監査役からみた鹿子木判事の「企業価値」論
10月17日の日経朝刊に鹿子木康判事(東京地裁商事部)のインタビュー記事が掲載されていました。ニッポン放送・ライブドア事件、ニレコ事件、夢真・日本技術開発事件などの第一審裁判の裁判長を務めた裁判官です。(ちなみに、夕刊にはニッポン放送代理人であった中村直人弁護士のお話などが掲載されておりました。この鹿子木裁判官は、来年から始まる、あの「新司法試験の試験委員」に就任されておられるので、いつまで東京地裁の商事部裁判長を務められるのでしょうか?)
現役裁判官が日経インタビューに答える、というのも珍しいことのようですが、お答えになっている中身を読みますと、やはりこれまでの裁判内容とまったくブレのない発言になっていると感じました。権限分配ルール(経営権の所在など会社の組織機構について決定を行うのは株主総会であり、経営の重要判断や代表取締役を監督するのは取締役会、そして執行は代表取締役、と厳格に権限を分立するルール)を買収防衛策にも厳格に適用して、その是非を判断する手法は、やはり経済産業省、法務省の提案した買収防衛策に関する指針よりも要件は厳しいということが、このインタビュー記事を読んで改めて再認識させられました。通産省出向時代に、企業金融の政策立案に携わっておられたことから、企業の内部的潜在価値や外部的潜在価値、さらにはバランスシートの活性化などによって企業価値の向上は図られるべきで、株主の長期的な共同利益の向上のためにはM&Aは有効な企業活動である、という価値判断を相当重視しておられる、といった印象を持ちました。ただし、やみくもに「敵対的買収防衛策には懐疑的」というわけでもなく、株主総会による広範な委任がある場合には、経営陣による防衛策発動についても「かなり広く」適法性は認められるように述べておられます。
こういった裁判所の見解を前提とするかぎり、敵対的買収防衛策の導入については、総会で承認を得られやすいような方策をとり、買収希望者との対話と、双方の企業価値比較検討の時間確保のために必要最小限度の強制力をもたせ(相当性)、有事における企業価値の把握手法を確立させておく(組織としての準備)ことが最も肝要だと思われます。
具体的には、買収希望者に精緻な対応策を予想されないような形での事前警告型の防衛策の策定、総会で株主の過半数の決議をもって承認されるよう「勧告型決議」で足りるプランの導入(きょうの鹿子木さんの発言からすると、総会決議は勧告型の承認を求める形であれば、現商法230条の10に違反しないものと思われます)、第三者機関による発動要件の審査、企業価値の算定にあたって、戦略的シナジーをどう計算するか、ステークホルダーの利益をどこまで算定根拠とするかなどの自社基準の策定あたりでしょうか。
あと残る問題は「どういった相手であればグリーンメーラーと合理的に認定できるのか」「どういった場合であれば、緊急避難的に防衛策を発動できるのか」といった経験値が重視される要件です。これぞまさしく、現在進行形の問題、たとえば夢真、MAC、楽天あたりの今後の問題解決までの動向を株価と同時に緻密に分析しておくことが有用ですね。私には、残念ながら防衛策を策定できるほどの能力も知識もありませんが、そのぶん当事者企業の中身に精通して、その企業独自の企業価値向上の方策を検討し、企業文化に適応した対応策を役員一同で考えるお手伝いをしていきたいと考えています。
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