社内文書はいかに管理すべきか
本日は、夕方から皮膚科のお医者様方120名の前で、医療過誤(医事紛争)の予防と対処に関する講演をさせていただきました。しかし「お医者様」の世界というのはまさに「別世界」、「弁護士の世界」とは違います。第一部が阪大医学部教授、第二部が私、という講演だったのですが、第一部の教授がすこしばかりスポンサー製薬会社の商品について説明(リップサービス)をするだけで、ホテル阪急インターナショナルでの学会すべての運営費用が「スポンサーもち」になっちゃうんですね。(って、こんなこと普通に書いていいのかどうかわかりませんが)ちなみに、弁護士の世界の場合、よほど著名な先生ガタが集まって、研究会の内容を出版することが前提にでもなっていないかぎり、手弁当が当たり前だと思います。
皮膚科の先生がたも、昨今は「美容外科」診療へ進出する方が多いようで、そういった医療事故に遭遇する可能性が高まってきた、ということのようでした。学会終了後は、これまた豪華な懇親会でして、お若いお医者様方との交流の機会もあり、いろいろ貴重なご意見もうかがいました。そんななか、「証拠保全」に関する私の講演をお聞きになった若い先生より電子カルテに関する質問がありました。紙ベースに関する証拠保全手続というのは、私もよく経験しますが、電子カルテに関する証拠保全の経験はありません。実際、電子カルテによる保存を行っている病院でも、裁判所から証拠保全手続を受けたことを想定して、改ざんが疑われないようなシステムを構築している、というものでした。総合病院ではすでに電子カルテもしくはカルテの電子保存(つまりPDF化)のどちらかを採用しているところが多いようですが、通常の開業医さんのところでは、まだほとんど紙ベースでの保存だそうです。
裁判所による文書の電磁的記録物への証拠保全というのは、すでに2000年ころから始まっているようでして、有名なところでは某司法試験予備校によるワープロソフトの違法コピーの証拠保全や、最近では有名国立大学内におけるソフト違法使用の証拠保全などがあります。この裁判所による「証拠保全」といいますのは、裁判官が現場で証拠物を「検証」する作業ですから、紙ベースではなく電子的保存文書が対象となりますと、単にその文書の中身だけでなく、どういったパソコンでどういったソフトを用いて、文書の真正性はどうやって確認できるか等、保存方法という技術的な側面についても検証がなされるわけです。したがいまして、これまでの証拠保全のように裁判官が病院に到着したころには、すでにカルテのコピーが一式出来上がっていた、ということでは済まないようで、保存の対象となっているハードの検証から、ソフトの検証、文書化ファイルの検証、バックアップCDやサーバーの検証など、とても時間のかかる作業になるわけです。
e-文書法が今年の4月から施行されたことなどにより、一般企業の社内文書(各種法律により文書の保存が義務付けられているもの)も電子的保存という方法が用いられることもありますし、また企業によっては、逆に内部統制システム構築の作業のなかで紙ベースの文書として大量に保存するところもあります。情報伝達のミス防止や財務情報の一元管理のために、各企業によって社内文書の取扱方法は様々でしょうが、いずれにせよ、証拠としての保全に役立つ方法を十分検討しておくことが必要です。たとえば今日、電子カルテについて聞いた話によりますと、手書きのカルテの場合には、外来のために忙しい医師が、適当にカルテをつけておいて、外来診療が終了した後に、患者さんを思い出しながら清書していくことができます。極端な話、1ヶ月先に、診療を思い出しながらカルテを書き直しても、なんら違法ではないわけです。しかし電子カルテの場合ですと、改ざん記録が明確に残りまして、書き換えというのは原則として禁止されており、もし清書したい場合には別のファイルに再度入力しなければならないそうです。これはたいへん煩雑な作業でして、レセプトにも影響が生じ、多大な医療事務の停滞を招くことがあるようです。同じような問題は、一般企業の社内文書の取扱にも発生することが考えられます。すべての社内文書が裁判所による証拠保全手続の対象になるとは思えませんが、もし裁判所の決定が出て、社内文書が対象となった場合、裁判所からの連絡は検証の1時間前ですから、文書の検索、特定作業などが瞬時に可能でないと「検証はできない」ということになります。(膨大な量であっても、紙ベースでの保存ということであれば、よほど不適切な整理方法がとられていないかぎりは問題は発生しないことになりますが)これは非常にマズイわけでして、(証拠としての保存方法に瑕疵があるものとして)内部統制システムの構築義務違反にとどまらず、企業の証拠全般にわたる信用性の欠如、証拠の隠滅のおそれ、虚偽文書作成のおそれにつながってしまう危険性があります。書き換えが容易であり、業務の状況によって、文書化作業をフレキシブルに行える方法と、現場における手間と時間を要し、業務の停滞を招くかもしれないけど、情報の一元管理、保管の容易さなどを重視する電子化の方法と、どちらがいいかは、個々の企業によって異なるものとは思いますが、監査証憑という意味でも、また裁判における証拠の保全という意味においても、社内文書の管理方法は、その業務の信頼性を客観的に担保しうる方法でなければならないことに留意しておく必要があります。
世話役のかたがた、本当に今日はご馳走さまでした。。。
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