2019年2月14日 (木)

監査法人のビジネスは監査からコンサルタント業務へシフト?

内部通報制度の自己適合宣言登録申請の受付が、2月12日に開始されましたね(関心のある方は、商事法務研究会さんの関連ページをご覧ください)。果たしてどれくらいの企業さんが申請し、また認証されるのか、そして認証マークはどのように活用されるのか、今後の運用が楽しみです。

さて(ここからが本論ですが)、毎年恒例の週刊エコノミスト「弁護士・会計士・弁理士」特集記事(2月19日号)をさっそく読みました(結構楽しみにしております)。今年は「進化する弁護士・会計士」ということで、起業する弁護士・会計士や組織内弁護士・会計士に光があたり、私の知らない世界も垣間見えて面白い内容です。

そのような中、「弁護士が日本版司法取引の施行でコンプラ特需!」などという記事もありますが(ホンマかいな?(*´Д`)?)、一番興味を惹いたのは「監査報酬が上昇、目立つ『新日本離れ』」なる特集記事。伊藤歩記者お得意の(?)詳細な調査・分析に基づく記事でして、読み応えがあります。最近、新日本監査法人さんから別の大手監査法人・準大手監査法人に会計監査人が代わった上場企業が多いことが読み取れます。

「新日本離れ」の原因としては、記者の指摘する「東芝の会計不正事件の影響」ということもたしかにあるかもしれませんが、最近の会計不正事件への会計監査人の厳しい対応、頻繁な監査人交代をみておりまして、他の大手監査法人も含めて「できればリスクの高い企業の監査は避けたい、もしくは続けるとしても、厳しい監査基準に見合う監査報酬に増額したい」といった気持ちの表れ、ともいえそうです。

つまり、新日本さんは、どこよりも早く決断し、ビジネスモデルの転換に舵を切ったのでは、というのが私の見立てです。1月22日に東証さんが適時開示ガイドブックを改訂され、監査人交代時における理由開示の詳細化を要請していますので、今後はこのあたりも明らかになってくるかもしれません。そこにもし東芝事件の影響があるとすれば、「監査意見にもセカンドオピニオンはありうる」という認識が、監査業界において共有されてきた、という現実ではないかと(だからこそ会計監査における情報提供の充実が求められるわけですが・・・)。

監査報酬を上昇させることも経営面では大切ですが、もっと効率的なのがアドバイザー、コンサルタント事業にシフトすることです。これだけ監査業務のリスクが高まり、監査自体も厳格になっているわけですから、企業としては監査に耐えうるガバナンス、内部統制に力を入れるのが当然であり、そこに監査法人のアドバイザリー業務の需要が高まります。最近は不正発見、予兆発見のためのAIソフトも稼働しており、監査スキルを持った人的資源の不足を補う道筋も見えてきました。そこで、たとえ会計不正が発生したとしても、決算修正に至る前の重要性に乏しい不正で見つかれば、企業にとっても費用対効果という面でも合理的です。

なんといっても、独占業務である監査実務を経験されてきた方々がアドバイザーとして会社を支援するわけですから、これは監査法人さんの強みだと思います。上記週刊エコノミストの特集記事「組織内弁護士のトレンド」では、企業内弁護士も実務経験のある法律家への需要が高まっているそうで、このあたりは弁護士も会計士も同様かもしれません。おそらく大手監査法人は監査収益よりもアドバイザーとしての収益のほうが(現状でも)上回っているものと推測いたしますが、その傾向は(監査の厳格化が増すにしたがって)さらに強まるものと思います。

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2018年12月17日 (月)

会計監査人への内部通報(内部告発)と件外調査の重要性

日曜日(12月16日)夜の産経新聞ニュースなどを読んでおりますと、またまた日産前会長金商法事件に関連したエントリーを書きたくなるのですが、本日はひさしぶりに内部通報・内部告発関連の話題を備忘録として記しておきます(日経ビジネス12月17日号の恒例「謝罪の流儀」特集もなかなかおもしろいので、こちらも追って別エントリーでご紹介したいと思います)。

ホシザキさんの14日付けリリースなどを読みますと、グループ会社における不適切会計に関連した社内調査報告書が提出された後、親会社社員が会計監査人による四半期レビュー手続きを妨害した疑いがあるとして、更なる調査を行うことを決めたそうです。この妨害行為は会計監査人への社員による内部通報によって発覚したそうで、証拠書類を添付したうえで通報がなされた、とのこと。ホシザキさんは再度の四半期報告延期となり監理ポスト入りが見込まれます。

