2021年9月21日 (火)

サイバー身代金の支払いと蛇の目ミシン最高裁判決の射程距離

9月20日の日経朝刊の1面トップ記事は「サイバー身代金 支払い5割-応じた企業、米87%・日本33%」なる見出しで、企業に対するサイバー攻撃によるランサムウェア被害が急増していること、被害を受けた企業の過半が犯罪集団の要求に応じて身代金を支払っている実情について報じています。昨年、カプコンは(営業秘密を奪われた犯罪集団に対して)身代金支払いを断固拒否すると公表し、かなりの被害が出たようですが立派な対応だったと記憶しています。

大切な知財が奪われたり、事業停止を余儀なくされたり、さらには顧客・取引先へ二次攻撃を仕掛けられて迷惑をかけたりすることから、やむなく身代金の支払いに応じてしまう企業の気持ちも理解できます。ただ、安易に支払ったとすると(最近は無差別攻撃ではなく特定企業を狙い撃ちにする傾向が強いので)別の犯罪集団のターゲット候補となったり、支払ったことが発覚した際のレピュテーションリスク(情報セキュリティに脆弱性のある会社、といった風評)が顕在化したり、契約に基づいて取引先からの監査を受諾せざるを得なくなったり、最も痛いのはマネロン規制に違反する、つまり犯罪集団を支援した企業として社会的に制裁を加えられる事態となるため、相当慎重な有事対応が必要になります。たとえ「身代金保険」に加入していたとしても世間から受ける批判は変わらないでしょう。

したがいましてコンプライアンス経営を重視する立場からすれば、身代金を支払うことは断固拒否すべき、ということになります。ただ、そのことで会社が窮地に陥るというのは、それはそれで犯罪集団に「ほれみい、払わんかったらこんな目にあうで!」といったサンプルになりかねず、社会的にも問題がありそうです。「株主共同の利益」を守る、という立場からも問題が残るように思います。だからこそ復旧に向けて最大限の努力を惜しまず、記事にあるように身代金要求があったら直ちに弁護士やセキュリティ事業者に相談するべきなのでしょう。

とくに悩ましいのは身代金を支払う決断をした場合に、マネロン規制に違反するような経営陣の判断は法的に保護されるのか(善管注意義務違反にならないのか)という点です。記事の中でサイバー法制に詳しい専門家(弁護士)の方が「被害規模や支払わずに復旧できる可能性を確認しないままに身代金を支払えば、経営陣が善管注意義務違反を問われる可能性もある」と指摘しておられますが、それが私も現実的な意見かと思います。いわゆる平成20年のダスキン事件最高裁判決の立場からすれば、有事における会社被害を最小限度に抑えるためのリスク管理を行ったうえで「後ろ向きの判断」に至った場合は、善管注意義務違反とは認められないものと考えます(ただ、有事には自分たちに都合の良い情報しか集めないバイアスが経営陣に働きますので、アドバイザーをつける等冷静な対応が必要です)。

そしてもうひとつ悩ましいのが「どの時点で警察に被害を届けるか」という問題です。おそらく警察に届け出を行った場合には、国際的にもマネロン規制が厳格化していますし、警察は被害に合った企業にも共犯者がいる可能性を考えますので「決して身代金は払わないでください」と指示されるはずです。そうなりますと、もはや企業には(どんなに被害が拡大しても)選択肢がなくなり、きわめて膨大な金銭的被害を被る可能性も出てきます。うーーーん、企業としては窮地に陥ります。

ということで、警察に被害を届ける時期を遅らせて、やむをえず身代金を支払う場合、企業に生じたレピュテーションリスクの低下という損害に対する経営陣の善管注意義務違反は問われることになるのでしょうか。ここで思い出されるのが平成18年の蛇の目ミシン最高裁判決ではないかと(判決及び事実関係の詳細はこちらです)。もちろん経営陣個人への脅迫と会社に対する脅迫とでは若干状況は異なりますが、警察に相談して被害回復の可能性がある以上は、犯罪集団の要求に応じる以外に会社を守る方法がなかったとは言えない、ということで、経営陣は善管注意義務違反に問われるのではないか、といった理屈です。

ここは全くの個人的意見ではありますが、たしかに警察に相談することで被害回復の可能性がないとはいえませんが、平成27年5月に発覚した日本年金機構の情報漏洩事件では、ちょうど4年後の令和元年5月、容疑者不詳のまま書類送検で事実上捜査は終結しました。つまり現在の科学捜査の水準では海外からのサイバー攻撃によるランサムウェア被害を速やかに回復することは困難ではないかと。また記事にもあるように、FBI(米国連邦捜査局)の見解も「ビジネスが機能障害に陥った場合、経営陣があらゆる選択肢を評価することは理解する」として、事実上、やむをえないケースでは、企業に緊急避難的な金銭解決の選択肢を認めているようです。

