2018年9月26日 (水)

監査報告書の長文化導入と同時に四半期報告制度を廃止すべきでは

日経朝刊のトップに「監査不信 ふたたび」と題する記事が掲載された日曜日(9月23日)、東京新聞朝刊経済面に「決算『四半期』→『半期』 米で検討 企業歓迎 透明性後退も」と題する特集記事が掲載されました。

トランプ大統領が米国企業の決算について四半期から半期に見直すことを表明し、すでにSECが検討に入ったことはご承知かと思いますが、日本も対応を迫られる可能性が出てきた、ということを報じています。具体的には、金融庁WGが「現時点では四半期開示について見直すことはしない」としながらも「海外動向などを注視し、必要に応じてその在り方を検討する」とまとめたことから、日本でも見直しの機運が高まりつつある、という趣旨の記事でした。米国大統領の提案に日本商工会議所も、経団連も共感を示していて、八田進二先生も(コメントの解釈として)一定の理解を示しておられます。

米国では1970年から四半期開示が義務化されましたので、1999年に東証マザーズで義務化された日本よりも30年も長い歴史があります。証券市場に深く根付いた制度なので(あまり報じられていませんが)廃止反対論も多いのではないでしょうか。また、日経新聞の社説では、先日「四半期開示制度は必要」とのことでしたし、日曜日の「監査不信」の特集記事でも「四半期開示の廃止は、さらに大きな会計不正を生むおそれがある」と締めくくっていたので、日本でも四半期開示制度を廃止することについては投資家サイドを中心に、根強い反対意見があると思います。いっぽうでは四半期開示に要する「膨大な時間と費用」について、企業側からの廃止提案も出ています。

ところで(ここからは私の勝手な意見ですが)、日本では2021年3月期から60年ぶりの改革となる「監査報告書の長文化(透明化)」が施行されます。5年前に導入された「監査における不正リスク対応基準」と同様、企業と会計監査人との協働によって監査の信頼性を高める制度が導入されるわけですが、資本主義の負担をどう分配するか・・・という点については、企業と監査法人との「解を模索する努力」は、これまでもやってきたわけでして、今後もさらに続くはずです(単に、世間の方々が、監査制度にあまり関心を抱いていないだけかと)。

現に、トラブル案件を通じて、中小の監査法人の監査実務を近くでみている者としては、監査における不正リスク対応基準が実務に及ぼす影響はかなり大きい、と実感します。やや「認知バイアス」(代表制ヒューリスティックス)気味な話かもしれませんが、私の周囲を見回しても、これまで遠慮して企業側にモノが言えなかった会計監査人が、会計士協会の報告書や実務指針、金商法193条の3を根拠に、会社側に厳しい意見を述べる場面は確実に増えています(3年ほど前に、当ブログでご紹介したように、オモテに出てしまった事例もあります)。このあたりは、普段から監査法人に検査に入っている金融庁が一番認識しているのではないかと思います。

監査報告書の改革に不正会計の予防効果があるかどうかは未知数ではありますが、せっかく導入するのですから、この際、同時期に四半期報告制度は廃止してはいかがでしょうか。監査法人には限られた資源しかありません。これから始まる監査報告書改革には物的・人的資源が必要なので、四半期報告書制度を廃止することによる資源を、企業も監査法人も、そちらに振り向けることには、それなりの合理性があると思います。四半期報告制度が(かならずしも不正防止という趣旨とは直結しない)重要なインフラであることを承知のうえで、監査に要する資源には限りがあるという現実を見据えながら、あえて提言してみたいところです。

監査制度は資本主義社会に不可欠な制度であり、監査人と企業とが共同でこれを担っていくべきものです。監査不信を本気で払しょくするのであれば、証券市場に関わる人たち全てが「何かを始めること」よりも「何かを終える」勇気や覚悟を持つべきだと思います。会計不正を防止する覚悟、そしてなによりも政府の推進している企業統治改革を実施する覚悟(「中長期における企業価値向上への経営戦略」への建設的な対話)があるのなら、多少の混乱を承知のうえで「何かを捨てること」から始めるべきです。

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2017年11月 9日 (木)

会計監査人から受領する資料の事前配布ってアリなのか?

(9日 17:15 追記)

一昨日の「地面師」ネタはずいぶんと反響がありまして、11月9日午前1時現在、ココログの人気記事ランキング5位という、とんでもないアクセスになりました(法務ブログではありえない?)。おかげさまで(?)、当該事件の複数の関係者の方からご連絡をいただき、有益な情報を得たり、お叱りを受けたりしております(笑)。本日もアパグループさんが地面師被害に遭遇したと報じられていますが、とても興味深いジャンルの事例なので、また性懲りもなく続報を書きたいと思っております。(追記:9日17時現在、人気記事ランキングは29位に落ちました。人気ブログランキングは相変わらず13位です)

さて、会計監査人の交代を端緒としてKDDIさんの海外子会社で会計不正が発覚した(その内容がパラダイス文書から判明した)、といった事例が朝日新聞、毎日新聞で報じられています。業務の停滞を招くとして、ローテーション制度の導入には上場会社の反対意見が強いようです。しかし、こういった事例が明らかになりますと、やはり監査法人の交代制導入も会計不正の抑止・早期発見のためには必要です、といったご意見(金融庁の思惑?)も世間的には説得力を帯びてくるような気もいたします。

