2020年1月21日 (火)

企業統治改革3.0は敵対的買収と会社訴訟による多元的けん制機能の発揮へ

日経のWEBニュースのみの記事ですが「(金融最前線)相次ぐ敵対的買収『三田証券は押さえたか』」はたいへん勉強になりました。昨年から今年にかけて、TOBや委任状勧誘による敵対的買収案件がとても増えましたね。直近でも東芝機械や前田道路など、興味深い事例が報じられています。そのような中で、敵対的買収の行方を左右する証券会社として「三田証券」に注目した記事ですが、

方針は明確だ。敵対的であっても、既存株主にとってメリットがあり、コーポレートガバナンス(企業統治)の強化につながるTOBであれば受託する。保有株を高値で買い取らせるグリーンメーラーには協力しない。

との社長の発言は、まことにその通りかと。2014年に始まった企業統治改革も、ガバナンス・コードが改訂された2018年から「形式から実質への深化」が進み、モノ言う株主の力が増してきました。しかしながら「取締役会改革」を中心とした改革にはどうも限界があるようです。日経ビジネス2019年6月17日号「ガバナンス新時代への提言」の中で、神田秀樹教授(学習院大学)は概要、つぎのように述べておられます。

ガバナンス改革の焦点の一つは、取締役会の役割をどう位置付けるかだ。かつて日米の企業は経営者の力が強かった。米国では1980年代から敵対的買収などで株主が経営者をコントロールするようになり、その後、機関投資家の発言力も増した。しかし敵対的買収案件や企業間の訴訟案件が少ない日本では取締役会に経営者をけん制する役割を求めすぎる面がある。日本でも、今後はもっと敵対的買収が増えていくべきだし、企業間の裁判がもっとあっていい。経営者を監視するガバナンスは買収、訴訟などを含め多元的にけん制機能を働かせることが必要だ。

そういえば昨年はヨロズ仮処分事件があり、また、今年は株主(機関投資家)による代表取締役の解任請求訴訟(ネット上に訴状が全文公開されています)が始まっています。取締役改革が本丸まで来ておりますが(人事、報酬、持ち合い株解消等)、それでも限界に来ているとなれば、「改革3.0」は、まさに敵対的買収と企業間訴訟によるガバナンス改革が浸透するかもしれませんね。

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2012年3月 5日 (月)

パルコ社外取締役の「置き土産」は吉と出るか凶と出るか?

エルピーダ倒産やAIJ年金資産消失事件、オセロ中島さん事件などが世間の注目を浴びるなか、すこし地味ですが、どうしても関心を抱いてしまうのが「パルコvsイオン」。さすが日経さんだけは、結構執拗に報道しておられます。毎度申し上げます通り、私はM&Aに精通した弁護士でもなんでもありませんので、単なる野次馬的関心しか持たないわけですが、昨年4月のエントリーでも書きましたように、「パルコvsイオン」とは、パルコの筆頭株主だった森トラスト社との信頼関係が破壊された間隙をぬってイオン社が12%ほどのパルコ社株式を米系ファンドから取得し、あわや敵対的買収寸前までいきましたが、双方譲り合い、最後は委任状争奪戦が回避された一件のことです。その後は和解的協議により、パルコとイオンにおいて業務提携検討委員会が設置され、イオンとの相乗効果が模索されていたところとばかり思っておりました。

ところが今年の2月下旬に、百貨店経営のJフロント・リテイリング社(大丸・松坂屋グループ)が、パルコの筆頭株主であった森トラスト社から33.2%の株式を取得したことで、事態が急に動き出した模様であります。イオン社の知らぬところでホワイトナイト出現・・・ということで、3月3日の読売新聞朝刊では、イオンのCEOの方が「パルコはちゃんと我々に説明する責任がある。理由によっては対決する。簡単に保有株は手放さない」とおっしゃったようです(ブルームバーグニュースより)。4年前のイオンによるCFSコーポレーション統合否決→子会社化の剛腕を記憶している方からすれば、Jフロント、日本政策投資銀行等の大株主との関係を含め、これからのイオン社の出方がとても気になるところかと。

しかしこうやってパルコにホワイトナイトが登場するにあたっては、パルコの取締役にイオン出身者がいらっしゃるにもかかわらず、イオンCEOから「俺は聞いていない」的な発言が飛び出してきたわけですから、パルコの取締役会におけるイオンの影響度が希薄だったものと思われます。イオン・森トラスト連合軍(議決権45%)だった昨年は、イオンから3名、森Tから2名の役員を送り込むことが要求されていましたが、委員会設置会社であるパルコの指名委員会を構成する4名の社外取締役(いずれも独立役員とのこと)が「パルコ防衛」を目的として交渉、最終的にはイオンから1名のみの役員選任に落ち着かせた、と報じられております(2011年4月21日付け日経朝刊記事より)。