日本は「マネロン大国」として国際的にも厳しい評価を受けているところであり、ひょっとすると社会の風向きが変わってきたかもしれません。ただ、身代金を支払ったうえで警察に被害を届け出る、もしくは警察から身代金支払いを止められても緊急避難的に身代金を支払うということも、社会的な批判はかなり受けることはあるものの(つまりコンプライアンス経営という立場からは問題が残るものの)、犯罪行為を助長するような金銭支払いが経営陣の善管注意義務違反にあたるとまでは(現状では)言えないように思います。本件が蛇の目ミシン最高裁判決の射程範囲外であることを祈ります。なお、上記日経の記事には「日本企業の33%が身代金を支払った」とありますが、本当はもっと多いのではないか(公表していない、もしくはノーコメントを貫いている)と私は推測しております。

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2019年2月18日 (月)

企業実務に大きな影響を及ぼすパワハラ防止体制の法制化

2月15日(金)の日経朝刊記事にもありましたが、厚労相が提出した女性活躍推進法等の一部改正に関する法律要綱案が労政審議会で承認され、3月の通常国会に法案が提出されるようです。注目のパワハラ防止義務の法制化ですが、「労働施策推進法(以前の雇用対策法)の一部改正」として導入されることになりました。パワーハラスメントの定義としては「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」と、要綱案では示されています。

かなり小さな事業主(たとえば小売業であれば資本金5000万円、継続雇用の従業員50名以下等)については、パワハラ体制整備義務は(公布日から3年間)努力義務とされていますが、全事業主に対してパワハラ通報をした従業員、パワハラ調査に協力した従業員への不利益処分の禁止を定めています。日経の見出しにあるように、大企業は違反に対する行政処分付きでパワハラ防止体制の整備が義務化されるようです。では「どこまで体制を整備すればいいのか」という点は、今後政省令にて指針を策定するとのこと。

今年はいろいろな働き方改革関連法が施行されますが、もっとも企業実務に影響を及ぼすのは来年施行予定のパワハラ防止法でしょうね。そもそもセクハラの「グレーゾーン」はグレーゾーンごと禁止してしまえばよいのでしょうが、パワハラの「グレーゾーン」は(適切な指揮監督関係を委縮させてしまいかねないので)事業主が白黒をはっきりとさせなければなりません。その「はっきりとさせる」ことに失敗すれば「ブラック企業」との烙印を押されたり、判断者が「セカンドパワハラ」として被告にされてしまうリスクは極めて大きいはずです。

審議の中で論点とされていた「労働者に対するパワハラ禁止規定」は盛り込まれませんでしたが、事業主や労働者のパワハラ配慮義務(努力義務)は盛り込まれています。したがいまして、今後、各事業主において自主的に策定されるパワハラ防止に向けた自主ルールにおいて、従業員へのパワハラ禁止規定が盛り込まれることが予想されます。いずれにしても、きわめて忙しい厚労省管轄の対策となりますので、パワハラ対策には事業主による自主解決を期待するものとして、自主解決が期待できない状況に至って、厚労省が厳しい事後規制に臨む・・・という建付けにて運用されることになりそうです。

会社法上の(役員の)内部統制構築義務や内部通報制度の在り方にも関連する大きな法改正なので、今後の労働施策推進法の改正作業に注目しておきたいと思います。

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2018年10月23日 (火)

積水ハウス地面師事件-企業を騙すには「点と線」が有効である

積水ハウスさんの地面師事件については、犯人グループが逮捕されて以来、いろいろと新しい情報が出ています。昨日(21日)のニュースでは、取引を中止した買受希望者(不動産会社社長)の方が交渉の場を隠し動画で撮影していた事実が報じられ、当該データが公開されていました。所有者に扮した女性が「田舎はどこですか?」と買受希望者から聞かれてボロを出してしまった様子も、証言として紹介されていました。

そして本日(22日)の産経新聞朝刊に「積水側と数年前から面識-地面師、仲介役に勧誘か」と題する記事に、新たな情報がふんだんに掲載されています。さすが「事件モノの産経」だけあって、警察筋から得た(と思われる)情報は興味深い。平成25年ころから積水ハウスさんの社員とつきあいのある不動産業者を(実行犯グループが)仲間に引き入れ、積水ハウスさんをじっくり時間をかけて騙す様子が報じられています。

私は企業のリスク管理、内部統制システムの構築・・・という視点で、「どうすれば地面師に騙されないシステムを(企業側が)構築できるか」を考えながら、本事件の流れを辿ってきました。その流れにおいて、本人認証の公正証書、偽造パスポート、免許証の存在、売主側弁護士の存在、真正所有者からの度重なる内容証明郵便を受領していたこと、本人不在での異常な交渉経過、社長案件による関係者への事後決裁の事実などに関心を寄せていました。しかし、これらはいずれも「点」であり、時間軸の存在についてはほとんど想像しておりませんでした。つまり、実行犯グループの中に、5年ほど前から積水ハウスさんから信頼を得ている者が存在する、という「線」の存在には気づきませんでした。