ところで会計不正の抑止・早期発見という趣旨では、ガバナンス・コードでも実施が要請されている「監査役等と会計監査人との協働」にも注目が集まるところです。両者のコミュニケーションをどのように深化させるべきか、多くの会社で模索されています。とりわけ最近は、監査役、監査等委員の方々に会計監査人側から配布される資料の多さには目を見張ります。

まず「監査計画概要説明書」ですが、これはKAM(監査上の重要事項)がわかりやすく説明されていたりして、コミュニケーションには不可欠な資料です。会計監査人と経営執行部間でどのようなやりとりがあるのか理解するためにも有用です。また、会社法監査における会計監査人の選任権、報酬同意権を行使するために「会社計算規則131条に基づく監査役等への通知事項説明書」のチェックも必要ですね。

ただ、最近はそのうえで今年3月施行の監査法人版ガバナンス・コードに基づく「監査品質向上への取組説明書」(これがとても立派な資料です)が交付されて詳細な説明がなされます。さらに(CPAAOBの指導に基づく)監査法人の5段階成績表「品質管理のシステムに対する外部レビュー、検査の結果及び対応状況について」も配布されて、会計監査人側から説明がなされます(いちおう、成績表は監査役さん限り、ということで対外的には開示不可とされています)。まあ、説明というよりも、なんでこんな成績だったのかを懇切丁寧に釈明するという「言い訳」に近いものかもしれません。たとえば監査法人と監査役等との報告会ということで1時間を予定しているとすれば、これだけの資料について監査役等への説明だけで1時間以上は必要です。

しかし、「報告会」とはいえ、今回の監査役等と会計監査人との協働では、企業側の事業リスクや会計不正リスク(もしくはそのようなリスクが顕在化することを示唆する懸念事項)について、監査役等から会計監査人へ十分な説明が必要です。とくに今後「監査報告書の透明化、長文化」が制度化されるとなりますと、会社側の経営統括責任者は監査役等ということになるので、会計監査人も監査役等から十分な事情を聴きだす必要があります。そうであれば、会計監査人と監査役等とのコミュニケーションは、原則としてギブ&テイクの関係で進めなければなりません。

そこでひとつ提案ですが、報告会の際に会計監査人から配布される膨大な資料については、できれば監査役側に事前に配布されるようなシステムはとれないのでしょうか。監査法人の成績表まで含めて、監査役等は事前に読み込んでおいて、できるだけ効果的な質問ができるような準備を監査役等もすべきだと思います。会計監査人側からの定型的な事項の説明についても、監査役等のメンバーに変更がない場合には思い切って割愛してもよいのではないでしょうか。

監査役等が抱く懸念事項を説明されることで、会計監査人の監査対象が広がり、監査報酬も増額する必要が出てきますと、あまり会計監査人からも好まれるものではないかもしれません。ただ、そういった双方向のコミュニケーションが実現することがガバナンス・コードの実質化であり、そういった時代になったことを監査役等から社長に説明をして、監査報酬の増額も(普通に、日常的に)ありうることを説得すべきだと思います。ガバナンス・コード4-4、同補充原則3-2①についてはほぼ100%の上場会社がコンプライ宣言しているはずです。「実施します、実施してます」と宣言している以上、きちんと運用しなければ開示違反、会社法違反(法令違反)になるのではないかと。

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2017年10月11日 (水)

監査報告書の長文化(KAM)と監査関係者の法的責任

すでにご承知の方も多いと思いますが、あの「監査役 野崎修平」がドラマ化されるそうです。主役の「監査役 野崎修平」は織田裕二さんが演じ、社長(頭取)が古谷一行さん、専務が岸谷五朗さんに決定(「そんな監査役おるわけないやん!」というご指摘は置いといて・・・笑)。来年1月からWOWOWの連続ドラマとして放映されるそうで、とても楽しみです。ちなみに「おい!頭取に反抗するなんて、おまえ何考えてるんだ?何もモノを言わないのが監査役の役目だぞ!」と野崎を諫める先輩監査役は誰が演じるのか、こちらも楽しみです。

そういえば、かつてNHKで「ドラマ監査法人」や「ジャッジ~島の裁判官」が放映されたとき、日本監査役協会の方々と「『野崎修平』をNHKでドラマ化できないだろうか・・・。NHKにシナリオを書いて提案したらなんとか考えてくれるのではないか」と真剣に検討したことがありましたね。今回のドラマ化は(NHK、とはいきませんでしたが)日本監査役協会にとっても(監査役の知名度を飛躍的に向上させるものとして)悲願ではないかと思います(少し大げさ?笑)。

ただ、監査役制度の認知度がアップすることは、そのぶん「期待ギャップ」も拡大するということで、企業不祥事が発生するたびに「監査役は何をしていたんだ!?」と批判され、監査役等の皆様が損害賠償請求の被告になる確率も高まることになります。そしてドラマ化と同様、監査関係者の提訴リスクを高めることの一因となりそうなのが「監査報告書の長文化(透明化)」ではないでしょうか。3年ぶりに開催された企業会計審議会総会の議事録を拝見しましても、海外での先行例をそのまま日本にも導入するということはないようですが、長文式監査報告書が近いうちに採用される可能性はかなり高いようです。

