前1時半現在、BLOGOS ランキング2位)、たいへんありがたいのでありますが、JFKさんやとーりすがりさんの冷静かつ的確なコメントもございますので、そちらも併せてお読みいただければ、と。また、TBをいただいております企業法務マンサバイバルさんのブログでも図表の入った有益なご意見を書いておられます(とくにゼンショーさんやココスさんをどうのこうの、というつもりはございませんので、あしからず)。

さて、先週は日本監査役協会主催による新任監査役さんの研修合宿(通称「長浜合宿」)に、8月17日、19日と参加してまいりました。2年連続で研修講師としてお招きいただき、2日とも懇親会にも参加させていただきました。せっかくの機会ですから、今年はこちらから名刺を持ち歩きまして、多くの監査役の方々とお話させていただき、私もたいへん勉強になりました。

当ブログでは、法制審議会会社法部会で議論されております監査役制度の「整備問題」とは別に「運用問題」についても議論すべきである、とよく申し上げておりますが、監査役の方々とお話しているうちに、監査役制度を支えるもうひとつの課題(もうひとつの基盤?)についても検討すべきではないのかなぁと考えておりました。よく申し上げる「運用問題」といいますのは、いくら監査役の権限を強化してみたところで、その権限を行使しなければ監査役監査の実効性は確保されませんよ、というお話であります。本当に監査役の皆さんが、監査役に付与された権限を行使しているのかどうか検証してみましょう、といったことにつながるわけであります。

しかし、それ以前の問題として、監査役のみなさん、私は(少なくとも)4年の任期を全うされる予定で監査役に就任されたのだと思っておりましたが、どうもそうでない方がけっこういらっしゃることを初めて知りました。(ちなみに会社法上、定款に別段の定めがなければ監査役の任期は4年となっております。)たとえば企業が特定されないよう、抽象的な表現で具体例を申し上げますと、

①親会社から2年の約束で、子会社監査役に就任した(2年間、親会社から給与が出る)

②取引先金融機関の人事政策にすでに当社監査役ポストは組み込まれている(したがって、2年程度で次の人に譲る)

③取締役と違って監査役は任期が長いので、人事政策上、他の取締役に就任した人の退任時期に合わせて辞任する

④取締役に戻る(就任する)ための待機場所である

なるほど・・・・・。つまり、4年の任期を全うすることなく、途中で「一身上の都合」により辞任することが人事慣行となっている、ということのようであります。また、中には4年の任期を全うするものの、他の同期入社との関係上、監査役は部長クラスから直接就任する(つまり4年後の退任時期を見越して、取締役予定者よりも早めに就任する)ので、とてもじゃないけど社長を監視する、といった感覚にはなれない、という方もいらっしゃいました。

企業に勤めておられる方からしますと「そんなの当たり前」と言われそうですが、私にとってはちょっと意外でありました。エラそうに「監査役の有事対応」などと解説しておりましたが、感覚に微妙なズレがあったのではないかと反省しきり。たしかに(正直なところ)好き好んで監査役に就任された方は少ないのかもしれませんが、ほとんどの方が社長さんから「監査役として、しっかり腰を据えて力を発揮していただきたい」と期待をされ、4年どころか8年程度は監査役として頑張ろう・・・という気概をもって監査役の職務をスタートされるものだと思っておりましたが、「とりあえず今度は監査役ね」といった感覚で就任される方もなかにはいらっしゃるのですね。長浜合宿にお越しになるくらいの監査役さんですから、おそらくかなり真摯な気持ちで監査役監査を全うしよう、という気持ちの方が多いことは間違いないのでありますが、そのようななかでも、「監査役就任の会社事情」のようなものが監査に微妙な影を落とすように思えてなりません。最低4年はしっかり務めよう、と思う方と、最初からどうせ2年で、と思う方とでは、監査役就任の基盤が異なるものにみえるわけでして、監査役制度の整備や運用を云々申しあげる前に、会社や企業グループにおける人事政策は、監査役制度の実効性を確保することに大きな影響を及ぼす課題であるように感じられました。(たしか日本監査役協会のアンケート結果でも、1~2年目の監査役さんと3年以上の経験者の方とでは、不祥事発見の確率に差が出てましたよね・・・)

8月 23, 2010 監査役の理想と現実 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2010年8月16日 (月)

「監査役監査への期待ギャップ」に監査役はどう応えていくべきか

Asahi Judicialy(朝日「法と経済のジャーナル」)で連載されている証券取引等監視委員会委員長さんのインタビュー記事、同委員会前総務課長さんの記事は回を重ねるたびに興味深さが増しております。佐渡委員長の検察捜査や裁判員制度への思いなどは非常に面白いのでありますが、とくにお盆休みにアップされた前総務課長さんの記事 監査役監査や内部監査に課題 公認会計士監査は厳格化(前総務課長) は、上場会社の監査役の方々もドキっとするような個人的なご意見が付されております(おそらく上記記事は無償で閲覧可能なものだと思いますが)。以下、前総務課長さんのご意見の要約であります・・・

いつも不思議に思っていたのだが、不祥事を起こした企業の内部監査や監査役はいったい何をやっていたのか?外部監査(注-会計監査)が実効的に機能する前提として、企業自身の内部統制、特に内部監査と監査役監査が有効に機能していることが不可欠である。しかし粉飾企業の監査役監査が実効的に機能していた事例は記憶にない。カネボウ、ライブドア事例等、監査役の責任はどうなっているのか、といった議論が聞いたことがない。会計監査人の法的責任同様、監査役監査についても「厳格化」が進むことが期待される。

監査役監査に内部統制監査の概念が浸透するにあたって、監査役の職務としては取締役の違法行為の発見業務から違法行為の予防業務のほうへシフトしつつあるように思います。したがいまして監査役監査の実効性としては、違法行為が事前に予防されているのではないか、という意味においては機能していることは間違いないと思われます。ただ、前総務課長さんのおっしゃるように「監査役監査への期待ギャップ」は当然にあるところですし、違法行為の発見的機能という点において実効性が発揮されなければ監査役制度の運用面における有用性を十分に説明できないのも現実であります。(ちなみに、ライブドア社の監査役さん3名は、一般投資家による損害賠償請求訴訟第一審において、損害賠償責任が認められております)

「あぁ、やっぱり監査役監査というのは日本のガバナンスにおいて不可欠な制度なのだ」と、世間一般から信頼を得るためには、単に制度として整備されているだけではだめでして、企業が窮地に至っているような場面で、監査役の対応が目に見えるような形で表現されるケースは必要であります。もちろん「物言う監査役」さんの登場、ということも想定されるところでありますが、私はむしろこういった「監査役は何をしていたのか」という問いが正面から投げかけられ、これに監査役さんが(額に汗して)正面から答えるような場面が増えることが必要なのではないかと考えております。そもそも「閑散役」というイメージがあれば、誰も監査役監査に期待していないわけでして、本気で監査役監査が期待されるようになるからこそ、問題が発覚すれば、その反面において取締役と同時に監査役も法的責任を負担してもらおう、会計監査人と一緒に「見逃し責任」を負担してもらおうといった風潮になるのでは、と思われます。

そして、そういった場面に遭遇して初めて、会計監査と業務監査との区別、人への監査と書類監査の区別、期末監査と期中監査の区別そして定例監査と非定例監査の区別などが真剣に議論されることになります。また、無過失を監査役自身が立証しなければならない開示責任(金商法上の民事賠償責任)を問われるような場面に監査役さんが遭遇することで初めて、会社の経営環境に合わせて、監査役がいかに効率的に監査を行うべきか、また自身で行うにおいて限界があれば、補助使用人(監査役スタッフ)を何名必要とするか、内部監査室や取締役会とどのようにモニタリング機能を分担すべきか、といった問題を真剣に考えるようになるものと思う次第であります。

8月 16, 2010 監査役の理想と現実 | | コメント (6) | トラックバック (0)

2009年10月28日 (水)

トライアイズ元監査役が遺したものを無駄にしてはならない

昨年の12月24日、JASDAQ上場の京樽社が「当社連結子会社における不適切な会計処理に関する調査結果のご報告」と題する書面をリリースしております。この適時開示の内容がたいへん興味深いものであります。この京樽社の監査役さんは当該連結子会社の監査役も兼務されておりましたところ、当該連結子会社の経理責任者による資産流用の事実を発見し、本格的調査によって事実を確定し、会社は過年度決算訂正を伴う会計不正の公表に至ったようであります。

まず、当該子会社の売上高は例年通りであるにもかかわらず、売掛金が急増していることを不審に思い、監査役さんはこの経理責任者にヒアリングを行いました。要領を得ない回答ではありましたが「合理的な疑い」をはさむほどの確信も得られなかったので、そのままにしておいたそうです。しかし次年度決算において、この監査役さんは未清算消費税額が(子会社の売上規模と比較して)あまりにも大きいことに疑問を抱き、関連書類による説明及び再調査をこの経理責任者に求めたところ、当該経理責任者は失踪されたそうであります。その後、監査役さんは財務担当取締役および財務担当社員の協力を得て、本格的な調査に入り、昨年の調査結果のリリースとなったわけであります。(本体の調査であれば監査法人さんの協力を得るところだと思いますが、連結子会社、ということで社内の協力を優先されたのでしょうね)

この事例は、監査役による会計監査の「理想的な有事対応」に近いところにあると思います。何度も当ブログで述べたところでありますが、この監査役の発見力というところが予防(内部統制)、事後対応(危機管理)と同等あるいはそれ以上に監査役さんに期待されるところでありまして、「なんとなく怪しい」と感じる力(たとえば売上高と売掛金との変動率の比較、未精算消費税額の分析を通じて抱く疑問)こそ、会計不正の早期発見のために有益なものであると考えます。J-SOX的な発想からすれば、こういった監査役の対応があればこその「統制環境」ではないでしょうか。

おそらく京樽社の監査役さんとしては、こういった事実が公表されれば株価に大きく影響が出ることは承知のうえで、本格的調査に入ったものと思います。そこでは、会社側の協力もあり、日常における監査役と経営陣との信頼関係が横たわっていたことが想像できます。しかしながら、信頼関係がそこにない場合には、監査役としてはどうすべきか。やはりこれまでどおり、経営陣との意思疎通が図れないとして「一身上の都合により辞任」するしか方法がないのか。

そういった監査役の有事対応について、一石を投じたのが、このたびのトライアイズ社の一件であったと思います。10月26日、トライアイズ社の元監査役でいらっしゃる古川氏のHPが更新されており、株主の皆様へのごあいさつが追加されております。このHPも、あと1週間程度で閉鎖されるそうなので、是非とも全国の上場会社の監査役の皆様には、賛否両論あることは承知の上で、ぜひぜひご一読いただければと存じます。ご承知のとおり、監査役解任決議は株主の皆様の3分の2以上の賛成多数をもって可決され、古川氏は(元)監査役となりました。3時間に及ぶ質疑応答の末、総会の決議によって審判が下されたのですから、その結果につきましては真摯に受け止めざるをえません。(ただし、議決権行使書面による賛同を合わせても出席株主数は5000程度、とのことですから、これが「株主の総意」といえるかどうかは疑問がございます。また私自身はまだ例のクオカードの件については問題だと思っておりますが)しかし、監査妨害を理由として、会社(経営陣)と対立し、自らの主張を株主に理解してもらうための一連の行動、そして監査役に与えられた会社法上の権限を適正に行使しようとした一連の訴訟行為につきましては、誰からも文句を言われるものではなく、むしろ「有事における本当の監査役の理想の姿」を具現化したものだと確信しております。最近の石川遼選手の活躍をみて「ハニカミ王子」などと誰も言わなくなったのと同様、ここ数カ月の古川氏の活動は「監査役の乱」などとは到底表現できないほどに、その人生を賭けた攻防だったように思います。私は古川氏の勇気ある行動を(ささやかなブログ上ではありますが)評価し、監査役制度に関心のある者として、これからの監査役制度の充実のために、一連の事件の経過と顛末を心に留めておきたいと思う次第であります。(なお、一連の株主総会決議取消訴訟、そして監査役の前払費用請求訴訟につきましては、まだ東京地裁で続行していることを念のため付言しておきます。)

10月 28, 2009 監査役の理想と現実 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2009年10月13日 (火)

企業不祥事の防止と監査役の「発見力」

今年の企業不祥事に関する代表的事例としては、①H社の冷蔵庫エコ原材料使用に関する景表法違反(エコ大賞返上)、②N建設政治献金問題、③N郵便関連事件、④J社幹部による鉄道事故調査会問題そして⑤K社「エコナ」(特保許可失効届提出)事件などが印象的なところでしょうか。とくに消費者庁設置後に大きな問題となったK社の事例につきましては、企業側があくまでも「食の安全」ではなく「食の安心」にこだわり、消費者庁による特別チームの「再審査」を前に自主的に許可失効届を提出する事態となり、消費者問題に対応する企業の姿勢を示す象徴的な事件となりました。

消費者関連法や独禁法関連法等の改正により、ますます企業不祥事の防止に向けて、コンプライアンスへの取り組みが要請されるところかもしれませんが、「あれもやらねば・・・、これもやらねば・・・」となりますと、体制整備事項ばかりが肥大化していき、「ほんの少しの不祥事発生の可能性のために、どうしてこんなに多くの統制活動をしなければならないのだろうか」(ある監査役の方のご意見)といった疑問も生じてくるところではないでしょうか。

10月9日に日本監査役協会(ケーススタディ委員会)より「企業不祥事の防止と監査役」なる報告書がリリースされ、アンケート結果集計、集計結果の解説、ケーススタディの研究成果等がまとめられております。(この内容は今年の監査役全国大会での研究課題にもなっているところであります)個人的には不祥事事例の研究(第2章)がとても興味深いところでありますが、企業不祥事の防止に関するインターネットアンケートの結果につきましても、なかなか読みごたえがあり、この連休中もかなり熱心に読ませていただきました。(非常勤社外監査役へのアンケート調査結果というものもありますね)

このなかに、監査役が自社の企業不祥事をどのように知ったのか?というアンケート項目がありまして(153ページあたり)、その回答結果によると「監査役が自ら不祥事を発見した」のはわずか7.3%にすぎない、ということだそうであります。(担当取締役や関係部署からの報告を受けて知った、というのが88%の圧倒的多数)おそらく、この結果をみるかぎりでは、内部監査室や会計監査人との連携によって、担当取締役よりも早く不祥事を知った、ということもなさそうですので、現状の監査役体制においては、監査役さんによる不祥事発見力というものはそれほど大きなものではないのかもしれません。しかし、私は常々この「不祥事発見力」の養成こそ不祥事防止体制の効率化にとってもっとも大切である、と考えておりますし、講演等でも力説させていただいているところです。内部統制の整備(構築と運用)や、監視力も重要であることは当然ではありますが、この「発見力」がないと不祥事を早期に発見するための「情報の選択」(何が合理的な疑いを抱かせる情報か?)もできませんし、また何を監視すればよいのかもわかりません。また、人的、物的資源に乏し監査役さんが何か疑惑を発見したとしても、それが不祥事なのかどうかは、内部監査人との連携や、会計監査人との連携などの信頼関係がなければ明らかにはなりません。このアンケート結果のなかで、監査役自ら不祥事を発見した人は、在任3年未満よりも4年以上の監査役のほうが多い(5.8%→9.5%)ことからも、そういった「不祥事発見力」は監査役の能力であることがわかると思われます。

