2018年12月19日 (水)

日産・金商法違反事件-会計実務家の常識的判断を尊重せよ(その3)

逮捕から1か月が経過した日産前会長・金商法違反事件でありますが、当ブログでも関心が薄れるどころかますます高まりをみせておりまして興味が尽きません。ルノーが日産に対して臨時株主総会の開催を要求していることが報じられ、マスコミの関心は日産vsルノーの支配権争いのほうへ移りつつあるようですが、私的にはまだまだゴーン氏・ケリー氏の立件の可否に関心を抱いております。

ところで、マスコミから聞こえてくる被告人(弁護人)サイドの反論については、「後払い報酬」の確定を否定するところがメインのようです。覚書や合意書など、複数の後払い報酬を確約する書面が出てきたところで、「日産の内規では、(報酬額の)最終確定のためには3名の代表取締役の協議が必要とされているのであるから、3名の署名がない以上は未確定と言わざるを得ない」という点が強調されているようです。優秀な方々が弁護人としてお付きになっておられるので、検察への反論としてはもっとも効果的と思料されます。

ただ、「確定」か「未確定」かで勝負をする場合、どうも検察の作った舞台で踊らされているようで、法的手続きを経ていない点を強調して無罪を主張したとしても裁判所を説得するのはむずかしいような気もいたします。たとえばインサイダー取引規制の対象となる「重要事実」のひとつとして、企業の「決定事実」が挙げられますが、この決定事実というのは取締役会等の会社法上で決定権限のある機関で決議がなされたような場合(法的に決定があったとされる場合)だけでなく、実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことのできる機関によるものであれば足りる、というのが最高裁判例の立場です。金商法違反の世界に「確定」「不確定」という概念を持ち出すとすれば、たとえ法的手続きは未了であったとしても、実質的なワンマン経営者が「最終」として決めた文書がある以上は「確定した」といえるとの解釈が裁判所で通用するのではないでしょうか。

ここからは(私の個人的な意見であり、もちろん賛同者は少ないかもしれませんが)金商法違反で起訴している以上は(あらためて考えても)会計実務家の常識的な判断が尊重されるべき事案ではないか、と思います。以下、私の考えを図表に示したいと思います。

Houteisenryaku001基本的には(その2)のエントリーで示したところと変わりはありませんが、そもそも金商法の解釈に(会社法の条文にある)「確定」「未確定」なる概念を持ち出す必要はないわけで、素直に金商法および開示府令の解釈問題と捉えれば足りると考えます。

最も「確定」という概念を使いたくなるのは開示義務が発生する要件として(後払いといえどもすでに報酬が確定しているのであれば)「当事業年度に係る報酬等」に該当する、という開示府令の解釈です。しかし、前にも述べたとおり、この解釈は、存在が確認されている3文書の文言内容と矛盾します(報酬と言いながら、支払方法合意書では「競業避止承諾料」や「顧問料」とされている。現にケリー被告人はこの主張を貫いています)し、機関決定がまったくなされていない点を全く無視することも問題となります。

そこで、次に「確定している」と主張するメリットのある解釈としては「当事業年度において受ける見込額が明らかとなったもの」に該当する、というものです。この解釈であれば「カリスマ経営者の実質支配状況、および開示に消極的な姿勢を総合判断して」「将来的に受ける報酬見込額は明らかになっていた」といえそうな気もいたします。ただ、この解釈だと先のエントリーでも述べたように、金融庁の考え方としては開示府令の解釈に会計処理方法を参照にしながら考えてよいことになっています。したがって会計の実務慣行がどうなっているのか・・・というところを解釈の指針とすることも十分に考えられると思います。

なお、有価証券報告書の役員報酬欄は会計監査の対象ではないので、会計慣行は問題にはならないのでは?とのご意見もあると思います。しかし、ここで問題としているのは「監査」対象としての有報ではなく、会計の実務慣行であり、報告書を作成する側の問題です。報告書を作成するにあたって、金融庁は「会計処理方針を参考にしてもよい」と述べているのですから、これを活用して、「解釈はこれしかない」と言うのではなく「解釈としてはこれもあるよ」と被告人側は述べればよいと思います。

