(本エントリーはビジネス法務とは関係ございません)いよいよ最終週となった朝ドラ「虎に翼」。ラスト4分の1を経過した時点から視聴率が伸び悩んでおり、「朝から難しい話題はちょっと」「展開が早すぎてわかりにくい」と敬遠された方も多かったのでしょうね。ただ、私にとっては「大ヒット作」であり、記憶に残る朝ドラとなりました。左は昭和48年4月4日の朝日新聞(夕刊)の一面です。尊属殺人被告事件3件が併せて最高裁大法廷で判決が言い渡されたことが報じられています。
9月25日のドラマでは、尊属殺人重罰規定の違憲判決(それまでの判例を変更する判決)が最高裁大法廷で下される日(昭和48年4月4日)を迎えることになりますが、どこまでリアルに描ききれるのか、とても興味があります。憲法や刑事法に詳しい方ならご存知のとおり、15名の裁判官で構成される大法廷は、刑法200条(尊属殺重罰規定)の合憲性について3つの意見に分かれます。最高裁長官を含む多数意見(8名)は「刑法200条が普通殺のほかに尊属殺という特別の罪を設け、その刑を加重すること自体はただちに違憲とはいえないけれども、その加重の程度があまりにも厳しい点において同条は(不合理な差別であり)憲法14条1項に違反する」というものです。
違憲という結論は同じでも、別の意見(6名)は、(いろいろ細かな意見の違いはありますが)尊属殺人について、普通の殺人罪と区別して重罰規定を設けること自体が憲法14条1項に違反する、というものです。また、尊属殺重罰規定は合憲として反対意見を述べておられる裁判官もおられます。つまり松山ケンイチさん演じる最高裁裁判長は多数意見に与するものでありますが、朝ドラをこれ以上難しくしないために、おそらく裁判官全員一致で6名の少数意見(リアルの裁判)が多数意見として述べられるのではないか・・・と推察いたします。本当の最高裁判決をそのまま参考にするとなると、ドラマ的にはやや問題を残す(視聴者のスッキリ感がない)ようにも思えるのですよね(ただ、そこまで描くとなればスゴイのひとことかと)。
なお、尊属殺人重罰規定(刑法200条)が刑法から削除されたのは平成7年の法改正の時点、つまり刑法が口語体に改正された時点です。それまでは六法にも普通に尊属殺規定が残っておりました。
思い返せばドラマ第1回の冒頭シーンで、寅子が川原で「第14条 法の下の平等」という(新憲法を紹介する)新聞記事を読みながらポロポロ涙していましたが、こうやって最終回間近で完結するのはお見事。しかし、あらためて上記昭和48年判決を読み返すと、被告人が父親から蹂躙され続けてきた事実はドラマで述べられていたとおりであり、よくここまで朝ドラで厳しい現実を描いてきたなぁと感心します。ちなみに朝ドラファンの私は「虎に翼ロス」に陥ることもなく(?)、すでに「おむすび」のロケ地(神戸・王子動物園近くの商店街)に足を運んでまいりました。