旬刊商事法務8月5日号(2141号)の座談会「会計監査の実効性確保と監査役の役割」でも、KAM(重要な監査事項)を会計監査人の監査報告書に記載することで、監査関係者にどのような法的責任が及ぶのか・・・という点への懸念が(有識者の方々から)表明されていました。あまり法的な問題をほじくりまわすと、せっかく監査人による自由な記載に期待がかけられているのに、結局「お決まり文句のKAM表示」になってしまうのではないか、との懸念が生じます(これまでの監査制度の変遷からみて十分にありえます)。

そのような状況で、月刊監査役の最新号(10月25日号)の特集「監査報告書改革の論点」にて、早稲田の黒沼悦郎先生のご論稿「重要な監査事項の記載と監査人の責任」は、ズバリ監査報告書の長文化が導入された場合における会計監査人(金商法上の監査人)と監査役等の法的責任をどう考えるか、という点に光を当てておられ、共感する点がたくさんありました。たとえば会計監査人や監査役等の任務懈怠責任としての①事実上の影響、②KAM記載方法、記載内容に関する行為規制、③金商法上の虚偽記載責任(開示規制)、④これに派生するものとしての民法上の不法行為責任など、いずれも私は制度実施において法的に問題になると思います。いくら株主と経営者、監査関係者との積極的な対話のための道具だとしても、財務諸表の不正には司法裁判所が関与するという現実があるかぎり、法的責任論から免れることはできないはずです。

ただ、金商法、会社法の著名な学者の方が、現行法との整合性に配慮したご主張を、わずか2頁の紙面で展開されていらっしゃるので、一般の監査役の皆様には「通訳」が必要ではないかな・・・とも思いました(このご論稿の元になっている「現代監査」のご論稿も拝読しましたが、やはり一般の方には通訳的な説明が必要かな・・・と思いました)。私などは、「事実上の影響」として、KAMとして報告書に記載された内容だけでなく、KAMの記載に至った会計監査人と監査役等(統括責任者)とで、どのような協議がなされたのか、その議事録まで文書提出命令の対象となる可能性なども議論の対象になるような気がいたします(たとえばシャルレのMBO頓挫事件の株主代表訴訟の際に、なぜ社内文書に文書提出命令が認められたのか、といった点からも、検討しておくべきではないかと思います)。

また、かりに会社法監査の報告書においてもKAMが記載されるのであれば、会計監査人のKAM決定についても監査役等の相当性審査が義務となるわけですが、ではどのように連携をすれば会計監査人の監査の方法および結果の相当性を判断した、と評価されるのか、会計不正が発覚した際には、大和銀行株主代表訴訟の際と同じく、監査役等も会計監査人と連座して任務懈怠が認められる事態になるのではないか、といった問題にも配慮が必要ではないでしょうか。これまで多くの会計不正事件の第三者委員会報告書でもほとんど触れられてこなかった監査関係者の行動が、この監査報告書の長文化によって明らかにされることを私自身は期待をしております。それは、最終的には監査関係者の方々の環境整備(監査人や監査役等の独立性の確保や監査報酬の適正化など)につながるものと確信しています。

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2017年7月28日 (金)

会計監査人交代事例にみる監査法人改革の本気度

もうすでに会計士の方々のブログ等では話題になっておりますが、証券コード9788社(東証1部)におきまして、7月26日付けで「会計監査人の異動及び一時会計監査人の選任に関するお知らせ」が公表されています。今年6月の定時総会で会計監査人に選任(継続)された新日本監査法人さんが、7月26日付けでコード9788社との監査契約を合意解約した、とのこと(後任の一時会計監査人は仰星監査法人さんだそうです)。理由はといいますと、

平成26年3月期の第2四半期に行った株式会社●●●取得時の会計処理に、発生頻度の少ない非定形的な処理があったため、会計上の「二重責任の原則」は承知しつつ、新日本有限責任監査法人からの助言に基づき処理を行い、無限定適正意見をいただきました。その後も、当社は同様の会計処理を継続し、無限定適正意見をいただいています。しかし、平成 29年6月中旬に、新日本有限責監査法人において業務執行社員変更に伴う引継時に当該 会計処理の誤りが発見され、同法人より指摘を受け修正するに至りました←(9788社 6月28日付け訂正・数値データ訂正)「平成29年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」 の一部訂正に関するお知らせ」より引用

だそうです。つまり、従前の新日本さんの業務執行社員からの指摘によって会計処理を行っていたのに、その処理はおかしいと引き継いだ業務執行社員から指摘されて、決算修正のうえ、内部統制には重大な不備があると開示せざるをえなくなったわけです。リリース上では「合意解約」とありますが(たぶん)会社としては「あんたとはやってられまへんわ!」ということで、新日本さんは事実上解任をされたのではないかと推測されます(会計監査人の意見は付記されていないので、あくまでも「推測」ですが・・・)。