また、12月8日の日経朝刊では、RIZAPさんの不適切な循環取引疑惑に関する記事が掲載されておりまして、会計監査人(太陽監査法人さん)がRIZAPグループ上場会社に対して「債権取り立て益」を特別利益として計上することを中止させたそうです。こちらの記事では会計監査人に内部通報があったとは明確には記載されておりませんが、日経記者さんへの情報提供がRIZAP「関係者」からのものであること、この関係者の方は「こんな取引が複数あった」と証言していることから、(M&A路線の中止はRIZAPさんの「負ののれんの減損」に関する「松本ショック」によるものと言われていますが)こちらも会計監査人への内部通報の可能性が高いものと推測いたします。

四半期開示制度が存続する以上、私は会社と会計監査人の協働作業によって不正を見抜くことは不可能とまでは申しませんが至難の業だと思います。なぜなら、四半期開示に向けたルーチンワークで経理部や監査部、そして会計監査人は手一杯というのが上場企業の現状であり、すこしおかしな点に会計監査人(現場の監査担当者)が気づいたとしても、四半期レビューの手続きをこなすことが優先されてしまうからです。要は経理部と会計監査人との間で監査の深堀りを行う余裕はほとんどありません。したがって、社員による会計監査人への情報提供こそ、会計監査人が不正の端緒を知るためには重要となります。そのような中で、不正リスク対応基準の策定や国際倫理規則の改訂、CGコード、監査法人版ガバナンスコードの策定などにより、内部通報が監査人に届いた場合の対応はますます厳格になっているのが現状ではないでしょうか。私は上記のような事例は今後も増加することになると予想しています。

とりわけホシザキさんの例をみますと、社内調査は決して手を抜いたわけではないと思いますが、社内調査のスコープが狭い場合には、後日他の部門からも同様の不正が発覚することがあり、これが内部通報によって明るみになることも多いと思います(ホシザキの社員の方は、そのあたりを焦ってしまったのかもしれません・・・)。今年の企業不祥事の特徴として「件外調査の不十分性」が挙げられます(皆様がご存じの事例だけでも三菱マテリアル、日立化成、日産燃費偽装、スバル等)。このような後日再調査ということになりますと企業の信用が大きく毀損されることになります。したがいまして、内部通報制度の充実を図ることも大切ですが、(これだけ会計監査人の不正対応が厳格になっている以上)まず企業不祥事が発生した場合には、発覚した不正と同様の不正は他の部門でも発生していなかったのか、海外子会社も含めて十分な件外調査を(できるだけ公正中立な調査委員のもとで)行うことが肝要です。

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2018年11月13日 (火)

会社と意見相違した会計監査人の判断理由開示について(3・完)

金融庁に新たに設置された「会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会」の開催資料を読み、思わず会計監査制度の将来について(素人ながら)自説を述べてまいりましたが、今回のエントリーが最終回となります(ちなみにご興味のある方は、エントリーその1エントリーその2はこちらでございますのでご参考まで)。経営財務の最新号には上記懇談会の第1回会議におけるメンバーの主な発言要旨が掲載されておりますね(メンバーのお名前も含め)。

前回のエントリーの最後におきまして、

「会計監査制度のあり方」の根本に関わる問題と思いますが、ではなぜ今「会計監査制度の社会資本としての価値」を語る実益があるのか

と書きました。今こそ「会計監査の社会資本性」について語る必要があると考えておりますが、その理由は私の5年前の著書「法の世界からみた会計監査」(同文館出版 2013年)でも少しばかり述べております。私は行動経済学、認知心理学の考え方が、そもそも会計監査の理解にとっては必要ではないかと考えています。

先日、こちらのエントリーの中で、ゴリラのバスケット実験をご紹介し、「人は(視野に入ったものであったとしても)自分が見たいものしか見ない(見えない)のではないだろうか」との感想を述べました(おかげさまで、このエントリーはたいへん多くの皆様にお読みいただきました)。このゴリラのバスケット実験は「注意の錯覚」を扱ったものですが、この実験を行った認知心理学者クリストファー&ダニエルらによる「錯覚の科学」(文春文庫)の中で、「自信の錯覚」に関する研究結果も紹介されています。人は自信なさげの説明よりも、自信たっぷりの説明ぶりの説明をつい信用してしまう、というもの。著者らは、この自信の錯覚を、医師と患者の関係から解説しています。

多くの臨床実験の結果から「患者は医師の(いいかげんな)説明でも、医師が自信たっぷりに説明すれば信用してしまう。しかし、医師が目の前で参考書を取り出してきて、いろいろと調べた末に処方の結論を出した場合には、たとえ正しい処置がみつかったとしても患者は不安を覚えてしまうそうです。「自信はアテにならない」ことは多くの実証研究でも証明されているのですが、どうしても「自信の錯覚」に患者は陥ってしまう。本書では、難病治療の世界で有名な米国医師の話が引用されています。同医師によると「医師にはある程度の自身は必要。だが最良の医師とは、患者の目のまえで『わかりません』と正直に言える人である」とのこと。

