2017年8月12日 (土)

東芝の内部統制報告書に「不適正意見」が付された意味は重い

今朝の朝日新聞(東京版、大阪版とも)に、東芝決算問題に関する私のコメントが掲載されておりますが(数日前にブログで書いた「三方よし」の見解です)、実際に財務諸表監査、内部統制監査の結果が公表されたことに関連して、内部統制報告制度の原則論から、私なりの意見を述べたいと思います。なお、内部統制報告書は、マスコミ報道にあるような「有価証券報告書に付随した」報告書ではなく、あくまでも独立した報告書です(金融庁立案担当者が著者とされている「総合解説内部統制報告制度」税務研究会出版局2007年 59頁)。

昨日(8月10日)、東芝さんの2017年3月31日現在の内部統制報告書について、会計監査人であるPwCあらた監査法人さんは「不適正」との意見を表明しました。私も、あらためて昨日EDNETにリリースされた内部統制監査報告書を読んでみました。マスコミでは、同社の3月期連結財務諸表の監査において「限定付き適正意見」が付されたことに関心が向けられていますが、今年3月末時点においても、東芝さんが提出した内部統制報告書は「報告書全体として虚偽の表示に当たる」と会計監査人が意見表明した意味はとても大きいと考えています。

上場会社の提出する内部統制報告書に、会計監査人が「意見を表明しない(意見不表明)」とする例はときどきみられます(たとえば今年はタカタ社のケース等)。しかし、2008年の制度施行以来、「不適正意見」を出された内部統制報告書は記憶にありません(もしご存知の方がいらっしゃいましたら教えていただけますでしょうか)。ちなみに、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準、Ⅲ(財務報告に係る内部統制の監査)4.監査人の報告(4) 意見に関する除外」では、監査人が不適正意見を表明する要件として、以下のように規定されています。

② 監査人は、内部統制報告書において、経営者が決定した評価範囲、評価手続、 及び評価結果に関して不適切なものがあり、その影響が内部統制報告書全体として虚偽の表示に当たるとするほどに重要であると判断した場合には、内部統制報 告書が不適正である旨の意見を表明しなければならない。この場合には、別に区 分を設けて、内部統制報告書が不適正である旨及びその理由、並びに財務諸表監 査に及ぼす影響を記載しなければならない(下線部分は筆者作成)。

ここで強調しておきたいことは、内部統制報告書の「不適正意見」は決して過去の会計上のミスに対するペナルティではない、ということです。今年3月末時点でも、東芝さんの内部統制は有効ではない、財務報告の信頼性はない、投資家の皆様にはこれからも注意してください、ということをレッド・フラッグとして発信している点が重要です(だからこそ、内部統制報告制度は金融商品取引法上の開示規制として位置づけられています)。内部統制報告制度は、投資家保護のために「財務報告の信頼性に関する将来の危険」を経営者および監査人が発信する点に重要な意義があります。

財務諸表については「限定付き適正意見」だが、内部統制については「不適正」とした意味は、WH(ウェスチングハウス)社は連結から外れてしまったのだから、すでに東芝さんの内部統制上の不備は解消されたではないか、といった単純な問題ではなく、財務諸表の重要な虚偽表示を解消する機会があったにもかかわらず、あえてやろうとしなかった東芝全体のガバナンスに今でも問題がある(統制環境という内部統制に重大な不備がある)というのが監査人の意見の本旨ではないでしょうか。

昨日の朝日新聞WEB版(有料会員)記事「東芝と監査法人、信頼関係はなぜ崩壊したのか」に、驚くべき新事実が掲載されていました。東芝さんの内部文書を精査した後の監査人と東芝さんとの協議の場で、会計監査人は金商法193条の3(法令違反行為の是正通知制度)の発動をちらつかせたそうです(やはり当初は「会計不正」を問題としていたようです)。この時点でがぜん両社の関係が険悪になったとのこと(おそらく、会計監査人のところへは、表に出ていないような内部告発もあったのではないかと推測します)。このような先鋭的な対立があったということは、やはり今でも会計監査人としては、東芝さんのガバナンス(全社的内部統制)に信頼を置いていないのではないかと思います。

半導体事業を高値で売却しなければならない東芝さんにとって、ステイクホルダーに対するリリースの信用性は重要ですが、「そのリリースには十分気を付けてください」との警鐘が鳴らされた意味は大きいですし、また内部管理体制の健全化が確認されなければ上場廃止とされてしまうという意味で、東証さんの審査にも大きな影響が生じると考えています。昨日の社長さんの会見で「内部統制には全く問題なし」と述べておられるのはあくまでも東芝さんの立場からの意見であって、監査人の立場から別の意見が出されていることにも注意が必要です。

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2014年6月30日 (月)

内部統制評価-会計監査人と第三者委員会にズレはあるか?

