2010年9月29日 (水)

貴乃花親方名誉棄損事件控訴審判決と経営者個人の法的責任

新潮社、講談社を相手とした貴乃花親方名誉毀損事件判決は、何度もこのブログでお伝えしているところでありますが(たとえばこちら)、朝日新聞ニュースによりますと、講談社事件について本日控訴審判決(東京高裁)が出まして、講談社の社長さんは一審よりも賠償金額が増額された判決を受けてしまったそうであります。いわゆる内部統制構築義務違反について、講談社の社長さん個人に重過失があり、第三者に対して賠償責任が認められているわけですが、その金額は法人自身の賠償額と同額とのこと。私はてっきり第一審では法人の賠償責任だけが認められ、代表者個人の責任は否定されたのかと思っておりましたが、第一審でも注意義務違反は認められていたようであります。

つまり新潮社事件、講談社事件とも、大手出版社の社長さん個人が貴乃花親方に対して内部統制構築義務違反に関する「重過失」ありとして賠償責任が認められていることになります。出版社における編集権の独立、といった問題も残りますが、表現の自由の確保が特に求められる業界であるがゆえに(つまり外からの事前規制と相容れない業界であるがゆえに)、出版社にはとくに自律、つまり法令遵守のための内部統制システムが厳格に構築されなければならないものと思われます。そのあたりの出版社の特殊性を考慮してもなお、内部統制構築義務違反が社長個人の重過失と結び付くことを示す事例としてはきわめて重要な先例になりうるものと考えております。最高裁で消極的な判断が下された日本システム技術事件判決の例もありますので、今後最高裁における判断がさらに注目されるところです。

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2010年4月14日 (水)

消費者事故等に係る情報開示制度と内部統制構築義務

4月14日の日経朝刊に おおすぎ先生の公開会社法制に関するご意見が掲載されるようですので、ぜひ拝見しておきたいと思っております。たぶん本日の上村先生のご意見とは異なる立場からのものなんでしょうね。(以前の金融・商事判例の論稿に近いものかと。)最近はネット上でも「経済教室」が読めてしまうようになりましたね。でもやっぱり日経は新聞を広げて読むほうが「脳の活性化」のためには良いように思うのですが、いかがなものでしょう。ドン・キホーテさんの「WEBチラシ」は大好きなのですが、日経紙面とヴェリタスは、どうもWEBチラシで読む気にはなれません。。。笑

先日「商事法務のコンプライアンス-その光と影-」なるエントリーを書きまして、とくにフォローするつもりではございませんが、NBL最新号(926号)の論稿「消費者庁の設置と消費者事故等の情報開示制度への対応」を拝読いたしました。なんやかんや言っても、やっぱりこの雑誌はオモシロイなぁ。。。消費者安全法に関する行政作用法としての性格と、13条公表、15条公表の意味が、わかりやすく解説されており、実に秀逸な論稿です。実は、私が執筆しております新刊書でも、この消費者庁における一元的な情報集約と情報開示が企業にどのような法的リスクを及ぼすか?ということに言及しておりますが、そのなかで情報開示と内部統制構築義務の関係について触れております。

4月1日から消費者庁HP「事故情報データバンク」が開設されましたが、ここに自社製品に関する消費者事故情報が掲載された後で、拡大製品事故が発生した場合、おそらく被害拡大に関する損害につき、製造企業の取締役さんはかなり重たいリーガルリスクを背負うのでははないかといった意見であります。普通はここに情報が掲載される以前に、メーカーさんのほうで事故情報は把握しているでしょうから、そもそも全くチェックをしていない、という事態も想定しにくいかとは思いますが。ただ事実確認から、原因分析、再発防止策検討、回収の要否まで、早急に対応できる体制を整えなければ、今回のトヨタさんのように品質管理から経営管理まで問題視される事態となってしまうのではないか、といった問題提起であります。せめて開示情報の管理くらいはリスク管理の一環として「消費者庁時代の常識」になりつつあるのではないかと。