たしかに、日本を代表する監査法人の珍しい事例を「トホホニュース」として取り上げるのは簡単です。 ただ、これまで同一監査法人内での引き継ぎ時に、同様の状況というのは時折発生していたのではないでしょうか?同じ監査法人内のことなので「なんとなくグレーな状況だけど、まあ、監査先企業は失いたくないし、会社もよくわかってないみたいだから、穏便に、穏便に」といったことで済まされてきたこともあったのではないかと。

今回、おそらく会社側から解任されることを覚悟のうえで、同じ監査法人内で業務執行社員が他の業務執行社員の誤りを堂々と指摘した、というのは、むしろ監査法人さんの姿勢としては健全な方向に動いているのではないでしょうか(誤りを指摘したら、実は前任者の指摘した内容だったことが後でわかった、といった更なるトホホはないと信じております)。かつて大きな監査法人の偉い方から「監査法人の品質とは、個々の会計士の品質と同時に、組織としての監査法人の品質も大事なのだ」と教えていただきましたが、なぜこのような事態となったのか、(会社側だけでなく)監査法人側の説明もお聴きしてみたいものです。

(追記 7月28日正午)一老さんから有益なコメントをいただきました。ご参考にしてください。

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2017年7月25日 (火)

監査法人のローテーション制度導入のために必要な前提条件

いつも私が愛用しているRSSリーダーLive Dwango Reader(LDR)が、8月末をもって閉鎖するそうです。「この数年で利用者も大幅に減少しており、サービスとしての役割を終えたと考え、終了という判断に至りました」とのこと。たしかにブログという媒体自体、多くのSNS興隆の中で魅力が薄れてきたのは事実ですね。ひとつの転換時期かなぁと感じます。

先週木曜日(7月20日)に金融庁HPで公表された「監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第一次報告)」を読みました。現在導入されている「パートナーローテーション制度」がうまく機能していない、企業による自主的な監査法人の交代が進まない、諸外国はすでにローテーション制度を導入している、といった内容からしますと、「強制導入は時間の問題?」とも思われますが、まだ第一次報告ということで、今後さらに導入の可否について検討を加えるそうです。

導入に向けた課題については、監査の専門職の方々が議論すべきことですが、ひとつだけ調査報告を読んで気づいたことがあります。それは、監査法人の社会的責任の明確化、品質保証、そして報酬低額化防止にとって重要なのは被監査会社の監査委員会の機能強化という点です(日本でいえば監査役制度の機能強化といえばよいのでしょうか)。監査権限を有する機関が「公益の番人的な地位」を当然に有していることが監査法人のローテーション制度の実効性確保のために不可欠では?といった感想です。2014年に出版した拙著「法の世界から見た会計監査」の中でも述べておりますが、監査法人はどこまで監査役さん(監査等委員である取締役さん)を信頼しているか・・・といったところの「連携」の課題です。

会計監査人と監査役等との「連携」の重要性が指摘されて10年以上が経過していますが、この「連携」というのも、実際にはよくわからないところがあります。いろんな会社の「連携」例をみておりますと、報告会の開催、意見交換、リスクアプローチによる問題点の指摘といったことが挙げられます。でも、連携の本気度を上げるためには、実質的に監査法人の選定権限や報酬決定権限が監査役会や監査委員会に存在しなければ(監査法人さんが監査役さんのほうに真剣に顔を向けないので)無理ではないかと。また、会計監査で得られた情報と業務監査で得られた情報を「ギブ&テイク」で双方が活用する気持ちがないと形骸化してしまうような気がします。

「何かとくに留意すべき点はありますか?」「今年は何か監査のキーになる項目はありますか?」といったやりとりが監査役さんと会計監査人との間で交わされることがありますが、これでは「連携」にはならないと思うのです。監査役と会計監査人が相互に「こういった情報が欲しい」、「こういった宿題をやっておいてほしい」と「知りたい情報」とその知りたい理由をわかりやすく説明しなければ、そもそも連携の相手方には伝えるべき情報の価値がわかりません。つまり情報共有などできないはずです。そして、そのためには相手の職務に関する一定程度の相互理解が求められます(そういった面において、会計的知見を有した社外役員さんは相互理解のためにも有益かと)。

ときには社長から嫌な顔をされることがあったとしても、会計監査人の希望を受け入れ、ときには会計監査人から嫌な顔をされても、会社の方針の正当性を説明して会計監査人に受け入れてもらう、といった「対話」こそ連携には必要ですが、そのような連携を可能とする監査環境が日本企業でも形成されることが不可欠です。このたびの監査法人のローテーション制度の実効性を高めるためには、まずこの監査役制度(監査委員会、監査等委員会制度)の機能が発揮できる環境作りが前提条件となるはずです。

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2017年7月11日 (火)

監査の品質向上と会計士の「公務員化」について考える

7月8日(土)の日経朝刊特集記事「揺れる監査法人」に、あずさ監査法人さんの社外役員をされていらっしゃる阪田雅祐氏(元内閣法制局長官)のお話(監査法人の改革案)が掲載されていまして、とても興味深く読ませていただきました。監査の実効性を高めるための「交代制導入」のお話の中で、監査人の報酬を証券取引所が支払う、つまり「会計監査人の公務員化」に関する提案をされています(とりあえず会社法監査など、非上場会社を含む監査の話は置いておきます)。