今年は「内部統制ブームの再来か」と、当ブログでは再三申し上げておりましたが(たとえば昨年12月のこちらのエントリー)、世間は予想どおりの展開になってきました。会社法改正(企業集団内部統制、運用チェックの法制化等)、景表法改正(製品表示の適正性を確保するための体制の整備)、取締役の法的責任論(住友電工株主代表訴訟等)、そして6月28日の日経朝刊でも報じられていました社会福祉法人改革です。株主総会型のガバナンスを社会福祉法人に義務化するとなりますと、記事にもあるように組織の内部統制への関心が高まるわけでして、もし厚労省が本気で進めるのであれば(成長戦略ですから本気だと思いますが)、一般社団法人の関係者と同様、会社法の勉強をする方が増えるでしょうね。

さて、もう少しマニアックな内部統制の話題になりますが、6月2日のエントリーでご紹介したJBRさん(東証1部)の連結子会社における不適切な会計処理の事件、迷える会計士さんもコメントされているように、せっかく第三者委員会の報告書を受領したにもかかわらず、その10日ほど後に、再度、別の第三者委員会によって再調査を行う旨、リリースされています(6月14日付けリリースはこちら)。従前の第三者委員会報告によっても、会計監査人の疑義が残っているとのこと。従前の第三者委員会報告書は、日弁連ガイドラインに準拠して調査を行う旨宣言されていますが、会計監査人(大手の監査法人さん)は、この弁護士主体による第三者委員会報告に満足できなかったのでしょうか?迷える会計士さんが言われるように、調査スコープに問題があったのでしょうか?

この従前の第三者委員会報告書によりますと、JBR社本体について、内部統制には問題はなかった(もしくは内部統制の限界)と結論付けています。内部監査についても、監査役監査についても、子会社の不正を見抜けなかったことについては「やむをえないものだった」というのが結論のようです。「やむをえなかった」ということが、たとえば取締役・監査役の会社法上の善管注意義務違反はなかったと捉えるのか、それとも、JBR社のJ-SOX法上の内部統制に「開示すべき重大な不備」はなかったと捉えるのか、そのあたりは明確ではありませんが、いずれにせよ、内部統制を無効化するような一部役職員の行動があった以上は、当時の組織の資源からみて内部統制には問題はなかったと判断されているようです。

しかし、JBRのリリースを読みますと、今回の連結子会社の不正については、会計監査人の指摘を受けて、過年度の決算訂正に踏み切ることが明確にされ、現実には6月16日付けで内部統制の訂正報告書も提出されています。自社には内部統制に開示すべき重要な不備があったとしています。また、会計監査人も、過年度決算の修正および内部統制の訂正報告書提出を前提に意見を述べています。

ところで、これまでの実務として、過年度決算の訂正を行う場合には、ほぼ同時に過年度の内部統制報告書の訂正も行います。つまり過年度において内部統制は有効とは言えなかった、と修正することで、会計監査人の適正意見をもらうのが実務です。そこで、先の第三者委員会の「内部統制には問題なし」との判断のもとで、過去の内部統制は有効ではなかった、とする訂正報告書は出せるのでしょうか?(会計監査人としてはどう判断するのでしょうか?)しかも、先の第三者委員会報告書では、内部監査や監査役監査の適正性を判断するにあたり、「会計監査人から問題ない(特に指摘すべき点はない)と言われていたので、やむをえなかった」とされています。このあたりは、会計監査人からみてどうなのでしょうか?

上記のJBRの事案は内部告発が会計監査人に届いたことが不正発覚の要因でした。JBRでは、さらに別の不正疑惑について会計監査人が疑義を呈しているようなので、ひょっとすると、(内部告発者の更なる要求などに基づいて)調査スコープの追加が必要となり、再度の第三者委員会設置に至った、ということかもしれません。ただ、これは私の主観的な意見にすぎませんが、内部統制の有効性に関する第三者委員会と会計監査人の判断の食い違い、不正発見に関する会計監査人の役割といったところの意見の相違などが、今回の「再度の第三者委員会設置」につながっているようにも思えます。後ろからは監査人に届く内部告発、そして前からは第三者委員会の意見・・・、不正リスク対応基準が施行されている最近の会計監査において、監査法人は厳しい状況に置かれることが増えてくるのかもしれません。

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2013年12月26日 (木)

来年は「内部統制」に再び光があたる年になりそうな予感(?)