なるほど、たしかに積水ハウスさんがなぜ騙されたのか・・・という疑問が、これで少しわかってきたように思います。「仲介者に間違いない人がいる」という安心感は、おそらくすべての懐疑心を骨抜きにしてしまいます。社内で不正が発生したとしても、なかなか不正を見つけられないのは「あの社員なら長年の仕事ぶりを知っているから間違いない」といったバイアスが監査の目をくもらせるからです。私が担当するパワハラの社内調査においても、調査担当者が「パワハラにはあたらない」「パワハラを受けた側にも問題があったのでは」といった結論に至りがちですが、やはり加害者(上司)の長年の仕事ぶりを評価している調査担当者に強いバイアスがはたらいているところを経験します。

犯人グループが、どういった経緯で積水ハウス側との付き合いのある不動産業者をとりこんだのかはわかりませんが、時間軸を活用して(つまり一定の時間をかけて)積水さんを騙すためのテクニックを弄したとすれば、やはり相当なワルだなぁと恐怖を感じますね。上記産経の記事では、暴力団関係者が「事前の面識の有無が犯行の成否を分けたのだろう」と証言していますが、私も同感です。

なお、先述の隠し動画では、交渉のテーブルの真ん中に弁護士の方が座っておられましたが、こういった事件では専門家もうまく利用されることが多いようです。地面師事件に利用された弁護士の法的責任につきましては、以前、弁護士側が勝訴(最高裁確定)した事例をご紹介しましたが、近時、弁護士側に極めて厳しい高裁判断が下されました。追って判例雑誌に掲載される予定と聞き及んでおりますが、自戒をこめて、不動産取引に関与するためには最大限の注意が必要と痛感する次第です。

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2017年9月28日 (木)

横断的監査を実行できる内部監査部門に期待する

昨日(9月26日)の日経朝刊「私見達見」に、長く金融機関で内部監査に従事されてきた吉武さんの論稿「内部監査を組織変革の起点に」が掲載されていました。日本企業において内部監査の重要性が認識されつつあるものの、現実には経営者に「コストセンター」と言われる内部監査部門の苦悩にも触れておられ、多くの内部監査人の共感を得られたのではないでしょうか。

私もときどき本業で内部監査担当者の方とご一緒しますが、監査役監査と違って「組織の壁」を痛感します。いくら社長直轄チームといえども、本気で不正調査に乗り出しても「●●部門の担当役員の了解を得ておかないと・・・」といったところで調査がストップします。「ええ!?お伺いを立てている場合じゃないでしょ!そんなことしてたら口裏合わせされちゃいますよ!証拠だって削除されちゃうし・・・」と申し上げるのですが、「いや、不正を見つけることができなかった時のことを考えますとね・・・・笑」

監査役さんは組織横断的な監査はあたりまえですが、内部監査部門はどうもそうはいかないようです(もちろん、経営者のチカラで横断的監査も平気で行える企業もありますが)。このあたりは内部監査が機能することで会社が良くなる・・・といったイメージを全社的に持っていただく必要があると思います。最近は30代の将来有望な社員が内部監査を数年担当する、といったキャリアパスを実現してストーリーの「見える化」に尽力している企業も増えていますが、そういったことも全社的に内部監査部門への協力体制を向上させるためには必要ではないかと。

上場後、不正会計事件で強制捜査を受け、半年後に上場廃止となったエフ・オー・アイ社の事例では、何度も東証に「紙爆弾」(内部告発)が投げ込まれましたが、これも判決文によれば同社の内部監査担当者だったそうです。私が過去に内部告発の支援をした方々の中にも、内部監査、内部管理担当者が何人かいらっしゃいました。ホント、監督官庁やマスコミは内部監査部門の告発にはよく耳を傾けてくれます(もちろん重要な証拠を握っているから、ということもあるのですが)。ただ、共通して言えることは「内部監査部門の方々は、こんな不正をしていては会社は持たない」といった真摯な姿勢で告発に至るということです。

「会社を良くする」ための内部監査には職業的懐疑心が必要です。ただこの「懐疑心」というのは「不正ありき」といった性悪説の探索的監査ではなく、現場を信頼したうえでの懐疑心です。いわば不正を見つけるのではなく、不正の兆候を見つける、内部統制の穴を見つける、組織の病理現象に気づく、といったところを目指すべきではないでしょうか。上で述べた通り、いくら内部監査部門が不正調査にまい進しても組織の壁があります。有事における本格的な調査は監査役さんや会計監査人、法務部門に任せざるをえないとしても、そもそもイエローゾーンがどこにあるのか、それはなぜなのか、他人に共感をもってもらえるような活動が必要ではないでしょうか。

そのためには、やはり日常の(病理現象を発見するための)横断的な監査ができる環境が整備される必要があると思います。

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2015年10月20日 (火)

企業不祥事は内部統制では防げないというけれど(それでも構築には意義がある)

