2019年12月 3日 (火)

SDGs・ESGへの企業トップの取組みと「許された危険の法理」(の発想)

12月2日の日経朝刊トップに「『課題解決力』収益けん引 環境・社会問題への対応(本社SDGs調査)」なる見出しで、国連のSDGs(持続可能な開発目標)に取組んでいる上位企業ほど自己資本比率(ROE)などの指標が高いという調査結果が報じられていました(私が社外取締役を務める会社も偏差値60以上65未満のグループとしてネット版のほうでは掲載されておりました)。

拙ブログで毎度申し上げるところですが、こういった調査は「そもそも業績が良い会社だからROE向上やSDGsに取組む余裕があるのでは?」といった疑問も素直に抱くところでして、私も未だ企業業績とESG(SDGs)との関連性には懐疑的なところがあります。もちろんSDGsに取組むことは、企業として立派な姿勢であり企業品質の向上につながることは否定いたしません。ただ、「素晴らしい」と頭では理解できても、それだけで企業のトップによるSDGs推進の行動につながるかと言えば、そんなに甘いものではないはずです。

本日の日経産業新聞の記事「ESG投資、社外取締役が一役、呼び込みにプロの視点活かす」も読みましたが、ESG投資がさかんになったから対応する、というのも企業の主体性に欠けるようにも思います。私はESGやSDGsなる言葉を使うよりも、「許された危険の法理」の発想で考えたほうが、結果として経営トップがSDGsの目標達成への取組みを実行する確率が高まるのではないかと考えています。

「許された危険の法理」とは(私もあんまりエラそうに語る資格はありませんが)、

社会的に有益あるいは不可欠な行為は,それが法益侵害の危険を伴うものであっても許容されるとする理論。その行為から実害が発生したとしても,結果回避につき相当な措置がとられていれば違法ではないとする。(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典より)

と解説される法律(主に刑事法)用語です。自動車や飛行機の運行は典型例ですが、何が「許された危険」にあたるかは、時代の変遷とともに変わります。

たとえば本日の日経新聞朝刊(法務面)に、①MaaS進展のための電動キックスケーターが法の壁に突き当たって開発が進まない現状、②顔画像データの活用のための実証実験が進んでいるが、ビジネスの場では躊躇してしまう「人権侵害リスク」について報じられています。たしかにセブンペイのように、ビジネスのレベルで「安全」を秤にかけてしまうととんでもない社会的批判を浴びるので、各社とも技術革新に法の壁を感じることは常識的な判断かと思います。

しかし、そのビジネスモデルが社会的な課題解決に不可欠、世界規模での環境維持に有益なものであると認知されているとすれば、ビジネスリスクが顕在化したとしても経営者の法的責任、経営責任が免責されるだけでなく、企業自身の社会的信用が毀損される可能性も低下するのではないでしょうか。また、日々の業績に貢献している従業員の方々からみても、研究開発に多大な投資をして失敗したとしても「俺たちが汗して稼いでいるお金を無駄使いしやがって!」と糾弾されることもなくなるのではないかと。

もちろん危険のレベルが「許された」ものと言えるためには、相当程度の社会的な納得感が必要です。自らのビジネスモデルが社会的な課題を解決できることの説明と、結果回避に向けた相当な措置をとっていること、つまり「安全性」をステイクホルダーの「安心」のレベルに変えていく工夫が必要です。だからこそ「非財務情報」としての開示が不可欠と考えます。

コンプライアンス問題が目の前に横たわると、とたんに思考停止になってしまいがちですが、ビジネスを進めるうえで「ゼロリスク」はあり得ないわけです。企業自身の「儲け」と「安全性」を秤にかけることはコンプライアンス問題として許されませんが、社会的有益性と法益侵害とを秤にかけるのであれば、最後にモノを言うのは企業行動の誠実性(たとえばリスクが顕在化した際の消費者や当局との向き合い方)だと思います。ESGやSDGsを理解するにあたり、あまり高邁な発想とは言えませんが、経営陣を「その気にさせる」ためには、こういった発想が必要ではないでしょうか。

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2013年3月29日 (金)

三菱自動車の不具合情報の開示と「非開示のコンプライアンス」

リスクマネジメント協会さんが発行しておられる「TODAY」最新号(3月15日号)に、「三菱自動車を二次不祥事から救ったもの」と題する論稿を掲載していただきました。昨年、国交省から「リコール対応が誠実ではない」として口頭注意を受けた事件を契機として、あの2000年当時のリコール隠し事件の体質が変わっていないとの批判が出ておりました。少し逆説的に聞こえるかもしれませんが、国交省から指摘を受けた事件においては、二次不祥事を発生させなかった三菱自動車は、むしろリスク管理の面においては向上しているのではないか、といったことを述べたものであります。組織から見た場合、一次不祥事の発生は運、不運の問題もあるかもしれませんが、二次不祥事の発生は確実に自助努力でなければなくせないものと考えられます。

