2017年7月28日 (金)

会計監査人交代事例にみる監査法人改革の本気度

もうすでに会計士の方々のブログ等では話題になっておりますが、証券コード9788社(東証1部)におきまして、7月26日付けで「会計監査人の異動及び一時会計監査人の選任に関するお知らせ」が公表されています。今年6月の定時総会で会計監査人に選任(継続)された新日本監査法人さんが、7月26日付けでコード9788社との監査契約を合意解約した、とのこと(後任の一時会計監査人は仰星監査法人さんだそうです)。理由はといいますと、

平成26年3月期の第2四半期に行った株式会社●●●取得時の会計処理に、発生頻度の少ない非定形的な処理があったため、会計上の「二重責任の原則」は承知しつつ、新日本有限責任監査法人からの助言に基づき処理を行い、無限定適正意見をいただきました。その後も、当社は同様の会計処理を継続し、無限定適正意見をいただいています。しかし、平成 29年6月中旬に、新日本有限責監査法人において業務執行社員変更に伴う引継時に当該 会計処理の誤りが発見され、同法人より指摘を受け修正するに至りました←(9788社 6月28日付け訂正・数値データ訂正)「平成29年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」 の一部訂正に関するお知らせ」より引用

だそうです。つまり、従前の新日本さんの業務執行社員からの指摘によって会計処理を行っていたのに、その処理はおかしいと引き継いだ業務執行社員から指摘されて、決算修正のうえ、内部統制には重大な不備があると開示せざるをえなくなったわけです。リリース上では「合意解約」とありますが(たぶん)会社としては「あんたとはやってられまへんわ!」ということで、新日本さんは事実上解任をされたのではないかと推測されます(会計監査人の意見は付記されていないので、あくまでも「推測」ですが・・・)。

たしかに、日本を代表する監査法人の珍しい事例を「トホホニュース」として取り上げるのは簡単です。 ただ、これまで同一監査法人内での引き継ぎ時に、同様の状況というのは時折発生していたのではないでしょうか?同じ監査法人内のことなので「なんとなくグレーな状況だけど、まあ、監査先企業は失いたくないし、会社もよくわかってないみたいだから、穏便に、穏便に」といったことで済まされてきたこともあったのではないかと。

今回、おそらく会社側から解任されることを覚悟のうえで、同じ監査法人内で業務執行社員が他の業務執行社員の誤りを堂々と指摘した、というのは、むしろ監査法人さんの姿勢としては健全な方向に動いているのではないでしょうか(誤りを指摘したら、実は前任者の指摘した内容だったことが後でわかった、といった更なるトホホはないと信じております)。かつて大きな監査法人の偉い方から「監査法人の品質とは、個々の会計士の品質と同時に、組織としての監査法人の品質も大事なのだ」と教えていただきましたが、なぜこのような事態となったのか、(会社側だけでなく)監査法人側の説明もお聴きしてみたいものです。

(追記 7月28日正午)一老さんから有益なコメントをいただきました。ご参考にしてください。

7月 28, 2017 会計監査の品質管理について | | コメント (3) | トラックバック (0)

2017年7月25日 (火)

監査法人のローテーション制度導入のために必要な前提条件

いつも私が愛用しているRSSリーダーLive Dwango Reader(LDR)が、8月末をもって閉鎖するそうです。「この数年で利用者も大幅に減少しており、サービスとしての役割を終えたと考え、終了という判断に至りました」とのこと。たしかにブログという媒体自体、多くのSNS興隆の中で魅力が薄れてきたのは事実ですね。ひとつの転換時期かなぁと感じます。

先週木曜日(7月20日)に金融庁HPで公表された「監査法人のローテーション制度に関する調査報告(第一次報告)」を読みました。現在導入されている「パートナーローテーション制度」がうまく機能していない、企業による自主的な監査法人の交代が進まない、諸外国はすでにローテーション制度を導入している、といった内容からしますと、「強制導入は時間の問題?」とも思われますが、まだ第一次報告ということで、今後さらに導入の可否について検討を加えるそうです。

導入に向けた課題については、監査の専門職の方々が議論すべきことですが、ひとつだけ調査報告を読んで気づいたことがあります。それは、監査法人の社会的責任の明確化、品質保証、そして報酬低額化防止にとって重要なのは被監査会社の監査委員会の機能強化という点です(日本でいえば監査役制度の機能強化といえばよいのでしょうか)。監査権限を有する機関が「公益の番人的な地位」を当然に有していることが監査法人のローテーション制度の実効性確保のために不可欠では?といった感想です。2014年に出版した拙著「法の世界から見た会計監査」の中でも述べておりますが、監査法人はどこまで監査役さん(監査等委員である取締役さん)を信頼しているか・・・といったところの「連携」の課題です。

会計監査人と監査役等との「連携」の重要性が指摘されて10年以上が経過していますが、この「連携」というのも、実際にはよくわからないところがあります。いろんな会社の「連携」例をみておりますと、報告会の開催、意見交換、リスクアプローチによる問題点の指摘といったことが挙げられます。でも、連携の本気度を上げるためには、実質的に監査法人の選定権限や報酬決定権限が監査役会や監査委員会に存在しなければ(監査法人さんが監査役さんのほうに真剣に顔を向けないので)無理ではないかと。また、会計監査で得られた情報と業務監査で得られた情報を「ギブ&テイク」で双方が活用する気持ちがないと形骸化してしまうような気がします。