東芝さんの事件、東洋ゴム工業さんの事件、そして横浜のマンション工事データ偽装事件など、大きな企業不祥事が発覚するたびに「内部統制が機能しなかった」「内部統制では不祥事は防げない」と有識者の方々がおっしゃいます。どの企業でも「経営管理」のための内部統制はある程度機能しているはずですが、不正リスク管理という視点では、たしかに不正の未然防止や早期発見のための内部統制、という意味からすると、このような不祥事発覚事例からみて「内部統制は機能しなかった」と指摘されてもやむをえないのかもしれません。しかし、だからといって「では企業は不正リスク管理のために内部統制を整備してもムダ、費用だおれ」というものでもないのです。

たとえば本日(10月19日)の日経朝刊「法務インサイド」ではオリンパス社の中国における贈賄事件への対応が紹介されていました(当ブログのこちらのエントリーでも以前に紹介している件ですね)。オリンパス社の中国におけるFCPA疑惑等、米国当局に積極的に自主申告をすることによって摘発リスクは減少するわけで、「内部統制をきちんと整備し、これを運用していた」という事実がペナルティの回避もしくは最小化につながることになります。「一次不祥事」は残念ながら防止できないとしても、マスコミが喜ぶ(?)「二次不祥事」(不祥事を隠す、放置する、証拠を隠滅する)を未然に防止することに役立つはずです。

また、産経新聞のこちらの記事でも報じられていましたが、公正取引委員会による課徴金処分の裁量化が検討されているようですが、来年春に施行予定の平成26年の二度目の景表法改正などとともに、今後は裁量性の課徴金制度が導入される機運が高まっています。行政調査への協力の度合い等によって行政処分が軽減されるのであり、これも結果的には未然防止にはつながらなくても、内部統制を適切に整備・運用していたことが企業の不正リスクの低減につながります。住友電工さんのカルテルに関する株主代表訴訟などをみても、役員が不正リスク最小化のための努力を怠った場合の責任追及は、今後厳しくなることが予想されます。

また、これは危機対応の専門家でなければ体感できないことではありますが、現実に「内部統制が機能した」ことが不正の未然防止や早期発見に役立った事例はたくさんあります(拙著「不正リスク管理・危機対応」でも既に書いたことですが・・・)。ただ、そのような会社は「こうやってうまくいったから不祥事を防げた、早期に発見した」といった事例を公表しないのがあたりまえなので、成功例が表に出ないだけだと思われます。ちなみに20日午前1時半の日経ニュース記事では(横浜のマンション事件との関係で)建設工事会社の役員の話として、データ偽装は他でも行われており、またかなり多くの関係者が知るところだと述べておられます。一次下請会社がデータ偽装に気づいた場合には、くい打ちのやり直しを依頼してきたこともあるようです。

もちろん整備するだけでなく、適切に運用していなければ意味がないことは言うまでもありません。当ブログではもう何度も同じようなことを書いていますが、不正リスク対応という目的から企業が内部統制システムを構築する意義は、未然防止、早期発見のほかに、危機管理という意味でも十分な意義があることを忘れてはいけないと考えます。

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2014年5月19日 (月)

景表法への課徴金導入と企業の内部統制の整備・運用

昨年のメニュー偽装事件を受けた景表法(不当景品類及び不当表示防止法)等の改正法律案は、現在国会で審理中であり、まもなく改正法が成立する見込みです。消費者の生命、身体、財産の安全を確保するため、そこでは行政(監視体制の権限強化)、消費者(消費者基本法改正により、自己防衛のための商品表示に関するリテラシーを向上させ、自己防衛が困難な者については、情報の非対称性をできるだけ解消する)そして企業(内部統制システムの構築)それぞれに課題が与えられました。

そして、もっとも注目すべき景表法への課徴金制度導入については、とりあえず1年間、検討期間を設けることになっていましたが、消費者委員会(内閣府)における課徴金導入に関する議論が、いま急ピッチで進められています。中間とりまとめ案(「景品表示法上の課徴金制度の導入等の違反行為に対する措置の在り方」に関する中間整理)も4月に公表されており、その後の議論などを議事録等で拝見しておりますと、今後ますます企業の商品やサービスの表示に関する管理体制の構築が、極めて重要になることが窺えるところです。

まだ確定的ではないので、以下はあくまでも今後の景表法への課徴金制度導入の予想からの個人的意見にすぎませんが、景表法違反(有利誤認表示、優良誤認表示など、ただし不実証広告規制に関する表示ついては検討中)によって課徴金処分が発令される主観的要件として、「企業の故意または過失」が求められるようですが、議論の方向性として、この「故意または過失」の立証責任が、企業側に転換される可能性があります。これは企業側にとって極めて重要なポイントでして、もし主観的要件について立証責任が転換される、ということになりますと、企業側が適正な表示に関する管理体制の運用において問題がなかったことを合理的に説明することが求められることになります。

