東芝の内部統制報告書に「不適正意見」が付された意味は重い
今朝の朝日新聞(東京版、大阪版とも)に、東芝決算問題に関する私のコメントが掲載されておりますが(数日前にブログで書いた「三方よし」の見解です)、実際に財務諸表監査、内部統制監査の結果が公表されたことに関連して、内部統制報告制度の原則論から、私なりの意見を述べたいと思います。なお、内部統制報告書は、マスコミ報道にあるような「有価証券報告書に付随した」報告書ではなく、あくまでも独立した報告書です(金融庁立案担当者が著者とされている「総合解説内部統制報告制度」税務研究会出版局2007年 59頁)。
昨日(8月10日)、東芝さんの2017年3月31日現在の内部統制報告書について、会計監査人であるPwCあらた監査法人さんは「不適正」との意見を表明しました。私も、あらためて昨日EDNETにリリースされた内部統制監査報告書を読んでみました。マスコミでは、同社の3月期連結財務諸表の監査において「限定付き適正意見」が付されたことに関心が向けられていますが、今年3月末時点においても、東芝さんが提出した内部統制報告書は「報告書全体として虚偽の表示に当たる」と会計監査人が意見表明した意味はとても大きいと考えています。
上場会社の提出する内部統制報告書に、会計監査人が「意見を表明しない(意見不表明)」とする例はときどきみられます(たとえば今年はタカタ社のケース等)。しかし、2008年の制度施行以来、「不適正意見」を出された内部統制報告書は記憶にありません(もしご存知の方がいらっしゃいましたら教えていただけますでしょうか)。ちなみに、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準、Ⅲ(財務報告に係る内部統制の監査)4.監査人の報告(4) 意見に関する除外」では、監査人が不適正意見を表明する要件として、以下のように規定されています。
② 監査人は、内部統制報告書において、経営者が決定した評価範囲、評価手続、 及び評価結果に関して不適切なものがあり、その影響が内部統制報告書全体として虚偽の表示に当たるとするほどに重要であると判断した場合には、内部統制報 告書が不適正である旨の意見を表明しなければならない。この場合には、別に区 分を設けて、内部統制報告書が不適正である旨及びその理由、並びに財務諸表監 査に及ぼす影響を記載しなければならない(下線部分は筆者作成)。
ここで強調しておきたいことは、内部統制報告書の「不適正意見」は決して過去の会計上のミスに対するペナルティではない、ということです。今年3月末時点でも、東芝さんの内部統制は有効ではない、財務報告の信頼性はない、投資家の皆様にはこれからも注意してください、ということをレッド・フラッグとして発信している点が重要です(だからこそ、内部統制報告制度は金融商品取引法上の開示規制として位置づけられています)。内部統制報告制度は、投資家保護のために「財務報告の信頼性に関する将来の危険」を経営者および監査人が発信する点に重要な意義があります。
財務諸表については「限定付き適正意見」だが、内部統制については「不適正」とした意味は、WH(ウェスチングハウス)社は連結から外れてしまったのだから、すでに東芝さんの内部統制上の不備は解消されたではないか、といった単純な問題ではなく、財務諸表の重要な虚偽表示を解消する機会があったにもかかわらず、あえてやろうとしなかった東芝全体のガバナンスに今でも問題がある(統制環境という内部統制に重大な不備がある)というのが監査人の意見の本旨ではないでしょうか。
昨日の朝日新聞WEB版(有料会員)記事「東芝と監査法人、信頼関係はなぜ崩壊したのか」に、驚くべき新事実が掲載されていました。東芝さんの内部文書を精査した後の監査人と東芝さんとの協議の場で、会計監査人は金商法193条の3(法令違反行為の是正通知制度)の発動をちらつかせたそうです(やはり当初は「会計不正」を問題としていたようです)。この時点でがぜん両社の関係が険悪になったとのこと(おそらく、会計監査人のところへは、表に出ていないような内部告発もあったのではないかと推測します)。このような先鋭的な対立があったということは、やはり今でも会計監査人としては、東芝さんのガバナンス(全社的内部統制)に信頼を置いていないのではないかと思います。
半導体事業を高値で売却しなければならない東芝さんにとって、ステイクホルダーに対するリリースの信用性は重要ですが、「そのリリースには十分気を付けてください」との警鐘が鳴らされた意味は大きいですし、また内部管理体制の健全化が確認されなければ上場廃止とされてしまうという意味で、東証さんの審査にも大きな影響が生じると考えています。昨日の社長さんの会見で「内部統制には全く問題なし」と述べておられるのはあくまでも東芝さんの立場からの意見であって、監査人の立場から別の意見が出されていることにも注意が必要です。
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