内部統制の整備や監視体制の強化、そして不祥事発生後におけるクライシスマネージメント(危機管理)につきましては、企業がそれなりにコンサルタントや人的体制強化など、お金をかけることによって「いいもの」を作り上げることは可能であります。しかしながら、監査役にかぎらず、社内で不祥事発見機能を向上させるためには、お金をかけるだけでは困難であります。(逆にいえば、もっともお金をかけずに不祥事防止体制を構築するために有用なのが「発見力の向上」であります。不祥事を早期に発見すれば、企業の損害も最小限度に抑制でき、また大事に至るまでに不祥事対策をとることができますので、不祥事を隠ぺいする動機も少なくなります。)社内における経験と勘を持った人材が育成されなければ発見力は養成されないものであり、そのためにはまず、どのような情報を集めてくれば「疑惑」が合理的に説明できるのか、といったことを地アタマで考える思考力が必要であり(これができないと、被定例の調査へ移行することについての関係者の協力が得られません)、避けがたい情報の滞留を解消できるだけの行動力も必要である(たとえば「歩きまわる監査役」)と考えます。些細な内規違反から取締役の異常行動を発見したり、アトランダムに数値が並んでいるところから規則性のある数値の並びを発見したり、事実不明のまま調査が終了している内部通報のファイルをいくつか眺めてみて新たに疑惑を発見するなど、監査役さんも訓練や研修によってこの「発見力」を高めることが可能であります。発見するのはなにも「不祥事」である必要はなく、「不祥事の疑惑」で十分であります。(疑惑→不祥事は、内部監査や会計監査人、外部の法律・会計専門家に任せればいいわけであります)企業不祥事と監査役との関係では、このあたりも今後の課題ではないかと考えております。

10月 13, 2009 監査役の理想と現実 | | コメント (8) | トラックバック (0)

2009年10月 7日 (水)

いよいよ10月9日はトライアイズ社株主総会(取締役VS監査役)

(追記; しかしトライアイズ社の臨時株主総会、8日じゃなくてよかったですね。大阪はいまとんでもない風雨です。私が代理人をしております裁判も、明日は期日延期が決定しております。東京も8日は朝から交通機関がマヒしてるんじゃないでしょうか?)

民主党政権下で法制化されるのではないか、と噂されている「公開会社法」でありますが、その原案のメダマとして「従業員代表監査役」の設置が謳われているようです。本来監査役は株主総会により選任されるわけですが、公開会社法では従業員が選出した監査役を監査役会の構成員とする、というものであります。なお、何度も当ブログで申し上げているとおり、監査役は「独任制機関」ですから、監査役会の多数決をもってしても、ひとりひとりの監査活動は妨害されませんので、監査役は単独で取締役の違法行為を差し止めたり、株主総会の開催を禁止する仮処分を申し立てることも可能となります。

そこで、このような従業員代表監査役制度を創設したり、現時点における監査役の権限強化や独立性強化の必要性を論じる方々には、ぜひともこのトライアイズ社の監査役であるF氏の活動について知っていただき、その感想をお聞かせいただきたい、と思います。当ブログでは以前から「監査役は有事には孤独である」と主張してまいりましたが、「企業価値向上のために(と信じて)監査役がその権利を行使する」場合には、当然のことながら代表者、取締役、他の監査役、会計監査人そして一般株主を敵に回すことが予想されるわけでありまして、唯一監査役としては司法判断に依拠せざるをえない場合がある、ということであります。(これは司法判断や株価変動、株主の目、証券取引所の自主ルールなど、会社および役員を取り巻くいくつかのエンフォースメントが錯綜する場面であることから当然の帰結であると考えております)監査役が表立って会社(取締役)と対峙することを決意した場合、このような四面楚歌の精神的・肉体的疲弊の極限状態に陥ってしまうこともあるわけでして、私は「公開会社法における従業員代表はこのような場面を当然に想定したうえで監査役に就任するのだろうか」「独立監査役は、そもそもこのような場面でも耐えうるほどの独立性を具備しておかねばならないのではなかろうか」との思いを抱かざるを得ません。

このたび、このトライアイズ社の件を当ブログでとりあげましたのは、いろいろな風評が出ているためであります。監査役に関する話題をとりあげる当ブログが(監査役にとって最もホットな話題である本件に)まったく触れないということは、F監査役と対立しているのではないか、とか、トライアイズ社から山口弁護士は何らかの口止めを求められているのではないか、といったうわさが私本人にも聞こえてくるようになりました。私はけっしてF監査役と対立しているわけでもなく、またトライアイズ社から何らの要求も受けておりませんことをあらかじめ、明言しておきたいと思います。ただ、実際にこの紛争のかなり近いところで事情を知っていることは間違いのないところであります。したがいまして、弁護士の守秘義務との関係であまりブログで意見を述べることは避けたい、という思いから、当話題は避けておりました。しかし「有事における監査役のあり方」は、かならずしも本件だけの特殊事情ではなく、こういったことが自社で発生する場合に「辞任の道」だけが監査役の本道なのか、皆様方にも真剣にご検討いただく機会になるのではないかと思いなおしまして、できるだけ客観的に意見を述べることといたしました。

いよいよ今週金曜日に(F監査役の解任決議その他に関する)臨時株主総会が開催されるわけでありますが、(もうすでにいろいろなブログでも話題になっているとおり)F監査役は自身の主張を一般株主に広く知ってもらうために「株式会社トライアイズ監査役古川孝宏 監査役の主張」なるWEBページを立ち上げ、広く株主に対して自身の意見開示を行っております。とりわけ、このページには株主総会招集通知に掲載している会社側意見への反論文が24頁にわたって展開されていること、監査役と代表取締役との取締役会終了後のやりとりが音声として聴取できることが特筆すべき点ではないかと思います。なお、本件を理解するためには、一方当事者たるF監査役のWEBだけでなく、トライアイズ社のWEBページにアップされている株主総会招集通知(参考書類)にも目を通しておかれたほうがよろしいかと存じます。

1 監査役の対外的意見開示の是非

監査役が会社法において「対外的意見開示」が義務化されているのは取締役の違法行為につき、監査報告を行う場合(会社法381条1項)、および総会提出議案調査の結果、違法性が認められる場合の総会での調査結果報告(同384条)等があります。しかし、その他にも(対外的意見開示として)監査役が解任される場合には、当該対象監査役には意見陳述権が認められております(会社法345条4項、1項)。また、監査役解任議案を上程する株主総会の参考書類には、当該監査役の氏名、解任理由のほかに、監査役自身の意見内容の概要も記載しなければならないことになっております。(会社法施行規則80条) 当初、F監査役の解任議案は株主提案として上程されておりましたところ、後日トライアイズ社が会社提案として追加したものであります。したがいまして、前記招集通知に添付された参考書類には、会社側提案理由のほかにF監査役の意見についてもその概要が示されております。そこで、そもそも監査役が一般株主に対して説明責任を果たすためWEB情報として自らの主張を開示することが監査役としての職務執行の範疇にあるのか・・・ということが問題になろうかと思われます。

私はこれは監査役の職務執行の範囲内にあるものと考えます。まず、たしかに株主総会においては、自らの解任議案に対して自由に意見陳述はできるわけですが、議決権を書面行使できる会社の場合、ほぼ総会前日には賛否が決定している場合が多く、いかに総会当日に自由な意見陳述が認められるとしても、実際には賛否の数に影響を及ぼすことができないわけであります。したがいまして、議決権の書面行使が採用される会社、インターネット投票が採用されている会社におきましては、少なくとも一般株主がその議決権行使を行う前には監査役自身の意見が株主に届かなければ、株主に対する説明責任を履行したことにはなりません。そこで次に、参考書類に「監査役の意見内容の概要が書かれていれば、反対意見を株主も知ることができるのでいいではないか」とも考えられるところであります。しかし、そもそも会社が監査役を解任する理由への反対意見となりますと、結局のところ反対の理由も「監査役としてふさわしい資質、能力があるかどうか」「組織の円滑な活動に支障を来すか否か」といった、解任に関する法律上の正当性の有無ばかりが問題になるところであります。これは明らかにおかしく、監査役が取締役と対峙した場合には、法律上の問題だけでなく、一般株主からは「みっともないお家騒動」と罵られ、またそのようなガバナンスの会社であるとして株価にも影響が及ぶわけであります。このような企業価値の低下を最小限度に抑えるために監査役に認められる行動としては、辞任するか、自らの主張の正当性を一般株主に開示するしか選択肢はないわけでして、もし辞任の道を選択しないというのであれば、一般株主への広報活動が唯一正当な対応となることは明らかであります。(先に述べた通り、監査役と取締役が対峙した場合には、さまざまなエンフォースメントが錯綜する以上、法律上の課題だけでなく、企業価値毀損防止のための課題にも監査役は対処することは株主から負託された義務を履行するものとして当然のことであります。たしかに監査役は「違法性監査」を執行することで株主への負託にこたえるわけでありますが、その違法性監査を行う能力や資質がないとか、そもそも監査を行っていないと主張されれば、これにきちんと反論することも説明責任の履行であると考えます。)たとえばなぜ監査役と取締役が対峙するに至ったのか、その原因について株主は知りたいところでありますし、またなぜ「辞任」と言う道を選ばず、解任議案が上程される事態になったのか(たとえば親会社の意向なのか、監査役の取締役に対する私怨によるものなのか)、また実体上の問題ではなく手続き上の問題(たとえば監査妨害の有無など)なども、株主に対して伝えるべき重要な課題であります。

なお、会社提案対株主提案の関係(委任状勧誘の場面)ではありませんので、監査役が個別に株主に反対票を投じるように勧誘する(面会する)ことは適切ではありません。また、会社法では株主総会参考書類についてはWEB開示(WEB修正ではございません)を活用することが(定款変更によって)認められておりますので、とくに株主に限定される広報ではなく、株主以外の者でも閲覧可能な方法による「一般株主への広報手続き」は許容されているものと考えられます。さらには、会社側から株主に対する何らかの追加意見がリリースされた場合、これに対応するためには監査役自身が即時追加意見を株主に広報できる体制がなければフェアとはいえず、「意見内容の概要」だけを記載した書面で十分とは言えないことも確かなところであります。したがいまして、監査役の職務執行の一環としては、このような監査役による一般株主向け広報も「職務執行の範囲内」と思われますので、一般個人であれば社会的信用を毀損するような内容が含まれていたとしても、それは監査役による一般株主に対する説明義務の範囲内のものとして、けっして名誉毀損だとか信用毀損の違法性を帯びるようなものではないものと考えます。

2 音声ファイルの公開について

本件は多くのブログで話題になっておりますが、そのなかで最も反響が大きいのがこの「音声ファイル」がF氏のWEBページに添付されていることであります。音声ファイルの内容は短いながらも、F監査役と代表者との会話の雰囲気が特徴的に把握できるものであり、一般の閲覧者だけでなく、一般株主であってもいろいろな印象をお持ちになるかもしれません。本件音声ファイルについて、私がここで意見を述べるのはルール違反だと思いますので、以下はあくまでも一般論としての私の見解であります。

私は基本的には音声ファイルがどのような目的で使用されるのか、という点を明確にする必要があると考えております。たとえば取締役の悪性立証を目的として自身のWEBページに開示することは監査役としての職務範囲を逸脱したものではないか、と考えます。監査役はあくまでも違法性監査が基本であり、「取締役としてふさわしくない人を糾弾する」こと(つまり妥当性監査)までその職務の範囲内にある、とはいえないものと考えます。もちろん、社内で「あなたは取締役としてふさわしくない」と糾弾することは、その方法が適切であるかぎりは許容されるものではありますが、対外的な意見陳述権は認められないものと思います。したがって音声ファイルを用いて取締役の悪性立証を可能とするのは、裁判上で取締役の違法行為差止請求がなされ、その司法の場において証拠として提出するようなケースに限られるのではないでしょうか。

いっぽう、弾劾目的(つまり、相手が主張している事実や判断内容の信用性を減少させる目的)で音声ファイルを持ち出す場合には、これは許容されるものと思われます。あくまでも弾劾のための使用ですから、相手方に反論の機会を付与せずともフェアではない、ということまでは言えないはずですし、また「事実の有無」を判断するための資料として活用されるのであれば、とくに「取締役としてふさわしいかどうか」「監査役としてはどうか」といった「職務執行の妥当性」に関する問題点はクリアできるからであります。もちろん、相手に無断で録音をしている点については別途、新たな法律問題が発生する可能性はあり、これを公開することが、はたして監査役の職務執行の範囲内にあるかどうかは検討する必要があります。

3 議決権を行使した株主に対するクオカードの贈呈

最後にひとつ気になる点があります。トライアイズ社のWEBページを閲覧したところ、10月9日の臨時株主総会において議決権を行使した株主には500円分のクオカードを贈呈する、とあります。しかしこれは2007年のモリテックス事件判決(東京地裁)の考え方を前提とすると「株主への利益供与」に該当しないのでしょうか?たしかトライアイズ社には約2万人もの一般株主がいらっしゃるようですので、皆様がたが議決権を行使した場合には相当な金額の出費になるでしょうし、また会社対株主という委任状勧誘規則が妥当する場面とは異なるものの、会社側の議案が可決されるためには出席株主の3分の2以上の賛同票を集める必要がある場面であります。会社提案に反対する監査役が会社側と対立してWEBページまで公開しているのが現状でありますから、たとえ賛成、反対どちらに票を投じてもクオカードがもらえます・・・と言ってみても、会社側としては賛成票を集める目的をもってクオカードを贈呈する、と評価される可能性があるのではないでしょうか。(これは例年、クオカードを贈呈している事実が認められるとしても、株主の議決権行使をめぐって紛糾している事態となれば一般的な社会的儀礼の範囲を超える可能性があり、禁止すべきではないか・・・ともいわれている課題であります)

