2005年12月 1日 (木)

楽天・TBS「和解」への私的推論

1ヶ月半の攻防の末に、楽天とTBSが業務提携の道を模索するため、「和解協議入りに合意」されたようであります。三枝会長と堀江社長の固い握手、のようなものはなく、双方個別に記者会見に応じたところをみますと、まだまだこれから「協議」が開始されるといった程度の「覚書」締結だった、ということでしょうか。

私も、大阪弁護士会の民事紛争処理センターで、すでに4年ほど調停斡旋委員を務めております。(正確には示談斡旋人)この調停斡旋という職務はけっこうスキルを要します。私も就任当初は両当事者の言い分を聞いているうちに、「これは要求に開きがありすぎて無理やわぁ」とすぐに投げ出してしまい、調停不成立で終わらせてしまったケースが多かったんですが、いろいろと当事者の言い分を聞く「コツ」を習得するに至りまして、ここ7件ほどは連続して「和解成立」に持ち込んでおります。簡単にスキルを説明するのもムズカシイのですが、①当事者の話を納得するまで、とことん聞いてあげる。悩みがあれば、当事者と同じレベルで悩んであげる、解決策を真剣に考える姿勢を見せてあげる②どっちの言い分が裁判では認められやすいか、法律論が通りやすいか、証拠や判例などをきちんと調べてあげて、双方に「中立第三者」としての立場での意見をはっきりと示す③譲歩することが、一方においては絶対に無理な部分と、それほど無理とは思っていない部分を整理して、その組み合わせを検討する(つまり、一方が勝ったと思って重視しているのに、相手はそれほど負けたと評価していない譲歩ポイントがあれば、それを有効に活用する)といったあたりでしょうか。あとは、和解をすることで、双方が勝者になれる、といったイメージをうまく説明するのも、調停斡旋の妙味かと思います。

そこで、このたびの楽天とTBSによる「和解協議入り合意」の評価でありますが、いろいろなブログで意見が述べられているようでして、楽天の一方的な敗北とか、これからが勝負とか、論じておられる方も多いようです。しかし、この合意に至る直前に、双方の臨時取締役会で「和解協議入りに合意すること」に対する決議がなされているわけですから、双方とも、合意に至ったことを株主に説明がつくもの、と判断しているわけです。つまり「WIN-WIN」の関係でとりあえずは休戦協定が締結された、というところではないでしょうか。

  楽天がTBSのホワイトナイトになる

それではなぜ、双方勝利、といったことで説明責任を尽くすことができるのでしょうか。(すくなくとも私的には)ここでは「みずほコーポレート銀行による和解仲介」が重要なポイントになると推論しております。「貸し株」や「株式の信託」といったテクニカルな部分につきましては、誰かが考えれば容易に利用できるスキルかと思いますが、M&Aやアライアンス戦略に強いMIZUHOの登場は、来年以降の外資による企業買収対策を念頭においた双方企業の和解(少なくとも事業提携、あわよくば事業統合)のポイントになるはずです。いわゆる「災い転じて福となす」作戦です。TBSは、放送法の改正問題こそあるものの、外資による買収対象となる可能性があることはご承知のとおりです。ここで体力を使い果たすよりも、楽天に一定株を保有してもらっておきながら、事業提携によって企業価値を高めることは得策ですし、またMIZUHOの情報力をもって、防衛策に活用することができるのであれば、現時点における和解協議入りへの譲歩としては首肯しうるところであります。いっぽうの楽天におきましても、「事業提携→事業統合の可能性」といったスタンスを内外に示すことによって買収費用の予想がつきにくくなることから、外資対策になりますし、今後TBSへの第三者による買収攻撃が発生した場合(TBSが窮地にたった場合)には、ホワイトナイトとなって、希望通りの通信と放送の融合を図れるチャンスが到来いたします。ただ、そういった希望的観測だけでは、たしかに株主への説明責任を尽くすことはできないでしょうが、ここにMIZUHOによる「戦略面での価値ある情報」を入手することができる、という特典がありましたら、今後TBS株式の議決権を凍結してでも、譲歩して「事業提携」の成果を作っていくメリットは出てまいります。つまり、来年以降「不確実だが、どちらかの企業に起こりうるリスク」を回避するために、MIZUHOが介在することによって、どちらかの最悪のリスクを救済し、かつもう一方が、譲歩以前の自社の要望を貫くチャンスを与えられるといった構図が成立いたします。また、この和解協議入りの合意にMIZUHOが絡むことによって、今後の銀行収益の目玉とも言われている投資銀行業務への大きなステップがMIZUHOに生まれることとなり、これはまさに昔の近江商人の「三方よし」の精神を描いた和解内容といえるのではないでしょうか。したがいまして、この「三方よし」の精神を実現するためには、報道記者の前で「にこやかに握手」といったパフォーマンスを演じるのではなく(フジテレビ・ライブドアの場合と異なり)、TBSと楽天はさまざまな事業提携の具体策を実現し、公表するといったパフォーマンスが要求されるものと予想しております。

新聞報道では、みずほコーポレート銀行は、双方企業の取引先であり、このまま話がこじれてしまうと、取引先を失う可能性があるから、とか、三木谷社長の先輩だからなどと「もっともらしい」言い訳で仲介役を果たしたような論調が目立ちますが、そんな理由からでは和解協議入りの合意について、株主への説明責任を尽くせないと思われますし、合意に至る動機にはならないのではないでしょうか。そこには、やはり「投資銀行」としての重要な役割が潜んでいるからこそ、双方が合意に至った動機が生まれたものだと推測しております。

なお、上記のお話はすべて、(調停斡旋委員としての経験に基づく)私の空想による推論でして、事の真偽は不明であります。もし、まったく事実が異なっておりましても、「あほんだら!ウソばっかコキやがって!」と非難されませぬよう、お願いいたします。(昨日のアクセス数2143 どうもありがとうございました)

12月 1, 2005 楽天・TBS「和解」への私的推論 | | コメント (5) | トラックバック (2)