2005年12月30日 (金)

「乗っ取り屋と用心棒」by三宅伸吾氏

「乗っ取り屋と用心棒」(M&Aルールをめぐる攻防) 日本経済新聞社

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本当は正月休みにゆっくり読もうと思いまして、3日前に書店で購入したんですが、あまりに興味深い内容だったんで、(一日エントリーをスキップしまして)2日間でしっかり読了してしまいました。著者の三宅氏にはたいへん失礼な言い方ですが、予想以上にオモシロク、私のような(M&A実務にあまり詳しい者ではない)企業法務関係者、会社役員にとりましては、この2005年の敵対的買収(著者ご本人は「競争的企業買収」という用語を使用されていらっしゃいます)関連事件の総括と、会社法施行後の企業買収事例への取り組み方を検討するには格好の「たたき台」になる一冊であることは間違いないと思います。(この本一冊をテーマにしてブログを作ってもいいのではないか、と)

著者は、私のブログをお読みの方でしたら、おそらくご存知の日本経済新聞社編集委員の三宅伸吾氏であります。2005年11月ころから、17回にわたって日経夕刊に同じ題名の記事を連載されていらっしゃいました。ちなみに、こちらに著者ご自身によるコメントが掲載されております。(これを読んでおりますと、私なんぞが、書評をしたためるのも、おこがましいのですが・・・まあ、三宅ファンのひとりとしてお許しください)

実は、この本を購入するにあたりまして、新聞の連載文に、すこしだけ「肉付け」した形の内容ならば、今年一年を振り返るための参考書としてはいいかも・・・、程度の動機しかございませんでした。しかし実際のところは、ライブドア事件、ニレコ事件、夢真事件、村上ファンドの動向、そして企業価値研究会の活動経過など、その事件の経緯背景の説明にあたりましても、いままで明らかにされていなかったような内容が随所に盛り込まれております。また、事実調査以上に驚きましたのは、著者ご自身のM&Aルールに対する研究成果や意見、敵対的買収(競争的企業買収)と企業価値、そして司法判断への影響など、各所に精緻な論理構成が展開されているところでありまして、このテーマに対する著者の思いの強さを痛感でき、まさに力作(労作?)といっても過言ではないと思います。以下は、あくまでも敵対的買収防衛策や企業価値論に興味を抱く、一社外監査役の立場での感想であります。(こういった書物の場合、どこに感銘を受けるかは、各々の読者によって異なるものと思いますので、あまり書物の内容に触れることなく、ひとりの一般読者としての感想のみ留めておきます)

まずはなんといいましても、「企業価値論」。今年を代表するフレーズと申し上げてもいい「会社は誰のものか」の議論と買収防衛議論とを関連付けての「わかりやすい」論理展開でありますが、私のエントリーでも何度か参照させていただきました成蹊大学助教授の田中亘論文への意識が根底にあるのではないか、と思います。(企業特殊的な人的資産と信頼の裏切り理論のことが、何度か本書で登場してきます。私も同教授の論稿を何度か読み返した後、この組織特有の人的資産が企業価値に及ぼす影響という問題は、実証的根拠を含めてこの田中亘教授の提言への回答は避けては通れない、いわば「関所」のような存在ではないか、と思っております)ただ、私なりにもうひとつ追加したい論点があるとするならば、私の興味の対象でもあります「企業の内部統制構築への資源投資」といったものが、いったい競争的企業買収の行われる際の企業価値比較に、今後どのような影響を及ぼすのか、といった点であります。これは、単に企業や従業員が「長期的な信頼による共同体」として効率的に投資を行うといったことを問題にしているのではなく、経営者個人の経営思想や行動規範と、企業および従業員とが密接に関わる問題でありまして、「有機的な企業体はそのままにして、経営陣だけ取り替える」では済まされない問題だと(少なくとも私個人では)認識しております。まだ、アメリカですらSOX法404条が適用されている企業が全公開企業の30パーセント程度ということですから、こういった統制システムが機能している企業の競争的買収に関する実証例に乏しいこととは思いますが、人的資源が買収防衛論に及ぼす影響を議論する実益は(これからの日本におきましても)高いものと考えております。

つぎに、「社外取締役(独立取締役)」の問題。私の勝手な推測で申し訳ありませんが、作者は経営能力のない(企業価値向上への努力をしない)企業家は公開市場から即刻退場せよ、といった立場から、コーポレートガバナンスのあり方としては、かなり社外取締役、しかも独立要件の厳格な社外取締役の重用を待望されているのではないでしょうか。複数のボードと間近に接している立場の者として、この「社外取締役」待望論の期待ギャップにすこし希望を失いかけておりましたが、これを読んで、すこしばかり勇気を鼓舞される気持ちになりました。買収防衛策の導入と発動の場面において、司法府が「社外取締役」の存在をどう位置づけているか、私は著者の意見とまったく同じであります。もし、今後裁判所が正面から「企業価値」と向き合うようなことがあれば、すでにこの4月(ドリコムブログ)にて、私がエントリーしておりましたとおり、社外取締役の手続面での活躍が、裁判所においてクローズアップされてくるのではないか、と期待しております。ただその際には、社外取締役が(投資銀行などを利用しながら)中立的な立場で買収提案を検討するといった(生やさしいこと)だけではなく、いったい日頃から社外取締役が株主とどう向き合ってきたか、現経営陣と企業価値向上のために何をやってきたか、を説明できなければ、手続上の存在価値はないものと認識しております。

さらに、私が「社外取締役が競争的企業買収の際に重要な役割を担う」と考えておりますのは、「企業情報開示の補完作用」であります。今後、敵対的M&Aの事例が増えれば増えるほど、事前の双方経営陣による妥協のための交渉事例が増えると予想しております。そういった場面では、双方の企業価値向上へ向けてのプランが株主に対して開示されることになると思いますが、企業情報開示制度や企業会計制度の発展によって、ますます企業の無形資産やノウハウなどが公開されてしまうことになってしまいます。買収希望企業にとりましても、現経営陣にとりましても、できれば「株主の中立の代弁者」たる社外取締役にジャッジとなってもらい、そういった情報コントロールが適正になされることが期待されるものと思います。競争企業双方の企業情報を適正に保護する、といった意味においても、今後はますます社外取締役の役割が重要になってくるのではないでしょうか。

ほかにもたくさん感銘を受け、また考えを新たにさせてくれるような記述が豊富でありますが、(私なんぞより、もっと専門家の方が)書評を書かれることも多いと思いますので、この程度にさせていただきます。この本を出版されるにあたって(当たり前のことかもしれませんが)今年一年、新聞を賑わせた多くの当事者の方へ精力的に取材されたこと、「法と経済学」の周辺領域への学術研究に勤しまれたことに多大な敬意を表します。なんといいましても、私のような「外野」の者と、事件当事者(もしくは近くにいらっしゃった方)との「情報の非対称性」を相当程度、減少させていただき、同様の視線で物事の道理を考える機会を与えていただいたた意義は大きいわけですから

(うーーーーん、でも、この本を読むと、ずっと前からエントリーしておりますように、ライツプランと株主平等原則、一度裁判官による司法判断を仰いでみたらいかが・・・といった気になりますね・・・・・・・。それと経済産業省の企業価値研究会には、敵対的買収防衛ルールの検討とは別に「もうひとつの目的」があったというのも、かなり興味がありますね。なんで目的がふたつだったんやろか。。)

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