さて、昨日より、またまた三菱自動車のハイブリッド車について部品に不具合が生じ、リコール対応の可能性が記者会見で明らかになりました(たとえば毎日新聞ニュースはこちら)。販売系列店での事故に起因するものだそうで、流通している販売車にとって、未だリコールの必要性がはっきりしたわけではありませんが、ともかく部品事故が発見されたので、十分な調査を行う、という段階で公表されました。これは過去にCSR対応で社会的に批判を受けている企業としては当然の対応だと思われます。つまり過去にCSR対応で失敗している企業では、製品の安全と、これを対外的に表明する「安心」の距離が、CSR対応で成功している企業よりも近づいてしまうからであります

またまた広告のようで申し訳ありませんが、拙著「法の世界からみた会計監査」の第10章「訂正と非開示のコンプライアンス」で述べておりますように、製品事故等によって消費者や投資家にとっていったん「安心」の意識に傷がついてしまいますと、次に(他の会社であれば、とくに製品の安全への信頼が崩れない程度の不祥事であったとしても)不祥事が発生した場合には消費者の「安心」のイメージが崩れやすくなり、直ちに製品の「安全」のイメージに大きな影響を及ぼすことになります。

拙著では、このように非開示を選択して、社会的に強い批判を受けた企業の事例をいくつか紹介しております。つまり消費者に強い印象を与えた不祥事が発生しますと、その企業の製品の安全に対するイメージは、ちょっとした不審行動によって毀損されてしまう可能性が出てきます。他の同業者であれば、同じように「非開示」を選択しても問題視されないにもかかわらず、CSRで失敗した過去がありますと、「なぜ開示しなかったのか」と国民から(マスコミから?)問題視され、その非開示の企業行動が製品の安全性への信頼に直結してしまう・・・という風潮はおそろしいものです。むしろ徹底的に調査の上、安全性を確保する、といった対応を世間に示すことが(これが安心の思想)、信頼回復のために求められる姿勢であります。

あのリコール隠し、そして昨年のリコールへの対応遅延、といった問題行動が続く同社においては、このタイミングで事故情報を国民と共有することは、(企業の事業戦略上ではたいへんな痛手ではありますが)リスク管理の面からすれば必要な経営判断だと思います。また、(これも本書において紹介しているところでありますが)三菱自動車社だけに限らず、海外戦略を必要とする自動車会社として、情報を行政や国民と共有しながらリコールの必要性を考えるという姿勢もこれから必要とされるのではないでしょうか(この点は別途エントリーにてご紹介したいと思います)。

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2013年3月 6日 (水)

製品リコール・回収率75%と企業への社会的評価

長崎市のグループホームの火災事故で、TDK社の製造した加湿器が火元の可能性が高いとのことで、先日謝罪会見が開かれておりました。当該ホームが使用していたTDK社製の加湿器は14年前に「発火の恐れあり」としてリコールが届けられていた製品です。その製品回収率は76%程度と報じられています。なお、「リコール」というのは企業が製品事故を防ぐための対応すべてを含みますので、世間一般に対して使用禁止を呼び掛けることなどもリコールにあたりますが、ここでは製品回収を伴うものをリコールと表現することにいたします。

リコール対応支援を経験した者として、この回収率76%という数字は、他の製品リコールの実情からみても、決して低い数字ではございません。通常、リコール対応はどこかで終息させることになりますが※、この7割を超える回収率というのは、(製品の通常の耐用年数も考慮したうえで)終息をさせるための一つの目途としての意味を持つものと思われます。もちろん販売先をきちんと追跡できる製品もありますが、トレーサビリティが機能しない製品については、おおむねこの程度が限界ではないかと思われます。パロマ工業社の湯沸かし器につきましては、ご承知のとおり元社長さんが刑事責任を負うことになりましたが、パロマ工業社の場合も、述べ50万人を動員し、158億円の回収費用をかけてきました。しかしそれでも湯沸かし器回収が完全に終了する、ということは不可能であります。

※リコールの終息には、宅配会社等による対応手続きの委託を終了する、関連会社による協力委託を終了する、自社による製品回収作業を終了する、製品の危険性を広報する作業を終了する、といったいくつかの段階があります。