新刊書の原稿を書き終えまして、「ここまで書いてしまって、まったく的外れなアホなことと思われたらどうしよう・・・」という一抹の不安を抱いておりましたが、日本で最も大きな法律事務所(これもとくにフォローするつもりではございません・・・・(^^;;  )の先生が「担当取締役の善管注意義務違反ないし内部統制体制構築義務違反とされる可能性は否定できないであろう」と同様のご意見を私見としてお持ちのようですから、とりあえずアホなことを考えていたわけではないようで、ホッとしております。

一昨日のエントリーとも関連しますが、厚労省が田辺三菱製薬さんに「異例の」業務停止処分・・・とありました。(ここで日経ニュースのリンクを貼れないのがちょっとツライ・・・)でも消費者庁ができて、情報集約の一元化がはかられる時代に、(しかも民主党政権下において)誰も好きこのんで最終責任を負う官庁はいないと思いますし、消費者に迷惑をかける企業はたとえ大企業でも厳格な処分が発令されるのはあたりまえになっていくのではないかと思います。とりわけ消費者の生命・身体の安全に関わる商品、サービス提供についてはご留意ください。

PS 発信者情報開示等請求事件について、立て続けに2件の最高裁判決が出ておりまして、こっちもエントリーをしたいのでありますが、ちょっと時間的な余裕がないので、どなたか他の方のエントリーを探してみます。

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2008年4月14日 (月)

取引的不法行為と会社法上の内部統制構築

4月14日発売の日経ヴェリタス「放電塔」でも少しばかり紹介されておりますが、リーマン・ブラザーズ証券が丸紅社を被告として総額352億円の支払を求める裁判を東京地裁に提起したそうであります。リーマンがアスクレピオス社を介して病院再生事業に371億円のつなぎ融資をしたのでありますが、アスク社が破綻し、投資事業組合が集めた約400億円の行方がわからなくなってしまっているそうです。なお(一方当事者からのリリースではありますが)12日に丸紅社より、リーマン社の訴状内容(概要)と自社の反論要旨が開示されておりますので、詳しい事例内容につきましては、そちらをご参照ください。とりあえず、リリースの2ページ目に事案概要を図式化したものが掲載されておりますので、これがわかりやすいように思います。

丸紅社リリースから推測されるリーマン社の訴状の組み立てでありますが、①丸紅社の契約責任の追及(ただし、リリースからは「納品請求受領書」がリーマン社宛に保証の趣旨で出されたものなのか、投資事業組合宛に出されたものについてリーマンが代位して主張しているのかは不明でありますが、実質的には丸紅社とリーマン社間における融資債務に関する保証契約の有効性を前提としているように思われます。普通は会社法362条により、これだけの高額取引であれば取締役会決議が必要ですよね)、②かりに契約の有効性が認められないとしても、リーマン社は丸紅社の社員によって詐欺的被害を被ったのであるから、使用者責任(民法715条)に基づいて丸紅社に対して取引的不法行為に基づく損害賠償を請求する、というものであります。

本件に関与したとされる丸紅社元嘱託社員(懲戒解雇済み、双方より刑事告訴あり)2名が、どのような地位にあったのか、どういった理由で丸紅社内における取引が可能だったのか、といったあたりは不明ではありますが、おそらく取引的不法行為の責任が丸紅社に及ぶかどうか、といったあたりが実質的な争点になるものと思われます。ご承知のとおり、社員がその事業の執行について他人に損害を与えた場合には、社員とともに会社自身も使用者責任を負担するわけでして、この「事業の執行について」リーマンが丸紅社社員によって詐欺的行為による被害を受けたかどうか、という点がもっとも問題となるところではないでしょうか。