したがいまして、別に被告人側は検察の「確定」「未確定」なる(評価に関する)主張が正しいものでも間違いでも構わないわけで、被告人側の(金商法の解釈としての)主張立証を粛々と行い、「これも解釈としては間違いではない」という心証形成に努めれば構成要件該当性もしくは違法性の認識のいずれかの争点で戦うことができるのではないでしょうか。〇か×か・・という論争は検察の舞台(アウェイ)での戦いであり、どっちも〇という相対的真実の世界(ホーム)で戦うことが得策ではないのか・・・と考えます(これこそ10年前の長銀最高裁判決からの教訓と思うのですが・・・)。

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2018年8月29日 (水)

財務省幹部の皆様に向けたコンプライアンス研修講師を務めました

7月末に引き続き、8月28日も、財務省幹部(入省30年前後の課長クラスの方々)を対象としたコンプライアンス研修の講師を務めました。今回は、私の失敗談を交えた簡単な講演の後、4名で3グループに分かれてもらい、設例を(各班に分かれて)ディスカッション、最後に各班の答えや疑問点を全員で検討する、というケーススタディ形式を採用しました。司法試験にも合格された方が多いようで、設問の理解はとても速いのですが、では不正リスクの認識や再発防止のための組織としての対策検討となると話は別です。

私なりに、このたびの財務省文書改ざん(および応接記録の破棄)事件は、どこに問題があったのか、おおよその分析をしましたが、ぜひとも国民の信頼を取り戻すためにも、財務省幹部の方々が「自分のこと」としてこのたびの事件の要因を理解する必要があると思っています。財務省に求められるガバナンス、内部統制とはどのようなものなのか、私なりの思いをお伝えしました。外部の人間の思いをまずは認識していただきたい。

財務省文書改ざん事件だけでなく、文科省の接待収賄事件、そして全省をまたぐ「障がい者雇用率偽装」事件など、国家公務員の不祥事は深刻です。秋には(昨年に引き続き)国家公務員倫理審査会主催の研修講師を務めさせていただきますが、全省の幹部のみなさんに向けて、精神論ではなく、実践論としての公務員倫理についてお話したいと考えています。

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2016年1月27日 (水)

サプライチェーン・コンプライアンスと役員の法的責任の交錯点

横浜の傾斜マンション問題、壱番屋カレー廃棄食品の横流し事件等、サプライチェーン・コンプライアンスに関連する課題が世間を賑わせています。本日(1月26日)の朝日新聞朝刊でも、エアバック事故の件につき、タカタ社とホンダ社が事故原因及び補償負担割合に関する協議を始めたことが報じられていました。双方が別々の機関に事後原因調査を依頼していることから、仮に原因について異なる結果が出た場合には、この協議は難航することも予想されます。

エアバック事故については、巨額の負担割合にタカタ社が耐えられないとして自動車メーカーが救済措置を講じるべきとの意見もあるようですが、(新聞記事にもあるとおり)安易な救済措置はホンダ社の役員にとって株主代表訴訟リスクを背負うことになりかねません。BtoCの企業にとって、重大事故が発生した場合には「安心思想」に基づくコンプライアンス対応が求められる時代です。ともかく社会からの要請に適切に対応する姿勢を示します。しかしそれが、法的な負担割合を超えるものとなりますと、免責されるべき理屈が求められます。

横浜の傾斜マンション問題のケースでは、販売元が「安心思想」に基づいて(本来ならば法的義務とは言えない可能性のある)全棟建替えに応じる予定です。もちろん販売元は施工主やその下請会社に対して応分の費用負担を求めることになるでしょう。しかし、マンション傾斜の原因が十分に判明しないまま費用負担に応じることは、施工会社や下請業者にとって法的にも躊躇せざるをえないのではないでしょうか(全棟建替えを基本として負担割合を決めること自体、下請業者等の株主に説明責任が尽くせるのかどうかは微妙です)。

コンプライアンスという言葉が「法令順守」から「社会の要請への適切な対応」と訳される時代になればなるほど、役員がコンプライアンス対応を全うすることと法的な善管注意義務を尽くすこととの距離が遠ざかる場面が生じるように感じます。いや、本来は遠ざかってはいけないわけですから、法律家は「企業のレピュテーションを守ることも経営判断要素になる」ことを善管注意義務との関係で検討する必要があると思います。

