ライブドア法人処罰と偽計取引関与の構図
10日午後、証券取引法監視委員会は、ライブドア関連事件で逮捕された4名とライブドアおよびライブドアマーケティングの法人2社につき、証券取引法226条に基づき、検察庁に告発をしたようです。ちょっと意外でしたが、「風説の流布、偽計取引」容疑でライブドア本体まで両罰規定を適用して(証取法207条)告発したようですね。私はライブドア本体の法人処罰もある、とは考えていたのですが、それは堀江氏らによる、ライブドア本体の粉飾決算(有価証券報告書不実記載罪)犯則容疑の告発と一緒に、と予想していたものですから、少しばかり驚いています。
なぜ、「風説の流布、偽計取引容疑」でライブドア本体処罰にまでたどり着けるのか?
以下は、私の単なる憶測(推測)にすぎませんので、何度も申し上げますが、どうか投資判断の資料にはなさらないでください。
ポイントはふたつあると思います。ひとつは、おそらく告発事実(もしくは今後検察庁によって起訴されるはずの公訴事実)のなかに、「ライブドアは・・・・」といった「風説の流布、偽計取引」への直接関与を示す文言が含まれているはずだ、というものです。なぜこのように考えるかといいますと、証取法207条の文言では、個人の犯罪行為とその個人が所属する法人業務との関連性が要求されているからです。したがいまして、もし両罰規定を適用するのであれば、どっかにライブドア本体がこの風説の流布、偽計取引について、その業務として関与していたことを指摘する必要があるんじゃないでしょうか。これまで私は、このマネーライフ社の株式買収、LDMの株式売却の一連の行動につきましては、投資事業組合とLDMに関与していた関係者およびLDMのみの法人が処罰の対象になると考えておりました。といいますのも、たしかに投資事業組合の実質的支配者がライブドア本体であったとしても、ここの鍵を握っていた野口氏が亡くなったことによって証言を得ることが困難となり、「実質的支配」の認定が難しくなったのではないかな・・・と思っていたからです。「LDM株売却金の還流状況」および「投資事業組合への資金流入経路」がほぼ確実に判明したとしても、その目的を誰かがしゃべってくれないと、高度の立証を要する刑事事件でのライブドア本体の立件が確実とはいえないような気がしました。今回、ライブドア自身が「風説の流布、偽計取引」に関与していた、といった心証を証券取引等委員会が得たということでしたら、この「実質的支配」を固めることのできる(野口氏に近い)誰かの証言があったのではないか、と推測いたします。
ふたつめは、堀江氏の無罪可能性に関する懸念であります。いくら粉飾決算や株式分割による虚業の手法が判明したとしましても、堀江氏自身が黙秘を続けているかぎり、その無罪の可能性がゼロとは言えません。もし両罰規定を適用して、ライブドアを起訴したとしましても、証券取引法207条の規定によりますとその法人に所属する個人の犯罪行為があったことが前提となっておりますので、堀江氏が無罪となった場合には、その両罰規定適用の基礎を失ってしまい、ライブドア自身も無罪となります。このたびの法人告発(およびそれに続く起訴)によって、ライブドアの周辺環境も大きく変わってくるかもしれませんが、もし「法人無罪」といった事態になりますと、それこそ経済界を大混乱に陥れることになりかねません。そこで捜査、犯則調査機関としては、堀江氏がたとえ無罪となったしても、ライブドア本体だけは確実に有罪とする手法を検討しておかなければなりません。
そこで、よく報道ニュースを見ますと、告発事実のなかに、逮捕された4名は、ライブドアおよびLDMの従業員らと共謀のうえ・・・とされています。つまり、逮捕者らとは別に、身柄を確保されていないほかのライブドア従業員が犯罪行為に加担していることが読み取れます。ということはおそらく、この身柄拘束をされなかったライブドアの従業員の証言といったものが存在するはずです。どういった経緯かは不明でありますが、まず投資事業組合が実質的にはライブドアのダミーである、といった証言を引き出すことができて、さらに今後告発されるかもしれないが、その立場上、告発を見送られるか、起訴猶予処分が予定されているような(もしくは略式起訴で終ってしまうような)「犯罪行為」の存在を争わない従業員を介在させたのではないでしょうか。(そのような見返りを条件とした司法取引的な証言聴取があった、ということも考えられます)たしかに、こういった構成であれば、ライブドア本体と風説の流布、偽計取引とを結びつけることもできそうですし、また、たとえ堀江氏が無罪を争って長期裁判になろうが、その結果無罪を勝ち取ろうが、「ライブドアの従業員による犯罪行為」は存在するわけですから、公判を分離してライブドア本体の刑事処分を確定させることが可能のように思われます。
ただ、ライブドア本体を弁護する立場からいたしますと、この従業員の犯罪行為の存否を実質的に争えないとしましても、かならず法人処罰の適用を受ける、といったものではなく、法人自らが従業員の犯罪行為を相当な注意をもってしても防ぎきれなかったことを立証すれば、その処罰を免れる道はあります。たしかに証取法207条には、法人処罰を免れるための方策についてはなんら規定されておりませんが、判例はたとえ法人処罰に関する免責規定が付されていない行政刑罰規定であっても、法人による不可抗力の主張は認めているわけでありまして、今後は堀江氏個人の利益擁護とは別の観点から、ライブドア法人を防御する弁護人が登場するかもしれませんね。(また、誤った事実の引用や、法律適用、解釈のおかしなところなどあれば、ぜひぜひご指摘ください)
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