この「事業の執行について」といえるかどうか、判例はいわゆる「外形標準」説を採用しておりまして、この丸紅社元嘱託社員による保証的契約締結行為が「外形から客観的に判断して職務の範囲内であるかどうか」によって判断されることとなります。ただ、こういった外形標準説というものは、そもそも社員の行為を信頼して取引をしている相手方を保護するためであるといわれておりますので、「外形標準」とはいいましても、その取引相手方に社員の行動を信頼するにあたっての「落ち度」がある場合には、保護に値しない、ということも判例で認められております。どういった場合に保護されないかといいますと、悪意もしくは悪意に準じるような重大な過失が取引相手方に存在する場合、とされております。丸紅社のリリースのなかでリーマンの高額取引における確認義務違反をはじめとする「落ち度」について厳しく反論する趣旨は、本件において取引的不法行為による使用者責任が認められない、との主張と裏付けるためであろうと推測されます。

進行中の裁判ゆえに、どっちが有利だとか、こんな証拠があればこんな主張が通るのではないか・・・といった個別論点に踏み込むことはいたしませんが、一般論としてみると、たとえば取引的不法行為の相手方に「重過失とはいえない程度の過失」があった場合にはどうなるのだろうか・・・といった疑問が湧いてくると思います。「重過失」といいますのは、そもそも相手方の「悪意」(本件でいえばリーマン社が丸紅社員らが勝手に印鑑等を偽造して契約行為を行っていることを知っていること)を立証することが至難の業ですので、悪意があったのと同程度の非難に値するような重大な落ち度が立証されることが必要、ということを意味しております。嘱託社員の高額の取引的行為・・・というものが、そもそも「丸紅社においてあまりにも不自然な行為であって、ありえない。また天下の有名証券会社にとっても、そんな高額取引について嘱託社員を相手とすることもありえない。」と評価されるのであれば、外的的に見て「事業の執行について」不法行為があったと認定されないものと思われますが、そこで主張が認められない場合には、この重過失と過失の問題に直面する可能性が出てくるような気がします。

「会社法上の内部統制と司法判断」といいますと、大和銀行事件に代表されるような、取締役や監査役の善管注意義務(監視義務)違反に基づく法的責任問題を思い起こします。しかし今回のような取引的不法行為の外形標準理論や、代表取締役がその代表権を濫用して重要な取引を行った場合など、基本的には取引の相手方が保護されるケースにおきましても、取引相手方の過失の程度が問題となる場合があると思いますが、会社法上の内部統制システムの構築に関する議論が進むにつれて、保護されるべき過失の程度などに、いろいろと影響が出てくるのではないでしょうか。たとえば取引的不法行為の成否が問題となるような場面におきまして、(使用者責任を免れるための要件である)企業側の「相当な監督をしていた」事実を立証する場合におきまして、たとえ不法行為を行った社員を直接監督していなかったような状況があったとしても、そういった取引的不法行為を合理的に防止しうる程度の統制システムが構築されていたと評価される場合には「監督責任を尽くしていた」と認定できる場合も出てくるでしょうし、また内部統制の基本方針に基づき、整備の具体化や運用状況のチェックをするのが大会社の通例となりつつあるのであれば、取引相手方としては「社内チェック工程」の存在も十分予想がつくはずであり、「重過失」だけでなく、相手方保護のためには「無過失」であることも要求されてよいのかもしれません。また取引相手方の「表明保証」のとり方も問題になるケースも出てくるでしょうし、取引相手方自身も大きな会社であれば、自社のリスク管理の一貫として、高額融資を行う場合の取引内規が当然の内部統制ルールとして評価され、その内規に反する取引自体が「過失」とされるかもしれません。

内部統制システムの構築論によって、取引の安全が高度に要求される商取引の効力に影響を与えることは直接的にはないものと思っておりますが、たとえば会社の代表権の内部的な制限の問題とか、権限濫用の問題とか、監督責任の問題など、会社内部の手続ルールに破綻が生じ、この破綻が取引相手方の主観的な要件にも影響を与えるような場面におきましては、その規範的要件を基礎付ける事実の選択とか、規範的要件自体(重過失か軽過失も含むか、など)に「内部統制の構築論」が関連する時代になってきたのではないかと考えたりしております。本件のリーマンとしましては、詐欺被害に関する保険請求をするための要件として「とりあえず裁判はきちんと提起しておこう」と考えての提訴なのか、それとも「丸紅は絶対に許せない」という趣旨での本気の裁判なのかは存じ上げませんが、いずれにせよ非常に興味深い内容の裁判でありますので、今後の展開については注目しておきたいと思っております。

