内部監査室の勤続年数の功罪
きょう、午前中から東証一部上場の某企業(本社)で「内部統制システム構築(2006年2月における現状認識)」といったテーマで講演をさせていただきました。会社法施行後の内部統制構築論や、金融庁主導の財務報告の信頼性確保のための監査対応型システムのお話が中心でしたので、法務、財務関連の部署の方へは(そこそこ)有益なお話ができたかなぁ・・・とも思っておりましたが、ITシステム構築関連の部署の方には、すこし物足りなかったのではないか、とも反省しております。(こういった社内勉強会の場合、関心あるテーマを扱う難しさがありますね)
内部監査室の方から講演中に質問をいただいたのが、不正検査士(CFE)の資格を内部監査室のメンバーが社内で保有することのメリットなどに関するものでした。果たして社内でオフィシャルな資格を取得しても、あまりメリットがないのではないか・・・・といったご趣旨だったようです。じつは最近こういった質問をときどき受けることがあります。講演終了後にその内部監査室のメンバーの方々と食事をさせていただきましたが、この会社の場合、内部監査室の勤続年数は比較的短いのが通例のようです。監査業務は親会社以外にも、日本子会社や海外の子会社にもおよび、相当忙しい部署のようですが、まぁいわゆる昇進のための通過点の職種のひとつ、といったイメージがございました。(もちろん、これは私が抱いたイメージでして、その企業自身が内部監査の意義を軽視している、といった意味で申し上げているわけではございません。念のため)企業グループ全体を比較的短期間に鳥瞰することが可能ですし、事業活動のなかでどういったリスクが潜伏しているのか、バランスよく習得する機会にもなりますので、最近はこういった内部監査担当者の職性というのも珍しくないようです。私も内部監査担当者の方とお話をさせていただくときは、その方の在籍年数と、その企業における内部監査室の平均勤務年数などをお聞きすることにしております。私の知りうるかぎりにおきましては、「内部監査のプロを育てる」長期勤続型を重視する企業と、「将来幹部候補生の通過点」として短期勤続型を重視する企業にはっきりと分かれるところが非常に興味深いですね。
社内の内部監査担当者の方が、公認コンプライアンス・オフィサーや、CFE(公認不正検査士)といったオフィシャルな資格を保有する動機としましては、やはりその監査といった業務に精通したいという強い意欲が必要でしょうから、短期勤続型の企業においてはあまり向かないかもしれません。せっかく勉強して取得したにもかかわらず、そのころには「はい、次の部署」と命じられては「宝の持ち腐れ」になってしまう可能性もあります。ただし短期勤続型というのは、内部監査室自身がつねに新陳代謝をはかることができて、それまでの監査業務を他人が客観的に審査できるという意味では、「監査室自身のコンプライアンスルール」としては健全なのかもしれません。一方、長期勤続型となりますと、その独立性が確保されている場合には「監査のプロ」を育成することが可能となり、会計監査人や監査役の情報収集能力の向上や、企業の事業内容に合致した適正な監査が可能となりますが、内部監査自身の品質管理がむずかしくなってしまい、いわゆる「内部統制の限界」を作り出してしまう要因にもなってしまいます。
もちろん、内部統制システムは、その企業組織に合致した形で自由な設計が許容されるところでしょうが、こういった内部監査室を支えるスタッフの「あり方」につきましても、できるだけその長所と短所を認識されたうえで、構築する必要があるのではないでしょうか。(きょうはどうもごちそうさまでした。)
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