2005年11月19日 (土)

構造計算書偽造と企業コンプライアンス

(11月20日 昼 追記あります)

すでに広く報道されておりますが、マンションの建築確認申請の際に、設計対象物の耐震構造の安全性をチェックする建築事務所が構造計算書を偽造した問題について、若干意見を述べてみたいと思います。(なお、下記意見は、私が大阪地方裁判所で現在係争中の建築設計会社相手の裁判とは一切無関係のものでありますので、念のため)

まず、このたびの問題でもっとも厳しい状況にいらっしゃる入居者、ホテル事業者の方々へ謹んでお見舞い申し上げます。阪神大震災で私が(たった1週間程度ですが)ボランティア活動をしておりましたとき、あの西宮地区で全壊マンションと「ビクともしていないマンション」が混在している風景は異様でした。西宮の建築課に聞くと「耐震構造検査を受けた家屋と受けていない(ころに建設された)家屋」の差である、と説明を受けました。現在入居されているマンションが耐震補強で済むものなのか、建て替えを要するものなのかは、いまだ不明でありますが、ご心中察するに余りあります。

法律関係の詳しい説明は、建築紛争に詳しい先生方のブログやHPで公開されるものと思いますが、私のブログの性質上、すこしばかり企業コンプライアンスという面から問題を提起させていただき、ご覧の企業法務担当者の方にお考えいただきたいと思います。なお、このブログは11月19日午後6時現在での報道に基づくものであります。

構造計算委託事務所(姉歯建築事務所)の代表者は、すでに構造計算書の偽造を認めており、その委託先である「イーホームズ株式会社」と「株式会社東日本住宅評価センター」について焦点をあててみたいと思います。ご承知のとおり、この2社は、今回の偽造計算書を姉歯事務所から持ち込まれ、その耐震性の検査を行った民間会社であり、どちらも問題なし、と評価した会社であります。いずれも、政府の規制緩和(小さな政府)政策のもと、本来は公共団体が行っていた検査作業を、国からの指定を受けて行う会社であり、イーホームズは独立系の民間会社としてははじめて指定を受けた会社で、東証マザース上場準備中の成長企業であります。一方の東日本住宅評価センターは、社員規模こそ、イーホームズとほぼ同一であるものの、出資者は超大手企業が軒並み名前を連ねている優良企業であります。

姉歯建築事務所より構造計算に関するプログラムを交付され、その検査を行った経緯はぼぼ同じと考えられ、すでに両企業からは、以下のように今回の問題についてコメントが発表されております。(イーホームズのほうは、アクセスが非常に込み合っており、リンクが困難かもしれません)

  イーホームズのコメント         東日本住宅評価センターのコメント

ところで、今回の「構造計算書偽造問題」、いったいどういった経緯で判明したかといいますと、イーホームズの内部監査から、ということのようです。イーホームズが何度か調査を行った結果、構造委託事務所の偽造が発覚し、国土交通省へ報告をした、というものであります。いっぽう、東日本住宅評価センターは、国土交通省からの調査依頼があるまで、こういった偽造が行われたことは気づきませんでした。自らの責任問題が発生することを承知のうえで、あえて公表に踏み切ったイーホームズ、まったく気がつかなかった東日本住宅評価センター、コンプライアンス・オフィサーとしての立場から言えば、前者のほうが適切でありかつ、技術という面でも信頼性が高いと評価していいにもかかわらず、現実の報道は、皆様ご承知のとおり、「イーホームズへの非難」で終始しております。

さて、この差はいったいどこからくるのでしょうか?企業リスクに対する評価、問題発生時のマスコミへの対応、企業の社会的責任の表明方法など、おそらくどこの企業でも将来起こりうる問題のために考えておかなければならない問題がたくさん詰まっているように思います。ひとつだけ、現状での感想を述べるとすれば、「民」が「官」を怒らせたり、ケンカをいどむのは最後の手段として残すべきであり、最初から「官」を追い詰めるような言動を「民」が行うことは、企業にとって非常に不利です。そのあたりの初期対応において「イーホームズ」に不適切なところがあり、またなんといっても、コメントに「被害者と思料される方がた」への思いやりが欠けているのではないか、という点も、どんなものかと思わせます。せめて今後、原因調査と入居マンションの耐久性調査に最大限の努力をします、と誓約してほしかった。

この問題は、いろいろな答えがあっていいとおもいますし、とりわけ企業コンプラに携わる方に検討をしていただきたいと思います。(なお、取り上げました情報に誤りがございましたら、ご指摘ください。訂正させていただきます)

(11月20日 午前11時半追記)

イーホームズのHPによりますと、19日午後の会見内容ということで、コメントが補足されております。やはり、自社には過失はない、ということを詳細な法的根拠によって説明されておられるようです。関連の建築基準法、基準法施行令、施行規則を確認してみましたが、(かなり詳しく条文を精査したり、対応した表を精読してみないとわかりにくいかもしれませんが)上記説明には、ある程度イーホームズによる主観的判断も含まれております。また、検査機関は、国から許可を受けて営業しているわけですから、(許可営業の条件として)遵守すべきは建築基準法、施行令、施行規則だけではなく、国土交通省大臣告示(技術基準)や建築士学会規約などの関連条項の遵守も条件になっているはずです。そういった点こそ、問題になるはずでして、単なる「過失の有無」ではなく、まさに「任務懈怠」があったかどうかが、問題になろうかと思います。

11月 19, 2005 構造計算書偽造と企業コンプライアンス | | コメント (2) | トラックバック (7)