「何かとくに留意すべき点はありますか?」「今年は何か監査のキーになる項目はありますか?」といったやりとりが監査役さんと会計監査人との間で交わされることがありますが、これでは「連携」にはならないと思うのです。監査役と会計監査人が相互に「こういった情報が欲しい」、「こういった宿題をやっておいてほしい」と「知りたい情報」とその知りたい理由をわかりやすく説明しなければ、そもそも連携の相手方には伝えるべき情報の価値がわかりません。つまり情報共有などできないはずです。そして、そのためには相手の職務に関する一定程度の相互理解が求められます(そういった面において、会計的知見を有した社外役員さんは相互理解のためにも有益かと)。

ときには社長から嫌な顔をされることがあったとしても、会計監査人の希望を受け入れ、ときには会計監査人から嫌な顔をされても、会社の方針の正当性を説明して会計監査人に受け入れてもらう、といった「対話」こそ連携には必要ですが、そのような連携を可能とする監査環境が日本企業でも形成されることが不可欠です。このたびの監査法人のローテーション制度の実効性を高めるためには、まずこの監査役制度(監査委員会、監査等委員会制度)の機能が発揮できる環境作りが前提条件となるはずです。

7月 25, 2017 会計監査の品質管理について | | コメント (4) | トラックバック (0)

2017年7月11日 (火)

監査の品質向上と会計士の「公務員化」について考える

7月8日(土)の日経朝刊特集記事「揺れる監査法人」に、あずさ監査法人さんの社外役員をされていらっしゃる阪田雅祐氏(元内閣法制局長官)のお話(監査法人の改革案)が掲載されていまして、とても興味深く読ませていただきました。監査の実効性を高めるための「交代制導入」のお話の中で、監査人の報酬を証券取引所が支払う、つまり「会計監査人の公務員化」に関する提案をされています(とりあえず会社法監査など、非上場会社を含む監査の話は置いておきます)。

私も当ブログで過去に「監査のねじれ」こそ不正監査の根源的問題であり、監査報酬のプール制(上場会社が規模に応じて監査報酬金を取引所に拠出する制度)を導入することが良いのではないか・・・と勝手に述べたことがあります。ただ、英国や米国をはじめ、諸外国の監査制度の実態を教えてもらったり、会社と監査人との監査に関するコミュニケーションの現場に立ち会ったりするなかで、単純な「公務員化」で監査の品質が上がるというのは現実的ではないかも・・・と思い直しております。会社と同じ方向に寄り添いながらも、監査人が職業的懐疑心を発揮して、最終的には投資家のための財務報告の二重責任を地道に果たす、ということが(やはり)監査の品質向上の近道ではないでしょうか。

金融検査を担当する人たちが公務員なんだから、監査人の公務員化も可能ではないか・・・といった議論は私の経験上、かなり乱暴に聞こえます。金融検査を担当する人たち(金融庁職員)は、若いころから「権力は抑制的に行使しなければならない」といった思想を植え付けられて、世間から常に批判のまなざしを向けられて、そこに「国民の公僕」としての姿勢があるからこそ権力を適正に行使しうると思います(ときどきそうでない人もいらっしゃいますが)。今まで権力を行使したことがない人が、いきなり権力を握ることほどろくなことはありません。最初は良くても、最終的にはご自身も国民も不幸にしてしまうのは、弁護士率いる整理回収機構の歴史が物語っています。おそらく私でも「明日からこの強大な権力を国民のために使っていいですよ」と言われたら、(いろんな誘惑に負けてしまって)使い方がわからないままに、まちがいなく濫用してしまうと思います。

当ブログで、ここ数年で一番読まれているのが「オオカミ少年待望論」に関するエントリーですが、監査の品質(会計監査も監査役監査も)を向上させるためには、私はこれに尽きると思います。つまり優秀なオオカミ少年を歓迎する企業社会です。「この会計処理はおかしい」「社長の行動は会社法違反の疑いがある」と合理的な理由を示して株主や投資家に警告を鳴らす人たちを投資家も企業もリスペクトすることができるかどうか。監査の失敗が発生したときだけ「だから監査は機能しないのだ」と批判されるのではなく、リスクを背負って警鐘を鳴らした(結果として不正が認定できなかった)監査法人、監査役に対して称賛の声を上げる社会です。監査人のプラスの面もマイナスの面も評価対象として、優秀な会計士が監査を担当していることで企業価値が上がればそれも良いと思います。

どんなに立派な監査を行い、その結果として会計不正を未然に防止できても、どこからも称賛されないのはやっぱりつらい作業です。「新日本の●●会計士のクルーは、なかなか評判がいいみたいだね」と言われたり、「トーマツの●●会計士が首を縦に振らなかったら、そんときは腹くくって修正に応じよう」みたいなことになれば、と思ったりします。新規上場企業に関わって、あぶない橋を渡った会計士さんほど、上場企業に求められるリスク感覚がすぐれているようにも思います。「オオカミ少年」の出現で多少株価が低下することがあるかもしれません。しかし、企業社会にこれを歓迎するムードが存在しなければ、会計士さんや監査役さんの職業的懐疑心を適切に発揮することは無理ではないでしょうか。

7月 11, 2017 会計監査の品質管理について | | コメント (1) | トラックバック (0)

2017年4月27日 (木)

東芝監査人交代問題-窮地を救うホワイトナイトは何処に?

