TBS買収と企業価値判断について(2)
GW初日、大阪はたいへん良いお天気ですが、皆様はいかがお過ごしでしょうか。アクセス数もきょうは激減しているところから拝察いたしますと、皆様ご家族で旅行、ハイキング、お買物と、連休を楽しんでいらっしゃることと存じます。(こういった時期にこそ、思いっきりハズしてもいいような話題を取り上げようかと思います(^^;;)さて、楽天によるTBS株式の大量買付事前手続から始まった買収交渉も、昨日(27日)TBS側が質問状送付、特別委員会(企業価値評価特別委員会)招集ということで、本格化してきた模様であります。日経新聞では「両社の攻防は日本企業に広がる買収防衛策のあり方を問うものである」と解説されておりますが、私もまったく同感でありまして、法廷闘争、委任状争奪その他、どのような方向に動いたとしましても、「事前警告型の防衛ルール」の有用性が試される大きなターニングポイントになることが予想されます。私のブログでは「TBSは楽天を濫用的買収者とみなすのか」シリーズで、この問題を何度か取り上げておりますが、1年半以上も前に「TBS買収と企業価値判断について」と題するエントリー(かなり恥ずかしい内容ですが・・・)も残しておりますので、その続編として今後のTBSと楽天の防衛策を巡る攻防への私なりの視点を述べさせていただきます。これは、私が今年2月に改訂されましたTBSの買収防衛ルールに関する読後感想文のようなものと受け止めてください。
「楽天が濫用的買収者かどうか」は誰が判断するのか?
まずなんといいましても、TBS側としましては、楽天を「濫用的買収者である」といった認定に持っていきたいところであります。(もちろん株主価値の最大化のための防衛ルールでありますから、そんなことは一切口には出せませんが)これに該当すれば、株主総会に諮ることなく、防衛策が発動できるわけでありますから、楽天としましては司法判断を仰ぐしか方法がなくなってしまうわけですね。TBS側としては、ここに持ち込むインセンティブは働くわけでありますから、その認定には大きな関心が寄せられるところであります。ところで一般的なイメージからしますと、「濫用的買収者に該当するかどうか」といった判断権は、著名な委員の方々で構成される「企業価値評価特別委員会」にあるような気もします。でも、TBSの買収防衛ルールを読みますと、大量買付希望者が濫用的買収者に該当するかどうかは、「手続違背」の問題とされております。つまり事前に決められたルールを無視した人が「濫用的買収者」とされるわけでして、ルールを無視した人が出れば特別委員会は防衛策発動を勧告する、ということになっております。しかし、そもそも敵対的な買収において、取締役会レベルで防衛ルールを導入することが「合理的」とされるのは、ライブドア・ニッポン放送事件の際の高裁判断が基準となっているはずでありまして、当然のことながら「濫用的買収者かどうか」はその買付希望者の実体に関する判断によるものであります。したがいまして、手続違反を根拠に「濫用的買収者」であると決め付けるには、単なる「手続違反」の事実だけでは足りず、その手続違反の事実が、実態的にも濫用的買収者であることを推認させるだけのものでなければ「合理的なルール」とはいえないはずであります。したがいまして、たとえば楽天側に手続違反の事実が認められるとしましても、その後になんらかの実体的に濫用的買収者でないことに関する反論の機会を付与しなければ、特別委員会、TBSの取締役会の「発動を是とする行動」には疑問符がつくのではないでしょうか。ただし、そういった反論の機会が付与されましても、誰が濫用的買収者かどうか、に関する判断権を付与されているのか不明でありますので、どういった手続の流れになるのかは、ちょっとよくわからないところがあります。そもそも、このTBSの買収防衛ルールが、特別委員会に濫用的買収者かどうか、に関する「手続違背かどうか」以外に実質的な判断権を付与していないところに問題があるのではないかと思います。この買収防衛ルールにおきまして、手続違反の際に特別委員会の勧告が「全員一致」を要求しているのかどうか、まったく触れられていないのは、こういった手続違反については実質審理の必要性がないと考えれおられるところにあるのではないでしょうか。(なお、特別委員会が早い段階から、いろいろな資料を買付希望者に要求できるのは、特別委員会が実質的な判断をするからではなくて、発動を勧告しない結論に達したときに、すぐに現経営陣に代替案を用意する機会を付与するためであります)
もうひとつ、手続違反から「濫用的買収者」と認定するところで問題になりそうなポイントがあります。どういったことかと申しますと、本当は楽天の実体を判断しているのだけれども、それを「手続違反」と判断する可能性であります。手続審査と実体審査という区分は、そんなに明確なものではないと思われます。たとえば「これこれの判断に必要な資料とともに、貴社の見解を述べよ」といった質問に対して、楽天側が必要十分と判断した資料と意見を述べたとします。それに対してTBS側が「貴社は必要十分と思われる資料も提出していないし、こちらが答えてほしいことに十分答えていない」と判断した場合、これは、「質問に回答する」ということを形式的に捉えれば手続違反とは考えられませんが、「質問の趣旨に合致した回答をする」ことを手続と捉えれば手続違反であり「濫用的買収者」と認定しても差し支えないこととなります。こういった問題が、私の「屁理屈」でありましたら、特別委員会でもなんら問題は発生しないと思われますが、こんな屁理屈でも理解を示される方がひとりでもいらっしゃいますと、また新たな問題が発生いたします(つまり、特別委員会は防衛策発動勧告については、全員一致によるのか、そうでないのか明らかにされておりません)このように考えますと、特別委員会は実質的には濫用的買収者かどうかを実体的に判断する権限を持っているようにも思えますが、高裁判断基準が、司法の場で立証するにあたってはあまりにも厳格なために、これを手続違反の問題にすりかえているのではないか、つまり立証の負担を転嫁させようとしているのではないか、と考えられます。
このように、楽天を濫用的買収者と認定するにあたっては、諸問題が発生する可能性があるために、私見としましては、本件では「濫用」認定は回避され、特別委員会の正式評価手続のなかで検討される、つまり法廷闘争には至らず、株主総会による発動の是非承認手続もしくはそのまま不発動(楽天の買付容認)に至ると予想しております。(ところで、昨日TBSは、3件の番組で過剰演出や不適切な編集があったことで総務省より厳重注意を受けていますね。楽天側としては、この厳重注意を受けて、TBSは今後どのような内部管理体制をとる予定なのか、統合を進めるうえで逆に説明を求める必要がありますよね。また、視聴率とCSR経営、株主の利益とステークホルダーである視聴者の利益をどう考えているのか、具体的なTBSの見解も陳述していただくことも、当然TBS経営者の説明義務の範疇にあると思われますが、いかがでしょうか)
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