もしこれが「利益供与」に該当するならば、監査役解任議案は3分の2以上の賛同が必要とされるところですので、その議決権行使結果次第では、クオカードの配布によって賛同票が増えたことが解任決議の結果に影響を及ぼした・・・とされ、いわゆる(株主総会決議取消訴訟における)裁量棄却にはならない可能性も出てくるかもしれません。それとも私のモリテックス事件東京地裁判決の理解不足により、モリテックスの事例と本件とでは状況は明らかに違う・・・とする理屈がわかっていないだけなのでしょうか。たいへん気になったところですので、このあたりも、問題の整理がついていらっしゃる方からのご意見がございましたらご教示いただきたいところであります。本件につきましては、株主総会決議取消訴訟の提起後の新たな臨時株主総会であることなど、まだまだ検討すべき問題点は残っておりますが、あくまでも客観的な私見として述べることができる範囲で記したような次第であります。

10月 7, 2009 監査役の理想と現実 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2009年7月17日 (金)

続・監査役無機能論について考える-笹尾氏からのご回答

先日、こちらのエントリーにて元日本監査役協会会長(元旭化成代表取締役)でいらっしゃる笹尾恵蔵氏の論文「監査役無機能論について考える」(月刊監査役7月号に掲載)をご紹介し、また自論も述べさせていただきましたが、笹尾氏が当ブログをご覧になられたようで、昨日メールを頂戴いたしました。以下は、笹尾氏のご了解を得て、メールに添付されていた書簡の内容を掲載させていただく次第であります。

月刊監査役7月号に掲載された私の論文「監査役無機能論について考える」が山口先生のお目にとまり、先生のブログ「ビジネス法務の部屋」で取り上げて頂いて光栄に存じます。
先生のコメントの中の有事における監査役の職務執行のあり方に関してありますが、私は、会社経営の目的は、会社の持続的な成長によって、株主、従業員、取引先、地域など会社のステークホルダーに利益をもたらすことであると考えており、経営を委託された取締役の業務執行が、会社の持続的成長に重大な悪影響を及ぼしていると監査役が判断し、かつ、監査役の助言・勧告を無視されるような局面では、法廷闘争を含むあらゆる権限を行使して監査役の主張を貫き会社を守ることは監査役の当然の義務であると考えます。

問題は、監査役の主張の正当性は、何によって担保されるべきかであります。
一つには、日常、取締役の業務執行の現場に密着して公正な目で把握した事実に基づく主張であること、二つには、日常活動を通じて監査役の活動の公正性と有用性を取締役に理解させる努力をしていた上での主張であることが大事である。
個々のissueの解決は、それが会社の持続的成長につながることが大事で、そのissueについては監査役の主張が通ったが、後に不信の山が残って会社の持続的成長の妨げとなっては本末転倒となる。その意味で、平時があっての有事であり、有事の対応も平時の対応の裏付けがあって説得性を増すと思います。

以上                                

ご教示どうもありがとうございました。以前、監査役の有事対応の正当性につきまして、三権分立における司法のような役割(法の支配)ではないか?だからこそ、たとえ監査役が孤立しようとも、自身の考えを押し通すことに迷う必要はないのではないか?と当ブログで書かせていただきましたが、こうやって笹尾氏のご意見を拝見しますと、理念的にすぎるものであり、説得力に欠けていたことを反省しております。日常における監査役の監査業務(とくに公正な目で把握した事実)の重要性、そして普段からの監査役から執行部への信頼関係構築のための働きかけこそ、主張の正当性を担保する・・・という点は、正直なところ、私の意見には欠落していたところであります。

「平時があっての有事であり、有事の対応も平時の対応の裏付けがあって説得性を増す」

この言葉の意味を、(法律家の立場から)もうすこし具体的に考えていきたいと思っております。(たしかに監査役による有事対応が通った先のことまでは考えておりませんでした。本当に頭の下がる思いです。)

7月 17, 2009 監査役の理想と現実 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2009年7月 8日 (水)

「監査役無機能論について考える」-笹尾氏の論文

今年6月25日付けのアルファ・トレンド・ホールディングス(札証)のリリース「監査役会の監査報告における付記意見に対する当社の是正措置について」などを読みますと、当該事例は監査役の個別監査意見が取締役の職務執行、ひいては会社の内部統制システムの是正に寄与することになったモデルケースのように思われます。ひょっとすると、リリースされていないケースにおきまして、こういったアルファ社のように監査役の意見によって内部統制の是正が図られている企業もあるのかもしれません。しかし株主や一般投資家に見える監査役の活動というものは非常にレアケースであり、なかなか監査役の活動が企業価値の向上に役立っているのかどうかを判断することは困難なのが現状ではないでしょうか。

月刊監査役7月号では、旭化成の元代表取締役で、日本監査役協会の会長も務められた笹尾慶蔵氏の論文「『監査役無機能論』について考える」が掲載されており、非常に感銘を受けました。まず昭和25年当時の松本丞治、石井照久という両東大教授(当時)の監査役論争について紹介され、「監査役無機能論」はいつの時代も米国の制度をテンプレートとする考えの商法学者や資本市場関係者から唱えられ、経済界は一貫して監査役制度の廃止に反対するのであるが、その経済界の反対にも二面性があり、真摯に監査役制度の有用性を評価する者と、社外から取締役メンバーに介入されたくないことの口実として監査役制度の有用性を評価する者がいる、とのことであります。(いまの議論とほとんど同じ議論が昭和25年当時からなされていた、といっていいようであります)

とくに最近の議論では監査役制度の運用面を検証してみよう・・・という風潮が出てきておりますが、笹尾論文では監査役の活動は「そもそも外からは見えないのだ」とされており、私もまったく同意見です。また監査役監査は属人性の強い職務であり、監査役の人格、見識、能力に、大いに左右される傾向にある、という解説にもうなづけます。最近、日本監査役協会作成による「監査役監査基準」の法的性格・・・のようなものが、監査役の法的責任論とともに話題になることがありますが、笹尾論文では、会計監査人とは異なり、監査役制度は能力の差があることを前提とした制度であるために、監査役監査の法的な注意義務の水準を示すものではなく、「監査手続のガイドブック」的なものであると述べられており、このあたりも穏当なご意見ではないかと思っております。このように、笹尾論文で指摘されているような監査役制度の特徴からしますと、たしかに有事における監査役の職務執行のあり方というものも、「こうすべきである」と明確に説明できないところもあり、やはり監査役制度の運用を検証するにあたっても、なかなか目に見える形での実例というものを探し出すことは困難なようであります。また「運用を検証する」といいましても、それは笹尾氏が追求するような「取締役との信頼感(経営理念)を共有しながら、ときに耳の痛い提言を行う」姿を検証するのか、それとも「取締役との信頼関係が破壊されても、断固として監査役としての使命(と信じるところ)を貫く」姿を検証するのか、検証対象が合意されていなければ議論が前に進まないように思われます。

笹尾氏の論文は示唆に富むものであり、勉強になるところが多いのでありますが、NOVAの事例、三洋電機の事例、そして私が代理人を務める某会社の事例にみられるような「監査役自身の任務懈怠について損害賠償責任が追及される事例」というものは、これまであまりなかったのでありまして※1、果たして有事における監査役の対応を、その人格、見識、能力だけに依存していて良いのだろうか・・・と思案するところもあります。先日、トライアイズ社の監査役の方が監査費用請求訴訟をトライアイズ社相手に提起したことがリリースされ、また一部報道されました。取締役の違法行為差止の仮処分や、株主総会決議取消訴訟提起には監査役を支援する代理人弁護士は不可欠であり、その弁護士費用等は当然に会社が負担するものであるとして前払費用請求をしたところ、会社は費用にうち、一部しか支払を認めなかったことにより、上記訴訟が提起されております。「日本の文化と合致した監査役制度」という面からみて、法廷闘争も辞さない監査役の対応というものについては異論もあるかもしれません。しかしながら、「企業の継続性に疑義があり、株主共同の利益が毀損されてしまいかねないような事態」に陥った企業におきましては、そもそも取締役との間で共有すべき「信頼関係もしくは経営理念」は構築する前提を欠くのでありまして、法廷闘争をもってしてでも会社を守ることは株主から負託された監査役の使命ではないでしょうか。(この考え方は、差別的行使条件付きの新株予約権の無償割当が、株主平等原則の趣旨に悖ることになるけれども、買付者による大量取得行為を放置することで企業の存続に影響を与えかねないような場面において、厳格に必要性・相当性の要件をクリアする場合には防衛策の発動も許容される、というブルドックソース事件の最高裁判決の考え方に近いものと思います)こういった監査役の権利行使が濫用されないように、法的な観点から権利行使の必要性、相当性を判断するのも監査役を支援する代理人弁護士の役割でもあるわけでして、これは会社における監査費用の一部として認容されるべきものだと思われます。

※1 もちろん、これまでも監査役の責任が認められた判例はありますが、監査役が取締役の違法行為に加担していたものや、知っていながら放置していた、名義貸し監査役だった、といったものばかりであり、「見逃し責任」を問われたケースはほとんどないのが実際であります。

もちろん、監査役による法廷闘争を勧めるつもりは毛頭なく、むしろ監査役の有事における権限はできるだけ謙抑的に行使されるべきである、と考えております。しかしながら、監査費用の前払いも満足に請求できない(監査役が自腹を切らなければ法廷闘争もできない)状況では、そもそも監査役の権限は絵に描いた餅にすぎず、「謙抑性」すら議論する必要性もないわけでして、ましてや「監査役制度の運用を検証する」前提すら欠くことになることに留意すべきであります。また、監査役は自らの主張をきちんと議事録に記載して、経営理念を共有できなければ辞任すればよいではないか?といった議論も成り立つところではありますが、この月刊監査役7月号では、別の方の論文で「監査役の一斉辞任は職務の放棄ではないか?それが株主から職務を負託された監査役の職務として適正なのか?」と疑問が呈されているところでありまして、これもまた別エントリーにおいて考えてみたいと思っております。

7月 8, 2009 監査役の理想と現実 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2009年6月 3日 (水)

カッコいい常勤監査役さんの引き際・・・

日本公認会計士協会は、6月1日付けにて、「会計監査人の選任議案及び監査報酬の決定権を監査役等に付与する措置の検討等について」と題する要望書を、法務大臣宛てに提出されたそうであります。(内容は会計士協会HPより閲覧可能です)そこには会計監査人の選任、監査報酬の決定権限を監査役会等が有する仕組みや、社外監査役の独立性強化、監査役スタッフの増員などに関する法改正について、法制審議会で検討されるように、との要望が含まれております。制度改正の側面から、今後の監査役制度や会計監査制度の実効性を高めていく必要性が、そこに明記されております。しかし、個々の企業における監査役制度の実効性を高めるものは、制度改正によるものだけではありません。

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

昨年いろいろとお世話になった、ある監査役の方より「ご挨拶」と題するメールを本日頂戴いたしました。私よりもかなり年配の監査役さん(でも、たいへんお元気!)で、長期にわたり常勤を務められ、まさに内部統制監査とともに監査役の道を歩んでこられた方です。監査役在任中、大きな不祥事も経験されました。そして社内のガバナンス改革にも目に見える形で関与されてこられました。以下、そのメールの一部をご紹介いたします。(伏字は管理人の責任によるものです)

山口様

大変ご無沙汰致しております。昨年の○○○では大変お世話になり、眞に有難うございました。

既にご存知かとは思いますが、私は今期で辞任することにしました。

○○○で話しましたように、性弱説に立ちますと経営トップが暴走することはどこでもありうるわけで、その場合の歯止め役は監査役に期待されていると思います。

実は、当社の監査役は皆、任期が一緒になっており、改選期に経営トップが恣意的な人選(自分のいうことを聞く人)を提案してきた場合、同意権があるとはいえ、提案を覆すのは難しい環境にあります。例えば、「自分たちが居残りたいから反対している」などと言われると、反対しにくいものです。

又、監査役になった場合、新しい知識を学び、経験を積み、見識を身につける必要がありますが、そのためにも任期が2年ずれていると監査役会としては、一定のレベルを維持できます。

それで、少なくとも社内監査役(常勤監査役)に「2年の期差任期」を導入することが必要と考えておりました。

これを実現するには、株主以外は社長といえども監査役を解任できませんので、現任の監査役が辞任し、後任の監査役を補欠ではなく新任監査役として選任する以外によい方法はありません。

それで、当社に経営トップを牽制できる体制を築くために、今回辞任することにしました。現社長はその辺の考えをよく理解してくれ、賛成してくれました。

今後も何かの機会にお目にかかることがあるかと思いますが、宜しくお願い致します。      △△

たしかにTDNETを確認したところ、退任予定監査役、とあります。△△さん、カッコいい!カッコよすぎる。。。(涙)

これまで△△さんが監査役としてやってこられた改革をお聞きしていただけですが、今回のご退任の理由をお聞きし、ナットクいたしました。常にこれだけの覚悟をもって自社のガバナンス改革にあたってこられたんですね。

たしかに監査役の任期(とりわけ常勤監査役)が一致している場合に、2年の期差任期を監査役に導入するためには、補欠(定款により退任監査役の退任満了時までとすることが可能)としてではなく新任として監査役を選任するしか方法はなく、また監査役の増員をしないかぎり、現任監査役が辞任しなければこれを実現することは困難であります。監査役の牽制機能を常に充実させるためには、監査役会としてのレベルを一定に保つ必要があることもまさにおっしゃるとおりかと思います。

また、最近どうも監査役選任にあたって、「この監査役さんは、ちょっと会社とのこれまでの関係からみて監査する立場としては『利益相反』に該当するのではないか?」と思われる人選がみられるように思われますが、監査役の改選期が皆同じとなりますと、反対しづらいところもあるのでしょうね。いくら監査役が独任制といいましても、やはり監査役会としての意見というものが単独の監査役の意見よりも事実上影響力が大きいことは自明だと思われます。

△△さんの引き際をみて「監査役はこうでなければ・・・」とまでは申しません。ただ、昨年いろんなお話をさせていただいておりましたので、「あぁ、△△さんらしい引き際だなあ」といった感慨を持ちました。ガバナンスは制度によって作られるだけでなく、こうやって「人によって作られる」ものなんですね。△△さん、どうもお疲れさまでした。そしてこれからも、ご指導のほど、よろしくお願いいたします。m(__)m

6月 3, 2009 監査役の理想と現実 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2009年3月18日 (水)

もう「監査役の乱」とは言わせない(監査役の勇気ある行動に敬意を表します)

先日は監査役のインサイダー疑惑(課徴金納付命令勧告)、といった「痛いニュース」についてコメントいたしましたが(その後も監査役さんの略歴にからんだJファクター社の行政処分事例というのがありましたが・・・)、本日は最近の監査役さん方の毅然とした会社側への対応について、敬意を表する意味で(備忘録のためにも)とりあえず速報版として掲示させていただきます。