多くのマスコミで「東芝が会計監査人の交代に向けて最終調整」と報じています。朝日新聞ニュースではすでに準大手の具体的なお名前も出ています(太●監査法人さん?)。東芝さんは先日、3Qの四半期報告書を開示しましたが、監査人であるPwCあらた監査法人さんは、意見(結論)を表明しない(結論不表明)とのレビュー報告書を出しました。東芝さんとしては、このままだと上場廃止になってしまうので、やむをえず監査人の交代を検討せざるをえない、ということですね。

マスコミ報道を読むかぎり、東芝さん主導で会計監査人を交代させる印象ですが、PwCの関係者の方々からすれば複雑な心境ではないでしょうか(守秘義務があるので取材に応じることはできない・・・)。

私は真相はまったく逆だと思います。2Qの決算が終了して「やれやれ」というところでいきなり「海外子会社で7000億の減損事由あり。社長が発表予定」と言われて、なぜ監査法人が「ああ、そうですか」と言えるでしょうか。現場の担当会計士の方々は耳を疑い、おそらく「生き地獄」に落ちて行ったと想像できます。PwCの上層部及び海外事務所は「契約破棄」「東芝へ損害賠償」と主張するのが筋で、それをなんとか「結論不表明」というところで妥協したのではないかと。PwCのほうから「もう、アンタとはやってられまへんわ!」ということでしょう。私はもう少し政治的判断で「限定付き適正結論」あたりがオトシドコロだと思いましたが、私の予想はかなり甘すぎたようでして、PwCの経営陣及び海外事務所の意見は相当に厳しかったと推測しています。

ご承知の方も多いと思いますが、監査人が「意見不表明」の報告書を提出するのは、財務諸表に対する意見表明ができないほど、会計記録が不十分であったり、監査証拠が入手困難である場合に限られています。この監査報告がなされると、「不適正意見」と同様に「その決算書は信用できない」ということになり、上場会社は上場廃止基準に抵触することになります(四半期レビューの結論不表明もほぼ同じ意味です)。上場廃止基準とは関係ありませんが、今後東芝さんが提出する内部統制報告書にも意見は出せないと思います。

東芝さんは「意見不表明というのは天災地変や監査書類の紛失など、物理的に監査に必要なものが出せない場合だけに限られる報告だが、うちは必要なものをすべて出しているのだからPwCはルール違反だ。けしからん」といった申し開きをされるのでしょうか。一方のPwCさんは「いえいえ、監査報告は監査法人の自主的判断で出せます。もっと必要な監査資料を出せといっているのに出さないのであれば、意見は表明できませんし、そのような会社側との見解の相違ある場合にも適用されます」と回答されるかもしれません。いずれにしましても、東芝の役員さんも、会計監査人であるPwCさんも、株主代表訴訟のリスクを負っているので「別れ際」には細心の注意が求められます。

会社法監査と金商法監査を担当する公認会計士は統一せよ、といった東証ルールがあるので(有価証券上場規程438条)、簡単には株主総会を開けない東芝さんの場合、交代後はとりあえず会社法監査のための「一時会計監査人」の選任を裁判所に申し立てることになると思います。ただ一時会計監査人の方は、期中の交代、しかも東芝さんのような大会社の計算書類の監査をどうやっておやりになるのでしょうか?元金融庁長官の方が顧問をされ、会計士協会の現会長さんの出身母体でもあるPwCさんが「これでは到底意見は出せない」と太鼓判(?)を押した企業の監査について「いやいや、PwCさんのほうが間違っている、東芝さんは現状で監査意見は出せますよ」と言い切って監査意見を出すホワイトナイト的な監査法人さんは出現するのでしょうか?(ちなみに法律の世界とは異なり、会計監査の世界では「セカンドオピニオン」はありません。意見不表明から意見表明というのが「セカンドオピニオンとは言えない」との言い訳はありそうですが・・・・・)

報道では「準大手の監査法人を軸に交代を検討中」「太●有限監査法人か?」とありましたが、私は多少の利益相反に目をつぶってでも、大手監査法人への交代しかないと思います(具体的にはK●M●さんと提携しているあ●●監査法人さん以外にはないのでは?--もちろん私の個人的な推測にすぎません)。ただ大手監査法人さんにも受ける、受けないの自由はもちろんありますので、どうコロぶのかはわかりません。

この東芝監査人交代は、東芝さんにとっての最大のピンチと考えているのですが、それにしても相変わらず時価総額は9000億以上、社債は2000億以上・・・・。なにか世間とは別の風がメガバンクと政府中枢あたりのインサイダーで吹いているのでしょうかね。。。せっかく監査監督機関国際フォーラム(IFIAR)事務局が日本に設置されたのですから、監査の品質を悪化させるようなことだけは避けていただきたいと願う(上申する)ばかりでございます<m(__)m>

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2017年4月12日 (水)

東芝四半期報告書-なぜ「限定付適正意見(結論)」がもらえなかったのか?