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2007年5月31日 (木)

事業リスクと内部統制の基本方針(その2)

またまた昨日のエントリーには、たくさんのご意見を頂戴しまして、どうもありがとうございました。監査役サポーターさんがおっしゃるとおり、わずかばかりの情報から、連結グループ企業15万人もの従業員がいらっしゃる日本の代表企業群のことを軽々に論じることは少しばかりためらいもございますが、常識的にみましても、10人ばかりの社員で23億円の会社資金を操作する・・・という事態はかなり異常ではないかと思いますし(これが組織ぐるみで23億・・・ということでしたら、たいしたことないのでは・・・ともいえそうですが)、昨年のNECS(子会社)における多額の架空取引とも併せ考えますと、社会的な非難の対象となってもやむをえないところがあるかもしれません。なお、本日(5月30日)のフジサンケイビジネスアイの記事におきましては、一連のNECの資金還流を解説したうえで、組織的な犯行といったニュアンスで書かれています。(フジサンケイビジネスアイの記事はこちらです)

昨日のエントリーへのいろいろなご意見を拝読いたしまして、「こんな不祥事が発生した。しかも内部統制システムに関してはレベルの高いものを構築しているにもかかわらず。だから内部統制に高額の資金投入はあまり意味がない」といった論調にもある程度は首肯しうるところがあるようにも思えます。ただ、交通整理をしておかなければならないのは、私の場合は(とくに会社法が規定している)内部統制システムの構築はあくまでもリスク管理を目的とするものであること、つまり不祥事リスクについては人間の利益獲得を目的とする集団である会社においては、不可避であることをまず認めて、その早期発見や被害額を最低限度に抑制するための仕組みと考えております。そして、「企業の体質改善」といった構造そのものを検討することも、こういった内部統制システムの構築と無関係とはいえないと思っています。ひとつの例として内部通報制度(ヘルプライン)が挙げられます。これは、企業体質が「不正を許さない構造」に一歩でも近づくものであれば、集団のなかにひとりでも真剣に声を上げる人が出てくることによって成立する制度であります。つまりいくら精密な内部通報制度を確立したとしましても、不祥事を仄聞する従業員の意識改革(たとえば10人のうち1人でもいいので)が期待できなければヘルプラインは機能しないわけでありまして、要するに構造改革の努力なしには内部統制システムの有効性は保証されないものと考えられます。もちろん異論もあるかとは存じますが、こういった意識改革のためには、社長の関与というものはとても大切だと思いますし、たしかに無力な場面もあろうかもしれませんが、「不祥事防止はリスク管理そのものである」の考え方からすれば、目に見えないところで(公表されていないところで)相当数の不正行為を早期に発見し、またその被害を極小に低減させているかもしれません。

これは単なる思いつきでありますが、この23億円の還流に関与した社員たちも、また昨年の架空取引事件に関与したNECS社員の行動も、いずれも2000年ころからの不祥事であります。ところでNECは2000年4月から社内カンパニー制を導入しております。おそらく事業ポートフォリオの見直しとして、インターネットソリューションに特化した3部門に資源配分を集中させるようになったようであります。こういった社内カンパニー制は現在も存在するものと思いますが、こういった制度が必要以上にカンパニー間での売上競争を助長していなかったのか、経営トップによる管理の目が社内カンパニー制度の拡充によって「目の届かない」範囲を作ってしまったことにはならないのか・・等、いろいろな点も検討しておいたほうがよろしいのではないか、と思っております。1990年代から、NECの場合には防衛庁事件などにも関与していたことがありましたので、単なる偶然かもしれませんが、横領開始の時点と、カンパニー制導入の時期がほぼ一致するということで、なにか企業戦略のあり方と今回の不正を生み出す環境変化との関連性も当然問題視されていいようにも思えます。(以上)