具体的な場面としては、株主から提訴請求を受けた監査役さんが、取締役の善管注意義務違反が認められるにもかかわらず、会社の利益に配慮して提訴を控えることの是非を論じる、といったことが想定されます。偽装メニュー事件において、レシートを持参してこなかった被害者にも補償する、といったような自社完結のケースであればまだ説明しやすいのですが、とりわけサプライチェーンコンプライアンスのように、他社の不祥事や重大事故を自社としてどう扱うべきか・・・といった問題への対応はなかなかむずかしいですね。

M&Aがさかんになりますと「企業の品質」という視点からは、個々の企業よりも企業集団(グループ企業)の信用が重んじられますが、これからはグループ企業を超えて、サプライチェーンとしての企業群自体の信用が消費者から重視される時代が到来するのかもしれません。サプライチェーンのグローバル化が進むと、専門家の手助けが必要となる場面もますます増えるはずです。ガバナンス・コードでは株式持ち合いが(資産の有効活用を毀損するものとして)問題視されていますが、紛争の未然防止や早期解決という点からみれば、ある程度の合理性もあるように思えます。

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2015年2月 6日 (金)

グループ間取引の公正性については役員の勉強が必要かも・・・

物流サービス事業を展開するロジネットジャパンさんが、(誰かによって)監査法人に告発されたことを契機として、同監査法人からグループ間取引の適切性に疑義を呈され、第三者委員会を設置したことを公表しました。最近は大手の監査法人さんを中心に通報窓口を設置されていますので、内部告発が監査法人さんに最初に届くケースも多いと思います。過年度開示の訂正が必要な事例について、最近は監査法人さんも躊躇なく企業側に疑義の解消を求めてこられますので、こういった事例は今後も増えるでしょうね。

企業集団の内部統制といえば、野村證券孫会社株主代表訴訟事件や福岡魚市場株主代表訴訟事件等を中心に、親会社による子会社不正の見逃し責任がイメージされることが多いようです。しかし、親会社の忠実義務の履行という面においても配慮が必要です。グループ会社との取引、関連当事者との取引においては、親会社取締役の利益相反取引、一部の関連会社のみ優遇する取引(アームスレングス・ルール違反)、親会社の利益確保の機会を奪ってしまう子会社取引、関連当事者であることを隠匿する粉飾リスク等、いずれも親会社取締役の忠実義務違反(善管注意義務違反)に該当するおそれがあります。子会社不正の問題ではありませんが、親会社自身に損害を発生させないように、親会社の取締役が企業集団としての内部統制を適切に構築することは、こういった親会社取締役の不適切な業務執行を排除するためにも必要です。

昨年12月24日、コンタクトレンズ大手のSEEDさんは関連当事者との不適切な取引について、外部委員会報告書を開示していますが、同委員会は、親会社取締役の法令に対する認識不足が長期にわたる不適切取引の放置につながったと結論つけています(この報告書は、親会社取締役が認識すべきグループ企業管理の法的義務についてきわめて丁寧に解説されており、とても参考になるものと思いますので、ご一読をお勧めいたします)。こういった関連当事者取引に関するリーガルリスクというものも、ふだんあまり意識されていない役員さんも多いかもしれませんので、法的責任と直結するものである以上、研修等で勉強しておいたほうがいいかもしれませんね。

SEED社の事例は、社長さんが最初に不正の端緒に気が付き、社内調査が開始されたという珍しい事件ですが、だからこそ自浄能力が発揮されたものと思われます(社長さんが気づくまでわからなかった、という意味においては内部通報制度が機能していなかった、ともいえそうですが・・・)。

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2014年3月24日 (月)

楽天市場二重価格問題と楽天の不正リスク管理の件

もうすでにいろいろなところで語られている楽天市場二重価格問題ですが、東京新聞ニュース日刊スポーツニュースなどによりますと、楽天市場に出店している店舗に対して、楽天社員が不適切な二重価格表示を指示していたことが報じられています。昨年のプロ野球楽天の日本一セールの際は、出店店舗側が勝手に不当な表示を行っていたとされていましたが、それ以前から楽天さんの社員によって二重価格が店舗側に推奨されていたそうです。ちなみに楽天側は、いまだこの事実は確認されておらず、「調査中」とのこと。上記記事からの推察ですが、今回の件が発覚した原因は、おそらく出店者側からの内部告発(マスコミに対する情報提供)によるものと思われます。