私も当ブログで過去に「監査のねじれ」こそ不正監査の根源的問題であり、監査報酬のプール制(上場会社が規模に応じて監査報酬金を取引所に拠出する制度)を導入することが良いのではないか・・・と勝手に述べたことがあります。ただ、英国や米国をはじめ、諸外国の監査制度の実態を教えてもらったり、会社と監査人との監査に関するコミュニケーションの現場に立ち会ったりするなかで、単純な「公務員化」で監査の品質が上がるというのは現実的ではないかも・・・と思い直しております。会社と同じ方向に寄り添いながらも、監査人が職業的懐疑心を発揮して、最終的には投資家のための財務報告の二重責任を地道に果たす、ということが(やはり)監査の品質向上の近道ではないでしょうか。

金融検査を担当する人たちが公務員なんだから、監査人の公務員化も可能ではないか・・・といった議論は私の経験上、かなり乱暴に聞こえます。金融検査を担当する人たち(金融庁職員)は、若いころから「権力は抑制的に行使しなければならない」といった思想を植え付けられて、世間から常に批判のまなざしを向けられて、そこに「国民の公僕」としての姿勢があるからこそ権力を適正に行使しうると思います(ときどきそうでない人もいらっしゃいますが)。今まで権力を行使したことがない人が、いきなり権力を握ることほどろくなことはありません。最初は良くても、最終的にはご自身も国民も不幸にしてしまうのは、弁護士率いる整理回収機構の歴史が物語っています。おそらく私でも「明日からこの強大な権力を国民のために使っていいですよ」と言われたら、(いろんな誘惑に負けてしまって)使い方がわからないままに、まちがいなく濫用してしまうと思います。

当ブログで、ここ数年で一番読まれているのが「オオカミ少年待望論」に関するエントリーですが、監査の品質(会計監査も監査役監査も)を向上させるためには、私はこれに尽きると思います。つまり優秀なオオカミ少年を歓迎する企業社会です。「この会計処理はおかしい」「社長の行動は会社法違反の疑いがある」と合理的な理由を示して株主や投資家に警告を鳴らす人たちを投資家も企業もリスペクトすることができるかどうか。監査の失敗が発生したときだけ「だから監査は機能しないのだ」と批判されるのではなく、リスクを背負って警鐘を鳴らした(結果として不正が認定できなかった)監査法人、監査役に対して称賛の声を上げる社会です。監査人のプラスの面もマイナスの面も評価対象として、優秀な会計士が監査を担当していることで企業価値が上がればそれも良いと思います。

どんなに立派な監査を行い、その結果として会計不正を未然に防止できても、どこからも称賛されないのはやっぱりつらい作業です。「新日本の●●会計士のクルーは、なかなか評判がいいみたいだね」と言われたり、「トーマツの●●会計士が首を縦に振らなかったら、そんときは腹くくって修正に応じよう」みたいなことになれば、と思ったりします。新規上場企業に関わって、あぶない橋を渡った会計士さんほど、上場企業に求められるリスク感覚がすぐれているようにも思います。「オオカミ少年」の出現で多少株価が低下することがあるかもしれません。しかし、企業社会にこれを歓迎するムードが存在しなければ、会計士さんや監査役さんの職業的懐疑心を適切に発揮することは無理ではないでしょうか。

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2017年4月27日 (木)

東芝監査人交代問題-窮地を救うホワイトナイトは何処に?

多くのマスコミで「東芝が会計監査人の交代に向けて最終調整」と報じています。朝日新聞ニュースではすでに準大手の具体的なお名前も出ています(太●監査法人さん?)。東芝さんは先日、3Qの四半期報告書を開示しましたが、監査人であるPwCあらた監査法人さんは、意見(結論)を表明しない(結論不表明)とのレビュー報告書を出しました。東芝さんとしては、このままだと上場廃止になってしまうので、やむをえず監査人の交代を検討せざるをえない、ということですね。

マスコミ報道を読むかぎり、東芝さん主導で会計監査人を交代させる印象ですが、PwCの関係者の方々からすれば複雑な心境ではないでしょうか(守秘義務があるので取材に応じることはできない・・・)。

私は真相はまったく逆だと思います。2Qの決算が終了して「やれやれ」というところでいきなり「海外子会社で7000億の減損事由あり。社長が発表予定」と言われて、なぜ監査法人が「ああ、そうですか」と言えるでしょうか。現場の担当会計士の方々は耳を疑い、おそらく「生き地獄」に落ちて行ったと想像できます。PwCの上層部及び海外事務所は「契約破棄」「東芝へ損害賠償」と主張するのが筋で、それをなんとか「結論不表明」というところで妥協したのではないかと。PwCのほうから「もう、アンタとはやってられまへんわ!」ということでしょう。私はもう少し政治的判断で「限定付き適正結論」あたりがオトシドコロだと思いましたが、私の予想はかなり甘すぎたようでして、PwCの経営陣及び海外事務所の意見は相当に厳しかったと推測しています。