全く人目につかないところで製品が使用されていたり(たとえば別荘に設置されている)、海外に中古品として再販売されていたり、さらには既に廃棄処分がされているといったことから、およそ販売製品のすべてが回収できるということは困難なのが実情です。ただ、これも法律問題(リスク管理)とは別に、CSR(企業の社会的責任)の一環として、販売製品をできるかぎり回収する努力を怠らない姿勢も大切かと。たとえばブリヂストン社の場合、リコールの対象製品である自転車用チャイルドシートについては、①人目につきやすいようにポスターを改良する、②町中の自転車置き場を巡回して当該製品を探す、③幼稚園や保育園等、子供が集まる場所を訪問して、ピンポイントで製品を探すという対応を現在も続けておられるそうです。こういった作業を続けることが、再発防止にもつながるものと考えられます。

製品被害を拡大させない、ということは不具合製品を世に出してしまった企業にとっては重大な使命ですが、これをどこまで企業(または経営者)の法的責任と結びつけて考えるかは、かなり難しい問題であります。海外に出回っている製品についての回収はどうすべきか、OEM製品については誰が回収義務を負うのか、といった問題なども併せて、リコール対応にはまだまだ考えなければならない問題がありますが、企業のリスク管理の視点からいえることは、事故情報を受領した時点から自浄能力を発揮した行動をとること以外にはリスクを低減する方法はないものと思われます。

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2009年9月17日 (木)

企業の社会的責任論(CSR)とソフトローの親和性

経団連では毎年10月を企業倫理月間とされているそうで、会長さんによる企業倫理推進のためのメッセージも発信されておりますが、このたび(9月15日) 「日本経団連:CSR(企業の社会的責任)に関するアンケート調査結果」が公表されましたので、概要版だけですが拝見させていただきました。(ちにみに437社からの回答結果ということですので、かなり客観性は保持されているのではないでしょうか)

そもそも社会的責任に関する基本的な考え方として、アンケート結果では「法令遵守を超えた社会的良識の範囲での活動」とか、「持続可能な社会の創造に向けた活動と」理解されていらっしゃる企業が多いところから、CSRはあくまでも法令遵守とはそれほど親和性はなく、社会的な貢献のひとつであると認識するのが一般的なところだと思われます。自社のCSR活動をWEBページなどでほとんどの企業が公開している(95%)、とのことでして、法令遵守という範疇にはないからこそ進んで広報できるのでしょうね。しかしながら、概要版を仔細に見ていきますと、たとえばサプライチェーン・マネジメントとして「(CSRを)契約条項に盛り込んでいる」企業が40%近くに上っておりますし(このあたりの問題点は以前のエントリー「CSRは法律を超えるのか?」をご参照ください)、CSRに関する情報開示としては「自社の不祥事への対応状況を広報する」企業が51%もあり、さらにCSRを推進する上で参考にしているガイドラインとしては「ISO26000の社会的責任に関する規格を参考にしている」企業が24%もある、とのこと。こういったアンケート調査結果を眺めてみますと、やはりCSRは法令遵守とは無関係とは言えないものであり、たとえばISO26000規格などがもっと国際規格として普遍化していけば、そのうちソフトローとして法規範化するのではなかろうか・・・との疑問が湧いてきます。

こういった疑問が私だけの素朴な疑問であれば、とくにブログで述べるほどのこともないかもしれませんが、早稲田大学の商法の大先生が同様のことを疑問に思っていらっしゃるとすれば、皆様方の関心度も少し変るかもしれません。ご興味のある方は、直接原文を参照していただければと思いますが、最新の「金融・商事判例」(9月15日号)「金融商事の目」のコーナーで、元早大総長の奥島先生が「社会的責任の国際規格と会社法」と題する意見を述べておられます。ご承知のとおり、ISO26000は特に企業組織だけを対象とした国際規格ではありませんが、奥島先生は実質的にみるとISO26000は会社法との関連性は決して小さくはないとされています。ISO26000が目指す社会的責任の原則が、直ちに法的レベルまで引き上げられることはないが、近い将来、企業経営に関するある部分はソフトロー化するのではないか・・・と予想されております。(適正な経営のための内部統制システムの整備が会社法で法制化されていることからしても、今後その可能性は十分にある、と論じられております)奥島先生の言われるCSR原則のソフトロー化の重要な結論としては、社会的責任の原則が規格化して、これが社会で強い支持を集めることになれば、やがてソフトローとして善管注意義務の判断基準を底上げする方向に進むのではないか・・・といったあたりかと思われます。