また、これも確定したものではありませんが、企業が被害者に対して任意に返金したことを課徴金制度において考慮する(課徴金算定金額から差し引く)という「自主返金制度」が検討されています。消費者側も、また一部の経済団体側も、この自主返金制度には、かなり歓迎ムードが漂っておりますので、この制度が実現する可能性もありそうですが、そうなりますと、景表法の基準に合わせて自主返金に関する社内ルールの制定などが必要になるはずです。ここまで企業の自律的な行動に配慮した事後規制はあまり聞いたことがありませんので、かなり期待をしております。

そして課徴金の減算・減免措置の導入です。いまの流れから行きますと、課徴金処分は、景表法上の排除措置命令と一連の手続きの中で判断されるそうですが、違法行為の抑止を目的とした行政制裁的な意味合いがありますので、平時における企業努力や、違法行為発見から再発防止まで、自浄能力が発揮されることで「違法行為の悪質性が低い」と判断されるのであれば、減算や減免の対象になることも考えられます(もちろん、今後の消費者庁の考え方など、いろいろと見解を聞いている必要はありますが)。課徴金制度が裁量行為ではなく、羈束行為を原則とするものであったとしても、こういった企業の努力が課徴金算定の判断基準に取り入れられるべきではないでしょうか。

なお、最後に申し上げますが、以上の見解は、課徴金処分が自律的行動に期待ができる「誠実な企業」にも適用されることを前提としています。弱者に迷惑をかけてでも収益獲得を図る「不届き者企業」のような悪質性の高い企業への事後規制手法として課徴金が適用される、という運用であればあてはまりません。そのあたりの、行政当局の運用に向けた方針がどうなるのか、今後の注目点かと思います。景表法は公益通報者保護法上の「通報対象事実」に該当しますし、都道府県の監督権限も強化されますので、今後は景表法違反事実への内部通報や内部告発も増えることは間違いありません。消費者行政と企業の内部統制システムの構築との関連性は、今後ますます強いものになりそうです。

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2013年8月 1日 (木)

企業グループ管理への関心の高まりと「会社法制の見直し要綱」

Image90814この月曜日に発売されました週刊エコノミスト8月6日号ですが、すでに賛否両論(?)で話題になっておりますように「食える弁護士、食えない弁護士」という見出しのついた「弁護士特集号」として構成されています。今年4月に税理士・会計士特集が組まれてよく売れたそうなので、「それでは弁護士も」という思惑で特集が組まれたものと思います(司法制度改革やロースクール制度などにも触れられていますが、企業法務関連の弁護士に焦点が当てられています)。

ご覧になられた方はおわかりのとおり、私も(第一人者ではありませんが)川崎重工の社長解任劇(代表者解職劇)を題材にガバナンスに関する論稿を2ページにわたって書かせていただきました。論稿を書きあげるよりも、あの「企業社会における解任劇の歴史」についての図表を作成するほうが時間を要しました。著名な金融ジャーナリストでいらっしゃる磯山さんや伊藤歩さんも、会計士ネタだけでなく弁護士ネタにもチャレンジングな論稿を書かれていますので、企業法務の世界を一般の方々に知っていただくにはよい機会だと思います。ぜひぜひご一読いただければ幸いです<m(__)m>。

ところでこの週刊エコノミストの中で、日経ビジネス弁護士ランキング1位の中村先生が2か所で登場されますが、企業グループ管理に関連する法律問題について、とてもシブいコメントを残しておられます。要約しますと・・・

このたびの会社法改正案(会社法制の見直しに関する要綱)においては、多重代表訴訟の活用場面が極めて限定的となり、企業結合に対するガバナンスは前進することがなかったように受け取られている。要は経済界の意見が通ったという評価である。しかしこれまで会社法規則だけに規定されていた「企業集団内部統制」が、会社法の条文に規定され「格上げ」されることになった。これは親会社の取締役の善管注意義務の解釈として、会社法の解釈にも影響を与えるものであるが、そのことに気が付いている人はいまだ少数にすぎない。

とのこと。また、昨日発売されました月刊監査役8月号では、法制審の会社法制部会委員でいらっしゃる荒谷先生(法政大学教授)が「親子会社法制に潜む課題」と題する論稿を発表されておられますが、その中で以下のように中村先生と同様のことを記載しておられます。要約しますと・・・

(「企業集団内部統制」が法文に格上げされたことについて)、これまで規則にあったものが法文化されるだけであり、何ら変わらない・・・との見方もあろうが、ここに至るまでの部会での審議内容及び「要綱」第2部第1(後注)の文言等を踏まえれば、親会社取締役等は内部統制システムを通じて、子会社の取締役等の不正行為や違法行為等を発見した場合には、これを是正するために必要な措置を講じる義務があることが従来に比べてより明確になったといえる。その意味で、親会社の取締役・監査役等は、善管注意義務違反に基づく代表訴訟のリスクが高くなるのではないかと予想され、実務に及ぼす影響は少なくない、と思われる。