ひとつはトライアイズ社の常勤監査役の方による解任議案差止請求事例であります。(日経ネットニュースはこちら  解任議案提出差止仮処分申立書を受領した旨の会社リリースはこちら)総会において報告されるべき計算書類、事業報告(および附属明細書)については会社法436条2項による監査報告が必要でありますが、当該常勤監査役の方は単独、連結いずれの計算書類においても監査報告書への署名捺印をされなかったようであります。ニュースによりますと、会社側から財務諸表の提出を受けられず、監査を妨げられたことによるものとのことであります。(ちなみに、監査報告書には、当該常勤監査役の方の個別意見は付されておりません。個別意見を付すこともできないほどに監査を妨げられた、ということなのでしょうか)会社側は、「取締役の職務の透明性、合理性についての業務監査が十分でなかったことから、監査役としての適格性を欠いている」と認識したうえで解任議案が上程されたようであります。(よく読むと、あの寺島薬局さんの監査役解任議案上程の件のお知らせ とほぼ同じ文面ですね・・・(^^;) )監査役解任議案が提出される、ということ自体、極めて珍しいことでありますが、そもそも会社のために適切に監査業務を行うべき監査役への解任議案の提出はいかなる場合に適法といえるのか、もう少し慎重に考えてみたいと思います。(そういえば、MBOをされた寺島薬局さんの監査役解任の件についてはどうなったのでしょうね。あれもたしか会社側から監査役解任議案が上程された事例でしたよね。なお、本件では議案上程を決定した取締役会において、他の監査役の方々はいかなる意見を述べられたのか、ということにも関心がありますが)

ちょっと気になりましたのは、株主総会招集通知の追補として、計算書類承認の件が上程されておりますが、そこには「監査役の監査報告書への押印が得られないため」計算関係書類については株主総会に諮ることとした、と説明されておりますが、そもそも旧商法(商法施行規則134条)の時代と異なり、会社法においては監査役の署名捺印は監査報告の有効性とは無関係であり、わざわざ株主総会において計算書類の承認決議を求めることは不要ではないか?という疑問であります。日本監査役協会のひな型においても「監査報告書の真実性及び信頼性を確保するためにも、各監査役は自署したうえ、押印することがのぞましい」とは記載されておりますが、署名捺印が必須の条件であるとは記載されておりません。監査役会の決議要件は多数決ですから、3名中2名の合意があれば監査報告書を適法に作成することは可能ですし、もし1名が合意できないということであれば、「署名捺印をしない」ということではなく、個々の監査役の意見付記によって明らかにすることができます。(会社法施行規則130条2項)したがいまして、監査役会の監査報告に反対する監査役さんの署名捺印の不存在は、とくに計算書類への監査手続に瑕疵を生じさせるものではないため、株主総会において報告すれば足りるのではないかと思われますが、いかがでしょうか。(ちなみに、監査役会議事録への署名捺印は、議事録への異議記載の有無が監査役会での議案「賛否」という法的効果と関連付けられているので、会社法のもとでも必要であります。ひょっとすると、これも総会手続に疑義がある場合の念のための「勧告的決議」に該当する、ということなのでしょうか)

個別の会社の事情に精通していないため、あまり突っ込んだことも申し上げられませんが、トライアイズ社においては、公開されている株主総会招集通知によりますと1年間に3名の監査役が辞任されておられる(うち2名は会計士資格をお持ちの方)という事態に至っていることからみましても、このたびの常勤監査役の方の行動につきましては、会社側との全面対決を覚悟のうえでのものであり、その姿勢に対しては敬意を表したいと思います。また、当常勤監査役の方を支えておられる代理人の方にも心よりエールを送りたいと思います。

そしてもうひとつは、名証セントレックス上場の「やすらぎ社」の監査役の方々であります。元役員と会社との間に不適切な不動産取引があったとして、監査役の方々が会社に対して厳格な調査を行うよう要望書を提出し、その要望書によって昨日(16日)社外調査委員会設置に関するお知らせが出された(外部委員会委員の氏名も公表)のでありますが、今日(17日)になって、急きょ「昨日のリリースは当時の代表取締役が独断で行ったものであって取締役会の承認を得たものではない」として、社外監査役と社外取締役らによって構成された調査委員会が設立されたとするリリースが出されております。(事案については、こちらと こちらの産経新聞ニュースが報じております)代表者の解任も行われるなど、こちらも個別企業の事情がわからずに軽々に推測するのもちょっと差し控えさせていただきますが、いずれにしても監査役4名による社内調査要望書を基に、本格的な社内調査が進むことになったわけですので、やはり監査役の方々の毅然とした対応こそ、一番の原動力になっていることは間違いないところだと思います。ただし、一日でコロコロとリリース内容が変わる・・・という点につきましては、社内における開示体制の欠如ということで取引所から何らかの改善を求められるかもしれません。

私自身は監査役さんが表舞台に登場することにより、社内のゴタゴタが表面化することについては好ましいことではなく、できるかぎり社内調整をもって違法行為を予防することが理想的な職務であると考えておりますが、そんな悠長なことを言っていられないほどの緊急事態に至っている上場企業があることもまた現実であります。これまで「閑散役」とか「名ばかり監査役」「抜かずの宝刀」など、監査役の職務については揶揄されることが多かったのでありますが、内部統制システムの構築と監査役監査との親和性が明確になり、さらに外部監査人(監査法人)と監査役との連携協調が深められてきたことなどから、徐々にではありますが、本来の監査役としての職責が果たされる企業が増えているのではないかと感じております。またそういった職責を果たしうるよう、情報交換等を通じて普段からの研鑽を怠らないことも肝要ではないかと感じている次第であります。

3月 18, 2009 監査役の理想と現実 | | コメント (6) | トラックバック (1)

2009年3月13日 (金)

あちゃ!これは痛いニュース(>_<)・・・監査役のインサイダー取引

監査役さんの痛いニュースはあまり採り上げたくないのでありますが、パイオニア社の元常勤監査役さんが元秘書名義を利用したインサイダー取引により課徴金処分をSESCより勧告されているようであります。(証券取引等監視委員会HP)また、この課徴金納付命令勧告のリリースに基づいて、パイオニア社としては、事実関係の調査、処分の検討、再発防止策の検討を開始するそうであります。(パイオニア社のリリース)SESCのリリースでは、「監査役」といった役職が記載されておりますが、金融庁課徴金・開示検査課によりますと「高い倫理観が要求される監査役が違法な取引を行っていたことは重大」であることから、役職公表に至ったようでありますので(時事通信ニュースはこちら)、監査役の皆様、たとえ課徴金事案であっても、(ネット検索によって)実名公表に等しい重大事案として取り扱われることに十分ご留意ください。

過去の監査役によるインサイダー取引事例といいますと、平成9年に監査役を務めていた顧問弁護士が、自社に対する第三者割当増資(新株発行)の事実を職務に関して知ったうえで、知人名義で自社株を購入した事例(刑事罰事案)、本年1月に逮捕されたエネサーブ社の元取締役につき、ゼンショー社監査役時代におけるインサイダー取引疑惑(最終的には立件されず)などが記憶されているところでありますが、TOBを行う会社の役職員へのインサイダー事件摘発は全く初めてのようであります。しかし、東証一部企業の常勤監査役さん(7年間)であり、また2年ほど同社の取締役財務グループ部長もされていたような方ですから、秘書名義にてTOB情報公表前に大量に自社株を取得して、公表後直ちに全株売却する、といったことが、直ちにインサイダー事件として審査→調査対象になるリスクというのも十分認識していたのではないかと思うのでありますが、「それでもやってしまった」という、そのあたりのリスク感覚の欠如がとても不思議であります。近時の証券会社→取引所→金融庁といった審査連携体制、情報共有体制からすれば、ネット口座が知人名義であったとしても、容易にインサイダー取引疑惑は浮上するわけですから、こういった露骨な自社株売買は、摘発される可能性が高まっている認識はなかったのでしょうか。しかも最近は、証券会社、放送局、ディスクロージャー印刷会社、監査法人などなど、インサイダー情報にアクセスしうる者であるがゆえに、高度な倫理観が要求されている人達が「ターゲット」として摘発されているご時世ですから、監査役についても優先的に摘発対象になりうるところであります。

ところで、インサイダー取引による法令違反につきましては、財務報告の信頼性に直接関わる問題ではないとしても、たとえば現役の監査役さんがインサイダー取引によって課徴金納付命令を受けるような事態となった場合、内部統制報告制度における全社的内部統制は有効と評価することはできるのでしょうかね。常勤監査役さんはモニタリング機能の中枢にあたるところであり、高度の倫理観をもって職務に専念することが期待されるわけでありますが、こういった法令違反を行っていたとするならば、そもそも監査役としての倫理的行動は期待できないものでありますから、内部統制の有効性は疑問とされるのではないでしょうか。また、監査役自身がインサイダー取引を行っていた場合の再犯防止策についても、どの程度説得的な防止策が考えられるのか、その思考には相当の困難が伴うようにも思われます。

3月 13, 2009 監査役の理想と現実 | | コメント (5) | トラックバック (0)

2009年2月24日 (火)

監査役の利益相反問題について考える

昨日は、かなり難しいエントリーだったにもかかわらず、辰のお年ごさん、機野さんに励ましのコメントをいただきまして、ありがとうございました。「具体的な問題について、さらに検討してください」といった辰のお年ごさんのご要望とは少しずれるかもしれませんが、2月23日の適時開示情報のなかで、コーポレート・ガバナンスの問題として、少し気になったものがありましたので、簡単にご紹介いたします。

昨年「続・監査役の乱」のエントリーにて、すこしだけご紹介しました昭和ゴム社の件でありますが、元社外監査役の方が取締役を相手に責任追及訴訟を提起した件につきまして、半年以上経過した後に(本件に関する)情報を開示した、というものであります。(当社による当社取締役に対する訴訟提起に関するお知らせ)このお知らせでは、「なぜ情報開示が遅れたのか」という点についての理由も記載されておりまして、またそもそも昭和ゴムさんの場合には、かなりその支配権をめぐって紛糾している状況もありそうですから、部外者である私が詳細も知らずにツッコミを入れることについては差し控えさせていただきます。

ただ、昨年6月18日に元社外監査役の方が、取締役らに対して責任追及訴訟を提起したのは、一般株主からの提訴請求を受けてのことでありました。先の「お知らせ」によりますと、半年以上の間、この訴訟は進行していなかったことになりますので、はたして当該提訴請求株主へはどのような説明をしていたのだろうか?という点が気になります。今回の件で、そのまま訴訟を取り下げずに継続しよう・・・といった決断に至ったのは、もし取り下げるとするならば、この提訴請求株主に対して不提訴理由通知(正確には提訴はしていますが、会社判断によって取り下げるのであれば、やはり不提訴理由通知は必要なんでしょうね)が要求されるからではないでしょうか。また面倒なことになるよりも、このまま裁判を継続したほうが穏便に済ませることができる・・・といったことから、訴訟を進行させることになったのではないかと(このあたりは、あくまでも推測でありますが)

そして、もっとも気になりましたのが、訴訟を提起した監査役が辞任されたということで、その後を承継して訴状を陳述した、という社外監査役の方であります。有名な米国法律事務所の弁護士さんでありますが、そもそも被告である取締役のなかには、この方を社外監査役に選任する議案を決議した取締役さんが含まれております。ご自身を監査役として推薦した人を相手に責任追及訴訟を提起する・・・ということだけでしたら、むしろ社外監査役としての正当な職務権限の行使であります。しかしながら、この社外監査役の方は、その監査役選任の発端となった株主支配権をめぐる新株発行差止仮処分命令事件におきまして、会社側に補助参加人として参加した新株引受企業の訴訟代理人を務めておられた方であります。また、この仮処分命令申し立ては、元社外監査役の方の責任追及訴訟の原因事実と極めて関連性のある裁判であります。そのような仮処分事件におきまして、第三者割当増資の引受企業の代理人をされておられた方が、その仮処分事件の結果(昭和ゴム社側の勝訴)によって監査役に就任されたわけですから、独立公正な立場で監査役としての職務を全うできるかどうか、という点においては少し疑問符がつくのではないでしょうか。(あくまでも私見にすぎませんが)

もちろん昭和ゴムさんの複雑なご事情については知悉しているわけではございませんので、実質的にはいろいろと理由があるのかもしれません。また、昭和ゴムさんの場合、社外監査役はもうひとりいらっしゃいますが、こちらも顧問弁護士たる立場として、先の新株発行差止め仮処分事件では昭和ゴムさんの代理人を務めておられますので、こちらも責任追及訴訟を継続するにあたっての「適任者」とはいえないかもしれません。ただ、常識的に考えてみても、はたしてこういった方々が、一般の株主に代わって独立公正なる立場で取締役さんらの責任を追及できるか?といえば、外観的には首をかしげたくなるのではないでしょうか。会社法の教科書的な説明ですと、監査役には善管注意義務はあっても、忠実義務は認められないとされております。しかしながら、こういった場面において、監査役にも外観的には利益相反問題が発生することで、「忠実義務」に近い責務が認められることもあるのではないか・・・と感じる次第であります。なお、この昭和ゴム社の問題については、先日の春日電機社の株主総会開催禁止の仮処分決定でも話題となりました「第三者増資と会社による議決権行使株主の選択」に関する論点もあるようで、たいへん興味深い事例であります。

2月 24, 2009 監査役の理想と現実 | | コメント (0) | トラックバック (0)

2008年12月 4日 (木)

伝家の宝刀「金商法193条の3」は春日電機を救えるか?