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2007年5月30日 (水)

事業リスクと内部統制の基本方針

昨日は京都地裁で、本日は名古屋地裁、連日ちょっと遠方に出かけておりましたので、少し疲れ気味です。 (; ̄ー ̄A  大杉先生のブログで監査役と会計監査人との関係についてご質問を受けておりますし、また酔狂さんやコンプロさんなど、常連の皆様より、きちんとしたコメントを頂戴しておりますので、(少しばかり考える時間を頂きまして)また改めてお返事をさせていただきます。

昨年3月にNEC子会社の架空取引と企業コンプライアンスと題するエントリーを書きましたが、今度はNEC本体にて社員8名ほどが関与する社内横領事件が発覚したようであります。(朝日新聞ニュースはこちら)US-SOXと不正防止さんは(このブログにおきまして)以下のとおりコメントに書いておられます。

NECは米国に上場しているため、昨年度からUS-SOXに基づく厳格な内部統制監査を受けています(監査報酬は7.4億円)。しかし、多額の従業員不正を、会社の内部統制評価や公認会計士の内部統制監査で見つけることはできませんでした。摘発したのは国税局です。 US-SOXによる「内部統制」監査は、お金がかかることが問題ではありません。担当者が単独で犯す誤謬しか発見できない制度であることに、重要な欠陥があります。監査の手法に欠陥があるのですから、内部監査部が監査法人の品質管理審査を受けても、実施基準を超えて連結売上高の75%を文書化しても、IT全般統制で全社的なエクセルシートの洗出しとパスワード保護管理をしても、不正防止効果を全く期待できないと思われます。

さすがに私も無力感は否めないところであります。こうやって一年以上も前に自分が書いたエントリーを読み直してみますと、端緒こそ内部調査と国税調査、ということで異なるところはあるものの、時期的にも重なるところが多いようですし、「組織的関与があった」とは申しませんが、社内における構造的なリベート体質のようなものの存在を疑われてもしかたないかもしれません。HPで公表されているNECのコンプライアンスへの取り組み姿勢といったものは、将来における再発防止策を中心とするものでありまして、それ自体は文句のつけようのないものと思いますが、こういった二つの社内横領事件を見比べますと、企業不祥事が発生しやすい社内の構造的な体質をどう変えるか・・・といった方向での防止策のほうが効果的ではないかと思います。(まあ、たしかに「ウチは構造的に問題がある」とは、なかなか発表できないことは承知しておりますが。それでも真剣に再発防止を検討するのであれば、環境整備への取り組みのほうがむしろ重要ではないかと思います)たとえば前回NECEで判明した架空取引によるリベート還流でありますが、発覚した時点におきまして、これを単なる一社員の犯行とみるのか、それとも社内(もしくは企業グループ内)で他にも同様の犯行が行われているのかどうか本格的に調査するのとでは大きな差があると思いますし、そういった調査を敢行することはまさに体質を変化させるためのコンプライアンス施策の一環であると思われます。また、たいへん地味ではありますが、こういった犯行は職場仲間のなかでは結構、周知の事実だったりするわけでして(私が最初に某企業のコンプライアンス委員に就任したときがそうでした)周囲の者が内部通報制度を利用しやすい環境を整えるとか、コンプライアンスオフィサーのような立場の者を増やすといったことが「構造的体質」を変える要因にもなりえようかと思います。

これと同じことは、日興コーディアルの不正会計事件のときにも申し上げたところでありますが、将来的な再発防止策といいましても、企業文化や業界の環境、そして不祥事の原因追及によって判明した社内事情などによって、対応策のベストプラクティスは様々でありまして、単に職務分掌を強化したり、相互監視体制を強化することで再発のリスクを低減できるほど甘くはないと思っております。もし構造的に不祥事が発生しやすい社内環境が認められるのであれば、地味で時間のかかることではあるかもしれませんが、同種不祥事が社内のあちこちで発生していないか徹底的に調査することも必要かもしれませんし、社内研修を強化することが必要な場合もあるかもしれません。