楽天さんは出店者に場所を貸している立場ですから、景表法違反という法令違反にはあたりませんので、この二重価格表示が景表法上の有利誤認に該当するかどうかは、あくまでも店舗側の問題です。詐欺罪という刑事法に該当するのであれば犯罪を教唆したことになりますが、ミートホープ事件における同社代表者が詐欺罪に問われたケース(有罪が確定)と比較しても、ちょっと詐欺罪の要件である「欺罔行為」が本件に認められる可能性は低いように思います。なので、楽天さんの広報が述べておられるように重大な内規違反があったかどうか、という点で社内調査が行われているものと思われます。

ただ、店舗側の売り上げが伸びれば楽天さんの手数料も増える関係にあるわけですから、日刊スポーツの記事にあるように「みんなやっているから」という理由で店舗側に違法行為を推奨するというのは(とうてい消費者の立場で事業を遂行しているとは言えず)重大なコンプライアンス問題です。このような記事が出た以上、楽天側としては、出店者側の言い分は間違っている(社員が不適切な表示を勧めた事実はない)、もしくは仮に社員側でそのような推奨事実があったとしても、これは社員独自の判断であって組織ぐるみの行動ではない、といった説明が求められます。この説明が十分な確証をもってできるかどうかが楽天さんの信用維持を目的とした有事の危機対応の核心部分になるはずです。

ところで、私は今回初めて知ったのですが、楽天さんの場合、楽天市場の出店者への指導を行うコンサルタント制度というのがある、ということです(「ECコンサルタント」というのですね。ちなみに元ECコンサルタントさんのブログというのも参考になります)。私はここにとても関心を抱きます。そもそもネットショッピングの二重価格表示というのは、出店者側としてはかなり誘惑的な販売方法です。楽天側に、このようにコンサルタントがいらっしゃるのであれば、常に「二重価格表示は違法なのかどうか」と店舗側から問い合わせを受けることが想定されます。不適切な二重価格表示など、昔から行っていた業者さんは結構多いと思いますし、誰でも「やれるものならやりたい」と考えるはずです。また、楽天側としても、二重価格表示によって出店者側の売り上げが伸びれば自社の収益向上にもつながります。したがって、楽天さんの店舗コンサルタント社員としては、違法行為の誘惑に負けないために、常にこのような質問に対する回答を用意しておくこと、誘惑的な回答に走らなかったことを示す証拠を残しておくことが普通に考えられるリスク管理です。

楽天さんとしては、こういった「言った」「言わない」の問題をはたして想定していたのでしょうか。想定していたとすれば、楽天さんの信用毀損を防ぐために、店舗側にどのような回答をされていたのでしょうか、また、(仮に適切な回答をしていたということであれば)それを書面やネット上のチェックシステムでどのように残していたのでしょうか。もしきちんと残していたとすれば、社員がどのように店舗側に対応していたのか、社内調査でも明らかになりますし、社員と店舗のどちらの言い分が正しいのか証拠をもって説明できるだけでなく、社内ぐるみの不正ではないことも明らかになります。楽天市場への出店店舗数が4万件ということで、ひとつずつ対応できるものではありませんが、せめて店舗側から相談を受けた場合だけでも、対応の記録を残していれば、十分なリスク管理が可能だったのではないでしょうか。

内部通報者の氏名を上司に公表したことについて、通報者の事前の承諾があったのか、なかったのか、その事実認定で敗訴が決定したのがオリンパス配転命令等無効確認事件の東京高裁判決(最高裁で確定)でした。会社側として、通常想定しうる通報者とのトラブルへの対応がなされていなかったことが致命的でした。今回の楽天さんの問題も、社内調査の際、単に社員が否定しているから「二重価格推奨についての社員の関与は確認できなかった」では誰も楽天さんの言い分を信用しないと考えます。やはり店舗コンサルタントという職種が楽天さんに存在する以上、当該社員には二重価格表示に関する質問がされることは十分に想定されるのですから、後日の出店者とのトラブルを回避するために、どの程度のリスク回避の手段がとられていたのか、そこが今後の報告の中で語られてほしいところです。

