2005年12月 4日 (日)

敗軍の将、「法化社会」を語る

今週の日経一面では「法化社会 備えはあるか」と題する記事が連載されています。また、NBL12月1日号では、巻頭記事として久保利弁護士が、「企業法務と法曹の2007年問題」のなかで、再来年に到来する弁護士大増員時代と「法化社会の現実と未来」について解説をされています。最近、このような法律家(弁護士、司法書士、行政書士など)の数が増大することによる企業のリーガルリスクに警鐘を鳴らすような記事をよくみかけます。たしかに、5年後には法曹(弁護士、検事、判事)だけでも年間3000人を輩出することになるわけですから、我々弁護士としましても、「パイの取り合い」への危機感がないと言いますとウソになります。ただ、増員問題がそのまま企業社会へ大きな影響を与えるかどうかといいますと、私個人としては、あまり切実なイメージを抱いておりません。

私は3年前、大阪弁護士協同組合の業務改革委員会委員長に就任しまして、毎年2回ほど大阪商工会議所と共催で「法律講演会」を開催し、その責任者をしてまいりました。そして、この10月に、商工会議所への3年越しのアプローチで、ようやく私のかねてより構想しておりました「弁護士と商工会議所会員企業とのお見合い会」が開催される運びとなりました。弁護士側から、みずからの関心分野や、経歴などをアピールしてもらい、企業さんとのつながりを深めていただき、その業務拡大を支援する目的で開催したものです。弁護士会でも話題になりました。「お見合い会」終了後に大阪商工会議所側の参加企業さんのアンケート回答をみて、そこそこ期待したとおりの成果を出したと思って安堵しておりましたところ、先週、協同組合事務局より集計結果の出ました「参加弁護士側のアンケート結果」を見ますと、目を疑うばかりの厳しい評価でした。「先輩弁護士の引き立て役に回された。若手は断然不利である」「非弁提携の勧誘や、弁護士相手の商売に来た人ばかりではないか」「タダで法律相談をさせられた。貴重な執務時間を割いてきたのに、あきれた」などなど。とても悲しい気持ちになりましたが、双方の人数調整ばかりに躍起になり、発生しうる事態が十分想定できなかった私にすべての責任があります。期待を裏切ってしまった若手、中堅の参加弁護士の方には、本当に申し訳ないことをしましたし、次回は反省点を改良したうえで開催したいと思っております。

ただ、私への自戒も含めて、参加していた弁護士の方がたに向けて苦言を呈したい部分もございます。たった1回のお見合いで顧客がとれるほど社会は甘くないんじゃないでしょうか、と。どなたかの紹介で事務所へ来られた依頼者と、同じ感覚でお見合い相手企業とお話されたのではないですか、と。

一般に「法化社会」といった表現が使われますと、「企業こそ変わらなければならない」といった論調ばかりが目につきますが、私は企業とともに、法曹も当然に変わる必要があると思っております。そうでないと、冒頭で述べたように、(法曹人口を増やせ、といった経済界からの要望とは裏腹に)現実の社会からは、なんの弁護士増員受け入れへの準備もないままに、法曹人数ばかりが増えてしまい、行き場を失う可能性が高いのではないでしょうか。

この10月に新しく大阪弁護士会に入会された58期のある新人弁護士さんの「自己紹介」記事の一部を以下に紹介いたします。私はこの記事を読んでハッ!と思いました。私が10年ほど弁護士をやって、やっとわかったことが、すでに弁護士になるときに気づいている、ということにたいそう感激いたしました。

引用開始

「以上趣味について述べて参りましたが、最後に自分がどのような弁護士になろうと思うかについて触れたいと思います。正直働き始めたばかりであり具体性をもっては言えないのですが、少なくとも虎の威を借る狐のような弁護士にはなりたくないです。狐は自分です。虎はこれまでの先輩方が積み重ねてこられた弁護士への信頼です。依頼者の方や被告人は私を尊重して話をしてくれますが、それは私を信頼しているからというよりは弁護士という職業を信頼してくれているからです。修習生の時、数こそ少ないもののそのあたりのことを勘違いしているとしか思えない先生や修習生に出会うことがありました。見苦しいと思いました。もちろん意図的に虎であるかのように振舞うべきときもあるとは思います。しかし、たとえそうでも心の中で自戒は忘れず、少しずつでもいいので成長していき、いつの日か自分の行動が弁護士に対する信頼を増加することになる、そんな弁護士を目指したいと思います。・・・・」

引用おわり

おそらく、私は、弁護士になって10年ほどは、この「見苦しい」弁護士の部類に入っていたと思います。あんなに苦しい思いをして司法試験に合格したんですから、すこしぐらい虎になっても社会は許してくれる、と当然のことのように思っておりました。しかし、それは人間としての成長をとめ、商売のうえでも、職業上のスキルのうえでもマイナスに働いたことは自明のものであります。

なにも、企業のまえで「へりくだる」ような弁護士を推奨するわけではありません。しかし、これから企業に信頼される弁護士を目指すにせよ、また企業に恐れられる弁護士を目指すにせよ、「左脳」と「右脳」をバランスよく育てる法曹養成は絶対に不可欠です。弁護士に必要とされるのは「論理力」だけではなく、人のこころのわかる「直観力」、そして自分を理解してもらう「表現力」は必須の条件です。「法化社会」におけるリーガルマインドとは、こういったすべての能力を含むものと私は考えております。そういったリーガルマインドを企業が必要と思ってくれれば、報酬を1億円要求してもいいかもしれませんし、またそういったリーガルマインドを企業が恐れるのであれば10億円の和解を引き出すこともできるかもしれません。
監督官庁のない弁護士という職業人が、この「法化社会」で自ら変わることが果たしてできるのかどうか、評価は世間の目にかかっております。


きょうは月1回の社外取締役ネットワークの関西研修会に参加してまいりました。EU会社法を受け入れた欧州各国の事情と、「もし、楽天がTOBに踏み込んだとしたら、事態はどうなっていたか」という二つのテーマについて、非常におもしろい議論が続きました。海外勤務の長かった方が多いので、この会合は私の知らない世界が聞けて、刺激的です。またエントリーの題材が増えました。(昨日のアクセス数 1747 どうも、ありがとうございました)

12月 4, 2005 敗軍の将、「法化社会」を語る | | コメント (3) | トラックバック (0)