皆様方すでにご承知のとおり、4月11日、東芝さんが3Qの四半期報告書を開示しました。業績が好調に推移しているセグメントもありますが、やはり記者さん方が注目しているのは監査人による適正意見が付かない報告書が出された、という点です(正確には「結論不表明」とするレビュー報告が付いた四半期報告書が開示された、ということです)。東芝さんのリリースには一般の人が読むと誤解を招く表現もみられますが、(EDNETで確認したところ)これまで1Q、2Qの四半期報告書に関するPwCさんのレビュー報告書には適正意見(※)はついていましたが、今回は意見不表明(レビューの結論不表明)ということになりました。ニコニコ動画で記者会見の様子を拝見しておりましたが、マスコミ関係の皆様の質問はやはり「これからもPwC監査法人から適正意見はもらえない、と考えているのか?意見がもらえない場合、監査法人を交代させるのか?」といったあたりに集中していたようです。

※・・・四半期報告書へのレビューなので「適正意見」といっても期末監査の場合よりも消極的な心証で足ります。正確には「無限定結論」「限定付結論」」「否定的結論」「結論不表明」と言いますが、ややこしくなるので期末監査の監査意見に合わせて、なるべく「適正意見」という言葉を使います。

私は会計や監査の専門家ではないので、全くの素人としての素朴な疑問ですが、東芝の社長さんは「上場廃止を避けるために全力を尽くす」と記者会見でおっしゃってましたが、ではなぜ限定付適正意見(限定付結論)をもらう努力をしないのでしょうかね?無限定適正意見(無限定結論)はもらえないとしても、ウエスティングハウス関連以外のところに限定して適正意見をもらう(適正に表示していないと信じさせる事項がすべての重要な点において認められないとの結論をもらう)、というのはできなかったのでしょうか?そのほうが上場廃止の是非を判断する東証さんにとってもありがたかったと思うのです。

2013年の(上場廃止基準に関する)制度変更前のお話ですが、東証マザーズ上場第1号だったインターネット総研さんが(上場子会社だった)アイ・エックス・アイの粉飾決算に遭遇してしまって監査人から意見をもらえず、最終的には上場廃止になったことがありました。そのときに「こんな事情で当社が廃止になるのはおかしい!」と抵抗していたインターネット総研の社長さんのお話では、東証から「せめて限定付適正意見は監査法人からもらえないか」と示唆されたそうです(私は一部事件に関与しておりますので、詳しい内容は控えますが、この話は今でもネット上に社長さんのインタビュー記事として掲載されています)。また「三洋減損ルール」が話題となった三洋電機さんの会計不正事件が発覚した際には、監査人であるあずさ監査法人さんが2007年3月期の決算書に限定付適正意見を出しておられたものと記憶しております。

今回の東芝さんも、PwCさんと意見の一致がみられずに平行線なのであれば、それぞれ折り合いをつけて「限定付き適正意見(限定付結論)」を出すということで妥協することも考えられたのではないでしょうか。これだけ多くのステイクホルダーが存在するわけですから、東芝さんもPwCさんも自分の意見に固執している、ということはどう考えてもおかしいと思うのです。それともPwCさんとしては、限定付きでも適正意見(結論)は出せないほどに「ウエスチングハウスを除外してしまってはレビューの意味がなくなるほど重大問題」と判断したのでしょうか?もしくはレビュー報告書にも「強調事項」として記載されているように、継続企業としての注記を付したことで、もはや限定付きでも「投資家の誤解を招く」として限定付結論は出せなくなってしまったのでしょうか?

確定した証拠を前提として、監査人と会社との「会計処理方法に関する意見の不一致」が原因であれば「結論不表明」もやむをえませんが、レビューに必要な消極的な心証形成のための証拠の不足(レビュー手続きに関する不満足事項)ということが原因であれば現行の監査基準ものとでも限定付適正意見(結論)は出せるのではないかと、素人ながらに疑問を感じました。昨日のエントリーの続きになってしまいそうですが、余程の事情がないかぎり限定付適正意見は出せない(やはり監査法人さんも責任問題には巻き込まれたくない・・・)という発想が強いのでしょうか。

しかし、四半期レビューは通期の監査よりも適正性判断のハードルが低い(監査人の心証は合理的保証ではなく限定的保証で足りる)わけですから、そこで意見(結論)が表明されないとなりますと、5月に予定されている有価証券報告書の監査ではさらに適正意見をもらえる可能性が乏しくなりそうです。5月にはさらに厳しい監査が東芝さんに待ち受けているわけでして、これをどうやってクリアされるか、ぜひとも会計専門家の方々のご意見をお聴きしてみたいところです。小さな上場会社さんだったらオピニオン・ショッピングということもありますが、東芝さんとなるとそんなこともできないでしょうし。。。

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2017年4月11日 (火)

見下された新日本監査法人-東芝にはTGAAPがあった

本日発売のAERA(4月17日号)は東芝大特集とのことで、日経ビジネスに対抗するかのごとく東芝関係者からの証言がたくさん掲載されていて興味深い内容です。実名での東芝元社長批判や、「業績悪化と会計不正の原因はまったくベツモノ。勝手に世間がストーリーを作り出すから話がややこしくなる」と解説する学者のご意見など、なかなかリアルで充実しております(さて、11日の決算発表はどうなるのでしょうか?会計監査人の意見は出るのでしょうか?)