会計監査もこれと同様ではないでしょうか。「監査は神聖不可侵」と自信たっぷりに意見が述べられれば、投資家も会計監査人の意見を疑わないでしょうし、英国のように「俺が会計基準だ」と自信たっぷりに説明されれば、投資家は安心すると思います。ただ、このたびの東芝さんの会計不正事件における会社と二つの大きな監査法人の間で発生した監査意見の相違を目の前にしますと、監査を行う人によって「監査意見は絶対」というものではないのであり、(ひょっとすると)会計監査人の巧拙によって投資家が損失を被る可能性はあるということが示されたと思います。これまでのところ、〇〇監査法人の意見が正しく、〇〇監査法人の意見は稚拙で誤りだった、といった判定は市場関係者の間でなされていません。したがって、「会計監査の世界においても、やはりセカンドオピニオンは存在する」との結論をとらざるをえない。

そうであれば、少なくとも会計監査の利用者にとって、どっちの会計監査人の理由と結論を信用すべきか、その優劣を素人なりに判断する道は保証されるべきですし、そのための会計監査人の説明義務についても議論されてしかるべきです。会計の素人に「真の会計監査の品質などわかるはずがない」のであれば、せめて(自己責任を問いうるだけの)「品質に関する安心」だけでも提供できる制度があれば社会資本となりえると考えます。これが今求められる会計監査の「社会資本」としての価値だと考えます。よりよい会計監査の判断には被監査企業や投資家の協働が必要されるゆえんはそこにあると考えます。職業倫理をわきまえた会計プロフェッションである以上、会計監査人は自信たっぷりに監査意見を述べるべきと思います。しかし、「意見不表明」「不適正意見」についても堂々と述べるべきですし、最終的には投資家に会計監査の質を判定してもらうだけの気概を持つべきではないでしょうか。

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2018年11月 9日 (金)

会社と意見相違した会計監査人の判断理由開示について(2)

さて、昨日のエントリーその(1)の続きでございます。改めて申し上げますが、私の意見はどこからか引用した考えではなく、あくまでも私の個人的な妄想(?)によるものでありますので、誤解なきようお願いいたします。

昨日は「なぜ(会社と意見相違した会計監査人の判断理由を開示する)制度が、市場の健全性の有効性・効率性の確保、会計監査の有効性・効率性の向上に資するものとなるのか」といった疑問を呈しました。企業側からも監査法人側からも、いろいろとご異論が予想されるにもかかわらず、このような制度を策定するにあたっては、その「社会資本」としての価値が必要ではないかと考える次第です。

まず、市場の有効性・効率性を向上させる・・・という点は、費用対効果を厳密に精査する行政規制手法の在り方との関係です。会計監査の有用性を高めるにあたり、できるだけ行政の資源を投下しないで高い効果をあげる方法を考えます。他の省庁でも同様の手法が採用されますが、競争原理の導入と利用者のリテラシーの向上の「合わせ技」に求められます。つまり利用者(ここでは投資者)のリテラシーを向上させつつ、会計監査の主体に競争原理を持ち込み、「信頼できる監査法人」と「そうでない監査法人」について投資者の目利き力による選別に期待をします。

「監査法人の適正意見ならどこも一緒」ではなく、「あの監査法人の適正意見なら信用できる(高い報酬も当然だ)」といった投資家の感覚が、ひいては企業による監査法人の選別につながるというもの。いわば「利用者志向の財務報告」を実現するプロセスであり、これに近い考え方は旬刊商事法務の最新号(2181号)スクランブル「KAM導入は利用者志向の財務報告をもたらすか」でも披露されています。ただ、このような考え方が成り立つためには「監査意見も間違えることがある」「監査意見は神聖不可侵ではない」ということが所与の前提であり、「監査意見にもセカンドオピニオンがある」ということを認めなければ出てこない考え方だと思います。

そして、会計監査の有効性・効率性を向上させる・・・という点ですが、これは「会計監査の信頼向上は会計監査人の努力だけではなしえず、市場の番人としての共助の精神が必要」というものです。たとえば自動車のリコールの要否については、日本では専門性の高い技術が必要なのでメーカーと国交省との協議で判断されますが、米国では一般市民の意見や情報も取り入れながら「みんなで決める」(だから不具合に関する情報提供義務違反には厳しい制裁が課されます)もの。これと同じように、会計監査の質を高めるためには利用者、被監査企業、他の監査人らを巻き込んで、よりよい「解」を求めるという考え方です。したがって、ここでは会計監査人の説明義務がクローズアップされますし、当然のことながら被監査企業に対する守秘義務解除のための「正当理由」との関係が問題となります。また「よりよい解を求める」というためには監査意見にはセカンドオピニオンもある・・ということを認めなければ前に進まないと思います。

