ドン・キホーテと「法の精神」(その1の続編)
ドン・キホーテと「法の精神」(その1の続編( ̄~ ̄;)??)
昨日のエントリーには、たくさんのコメント、メールありがとうございました。コメント同様、メールでも法科大学院の先生や、ご専門の方などから詳細なご意見を頂戴しました。おそらくこういったご意見をいただくのも、私のエントリーを側面からフォローしていただいておりますコメンテイターの方々のお力によるものであります。厚くお礼申し上げます。<(_ _*)>
さて、気持ちよく(その2)に移ろうか、と考えておりましたところ、ご覧のとおり、たくさんの「反対意見」(^◇^;)を頂戴いたしまして、ちょっとすんなりと「司法判断への影響」へ移ることも困難な状況になってまいりました。個別の事件へのコメント、といったものも、ちょっとマズイかもしれませんが、私は「違法」か「そうでないか」といったことへのコメントは避けておりまして、「たとえ違法ではなくても、グレーゾーンか真っ白か」といった「法解釈」の埒外のところを考察するつもりですので、まぁこの程度であればご容赦いただけるかもしれません。それと、(これはいつも逃げ口上のように申し上げておりますが)私は企業買収に関する法務を仕事で扱えるほどの弁護士ではございませんので、コメントの与える社会的影響度は乏しいものでして、単なる「社外役員」という立場から経営者的判断としての「素人意見」でありますので、どうか大目に見てやってください。( ̄∇ ̄;)
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私は(そんな)素人考えで、「ドンキ(株式会社ドン・キホーテ、以下同じ)の市場取引による買い集めはグレーゾーンだ」と考えたのですが、いたって良識あるご意見では、ドンキによるオリジン(オリジン東秀株式会社、以下同じ)買集めは真っ白である(=グレーではない)、とのご意見が多いですね。コメントをいただいた方のご意見はそこでお読みいただくこととしまして、学者の先生より頂戴したご意見なども、大方はオリジン株式のドンキによる購入は、株主の自由な意思によって売却が可能な「市場取引」で購入したわけであるから、オリジン株主には機会はきちんと公平に与えられており、よって自由かつ公平な取引であるといったことを理由として掲げられております。また、TOBが失敗したからといって、買収をあきらめないといけないか、というとそうではなくて、TOB失敗後に市場取引において株を取得して支配権の獲得をめざすことは、資本主義の観点からは禁止されるべきではない、といったご意見です。
そもそも、「グレーか、真っ白か」といった議論の立て方にも、異論があろうかと思いますが、日経新聞のインタビュー(2月17日付け朝刊)記事におきまして、ドンキの法律顧問の先生も「当初から一連の取引によって3分の1超をめざすならグレーだが、今回の経過からすれば真っ白だ」とおっしゃっておられるようですので、「グレー」「真っ白」といった分類自体は、あながち間違いでもなさそうです。(その分類が法律的にどう反映されるべきか、といったことはまた続編で述べてみたいと思います)そのうえで、皆様方のご意見を頂戴しまして、私自身も「グレー」→「真っ白」に考え直そうかなぁ・・・とも思ったのですが、もうすこし疑問もありそうな気がしますので(その1の続編)として考えてみました。
証券取引所で売買される株式有価証券について、市場外で3分の1超の株式、いわゆる経営支配権を有するに足りる株式を取得する場合には、原則として公開買付によることが強制される理由につきましては、皆様方のおっしゃるように株式会社の支配権移動に伴う投資家保護(情報開示の要請および投資家への売買機会均等の確保)に基づくものといえます。オリジン買収目的によるTOBが不成立に終ったドンキは、その後市場価格で15%ほどの株式を取得してきたわけでして、一般投資家にとっては自由売買の確保された状況での売却がなされた結果として、なんら投資家保護に欠けるところはなさそうです。ただ、オリジンの株主にしてみれば、どんな気持ちでオリジン株式を売却したのでしょうか。ドンキが2800円の買付価格でTOBを開始した→ホワイトナイトのイオンが3100円の買付価格で登場した→2月11日にはドンキのTOBが不成立となった→ドンキは再度のTOBはしないとの宣言をした→イオンの50%超のTOBも、ドンキが保有株式をイオンに譲渡することがなければ不成立となる可能性が出てきた(イオンは第三者を通じて、株主への情報提供のために、ドンキの株式買取希望の打診をはかった)→ドンキ「今の段階ではなんともいえない」→TOB成立の可能性が不透明となった→「売ってしまおう」(3100円前後で市場売却)→ふたを開けるとオリジン株の46%をドンキが取得していた→株価急落(3100円から2780円)。
