2007年6月22日 (金)

「会計参与」はなぜ普及したのか?

きょう(6月21日)の日経夕刊の一面に「会社法新制度、中小が活用」といった見出しとともに、会計参与を起用した企業数が1000社を超えたようだ・・・との記事が掲載されておりました。就任された会計参与の方々の保有資格では、8:2=税理士:会計士とのことでして、まずは税理士(税理士法人)さん方のご尽力が会計参与制度の普及に大きな役割を果たしていることは否めないところではないかと思われます。しかしあれだけ新会社法施行前後におきまして、ある意味「利用されるのかどうか、不安視」されていた会計参与制度が、なぜ1年でこれほどまでに普及したのでしょうか?(そういえば、磯崎さんの「お笑い会計参与」のエントリーを想い出します。私はこの時分には、大変失礼ながら、まさか1年でこんなに会計参与が利用されるとは思っておりませんでした。)

そもそも「会計参与」といった制度が、税理士法人や税理士さんにとって魅力的なものなのかどうか、施行当初は疑問があったと思います。記帳代行や決算書作成業務と比較して、それに付加される報酬と比較すると、会計参与については第三者責任など負担すべきリスクが大きすぎるのではないか・・・といった感想を聞きました。しかしながら、この5月にも改訂されました「会計参与の行動指針」によりまして、ずいぶんと責任の範囲の明確化とか、業務手順の画一化とか、(このブログでも一時話題となりました)取締役との計算書類の共同作成作業がうまくいかなかったときの対処法とか、そういった指針の制定によって責任負担リスクがかなり低減されてきたことが、普及につながったのではないかと思われます。それと、もうひとつ、税理士さん方の業務内容がずいぶんと様変わりしてきたことも原因のひとつではないでしょうか。昔ながらの記帳代行、計算書類作成といった業務だけでなく、顧客企業さんの経営計画までコンサルティングされる方が増えたように思います。そうなりますと、顧問税理士といった立場をさらに進めて、その企業の役員として経営に参画する、といったことにも関心を寄せる方が増えてきてもおかしくないと思われます。たしかに、20年ほど前に商法改正の議論のなかでも、「会計調査人」とか「会計指導人」といった、会計監査人制度に類似した商法上の機関制定が議論され、そこでは税理士さん方が監査や会計の世界に登場する機会が検討されていたわけでありますが、やはり現代ほど顧客と税理士事務所とのIT革命が進んでいない時代でしたので、記帳代行業務を飛び越えて、コンサルティング業務への意欲といったものも今ほどではなかったのではないでしょうか。

いずれにしましても、金融機関さんと中小企業さんとのおつきあいのなかで、会社に会計専門家がいらっしゃるということが、その関係を円滑にする役割は重要だと思いますし、直接金融(株主、一般投資家)→会計監査人、間接金融(銀行)→会計参与といった図式を基準として、企業の開示制度の信頼性が高まることになりますと、棲み分けもスムーズに維持されることになりますので、今後もますます「会計参与」制度の有効活用は進むのではないか、と思っております。ただし上場企業でさえ、これだけいろんな会計不正事件が発覚する世の中ですから、現実の問題としまして、いくら責任限定契約を締結されていらっしゃるとしても、就任時までのおつきあいのなかで、信頼関係を結ぶに足る企業かどうかを見極めていかないと、トラブルに巻き込まれるリスクも増えていくんじゃないかと思います。私の身近なところにはいらっしゃらない「会計参与」に関するエントリーですんで、私の推測による根拠を示しただけでありますので、また実務上からの有益なご意見、ご経験をお持ちの方がいらっしゃいましたら、いろいろとご教示ください。

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2006年2月28日 (火)

会計参与の行動指針パブコメ案

新会社法によって新たに導入される「会計参与」の行動指針案が日本公認会計士協会と日本税理士会連合会より合同でリリースされました。(会計参与の実務指針公開草案

会社法の規定に基づき作成された会計参与の行動指針(概要)としましては、その33ページに記載されているフローチャート図が参考になるところです。とりわけ注記事項についてはなかなか興味深いところですね。ただし、これまでに私が疑問を呈しております問題(会計参与が辞任せず、計算書類につき、取締役との計算書類の共同作業が困難な場合、いったい計算書類の確定はどうなるのか・・・)といった疑問点につきましては、依然不明瞭なままだと思われます。(この疑問点の整理および解釈上の試論につきましては、従前のエントリー「会計参与の悩ましい問題への一考察 をご参照ください)またこの問題の整理は、「新・会社法100問」の77番目の問題および解説にすこしばかり掲載されております。

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2005年11月18日 (金)

「会計参与」の有効利用を考える

昨日は、会社法と会計ネタが融合したせいでしょうか、ブログ開設以来、はじめて一日2000アクセスを超えました。このような場末のブログをたくさんの方に閲覧していただき、厚く御礼申し上げます。ただ、これからも「アクセス数」は気にせず、企業価値研究マニアに喜ばれるような内容で一貫した「インディーズブログ」を目指しますので、ゆるりとおつきあいください。

