エルピーダ倒産やAIJ年金資産消失事件、オセロ中島さん事件などが世間の注目を浴びるなか、すこし地味ですが、どうしても関心を抱いてしまうのが「パルコvsイオン」。さすが日経さんだけは、結構執拗に報道しておられます。毎度申し上げます通り、私はM&Aに精通した弁護士でもなんでもありませんので、単なる野次馬的関心しか持たないわけですが、昨年4月のエントリーでも書きましたように、「パルコvsイオン」とは、パルコの筆頭株主だった森トラスト社との信頼関係が破壊された間隙をぬってイオン社が12%ほどのパルコ社株式を米系ファンドから取得し、あわや敵対的買収寸前までいきましたが、双方譲り合い、最後は委任状争奪戦が回避された一件のことです。その後は和解的協議により、パルコとイオンにおいて業務提携検討委員会が設置され、イオンとの相乗効果が模索されていたところとばかり思っておりました。
ところが今年の2月下旬に、百貨店経営のJフロント・リテイリング社(大丸・松坂屋グループ)が、パルコの筆頭株主であった森トラスト社から33.2%の株式を取得したことで、事態が急に動き出した模様であります。イオン社の知らぬところでホワイトナイト出現・・・ということで、3月3日の読売新聞朝刊では、イオンのCEOの方が「パルコはちゃんと我々に説明する責任がある。理由によっては対決する。簡単に保有株は手放さない」とおっしゃったようです(ブルームバーグニュースより)。4年前のイオンによるCFSコーポレーション統合否決→子会社化の剛腕を記憶している方からすれば、Jフロント、日本政策投資銀行等の大株主との関係を含め、これからのイオン社の出方がとても気になるところかと。
しかしこうやってパルコにホワイトナイトが登場するにあたっては、パルコの取締役にイオン出身者がいらっしゃるにもかかわらず、イオンCEOから「俺は聞いていない」的な発言が飛び出してきたわけですから、パルコの取締役会におけるイオンの影響度が希薄だったものと思われます。イオン・森トラスト連合軍(議決権45%)だった昨年は、イオンから3名、森Tから2名の役員を送り込むことが要求されていましたが、委員会設置会社であるパルコの指名委員会を構成する4名の社外取締役(いずれも独立役員とのこと)が「パルコ防衛」を目的として交渉、最終的にはイオンから1名のみの役員選任に落ち着かせた、と報じられております(2011年4月21日付け日経朝刊記事より)。
イオン社との交渉にあたり、おそらくパルコ社の社外取締役の方々は、買収防衛策発動をちらつかせたり、従業員声明を出したり、最後は(おそらく)日本政策投資銀行のCBを(銀行の同意のもと)株式転換して(議決権18%)委任状争奪戦を辞さない構えで臨んだのではないかと推測いたします。2011年4月22日付け日経新聞の記事だと、この当時、日本政策投資銀行は、株式転換によって18%の議決権をもって(本気で)委任状争奪戦に乗り込む雰囲気だったようですので、そのあたりもパルコ側としては大きな力だったのかもしれません。結果は森T出身の社外役員2名はそのまま選任されたものの、イオンからの社外取締役は1名のみ、その代わりパルコの社長は辞任(ただし執行役としては残る)、買収防衛策は撤回、というところで落ち着いております。つまり役員の半数がイオン・森T連合軍となるはずが、10名中3名のみという結果となりました。なお、この攻防の後、指名委員会を構成していた社外取締役の方々は、指名委員会議長の方(ヤマト運輸会長)以外は全員が辞任、まさに「パルコの自主独立性」を置き土産に残してパルコ社を去って行かれました。
Jフロントは森T社から株式を取得したわけですから、パルコの取締役会が第三者割当を行ったものではありませんが、イオン社との業務提携検討委員会を粛々と進めつつも、水面下では森T、Jフロント、日本政策投資銀行あたりと共に、このたびの対応を検討されていたものに違いありません。つまりパルコの役員会において、イオン側役員がたった一人、という点がこのたびのホワイトナイト出現に大きく響いたのではないでしょうか。パルコ社は、元々西武グループ系列だったわけですから、やはり百貨店系列傘下、ということであれば社内でも歓迎ムードではないかと思います。しかしイオン社としては、百貨店がホワイトナイトだけに、まさにビックリ仰天、梯子をはずされた気分ではないかと。もちろん経済的な利益・・・という視点からすれば、適当な時期にイオンはパルコ株式を売却してしまえばいいわけですから、大損をした、というものではありませんが、相乗効果を狙っていた立場からすれば「とても痛いニュース」だったと思います。調剤薬局とファッション業界では、消費者と製品との距離感が全く異なりますので、委任状争奪戦が企業価値に及ぼす影響(レピュテーションリスクは高いと思われます)にも配慮しなければならないのでしょうし、現在の株価の1.6倍というJフロントの株式取得価格も気になります。東洋経済さんは、もはやイオン社は静かに退出する可能性が高いと報じておられますが、私にはどうもこのまま「天下のイオングループ」がひっこむようには思えません。イオン社がどのような「次の一手」を打ってくるのか、第三者的にはとても興味を覚えるところであります。