今年9月2日のエントリ「内部統制への関心が再び高まる時代が到来」でも書きましたが、再び企業の内部統制に光があたる時代になりつつあるなぁと改めて認識しています。若干ポジショントークの感も否めませんが、以下その理由をいくつか示します。

本日(12月25日)の消費者庁HPでもアップされましたが、いよいよ来年から消費者庁主催、日本内部統制研究学会協賛の企画が始まります。詳しくはまた別途ご紹介いたしますが、企業の内部通報制度などの充実を広報するものです。また、消費者委員会で審議される予定のようですが、景表法改正に伴って課徴金制度が導入されるとなりますと、(行政当局の限りある資源を考慮しますと)どうしてもピンポイントによる調査が不可欠でしょうから、対象企業を絞るためにも内部統制の不備に注目されることになると思われます。

※なお、消費者庁主導によるガイドライン行政については、ホントに課徴金で争われたときに大丈夫なのか?という点について、実は書きたいことがありますので、来年にでも別途エントリで書かせていただきます。

また、金融商品取引法において開示責任制度が改正され、虚偽記載に対する法人の過失が要件となるようですが(現行は法人については無過失責任)、おそらく法人の過失というのは内部統制の不備も判断基準にひとつになるのではないかと推測します。つまり開示統制プロセスの構築に不備がなかったことを企業側が立証することで(立証責任は転換されることになりそうなので)、企業の賠償責任が免責される、という理屈になるのではないかと。

さらに、来年6月ころに発表される日本成長戦略の目玉となりそうな公益法人改革ですね。来るべき高齢化社会に向けての医療法人、社会福祉法人、年金基金のガバナンス改革です。行政サービスを日本の津々浦々に確保するため、体力の弱い公益法人は統合されるかもしれませんが、統合を推進するためにも各公益法人の透明性ある経営が求められます。財務状況がしっかりしていて、ガバナンスや内部統制がしっかりしているかどうかが鍵となるところです。私のような地方の弁護士にも、最近とくに、社会福祉法人や年金基金さんから、内部統制構築支援のお仕事が増えてきました。

※年金基金のガバナンスの問題点については、「年金ジャーナリスト」さんのコメントをご覧いただければ問題意識がおわかりになるかと。

今年は名門企業が海外の裁判所で多額の賠償責任が認められるケースや、相変わらず海外不正事件で有罪答弁の合意をしているケースが目立ちました。とりわけ海外の捜査や司法制度に基づく和解勧告や司法取引について「どうして高額の支払いに応じなければならないのか、最後まで争ったほうが得ではないのか」といった難問に直面する企業が出てきています。このような難問にきちんと答えを出せずに和解をしてしまいますと、日本で株主代表訴訟を提起された場合に、役員は免責されるのでしょうか?このあたりの訴訟リスクを回避するための内部管理体制の在り方も議論されるようになるものと思います。

その他、グループ企業の内部統制、みずほ銀行融資問題における企業統治に重点を置いた業務改善命令など、まだまだ数え上げたらきりがありませんが、いずれにしても、スピード経営、透明性のある経営、そしてリスク管理のバランスをとるために、いよいよ来年は本格的に企業の競争力を高めるための内部統制について議論が深まるものと考えています。

拙ブログも、来年3月にはいよいよ10年目に突入しますが、これからも法務ネタを中心として、私自身の意見を発信していきたいと思っています。今年も1年間、ブログをお読みいただきありがとうございました。よいお年をお迎えくださいませ。<m(__)m>

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2013年9月12日 (木)

代表取締役らの内部統制構築義務違反と金商法21条「相当の注意」の抗弁

判例時報2189号(2013年8月21日号)の129頁以下に、従業員による商品先物取引の営業、委託業務に関する不法行為損害賠償責任とともに、社長以下取締役の内部統制構築義務違反による損害賠償責任が認められた判決が登載されています(名古屋高裁判決 平成25年3月15日)。原審(名古屋地裁判決 平成24年4月11日 判例時報2154号124頁以下)も、結論的には高裁判決とほぼ同じ結論ですが、取締役らの責任については従業員に対する業務監視義務違反ということを責任の根拠としています。以前、当ブログでもご紹介した「貴乃花親方名誉毀損損害賠償判決」と同じように、裁判所は、取締役らの内部統制構築義務違反を善管注意義務違反の具体的内容として、会社法429条(取締役らの第三者責任)を根拠に損害賠償責任を構成しています(つまり取締役には「重過失」があるとしています)。