といいつつ、まだ昨日のエントリーを引きずるわけでありますが、東京横浜会計事務所のv6spiritさんのコメントで一蹴されましたように、同じ企業に会計監査人と会計参与を、同じ監査法人から別の会計士を選任させてはどうか、という妙案につきましては、限りなく自己監査に近づいてしまうということで、冷静に考えてみると、やはり私の案に無理があったかもしれません。しかしながら、この「会計参与」という制度、昨日紹介させていただいた磯崎さんの「お笑い会計参与制度」の中で記事として掲載されていたように、どういった制度なのか日本の著名商法学者からも「わからない」と切り捨てられてしまっては、実もふたもないわけでして、なんとか会計参与制度に魂をこめるような有効利用はないものか、いま一度考えてみたいと思います。

そこで本日考案したのが、会計監査人国家権力擬制理論であります。(なんだか、ドクター中松氏になったような気分ですが)8月に、中央青山監査法人のカネボウ粉飾関与事件関連のエントリーで自論を述べさせていただきましたが、たしかに企業と監査人の癒着を防止し、客観的な適正・不適正判断を可能とするためには、会計監査人に国家権力を付加してしまうのが理想的、との意見に対しまして、民間の独立専門家が、突如権力をもつことの「おそろしさ」については、強く危惧するところであります。そこで、会計監査人の不正監査の動機、原因を取り除き、かつ会計士、税理士などの会計専門家の実力主義世界を実現するために、この「会計参与」制度を利用してはいかがだろうか、と思う次第であります。

具体的には、(ここでは公開企業を想定しておりますが)、自己監査が疑われないように、会計監査人と別の監査法人もしくは税理士法人の会計専門家が会計参与として株主より選任されます。それで、なにを目標とするかといいますと、その企業の監査方針の平準化、普遍化をはかるわけです。すくなくとも、会計監査人の交代によって、短時間で監査要点が客観的に理解しうる程度に平準化を行い、(補助者の期間を含めても)3年程度で会計監査人が交代しても、その監査に支障が出ない程度の平準化作業を会計参与が担当するわけです。

メリットとしましては、企業と会計監査人との癒着といいますか、情実による監査の可能性は少なくなり、純粋な第三者的立場で監査を行うことが期待できるところです。また、企業にとりましても、計算書類の作成と報告までの間に、2名の会計専門家が関与することになりますので、これまで困難であった専門家の能力を評価する機会となります。実際の現場でみられるような、なんでも会計士さんのおっしゃる指導に従う、という風潮もすこしばかり変わり、事後規制的な適法性確保にも役立つのではないでしょうか。また、作業の平準化がはかられますから、企業と会計監査人の信頼関係が破綻した場合にも、比較的容易に別の会計監査人に依頼できるのではないでしょうか。加えて、ふたりの会計専門家が関与することで、ある程度レベルの高い監査業務も期待できるところです。

いっぽうデメリットとしましては、やはりコストでしょうね。でも、実際に会計監査人による監査が会計参与の関与によってかなり楽になるでしょうから、ひとりあたりの単価は低くなる可能性はあります。

どこからこういった発想が出てきたのかと申しますと、破産開始決定の申立を行う代理人弁護士と破産裁判所の関係からであります。たくさんの負債を抱える人が、破産開始決定を受けるのは、本来ならば非常にたくさんの資料と聞き取りが必要になります。もし、裁判所が申立人個人と直接向きあうのであれば、騙されて破産開始決定を出した場合に債権者から責任を追及されてしまいますし、人生は千差万別であって、この個人がいったい、どの類型によって破産要件を満たすのか、という点を逐一判断していては裁判所はパンクしてしまいます。そこで、中間に代理人弁護士を媒介させますと、裁判所は自らの責任は免れ、要件該当性の判断事由は弁護士に平準化させて、短時間に重要な部分だけを精査すれば判断の過誤は防げます。もちろん判断の公正さを疑われることもありません。こういった制度を会計監査にも応用できれば、普段会計や税務に携わっていらっしゃる専門家の方が、会計参与となって、財務コンサルタント的な支援を行うことで付加価値を上げることができますし、その実力を企業に評価してもらう良い機会にもなります。

勝手なことを述べさせていただきましたが、すでに会計監査人の品質管理基準なども出てきておりますので、現実の流れとは整合性に疑問もありますが、せっかく会計監査人と同時に会計参与を選任することも構わないわけですから、会計監査人の公正さをアピールするため、会計参与としての会計専門家の実力をアピールするため、そして企業の財務情報の信頼性の高さをアピールするために、ぜひ会計参与活用方法を真剣に検討してみてはいかがでしょうか。

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