おそらく「会計監査制度のあり方」の根本に関わる問題と思いますが、ではなぜ今「会計監査制度の社会資本としての価値」を語る実益があるのか・・・そのあたりは(その3)で述べたいと思います。

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2018年11月 8日 (木)

会社と意見相違した会計監査人の判断理由開示について(1)

(11月8日午前11時 最終更新)

今朝(11月7日)の日経朝刊において「『不適正決算』判断理由は?-金融庁、監査法人に説明求める」との見出しで、新たに金融庁内に設置された「会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会」が始動したことが報じられていました。第一回の懇談会資料もリリースされていますので、今後同懇談会で議論される予定の論点がわかります。いくつかの論点がありますが記事で紹介されているのは、会計監査において、会社と監査法人との意見が食い違った場合(たとえば会計監査人が財務諸表について「限定付適正意見」や「不適正意見」を付した場合など)、会計監査人はなぜ異論を唱えたのか、その判断理由を(会計監査人が)説明する(開示する)ような制度の是非を検討する、というものです。

このような制度は今のところ世界中探しても存在しないと思いますし(2020年3月期から早期適用が推奨されているKAM制度についてはすでに海外で先行していますが)、おそらく企業側からも監査法人からも様々な消極意見が出てきそうです。ただ、なぜこのような懇談会が立ち上げられ、監査法人の判断理由開示制度が真剣に議論されるに至ったのか、といったところは、(イ)東芝不正会計事件における二つの監査法人と東芝との監査意見を巡る不明瞭な問題が発生したことと、(ロ)この問題を受けて開催された経営財務3356号(2018年4月23日号)掲載の八田進二氏(青山学院大学名誉教授)と佐藤隆文氏(日本取引所自主規制法人理事長)との対談で、一定の問題整理が試みられたことが「きっかけ」になったのではないかと推測いたします(そこで議論されている論点が、審議資料2の論点表とピッタリ一致します)。キーワードを探すとするならば、数年前に国際的な倫理規則でも容認され、日本の倫理規則でも条件付きで容認されている「監査意見のセカンド・オピニオン」でしょうか。

私自身は、それほど違和感なく、この制度は経済的合理性あるものと考えておりますが、どのようなご意見が出てくるのか、今後の審議に注目したいと思っております。なぜなら、①市場の健全性確保の有効性・効率性を図ることは近時の会計不正事例の急増(昨年は不正開示事例が68件)という事態からみて当然ですし、また②会計監査の有効性・効率性の向上は、監査報酬がなかなか増えない日本の現状からみて、当然に実施していかなければ監査法人の経営維持は図れないからです。ではなぜこの制度が市場の健全性の有効性・効率性の確保、会計監査の有効性・効率性の向上に資するものとなるのか・・・、そこは「その2」以降で私なりの意見を述べたいと思います。

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2018年9月26日 (水)

監査報告書の長文化導入と同時に四半期報告制度を廃止すべきでは

日経朝刊のトップに「監査不信 ふたたび」と題する記事が掲載された日曜日(9月23日)、東京新聞朝刊経済面に「決算『四半期』→『半期』 米で検討 企業歓迎 透明性後退も」と題する特集記事が掲載されました。

トランプ大統領が米国企業の決算について四半期から半期に見直すことを表明し、すでにSECが検討に入ったことはご承知かと思いますが、日本も対応を迫られる可能性が出てきた、ということを報じています。具体的には、金融庁WGが「現時点では四半期開示について見直すことはしない」としながらも「海外動向などを注視し、必要に応じてその在り方を検討する」とまとめたことから、日本でも見直しの機運が高まりつつある、という趣旨の記事でした。米国大統領の提案に日本商工会議所も、経団連も共感を示していて、八田進二先生も(コメントの解釈として)一定の理解を示しておられます。

米国では1970年から四半期開示が義務化されましたので、1999年に東証マザーズで義務化された日本よりも30年も長い歴史があります。証券市場に深く根付いた制度なので(あまり報じられていませんが)廃止反対論も多いのではないでしょうか。また、日経新聞の社説では、先日「四半期開示制度は必要」とのことでしたし、日曜日の「監査不信」の特集記事でも「四半期開示の廃止は、さらに大きな会計不正を生むおそれがある」と締めくくっていたので、日本でも四半期開示制度を廃止することについては投資家サイドを中心に、根強い反対意見があると思います。いっぽうでは四半期開示に要する「膨大な時間と費用」について、企業側からの廃止提案も出ています。

