中央青山と明治安田の処分を比較する
9月14日のエントリー(中央青山監査法人に試練のとき)の最後のところで、私はカネボウ粉飾事件よりも、もっと「足利銀行」事件のほうが大きな試練ではないか、と書きましたが、朝日の報道をみるかぎりでは、どうもそのような様相を呈してきたようです。
すこしだけ引用いたしますと、
中央青山監査法人の公認会計士が足利銀行の粉飾決算に関与したとされる問題が28日、衆議院の財務金融委員会で取り上げられた。参考人として招かれた中央青山の奥山章雄理事長に対して、委員から「カネボウ事件より重要な問題だ」「法人として責任を取るべきだ」と厳しい意見が相次いだ。奥山理事長は「監査がおかしかったとは聞いてない」と強調する一方で、足銀監査担当の会計士が足銀の融資先の顧問税理士に就任していた問題については、調査する考えを表明した。
カネボウ事件にせよ、足利銀行事件にせよ、刑事民事の差はありますが、まだまだ裁判による事実確定までは時間がかかりますので、金融庁の処分もまだ先のことかもしれません。とりあえず、現行商法特例法4条2項3号によって、現時点で監査法人自体が一部だけでも業務停止処分を受けてしまいますと、すべての企業に対する監査業務ができなくなってしまいますが、新会社法337条3項1号が施行されますと、とりあえずその業務停止の対象となっている当該企業の仕事以外の企業監査については、対象監査法人は(たとえ一部業務停止処分となりましても)通常どおりに業務ができますので、処分の効力だけでも来年5月1日以降になるのではないでしょうか。
ところで、金融庁の監査法人に対する業務停止処分といえば、平成14年10月15日に神戸市の瑞穂(みずほ)監査法人に対する「業務停止1年」の行政処分が前例です。結局、瑞穂監査法人はこの年の12月に解散することになりますが、カネボウ粉飾や足利銀行事件で、もし中央青山監査法人の処分事実が、社員の「故意による虚偽監査」ということであれば全く同一の処分事実となります。ということですと、金融庁は中央青山に対しても、業務内容にかかわらず業務停止1年の処分を下すことになるのでしょうか?社員数11名、法定監査企業数26社の監査法人と、社員数3400名、監査企業数800社の監査法人とはまったく異なる処分となるのでしょうか。
旬刊「商事法務1745号」の20ページで、法務省大臣官房参事官の相澤哲氏が、さきほどの会計監査人の欠格事由のことについて、新会社法の規定を説明されておられるのですが、その改正の動機として、「現行法の規律については、監査法人の監督官庁からも、業務停止処分の法的影響が大きい場合には、かえって当該処分をすることを躊躇する結果となりかねない、という監督の実効性の観点からの問題点の指摘もなされている」と解説されています。つまり、こういった金融庁の行政処分を行うときには、監査法人の大きさというものも、処分内容の軽重に影響があることを暗にほのめかしているわけです。しかし、なんか釈然としませんね。なぜ同じ行為をしたにもかかわらず、瑞穂は業務停止1年で、4大監査法人の場合は、業務停止処分にはならないといった対応が認められることになるんでしょうか。
おそらく法律的にみれば、この金融庁の処分は「行政行為」であり、かつ、その要件該当性の判断や、効果の判断に広く金融庁の裁量が認められる「自由裁量行為」に該当するものだからでしょう。つまり、処分に差異をもうけたことが「当、不当」の問題にはなっても「違法、適法」の問題にはならない、というわけです。まあ、一般的にはこのように説明されると思いますが、それでもなんか釈然としないものが残ります。たとえ法律が金融庁に広範な裁量を認めたとしても、その裁量を認めた趣旨を逸脱している場合にまで合法とは言えないはずでして、たとえば本件の場合には、4大監査法人とそれ以外の監査法人で、同じ内容の処分事実であるにもかかわらず、効果だけに差異をもうけることは「平等原則違反」になるのではないか、という疑問と、そもそも「社会の与える影響」を効果を判断する際の基準として使ってよいのか(そういった判断基準を法が予想していないのではないか)という疑問があると思います。したがいまして、私としましては、この瑞穂の前例がある限り、たやすく「業務停止」処分から中央青山が放免されると考えるのは、すこし楽観的ではないか、と考えます。
そこで、今後の金融庁の対応につきましては、今回の明治安田生命に対する金融庁の処分方法が参考になるのではないか、と予想されます。つまり、今後行政手続法による手続に則って中央青山の行政処分が検討されることになると思うんですが、おそらく個別の具体的な処分事実とともに、「審査体制」に照準を当てて処分事実が構成されるんではないでしょうか。つい2,3日前の報道によりますと、この12月までの間に、4大監査法人に対して、金融庁が立ち入り検査をすることが決まりました。いわゆる監査の品質管理と内部統制システムに関する調査が中心だと思われます。立ち入り調査によって4大監査法人の審査体制にどのような差が生じるのかは、やってみないとわからないかもしれませんが、おそらく4大監査法人において、極端な審査体制の差がみられないことや、今回の粉飾事件後の中央青山自身のシステム構築の努力などを勘案したうえで、比較的穏当な処分が下されることになるんでは・・・・と思ったりしております。おそらく瑞穂監査法人の場合には、処分までの期間において審査体制の改善が図られなかった(だからこそ解散せざるをえなかった)が、このたびの中央青山に対しては、著しく審査体制の向上がはかられている、ということであれば、その処分の差というものも「合理的」とみることもできそうです。
いえ、私は公認会計士でもありませんし、また監査法人の内容につきましても、それほど情報をもっているわけではありませんので、処分が厳しいこと、軽いこと、どちらかへの希望というものも持ち合わせてはおりません。ただ法律家として、規模の大小が、行政行為の裁量判断に影響を与えるものであり、したがって処分内容に影響を与えてもいいのかな、といった素朴な疑問を自分なりに解決してみたいといった欲求が存在するだけであります。私自身の問題点の把握が間違っていたり、法律解釈におかしな点がありましたら、また忌憚のないご意見を頂戴したいと思います。
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