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2013年3月26日 (火)

米国反トラスト法刑事処罰リスクと日本企業の対応策

広島高裁で「選挙無効」という、日本の統治構造の上でものすごく意義のある判決が飛び出しました。各紙「号外」まで配信されているようですが、事情判決やら、将来効判決やら、凡そ普通の方々には理解しがたい言葉が出てまいりますね。民主政治の根幹に関わる重要判決なので、これは裁判官と一般の方の「橋渡し役」が必要なのですが、そういったことにあまり関心が向けられていないのはとても残念です。おそらく(いろいろな意味で)損な役回りは嫌がられるということでしょうか。さて、以下本題であります。

今朝(3月25日)の朝日新聞の朝刊トップで自動車部品カルテルで日本企業4社の日本人社員12名が米国で収監されている、といった「競争法コンプライアンス」の事例が掲載されております。日本で勤務している社員のところへ米国当局から召喚状が届き、企業の海外取引に支障が生じることを回避するために司法取引を行い、最後には召喚に応じることが報じられていました。リニエンシー制度がうまく機能していること、カルテルへの厳罰化が国際ルールとして定着してきたことの効果が大きいそうです(しかし朝日新聞の東京版には重要ポイントが掲載されているにもかかわらず、大阪版には掲載されていない、というのはいかがなものでしょうか・・・)。

ただ、この記事に書かれてあるところは、グローバル企業であれば(既に2011年頃からリスクは承知しているところであり)、あまり驚くほどのことではないと思います。コンプライアンス上の問題として重要なのは、リスクは承知していても、そのリスク管理の運用にどれだけお金と人を活用しているか、ということではないでしょうか。この記事の中で米国の弁護士の方が「一般論だが、日本企業の法務部門は社内の立場が低く、決裁のラインに乗っていないことも多い。権限と責任を持ち、知識もある法務部門が必要だ」と語っておられますが、これは結局リスク管理に十分な資源が活用できない、という事情を示しているものと思います。

これまで反トラスト法やFCPAでイタい目に遭ったことのない企業としては、法務部門の社内における地位向上がベストだと思うのですが、弁護士秘匿特権の構築、弁護士立会権への理解、リニエンシー(米国の自主申告制度はかなり負担が重いです)決定における経営判断、競争法に特化したコンプライアンスプログラム(平時対応と危機対応を分けることが必須)の運用、民事制裁金訴訟における証拠ホールド(プレディクティブコーディング)等を考えるならば、社外取締役や社外監査役こそ、海外不祥事案件のリスク管理の重要性を経営者に説得すべき立場にあるのではないかと。いわば経営者と法務部門との「橋渡し役」がいなければお金と人を競争法コンプライアンスにかけることはむずかしいのではないか、というのが実感であります。

この海外不祥事リスクとサイバー攻撃リスクとは、(橋渡し役がいなければリスク対策の必要性が実感できないものとして)とても類似したものではないかと、最近感じております。

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2013年1月 4日 (金)

コンプライアンスはブレーキではない(年頭のご挨拶)

皆様、あけましておめでとうございます。<m(__)m>本年も当ブログを宜しくお願いいたします。このブログが読まれる頃には、相当に明るい株式相場になっていることと思います。

正月休みに、昨年インサイダー規制の見直し(金融商品取引法の改正)の原因となりました公募増資インサイダー関連の第三者委員会報告書をいろいろと読み比べておりました。インサイダー取引規制がどう変わるか・・・という点への興味ではなく、むしろ「なぜインサイダー取引防止体制が整備された金融機関において、このような事件が発生したのだろうか」といった不正検査士的興味からであります。

金商法の見直しと関連して、賦課される課徴金の高額化や情報提供者の処罰化など、マスコミの話題はインサイダー取引規制の強化に集中しておりますが、当事者がなぜインサイダー情報を提供したのか、なぜ金融のプロがインサイダー取引を行ったのか、といった原因分析のところには、これまであまり関心が寄せられていないようであります。

一連のインサイダー取引事件に関与した当事者に、倫理規範、法規範意識が欠如していた、という個人的な要因が認められることは間違いありません。しかし、各報告書によりますと、個人的要因だけでは片づけられない原因が共通してみられるようです。