(4日夕刻 追記あります)

ここのところ、アーバンコーポレイション、アパマン、シャルレと立て続けに「魂を揺さぶられるような」事例に触れましたが、これもホンマにスゴイ・・・(^^;;とりわけ買収防衛策の是非に関する議論には大きな影響を与えるものと推測いたします。

もうすでにご承知の方も多いとは思いますが、本日未明(3日午前1時半)と、本日午後9時半、興奮せずにはおられないような開示情報が出ております。春日電機(東証2部)の常勤監査役の方が、代表取締役を相手として提起されました、違法行為差止仮処分命令の決定(ただし決定が出たのは11月26日)、株主総会開催禁止の仮処分命令の決定に関するお知らせであります。(この時点で仮処分命令申立書の内容が読めるということも、非常に感動モノであります。)つい一昨日、JICPA「法令違反等事実発見への対応に関するQ&A」なるエントリーをアップし、本年4月より施行されている金商法193条の3(監査人の法令違反等事実への対応)について検討いたしましたが、まさかこんなに早く、193条の3が裁判に登場してくるとは予想もしておりませんでした。

創業60年を越える老舗電機メーカーで30年以上勤務されていらっしゃった方(常勤監査役)が、今年6月に大株主による敵対的買収によって更迭されてしまった先代創業者社長、会長の「仇討」のごとく、買収後「好き放題」に財産を散逸させている新社長めがけて仮処分命令の申し立てを行い(社外監査役2名はすでに辞任されたので、たったおひとりで)、代理人弁護士の方々もこれを支援し(基準日の濫用による違法・・・なる主張ですね)、未だ最終解決には至らないものの、一矢を報いるような仮処分決定を発令させた・・・・・、また監査役による申立後、従業員の方々も新社長に対して反旗をひるがえした・・・・・という、なんとも日本人にはたまらないようなストーリーであります。おそらく、日本中の監査役の職務に就いていらっしゃる方々も、目頭が熱くなるようなお話ではないかと思われます。

おそらく、この常勤監査役さんへの賛辞は尽きないものだとは思うのでありますが、このストーリーのなかで私が最も注目すべき、と考えますのが、「企業コンプライアンスを守る四半期開示制度と金商法193条の3」、つまり監査法人さんの活躍であります。失礼を承知で書かせていただきますが、春日電機の財務諸表監査を担当されている監査法人さんは、いわゆる中規模の監査法人さんだと思いますし、それほど目立って大きなクライアントさんをお持ちのところではないと思います(すいません、間違っていましたら訂正いたします)。資産が散逸する春日電機の監査手続きにおいて、架空取引に関する疑念を次第に強く抱くようになり、ついに会計監査人の伝家の宝刀「金融商品取引法193条の3」に基づく「措置要求」を監査役さん宛てに通知をすることになるわけであります。

監査法人から監査役への通知(申立書より抜粋)

「金融商品取引法193条の3に基づき、特定発行者(ここでは春日電機のこと)における法令に違反する事実その他の財務計算に関する書類の適正性の確保に影響を及ぼすおそれのある事実を発見及び確認いたしましたので、当該事実の内容及び当該事実に係る法令違反の是正その他の適切な措置をとるべき旨を通知いたします。

つまり、この措置要求の通知は監査役宛てになされるわけでして、ここでもし監査役が動かなければ(もちろん会社も動かないでしょうから)、あとは監査法人は金融庁へ法令違反の事実を報告することになるわけであります。(金商法193条の3、第2項)措置要求の通知を受けた監査役さんとしましては、このまま放置して金融庁による何らかの対応を待つことも「楽」なのかもしれません。(とくに監査役の法的責任が問われるものでもないかもしれませんし)しかし、それは長年勤務してきた企業の「死」を意味するものになるでしょうし、座して死を待つよりも、上場企業としての誇りにかけて、最後の賭けに出たのが、今回の仮処分決定の申立ではないでしょうか。つまり、監査役さんの気持ちを最後に奮い立たせたのが、この新設された「金商法193条の3」だったのであり、臆することなく切り札を使った監査法人さんは「あっぱれ」と(少なくとも私は)思うところであります。また、監査役さんにこういった「考える時間」を与えてくれたのも、やはり今年4月に施行された四半期報告書制度であります。四半期報告書に対する適正意見を出さない・・・・という監査法人さんによる「ソフトロー」が功を奏したため、4億5000万円のうちの2億弱程度の金員が春日電機の手元に戻り、また法令違反行為の疑念を強く抱くに至るまでの心証を得るに至ったのであります。 「四半期レビュー」といいますと、私の周りの会計士さん方がブーブーと文句をおっしゃっているイメージしかなかったのでありますが、こうやって生々しい事例を目の当たりにしますと、やはり改めてその存在価値を感じるところであります。

買収防衛策との関係や、株主総会の基準日に関する法的論点なども、また検討したいところではありますが、とりあえず興奮さめやらぬまま、ジャストの印象だけで書かせていただきました。内容が偏向している等、また誤りやご異論がございましたら、どしどしとご指摘いただけますと幸いです。

(4日夕刻:追記)

本件についてはあまり新聞等でも報じられていないみたいですね。ところで、株主総会開催禁止の仮処分申立書において、架空取引に関与したとされる会社の上場親会社より、本件に関する見解が公表されております。(株式会社ソフィアホールディングス→春日電機株式会社開示内容に関する当社の見解)エントリーの公平を期するためにも、ご参照いただければ・・・と思います。

(金融商品取引法193条の3)

(法令違反等事実発見への対応)
第百九十三条の三

 公認会計士又は監査法人が、前条第一項の監査証明を行うに当たつて、特定発行者における法令に違反する事実その他の財務計算に関する書類の適正性の確保に影響を及ぼすおそれがある事実(次項第一号において「法令違反等事実」という。)を発見したときは、当該事実の内容及び当該事実に係る法令違反の是正その他の適切な措置をとるべき旨を、遅滞なく、内閣府令で定めるところにより、当該特定発行者に書面で通知しなければならない。
2  前項の規定による通知を行つた公認会計士又は監査法人は、当該通知を行つた日から政令で定める期間が経過した日後なお次に掲げる事項のすべてがあると認める場合において、第一号に規定する重大な影響を防止するために必要があると認めるときは、内閣府令で定めるところにより、当該事項に関する意見を内閣総理大臣に申し出なければならない。この場合において、当該公認会計士又は監査法人は、あらかじめ、内閣総理大臣に申出をする旨を当該特定発行者に書面で通知しなければならない。
一  法令違反等事実が、特定発行者の財務計算に関する書類の適正性の確保に重大な影響を及ぼすおそれがあること。

二  前項の規定による通知を受けた特定発行者が、同項に規定する適切な措置をとらないこと。

3  前項の規定による申出を行つた公認会計士又は監査法人は、当該特定発行者に対して当該申出を行つた旨及びその内容を書面で通知しなければならない。

12月 4, 2008 監査役の理想と現実 | | コメント (19) | トラックバック (1)

2008年9月17日 (水)

「名ばかり監査役」に衝撃の一喝(荏原・社外監査役)

最近の日本経済新聞の記事のなかで、私が「さすがプロの記者は違うなぁ」と読み応えを感じましたのはアーバンコーポレーションとメリルリンチ、パリバの攻防を追った連載記事、そしてJR西日本尼崎事故の元経営陣の書類送検までを追った連載記事「企業の不作為」でありました。そして日経ビジネス誌における最新号(9月15日)の「敗軍の将、兵を語る」も、これまた(上記日経連載記事の衝撃に劣らず)スゴいですよ。荏原の「現役」社外監査役でいらっしゃる大森義夫氏、ついに登場であります。タイトルもズバリ

          「不正暴けず、逆にスパイ扱い」。

大森氏の件は当ブログにおきましても、すでに「社外監査役の乱」シリーズとして二度ほどご紹介いたしましたが、結局のところ計算書類の承認決議が得られた荏原社の株主総会を伝える新聞記事も比較的おとなしめの内容でしたので、「あれ?監査報告書ではずいぶんと過激なご意見だったのに、どうしちゃったんだろう?」と思っておりました。しかし、この「敗軍の将」シリーズで、大森監査役は思いのたけを語っておられます。

「今後も荏原が事実を明らかにすることがなければ、最終的には私は提訴も辞さない構えです。」

なお、私は新聞報道を読んで「あれだけ監査報告書で『コンプライアンス上の問題あり』と意見を述べられたのであれば、株主総会においても大森監査役自ら、株主に対して説明責任を尽くすべきではなかったか」と疑問を呈しましたが、この大森氏のお話によれば、きちんと総会の場において自ら「理由と背景について」説明された、とのことであります。(そうとは知らず、たいへん失礼をいたしました。m(__)m)そして、この「敗軍の将」シリーズにおきまして、おそらく荏原社の株主総会でも説明された(であろう)「経理帳簿に虚偽記載のおそれがある」とした意見理由及びその背景事情が赤裸々に語られております。(ちなみに、記事の公平性への配慮から、荏原広報室の反論インタビューについても囲み記事として掲載されております。しかし、荏原社の役職員の方々は、今週号の日経ビジネス、どんな思いで読んでおられるのでしょうか。)

ご興味のある方は、ぜひご自身でお読みいただくのがよろしいかと思いますが、このインタビュー記事におけるポイントはいくつかあると思います。ひとつめは

「これまでの4年間は、少しおかしいな・・・と思っても、会計監査人も承認しているし、他の4名の監査役も問題なしと言っているから、何も言わず黙って署名押印していました」

ということで、いきなりの「ご乱心」とは言い切れないところであります。いくら非常勤社外監査役といいましても、5年ほどの就任期間を経過すると、大きな上場企業でも「当該会社の人的な力学」が手に取るようにわかるはずであります。たとえ社外監査役に諸々の情報が直接的に入らなくても、周囲の環境の変化から、ただ事では済まない事情を察知することは十分可能であります。もし4年間沈黙されていたのに、今回黙っておれない状況になった、ということを経営陣側にとって有利に推測するためには、なにか別件の事情によって経営陣と大森監査役が対立することになった、という経緯が必要になってくるのではないでしょうか。もし、そういった事情もないということであれば、当該監査役が真摯な気持ちで監査役としての職責をまっとうしようとされた、との推測がこの「4年間の沈黙」の事実によって浮上するようにも思われます。

ふたつめは、本来経営者トップとの利害関係が一致するのが通常である顧問弁護士の方が、会社側にとって極めて不利な(不都合な?)事実と証拠を握っておられたようでありまして、この顧問弁護士の方のレポート内容と、会社側設立に係る社外評価委員会によるレポート内容とが食い違っている、とのことであります。あくまでも一般論ではありますが、顧問弁護士は、独立社外調査委員とは異なり、クライアントである顧問企業を守る立場にあるのが通常ですから、その顧問弁護士があえて顧問企業にとって極めて不利な内容のレポートを「公表」したことは、そのレポート内容の信ぴょう性が高いことを示していると推測するのが自然であります。したがいまして、監査役としては、この「信憑性が高いレポート」と、外部委員会のレポートとで、その内容に大きな食い違いが生じた場合には、どちらの事実が正しいものなのか、調査することはむしろ自然ではないかと思われます。この顧問弁護士の方の把握されている内容とその証拠に関する大森氏の証言が、かなり具体的でありまして、これがインタビュー記事の内容を鬼気迫る雰囲気にしております。(内容はここでは申し上げませんが)

そして三つめは、大森氏の独自調査に対して、経営陣が調査の続行を承諾をしなかった、という点であります。(ここは会社側は異なる見解です。会社側としては大森監査役の調査を妨害をしたことは一切ない、と反論されています)ここで問題は、(かりに大森監査役の言われるところが事実だとするならば)なぜ経営トップには監査役の調査を拒否する権限があるのだろうか?という点であります。これは(どちらに味方する、ということではなく)素直に疑問を感じます。会社法381条1項では「監査役は取締役の職務の執行を監査する」と規定されており、同条2項では「監査役は、いつでも会社の業務、および財産の状況を調査することができる」と規定されているのでありまして、同976条4号では「会社が正当な理由なく、これらの調査を妨げたときは、その取締役等に罰則の制裁が科せられる」ことになっております。つまり正当な理由がないかぎり(監査役による権限濫用にあたらない限り)、監査役の業務・財産調査権は何らの制限なく行使されるものであって、顧問弁護士との面談を妨害するような行為があったとすると、それは制裁の対象になってしまうかもしれません。(もちろん、当該企業の顧問弁護士と面談することが、はたして監査役の調査権限の範囲内にあたるかどうか、といった問題はありそうですが。)だからこそ、会社側としては、大森氏の調査をなんら妨害するようなことはなかった、あくまでも顧問弁護士自身から面談を断ってきたのだ・・・といった説明になるのでしょうね。(ただし、他にも取締役がどうして監査役からの事業説明への協力を拒絶できるのか、という問題もありそうです)

大森氏は今回の社外監査役の乱によるも、辞任することなくいまも監査役として執務しており、全国の監査役に対して「名ばかり監査役に甘んじてはいけない」とのメッセージを送り続けておられます。このたびのインタビュー記事においては、他の4名の監査役の方々はどのように思っておられるのか、といった点も気になるところではあります。今回の件につきましては、監査役の立場からみて賛否両論があると思いますが、いずれにしましても、先日ご紹介したニチロ社の元監査役の方の対応なども含め、ぜひとも監査役の方々にお読みいただき、いろんなご意見をうかがってみたいものであります。

9月 17, 2008 監査役の理想と現実 | | コメント (3) | トラックバック (0)

2008年7月25日 (金)

続・「監査役の乱」を冷静に考える

Tushinbo_img 「アホくさ~・・・」と思いつつ、ついやってしまいましたブロガーの間でブームとなっている「ブログ通信簿」。(どうしても一回やってみないと気が済まなかったので・・・・・)

「あなたは『放送委員』タイプです。周囲に大きな影響を与えています。もっと自分の意見を言ってみてもいいのでは。よく話題にしている資産運用の知識や経験をいかして、警務官を目指しましょう。」ですと。。。(最後のほうは若干意味不明な気もしますが)

うーーーん、なんか当たっているような、いないような。しかしブログ年齢が実年齢よりかなり上なのは、ちょっと悲しい気分になりました。(笑)たしかに「もっと自分の意見を言ってみてもいい」かもしれませんね。でも、毎日の本業でいやがうえでも強烈に自己主張していますので、ブログではこの程度で十分のような気もします。「マメ度」はもうちょと上だと思ったのですが、こんなもんですかね↓

さて、本日(24日)は土用の丑の日ということで、ウナギに関連する話題をひとつ。本日午前中にある新聞社の記者さんとお話していたのですが、今年の荏原社の株主総会ような「監査役の乱」が実は昨年の株主総会でも発生していた、ということをお聞きしました。(私はこの事件、まったく存じ上げませんでした。グーグルでも検索してみましたが、ネットニュースにもならなかったようですし、ブログ等でもほとんどとりあげられた形跡はないようです。)

昨年マルハニチロHDに統合される前の株式会社ニチロの最終事業年度に係る監査報告ですが、4名いらっしゃる監査役の方のうち、おひとり(Y常勤監査役)が、その監査報告書のなかで単独意見を述べておられます。

監査役Yの意見:

監査役Yは内部統制システムに関する判断には同意しない。内部統制システムに関する取締役の職務執行については相当であるとはいえない。平成18年4月常務会、同月取締役会、および7月常務会において内部統制システムに関する取締役決議は法令の定めを満たしていないと監査役が指摘したにもかかわらず、取締役会にて再決議されたのは平成19年3月であった。平成18年6月、監査役会の決議に基づき、監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制の整備について使用人の配属をはじめとする4項目の申し入れを行ったが、再三の督促にもかかわらず、回答は平成19年3月まで引き延ばされ、取締役会にて取締役全員の謝罪の意向が表明されたものの、実効ある対応は今なお未実施のものが多い。また、複数部署における監査役監査実施時の虚偽報告の疑い、不適切な売上計上の疑いなど、看過できない幾つかについて適切なる報告および是正措置を求めたが、相当日数経過後も実施されなかった。さらに、会計監査人による期中監査時の改善指摘事項が相当日数経過後も是正されない事態もある。商品に散弾銃の銃弾が混入した事態を社内規則「危機管理マニュアル重大事故処理基準」の重大案件に該当しないと判断し、処理された。これらの一つ一つは法令あるいは定款に違反する重大な事実とまではいえないが、取締役に規範意識の弛緩があり、再発防止のための諸施策が有効かつ適切に実施されたとはいえない。したがって、内部統制システムに関する取締役の職務の執行が適切になされ、相当であるとはいえない。

