新会社法と「会計参与」の相性
都市銀行の中小企業向け融資の際に、「会計参与」が関与して計算書類が作成されている場合には金利を優遇するといった報道がなされたり、法律会計雑誌でそろそろ特集記事が組まれたりしておりますので、このブログをご覧の皆様も新会社法で規定されている「会計参与」について、すでに勉強されていらっしゃる方も多いと存じます。機関設計のなかでは、会社の組織形態によりましては、必ず設置しなければならない、といった機関ではなく、どのような形態でありましても、任意で設置が可能な機関ですので、いわゆる「機関設計は何通りです」といった仕分けの紹介のなかにおきましては、別枠で説明されるケースも多いようですね。会計監査人と違いまして、会計参与は会社の役員ですから(新会社法には条文のなかに「役員」という言葉が何度か出てきます)会社の意思決定や執行行為に関与することになります(計算書類は取締役と共同で作成しなければなりませんし、会計参与の場合、会社の計算書類の承認を行う取締役会には出席義務が明文化されております)。
この「会計参与」。どうも葉玉検事さんのブログ風に申し上げると「オトナの事情」によって成立したような規定に思えます。(ちなみに、このあたりの事情は、磯崎さんの「お笑い会計参与」をお読みになると、たいへん興味深く笑えます)皆様は、この会計参与について、理解されていらっしゃいますでしょうか。私には、どうも理解できない点がいくつかあるんです。このブログは会社法立案者のものではなく、場末の弁護士ブログでございますので、もしご理解いただいている方がいらっしゃったら、こちらが教えていただきたいと思います。
1 会計参与と取締役の意見が合わないとき、計算書類はどうなるのか?
株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければなりません。(会社法432条1項)ところで、ある株式会社が定款を変更して会計参与を導入したとします。会計参与は、取締役と共同して計算書類を作成しなければなりませんので、(会社法374条1項)もしその計算書類作成にあたって、取締役と会計参与の意見が合わない場合には計算書類は出来上がりません。(一問一答新会社法 相澤哲編著 136ページ)しかし「適時作成」ということからすれば、なんとか計算書類を完成させなければなりません。そこでどうするか?
上記一問一答新会社法では、①会計参与はその段階で辞任する、もしくは②会計参与は辞任せずに、意見を異にした事項等について株主総会で意見を述べる、といった対処法が書かれております。しかし、いかにも歯切れが悪いですよね。たしかに、会計参与が自ら辞任してくれれば、仮参与の選任とか後任選任のための臨時株主総会ということも考えられるでしょうが、辞任しなかった場合のことも検討しておかないとマズイのではないでしょうか。だいいち、会計参与は会社との間では委任の関係に立ちますので、(会社法330条)自ら正しいと思って、取締役と異なる意見を述べているのでありますから、混乱を回避する目的で辞任するというのは、逆に信認義務違反に問われる可能性がありませんかね。会計士さんも税理士さんも、たとえ会計指針が存在しているとしても、かならず意見が一致するとは限らないでしょうから、こういったケースは「辞任」をためらいなく選択する、ということだけを想定しておくのはマズイように思います。それでは、つぎに②の対処方法で解決するでしょうか?ここにいう「総会で意見を述べる」というのは定時総会という意味でしょうから、そうしますと、定時総会において計算書類は出来上がっていると言えるのでしょうか?かりに出来上がっているものと評価できたとしましても、株主は会計の専門家の意見を重視するために会計参与を選任したにもかかわらず、その会計参与が反対意見を述べている計算書類に「承認の決議をする」というのは、どんなもんでしょうか?もし公開会社において、このような事態が発生した場合には、かなり混乱が予想されませんかね。(このあたり、先の一問一答新会社法の解説では、まだ株主総会の時点では計算書類は出来上がっていないと評価されている「ふし」がありますが、どうにもこうにも説明が不明でありまして、これで理解できる方がいらっしゃったら、まさに「ミスター会社法」と評価してもよいのではないでしょうか)こうなりますと、一番わかりやすいのは、取締役と会計監査との意見が合わない場合に、会計参与に辞任の自由があるというだけでなく、辞任義務が発生する、といった構成にもっていくのがスッキリするのではないでしょうか。ただ、その法律上の根拠についてはまだ思案中であります。
2 「会計監査人」「会計参与」ダブル選任の妙味
会計監査人は外部専門家による会社の機関、会計参与は役員としての会社内部の機関なので、当然のことながら、会計監査人が存在する株式会社は会計参与も選任できます。また、現時点での(会計監査人の管理体制として)金融庁の見解では、監査人の交代については監査法人の5年交代までを要求するものではなく、同じ監査法人内での公認会計士の5年交代はオッケー、というスタンスをとっています。ところで、このスタンスが通用するのであれば、同じ監査法人が一人の公認会計士を「会計監査人」として、もう一人の会計士を「会計参与」として、特定の公開企業に送り込むというのはどうでしょうか?企業にとっても、会計監査人の所属する監査法人の会計士から財務コンサルを受けることができますし、計算書類作成にあたっては、会計監査人との連携もスムーズに進むはずですし、費用面さえクリアできれば検討に値するのではないでしょうか。また、監査法人側としましても、監査とコンサルの同時依頼が禁止されているルールを実質的には免れることになり、また報酬面でも美味しいのではないか、と考えてしまいました。昨日のエントリーで、私は今後20年間にわたり「会計の時代」がやってくる、と申し上げましたが、こういった仕組みなどを有効に利用して、会計士さんの商売の域が広がるのではないかな・・・と思ったりするわけですが、やっぱり「潜脱行為」はマズイでしょうかね。
(11月17日午後 追記)
きょう、事務所に届いた「商事法務1747号」の記事により、日本公認会計士協会と日本税理士会が、会社法施行に向けての「会計参与」の行動指針を示すための検討会を設置したことを知りました。(委員長は弥永真生 筑波大学教授) 商工会議所、金融庁、法務省、中小企業庁などもオブザーバーとして参加され、近々出される法務省令などにも配慮したうえで、来年3月ころに「行動指針」を発表する予定だそうです。中小企業会計指針を利用する際の指針だけでなく、会計参与がその職務を遂行するうえで参考とすべきことについても示されるようです。(でも、発表はずいぶんと施行日直前になっちゃうんですねぇ・・・・・Σ(^o^;) )
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