2006年2月 6日 (月)

ライブドアへの民事賠償請求(考察)

(2月6日お昼に追記あります)

少しばかり、ライブドア問題から離れておりましたが、いよいよ東京の弁護士法人が、ライブドアを提訴するための原告株主をブログで募集されていたり、また新聞報道やいろいろなブログなどで「ライブドアへ賠償請求することの可否」などについて議論されることも多くなりつつあるようですので、すこしばかり私なりの意見をまとめておこうかと思います。いつも申し上げているところでありますが、ここに記載したものは、私個人の意見でありまして、投資に関する有益な情報を提供する目的ではございませんので、あしからずご了解ください。

1 ライブドアへの民事損害賠償請求の法的根拠

まず、あらかじめ仮定しておかないと話が進みませんので申し上げますが、ライブドア本体が「粉飾決算」を行っていた、といったことが前提となります。いま民事損害賠償で話題になっておりますのは、ライブドアの個人株主さん方が、このたびの刑事問題による株価急落によって大きな損害を被っている、そのために損害賠償を求めたい、といったあたりでしょうから、ライブドア本体に対する株主からの責任追及といった視点で考えてみたいと思います。また、フジテレビのように、株式保有にあたってライブドアと個別の契約を締結しているような株主については除外いたします。(フジテレビあたりは、そもそも売却したくでも、できない状況にあったと思われますので。ただし、「フジテレビの思惑はどこに」のエントリーにおきまして、「辰のお年ご」さんが非常に有益なコメントを残していらっしゃいますので、フジテレビの第三者割当増資に関連する損害賠償請求の法的根拠につきましては、そちらをご参照ください)そういたしますと、法人の役員の不法行為責任に基づく法人への責任追及(民法44条、709条、715条)あたりが最もオーソドックスな法的根拠ではないか、と考えられます。

こういった不法行為責任によってライブドア本体の賠償請求を基礎付ける場合、原告株主の方々がクリアしていかなければいけない問題はいろいろと山積しているように思いますし、こういった問題点を原告代理人がどのように乗り越えていくことができるのか、非常に興味深いところであります。

①「粉飾決算」の特定 

株価に影響を与えるほどの「重要な部分に関する」虚偽記載があったとされる決算は、果たしてどの有価証券報告書の、どの部分を指すのか、明らかにする必要があります。刑事事件で証券取引等監視委員会が告発の対象とする「粉飾決算」はいろいろな目的によるものを含みます。経営環境が悪化していたために、株価上昇を目的として不実の記載をしたようなケースであれば比較的特定部分は明らかですが、今回のライブドアのケースでは、倒産の危機を脱するために粉飾を行ったことが目的だったのか、積極的なM&Aに乗り出すために粉飾を行ったのか、そのあたりはまだ不明なままですから、株価変動に影響を与えた粉飾とは一体どの部分が重要であったのか、これを特定する作業が必要になってくると思われます。

②株主の受けた損害とは?