とのことです。ご高名な先生方の論稿をご紹介した後で、偉そうな物言いでたいへん恐縮ですが、ここ2~3カ月の直近の私の講演を聴かれた方はご存じのとおり、私もPPTを用いて、グループ会社の内部統制構築は、これまでよりもハードローの面でも、ソフトローの面でもより厳格なものが問われる時代になる、と述べてきました。ハードローの面においては、中村先生や荒谷先生が指摘されている点に加え、そもそも経済界の方々も(企業結合のガバナンス規律の必要性は認めつつも)それは多重代表訴訟などを新設することではなく、親会社の取締役・監査役の責任を厳格に問えば足りるではないか・・・と主張されていたことによるものです。

また、ソフトローの面においては、法務省のテリトリー(会社法制)にダイレクトに手を突っ込むことができない金融庁の思惑があるからです。企業結合ガバナンスを強化することを目的に、最近は企業グループ全体におけるレピュテーションリスクを強調しています。子会社で不正が発生すれば、親会社の社会的評価に影響が及ぶことは2007年から8年にかけてのリーマンショックで明らかになりましたので、レピュテーションリスクへの関心は国際金融協調における新たな課題になりました。したがって、監督対象である金融機関に対しては「監査役(監査委員)との対話」を通じて、そして金融機関の信用リスクの指標となる一般の企業については、金融機関の信用リスク態勢のチェック(取引先会社のガバナンス状況を把握しているか)を通じて、企業グループ全体としてのレピュテーションに関心を強めているところだと思われます。なお、ここで注意すべきは「企業開示の適正」を目的としたものではなく、金融機関の信用リスク態勢の強化が目的とされているので、ガバナンスの強化が求められるのは上場会社に限られるわけではない、ということです。

たとえ企業集団内部統制の構築が取締役の善管注意義務として明確な法的義務ではないとしても、企業に求められる自律的行動(ソフトローの遵守)に注目し、その遵守姿勢の見えない企業をピンポイントで監視対象とする、という手法がとられる可能性があります(リスク・アプローチによる効率的監視手法)。遵守する姿勢があるかどうか・・・、これをチェックするモノサシがレピュテーションということになります。アベノミクス政策が進み、今後もますます「小さな政府」が標榜される中で、こういったソフトローによってコーポレートガバナンスの健全性が規律される傾向が強くなることは間違いないものと思いますし、このたびのカネボウ化粧品問題が親会社である花王の業績や将来戦略に大きく影響を及ぼしている事実をみても、子会社管理の重要性を再認識する次第です。

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2013年6月 3日 (月)

サーベラスが西武の内部統制改善にこだわる理由(その2)

先週、内部統制に関する話題を取り上げましたが、非常にたくさんのアクセスをいただきました。これは内部統制に関する関心が高いからというわけではなく、タイトルの「サーベラス」「西武」のほうの関心が高かったから、ということだったのでしょうね。ということで、中身とタイトルにギャップがあることは承知しておりますが、もう少し先週のお話の続きをさせていただきたいと思います。

皆様ご承知のとおり、先週土曜日にサーベラスによる西武に対するTOBの結果が公表され、36%程度の株式取得に留まったそうです(目標上限は44%)。報じられるところでは、今後のバトルは6月25日の株主総会に移るとのこと。ということで、今後もサーベラス側と西武経営陣側とで「企業統治」「内部統制」に関する議論の対立がそのまま続くものと思われます。一番わかりやすい意見の対立がサーベラス→株主と対話をしようとしない姿勢にガバナンス上の問題がある、西武経営陣→いや、特定の株主のみを特別に扱う姿勢こそ内部統制上の問題、といったところでしょうか。

6月1日のコーポレートガバナンスネットワークの関西勉強会に参加いたしましたが、ある経営者の方が、「株主との対話」に関するご自身の経験を踏まえ、

日本の機関投資家の人たちは、社長と面談する際、多人数でやってきて、和気あいあいと意見交換をする。話題は会社の中期経営計画の中身とか、今後の収益見込みといったことが中心である。しかし海外の機関投資家の人たちは、比較的少数でやってきて(しかも若い女性が多い)、和やかな雰囲気はなく、終始真剣にヒアリングが行われる。決定的に日本の機関投資家と異なるところは、会社の方針がどうの、現状分析がどうの、といったことはほとんど聞かれず、終始「この経営者は本当に信用できるのかどうか」その一点だけを知ることを目的とした質問が続く。いわば「会社を見ている」のではなく「経営者を見ている」という雰囲気だった。

といった趣旨のお話をされていました。これは拙著「法の世界からみた『会計監査』」第11章「日本人は原則主義がお嫌い?」の中でも、私が「内部統制」について問題提起をさせていただいたことと共通しているものと思います。拙著の中で、私は内部統制の基本的な構造を「経営者による経営管理の手法」と捉えるべきか、それともガバナンスに近いものとして、経営者(取締役)をも拘束する行動規範として捉えるべきなのか、ここで議論を整理しなければ、法律や会計、経営学という学際問題においても、また会社法と金商法という法律間においても、内部統制に関する実務上の進化が遂げられないのではないかと書きました。

