買収防衛目的の新株予約権発行の是非
週末、商事法務1744号の落合誠一東大教授の「株式・新株予約権と資金調達」を読んでみました。先日のエントリーで落合教授の「企業会計10月号 論壇」の斬新な解釈論がおもしろい、と書きましたが、今回もなかなか斬新な解釈論を展開されていて、経済産業省における「敵対的買収への防衛指針」続編や今後の裁判の解釈指針などの議論にも反映されることを期待したくなります。
先日の鹿子木判事の日経インタビュー記事でも、「権限分配理論」について、判事自身が防衛策の是非を論じる際の基本線であることをおっしゃっていましたが、落合教授はこの「権限分配理論」への裁判所の偏重と、従来からの「資本調達」という意味が狭く解釈されていることへの疑問とから「主要目的ルール」を適用する判例の態度を批判されています。そして、企業価値を向上させるような「良い株式・新株予約権発行」に該当するのであれば、たとえ明確な事業資金調達という狭い目的でなく、支配権維持目的であっても、「外部からの投資の受け入れ」としての資金調達性が認められる場合がある、とされています。残念ながら、ここでいう落合教授の権限分配理論批判の根拠、そして企業価値の中身やその算定根拠、裁判所における企業価値の判断方法などについては、この「商事法務」ではなく「企業会計10月号」を読まないと分かりづらいところもありますが、防衛策を講じようとする企業、防衛策にこだわらず「企業価値の向上」のための施策を検討している企業にとっては、これからの実務指針を議論するうえでは非常にわかりやすい理論ではないか、と思います。
これまでの敵対的買収に対する防衛策を改めて検討していますと、結局のところ「なぜ、新株予約権付き株式」が認められないのかな・・・・といったところに疑問が集約されてくるように思います。現商法上、これが認められたら、素直に防衛策を検討しやすいと思います。また新会社法においても、やはり条文上で新株予約権付き株式は規定されていませんので、効果が最も近いと思われる条件決議型の新株予約権発行、権利行使の基準日を「敵対的買収発生日」と後から決める方法というのが(現在のところでは最も)妥当な線とされているのではないでしょうか。たしかに、こういった防衛策を、専門チームの力を借りて導入したとしても、せっかくM&A盛んな時代になったにもかかわらず、既存の企業経営陣が「企業価値向上」を真剣に検討した経営を行うようになるかというと、ほとんど期待はできないんじゃないでしょうかね。一般に社外取締役導入の機運が生じたことはあっても、現実にこの防衛策との関係で社外取締役論が進化したかといえば、ほとんど議論されていない現状をみても明らかだと思います。企業経営陣が株主のほうばっかり気にせずに、他者との競争に勝つことで(結果として)企業価値が向上することや、多数株主と少数株主とでは利益が相反することもあり、そういった株主の利益の最大化を図るためにはどうすればよいかなど、経営陣が普段から企業価値向上策を講じる方向へ向かわせるための解釈指針こそ、もっとも企業実務家にとって実益の高いものだと考えられますが、(ぎゃくに言えば、そういった努力をしなかったり、方策を検討できないような経営者にとっては厳しいものとなりますが)そういった意味では、この落合教授の考え方は理にかなったものだと思いました。
東大の神田教授も「新株発行における既存株主と新たに株主となる者との利害調整」(会社法第4版補正2版200ページ以下)におきまして、「たとえば事前の規制はおかないこととし、取締役の義務や多数株主の少数株主に対する忠実義務の問題として、事後的にその違反の有無を裁判所が判断するという規整もありうる。アメリカの州会社法は、この規整に近い」と述べておられ、権限分配論にこだわらない解釈指針もありうることを、示唆されているところが興味深いです。(こう解釈できる、とまでおっしゃっているわけではありませんが)
各論的な問題については、また別のエントリーで「続き」として考えてみたいと思います。
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