先日の荏原社の社外監査役の方による「事業報告を相当と認めない」とする意見よりも、こちらのY監査役ほうが数段具体的かつ論理的な内容であり、監査役による内部統制システムの相当性監査のひとつのモデルではないかと思います。とりわけ、意見内容をみますと、内部統制システムの運用面に関する「重大な欠陥」(重要な欠陥ではありません)と思料される根拠事実を明示しているところが説得的だと思われます。このY監査役は、昨年6月に退任されたそうでありまして、退任前に思いのたけを監査意見で述べたと推測することも可能でしょうが、たとえそうだとしても、ここまで経営陣による内部統制システム構築に向けた取り組みに問題がある、と言い切るのはたいしたものだと思います。(ちなみに、このY監査役は某新聞報道によりますと、1967年にニチロに入社された常勤監査役さんです。)

ウナギ産地偽装で揺れている神戸の会社は、そもそもマルハ側の子会社だったわけですが、ニチロ側における、このY監査役が指摘していた内部統制システムの欠陥への指摘を統合後も真摯に受け止めていれば、もう少し別の展開があったのかもしれません。とくに上記意見には財務報告の信頼性に大きな疑問を抱かせるような具体的な指摘があり、もし監査役がこのような意見を述べている場合に、内部統制報告制度(J-SOX)施行後の内部統制の有効性判断のための経営者評価はどうなるのでしょうか?内部統制監査人の意見もほぼ固まった時点で、たとえば「内部統制は有効であるとする経営者の評価は適正と判断する」と考えている場合に、このような監査報告書が出てきた場合、「監査役の少数意見だから・・・」ということで無視してもいいものでしょうか?(ここで監査役が「独任制」の機関である意味が効いてくるように思います)

7月 25, 2008 監査役の理想と現実 | | コメント (5) | トラックバック (2)

2008年6月22日 (日)

「社外監査役の乱」を冷静に考える(その3)

社外監査役のおひとりが、事業報告を承認できないとして、株主総会で(異例の)計算書類承認決議が上程される荏原製作所(呼称 荏原)でありますが、6月17日付けにて、計算書類承認の件(1号議案)に関する補足説明がHP上で公開されております。(第143回定時株主総会第一号議案に関する補足説明)きちんと会社法上の「計算書類」と「事業報告」の違いにまで言及されているようです。しかしながら、6月20日(金)の日経新聞朝刊記事によりますと、この計算書類の承認決議について、アメリカの議決権行使助言会社であるグラス・ルイス社が、株主に対して(会社上程議案を)承認しないように、と助言を行っているとのことであり、そればかりか、取締役会の信頼性に大きな疑いがもたれる、として取締役5名選任の件についても反対するように促しておられるようで、社外監査役の「異議」が、相当に大きな影響を及ぼす様相になってきたようであります。

上記補足説明によって明らかにされたとおり、この社外監査役さんは、計算書類について承認をしないのではなく、事業報告について承認しないということですので、会社法上は計算書類の承認を株主総会にはかる必要はなく、いわば「アンケート」的な総会決議をもって「念のため」の承認を得る、ということになります。しかし、そういった総会決議を会社側が上程する、ということであれば、2点ほど疑問が湧くところです。

まずひとつめは、上程される議案について、株主の皆様は「アンケートみたいなもの」であることは了解されているのでしょうか?それとも、そんなことは株主の方々は知る必要もないのでしょうか?私の推測では、このたびの計算書類の承認決議については、株主の方々は自分たちが承認してもしなくても、計算書類が適法に成立しているものであることはご存じないのではないかと思います。少なくとも、この承認決議が可決された場合はどうなるのか、また否決された場合には、計算書類はどうなるのか、そのあたりは取締役から株主に対して事前に説明責任を果たす必要があるのではないかと思いますが、いかがなものでしょうか。そうでなければ、株主の皆様は単なるアンケートなのか、それとも、もし否決された場合には、たとえば計算書類を作り直すとか、ある一定の効果のあるものなのか、知る由もなく「なんのために承認決議をするのか」議論さえできないものになってしまうはずであります。

そしてもうひとつは、このたびのような「アンケート的」な総会決議が上程可能なものであるならば、今後株主側から会社への要望的な総会決議を求めることも可能になるのではないでしょうか?取締役会設置会社の場合には、株主総会で決議されるべき事項は、会社法もしくは定款において規定されているものに限られるはずでありまして、買収防衛策導入時の(定款変更議案を上程しない場合の)総会決議は「勧告的決議」と言われるところであります。それと同様、このたびの計算書類承認決議も、いわば会社法には規定されていないことを総会で決議するわけですから、もし今後株主側から会社経営における基本方針への提案などを勧告として求める場合には、これを総会にかけることが可能になるのでしょうかね?会社自ら勧告型決議を求めうることを宣言するわけですから、株主提案の場合にはこれを認めない理屈というものは立たないように思いますね。けっこう、考え出すと難しい問題が含まれているのではないでしょうか。

経済産業省の企業価値研究会から新たに公表される買収防衛策指針のなかでは、(ブルドックソース最高裁判決からは少し距離を置いて)防衛策の導入および発動に関しては、なにもかも株主総会の意思決定にゆだねるのではなく、むしろ取締役会における責任をもって判断し、株主には説明責任を果たすべし、というような基本方針が描かれているものと理解しております。この指針のように、最近は取締役(会)による説明責任を尽くすことと、株主総会における承認を得ることで取締役(会)としての責任を回避することとはかなり明確に分けて検討する必要性が説かれる機会が増えてきたものと思います。もし、取締役会の判断において、重大な事項の決定を株主総会に委ねるのであれば、そもそも「責任逃れ」とは言われないように、株主が決議すべき議案の内容については十分な説明責任を果たす必要があるのではないでしょうか。6月17日付けの荏原社リリースのなかでは、「株主総会において状況を十分に説明したうえで、株主の皆様に賛否を求めることとした」とありますが、議決権行使書面を行使する株主の方々にとりましては、会社の事前のリリースがすべてでありますので、せめて承認決議が可決された場合はどうなるのか、否決された場合にはどうなるのか、「アンケート」的決議であるがゆえに、明確に説明されていることが最低限度必要なのではないか、と思った次第であります。

6月 22, 2008 監査役の理想と現実 | | コメント (5) | トラックバック (0)

2008年6月 9日 (月)

「社外監査役の乱」を冷静に考える(その2)

土曜日(6月7日)の日経新聞(企業総合面)におきまして、「荏原、議案として株主に問う」と題する記事が(かなり大きく)掲載されており、この記事には誤解を招くおそれがある、とのことで、荏原製作所(呼称 荏原)社が、日曜日に適時開示情報を出しておられます。(昨日の一部報道について)この荏原社の開示情報を読みまして、私のエントリーにも一部不正確な箇所がありましたので、訂正をさせていただきます。

定時株主総会招集通知の添付書類43頁、44頁に記載されております監査報告書に、O社外監査役の付記事項が掲載されておりますが、O氏はコンプライアンス上の理由から、事業報告は承認しない、とあります。しかし計算書類等に関する会計監査人の監査方法及び結果については承認しない(適法とは認められない)とは明確には述べておられないようであります。昨日のエントリーでは、O氏が事業報告を承認しない理由中に「本件に係る調査報告書等には、経理帳簿の虚偽記載を疑わせる記載があり」と記載されていることから、これをもって会社側がO氏の計算書類への承認がないことと解釈したと書きました。しかし、日曜日の適時開示情報では、どうもそのように会社側が解釈した、というわけでもなさそうであります。会社側は端的に「O氏が決算を承認しないからではなく、事業報告を承認しない理由のなかで、経理帳簿の虚偽記載を疑わせるもの、との記述があるから」と説明されています。

ところで、監査報告書のなかで、個々の監査役が監査役会報告の内容と異なる内容を報告する場合には、「付記事項」を記載することができるわけですが、監査報告書が事業報告に関する監査報告と、監査役(会)による会計監査報告を併せて記載していることから、監査役会報告における付記事項につきましても、「事業報告に関する付記事項」(会社法施行規則130条2項)と、「会計監査に関する付記事項」(会社計算規則156条2項)の二種類を区別する必要があります。そこで、この荏原社の監査報告書では、O監査役は、事業報告を承認できない、としているわけですから、監査役会は、会社法施行規則130条2項による付記事項を記載して報告していることになりそうです。(具体的な事実としては、会社法施行規則129条1項3号および4号事由でしょうか)

つぎに会計監査人設置会社の特則として、株主総会で計算書類等の承認決議を不要とできる場合(会社法439条)といいますのは、会社計算規則163条によりますと、(平たくいいますと)監査役(監査役会)が会計監査人の監査方法又は結果について相当ではないといった意見が存在しない場合、もしくは「監査役会による会計監査に関する付記事項」として、会計監査人の監査方法、結果について相当でないことを記載していない場合を指していることになります。ここで疑問に感じますのは、荏原社としては、監査報告書の内容につきまして、O監査役が会計監査人の監査方法、監査結果について相当でないことを付記した、と解釈されたかどうか、ということであります。しかし会社側としては、O監査役は決算を承認しないとは言っていない、とはっきり明言しておりますので、会社側としても会計監査に関する異議までO監査役が唱えているものではない、と解釈しているように考えられそうであります。

そうしますと、どういった根拠で計算書類について、株主総会による決議を求めることになるのでしょうか?そもそも、監査役のひとりでも計算書類について適法意見がない場合には、計算書類は確定しないわけですから、取締役は計算書類について株主総会の承認を求める必要があります。しかし、会計監査人や各監査役が適法意見を述べているにもかかわらず、さらに株式総会における計算書類の承認を求めうるかどうか、ということについては有力な学説は(定款上で承認を総会で求めることができる、とされている場合以外は)否定的に解釈されています。おそらく、会計監査人設置会社の計算書類の内容は複雑であって、会計専門家による適法性の担保があって、監査役が適法意見を述べている場合には、そられの責任のもとで確定させることを期待しているからではないかと考えられます。本件におきまして、O監査役が事業報告への異議理由のなかで「経理帳簿の虚偽記載の疑い」を述べているからといって、それでは「念のために」株主総会で承認決議を求める、ということは果たして適法なのでしょうか?本来、監査役のおひとりが、虚偽記載への疑問を呈した場合には、明確に会計監査の方法、結果を相当と認めない、と付記したうえで承認決議を求めるべきだとは思うのですが、どうもこのような監査報告書の付記記載となった理由と、これを会社側が、どのように判断して承認決議を求めることとなったのか、理屈のうえでよくわかりません。(どなたか教えていただければありがたいです)報告事項であっても、それなりに十分株主が説明を受ける機会は確保されていると思うのでありますが。

6月 9, 2008 監査役の理想と現実 | | コメント (5) | トラックバック (0)

2008年6月 7日 (土)

「社外監査役の乱」を冷静に考える

金曜日の夜はほとんど更新をお休みしておりますが、きょうは「野村證券の事実調査報告と再発防止策の公表」や「テレビ朝日、朝日新聞の株式相互保有」、「三輪そうめん偽装表示」などなど、エントリーとして書きたい出来事がたくさんありました。しかしなんといいましても、当ブログにお越しの皆様であれば、「きっとエントリーするにちがいない」と予想しておられるとおり、「社外監査役の乱」について、とりいそぎ速報版としてエントリーしておきたいと思います。

荏原、前期決算承認を株主総会議案に、監査役の一人が承認せず(日経ニュース)

「決議事項に関するお知らせ」(荏原製作所IRリリースより)

荏原製作所には5名の監査役がいらっしゃいますが(常勤2名、非常勤社外3名)、その監査役会の監査報告書によると、事業報告の監査結果は「相当と認める」ものであり、計算書類についても、連結・単体とも監査法人の監査を「相当と認める」ものとされております。しかしながら、会社法施行規則130条2項に基づき、監査役と監査役会との監査意見が異なる場合の「付記事由」が記載されており、監査役O氏が以下のとおり、相当とは認められない理由を述べておられます。

「コンプライアンス上重大な疑義があるので、本事業報告を承認しない<その理由>元経営幹部による会社資金の不正支出に対する、取締役および取締役会の調査は不十分であり、当職は会社法381条に基づき、本件に関する調査を実施したが、取締役は調査に必要な情報の開示を行わず、当職が要求した関係者に対するヒヤリングにも対応していない。したがって取締役の職務執行に関し、法令に違反し又はその疑いがあると認められる。また、本件に係る調査報告書には、経理帳簿の虚偽記載を疑わせる記載があり、本事業報告は承認できない」

会計監査人設置会社の場合、監査役(監査役会)が計算書類に対する会計監査人の適法意見に同意する場合には、計算書類に対する株主総会での承認決議は不要でありますが(会社法439条、会社計算規則163条)、監査役(監査役会)が異議を述べる場合には、原則(438条)に立ち返って総会の承認決議を要するものであります。なお、監査役は独任制の機関ですので、監査役会とは別に、たとえ一人でも異議を述べた場合には計算書類には承認を要するものとなります。また、本件では社外監査役であるO氏は、「事業報告については承認できない」と説明されておられますので、計算書類についてはどうなんだろうか?と若干疑問も生じるところでありますが、会社側としてはO氏が「経理帳簿の虚偽記載」を問題とされているようですので、やはり「計算書類についても同意できないもの」と厳格に と同様に解釈しているようであります。また、社外監査役O氏が理由として述べているところが事実であれば、会社法上の内部統制システムの構築上の瑕疵(内部統制システムの基本方針決議の内容として、監査役への報告体制の整備が掲げられております)も問題になってこようかと思われます。

ところで、この社外監査役のO氏は、元警視庁公安部長、元内閣情報調査室長、現ライブドア監査役でいらっしゃる方で、この1年の荏原製作所の取締役会出席率、監査役会出席率をみましても、とてもまじめに出席されていらっしゃるようです。また、他の社外監査役さん方も、みなさまご承知の錚々たるメンバーの方々、そして実際に社内調査を担当した3名の弁護士さん方も、コンプライアンスで著名な先生方、また再発防止委員会の外部委員の方々もしかり・・・・・  ということで、とても「社外監査役の乱」などと、面白おかしくエントリーできそうな雰囲気ではありませんので、続編につきましても、冷静に問題点を分析していきたいと思っております。果たして総会当日、どういったことになるのでしょうか?株主さん方からの質問に対して、O氏はどのように説明されるのでしょうか?また、会計監査人は出席して自らの調査内容を説明されるのでしょうか?(とりあえず、つづく・・・)