そんな東芝大特集の中に、「見下された新日本監査法人-なぜ不正会計を見抜けなかったのか」といった見出しの記事が見開き2頁で掲載されています(ちなみに私の意見はほかでも述べているように、「見抜けなかった」のではなく「見抜いたけれども声に出して言えなかった」というものですが、いかがでしょうか)。新日本監査法人のシニアパートナーの方のご意見も、実名で掲載されています。

AERAの記者さんが「東芝が監査法人を見下していた」と評価した根拠として、記事中では東芝経理部による担当会計士への(ブライドの高い)態度が強調されています。会計監査の現場では「日本基準の会計基準(JGAAP)とも、米国会計基準(USGAAP)とも異なる「東芝会計基準」(TGAAP)という言葉が使われていたそうです( (^^;; ホンマカイナ?・・・・・そういえば三洋電機さんの会計不正事件でも「三洋減損ルール」という言葉が出てきましたね 笑)

でも、そこに出てくる東芝経理部の方々の発言内容は、特に東芝に特有のものではなく(つまり東芝経理部が特に傲慢なのではなく)、どこの経理部でも監査法人と対立するケースでは同じような言葉が出てきます(これは実際に対立する場面に遭遇すればわかります)。むしろ大規模上場会社の経理部員は、いったいどのような仕事をすれば上司に認めてもらえるのか、どうすれば出世競争に勝てるのか、そこに想像力を働かせればどこの経理部も同じように(社内でのプレッシャーを抱えながら)会計監査人と対応していることがわかります(私も、直接東芝さんの元経理部員、元経営監査部員の方にお話をうかがって、ナルホドと腹落ちしました)。

この記事の最後も「監査における意識改革こそ東芝事件の教訓である」と締めくくられていますが、私も総論としてはそのとおりかと思います。しかし各論がなかなか出てこない。監査法人版ガバナンス・コードは総論であって各論にはなりえない。覚悟を持った各論が出てこなければ、もはや会計基準を司法裁判所が解釈する(有価証券虚偽記載、違法配当等の刑事裁判に会計監査人を取り込む)ことになってしまうはずです。

「財務諸表の作成責任は、一次的には上場会社にある、監査法人は作成された会社の財務諸表に二次的な責任を持つ。だからこそ騙されたら不正など見抜けない」との主張はそのとおりです。でも「だからしかたがない」で済ませることは会計の世界に司法が入り込むことを正当化します。そうしなければ金融庁(財務局)自身が公権力の行使としての「不作為の違法」によって国賠訴訟で敗訴する時代(大和都市管財事件大阪高裁判決)、行政が責任を背負うことになってしまうわけですから。東芝歴代社長さんの刑事立件に関する「検察庁vs金融庁」の構図でもおわかりのとおり、金融庁はリスク(無罪)を背負う覚悟を持ちました。では監査法人はどうなのでしょうか?

 

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2016年1月 6日 (水)

会計監査の在り方は東芝事件だけでは語れない

1月4日、東証2部のJFLA(ジャパンフード&リカーアライアンス)社は(ようやく)過年度有価証券報告書の訂正報告書、内部統制報告書の訂正報告書を提出されたようです(1月4日午前の東証適時開示をご覧ください)。すべての関係者の皆様、本当にお疲れ様でした。経営者の方々も、会計監査人の方々も、おそらく年末年始の休暇など全くなかったことと拝察いたします。

拙ブログでは残念ながら開示された事実しか書けませんが、会計監査人(S監査法人)の毅然とした不正リスク対応が同社の過年度決算訂正、内部統制報告書の訂正につながり、さらには同社のガバナンスを変えることになりました(いや、第三者委員会委員の皆様の頑張りや会社経営陣のご英断もあったと思うので「変えるきっかけとなりました」が正確なところかもしれません)。延期されていた定時株主総会において全取締役が退任され、会社は監査等委員会設置会社に移行されるそうです。会計監査人の警鐘が金商法193条の3、会社法397条1項による通知として(日本で初めて)開示されてほぼ5カ月、同社は新たなガバナンス体制で業績向上に臨むことになります。

巷では東芝事件を契機として新日本有限責任監査法人さんの監査に話題が集中していますが、監査対象会社と真っ向からぶつかって、監査契約を解除されることを覚悟して「市場の番人」としての公認会計士の役割を全うされようとした監査法人が存在することもご記憶いただければと。企業不祥事のマスコミ報道では「自浄能力」を発揮した企業の事例はほとんど取り上げてもらえず(会社からみればそのほうがいいのですが)、自浄能力を発揮できなかった企業の事例に(おもしろおかしく?)光があたります。監査法人さんの独占業務である「会計監査」についても、社会インフラとして悪いところは直すべきですが、良い例があればベストプラクティスとして広く紹介されるべきです。