ところで(ここからは私の勝手な意見ですが)、日本では2021年3月期から60年ぶりの改革となる「監査報告書の長文化(透明化)」が施行されます。5年前に導入された「監査における不正リスク対応基準」と同様、企業と会計監査人との協働によって監査の信頼性を高める制度が導入されるわけですが、資本主義の負担をどう分配するか・・・という点については、企業と監査法人との「解を模索する努力」は、これまでもやってきたわけでして、今後もさらに続くはずです(単に、世間の方々が、監査制度にあまり関心を抱いていないだけかと)。

現に、トラブル案件を通じて、中小の監査法人の監査実務を近くでみている者としては、監査における不正リスク対応基準が実務に及ぼす影響はかなり大きい、と実感します。やや「認知バイアス」(代表制ヒューリスティックス)気味な話かもしれませんが、私の周囲を見回しても、これまで遠慮して企業側にモノが言えなかった会計監査人が、会計士協会の報告書や実務指針、金商法193条の3を根拠に、会社側に厳しい意見を述べる場面は確実に増えています(3年ほど前に、当ブログでご紹介したように、オモテに出てしまった事例もあります)。このあたりは、普段から監査法人に検査に入っている金融庁が一番認識しているのではないかと思います。

監査報告書の改革に不正会計の予防効果があるかどうかは未知数ではありますが、せっかく導入するのですから、この際、同時期に四半期報告制度は廃止してはいかがでしょうか。監査法人には限られた資源しかありません。これから始まる監査報告書改革には物的・人的資源が必要なので、四半期報告書制度を廃止することによる資源を、企業も監査法人も、そちらに振り向けることには、それなりの合理性があると思います。四半期報告制度が(かならずしも不正防止という趣旨とは直結しない)重要なインフラであることを承知のうえで、監査に要する資源には限りがあるという現実を見据えながら、あえて提言してみたいところです。

監査制度は資本主義社会に不可欠な制度であり、監査人と企業とが共同でこれを担っていくべきものです。監査不信を本気で払しょくするのであれば、証券市場に関わる人たち全てが「何かを始めること」よりも「何かを終える」勇気や覚悟を持つべきだと思います。会計不正を防止する覚悟、そしてなによりも政府の推進している企業統治改革を実施する覚悟(「中長期における企業価値向上への経営戦略」への建設的な対話)があるのなら、多少の混乱を承知のうえで「何かを捨てること」から始めるべきです。

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2017年11月 9日 (木)

会計監査人から受領する資料の事前配布ってアリなのか?

(9日 17:15 追記)

一昨日の「地面師」ネタはずいぶんと反響がありまして、11月9日午前1時現在、ココログの人気記事ランキング5位という、とんでもないアクセスになりました(法務ブログではありえない?)。おかげさまで(?)、当該事件の複数の関係者の方からご連絡をいただき、有益な情報を得たり、お叱りを受けたりしております(笑)。本日もアパグループさんが地面師被害に遭遇したと報じられていますが、とても興味深いジャンルの事例なので、また性懲りもなく続報を書きたいと思っております。(追記:9日17時現在、人気記事ランキングは29位に落ちました。人気ブログランキングは相変わらず13位です)

さて、会計監査人の交代を端緒としてKDDIさんの海外子会社で会計不正が発覚した(その内容がパラダイス文書から判明した)、といった事例が朝日新聞、毎日新聞で報じられています。業務の停滞を招くとして、ローテーション制度の導入には上場会社の反対意見が強いようです。しかし、こういった事例が明らかになりますと、やはり監査法人の交代制導入も会計不正の抑止・早期発見のためには必要です、といったご意見(金融庁の思惑?)も世間的には説得力を帯びてくるような気もいたします。

ところで会計不正の抑止・早期発見という趣旨では、ガバナンス・コードでも実施が要請されている「監査役等と会計監査人との協働」にも注目が集まるところです。両者のコミュニケーションをどのように深化させるべきか、多くの会社で模索されています。とりわけ最近は、監査役、監査等委員の方々に会計監査人側から配布される資料の多さには目を見張ります。

まず「監査計画概要説明書」ですが、これはKAM(監査上の重要事項)がわかりやすく説明されていたりして、コミュニケーションには不可欠な資料です。会計監査人と経営執行部間でどのようなやりとりがあるのか理解するためにも有用です。また、会社法監査における会計監査人の選任権、報酬同意権を行使するために「会社計算規則131条に基づく監査役等への通知事項説明書」のチェックも必要ですね。