それは、「取引先との過度の信頼関係の形成」というものであります。たとえばSMBC日興証券の役員の事例も、元はSMBC時代の顧客との「私的な貸し借り」が発端ですし、三井アセット信託銀行のファンドマネージャー(2名)についても、取引先証券会社担当者との「親密な個人的つきあい」や「過度の接待、贈答品」です。なぜプロのファンドマネージャーが「これってインサイダー情報ではないのか」と気づかなかったか、というと、日常の親密なおつきあいの中で警戒感が失われ、インサイダー情報も、多くの取引の中に紛れてしまったので冷静な判断を欠いてしまったそうです(同社第三者委員会報告書概要、特別委員会報告書等参考)。

各社の再発防止策をみると、インサイダー情報の監視強化、携帯電話の会話記録化、社内での制裁強化など、いずれも営業戦略にとってはブレーキになりそうなものばかりですし、このたびのインサイダー規制見直しの内容も営業活動への萎縮効果が懸念されております。これではコンプライアンスはやはり事業活動にとってのブレーキだと言われても仕方ないかもしれません。

しかし、不祥事(インサイダー取引もしくはインサイダー情報の提供)をさかのぼって不祥事の芽にまで目を向けますと、今回の一連の公募増資インサイダー事件では、いずれも取引先との親密な関係を維持するために一生懸命になっていたビジネスマンの姿が浮かび上がります。営業戦略、事業戦略として、取引先と信頼関係を構築することは誰も否定しないところですが、ただ少しばかりの「ボタンの掛け違い」が生じてしまい、そこにインサイダー取引という誘惑が忍び寄ってきた、ということが核心ではないかと。

これはインサイダー事件に限らず、一般の事業会社でも同様のことが言えるものと思われます。規制を強化しても、顧客との向き合い方に問題が生じれば不祥事は起きるのであり、また規制が緩和されたとしても、取引先との関係に問題が生じなければ不祥事の芽は不祥事に発展することはないと思います。平時ならインサイダー情報だと冷静に認識できたにもかかわらず、取引先との情実によって心が曇ってしまった先の例をみれば、どこでも同様のことが起きるのではないでしょうか。会社の命運を分けるような事業戦略そのものを否定するような規制ではなく、その事業戦略の方向性に間違いがないかどうかを検証するのがコンプライアンスではないかと。

この一連の公募増資インサイダー事件の第三者委員会報告書では、もうひとつ、コンプライアンスはブレーキではないことを示す非常に興味深いコメントが共通して述べられていますが、これはまた別の機会に感想として書かせていただきます。

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2011年10月10日 (月)

「一次不正」の前に潜む「予備不正」と社内ルールの効用

何度も当ブログで取り上げておりますゲオ社の内紛劇ですが、昨日週刊ダイヤモンドの特別記事として詳細が報じられております(不祥事続出の問題企業ゲオお家騒動の全貌)。これまで報じられてこなかった背景事情なども含め、実におもしろいです。高橋篤史さんの「兜町コンフィデンシャル」に登場する「わけあり」会社の株式投資に関する話なども出てきて野次馬的にはワクワクしそうな内容であります。いよいよ臨時株主総会が目前に迫ってきましたが(10月13日)、いったいどのような展開になるのでしょうか(取締役が12名になってしまうのかな・・・)。東京の複数の大手法律事務所が、様々なところで関与されているそうですから、ものすごいバトルなのでしょうね。ちなみにゲオ社の社外監査役でいらっしゃるN弁護士とは某委員会で懇意にさせていただいているので、監査役の視点から、また(守秘義務に反しない範囲で)後日、顛末をお聞かせ願えれば・・・と(^^;;。

(ここからが本題でありますが)

私のオフィシャルな講演活動の履歴については当事務所のWEBページ「新着情報」に記載しておりますが、最近は(WEB上にはご紹介を控えております)個別企業さんのご依頼で講演・研修に伺うことが多くなりました(本業の繁忙期と重なり、だいぶお断りするケースも増えており恐縮なのですが・・・)。興味深いのは、一度おじゃました企業さんから二度目のお声掛けをいただく際、「今度は営業部門向けのものをやってほしい」「生産現場向けのものをお願いしたい」「技術開発部門向けのものはできますか?」といった、少し分野別のコンプライアンス対応についての講演ご依頼が多いことであります(あと、役員向け、幹部社員向け、一般社員向け、と3つに分けてご講演をお願いしたい、というご要望も多いです)。