こういった流れのなかで、もしオリジンの株主が、新聞報道等により勝手に「ドンキはTOB不成立で撤退した」と誤解したり、自分の見込みでそのように考えて行動していたのであれば、(経済的な損失もないでしょうし)それは文句もいえないでしょう。しかしながらオリジンの株主にとって、「市場で売る」ということは「ドンキに株式を売る」ということとは同じ意味ではないはずです。昨年来、経済産業省や法務省で「正しい企業価値の把握、正しい敵対的買収防衛策のあり方」が議論されているわけですが、そこで私が素人なりに少しばかり学んだことは「防衛策は株主価値の最大化のために設置発動されねばならない」といったことだと理解しております。ただ、そうであるならば買収する側にも、対象企業の株主価値の最大化を考えた手法がとられてしかるべきだと思うわけです。強制公開買付制度によって情報開示がなされるのは、その支配権移動によって経営陣が変更される(可能性がでてくる)ことで、企業価値(株主価値)が上がるかどうかを株主が判断できるためではないのでしょうか。そういった情報提供の機会もなく、判断の機会もないままに売却(もしくは保有)した株主にとってみると、「あのTOBはなんだったの?」といった気持ちになって、オリジン株主にとってみれば「背信的な行為」にはみえませんかね。もし村上さんが阪神電鉄株式を大量保有したときと同じ手法をドンキが採用したのであれば、オリジン側としてもすぐに(株主に十分な検討の時間を与えるために)別の敵対的買収防衛策の検討に入ったものと思いますが、ドンキは正々堂々とTOBを仕掛けてきたわけですから、その対抗策としてもイオンのTOBといった手法を採用したわけです。けっきょくドンキは3100円前後で市場でオリジン株を買い進めたわけですが、それなら期間延長、買付価格変更によって堂々と「イオンよりもうちのほうがオリジンの株価を高める自信がある」とオリジンの株主に説得しなかったのでしょうか。私はそのあたりが「違法ではないけども、公開買付制度の趣旨に反しているのではないか」とまだ逡巡しているところであります。
また、TOBに失敗したからといって買収をあきらめないといけないというのはおかしい、TOBを再度かける費用に比べると法律意見書をとって行動に出るほうが自社株主への説明もつきやすい、という意見も「なるほど」とは思います。しかし最初から25日間という短い買付期間を設定して、オリジン側から(株主への熟慮期間を設けるために)期間延長の正式な要望がなされたにもかかわらずドンキはこれを拒否しています。これって、ある程度失敗リスクも容認していたのではないでしょうか?もちろんそこにはイオンの登場といった予期せぬ出来事もあったのでしょうが、それなら株主のために25日で熟慮期間が十分と考えていたとしても、せめてTOBを失敗しないように、予期せぬ出来事による期間延長くらいは検討してもよかったのではないか、とも思います。さらに、コストの問題ですが、このケースでは株主の代弁者たるオリジンの社外取締役が活躍する場面はないわけでして、誰がオリジン株主の利益を代弁するのかといった問題があると思います。こういった場面において、オリジン株主への情報開示のための費用といったものは、ドンキ側において負担することも、あながち不当とはいえないのでドンキ株主への説明責任はつきそうに思いますが、いかがでしょうか。むしろ、TOBにおいては2800円といったプレミアムの上乗せ価格を提示しておきながら、その直後に3100円で買い集めた行動のほうは、ドンキの株主に対して説明はつくのかどうか、本件とは関係ありませんが、すこしばかり疑問を呈したいところであります。
長々と書いてしまいましたが、私も「違法かどうか」といった解釈論ではなく、あくまでも法の趣旨から逸脱していないかどうか、といった感想を述べたまででありまして、斟酌している事情自体、不適切なものがあるかもしれません。また以前のエントリーにも書かせていただいたとおり、私自身はドンキ店舗の大ファンであります。いつの日か、企業イメージが向上して、「ドンキ、変わったやん」と若い女性に噂されるような店作りに邁進していただきたい、と願っている者のひとりであります。また、おかしなところがございましたら、お教えいただければと思っております。
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