日本の場合、会計監査や内部監査の世界で「内部統制」に関する理論や実践の進化が先行しましたので、いわゆる経営者による経営管理というイメージが強く意識されてきました。本来は、監査役による内部統制監査、取締役会による内部統制の運用評価といったところを中心に、経営トップの業績評価の公正性をどのように担保するのか、経営トップの暴走をどのように食い止めるのかといった「企業価値向上策」と密接に関連させるべきものだったかもしれませんが、いまでもあまり経営者を縛るという意味での内部統制システム構築の議論は進展していないようです。やはり企業統治の在り方とワンセットで内部統制についても議論される必要があるのではないでしょうか(モニタリングモデルの取締役会の構築と内部統制システムとの関係等。ひょっとすると、会社法の分野では、今後「監査・監督委員会設置会社」における監査・監督委員の役割が議論される中で、正面から議論されるのかもしれません)。

今回のサーベラスと西武とのTOB紛争でも、(前回も書きましたが)内部統制は経営者を縛る行為規範としての意味合いがどれほどあるのか、そこに双方の認識の大きなミゾがあるように思われます。先の機関投資家と経営者との対話のお話も、やはり海外の投資家は「経営トップの人格や経営手腕、経営思想」こそ関心事であり、株価に大きな影響を及ぼすものと考えておられるわけで、やはり経営者に対していかに株主コントロールを効かせるのか、コントロールを効かせることができない場合には、それに代わる内部統制をどのように構築するのか、という点が重要なのです。

日本企業の経営者は、日本の金融機関、日本の機関投資家との間では共通認識を持てるけれども、海外の機関投資家との間ではガバナンスや内部統制に関する共通認識は持てなかったのかもしれません。これまでは認識の違いだけを理由にしていればよかったわけですが、このたびのアベノミクスの日本成長戦略でも話題になった「スチュワードシップコード」というものが次第に日本の機関投資家にも要求されるところになってきたようなので、日本企業の「株主との対話」路線にどのような変化が生じるのか、そのあたりにまた関心を向けておきたいと思っています。

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2013年5月29日 (水)

サーベラスが西武の内部統制改善にこだわる理由

さて、ひさしぶりの内部統制ネタでございます。日本企業の再生を図るため、最近では(上場会社に制度化されております)内部統制報告制度の一部要件緩和ということが主張されております。しかしいっぽうで今年は「物言う株主・再び」ということで、6月の総会シーズンを前に、ずいぶんと国内・国外の大株主の方々による経営への要望が報じられており、会社の内部統制の強化に関心を寄せるものも散見されるようです。

なかでもサーベラス(サーベラス・グローバル・インベストメンツ)による西武へのTOBはいよいよ佳境に入ってきたようで、今週号の日経ヴェリタス(5月26日号)でも、「経営体制の刷新が再上場の前提」としてダン・クエール会長のインタビュー記事が大きく取り上げられております。ダン会長は、再上場問題が浮上して以来、一貫して「西武のガバナンス改革、内部統制の改善」と言い続けておられます。私は「ガバナンス改革というのはわかるけれども、内部統制の改善」ということをなぜここまで言い続けているのだろうか、そこで語られている内部統制とは、そもそも何を指すのだろうか」とずっと疑問に感じておりました。

昨日、日本企業の米国子会社で長年トップをされていた方と夕食をご一緒させていただいたのですが、なるほど、サーベラス会長のおっしゃっている「内部統制」とはどのようなものなのか、その米国企業のトップをされていた方のマネジメントに関する米国事情をお聴きして合点がいきました。

いえ、そんなに目新しいことではなく、私自身がきちんと理解していなかっただけのことですが、私の頭には「内部統制」というと米国SOX法のイメージが強いために会計不正防止を目的としたシステム、といった印象が強いのであります。おそらく日本の内部統制報告制度のイメージも強く支配しております。しかしアメリカの企業が抱く「内部統制」というイメージは、なんといっても取締役会が責任をもって監視し、雇われCEOの実績を評価することに資するもの、つまり経営の効率性向上のためのシステムだ、ということです。内部統制は企業価値向上のためのシステム、業務執行の一環、まさに誠実に会社が儲けるための仕組みということ。いわば雇われ社長に最大限、忠実義務を果たさせるための仕組み、というものだそうです。だからこそ内部統制の評価結果の報告は、まず第一に監査委員会に対して行われ、経営者に対して報告されるのは二番目だそうです。

日本では社長自身が内部統制システムを構築するイメージがあるのですが、米国ではそうではなく、業務執行が効率的になされるためのシステム、社長の業績を適切に評価するためのシステムということなので、取締役会の監視のもとで、取締役会の責任において構築されるシステムだということのようです。いや、本来は内部統制とは管理会計(予算執行)と密接に結び付くものなのだと思うのですが、どうも「財務報告の信頼性確保」とか「不正防止」といったこと、つまり制度会計との結びつきで考える意識が強かったので、私自身がきちんと理解できなかったのかもしれません。