ところで、ここのところ、毎月「月刊監査役」では「内部統制システムに関する取締役会決議」の各社事例集といったものが採り上げられておりまして、毎回楽しみにしているのでありますが、どこの上場企業でも「内部統制システムの基本方針に関する取締役会決議の内容」というものは、それほど変わらないものなんですよね。会社法施行規則100条をみれば、損失の危険の管理に関する体制といったものも体制整備の一貫でありますので、いっそのこと、この基本方針のなかに、各企業においてどのような事業上のリスクがあるのか、そのリスクに対して自社がどのように対応するシステムを構築するのか(あるいは、したのか)といったことを明記したほうがいいのではないでしょうか。また、グループ企業であるがゆえに、グループ全体としての事業リスクといったものも考えられると思います。もちろん、継続企業としてのリスクといった注記内容を調べればいいのかもしれませんが、その企業が何をリスクと考え、そのリスクにどう対応しようと考えているのか、といったことを記述することで、その企業の内部統制システム構築への積極性をうかがうこともできますし、また一般株主や投資家にとっても、管理行為のうえでの企業価値を把握する資料にもなるのではないかと思います。他社との差別化をもう少し工夫してみてもいいんじゃないか・・・と思ったりしております。

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2005年12月27日 (火)

会社法における「内部統制構築義務」覚書(2)

先日エントリーいたしました「会社法における内部統制構築義務覚書(1)」とは少し観点が異なりますが、これも重要な問題点と考えておりますので、本当に「覚書」程度に書き留めておきます。

昨日、届きました月間監査役臨時増刊号(508号)では、シンポジウム分科会の議事録が収録されておりまして、「監査役と監査人の新しい連携のあり方(適正なディスクロージャーに向けて)」と題する分科会記録が掲載されております。この分科会は、まだ会社法規則、法務省令案などが公表される前のものではありますが、日本監査役会主催のシンポジウムということで、「監査役と会計監査人との連携のあり方」を中心として「内部統制監査」と「財務諸表監査」との関係などが識者によって議論されております。このシンポで興味深いのは、会計監査人にとりましては「財務報告の信頼性」確保のための評価基準、監査基準といったところを中心に議論するための「内部統制議論」があり、監査役にとりましては、会社法で規定されている取締役の職務の執行適正を確保するための「内部統制議論」(会社法348条)があるわけで、この両者の違いを認識したうえで、どうやって連携を果たしていくべきか、といったことに焦点があてられているところであります。企業会計審議会内部統制部会長の八田教授が司会進行を務めていらっしゃいますが、公認会計士による内部統制監査のあり方、企業経営者による内部統制システム構築へ向けての実務指針の決め方、会社法や省令による「内部統制論」と金融庁が進める「財務報告の信頼性確保のための内部統制論」との関係および今後の考え方など、内部統制理論の今後の発展について参考となる意見も述べられております。書店で販売されていない雑誌ですので、なかなか入手するのも困難かもしれませんが、こういった議論がなされているところからいたしますと、ディスクロージャー制度と関連する内部統制監査の理論的、実践的な発展は、会社法上の内部統制構築義務(取締役または監査役の)の有無を個別事案の中で議論する際に影響力をもつ場合もありそうな気がいたします。

財務諸表監査のための内部統制評価は統制リスクの評価に関するものとして捉えられるわけですから、これと別個の内部統制監査というものへの評価基準、監査基準が必要になってくるわけで、そこではおよそ監査役と監査人との「連携」が欠かせないところとなりそうです。内部統制監査のための実証手続の際には、様々な情報が監査役と監査人の間で共有せざるをえないことになるわけでして、その情報や情報に基づく両者の判断過程といったものが、後に紛争事案における取締役や監査役の善管注意義務や監視義務の有無を判断する際に有力な資料となる、といったケースが考えられるように思います。