もちろん監査法人さんも守秘義務は厳格なので、ご自身からは紹介できない「良い例」もあるとは思います。また、「良い例」とはいいつつも、過年度決算修正というのは「もっと早く監査人が発見できなかったのか」といった自問自答のジレンマを抱えていることは確かです。しかし、それでも「この会計処理はおかしい」と外に向かって声を上げる、その頑張りが監査法人のブランドになればいいなぁと考えています。上場会社の経理処理はITシステム化、外注化、専門化が進み、お金の流れ全てを把握できる経理担当者、内部監査担当者はますます少なくなります。おそらく市場の番人としての会計士さんの役割は今後ますます期待が高まることになるはずです。

監査法人さんの毅然とした態度には(社会的影響力が大きいため)リスクが伴います。しかし、これからの会計監査では、市場の健全性確保と市場の活性化という「トレードオフの調整弁としての期待」が寄せられている以上、ある程度のリスクをとらざるをえないと考えます(「時代の要請に応えること」は独占業務という特権を持つ職業の宿命では?)。一方においては、「監査人の適正意見が出ない=上場廃止」という図式はすでに東証ルールで緩和されており、市場関係者もリスクをとって「市場の番人」としての役割を果たす監査法人、公認会計士の方々を支える仕組みを考えるべきだと思います(たとえば会社法改正によって、不正会計の発見を支援する方法があることも以前のエントリーで述べたとおりです)。

JFLAの事案では、会計監査人が「資産流用」に異議を唱えたことによって「粉飾」事件に発展しましたが、粉飾の原因はやはり「経営者による見積りの悪用」でした。経営者の説明がつかない会計処理はおそらく内部統制の軽視につながり、業績の厳格な評価を妨げ、ひいては企業価値向上の妨げになります。情報開示の誠実な姿勢は社員にも理解され、かならず業績の向上につながります。私自身も、このブログを通じて、会計監査や第三者委員会等「市場の番人」「公益の番人」と呼ばれるにふさわしい制度について「良い例」も「悪い例」もきちんと根拠を示して公平かつ公正に取り上げていきたいと思っています。

1月 6, 2016 会計監査の品質管理について | | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年3月30日 (金)

シンポ「公正なる会計慣行を考える」のご報告

本日(3月29日)大阪弁護士会館2階ホールにて、大阪弁護士会・日本公認会計士協会近畿会共催シンポ「公正なる会計慣行を考える」を開催いたしました。平日の昼間にもかかわらず、弁護士、会計士の皆様、約170名のご参加をいただきました(どうもありがとうございます)。

司会は近畿会監査会計委員会の廣田委員長、パネリストは弥永真生氏(筑波大学)、松本祥尚氏(関西大学)、渡部靖彦氏(会計士)と私です。基礎知識に関する解説の後、「公正なる会計慣行」が具体的に問題となった事例を①長銀・日債銀事件、②三洋電機「減損ルール」事件、③ビックカメラ元会長課徴金事件、④キャッツ最高裁判決の順に法律学者、会計学者、弁護士、会計士の視点から議論し、その後は中小企業会計指針や会計要領との関係、IFRS強制適用時における問題点などを討論。本日、金融庁企業会計審議会においてIFRSと監査法人の対応、中小企業会計との関係などが議論されたそうですが(こちらの記事参照)、当シンポにおいても興味深い意見が出されました(詳しくは、また講演録が出されるようですので、そちらをご参照ください)。IFRSと「公正なる会計慣行」との関係につきましては、私も申し上げたいことがございましたが、タイムアウトとなってしまいました。。。

討論の中でも申し上げましたが、フィールドの異なる弁護士と会計士が、有価証券報告書の虚偽記載や違法配当の判断に関わる論点について問題意識を共有することはとても有益だと思っております。弁護士は裁判所(司法判断)を通じてアウトとセーフの境界線を探るわけですが、会計士の関心はもっと以前の段階、つまり監査の現場で悩ましい問題の解決方を探りたいわけです(会計士の方々にとっては、そもそも法的紛争に至ること自体が回避すべきリスクかと思います)。したがって、弁護士側からすれば、まさに「実務慣行」を知る機会となりますし、会計士側からすれば、悩ましい問題解決に向けての予測可能性を認識する機会となります。お越しいただいた皆様方にとって、そのような機会となりましたら幸いでございます。私自身も、登壇者ではございましたが、本当に勉強させていただきました。ただし、法律実務家としての視点で虚偽記載の意味、つまり「重要な事項」について「事実と異なる表示」をすることの要件から出発した議論が展開できなかったことを反省しております。「重要性」とか「事実」という意味が、どうしても会計士と弁護士で認識が食い違うように感じておりますので、そこを各論点において浮き彫りにできたら、もっとおもしろかったのではないか・・・と。