イオン社との交渉にあたり、おそらくパルコ社の社外取締役の方々は、買収防衛策発動をちらつかせたり、従業員声明を出したり、最後は(おそらく)日本政策投資銀行のCBを(銀行の同意のもと)株式転換して(議決権18%)委任状争奪戦を辞さない構えで臨んだのではないかと推測いたします。2011年4月22日付け日経新聞の記事だと、この当時、日本政策投資銀行は、株式転換によって18%の議決権をもって(本気で)委任状争奪戦に乗り込む雰囲気だったようですので、そのあたりもパルコ側としては大きな力だったのかもしれません。結果は森T出身の社外役員2名はそのまま選任されたものの、イオンからの社外取締役は1名のみ、その代わりパルコの社長は辞任(ただし執行役としては残る)、買収防衛策は撤回、というところで落ち着いております。つまり役員の半数がイオン・森T連合軍となるはずが、10名中3名のみという結果となりました。なお、この攻防の後、指名委員会を構成していた社外取締役の方々は、指名委員会議長の方(ヤマト運輸会長)以外は全員が辞任、まさに「パルコの自主独立性」を置き土産に残してパルコ社を去って行かれました。

Jフロントは森T社から株式を取得したわけですから、パルコの取締役会が第三者割当を行ったものではありませんが、イオン社との業務提携検討委員会を粛々と進めつつも、水面下では森T、Jフロント、日本政策投資銀行あたりと共に、このたびの対応を検討されていたものに違いありません。つまりパルコの役員会において、イオン側役員がたった一人、という点がこのたびのホワイトナイト出現に大きく響いたのではないでしょうか。パルコ社は、元々西武グループ系列だったわけですから、やはり百貨店系列傘下、ということであれば社内でも歓迎ムードではないかと思います。しかしイオン社としては、百貨店がホワイトナイトだけに、まさにビックリ仰天、梯子をはずされた気分ではないかと。もちろん経済的な利益・・・という視点からすれば、適当な時期にイオンはパルコ株式を売却してしまえばいいわけですから、大損をした、というものではありませんが、相乗効果を狙っていた立場からすれば「とても痛いニュース」だったと思います。調剤薬局とファッション業界では、消費者と製品との距離感が全く異なりますので、委任状争奪戦が企業価値に及ぼす影響(レピュテーションリスクは高いと思われます)にも配慮しなければならないのでしょうし、現在の株価の1.6倍というJフロントの株式取得価格も気になります。東洋経済さんは、もはやイオン社は静かに退出する可能性が高いと報じておられますが、私にはどうもこのまま「天下のイオングループ」がひっこむようには思えません。イオン社がどのような「次の一手」を打ってくるのか、第三者的にはとても興味を覚えるところであります。

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2005年10月 6日 (木)

敵対的買収(裏)防衛プラン

いえ、たいした話ではないんですが、平時導入型の敵対的買収防衛策として、へんなことを考えついただけです。

日本で公開企業のM&Aを訴訟案件まで手かげている法律事務所というのは、どの程度あるんでしょうか。大阪では3つくらい、東京でも10事務所くらいではないでしょうかね。おそらく相談を持ち込まれた証券会社が紹介する事務所というのは15くらいまでに収まるんじゃないでしょうか。

それだったら、いっそのこと、「うちはひょっとすると買収されるかもしれない」と危惧する公開企業は、日本の弁護士倫理規定を利用して、この15ほどの事務所にもれなく相談に行ったらどうでしょうか。タイムチャージでお支払いして、若干の企業秘密を開示するとして。監査法人と違い、法律事務所の場合は、いったん法律事務所のだれか一人でも弁護士が相談を受けてしまっては、もはやあとで別の弁護士が相談企業を相手として訴訟を提起することはできないはずです。相談を持ち込まれた証券会社も、M&A訴訟のできない事務所を紹介するということも考えられないように思います。(ひょっとすると、大手の法律事務所の場合、たとえ公開企業であっても一見さんお断り、とかかもしれませんが)ただ実際に買収防衛策を必要とする事態になったときに、助けていただけるよう、礼を尽くした方法を検討しておかなければいけません。

一見、アホな考えのようにも思われますが、こういったことで買収を断念していただけたらありがたいかなあと。もちろん株主価値の最大化に尽力することが最善の方法であることは間違いありませんけど。

意図的に行うか、偶発的にそうなったのかは、神のみぞ知る、ということで。

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