ただ、最近はそのうえで今年3月施行の監査法人版ガバナンス・コードに基づく「監査品質向上への取組説明書」(これがとても立派な資料です)が交付されて詳細な説明がなされます。さらに(CPAAOBの指導に基づく)監査法人の5段階成績表「品質管理のシステムに対する外部レビュー、検査の結果及び対応状況について」も配布されて、会計監査人側から説明がなされます(いちおう、成績表は監査役さん限り、ということで対外的には開示不可とされています)。まあ、説明というよりも、なんでこんな成績だったのかを懇切丁寧に釈明するという「言い訳」に近いものかもしれません。たとえば監査法人と監査役等との報告会ということで1時間を予定しているとすれば、これだけの資料について監査役等への説明だけで1時間以上は必要です。

しかし、「報告会」とはいえ、今回の監査役等と会計監査人との協働では、企業側の事業リスクや会計不正リスク(もしくはそのようなリスクが顕在化することを示唆する懸念事項)について、監査役等から会計監査人へ十分な説明が必要です。とくに今後「監査報告書の透明化、長文化」が制度化されるとなりますと、会社側の経営統括責任者は監査役等ということになるので、会計監査人も監査役等から十分な事情を聴きだす必要があります。そうであれば、会計監査人と監査役等とのコミュニケーションは、原則としてギブ&テイクの関係で進めなければなりません。

そこでひとつ提案ですが、報告会の際に会計監査人から配布される膨大な資料については、できれば監査役側に事前に配布されるようなシステムはとれないのでしょうか。監査法人の成績表まで含めて、監査役等は事前に読み込んでおいて、できるだけ効果的な質問ができるような準備を監査役等もすべきだと思います。会計監査人側からの定型的な事項の説明についても、監査役等のメンバーに変更がない場合には思い切って割愛してもよいのではないでしょうか。

監査役等が抱く懸念事項を説明されることで、会計監査人の監査対象が広がり、監査報酬も増額する必要が出てきますと、あまり会計監査人からも好まれるものではないかもしれません。ただ、そういった双方向のコミュニケーションが実現することがガバナンス・コードの実質化であり、そういった時代になったことを監査役等から社長に説明をして、監査報酬の増額も(普通に、日常的に)ありうることを説得すべきだと思います。ガバナンス・コード4-4、同補充原則3-2①についてはほぼ100%の上場会社がコンプライ宣言しているはずです。「実施します、実施してます」と宣言している以上、きちんと運用しなければ開示違反、会社法違反(法令違反)になるのではないかと。

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2017年10月11日 (水)

監査報告書の長文化(KAM)と監査関係者の法的責任

すでにご承知の方も多いと思いますが、あの「監査役 野崎修平」がドラマ化されるそうです。主役の「監査役 野崎修平」は織田裕二さんが演じ、社長(頭取)が古谷一行さん、専務が岸谷五朗さんに決定(「そんな監査役おるわけないやん!」というご指摘は置いといて・・・笑)。来年1月からWOWOWの連続ドラマとして放映されるそうで、とても楽しみです。ちなみに「おい!頭取に反抗するなんて、おまえ何考えてるんだ?何もモノを言わないのが監査役の役目だぞ!」と野崎を諫める先輩監査役は誰が演じるのか、こちらも楽しみです。

そういえば、かつてNHKで「ドラマ監査法人」や「ジャッジ~島の裁判官」が放映されたとき、日本監査役協会の方々と「『野崎修平』をNHKでドラマ化できないだろうか・・・。NHKにシナリオを書いて提案したらなんとか考えてくれるのではないか」と真剣に検討したことがありましたね。今回のドラマ化は(NHK、とはいきませんでしたが)日本監査役協会にとっても(監査役の知名度を飛躍的に向上させるものとして)悲願ではないかと思います(少し大げさ?笑)。

ただ、監査役制度の認知度がアップすることは、そのぶん「期待ギャップ」も拡大するということで、企業不祥事が発生するたびに「監査役は何をしていたんだ!?」と批判され、監査役等の皆様が損害賠償請求の被告になる確率も高まることになります。そしてドラマ化と同様、監査関係者の提訴リスクを高めることの一因となりそうなのが「監査報告書の長文化(透明化)」ではないでしょうか。3年ぶりに開催された企業会計審議会総会の議事録を拝見しましても、海外での先行例をそのまま日本にも導入するということはないようですが、長文式監査報告書が近いうちに採用される可能性はかなり高いようです。

