2015年11月16日 (月)

横浜マンション傾斜事件-社長発言にみる闘うコンプライアンスの姿勢

もはやこの問題を「横浜マンション傾斜問題」と呼ぶべきかどうか迷っているのですが、マンション基礎工事に関するデータ偽装事件が大きな社会問題へと発展しています。13日には旭化成建材さんによる国交省への報告内容も出ましたが、時を同じくして杭打ち工事大手のジャパン・パイルさんのデータ偽装問題も報じられ、11月15日の日経新聞では同社の社長インタビュー記事も掲載されています。同社の発見されたデータ偽装18件については、すべて現場監理者が違う社員ということのようで、組織的な偽装の可能性が高いように思われます。

私は当ブログで何度も申し上げている通り、企業不祥事への対応は「安全思想」ではなく「安心思想」に基づくものでなければステークホルダーの納得は得られないと思うのですが、ジャパン・パイル社の社長さんのご発言は気持ち良いほどに率直で、業界を代表する意見だと思いました。つまり、たしかにデータ偽装が行われたことは現場の監理責任を痛感するが、データ偽装とマンションの安全性は別であり、現場の監理責任者はきっちり安全性を確認している、だからマンションの安全性には問題ない、杭の支持層未達問題とも関係はない(そもそも支持層未達とマンション傾斜との関係も不明であり、東日本大震災の影響ではないか)というもの。

コンプライアンスを「法令順守」と捉えるならば、たとえば建設業法26条の3で定める主任技術者、監理技術者の職務誠実義務については、現場の監理技術者が自らの熟練によって安全を確認していれば誠実に職務を行ったと言えるのではないか、いやそうではなく、紙ベースでの安全確認証憑をきちんと残すことがなければ誠実な職務執行を行ったとは言えないのではないか、といった論点に集約されるのではないでしょうか。したがって請負契約によって定められた安全配慮基準に反することがあったとしても、それは(元請けには誠実ではないかもしれないが)国民に対しては、誠実な職務違反とまでは言えない、もしこれを問題とするならば国交省が法令を変えるべきでしょう・・・ということでコンプライアンス違反ではない、といった「闘うコンプライアンス」の姿勢もありうるところかと。

しかしコンプライアンスを「社会の要請に対する適切な対応」と捉えるのであれば、たとえ建設業法違反が明確に認められるわけではないとしても、またそれが業界の慣行だったとしても、業界内の常識と業界の外の常識とのズレ、つまり「期待ギャップ」が認められる場合には、そのズレを埋める努力は企業側にも必要だと思います。たとえば業界内の方々は、たとえデータ偽装が安全性とは関係がないかもしれないけれども、国民へ「安心」を提供するためにはどうしても「安全性を最優先に考える企業風土」が組織にあることを形で示す必要があります。おそらく、今回の件で、消費者を含めた業界外のステークホルダーの方々も、この期待ギャップを埋めるための努力として「安心を手に入れるためには、販売元から下請けまで、系列等のサプライチェーンでつながっているかどうかが大切、大臣認定の杭打ち法等が採用されていたとしても、このサプライチェーンのバランスが崩れてしまうと問題が生じる」ということを学習しましたので、その情報収集を怠らないことになると思いますし、サプライチェーンの在り方を今後の購買の目安にするはずです。

私は上記のジャパン・パイルの社長さんのご発言を読んで、コンプライアンスはきれいごとでは何の役にも立たないことを再認識したような気持ちになりました。どんなマンション建設にも「採算が合う」「同業他社との競争に勝つ」ことが大前提なわけですから(現場の作業を生身の人間に委ねる以上)不正は必ず起きるはずであり、不正が起きない工事は存在しないということです。ただ、不正が起きた時に、販売責任者から下請けまで、これにどう向き合うのか、逃げる(隠す)ことなく、長い目でどのように誠実に対処するのか、そこが長く生き残る企業(親会社、もしくは企業グループ)の品質であり、マスコミ報道やIT化の中で賢くなっていく消費者の選別の対象になるものと考えています。