ただ、実際に国際基準のレベルを維持するにいたる内部統制構築といったものは、本場アメリカのSOX法の適用状況を参考にしましても明らかなとおり、法律施行以降相当の年数を要するようでして、上場企業の内部統制監査報告書といったものが、投資家に有益な情報を与えるものとなるまでには、まだまだあと3、4年ほどは時間を要するのではないか、というのが私の感想であります。(以下、3に続きます)

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2005年12月22日 (木)

会社法における「内部統制構築義務」覚書(1)

新しい会社法の書籍を読んだり、施行規則を読んだり、また関連ブログを参照したりしながら、会社法における「内部統制システム構築」に関する法的論点について検討をしておりますが、まだまだ考えがまとまらず、とりあえず覚書程度にメモしておきます。(東証のシステム障害に関するエントリーへコメントいただいた方へのお返事は、もうすこし「利益返上」の協議が進んだ時点においてさせていただこうか、と思っております。どうもコメント、ありがとうございました)

ともかく実務家としての大前提は、「内部統制システム」という抽象的な言葉自体が、いろいろな方面で使用されておりますので、とりあえず「金融庁企業会計審議会」におけるものや会社法におけるもの、などきちんと区別して使用することが肝心なようです。そこで、とりあえず、ここでは会社法で一般的に使用されている意味で議論する、と決めておきます。

以前のエントリーのなかで、とーりすがりさんにコメントをいただいた内容や、最近の「会社法であそぼ」(葉玉検事さんのブログ)の内容などを拝見していて、「内部統制システム構築義務」といった言葉には、二つの意味があるようで、それらをハッキリさせておいたほうがよさそうですね。ひとつは、ダイレクトに法342条4項5項や法362条4項5項などから導かれるところの取締役個人には委任できないところの「内部統制システムの整備に関する決定」(もしくは決定義務)の範囲に含まれる「内部統制システム構築」。そしてもうひとつが、取締役の会社との間における善管注意義務、監視義務から直接派生してくる「内部統制システム構築」の問題です。前者の議論は、取締役会(もしくは複数取締役の協議)レベルで全社的統制システムの基本方針の決定および実際の構築システムの評価作業の履行の有無に関する論点であって、この義務違反と善管注意義務違反とは、直接的には結びつかないようです。(と、私は考えておりますが、いかがでしょうか)いっぽう後者の議論については、そもそも取締役の監視義務というのが、ほかの取締役の執行行為だけではなく、一般社員の不正行為防止といった従業員レベルまでの監視義務を根拠にしているために、かなり広範囲にわたる「内部統制システム構築義務」を認めることになるのでしょうか?(ただし、善管注意義務との関連性がありますので、(特定の取締役に義務違反が認められるかどうかは)対象となる取締役の具体的な立場などによって、個々具体的な判断が必要になってくるものと思われます)

とーりすがりさんも指摘されているとおり、これまでの「取締役の監視義務」の根拠というものは、取締役会の各取締役の職務執行に対する監視機能のようなところから導かれるのが一般的だったと思うのですが、このたびの会社法によって、有限会社を株式会社に取り込んだり、機関設計の柔軟化によってかなり広く非取締役会設置会社が認められるようになったために、「監視義務」といったものが取締役会の機能とは別個独立に議論されるようになったところがひとつの重要ポイントになってきたように思います。また、こういった会社法の条文解釈と、関連する政省令との整合性にも留意する必要がありそうですね。

それでは、具体的に従業員の不正行為を見逃したために会社に大きな損害が発生した場合の、取締役の責任をどのように追及すべきか、とか取締役の善管注意義務から導かれる内部統制システム構築義務と、監査役の監査義務の関係、そもそも監査役の適法性監査の対象となりうるか、などまだまだ議論すべき点がありそうですが、これはまた後日、ということにさせていただきます。

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