PS ところで、(話は変わりますが)野村證券の報告書において、インサイダー取引をやってしまう社員は断然29歳から31歳くらいに集中している・・・なる報告は、スゴイなぁ(^^;;  「アラフォー」ならぬ「アラサー」ということなんでしょうか。

6月 7, 2008 監査役の理想と現実 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2007年6月20日 (水)

監査役の外観的独立性

大手監査法人さんの「内部統制コンサルティング」のプレゼンによりますと、IT統制というのは、だいたい第3フェーズあたりで指導する、といったところなんでしょうか。もし私もコンサルティングに立ち会う機会がございましたら、ぜひとも「IT統制とメール管理」の関係につきまして意見交換をさせていただこうと思っております。(まだまだ貴重なご意見をいただいておりまして、本当にありがとうございました。ここまできますと、管理人は議論の整理をする必要がありそうなんですが、なかなか難しいですね。)

さて、「監査役の理想と現実」をまじめに考えるシリーズでありますが、先日は「店長兼務監査役」さんのお話をまじめに採り上げました。本日は、不正会計によって創業者会長さんが引責辞任をされたブックオフさん(ブックオフコーポレーション、以下BOといいます)について、すこしだけ気になることがございますので、ブログにて検討させていただきます。(朝日新聞ニュースはこちら)先月9日頃に発売されました週刊文春記事により、BOさんのリベート疑惑等が発覚しまして、5月中旬には社内で外部委員を中心とした調査委員会が設立され、その中間報告(要旨抜粋)が6月19日にリリースされたようであります。この文春記事のなかで、外部委員会が検証したのは4項目ございますが、そのなかのひとつの項目として「BOの監査役会は3名の社外監査役で構成されているが、3名とも学生時代の仲間であり、大きな疑問がある」といった点であります。(ちなみにBO社のコーポレートガバナンス報告書を読みますと、1名が常勤社外監査役、2名が非常勤社外監査役となっております)

上記朝日新聞ニュースでも指摘されておりますが、外部調査委員会といいましても、委員長には顧問弁護士さんが就任されておられるようで、そもそも経営者個人もしくは会社の利益のために活躍される顧問弁護士さんが、公正中立に事実認定を行うべき外部調査委員会の委員長にふさわしいのかどうか、少し疑問が残るところであります。ただ、この調査委員のメンバーは、いずれも企業コンプライアンスの分野で著名な弁護士の方々でありますので、そういった疑念は「百も承知」のうえでの構成だと思います。(おそらくなんらかの合理的な理由があろうかと思われます)ただ、それよりも私がビックリいたしましたのは、「監査役制度に問題がある」と指摘された内容を検証するための調査委員会が「監査役会の下部機関として設立」されているところであります。なぜそうなったのかと申しますと、先ほどの中間報告によりますと「(調査委員会の)独立性を担保するため、調査委員会は今後当社監査役会の直轄とする」とあり、「調査委員会の選任は委員長および監査役会に一任する」とのことであります。(いずれも臨時取締役会にて決定された、とのこと)しかし、社外監査役3名が学生時代の友人どうしであって、監督機能が十分行使されなかったのではないか、といった疑惑を検証するにあたって、その監査役さん方3名で構成されている監査役会に独立性が担保されていると言えるのでしょうか?また、その監査役会が選任した外部第三者委員の方々に、そういった監査役会の機能検証について公正中立な判断が期待できるものなのでしょうか?

ちなみに、この中間報告(要旨)によりますと、

BO社の監査役3名につきましては、たしかにいずれも同じ大学の同窓生で、合唱団仲間であるとの事実は認められるが、今般、厳正な本調査を委託してきたことからも明らかなとおり、職務執行に公正を欠くことは考えがたい、

との結論に至っておりまして、おそらく最終報告におきましても、この監査役会の検証活動といったことは、ほぼ同様の結論で終止符が打たれるものと思われます。過去の職務執行の公正性を判断するにあたって、問題発覚後の監査役の対応を根拠とすることは、(その対応がおよそ自発的になされたものであることが立証されないかぎりは)おそらく説得性に欠けるものだと思われますので、なんとなく、この調査委員会の判断は苦しい理由付けになっているような気がいたします。なお、「仲良し三人組」がなぜ、外観的独立性からみてよくないのか?といった論点もあろうかと思いますが、「経営者がへんなことをしていたら、辞任してでも抗議しますよ」といった監視役が一人でもいることによって、経営陣が業務執行や役員会に臨む気持ちが違ってくると思います。あの仲良し三人組だったら、これくらいのことは大目に見てくれるのでは・・・といった甘い気持ちを経営者に抱かせるとすれば、それは大きな問題だと考えます。誤解を恐れずに言わせていただくとすれば、たとえ不祥事を隠蔽するにしても、そもそも監査役が「鼻につく」経営者であれば、監査役にいろいろと突っ込まれてはマズイと考えるでしょうから、このたびの文春記事にようにたやすく社員に内部告発されるような尻尾をつかませないほどに巧妙に隠蔽するのではないでしょうか。「あの監査役さんたちだったら・・・」といった甘い考えがあったために、結果として脇が甘く、容易に従業員にも不祥事の発端が垣間見えたのではないか、とも考えられます。(注 これは決して、不祥事隠蔽を肯定するものではございません。)

もちろん、私は「BO社の監査役の方々が、本当にまじめに監査役としての職責を全うしておられたのか疑わしい」と邪推しているわけでは決してございません。BO社のガバナンス報告書によりますと、この監査役の方々は(平成18事業年度におきまして)、ほぼ全回取締役会に出席されておりますので、おそらくまじめに経営者としての経験を生かしつつ監査役としての職務に取り組んでおられたのだと推測いたします。ただ、あえて申し上げるとすれば「外観的な独立性」といったところに問題があったのではないかと思います。監査役会を構成する3名の監査役さんが、代表者の大学の先輩であり、また同じクラブの仲良しグループであったということになりますと、「本当に厳しい意見を経営陣に申し述べることが期待できるだろうか」と普通に疑問が湧いてくるのではないでしょうか。たとえそんなことはない、と当事者が感じておられるとしましても、やはりそういったことを疑われないだけの外観的独立性も重要ではないかと思います。経営陣が監査役に対して、そういった外観的な独立性など、あまり意識されていなかったことが、このたびの調査委員会の人選や監査委員会直轄、といった組織構成にも影響しているのではないでしょうか。経営者自身からみて「なんか異分子的な人だなぁ」と少し違和感を感じるような人を監査役に招聘できる(たったひとりでも結構かと思いますが)度量というものも、企業のコーポレートガバナンスのあり方にまで目を届かせている株主監視の時代には、必要な能力のひとつではないか、とふと考えさせられるような事例であります。

この監査委員会は、取締役会に中間意見を申し述べるにあたって、社外の法律専門家(これもたいへん著名な方々)の意見を参考とされているようですので、かなり厳正に審査されたうえでの報告書となっているようでありますが、一番大きな問題であるリベート疑惑をはじめ、いくつかの検証項目につきましては、厳正な内容の報告書と評価されるにせよ、どうも監査役に向けられた疑惑も含めての調査報告書ということになりますと、ずいぶんと監査役制度自体が軽んじられているのではないか、といったことが思い浮かぶわけでして、かなり疑問が残るところではないかと思っております。

6月 20, 2007 監査役の理想と現実 | | コメント (6) | トラックバック (0)

2007年6月14日 (木)

使用人兼務常勤監査役

昨日の「限界論」にはコメントやメールをいただきまして、ありがとうございました。まだまだ議論したいことがございますので、また昨日のエントリーにも、お気づきの点がございましたらコメントをいただきたいと思っております。(どうかよろしくお願いします)ところで、金融庁のHPで金融・資本市場の国際化に関するスタディグループの中間論点整理がリリースされております。「金融高等裁判所創設」の話題とか、独占禁止法における課徴金制度と平仄を合わせながら本年度中に課徴金制度の改正を行う予定、その他今後の金融資本市場のあり方で問題となりそうな点が網羅されていて、たいへん興味深いものであります。

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さて、6月13日の企業情報(適時開示情報)を閲覧しておりましたところ、(どこの企業さんかは申し上げませんが)不正な会計処理に監査役さんが関与されていた、ということで、責任を感じて辞任された・・・といった情報が開示されておりました。しかも、その監査役さんは3年間ほど業務執行者(使用人)を兼務されておられたそうでして、その使用人という立場で経費計上時期の遅延、売上の早期計上などの経理操作に関与されていたようであります。(こういった監査役の職務に絡む話題というものは、私はとてもビックリするのですが、ほとんどニュースにはならないんですね。ん?でも会社法上、監査役は使用人を兼務することができましたっけ?)

先日の大杉教授(中央大学法科大学院)の「監査役制度改造論」(取締役兼務監査役)ではございませんが、ご承知のとおり、監査役は取締役や支配人、その他使用人等の業務執行者の地位を兼職することはできません。(会社法335条2項)では、間違って監査役と使用人の兼職が行われたら、株主総会の効力や、監査報告書の効力は無効になってしまうのでしょうか。これはひとつの論点になりそうでありますが、判例の見解によりますと(最高裁平成元年9月19日)監査役としての職務の効力に影響が出るものではなく、そういった組織法上の監査役の行動については効力は否定されないようであります。以下、上記最高裁判例の抜粋です。

株式会社の監査役は会社又は子会社の取締役又は支配人その他の使用人を兼ねることができないものとされているが(商法二七六条)、監査役に選任される者が兼任の禁止される従前の地位を辞任することは、株主総会の監査役選任決議の効力発生要件ではないと解するのが相当である。けだし、商法二七六条(原文のママ)は監査役の欠格事由を定めたものではないと解すべきであるのみならず、監査役選任の効力は、株主総会における選任決議のみで生ずるものではなく、被選任者が就任を承諾することによって発生するものというべきであって、会社又は子会社の取締役又は支配人その他の使用人の地位にある者を監査役に選任する場合においても、その選任の効力が発生する時点までに取締役等の地位を辞任していれば、右兼任禁止規定に触れることにはならないからである。そして、監査役に選任された者が就任を承諾したときは、監査役との兼任が禁止される従前の地位を辞任したものと解すべきであるが、仮に監査役就任を承諾したものが事実上従前の地位を辞さなかったとしても、そのことは、監査役の任務懈怠による責任(商法二七七条、二八〇条一項、二六六条ノ三第一項)の原因となりうるのは格別、総会の選任決議の効力に影響を及ぼすものではないというべきである。そうすると、○○弁護士を監査役に選任する旨の本件総会決議は、会社の顧問弁護士が商法二七六条によって兼任の禁止される地位に当たると否とにかかわりなく、有効であるというべきであるから、本件総会決議を有効とした原審の判断は結論において正当であり、・・・・・(略)(なお、○○のところは私が一部修正しました)

なるほど、兼職禁止の条文の解釈として、使用人が監査役に選任されて、その就任の意思表示をした時点で、使用人の職務については辞任した、とみなすわけですね。したがって、その後の使用人としての職務は事実上のものにすぎないと。(しかし、これはこれで行政上の免許事由の存否に関わる問題とか、使用人の一方的な辞任の法的効力とか、新たな論点が出てきそうな気はいたしますが)しかし、上記最高裁判例におきましても、監査役としての「任務懈怠責任」が発生する場合があることは指摘されておりますので、辞任して終わり・・・というわけにもいかないケースも出てくるものと思われます。(ちなみに、上記最高裁の事例は顧問弁護士さんが監査役に就任した事例でありますが、顧問弁護士が社外監査役に就任することの是非・・・といったことは、すでにこのブログでも一度ご紹介したとおり(顧問弁護士と社外役員就任問題)かなりデリケートな問題を含んでおります(^^; ただ本日の話題とは少し離れます。)

正論からいえば、監査する者と監査される者とが同一人に(事実上)帰属するわけでありますので、到底監査役としての監督を期待できるわけでもなく、本件はこういった兼職問題が不正会計事件の発生を容易にしてしまったと言えそうな事例でありますが、他の3名の監査役さん(この企業は4名の監査役のいらっしゃる監査役会設置会社です)とか、6名の取締役さんたちは、3年間も会社法上の兼職禁止規定(商法上の規定も同様)の存在を知らなかった、もしくは放置していた、といったあたりが事実なのかもしれません。今回は監査法人さんからの指摘によって不正会計処理が発覚した、ということなんですが、外部第三者は兼職の事実を知りえないとしましても、内部経営陣の方々がこういった問題を軽視しておられた(もしくは無視しておられた)、ということは、結局のところまだまだ監査役という職責の重要性というものが中堅上場企業レベルでは意識されているところまでには至っていない、といったことを物語っているのかもしれません。(ちょっと悲しいですけど・・・そういった企業が多くないことを願いますが。)

ただ、使用人兼務監査役(事実上)という方が、不正会計事件に関与していて、そのために会社に損害が発生してしまったという場合、他の監査役さんや取締役の方々の責任問題といったことも検討課題に浮上してくるかもしれません。「これはマズイぞ」といった声が誰からか上がるのが普通じゃないかと思うのでありますが、こういった兼職状態が3年も続いていたとなりますと、それこそ内部統制システムの構築義務違反だとか、他の監査役さんの任務懈怠だとか、取締役らの監視義務違反だとか、そういった監督上の注意義務違反がかなり認められやすい環境になったのではないかと思われます。これは余程、今後のガバナンスのあり方を検討していかないかぎり、それこそ「統制環境」に重要な欠陥があるとみなされてしまうかもしれません。(ちなみに、この企業さんは現在監理ポストのようであります)

6月 14, 2007 監査役の理想と現実 | | コメント (8) | トラックバック (2)

2007年5月29日 (火)

会計制度監視機構のひさしぶりの提言

昨日は「内部統制と代表者の関与」のエントリーにつきまして、いろいろとご意見ありがとうございました。やはり予想通りといいますか、現実の内部統制システム(現状把握と整備)構築の場面におきましては、経営者と担当者(外部コンサル)との距離はかなり遠いものかもしれません。(まだ他にもご意見がございましたら、昨日のエントリーにコメントを頂戴できますと幸いです。ボヤキに近いものでも結構ですんで。)

さて、先週金曜日の日経新聞の記事にもありましたように、会計制度監視機構より、本当にひさしぶりに「独立性の高い監査を実現するために(監査役と監査法人のあり方について)」と題する提言が公表されました。(提言内容はこちらのPDF)企業会計における不祥事が多発する原因のひとつとして、監査法人の独立性が十分に確保されていないことが問題であることから、これを監査役制度と会計監査人の関係を見直すことによって、あるべき方向を検討しよう、監査役の責任を問わずして、監査法人の厳罰のみを推進するという方向はバランスを失している感が否めないとのことで、いくつかの具体策が提言されております。公認会計士法等の一部を改正する法律案が国会で審議されているところでありますので、非常にタイムリーな提言ですね。