最も関心の高いところだと思いますが、検察庁や証券取引等監視委員会の強制捜査の前後における株価変動を基準に「損害」額を算定したいというのが現実ではないでしょうか。ただ、この考え方を採用するには、すこし問題点を克服する必要がありそうです。第一に、なんといっても強制捜査の被疑事実はライブドアマーケティングの偽計取引、風説の流布に関するものであって、ライブドア本体の粉飾決算に対する容疑ではありません。ライブドアの関連会社の強制捜査によって、「これからライブドア本体もアブナイ」といった見方が広がって株価が急落したわけですから、そもそもライブドアの株価が下がったのは、検察庁の捜査によるものではなく、あくまでも市場の論理によるものであります。したがいまして、逆の見方をすれば、現在のライブドア本体の株価が、ライブドアの真の価格を表しているという保証もありません。第二に、証券取引法においては、課徴金制度が新設されておりますが、粉飾決算が行われた場合の企業本体への課徴金の金額算定は「不当利得」をもとに算定されている、と言われております。つまり、粉飾によって会社にためこんだ利益を吐き出させるといった思想のもとで算定されているわけですが、そこでの基準というものは、粉飾決算の行われた前後の時期において、粉飾が行われた場合とそうでない場合との株価予測の比較、というものを念頭に置いています。(詳細は省略いたしますが)課徴金制度というものは、懲罰的な意味を持つとなりますと、憲法の定めた二重処罰禁止(刑事処罰を二重に課すことは許されない)の思想に抵触するおそれがありますので、説明としては「実効性の上がらない民事賠償制度の補完」を主たる制度目的としておりますので、そういった制度趣旨のタテマエとの比較からみましても、「検察庁登場の前後」で損害を検討する、といった考え方は(課徴金制度との整合性といった点から)すこし苦しいところがありそうです。また、第三に、検察庁登場の前後で損害額を算定しようとしますと、登場前の株価、つまり粉飾決算によって形成されていた株価を株主が正当に享受しうることが前提となります。しかしこの考え方は、不当な粉飾決算によって形成された株主の利益そのものを法的に保護することになってしまい、粉飾決算そのものを(裁判所が)容認していることになってしまうんじゃないでしょうか。こういった疑問点が呈されるところでありまして、問題点をクリアしていくことはかなり困難な部分もありそうです。

③粉飾決算と損害との相当な因果関係

たとえ①および②の問題点をクリアできたとしましても、ライブドアの経営陣におきまして、将来的にライブドア子会社の刑事問題に発展すること、またそのことによって市場が株価急落という相場をつけること、粉飾時における株主らが、長期的に株を保有していることへの予見可能性があったと評価できるかどうか、このあたりも微妙な問題を含むものと思われます。

2 法的根拠その2(改正証券取引法21条の2)

現実には、あまり証券取引法上の民事賠償制度といったものは活用されていないのですが、継続開示資料に虚偽記載をした会社本体の無過失責任を規定しているのが、証券取引法21条の2であります。この規定によりますと、有価証券報告書(半期報告書を含むが四半期報告は含みません)に不実の記載をした上場企業自体の無過失責任を問うことが可能となります。また、損害額も推定されておりますし、事実上因果関係についても立証責任が転嫁されておりますので、原告株主にとりましては、この証券取引法上の法的根拠を利用するほうが得策のように思われます。ただ、この規定による損害賠償請求につきましても、以下のような問題点を考慮する必要があろうかと思われます。

①粉飾決算の時期

上記の改正証券取引法は、平成16年12月に施行されたものですから、適用は遡及されませんよね。(まちがっておりましたら、ごめんなさい)つまり、継続開示資料への粉飾決算の行われた時期が平成16年12月以降でなければ、ライブドア本体の粉飾決算へ応用することがムズカシイのではないか、と推測されます。(もちろん、新株発行時における目論見書などへの粉飾、といった点が問題となるケースですと、すこし話は変わってきますが。あくまでも継続開示資料への粉飾ということを問題にしております)

②「公表」の解釈問題

上記の改正証券取引法21条の2で、無過失責任が追及できるのは、粉飾の事実が「公表された」場合に限定されます。つまり、ライブドアの社長である平松氏が今後、「当社のいついつの有価証券報告書の記載事実には虚偽があった」とリリースしてくれるとわかりやすいのですが、なかなか期待できないのではないでしょうか。先日も、有価証券報告書と決算短信の数字が合わないと指摘された際に、すばやく決算短信の数字に誤りがあったとのリリースはされましたが、有価証券報告書の数字に誤りがあったとは公表しておりませんでした。さて、ライブドア本体を離れて、それ以外に「公表」と解釈される場合があるか、と考えますと、おそらく粉飾決算を問題とした刑事事件で、裁判が有罪と確定された場合が考えられそうですが、それはかなり先のことでしょうし、すぐに民事訴訟のなかで活用できるかといいますと、なんとも心もとないかぎりです。