ご承知の方も多いと思いますが、監査人が「意見不表明」の報告書を提出するのは、財務諸表に対する意見表明ができないほど、会計記録が不十分であったり、監査証拠が入手困難である場合に限られています。この監査報告がなされると、「不適正意見」と同様に「その決算書は信用できない」ということになり、上場会社は上場廃止基準に抵触することになります(四半期レビューの結論不表明もほぼ同じ意味です)。上場廃止基準とは関係ありませんが、今後東芝さんが提出する内部統制報告書にも意見は出せないと思います。

東芝さんは「意見不表明というのは天災地変や監査書類の紛失など、物理的に監査に必要なものが出せない場合だけに限られる報告だが、うちは必要なものをすべて出しているのだからPwCはルール違反だ。けしからん」といった申し開きをされるのでしょうか。一方のPwCさんは「いえいえ、監査報告は監査法人の自主的判断で出せます。もっと必要な監査資料を出せといっているのに出さないのであれば、意見は表明できませんし、そのような会社側との見解の相違ある場合にも適用されます」と回答されるかもしれません。いずれにしましても、東芝の役員さんも、会計監査人であるPwCさんも、株主代表訴訟のリスクを負っているので「別れ際」には細心の注意が求められます。

会社法監査と金商法監査を担当する公認会計士は統一せよ、といった東証ルールがあるので(有価証券上場規程438条)、簡単には株主総会を開けない東芝さんの場合、交代後はとりあえず会社法監査のための「一時会計監査人」の選任を裁判所に申し立てることになると思います。ただ一時会計監査人の方は、期中の交代、しかも東芝さんのような大会社の計算書類の監査をどうやっておやりになるのでしょうか?元金融庁長官の方が顧問をされ、会計士協会の現会長さんの出身母体でもあるPwCさんが「これでは到底意見は出せない」と太鼓判(?)を押した企業の監査について「いやいや、PwCさんのほうが間違っている、東芝さんは現状で監査意見は出せますよ」と言い切って監査意見を出すホワイトナイト的な監査法人さんは出現するのでしょうか?(ちなみに法律の世界とは異なり、会計監査の世界では「セカンドオピニオン」はありません。意見不表明から意見表明というのが「セカンドオピニオンとは言えない」との言い訳はありそうですが・・・・・)

報道では「準大手の監査法人を軸に交代を検討中」「太●有限監査法人か?」とありましたが、私は多少の利益相反に目をつぶってでも、大手監査法人への交代しかないと思います(具体的にはK●M●さんと提携しているあ●●監査法人さん以外にはないのでは?--もちろん私の個人的な推測にすぎません)。ただ大手監査法人さんにも受ける、受けないの自由はもちろんありますので、どうコロぶのかはわかりません。

この東芝監査人交代は、東芝さんにとっての最大のピンチと考えているのですが、それにしても相変わらず時価総額は9000億以上、社債は2000億以上・・・・。なにか世間とは別の風がメガバンクと政府中枢あたりのインサイダーで吹いているのでしょうかね。。。せっかく監査監督機関国際フォーラム(IFIAR)事務局が日本に設置されたのですから、監査の品質を悪化させるようなことだけは避けていただきたいと願う(上申する)ばかりでございます<m(__)m>

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2017年4月12日 (水)

東芝四半期報告書-なぜ「限定付適正意見(結論)」がもらえなかったのか?

皆様方すでにご承知のとおり、4月11日、東芝さんが3Qの四半期報告書を開示しました。業績が好調に推移しているセグメントもありますが、やはり記者さん方が注目しているのは監査人による適正意見が付かない報告書が出された、という点です(正確には「結論不表明」とするレビュー報告が付いた四半期報告書が開示された、ということです)。東芝さんのリリースには一般の人が読むと誤解を招く表現もみられますが、(EDNETで確認したところ)これまで1Q、2Qの四半期報告書に関するPwCさんのレビュー報告書には適正意見(※)はついていましたが、今回は意見不表明(レビューの結論不表明)ということになりました。ニコニコ動画で記者会見の様子を拝見しておりましたが、マスコミ関係の皆様の質問はやはり「これからもPwC監査法人から適正意見はもらえない、と考えているのか?意見がもらえない場合、監査法人を交代させるのか?」といったあたりに集中していたようです。

※・・・四半期報告書へのレビューなので「適正意見」といっても期末監査の場合よりも消極的な心証で足ります。正確には「無限定結論」「限定付結論」」「否定的結論」「結論不表明」と言いますが、ややこしくなるので期末監査の監査意見に合わせて、なるべく「適正意見」という言葉を使います。

私は会計や監査の専門家ではないので、全くの素人としての素朴な疑問ですが、東芝の社長さんは「上場廃止を避けるために全力を尽くす」と記者会見でおっしゃってましたが、ではなぜ限定付適正意見(限定付結論)をもらう努力をしないのでしょうかね?無限定適正意見(無限定結論)はもらえないとしても、ウエスティングハウス関連以外のところに限定して適正意見をもらう(適正に表示していないと信じさせる事項がすべての重要な点において認められないとの結論をもらう)、というのはできなかったのでしょうか?そのほうが上場廃止の是非を判断する東証さんにとってもありがたかったと思うのです。