13日の日刊工業新聞朝刊に「トヨタ2050年計画」が報じられていましたが、(サプライチェーン企業に厳しい?)トヨタ自動車は、サプライチェーン全体で40年後も「自動車作りで飯を食っていけるように」ESG(環境、社会、ガバナンス)向上に知恵を絞るとのこと(具体的には自動車を作る人も、乗る人もCO2を一切排出しないことを目指すそうです)。企業が消費者から選別を受けるためには、企業グループ、サプライチェーンでコンプライアンスに配慮しなければならない時代だと思います。このたびの事件は、消費者がそこに目を向けて商品やサービスを選別することが重要であることを認識させたものといえます。

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2005年10月19日 (水)

中堅ゼネコンと企業コンプライアンス

平成16年から継続していた中堅ゼネコンの破産管財業務がほぼ終了しました。(つまり、旧破産法を適用する破産管財業務です)破産管財人として、企業コンプライアンスの難しさを痛感した事件でした。

ひとつは大型マンションや新築ビル建設の請負業務にからむもの。大手ゼネコンが受注するわけですが、第一次下請として中堅ゼネコンが大手から受注します。破産管財人になった当初から懸案だった数十億の使途不明金。解明できたのはごくわずかですが、予想以上に「闇の世界」への流出です。近時、大手ゼネコンは自ら手を汚さないわけでして、結局は「闇の世界」をうまくまとめあげるのが中堅ゼネコンの仕事であり、そういった仕事を手際よく仕切るところが重宝がられるようです。もちろん「どこでも」とは申しませんが、中堅クラスのゼネコンだと、長年の経理上の「知恵」こそ、平穏な工事完了に不可欠な要素のように感じました。コンプライアンス経営とはいえ、こういった「元から絶つ」ことが困難な事情が存在する場合には、下へ下へとリスクの大きい灰色の仕事が回されている現実をみると、なにか割り切れないような思いがしました。サプライチェーンCSRなど、こういった業界では受け入れることは現状では到底困難だと思います。

もうひとつは、現場監督と私との工事現場でのやりとりが発端でした。ご承知のとおり、大きなビル建設の工事現場では、警察の許可を得て、工事車両の現場出入りを円滑に進めます。(たとえば一方通行道路の逆進行の許可など)ただ、この警察の道路使用許可というのも、けっこう細かい条件が付されるのが通常でして、車両進入時には、どういった方向から何人の警備員に誘導されてバックから進入しなければならない、など)ところが、工事の円滑な進行のために、いろいろと現場監督が「裏の手」を使って、車両をさばくわけです。バックで進入しなければならないところを、「こういったときは工事現場において、こういった緊急事態が発生したことにして、前から進入させよう」など。私はビックリして「○○さん、そんなんあかんやん。きちんと許可条項は守らな。せめて、私が現場にいるときぐらいは規則を遵守して工事を続行してくださいな。私が責任とらなあかんことになるやん」

現場監督は「っるせいなあ」みたいな対応をとりつつも、仕方なくこちらの意向を汲んでくれて、車両の工事現場進入を許可条件どおりに行うこととなりました。するとたいへん、ものの10分もすると、工事現場周辺に大渋滞が発生。近隣の一般車両に多大な迷惑をかけ、住民の通行も妨げ、最後は近隣住民から警察に通報がなされ、警察官がやってきて、なぜこのような大渋滞を招いたのか説明することを求められました。その後、警察官の交通整理がはじまってやっと大渋滞は解消できましたが、こちらは冷や汗のかきっぱなしでした。規則を遵守せず、あたりまえのように法令違反行為を繰り返していても、そのほうが一般の人たちに多大な迷惑をかけず、かえって平穏な工事現場の維持に役立つ。もちろん、この違法行為は、企業側が人件費などにもっとお金をかけていれば防止できるものかもしれませんが、法令遵守の形式論というものが現場では無力であることを思い知らされました。

「企業コンプライアンスの徹底」、この言葉はたいへん美しく道徳心に訴えかけるに十分な響きではありますが、その裏には、市民生活を平穏にしているルール違反を激変させるために多くの費用を要したり、他社のコンプライアンス経営に関する悲しい犠牲のもとに成り立っていたりするわけでして、私は容易には「WINーWINの関係」とか「みんなが幸福になれる経営」などというものは信じることはできません。もう少し現実論的に考えると「みんなが逮捕されたり、大きなリスクをしょいこまないための我慢の均衡」をどこに持ってくるか、といった感覚こそ本当に必要ではないかな、と考えるようになりました。

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