③損害請求権者の限定

また、上記証券取引法21条の2によって、無過失責任を追及できる原告株主は、「公表のあった以前1年以内に株式を取得した者」に限定されます。つまり、公表される日時が問題となるわけでして、もしこの先、ずいぶんと先の日を「公表日」と解釈されますと、このたびの検察庁登場による株価急落によって損をされた株主の方々にとっては、この無過失責任によってライブドアを追及することが困難ではないか、と予想されます。

おそらく、ライブドア本体に関する証券取引等監視委員会による告発がなされますと、東京証券取引所は上場廃止の手続に入ることが予想されますし、そうなってしまいますと、ますますこの証券取引法による民事救済手続きを適用する場面といったものが制限されるようにも思われます。さて、私自身の個人的な見解を以上のとおり述べてきたわけでありますが、こうやって民法や証券取引法に基づく法的根拠を眺めてまいりますと、原告株主にとってキビシイ民事裁判になりそうな気もする反面、現行法の制度の「穴」をみつけて、ライブドア本体への賠償請求権および保全処分の対象となる「被保全権利」を組み立てる方法といったものも、ありそうですね。ただ、いくら場末のブログと申しましても、今後の現実の裁判に影響を与えかねない指摘は避けておきたいと思いますので、証券取引等監視委員会の告発事実が特定されるまでは、ちょっと冷静に眺めております。(ツラツラとひとりで検討していたようなことなんで、また基本的なところで考えのおかしいところとかございましたら、指摘してください・・・・・ご批判、ご意見、大歓迎ですので・・・・・)

(参考 証券取引法21条の2)

1 第25条第1項各号に掲げる書類(以下この条において「書類」という。)のうちに、重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けているときは、当該書類の提出者は、当該書類が同項の規定により公衆の縦覧に供されている間に当該書類(同項第8号に掲げる書類を除く。)の提出者又は当該書類(同号に掲げる書類に限る。)の提出者を親会社等(第24条の7第1項に規定する親会社等をいう。)とする者が発行者である有価証券を募集又は売出しによらないで取得した者に対し、第19条第1項の規定の例により算出した額を超えない限度において、記載が虚偽であり、又は欠けていること(以下この条において「虚偽記載等」という。)により生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、当該有価証券を取得した者がその取得の際虚偽記載等を知つていたときは、この限りでない。

2 前項本文の場合において、当該書類の虚偽記載等の事実の公表がされたときは、当該虚偽記載等の事実の公表がされた日(以下この項において「公表日」という。)前1年以内に当該有価証券を取得し、当該公表日において引き続き当該有価証券を所有する者は、当該公表日前1月間の当該有価証券の市場価額(市場価額がないときは、処分推定価額。以下この項において同じ。)の平均額から当該公表日後1月間の当該有価証券の市場価額の平均額を控除した額を、当該書類の虚偽記載等により生じた損害の額とすることができる。

3 前項の「虚偽記載等の事実の公表」とは、当該書類の提出者又は当該提出者の業務若しくは財産に関し法令に基づく権限を有する者により、当該書類の虚偽記載等に係る記載すべき重要な事項又は誤解を生じさせないために必要な重要な事実について、第25条第1項の規定による公衆の縦覧その他の手段により、多数の者の知り得る状態に置く措置がとられたことをいう。

4 第2項の場合において、その賠償の責めに任ずべき者は、その請求権者が受けた損害の額の全部又は一部が、当該書類の虚偽記載等によつて生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことを証明したときは、その全部又は一部については、賠償の責めに任じない。

5 前項の場合を除くほか、第2項の場合において、その請求権者が受けた損害の全部又は一部が、当該書類の虚偽記載等によつて生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことが認められ、かつ、当該事情により生じた損害の性質上その額を証明することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、賠償の責めに任じない損害の額として相当な額の認定をすることができる。

(追記)

今朝の日経新聞の「スイッチオンマンデー」を読みましたが、ほとんど記事内容とエントリーがかぶってしまいました。背景事情なども日経新聞に詳しく掲載されております。ねんのため。(やはり世間では話題になっているんですね)

2月 6, 2006 ライブドア・民事賠償請求考察 | | コメント (6) | トラックバック (1)