こういったご要望にお応えしようとしますと、前に他社向けで使った資料を「使いまわし」することが困難ですので(笑)、自身の本業からの経験と、普段のお付き合いのなかで認識した事情、そして他社事例に関する第三者委員会報告書などを参考にして資料を一から作ることになります。そのような過程におきまして、営業社員や生産・技術社員の不正を検討するなかで、一般に社内不正として紹介される行動の前に、「予備不正」なる問題行動があるのではないか・・・ということが気になりました。

社内不正のなかで、不正発見がとりわけ困難なのが営業担当社員、技術開発担当社員の不正です。営業担当社員の不正は社外で行われることが多い点、技術開発担当社員の不正は聖域化した職場での専門的知見を要求されるなかで行われる点において、いずれも管理部門において不正が早期に発見できない共通点があります。したがいまして、コンプライアンス研修といいましても、企業倫理に重点が置かれたり、また不正発覚後の第三者委員会報告書の「原因分析」をみましても、「ノルマ達成の厳命によってストレスを感じていたため」とか「行政機関の検査を一回で必ず通すことが厳しく命じられていたため」といった、いわゆる不正の動機部分に焦点があてられたりします。

しかし、営業社員が架空売上計上のために書類を偽造したり、ノルマ達成のために架空循環取引に関与するのは、たしかに「売上目標のプレッシャー」からであることに間違いないのですが、仔細にみていきますと、小さなミスから顧客クレームを受け、これを取り繕うためであったり、取引先担当者との個人的な貸借関係から、新規の取引先の紹介を受け、その取引先の債権回収が困難になったことが原因であったりすることが多いようです。つまり小さな不正が先にあり、その不正を挽回しようとするうちに、犯罪に近いような大きな不正に手を染めてしまうということでして、その「小さな不正」の原因はといいますと、営業担当社員の場合は、取引先や同業他社担当者、顧客との不明瞭なお付き合い・・・ということが発端となっているように思えます。

また、技術開発担当社員の不正といいますと、代表的なのが「性能偽装」事件やリコール隠し事件でありますが、これも私の経験や第三者委員会報告書の記述などを参考にしますと、品質管理については非常に定評のある業界トップ企業で発生していることがわかります。性能偽装事件を起こすような企業だから、さぞや安全面を軽視している企業ではないか、との印象を持たれそうですが、実はそんなことはなく、他社と比較しても社内における安全・安心に対する意識が強い企業が多いと思われます。それだけ「社内における品質管理に関する要求事項が厳しく、プレッシャーが強い」ことだからこそ発生するようにも思えます。しかし、これも仔細にみていきますと、①行政機関の検査官よりも、当社のほうが安全技術に関するレベルは上である、②どっちみち、出口(出荷時)で行政検査よりも厳しい安全基準の検査をやるのだから意味がない、③長年チェックしているのだから、社員の勘に頼るほうが安全、手順は省略しても大丈夫・・・といった技術部門の認識があるため、「チャンピョン品で行政機関の検査を通すことも、一連の手順のひとつ」というのが常態化してきたところではないかと。

ステークホルダーとの信頼関係の構築、社内における品質管理の徹底ということは、企業価値の源です。しかし、裏を返せば「取引先との不明朗なおつきあい」「優秀な技術者としての奢り」につながるものでありまして、これは長所を伸ばそうとすればするほど、必然的に生じる短所ではないかと思います。これを「予備不正」と呼ぶことが適当かどうかは別として、そのまま放置することで、「一次不正」に発展するリスクが高くなるわけでして、「怪しい」と気づく者がいればよいのですが、そのような勘の鋭い社員が存在しない場合、そこに社内ルールの存在価値があるのではないでしょうか。