個人的には弥永先生の「中小企業会計要領」をとりまとめた経緯がとても参考になりました。ご承知の方も多いとは思いますが、2日ほど前に経産省から「中小企業の会計に関する検討会報告書」がリリースされ、正式に「中小企業会計基本要領」が公開されましたが、弥永先生はその研究会WGの座長を務められました。会計士の皆様は、公正なる会計慣行を考えるにあたり、(当然のことですが)ストライクのど真ん中を企業の監査現場で求めるわけですが、弥永先生は、策定にあたり「ど真ん中ではないけど、このあたりだったら、なんとか裁判所に持ち込まれてもストライクと言ってもらえる、『ボールと言われないためのスレスレはどこか』を体系的に意識しました」とのこと。会社法上の「公正なる企業会計の慣行」の概念は、かなり幅を持つものであることが再認識された次第です(ただし、上場会社の場合には、この幅が狭くなり、時間軸のなかで「会計基準が事実上強制力を持つ」に至るのかもしれません)。

3時間のシンポの最後におふたりの(重鎮?)会計士の方々よりご意見をいただきました。旧商法32条2項が包括規定として条文に組み込まれた昭和49年以前からの会計学と法律学との実務レベルでの交渉経緯、コモンローの世界と大陸法の世界における対応の比較、最近の第三者委員会における意見が監査実務に及ぼす影響など、なるほど検討しなければならない点が他にもありそうで、まだまだツッコミが不足していたことを痛感いたしました。ただ、廣田委員長を中心に何度も準備会を重ね、松本先生、弥永先生といった、企業会計の分野で気鋭の先生方をお迎えして、この難しい論点についての「レベル」を体感できたことで、まだまだ不十分ではあるものの今後の議論深化に向けての第一歩を踏み出せたのではないかと考えております(会場を見渡したとき、存じ上げている先生方がたくさんお見えになっていたので、ちょっぴりうれしかったです!)。

最後になりますが、取り上げた事件とのコンフリがあるために「黒子」に徹し、弥永先生も「これは使えますね~」とビックリされていた当日配布資料(132頁!)を一生懸命作ってくれた森久敦司弁護士(大阪弁護士会 会計士試験合格を目指しているとか・・・)に厚く御礼申し上げます<m(__)m>。

3月 30, 2012 会計監査の品質管理について | | コメント (5) | トラックバック (0)

2009年9月20日 (日)

監査法人の赤字経営と「監査の独立性」

いつも拝見しております武田先生のブログで知りましたが、新日本有限責任監査法人さんが2009年6月期に13億の赤字決算、と公表されたようであります。(コピーはできませんが、新日本さんのWEBページで公開されております)新日本監査法人さんは日本で最初の「有限責任監査法人」として登録されたことで、計算書類もWEB上で開示されることになりましたが、前期15億円の黒字に対して、2009年6月は17億9000万円の営業赤字とのこと。(日経ニュースはこちら)会計士の皆様はある程度、想定されていたのかもしれませんが、私などは内部統制監査や四半期レビューで相当に監査報酬が増えていたのですから、当然に黒字決算だとばかり思っておりました。(景気の波は監査法人さんにも暗い影を落としていたのですね。しかし私と同じような感覚を持っておられる方も多かったのではないでしょうか?)

ところで、こんなことを申し上げると新日本監査法人の皆様にはたいへん失礼かとは思いますが、会社法監査におきましては、監査役は監査法人の独立性や報酬額の妥当性については十分に審査しなければならないはずであります。これは(会計監査人設置会社の場合には)会計監査人と取締役との「なれ合い」を防止して、会計監査の独立性を確保するため、会計監査人の選任同意権(会社法344条1項、2項)や会計監査人の報酬同意権(同399条)が監査役に認められている以上は当然のことであります。そこで、もし外観的独立性が強く保持される必要のある会計監査人について、その経営が赤字である、となりますと、果たして監査の独立性は確保されるのでしょうか?なんとか今期は黒字にしたいがために、被監査会社に対してついつい緩めの監査業務を提供してしまうおそれ・・・ということはないのでしょうか?「緩めの監査業務を提供する」というのが言い過ぎとしましても、たとえば被監査会社の取締役や監査役から「おたくの担当者とはウマが合わないから代えてほしい。」と要望されて、正当な理由もなく経営判断によって交代させてしまう、ということにはならないのでしょうか?(これも監査法人の独立性の問題ですよね?)また、会計監査人の報酬についても、「ふっかけられたのではないか?本当に適正な額なのか?」といった疑いが生じてくることはないのでしょうか?「アホか!」と言われそうですが、けっこう監査役にとりましては真剣に検討しておく必要があるのかもしれません。(私が役員と務める会社も監査法人は新日本さんですし・・・)

「とんでもないですよ。なんといっても日本の3大監査法人、E&Yグループがそんなことはするはずないでしょ!」と怒られそうな素朴な疑問ではありますが、監査役は株主の抱く素朴な疑問にもきちんと説明しなければなりません。ましてや、9月2日の日経新聞朝刊記事にありましたように、今年年初から8月末までには上場会社における監査人の異動が196件もあったそうで、その異動のうち、新日本から離れた企業が45社、新たに就任した企業が17社ということで、この傾向は今後も続くと思われますし(最近はちょっとヤバめの会社さんの場合は、大手の監査法人さんが監査契約を解消するケースが多いですよね)、また公開された新日本さんの業務説明書によると売上に占める監査業務の割合は83,8%・・・ということですので、監査人の異動や被監査会社の上場廃止が増えることで、業績にもかなり影響が出てくるのではないでしょうか。(まぁ、売上が1044億ですから、本当はすぐに回復できる金額であることは確かでしょうが・・・)