証券取引所の規則で(上場会社に対して)社外監査役に要求される基本的な能力や要件の詳細を記載した規則を策定するとか、「監査役リスト」のようなものを証券取引所が具備して、その中から上場会社に選択してもらったり、取引所が指名するなどの制度が紹介されており、それはそれで面白い提言だと考えますが、いまもっともポピュラーなご意見と思われるのが(立法論ではありますが)監査役に会計監査人の選任解任権を付与したり、報酬決定権を付与することで会計監査人の独立性を確保しようといった提言であります。これは会計制度監視機構に限らず、いろいろなところから監査役制度と会計監査人のあり方として提言されているところであります。

この提言の趣旨は、業務監査と会計監査の最終責任者である監査役の権限を強化することで監査役自身の独立性を強化して、会計監査人はその監査役の保証された独立性のもとで会計監査業務をまっとうする、といった考え方がベースにあるようです。それは結論部分におきまして「企業会計をめぐる不祥事においては、まず経営者が断罪されるべきであり、次に監査役の責任が徹底追及されるべき筋合いである。・・・監査役の責任をなんら問わずして、監査法人の厳罰のみを推進するという方向は、バランスを失している感が否めない」と記述されていることからも理解できるところでして、たとえ監査役の指揮監督下にあったとしても、会計監査人の業務上での独立性を守ることで不祥事防止の一翼を担える存在になる、といった観点からの提言だと思われます。監査役の責任が重いわけですから、まずは徹底的に監査役こそ責任問題の矢面に立つわけで、その結果として「会計監査人の責任軽減」を導く思想といえるのではないでしょうか。

ところで、会計監査人の責任軽減といった観点から「監査役と会計監査人のあり方」を考える場合、ふたつの考え方があると思います。ひとつは監査役の権限強化による考え方(つまり立法論としての会計監査人選任解任権付与を前提とするもの。監査役の独立性の傘のなかに、すっぽりと会計監査人が入ってしまうもの)と、これまでの会計監査人と監査役との法的な位置づけはそのままにして、会計監査人の業務の一部を監査役の業務で代替させ(監査役が会計監査人の業務の手足になるもの)、その監査役の代替業務を合理的に信頼することによって(つまり信頼の抗弁を会計監査人に付与することで)、会計監査人の責任軽減をはかる、といった考え方であります。私は会計監査人の責任限度を合理的な範囲にとどめながら、かつ監査役制度の強化を図ることができるのは、後者の考え方ではないかと思っております。

といいますのも、(たとえ立法論としましても)監査役に会計監査人の報酬決定権や選任解任権を付与するとなりますと、それはもう委員会設置会社における監査委員会と同様のものになってしまい、まさに監査役が妥当性監査を行うことを認め、また経営判断にも関与することを認めることになります。ここまできますと、もはや監査役は「監査」をするのではなくて「業務執行を決定する」ことに近い業務内容になってしまいます。(注)そもそも、経営陣と会計監査人との関係からみて会計監査の独立性が毀損されてしまうことを問題提起しているにもかかわらず、期待される対象であるはずの監査役自身が「経営者」になることを認めてしまっては、なんのために独立性確保をはかろうとするのか、理解できなくなってしまうのではないでしょうか。現行の会社法が認めているところの、取締役が決定する会計監査人の報酬について「同意する」ことや、選任解任に「同意する」ことあたりが、監査役本来の監査業務と言えるスレスレの場面のようにも思われます。また、監査役の独立性強化の下での会計監査人の独立性といった概念は、たとえば金融庁による指揮監督関係や、監査法人内部における組織的監査における指揮命令関係などと、どういった関係になるのか、かなり複雑な問題を新たに抱え込むことになるのではないか、という危惧も拭いきれません。さらに監査委員会とは異なる「監査役会」において、いったい常勤監査役と社外監査役がどのような役割分担をはかるべきなのか、その理想のようなものが見えてこないような気がします。

いっぽう、会計監査人と監査役との連携協調を重視して、会計監査人がその業務の一端を監査役に担ってもらう、という考え方であれば、日常の情報収集は常勤監査役に、そして財務会計的知見を必要とする会計判断は社外取締役に期待することで、それぞれの役割に応じた職務が明確になること、会計監査人の独立性が確保されにくい分野での取締役らとの交渉関係に必要な範囲で、監査役の独立性を利用する(監査役に交渉してもらう)ことで足りるのではないかと考えられること、そしてなによりも(これは先日も申し上げましたが)監査役制度の機能が発揮されているかどうか、といったことが監視検証され、対外的に評価の対象となるのであれば、そのことが監査役制度の実質的な社内における地位向上の要因になるのではないか、と期待されるからであります。(また、もし監査役制度が若干力不足の場合には、優秀な監査役サポーターが多数存在している事実とか、監査役会専従の外部専門家が存在している事実なども、その会社が監査役制度をどの程度重視しているか、といったことも評価されることになるようにも思われます)立法論を伴っての問題提起ということになりますと、それこそ監査役制度そのものを大きく変動させるような案に魅力を感じますけれども、本当に暫定的に、監査役と会計監査人との責任上のバランスの均衡を検討する、ということでしたら、やはり監査役と会計監査人との業務における分担を基本的に考え直すほうが得策ではないでしょうか。

(注)本日のお話は、「会計監査人の責任軽減・・・責任負担のバランス・・・といった観点からみた会計監査人と監査役とのあり方」について記述したものであります。純粋に監査役の独立性強化・・・といった目的のみを追求するのであれば、こういった「妥当性監査」「経営判断への関与」を前面に出す考え方自体も十分検討に値するものと思っております。

5月 29, 2007 監査役の理想と現実 | | コメント (4) | トラックバック (0)

2006年9月 2日 (土)

監査役のジレンマ

大阪弁護士会と公認会計士協会近畿支部との共同執筆「二次合宿」に突入しております。社外監査役の実務指針に絞った共著本制作のための全体合宿ですが、朝から夕方まで議論をしておりますと、公認会計士さん方の会社法へ向けた思考過程というものも次第に理解できつつありまして、非常に参考になりますね。

ところで、「社外監査役の善管注意義務」といったものを検討するなかで、すこしおもしろかったのが「監査役のジレンマ」です。会社法はコーポレート・ガバナンスの一貫として、監査役制度の強化(体制整備事項のひとつとして)をはかっておりますので、一般的には監査役はその職責をまっとうするために、取締役らに対して監査役事務局の充実など、その監査環境の整備を要求するところが多いと思います。(このあたりは内部統制システム整備に関する基本方針として、各上場企業からも既に情報の開示がされております)監査役による要求の結果、専任事務局の設置まで実現した企業というところは、よほどの大手企業でないとなかなか困難なのが現状のようで、とりあえず内部監査部や総務部などとの兼任事務局といったものが設立されたところが多いのではないでしょうか。まぁ、たとえそのような事務局であったとしましても、これまでの企業一般における監査役制度への重要度は、このたびの会社法が成立したことを契機として確実に上昇したことは間違いないところだと思います。

さて、監査環境が旧法時代と比較して格段に整備されたのであれば、たしかに監査役の権限強化ということが現実のものになるわけですが、果たしてそれで監査役の方々は「自分達の地位が上がった」と喜んでおられるのでしょうか。どうも、手放しで喜んでばかりもいられないようでして、きょうの共同研究では、監査役の監査環境が整うということは、それだけ(常勤も含めて)監査役の善管注意義務の及ぶ範囲が広くなったり、要求レベルが高くなったりするのではないか、ということがかなり議論の対象になりました。おそらく実際にも監査役制度への社会の信頼が高まるぶん、もし社内の違法行為の兆候を見逃したような場合には、いままでの監査役でしたら「そやけど、調べたくても調べられへんやんか」と逃げることもできたかもしれませんが、これからは監査役スタッフを使って、あるいは会計監査人や内部監査人との連携によって調べようと思えば調べることができたのに、基本的な任務を怠った、と評価される場面が増えてくるように思われます。ここのところは、あまり議論されてこなかったかもしれませんが、よく考えてみますと弁護士や公認会計士が社外監査役や社外取締役に就任する場合の、社外役員の善管注意義務のレベルの問題と同じことがいえそうです。たとえば常勤監査役から監査役会において、さまざまな情報を提供されたとして、法律や会計の専門的な知見を有する社外監査役と、そうでない監査役とでは、同じ情報を共有していたとしても、「気づき」の度合いは異なって当たり前でしょうし、せめて専門家としての一定水準の能力を有していれば気づくべき問題を認識できなかったという場合、通常の社外取締役においては重過失がないとされるケースでも、その監査役が会計士さんや弁護士の場合でしたら、重過失の認定されることは十分ありうる話です。逆に申し上げますと、そういった専門的知見を有する社外監査役が存在することはコーポレートガバナンス報告書などによって開示の対象となりますから、社会的な信用が高まることと裏腹の関係に立つのかもしれません。

会社のなかにおきまして、監査役(会)制度の地位が上がってしかるべきだとは思うのですが、それは反面からいいますと、「聞かないでよかった話まで、聞かないといけなくなる、もし聞いてしまったら確実になんらかの対応が必要となる」ということですから、監査役の方々は思い責任を背負い込んでしまった現実を直視する必要がありそうです。上場企業の場合ですと、こういった場合に監査役会における職務分担の合意によって、いわゆる信頼の抗弁が成り立つほどの責任限定手段をとりうるかどうか、このあたりも次の問題として浮上してくるようですが、これはまた別の機会にでも取り上げてみたいと思います。

9月 2, 2006 監査役の理想と現実 | | コメント (2) | トラックバック (0)

2005年10月 6日 (木)

監査役の理想と現実

昨日は中小企業と新会社法ということについてエントリーしましたが、今回は「わが身」を振り返って、公開企業における監査役と新会社法の関係について、少しだけ考えてみたいと思います。

月間「監査役10月号」では、新会社法と監査役というテーマで、著名教授陣が現役の監査役のかたがたへ向けて、エールを送ってくださっています。なかなか格調の高いものばかりで、ひとことで言うと「定款自治が拡張され、経営の自由度が高まった分、取締役の違法行為等の是正に取り組む監査役の意義はとても大きい」ということが謳われています。しかし、逆からみるとゾッとします。株主代表訴訟や第三者責任追及の対象として、監査役が善管注意義務違反による損害賠償責任を問われやすくなる、ということです。もちろん、私のような社外監査役の場合ですと、損害賠償額の限定特約などによって自己防衛することも可能ですが、訴訟の被告として応訴しなければならないリーガルリスクは同じです。ましてや、敵対的買収防衛プランにおいて、社外取締役や社外監査役が「独立第三者」としての発動要件審査の要職を仰せつかるような事態になれば、「会社の顧問弁護士以外の」M&Aに強い専門家などの意見を聴きながら、独自の企業価値判断を強いられるわけですから、かなり厳しい職責を担うことになるわけでして、新会社法のもとでの監査役というのは、安閑とはしていられない立場といえそうです。コンプライアンス経営を支える会社の機関として、監査役の理想を大きく唱えることは結構ですが、その分企業の経営判断に問題のあるような事態となった場合には、その任務懈怠責任をつかれる枠も広がることは留意しておくべきもの、と自戒しております。

ところで、この「月間監査役10月号」には、この7月13日に企業会計審議会内部統制部会から出されました公開草案への日本監査役協会意見というものが発表されており、これが非常に興味深いものになっております。ひとくちで申し上げますと「監査役の理想と現実」をどう捉えるか、という点に金融庁サイドと日本監査役協会サイドでは大きな隔たりがあるようです。もともと企業会計審議会での(公開草案を出すにあたっての)審議では「監査役不要論」が活発に議論され、しかしあまりにも過激な意見はマズイということになって、最終的には内部統制システム構築の目的として「資産保全」という項目を追加することで監査役制度との妥協点を見出した、という経緯があります。しかしながら、どうも日本監査役協会からすれば、いまだ公開草案(の底辺に流れる監査役のスタイル)は「監査役というものは所詮、経営者にはなにもいえない無力の存在であり、会計監査人は、そういった監査役制度自体に依存することなく、自ら(監査役制度の現実を含めた)統制リスクを評価し、実際に財務上の不正を発見すれば、直接経営陣にその是正を促すべき」という(監査役制度をないがしろにした)スタイルだと非難して、様々な文言の訂正、修正に関する意見を出しています。そこでは、監査役からみた経営陣や会計監査人との理想の立ち位置が描かれており、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」を最終的に策定したり、また実際の監査基準の要綱を発表するにあたって、こういった日本監査役協会の意見がどの程度採り入れられるのか、注目したいところであります。

さて、2,3日前に「これからの会計監査人の報酬」についてエントリーしまして、いろいろなご意見も頂戴しましたが、監査役には会計監査人の報酬決定権(正確には監査役には業務執行権がありませんので、同意権)があるわけですから、こういった権利行使にあたっても「理想と現実」の問題って、発生してくるわけです。今朝あたりの新聞報道では、今後会計監査人が公開企業の統制リスクについて「格付け」することも検討している、とのことですから、この格付けを企業の監査役が易々と受け入れるというのは、たまったもんではないですよね。たとえば統制リスクの評価について、会計監査人と監査役とで食い違いがあるんだったら、真摯な態度で堂々と主張反論を尽くすべきでしょう。報酬金額をめぐって、いろいろと意見交換をする態度こそ、企業も会計監査人も不正監査をなくすための努力が(投資家や株主に対して)目に見えるものとなりますでしょうし、また会計監査人の実力も評価されることとなって、法定監査における報酬アップのインセンティブとしても役立てることができるんじゃないでしょうか。

こういった「会計監査人の報酬決定への監査役の関与」も、おそらく理想論に近い話なのかもしれません。しかし、常勤さんなら言いにくいことでも、社外監査役であれば、礼を尽くして異を唱えることも現実には可能のようにも思えます。こういったところから、本当に実務を変えていかないと、企業会計審議会の思い描く「監査役」の姿が、予想どおりに新会社法のもとでもそのまま維持されてしまう、という悲しい結末に至ってしまうような気がします。

「今度の役員会からは、私達監査役会はちょっと変わりますよ」と、経営陣にモノ申すために、新会社法の施行というのが、いいきっかけになればいいですね。(もちろん、そのためには新会社法によって公開企業の監査役制度がどのように変容しているか、を説明できる程度には勉強しておかなければ話になりませんが・・・・)

10月 6, 2005 監査役の理想と現実 | | コメント (0) | トラックバック (0)