基本となる事案は、商品先物取引会社の従業員に、(顧客に対する)適合性原則違反等について、民法709条による不法行為が認められ、会社自身は同715条の使用者責任として賠償義務が認められるというものです。では、同社の役員らには個人責任は追及できないのか、というところで「共同不法行為」や「業務執行の監視義務違反」「内部統制構築義務違反」が原告(被控訴人)側から主張されていたところでした。

私は、原審が認めた「業務執行に対する監視義務違反」と控訴審が認めた「法令遵守体制構築義務」とを比較すると、以下のような差異が認められると考えています。ひとつは、監視義務は時間軸を持ちにくい概念であるのに対して、内部統制構築義務は時間軸を持つ概念、ゆえに日常的に誠実な企業行動をとっている会社の取締役は法律上も保護される、という点であり、もうひとつは、監視義務違反は、「監視できる立場」に(たまたま)いなかった取締役は救われることになり、不公平かつ常識に反する結論が導かれるが、内部統制構築義務違反は時間軸を持つ概念なので、そのような不公平がなくなり、常識的な判断を導くことができる、という点です。本件のような事案では、この高裁判決の判断手法を私は評価したいところです。

ところで、内部統制構築義務の内容を、時間軸をもって判断する、という手法と捉えるのであれば、会社法だけでなく、金商法21条2項1号による取締役らの開示に関する民事責任の法理にも応用できるのではないでしょうか。有価証券報告書に虚偽記載が認められた場合の取締役の責任については、特別の法的責任として金商法21条2項1号責任が規定されているのですが、そこでは過失の立証責任が取締役らに転換されています。つまり取締役らが虚偽開示の結果を招来させてしまったことについて、相当な注意を怠っていなかったことを立証できた場合には、その責任を免れるというものです(虚偽記載であることを知らず、かつ相当の注意を用いても知りえなかった場合)。

裁判において、この「相当な注意」が立証されることは役員側にとってなかなか困難なわけですが、だからこそ、内部統制の整備および運用に関する状況こそが相当な注意を怠らなかったことの正当事由の根拠となりうる、と考えるべきではないかと。そう考えますと、企業の自律的な行動のインセンティブにもなりますし、また裁判所における判断事由の類型化、客観化につながり、当事者の予測可能性の向上にも資するものになると思います。

なお、上記名古屋高裁の判決文において、社長の内部統制構築義務違反を根拠付ける事実のひとつとして、「主務官庁から業務改善命令を受け、その行政処分の中で、内部管理体制の向上の必要性が指摘されていたこと」が掲げられています。最近、許認可権限の更新等において、行政裁量が付与され、監督対象企業の内部管理体制の有無が審査対象とされる例が増えています。こういった行政の改善命令等において、内部管理体制の不備を指摘されないことが一番ですが、たとえ不備を指摘された場合であっても、客観的に「視える化」した形で体制の整備、運用を改めたことが、取締役の善管注意義務の履行判断にも影響を及ぼすことになるように思われます。

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2013年1月 9日 (水)

日本版SOX法から日本版JOBS法へ-内部統制の行方

安倍政権の下、緊急経済対策によって規制緩和が進むようでありますが、新興企業のIPOにも規制緩和の波が押し寄せてくるようです(産経新聞ニュースはこちら)。新興企業の資金調達を支援する一環として、内部統制報告制度(日本版SOX法)のさらなる簡略化が進むように報じられていますが、IPO時には、たしか3年ほど制度の適用が免除される、という話で進んでいたのではなかったのでしょうか?(ちがいましたっけ?)提出を要する財務諸表も2年分程度でよい、ということになりますと、政策としてはずいぶんと画期的なものになるかもしれません。

ところで、今朝の日経新聞で、トヨタ社の米国リコール訴訟の記事に関連して報じられていました。グローバル企業の海外訴訟防衛のために、上場会社の重大な虚偽記載に関する民事責任について、無過失責任から過失責任に改正(金商法を改正)する、ということが検討されているようです。そうなりますと、たしかに企業が金商法上の開示責任が追及されにくくなることは間違いないと思われます。しかし一方において、どこの会社も「法人の過失責任が認められる体制だけはなんとか避けたい」と考えるようになるのではないかと。そうなると、財務報告の信頼性を確保するための内部統制がキモになってくるでしょうから、内部統制報告書の内容は簡略化(省略化?)されることになったとしても、会社法上の内部統制システムの構築のレベルは、事実上厳格になっていく、ということにならないのでしょうか?