原則として、監査法人さんは赤字経営はマズイと思います。(とくに有限責任監査法人として登録している場合はなおさらだと思います。)武田先生も指摘されていらっしゃるように、新日本さんのようにキャッシュリッチなところは良いとしましても、監査法人のGCに黄信号がともるような事態にでもなりましたら、それこそ「外観的独立性」に問題が生じるケースも出てくるように思いますし、ましてや会計監査人の独立性に問題がないことの株主への説明責任は選任同意権、報酬同意権を有する監査役にあるわけでして、どのように説明すべきか苦慮することも予想されるところであります。要らぬ心配をしないで済むように、早めに黒字転換していただくことを切に希望しております。(そういえば、大手の監査法人の計算書類の監査は準大手さんがおやりになる・・・という暗黙の了解があるとかないとか?そうしますと、次に控えている準大手の有限責任監査法人さんの場合はどこが監査するのでしょうか?大手と準大手でグルグルと「循環監査」とか「仲間内監査」なんていうのは、もっと独立性に問題がありますよね??笑)

9月 20, 2009 会計監査の品質管理について | | コメント (18) | トラックバック (1)

2005年10月 7日 (金)

会計監査の品質管理について

朝日のアエラ記事をネットで読んでおりましたが、これがまたずいぶんと中央青山監査法人への厳しい処分を予想させるような内容になっています。(営業目的で新聞報道の見出しをそのまま引用すると、賠償請求の対象となる、という知財高裁の判断が出ましたので、今後はすこしばかり気を遣うようにします。といいましても、個人的には実名ブログの中に引用することが「反復継続して営業目的で使用」する意思が認められるとは思えませんが)

会計士の間で「粉飾は常識」(朝日ネット記事引用)

数日前は、会計監査人の報酬という面から、不正監査防止を考えてみましたが、会計監査自体への品質管理の充実、という観点からも検討してみたいと思います。綱紀審査会の設立、会計士協会の品質管理、公認会計士・監査審査会における審査、中央青山監査法人内部の内部監査専従班の設置などなど、このたびのカネボウ粉飾事件を発端として、会計監査の事後的な審査体制の充実が謳われています。今後は国際会計基準の策定に日本が参加することによって、その品質管理基準の国際ルールに準拠することも検討されている、とのことです。これだけ、いろんな会計監査への事後審査が実施される、ということであれば「再犯防止策」は万全であるから、今回の中央青山への金融庁の処分も相当に軽くなってもいいのではないか、という意見も出てくるかもしれません。

ただ、ここでひとつだけ確認しておくべきことは、フットワーク事件、足利銀行事件、カネボウ事件など、会計監査人の責任問題が世間で浮上してくるのは、「先に倒産ありき」という場面です。つまり、企業倒産→粉飾発覚→旧経営陣の責任→会計監査人の責任→監査人の監査の評価、という順序です。刑法犯で例えると、いわゆる業務上過失傷害事件と同様です。(被害者の傷害という結果があって、それからはじめて被告人の違法性を追及する)

ところで、このたび不正会計防止策として提案された会計監査の品質管理というのは、こういった循環を否定するところから生まれているのでしょうか。つまり、企業の倒産という事態に関係なく、品質管理は行われるのかどうか、という点です。結局のところ、景気がいい時期には、どんな粉飾を行っても、その景気回復によって「不正が永久に忘れ去られてしまう」という事態を甘受してもよいか、という意思確認が必要です。もし、上の循環を否定するのであれば、企業と会計監査人との監査方針の食い違いという事実だけをもって、「会計監査人のミス」が公表される可能性がありますし、企業と監査人との間に監査方針の食い違いがなく、また企業が健全経営を継続している場合でも「不正監査」が認定される可能性もあります。こういった企業の継続性とは無関係に会計監査の是非が活発に審査される状況についての合意がないと、品質管理自体に対するモニタリングが困難になり、会計監査自体に対する内部統制システムは機能しないはずです。たしかに、内部審査の本来の目的は個々の会計士の判断是非を問うものではなく、会計監査体制そのもののチェックにある、ということかもしれませんが、やはりなんらかの形で、個々の会計処理判断と関連がなければ品質管理を本当にやっているのかどうか、わからないんじゃないでしょうか。

監査対象となっている企業や、投資家などからの審査請求の道が確保されていなければ、やはり「先に旧経営陣の責任ありき」の運用しかなされないような気もします。そのような運用では、到底再犯防止の可能性は乏しいものとなり、結局のところ厳罰でのぞむしか方法はないということになってしまいそうです。こういった会計監査の品質管理を考える場合、その審査体制を設置するだけでなく、その運用を確実にモニタリングできることの約束事まできちんと決めておくことが不可欠でしょう。

10月 7, 2005 会計監査の品質管理について | | コメント (2) | トラックバック (0)