2013年の(上場廃止基準に関する)制度変更前のお話ですが、東証マザーズ上場第1号だったインターネット総研さんが(上場子会社だった)アイ・エックス・アイの粉飾決算に遭遇してしまって監査人から意見をもらえず、最終的には上場廃止になったことがありました。そのときに「こんな事情で当社が廃止になるのはおかしい!」と抵抗していたインターネット総研の社長さんのお話では、東証から「せめて限定付適正意見は監査法人からもらえないか」と示唆されたそうです(私は一部事件に関与しておりますので、詳しい内容は控えますが、この話は今でもネット上に社長さんのインタビュー記事として掲載されています)。また「三洋減損ルール」が話題となった三洋電機さんの会計不正事件が発覚した際には、監査人であるあずさ監査法人さんが2007年3月期の決算書に限定付適正意見を出しておられたものと記憶しております。

今回の東芝さんも、PwCさんと意見の一致がみられずに平行線なのであれば、それぞれ折り合いをつけて「限定付き適正意見(限定付結論)」を出すということで妥協することも考えられたのではないでしょうか。これだけ多くのステイクホルダーが存在するわけですから、東芝さんもPwCさんも自分の意見に固執している、ということはどう考えてもおかしいと思うのです。それともPwCさんとしては、限定付きでも適正意見(結論)は出せないほどに「ウエスチングハウスを除外してしまってはレビューの意味がなくなるほど重大問題」と判断したのでしょうか?もしくはレビュー報告書にも「強調事項」として記載されているように、継続企業としての注記を付したことで、もはや限定付きでも「投資家の誤解を招く」として限定付結論は出せなくなってしまったのでしょうか?

確定した証拠を前提として、監査人と会社との「会計処理方法に関する意見の不一致」が原因であれば「結論不表明」もやむをえませんが、レビューに必要な消極的な心証形成のための証拠の不足(レビュー手続きに関する不満足事項)ということが原因であれば現行の監査基準ものとでも限定付適正意見(結論)は出せるのではないかと、素人ながらに疑問を感じました。昨日のエントリーの続きになってしまいそうですが、余程の事情がないかぎり限定付適正意見は出せない(やはり監査法人さんも責任問題には巻き込まれたくない・・・)という発想が強いのでしょうか。

しかし、四半期レビューは通期の監査よりも適正性判断のハードルが低い(監査人の心証は合理的保証ではなく限定的保証で足りる)わけですから、そこで意見(結論)が表明されないとなりますと、5月に予定されている有価証券報告書の監査ではさらに適正意見をもらえる可能性が乏しくなりそうです。5月にはさらに厳しい監査が東芝さんに待ち受けているわけでして、これをどうやってクリアされるか、ぜひとも会計専門家の方々のご意見をお聴きしてみたいところです。小さな上場会社さんだったらオピニオン・ショッピングということもありますが、東芝さんとなるとそんなこともできないでしょうし。。。

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2017年4月11日 (火)

見下された新日本監査法人-東芝にはTGAAPがあった

本日発売のAERA(4月17日号)は東芝大特集とのことで、日経ビジネスに対抗するかのごとく東芝関係者からの証言がたくさん掲載されていて興味深い内容です。実名での東芝元社長批判や、「業績悪化と会計不正の原因はまったくベツモノ。勝手に世間がストーリーを作り出すから話がややこしくなる」と解説する学者のご意見など、なかなかリアルで充実しております(さて、11日の決算発表はどうなるのでしょうか?会計監査人の意見は出るのでしょうか?)

そんな東芝大特集の中に、「見下された新日本監査法人-なぜ不正会計を見抜けなかったのか」といった見出しの記事が見開き2頁で掲載されています(ちなみに私の意見はほかでも述べているように、「見抜けなかった」のではなく「見抜いたけれども声に出して言えなかった」というものですが、いかがでしょうか)。新日本監査法人のシニアパートナーの方のご意見も、実名で掲載されています。

AERAの記者さんが「東芝が監査法人を見下していた」と評価した根拠として、記事中では東芝経理部による担当会計士への(ブライドの高い)態度が強調されています。会計監査の現場では「日本基準の会計基準(JGAAP)とも、米国会計基準(USGAAP)とも異なる「東芝会計基準」(TGAAP)という言葉が使われていたそうです( (^^;; ホンマカイナ?・・・・・そういえば三洋電機さんの会計不正事件でも「三洋減損ルール」という言葉が出てきましたね 笑)

でも、そこに出てくる東芝経理部の方々の発言内容は、特に東芝に特有のものではなく(つまり東芝経理部が特に傲慢なのではなく)、どこの経理部でも監査法人と対立するケースでは同じような言葉が出てきます(これは実際に対立する場面に遭遇すればわかります)。むしろ大規模上場会社の経理部員は、いったいどのような仕事をすれば上司に認めてもらえるのか、どうすれば出世競争に勝てるのか、そこに想像力を働かせればどこの経理部も同じように(社内でのプレッシャーを抱えながら)会計監査人と対応していることがわかります(私も、直接東芝さんの元経理部員、元経営監査部員の方にお話をうかがって、ナルホドと腹落ちしました)。