但し、実際に訴訟を起こされるかどうかは、やはり企業の自浄能力の有無にかかっているものと確信しております。このあたりは企業活動を評価する基準となる「安心」と「安全」の区別に関する国内外の意識の違いにもよりますが。

経済再生のための施策のなかで、金商法の改正に絡む問題が、いろいろと出てくる可能性がありますので、今後は政府の対策に注目しておきたいと思っております。

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2011年8月 2日 (火)

日本内部統制研究学会(第4回)のお知らせ

中山研一先生が7月31日に逝去されたとのこと(bunさんのブログで訃報を知りました)。昔、司法試験浪人だったころ、乾研一(中山研一)先生には「関大答練」では何度もお世話になりました。「中山刑法」は正直苦手でしたが、先生には「学説を覚えるよりも現実の出来事に条文をどう引っ張ってくるのか、秩序維持と人権保障のバランスをどのようにとるのか、実務家になりたいなら常にそこを意識するように」と2回ほどアドバイスをいただきました。たしか当時は大阪市立大学の教授でいらっしゃったと記憶しておりますが、他大学出身の受験生にも熱心に教えてくださり、刑法の合格レベルを認識させていただきました。お礼とともに、心よりご冥福をお祈りいたします。

月刊監査役8月号(587号)に、内部統制研究の分野で第一人者でいらっしゃる柿崎教授が「日本の内部統制制度の運用も、そろそろ次のステージに移りつつある」と指摘しておられますが、私も同様に感じております。とくに中小上場企業の強みを生かした内部統制の運用を実践してきた企業は、誰に言われずとも効率性や有効性向上を図ってきたため、形式的な運用に終始してきた企業との差は歴然としてきたように思われます。

私が所属する関西の内部統制研究会も、(参加者はかなり減りましたが)もうすでに発足して5年が経過いたしました。しっかり取り組んでこられた企業の担当者の方は、本体だけでなくグループ会社や海外買収会社のJ-SOX対応に関する効率化に成功し、さらにIFRS任意適用に向けての準備も順調で、J-SOX対応によって得た監査法人の信頼も厚いところであります。私自身も、このたびの内部統制報告制度の見直しを題材として、モニタリングを活かした効率的な内部統制の運用を旬刊商事法務6月15日号上の論文にて提案させていただきましたが、限られた資源によって最大限の効果を得られるJ-SOX対応を、今後も検討していきたいと考えております。

さて、今年も日本内部統制研究学会の季節がやってまいります。今年は9月5日に関西学院大学にて、ご存じ平松一夫先生を準備委員長として開催いたします。(詳しくはこちらの日本内部統制研究学会のHPをご覧ください)午前中は、わが研究会のエースである雑賀(さいが)さんの「中堅中小上場企業における有効性と効率性を両立した内部統制」の発表がありますが、この5年、これほどまじめに内部統制システムを現場で実践してこられた方も、あまりいらっしゃらないのでは・・・と思います。好き放題、彼に管理部門をいじらせたニイタカの社長さんは偉い!(笑)。その結果、ニイタカ社の内部統制は目に見える形でハイレベルとなり、それに気を良くした(のかどうかは定かではありませんが)社長さんは、この規模の中堅企業では異例ともいえる企業内弁護士(東京の大手建設会社から転職)を採用されたのであります!