このあたりは、とりわけ企業社会における規制の手法が事後規制的、原則主義的に変わりつつあるなかで、とても重要な問題意識ではないかと私も勝手に共感いたします。法律と自主的な行動規範との境界が、取締役の法的責任を論じるうえで明確にならないケースが今後増加することになるでしょうし、その境目のモノサシとして今後使われる可能性があるのが、ある程度規格化されたCSR活動(CSRの考え方)ではないでしょうか。CSRについては、私もあまり普段研究しておりませんが、もし奥島先生が指摘されているように、今後ソフトロー化(つまり法的責任との関連性あり)との関連性が認められるのであれば、興味深く今後の議論の進展をみていきたいと思う次第であります。

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2005年10月11日 (火)

CSRは法律を超えるのか?

グローバル企業であるソニーが、部品調達先選びに「社会的責任」基準をアメリカIBMなどと共通化して採用する、という報道がありました。環境、安全、人権配慮に関する条件を取引先4000社に通知し、取引先選別に利用する(違反企業には取引停止などで臨む)というもので、今後は東芝、日立製作所などにも参加を呼びかける、というものです。いまだ日本では「CSR(企業の社会的責任)」というものの明確な定義はありませんが、欧州での素材規制問題や、日本における石綿問題など、昨今の環境問題からすると、世界レベルでの販売管理上やブランドイメージの向上のため、もはや避けては通れない課題になりました。東京商工会議所の今年7月の「CSRに関するアンケート調査」によりますと、大企業と中小企業との「サプライチェーンにおけるCSR」への意識には未だ大きな隔たりがあるようでして、大企業が喫緊の課題と捉えているのに対して、中小企業は「環境基準の調査報告すら提出できない」レベル(結局はCSRへ取り組む費用不足)のようです。ただ、取引先の選別や、取引停止といった事態が想定される以上は、いよいよこのCSR問題(とりわけサプライチェーンCSRの問題)も法律との抵触、ということをまじめに考える必要がありそうです。

たとえば、「サプライチェーンとCSRの法律問題」に限って考えますと、以下のような点について検討する必要がありそうです。

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企業が政府の役割を一部補完したり、中小企業に取引上のリスクを認識してもらうためには、こういったサプライチェーンにおけるCSR基準を導入することも、有用であることは間違いありません。しかしながら、取引先が自社のCSR基準に合致しないことをもって、取引先を選別し、また取引停止にするということは、いろいろな法律上の問題点を指摘しうると思われます。たとえば仕入原価は5%低いために利益計上に大きな差が発生するにもかかわらず、労働条件に問題があるとして、その取引先よりも5%高い企業から材料を納品する、という場合、これは株主に説明がつくのでしょうか。材料素材規制などによって、実際に販売できないおそれがある、というのであれば説明もつきそうですが、一般的な社会的責任論だけで、株主への説明責任が尽くされるというのであれば、「社会的責任」は法律を超える存在になりそうですが、どうも私には自信がありません。また、ある程度の裁量をもって取引先のCSR基準充足を判断するとした場合に、突然「取引停止」といった事態を生ぜしめることは独禁法上の「優越的地位の濫用」や、継続的取引における解除の「合理的理由」といった問題点をクリアできるのでしょうか。さらに、取引先に対して、その負担においてCSR基準の導入をはかるなど、大企業が積極的な関与を果たしている場合、もし取引先にそのステークホルダーとの関係において、人権問題や労働問題などによって不法行為責任が発生した場合には「共同企業責任」として、大企業が共同責任を負担するようなおそれはないか(いわゆる相手方との関係において、親会社の法人格が否定され、子会社ともども責任を負担する、という理論と同様です。実際に下級審判例ですが、こういった理論が認められたケースもあります)

2004年6月のマルチステークホルダー・フォーラムの最終報告書では、CSRの定義のなかでCSRは法的要請や契約上の義務を上回るものである、と明言されています。つまり、CSRは法律や契約上の要請以上のことを行うことである、と定義付けられています。2004年6月、ISOの国際会議において、日本は唯一、そのCSRの規格化に反対していましたが、日本には今後、民商法の解釈に影響を与えるような「CSRの波」が本格的に訪れるのでしょうか。これを本気で議論するならば、日本と欧米との宗教観、世界観の違いや、EU統合下における社会問題、労働問題と日本との差異など、とうてい私の認識では理解困難な問題がたくさんあるように思えます。ただ、ここのところの日本でのCSRに関する議論を聞いておりますと、取締役が企業価値を判断する場合においても、法的に無視しえないような論点を少しずつですが提供しつつある、と感じている次第であります。

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