(追記)もちろん、不正防止のための内部統制という概念も米国には存在するのですが、活用方法としてはそれだけではない、むしろ本文で述べた意味のほうが強いのではないか、ということです。たとえばシャーマン法違反やFCPA違反事件における訴追猶予合意の条件として、本社におけるコンプライアンスプログラムの構築が挙げられますが、そこで用いられる内部統制とは不正予防に重点を置いたものです。

年に数日しか開催されない監査委員会は、この内部統制報告に依拠して監査を行うというものなので、いわば「監査委員会は、内部監査によるチェック状況を監査する」というのが実情だそうです(そりゃ3日間くらいでできることには限界がありそうです)。取締役会自身が厳しく内部統制システムの運用状況をチェックするというものであり、だからこそCEOの業績評価が適切に行われるそうであります。

なるほど、一昨日の役員報酬の課題と同様に、こういった文脈で捉えますと内部統制の改善とガバナンスの改革も、一体でなければ機能しない、ということになりそうであります。果たしてサーベラス社が思うガバナンス、内部統制改革というものが、果たして日本会社のガバナンス、内部統制として根付くものなのかどうか、そもそも、ガバナンスや内部統制の改善に関する双方の認識の差(イメージの差?)はないのか、とても関心を抱くところです。

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2011年5月10日 (火)

中部電力役員の英断と一般株主の素朴な疑問

(5月10日午前:追記あり)

法治行政の在り方を考えた場合、総理大臣の浜岡原発停止要請に対する中部電力社の応諾につきましては、いろいろと申し上げたいことがございます。ただ、前回のエントリーでも書き留めておりますとおり、中部電力社の役員の方々は熟考を重ねた上での判断だと思いますし、とくに株主代表訴訟において任務懈怠(善管注意義務違反)が認められる可能性はかなり乏しいものと(少なくとも私は)思っております。

ところで、役員に皆様につきまして、会社に対して法的責任を負うかどうか、という問題と、一般株主にきちんと説明責任を尽くせるかどうかは別だと思いますので、私を含め、原子力発電に詳しくない一般株主の立場から素朴な疑問を述べてみたいと思います。いわば今回の停止要請に応諾したことを前提とした想定質問ということで。

まず、今回の原発停止については、東海大地震が30年以内に発生する確率が80%を越えるとのことで、中部電力としては安全最優先とのことで、今回の要請応諾となったと社長が会見で答えておられました。しかし政府は長年にわたり、この東海地震発生の確率が高いがゆえに東海地震のために多くの税金を投入して地震予知体制を備えてきたはずです。今回の中部電力の判断にあたって、この地震予知体制はまったく機能しないものと考えたのでしょうか。地震予知機能が適切なものであれば、有事に安全に原子炉を停止できるのではないでしょうか。

つぎに、「株主代表訴訟に耐えられるのか」との記者からの質問に対して、社長さんは、長い目でみれば、安全を優先して利害関係者の皆様からの信頼を得ることが、企業の利益となると回答されています。しかし、長い目でみて利益になるのであれば、なにも原発を停止しなくても、いままでの計画どおりに安全対策を講じていけば達成できるのではないでしょうか。今回は2年をめどに運転を再開する予定とのことなので、なぜ2年だけ運転を停止することが、「長い目でみて」利益になるのか、逆にいえば、2年間運転を継続しながら安全対策を講じることが、なぜ長い目でみて不利益となるのでしょうか(追記:5月10日朝の読売ニュースでも、静岡県知事は「現在稼働中の4,5号機については急に停止しなくても、それほど支障はないとの感想をもった」と報じられています)。原発を稼働させずに事業を継続できる点が証明されるとしても、それは利害関係者の短期的利益の喪失という犠牲のもとでのことだと思われますが。

最後に、会社法および会社法施行規則によると、中部電力社の取締役は、内部統制システムを構築しなければならないはずであり、そのなかには「損失の危険の管理に関する規定その他の体制整備」に関する方針が決められていますが、そのリスク管理体制の整備運用に関する方針と今回の要請応諾に至った判断の間に矛盾はなかったのでしょうか。

今回の臨時取締役会における経営判断の詳細について、私は専門家でもありませんので知る由もありませんが、素人の一般株主であれば、(前提事実のどこかに重大な誤りがあるかもしれませんが)当然に疑問に思うのが上記のような点であり、役員の方々にぜひとも質問させていただきたいところではないか、と。要請応諾に関する取締役の方々のご意見は全員一致だったとのことなので、おそらく明快な説明がなされるものと思われますが。

(5月10日午前:追記)「行政指導」に焦点をあてた新聞記事がようやく出てきました。

官邸、極秘協議1か月・・・法的根拠なく行政指導

弁護士資格を有する枝野氏が法令を調査したけれども、やはり規制根拠となる条文がなかったので行政指導による要請を行ったというもの。ここがはっきりしたことで、次に「違法な行政指導」と「適法な行政指導」の議論が進むものと思います。

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