また午後からは高橋さんの「『損失の危険の管理』の規定の意義と今後の課題」について、たいへん関心がございます。高橋さんも新日鉄の監査役室時代より、内部統制研究の第一人者であり、震災後の日本企業にとって非常に関心の高いテーマをとりあげておられます。テルモ社、しまむら社、ヤマト運輸社など、震災後の危機対応としての情報開示がアナリストの方々に高く評価され、かつ株価にも大きく反映した事例は何度も日経新聞で取り上げられましたが、会社法に規定された「損失の危険の管理」をJ-SOX対応を通じて実践されてこられた企業の姿は、今後の各社の対応にも参考となるものであります。

雑賀さんと同じ時間に別教室で発表される「震災後のリスク管理体制の融合的構築の必要性と内部統制報告制度改訂の影響」も関心のあるテーマです。今年は関西での開催ではございますが、内部統制報告制度という「形」に「魂」を入れ始めた企業と、そうでない企業は、この4~5年でどう変わってきたのか、そのあたりの参考となる学会になるのではないかと期待をしております。どうか多数の方々のご参加をお待ちしております。<m(__)m>

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2009年11月18日 (水)

内部統制(J-SOX)廃止論に対する私見

本日(17日)の日経新聞「大機小機」では、「制度いじりはやめよ」というタイトルで、なかなか刺激的な内容であります。鳩山政権に期待したいのは「誤った企業統治制度を企業に強いたことによる傷の癒し」であり、その一例として「無駄な仕事ばかりをふやし、性悪説的な経営を強いて日本企業の強みを破壊してしまった内部統制制度を速やかに廃止することである」と述べられております。つい先日、某大手監査法人の代表社員クラスの方も、同様の意見を熱く語っておられました。日本企業の強みを破壊してしまうほどの効果が内部統制報告制度にあったのかどうかは定かではありませんが、先日のラウンドテーブルにおきましても、制度上の課題として、過剰な対応が問題視されていたことは事実であります。ただ、私自身はこの制度がそもそも悪いのではなく、制度の運用に問題があるのでは、と考えておりまして、まだPDCAの「PDC」までしか運用されていないのに、どうして廃止論が出るのか疑問であります。(そもそも内部統制制度が「性悪説的」な発想で作られた・・・という認識が広がっていること自体、制度運用において誤っているところがある証拠であります)

先日来お伝えしておりますように、私はここ数週間で約80本ほどの「不適切な会計処理」に係る社内調査委員会、社外調査委員会の報告書を精読いたしましたが、不祥事の原因分析と再発防止策にはほぼ共通した傾向がみられまして、不祥事の原因については①機会の存在(従業員や役員が不祥事に手を染めるチャンスが存在すること、たとえば長期間同じ職場に居座っているとか、ダブルチェック機構がないとか、職務分掌が整備されていないとか)と②独立したモニタリングの不備(たとえば内部監査が機能していないとか、監査役がきちんと監査していないとか、子会社管理ができていないとか)、そして再発防止策も、機会の防止とともに独立的モニタリングの充実があげられております。そして結局のところ、過年度の決算を訂正しなければならないほどの重要な虚偽表示に至ったもっとも大きな要因は、このモニタリングの不全による損害拡大であります。不祥事といえば、不正にせよ誤謬にせよ、この機会の存在のほうに目が向きがちでありまして、内部統制システムの構築にしても、この「穴をふさぐ」ことが注視される傾向があります。しかし(私の見解ですが)、穴はどんなにふさいでみても、人間の組織である以上はまた別の穴ができるわけであります。(組織には人的資源にかぎりがありますから当然ではないでしょうか)むしろ必要なのは穴があいたときに、誰がその穴を発見するのか、その穴を利用して不祥事が発生していれば、それを誰が早く発見するのか、発見した不祥事を隠さずにきちんと社内で対応できるのか、というところの問題対策でありまして、ここはどう考えても「情報監査」を中心とする財務諸表監査だけでは対応は困難であります。したがいまして、内部統制の全社的統制に関する評価に期待されるところであり、ここをどうやって開示規制たる内部統制報告制度の中で運用していくのか、というところにこそ今後の課題があるものと思っております。