これは、あるシンポの終了後、当該シンポ登壇者の方からお聞きした話の引用ですが、アメリカのFCPA(連邦海外腐敗行為防止法)の取締強化が進んでいるなかで、なぜ司法省当局が企業の内部統制システムの構築を奨励しているかといいますと、営業担当社員が社内ルールに反する行動を行っている場合には、規制対象行為の故意を認定しやすくなるばかりでなく、社内ルール違反の事実を間接事実として、規制対象行為の事実を認定しやすくなるから、というものでした。ちょっとこの解釈はコワイ気もしますが、単に企業の内部統制システム構築が情状として斟酌されるだけでなく、犯罪事実の認定にも影響を与えるということもありうることは肝に銘じておくべきことと感じております。

さて、この社内ルールの効用はいろいろと考え付くところがありますが、本日は長くなりましたので、またの機会に詳細に検討してみたいと思います。

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2005年10月26日 (水)

コンプライアンス実務研修プログラム

朝から中間決算と下半期予算確定のための役員会に出席しましたが、なんとかお昼には京橋(ビジネスパーク)まで戻ってきまして、表記の研修会に参加してまいりました。第一法規出版さんの主催で、伊藤忠商事法務部のご出身、東京の大学の先生をされている方と、同じく伊藤忠の法務部ご出身で現在某企業の法務部長さん、お二人によるものです。新しい第一法規の出版物(企業法務関連)販売促進ということもあるようでしたが、30名程度の少人数の双方向型プログラムで、こういった研修は大阪では数少ないものですから、なんとか時間を作って4時間程度、勉強させていただきました。

なんか、私ばっかり質問させていただいておりましたが、印象に残った問題点がいくつかありました。西武鉄道の新入社員の「お墓参り」のお話。次第に、社員がトップに反論できないような状態に陥ってしまう社内の雰囲気といいますか、そういった社員になってしまう実態というものがあるんですね。これは現在でもいろんな会社でも同じような状況があるように思います。社員がコンプライアンス経営の精神を理解する、ということは到底難しいでしょうし、やはりトップの姿勢というのは不可欠の条件なんでしょうね。

行動規範は全社あげて作ること、決してどっかの「ひな型」を法務部が拾ってきて、これをモデルとして法務部だけで作らないこと。なるほど、行動規範を作る時に全社員に情報提供や規範の文言作成に協力してもらい、その策定の過程でコンプライアンスの重要性を全員で認識してもらうのが効果的、というお話。同じことは「改訂作業にも言える」そうで、できれば毎年のようにリスクの評価(当然、毎年企業リスクの重要性は変化する)を全社で行い、「改定」も全社で行うことにより、常時法令遵守の基本精神を喚起させることができるそうです。

内部統制システムの策定プランについては、平成15年6月の経済産業省「リスク管理、内部統制に関する研究会報告」と平成17年9月の同省「内部統制指針、中間とりまとめ」については同じ方向性での提言であるため、プラン策定にあたってはどちらも参考にできる、とのこと。

いちばん感心いたしましたのは、講師である某上場企業の法務部長さんが作っておられる社内イントラネット向きの「法務ページ」なるWEBページです。これ全国の社員がネットを通じて閲覧できるものでして、営業部門や経理部門など、部門ごとに参考となる事例をまとめたり、その業界特有の法律解説がなされていたり、政府の法律解説パンフレットをPDF化して、きちんと政府の承諾を得たうえで、各パンフの解説ページを「しおり化」して閲覧しやすいようにまとめられていたり。もう、その企業向けに至れり尽くせりの法務解説WEBでした。(そのまま市販化したら、たいそう売れそうなものです)社員の違法行為といいましても、故意のものから、過失のものまであります。こういったWEBは、おそらく広報することによって社員が犯しかねない「過失」行為を未然に防止するには非常の効果的なものなんでしょうね。ただし、どんなに立派なWEBページを法務部が作成しても「迷ったときには閲覧しよう」という社員の動機付けは必要だと思いますが(これが一番むずかしかったりするわけですが)

どうも、私のように会社勤務の経験のない者からみると、「法務部」というのは受身的な部署のようなイメージを持っていましたが、こうやってコンプライアンスという鏡で見ますと、かなり積極的な行動が目立ちました。いいですね、明るいイメージの「法務部」ですね。(実態はかなり厳しいものだとは思いますが・・・・・)講師の先生方、きょうはどうもありがとうございました。(こういった研修が連続モノだといいんですけど。。。)

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