旬刊商事法務8月5日号(2141号)の座談会「会計監査の実効性確保と監査役の役割」でも、KAM(重要な監査事項)を会計監査人の監査報告書に記載することで、監査関係者にどのような法的責任が及ぶのか・・・という点への懸念が(有識者の方々から)表明されていました。あまり法的な問題をほじくりまわすと、せっかく監査人による自由な記載に期待がかけられているのに、結局「お決まり文句のKAM表示」になってしまうのではないか、との懸念が生じます(これまでの監査制度の変遷からみて十分にありえます)。

そのような状況で、月刊監査役の最新号(10月25日号)の特集「監査報告書改革の論点」にて、早稲田の黒沼悦郎先生のご論稿「重要な監査事項の記載と監査人の責任」は、ズバリ監査報告書の長文化が導入された場合における会計監査人(金商法上の監査人)と監査役等の法的責任をどう考えるか、という点に光を当てておられ、共感する点がたくさんありました。たとえば会計監査人や監査役等の任務懈怠責任としての①事実上の影響、②KAM記載方法、記載内容に関する行為規制、③金商法上の虚偽記載責任(開示規制)、④これに派生するものとしての民法上の不法行為責任など、いずれも私は制度実施において法的に問題になると思います。いくら株主と経営者、監査関係者との積極的な対話のための道具だとしても、財務諸表の不正には司法裁判所が関与するという現実があるかぎり、法的責任論から免れることはできないはずです。

ただ、金商法、会社法の著名な学者の方が、現行法との整合性に配慮したご主張を、わずか2頁の紙面で展開されていらっしゃるので、一般の監査役の皆様には「通訳」が必要ではないかな・・・とも思いました(このご論稿の元になっている「現代監査」のご論稿も拝読しましたが、やはり一般の方には通訳的な説明が必要かな・・・と思いました)。私などは、「事実上の影響」として、KAMとして報告書に記載された内容だけでなく、KAMの記載に至った会計監査人と監査役等(統括責任者)とで、どのような協議がなされたのか、その議事録まで文書提出命令の対象となる可能性なども議論の対象になるような気がいたします(たとえばシャルレのMBO頓挫事件の株主代表訴訟の際に、なぜ社内文書に文書提出命令が認められたのか、といった点からも、検討しておくべきではないかと思います)。

また、かりに会社法監査の報告書においてもKAMが記載されるのであれば、会計監査人のKAM決定についても監査役等の相当性審査が義務となるわけですが、ではどのように連携をすれば会計監査人の監査の方法および結果の相当性を判断した、と評価されるのか、会計不正が発覚した際には、大和銀行株主代表訴訟の際と同じく、監査役等も会計監査人と連座して任務懈怠が認められる事態になるのではないか、といった問題にも配慮が必要ではないでしょうか。これまで多くの会計不正事件の第三者委員会報告書でもほとんど触れられてこなかった監査関係者の行動が、この監査報告書の長文化によって明らかにされることを私自身は期待をしております。それは、最終的には監査関係者の方々の環境整備(監査人や監査役等の独立性の確保や監査報酬の適正化など)につながるものと確信しています。

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2017年7月28日 (金)

会計監査人交代事例にみる監査法人改革の本気度

もうすでに会計士の方々のブログ等では話題になっておりますが、証券コード9788社(東証1部)におきまして、7月26日付けで「会計監査人の異動及び一時会計監査人の選任に関するお知らせ」が公表されています。今年6月の定時総会で会計監査人に選任(継続)された新日本監査法人さんが、7月26日付けでコード9788社との監査契約を合意解約した、とのこと(後任の一時会計監査人は仰星監査法人さんだそうです)。理由はといいますと、

平成26年3月期の第2四半期に行った株式会社●●●取得時の会計処理に、発生頻度の少ない非定形的な処理があったため、会計上の「二重責任の原則」は承知しつつ、新日本有限責任監査法人からの助言に基づき処理を行い、無限定適正意見をいただきました。その後も、当社は同様の会計処理を継続し、無限定適正意見をいただいています。しかし、平成 29年6月中旬に、新日本有限責監査法人において業務執行社員変更に伴う引継時に当該 会計処理の誤りが発見され、同法人より指摘を受け修正するに至りました←(9788社 6月28日付け訂正・数値データ訂正)「平成29年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」 の一部訂正に関するお知らせ」より引用

だそうです。つまり、従前の新日本さんの業務執行社員からの指摘によって会計処理を行っていたのに、その処理はおかしいと引き継いだ業務執行社員から指摘されて、決算修正のうえ、内部統制には重大な不備があると開示せざるをえなくなったわけです。リリース上では「合意解約」とありますが(たぶん)会社としては「あんたとはやってられまへんわ!」ということで、新日本さんは事実上解任をされたのではないかと推測されます(会計監査人の意見は付記されていないので、あくまでも「推測」ですが・・・)。