たとえば最近の例でいえばユニオンHD社の場合、経営トップの方は重要な業務執行を独断でされており、取締役会は全く開かれていなかったそうであります。(監査役の方々はどうしていたのだろうか・・・との疑問も湧いてきますが・・・)元社長さんは監査法人さんから議事録の開示を求められると、勝手に議事録を作成して、これを監査法人さんに開示していたとのこと。(ニュース報道より)監査法人さんとしては、財務諸表監査においてはこの議事録を形式的にチェックすれば足りるのかもしれません。しかし、不正発見への期待が高まり実態監査まで求められるとするならば、たとえば監査役会と協議をしたり、他の取締役からヒアリングをするなどが必要になってくるわけで、「開示規制」である以上は、そういった実態監査のなかで「怪しい」と感じたその評価結果を意見として開示し、投資判断に活かせてこそ「ディスクロージャー制度による企業統治」と言えるのではないでしょうか。また監査役さんからみて「おかしい」と感じたガバナンス上の問題があれば、これを経営者と協議して、より慎重な全社的統制への評価を経営者にしてもらい、これを開示することが「ディスクロージャー制度における企業統治」と言えるのではないでしょうか。先の大機小機では経営の透明性を追求することが、企業の資産を明るみにしてしまったり、誰にでもわかりやすい経営手法を求めることになり、これでは企業は戦えないとのことであります。しかしガバナンス論でいわれる「透明性」とは、そもそも株主に自己責任を問えるだけの情報開示・・・という意味ですから、とくに経営ノウハウを開示するものでもありませんし、もしわかりにくい経営手法で勝負するのでしたら、あとは経営者がIR活動によって説明責任を尽くせばよいだけの話であります。また会社資産の問題にしても、今年の不正競争防止法の改正をみれば明らかな通り、営業秘密等の資産管理は別途法律によって対応が進んでいるわけでして、「透明性」とはあまり関係のない話のように思います。

会社法上の内部統制の話は別として、金商法上の財務報告に係る内部統制報告制度は、日本には珍しくプリンシプルベースの規制手法であります。一般に公正妥当と認められる内部統制評価の基準に準拠して、経営者が有効性に関する自己評価をして、これに監査人が意見を述べる、というものであります。費用対効果に問題があるとされておりますが、この「効果」が個々の会社の業務の有効性や効率性、不正リスク管理といったところだとすれば、もう効果の検証は済んだのでしょうか?この「効果」を資本市場の健全性向上と捉えるのであれば、本当に費用対効果が見合わないことへの検証は済んだのでしょうか?私はとくに監査法人の人間でもありませんし、J-SOXコンサルティングの立場でもありませんので、とくに内部統制報告制度が廃止されても困らない立場ではありますが、ここでプリンシプルベースでの規制手法に対応できないとすれば、今後のIFRSの強制適用は内部統制報告制度の比ではないと思われますので、企業の会計制度の変遷による疲弊度は著しく大きなものになってしまわないでしょうか。内部統制もIFRSも、開示規制による制度であることの意味(違反した企業にはいったいどんなペナルティが待ち受けているのか?)を、もう一度きちんと把握しておく必要があると思います。内部統制報告制度が過度に企業を疲弊させているのが現実だとすれば、あらためて制度運用上の問題点を修正すべきである、と考えております。

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2005年12月14日 (水)

内部統制を「法律家が」議論する理由

忘年会の真っ只中でして、けっこうヘロヘロになりながら帰宅しておりますが、ちょっとだけエントリーいたします。neon98さんが「法律家が内部統制を勉強している」ことへの興味を感じておられたり、よくコメントをいただきます 辰のお年ご さんが、そろそろ弁護士も内部統制に関する研修会を開催する時期では?といったコメントを残しておられるので、私がこの「内部統制論」に興味を抱いている理由について、すこしだけ触れたいと思います。

そもそも企業コンプライアンスといったものに興味を持ったのが発端であります。病院の脱税事件を数件担当した関係から、再犯予防のためのシステムを構築して、これを刑事裁判所に紹介して、代表者や法人の刑事処分(主に罰金)をなるべく軽くしてもらうために、病院コンプライアンスシステムの構築を手がけたのがきっかけであります。そのとき、病院だけではなく、企業についても法令遵守プログラムのようなものを、従業員の勤労意欲を向上させながら組み込むことができないだろうか、との疑問を抱きつつ、学習し始めたのが「COSO報告書」を中心とした内部統制システム構築論でした。したがいまして、私の場合には体系書から門を叩いたわけではなく、仕事の必要に迫られて勉強を始めたほうの部類に属します。(したがいまして、いまでも理論上の問題点など、詳しく理解しているわけではありません)

さて、社会的には日本版SOX法の適用問題などから、いままさに内部統制システム、といった言葉が流行しておりますが、アメリカのSOX法404条などをお読みになりますとおわかりのとおり、この内部統制論というのは、1950年代から日本でも会計監査の世界では、共有されていた言語として用いられているわけでして、言葉自体が真新しいものではありません。とりわけ、昨日ご紹介いたしました企業会計審議会内部統制部会の「とりまとめ案」記載のとおり、今後も内部統制システムの構築自体は、財務諸表監査を行う会計監査人による評価、検証の問題が一次的なものであると考えております。ただ、それでは「企業会計の専門家」でない弁護士が、この内部統制論を議論する必要性はどこにあるのでしょうか。これは私の全くの個人的見解ですが、ふたつある、と考えております。