この記事の最後も「監査における意識改革こそ東芝事件の教訓である」と締めくくられていますが、私も総論としてはそのとおりかと思います。しかし各論がなかなか出てこない。監査法人版ガバナンス・コードは総論であって各論にはなりえない。覚悟を持った各論が出てこなければ、もはや会計基準を司法裁判所が解釈する(有価証券虚偽記載、違法配当等の刑事裁判に会計監査人を取り込む)ことになってしまうはずです。

「財務諸表の作成責任は、一次的には上場会社にある、監査法人は作成された会社の財務諸表に二次的な責任を持つ。だからこそ騙されたら不正など見抜けない」との主張はそのとおりです。でも「だからしかたがない」で済ませることは会計の世界に司法が入り込むことを正当化します。そうしなければ金融庁(財務局)自身が公権力の行使としての「不作為の違法」によって国賠訴訟で敗訴する時代(大和都市管財事件大阪高裁判決)、行政が責任を背負うことになってしまうわけですから。東芝歴代社長さんの刑事立件に関する「検察庁vs金融庁」の構図でもおわかりのとおり、金融庁はリスク(無罪)を背負う覚悟を持ちました。では監査法人はどうなのでしょうか?

 

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2016年1月 6日 (水)

会計監査の在り方は東芝事件だけでは語れない

1月4日、東証2部のJFLA(ジャパンフード&リカーアライアンス)社は(ようやく)過年度有価証券報告書の訂正報告書、内部統制報告書の訂正報告書を提出されたようです(1月4日午前の東証適時開示をご覧ください)。すべての関係者の皆様、本当にお疲れ様でした。経営者の方々も、会計監査人の方々も、おそらく年末年始の休暇など全くなかったことと拝察いたします。

拙ブログでは残念ながら開示された事実しか書けませんが、会計監査人(S監査法人)の毅然とした不正リスク対応が同社の過年度決算訂正、内部統制報告書の訂正につながり、さらには同社のガバナンスを変えることになりました(いや、第三者委員会委員の皆様の頑張りや会社経営陣のご英断もあったと思うので「変えるきっかけとなりました」が正確なところかもしれません)。延期されていた定時株主総会において全取締役が退任され、会社は監査等委員会設置会社に移行されるそうです。会計監査人の警鐘が金商法193条の3、会社法397条1項による通知として(日本で初めて)開示されてほぼ5カ月、同社は新たなガバナンス体制で業績向上に臨むことになります。

巷では東芝事件を契機として新日本有限責任監査法人さんの監査に話題が集中していますが、監査対象会社と真っ向からぶつかって、監査契約を解除されることを覚悟して「市場の番人」としての公認会計士の役割を全うされようとした監査法人が存在することもご記憶いただければと。企業不祥事のマスコミ報道では「自浄能力」を発揮した企業の事例はほとんど取り上げてもらえず(会社からみればそのほうがいいのですが)、自浄能力を発揮できなかった企業の事例に(おもしろおかしく?)光があたります。監査法人さんの独占業務である「会計監査」についても、社会インフラとして悪いところは直すべきですが、良い例があればベストプラクティスとして広く紹介されるべきです。

もちろん監査法人さんも守秘義務は厳格なので、ご自身からは紹介できない「良い例」もあるとは思います。また、「良い例」とはいいつつも、過年度決算修正というのは「もっと早く監査人が発見できなかったのか」といった自問自答のジレンマを抱えていることは確かです。しかし、それでも「この会計処理はおかしい」と外に向かって声を上げる、その頑張りが監査法人のブランドになればいいなぁと考えています。上場会社の経理処理はITシステム化、外注化、専門化が進み、お金の流れ全てを把握できる経理担当者、内部監査担当者はますます少なくなります。おそらく市場の番人としての会計士さんの役割は今後ますます期待が高まることになるはずです。

監査法人さんの毅然とした態度には(社会的影響力が大きいため)リスクが伴います。しかし、これからの会計監査では、市場の健全性確保と市場の活性化という「トレードオフの調整弁としての期待」が寄せられている以上、ある程度のリスクをとらざるをえないと考えます(「時代の要請に応えること」は独占業務という特権を持つ職業の宿命では?)。一方においては、「監査人の適正意見が出ない=上場廃止」という図式はすでに東証ルールで緩和されており、市場関係者もリスクをとって「市場の番人」としての役割を果たす監査法人、公認会計士の方々を支える仕組みを考えるべきだと思います(たとえば会社法改正によって、不正会計の発見を支援する方法があることも以前のエントリーで述べたとおりです)。

JFLAの事案では、会計監査人が「資産流用」に異議を唱えたことによって「粉飾」事件に発展しましたが、粉飾の原因はやはり「経営者による見積りの悪用」でした。経営者の説明がつかない会計処理はおそらく内部統制の軽視につながり、業績の厳格な評価を妨げ、ひいては企業価値向上の妨げになります。情報開示の誠実な姿勢は社員にも理解され、かならず業績の向上につながります。私自身も、このブログを通じて、会計監査や第三者委員会等「市場の番人」「公益の番人」と呼ばれるにふさわしい制度について「良い例」も「悪い例」もきちんと根拠を示して公平かつ公正に取り上げていきたいと思っています。

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