たしかに、日本を代表する監査法人の珍しい事例を「トホホニュース」として取り上げるのは簡単です。 ただ、これまで同一監査法人内での引き継ぎ時に、同様の状況というのは時折発生していたのではないでしょうか?同じ監査法人内のことなので「なんとなくグレーな状況だけど、まあ、監査先企業は失いたくないし、会社もよくわかってないみたいだから、穏便に、穏便に」といったことで済まされてきたこともあったのではないかと。

今回、おそらく会社側から解任されることを覚悟のうえで、同じ監査法人内で業務執行社員が他の業務執行社員の誤りを堂々と指摘した、というのは、むしろ監査法人さんの姿勢としては健全な方向に動いているのではないでしょうか(誤りを指摘したら、実は前任者の指摘した内容だったことが後でわかった、といった更なるトホホはないと信じております)。かつて大きな監査法人の偉い方から「監査法人の品質とは、個々の会計士の品質と同時に、組織としての監査法人の品質も大事なのだ」と教えていただきましたが、なぜこのような事態となったのか、(会社側だけでなく)監査法人側の説明もお聴きしてみたいものです。

(追記 7月28日正午)一老さんから有益なコメントをいただきました。ご参考にしてください。

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2017年7月25日 (火)

監査法人のローテーション制度導入のために必要な前提条件

いつも私が愛用しているRSSリーダーLive Dwango Reader(LDR)が、8月末をもって閉鎖するそうです。「この数年で利用者も大幅に減少しており、サービスとしての役割を終えたと考え、終了という判断に至りました」とのこと。たしかにブログという媒体自体、多くのSNS興隆の中で魅力が薄れてきたのは事実ですね。ひとつの転換時期かなぁと感じます。

先週木曜日(7月20日)に金融庁HPで公表された「監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第一次報告)」を読みました。現在導入されている「パートナーローテーション制度」がうまく機能していない、企業による自主的な監査法人の交代が進まない、諸外国はすでにローテーション制度を導入している、といった内容からしますと、「強制導入は時間の問題?」とも思われますが、まだ第一次報告ということで、今後さらに導入の可否について検討を加えるそうです。

導入に向けた課題については、監査の専門職の方々が議論すべきことですが、ひとつだけ調査報告を読んで気づいたことがあります。それは、監査法人の社会的責任の明確化、品質保証、そして報酬低額化防止にとって重要なのは被監査会社の監査委員会の機能強化という点です(日本でいえば監査役制度の機能強化といえばよいのでしょうか)。監査権限を有する機関が「公益の番人的な地位」を当然に有していることが監査法人のローテーション制度の実効性確保のために不可欠では?といった感想です。2014年に出版した拙著「法の世界から見た会計監査」の中でも述べておりますが、監査法人はどこまで監査役さん(監査等委員である取締役さん)を信頼しているか・・・といったところの「連携」の課題です。

会計監査人と監査役等との「連携」の重要性が指摘されて10年以上が経過していますが、この「連携」というのも、実際にはよくわからないところがあります。いろんな会社の「連携」例をみておりますと、報告会の開催、意見交換、リスクアプローチによる問題点の指摘といったことが挙げられます。でも、連携の本気度を上げるためには、実質的に監査法人の選定権限や報酬決定権限が監査役会や監査委員会に存在しなければ(監査法人さんが監査役さんのほうに真剣に顔を向けないので)無理ではないかと。また、会計監査で得られた情報と業務監査で得られた情報を「ギブ&テイク」で双方が活用する気持ちがないと形骸化してしまうような気がします。

「何かとくに留意すべき点はありますか?」「今年は何か監査のキーになる項目はありますか?」といったやりとりが監査役さんと会計監査人との間で交わされることがありますが、これでは「連携」にはならないと思うのです。監査役と会計監査人が相互に「こういった情報が欲しい」、「こういった宿題をやっておいてほしい」と「知りたい情報」とその知りたい理由をわかりやすく説明しなければ、そもそも連携の相手方には伝えるべき情報の価値がわかりません。つまり情報共有などできないはずです。そして、そのためには相手の職務に関する一定程度の相互理解が求められます(そういった面において、会計的知見を有した社外役員さんは相互理解のためにも有益かと)。

ときには社長から嫌な顔をされることがあったとしても、会計監査人の希望を受け入れ、ときには会計監査人から嫌な顔をされても、会社の方針の正当性を説明して会計監査人に受け入れてもらう、といった「対話」こそ連携には必要ですが、そのような連携を可能とする監査環境が日本企業でも形成されることが不可欠です。このたびの監査法人のローテーション制度の実効性を高めるためには、まずこの監査役制度(監査委員会、監査等委員会制度)の機能が発揮できる環境作りが前提条件となるはずです。

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