ひとつは純粋な法律家の仕事としての「会社法の解釈問題」として、であります。監査役として、そしてコンプライアンス委員として、毎月、別々の企業の戦略会議や役員会などに何度か出席していることからの感想ですが、たとえ会社法によって「委員会設置会社だけでなく、監査役設置会社においても」業務の適法な意思決定過程および適法な執行過程を確保するためのシステム作り(これを一般に内部統制システム構築義務、と紹介されておりますが)につきまして、これはそもそも取締役や監査役にとっての「善管注意義務」の範囲に含まれるものなのかどうか。すでにご承知のとおり、未だ「内部統制システム構築」といった用語の中身が一義的に明確なものではなく、まだ漠然としたものであります。また、これも一般に「内部統制の限界」として通説的に言われておりますように、システム構築にはたいへんな予算が必要となるわけでして、企業によっては「システムを完全に構築したくでも、企業の費用が捻出できない」といったこともやむをえないところであるわけです。そういった事情から鑑みれば、いくら会社法に根拠を置く義務だからといって、すぐに取締役の善管注意義務として構成できるかといいますと、企業の現状次第、ではないかと思います。また、従業員の法令違反行為によって会社以外の第三者が損害を被ったとき、使用者責任が問える場合であればいいのですが、従業員自身の不法行為責任が問えないような場合において、企業の内部統制システム構築義務違反を根拠に、取締役の第三者責任を追及することができるのか、さらには企業自身による不法行為といったものを認めることができるのか、(取締役の義務と構成するのか、企業自身の義務と構成するのか、によって損害賠償請求権者も変わってくる余地があります)そのあたりの解釈論を進化させるためにも、法律家が議論する実益は非常に大きいように思います。

そしてもうひとつは「共通言語」のインフラ化としての意味が大きいと思っております。今年に入って、大阪弁護士会の業務改革委員会は、公認会計士協会関西支部との間におきまして、「LLP、LLC勉強会」「社外取締役、社外監査役シンポジウム」など、相互の業務コラボレーションを目的とした共催行事を開始いたしましたが、まだまだ相互の業務内容について認識を深めるための材料に乏しい、というのが現状です。それなら、弁護士が会計士の資格を取得したり、会計士が弁護士の資格を取得すればいい、といった意見もありますが、これも現実には非常に困難の伴うところであります。そこで、たとえば「内部統制システムの評価」という問題は、私の感覚では会計と法務の中間あたりに位置付けられる領域の問題でして、これを概念として理解できれば、会計士さんの行うべき企業会計の世界をすこりばかり理解できるのではないか、といった印象をもっております。同じことは新会社法を理解するうえでの会計士さんの立場にも言えることだと思います。(また、同様に経営者と会計監査人との共通理解のためにも、同様に内部統制システムに関する認識は有用性があるのではないでしょうか。)こういった共通言語を育てることによって、企業のリスクマネージメントに生かせるのではないか、というのが「内部統制」を法律家が学習するための実益だと思っております。ここのところ、東証の取引システムの不良が問題となっておりますが、これも、たとえば東証の中に「システム管理室」があって、富士通のシステム開発部門との間において、なんらかの「橋渡し的な」役割を担っていたとすれば、少なくとも今回のようなリスクを認識し、そのリスクが東証にとってどの程度の重大なものであるかの評価をして、さらに予算との関係から、そのリスクを「放置するのか」「回避するのか」「低減するのか」、を選択までの作業は可能だったかもしれません。すくなくとも富士通のシステムがブラックボックス化していなかったことは間違いないと思います。同様に、このたびの会社法はその省令、規則部分まで含めまして、企業会計に関する理解は必要でしょうし、会計基準に「見積り的判断」がますます必要になってきた企業会計においては法律判断に関する理解が必要になってきているわけですから、専門家による支援を要する企業のためにも、こういった中間領域における「共通言語」を学習することも非常に有益ではないか、と思う次第です。

なんだか、ずいぶんと偉そうな物言いになっておりますが、私自身、まだまだ勉強中の身です。また、いろいろな仕事のなかで、印象が変わるかもしれまんので、あしからずご了承ください。

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