2013年10月17日 (木)

法令違反が放置されている内部統制報告制度の運用

昨日(10月15日)の日経新聞ニュースによると、ベンチャー企業の上場促進策として現行の内部統制報告書の提出義務が新規上場時から3年間猶予されるような措置が講じられることになる、とのこと。ちなみに正確には経営者の内部統制報告書提出義務は残って、内部統制監査を受ける義務が免除される、ということではないでしょうかね?ともかく、J-SOXの一律適用に例外を設けるということで、上場会社の負担を少なくするもので、アメリカと同様の軽減措置(中小上場会社に対する適用除外)が設けられるようです。なお、あたりまえのことですが、J-SOXは開示規制なので、これでベンチャー企業の経営者の(上場会社レベルの財務報告作成に関する)内部統制システムの構築義務が軽減される、ということは一切ございません(上場準備会社の取締役、監査役の皆様方のために一応、念のため)。

ところで同制度に関連する話題ですが、JDQのクリーク&リバー社は、10月11日に内部統制の訂正報告書を提出しています。平成23年3月から同25年2月までの二期分について、内部統制は有効である、としていた報告書について、「間違っていました、有効ではない、と訂正します」との内容です。訂正の理由は、同社の連結子会社において、不適切な会計処理が発覚して過年度訂正をせざるをえなくなったが、内部統制において子会社役員のコンプライアンス意識の欠如、当社および子会社における全社的内部統制の不備があり、重要な欠陥(当時)がみつかったから、というものです。

あまり知られていませんが、週刊経営財務9月9日号(3129号)によると、ここのところ上場会社による内部統制訂正報告書の提出が急増しています。平成23年度は8社だったものが、同24年には23社となり、経営財務によれば「これらは、不正や不適切な会計処理が発覚し、それを契機に訂正した会社がほとんど」とのことです。一方において、内部統制報告書で「当社は開示すべき重要な不備があり当社の内部統制は有効ではない」と開示しているのは、平成24年度にはわずか7社にすぎません。「有効ではない」とする内部統制報告書を提出する企業が少なくなっていることについて、上場会社の内部統制は良好なものになっているとの評価もありますが、客観的にこの運用状況を分析すれば、「とりあえず有効と開示しておいて、何か会計上の問題が発覚したら有効ではない、と訂正報告書を出せば一件落着」という制度運用が慣行になりつつあることは明らかです。つまり、3800社ほどの上場会社の中には、内部統制が有効ではないにもかかわらず、(たまたま会計不正が見つかっていないために)内部統制は有効である、と虚偽開示している企業がかなり含まれているといっても過言ではありません。

この慣行は、どうみても金商法24条の4の4の運用において法令違反の状態にあると考えます。そもそも不適切な会計処理や粉飾決算が発覚した場合に、内部統制を有効ではないと訂正することに問題があります。「結果として重要な虚偽記載が存在する以上、そのような虚偽記載を作成するプロセスにも問題があったのだから、訂正するのは当然」という意見もあることは承知しています。しかし、内部統制報告制度はシステムが有効か、有効でないかの(経営者の)判断を表示するものであり、有価証券報告書のように相対的真実主義に裏付けられた「真実かつ公正なる概観」を表示するものではありません。要は財務報告作成のプロセスをどう評価するか、ということであり、そもそも内部統制には(粉飾発生の際に無効化される場合があるとして)限界があることは所与の前提なのですから、たとえ結果として粉飾が見つかったとしても、経営者は堂々と内部統制は有効と評価した、その評価プロセスにおいて問題はなかったと表明すればよいのです。システムは(評価基準にしたがえば)有効だったが、残念ながら限界事例だった、と表明することが求められるはずです。

そもそも金商法上の内部統制報告制度は、経営者が「リスク」を開示する制度なのですから、そのリスクが現実化したからといって、リスク評価がすべての場合に間違っていたということはないはずです。かりに「間違っていました」ということで訂正報告書を提出するのであれば、なぜ作成プロセスを有効と判断したのに、有効ではないと訂正するのか、その判断のどこに誤りがあり、これをどう修正すれば不備が解消されるのか、そこを経営者が説明しなければ訂正報告には形式上の不備があるはずです。しかし実際には、「不正が発覚したから訂正します」ということだけであり、訂正報告書についての監査法人の意見もこれを適正としています。

この運用上の誤りの由来は、そもそも真実かつ公正なる概観こそ投資家に開示しなければならないという有価証券報告書提出の制度趣旨とその監査制度の趣旨をまちがって内部統制報告制度にも適用してしまっている現状があると考えます。今のままでは、投資家にリスクを開示することによって投資判断に資する・・・という内部統制報告制度の趣旨は実務上全く機能していないと言わざるをえません。また、現状の運用では有価証券報告書とは別に内部統制報告書についても「虚偽記載に関する開示責任」の条文が金商法に別個に存在する意味も説明がつきません。また有価証券報告書の場合には、(粉飾が認められる場合に)比較可能性という意味でも過年度の決算を訂正する必要性がありますが、内部統制報告書に比較可能性を認める必要性があるならば、なおさら有効ではないと判断された過年度との比較のためにどこにプロセス判断の誤りがあったのか、開示されなければなりません。

このように考えますと、そもそもリスクを開示せよ、としている金商法の適用において、経営者も監査法人も法令違反の状態にあると言わざるを得ません。制度施行から5年が経過して、この点について誰も疑問を抱かないということは、まさに上場会社のすべてが、そして監査を担当するすべての監査法人が思考停止状態にあると言えます。ちなみに今年3月に出版しました拙著「法の世界における会計監査」の中でも、この問題について疑問を呈しましたが、これまで、この点についてはどなたからもご異論をいただいておりません。

会計処理の問題が後日発覚し、有価証券報告書を過年度にさかのぼって訂正しなければならない場合が生じたとき、では合わせて内部統制報告書も訂正すべきかどうか十分な検証が必要です。経営者として「判断当時は有効だと思っていたが、いま考えると、こういった判断プロセスに誤りがあったために、有効ではないと訂正する」といった運用、監査法人としても「このような内部統制監査の基準に従えば経営者の判断プロセスとその結果について適正と表明したが、その判断プロセスのどこにどのような誤りが認められるため、今回の訂正を適正と考える」といった運用がなされる必要があります。また、断固として内部統制は有効だったがこういった限界があったために残念ながら過年度決算修正に及んだという経営者の説明があっても良いと思います。そのような運用がなされて初めて、個々の上場会社の財務報告の信頼性を向上させるための知恵が蓄積されることになり、またそのような運用が行われないかぎり、内部統制報告制度が今後の上場会社の開示制度の向上に資する道はないものと考えます。同制度の費用対効果が問題視されていますが、その効果を減殺しているのは、まさに運用主体である上場会社と監査法人ではないでしょうか。

市場に個人投資家の資金を呼ぶための施策が打ち出されることには大賛成なのですが、このような「合法的虚偽記載」の運用がこのまま放置されてしまいますと、その被害を被るのは内部統制の有効性という開示情報を信用した個人投資家です。現状の内部統制報告制度の運用を早急に改める必要があると思いましたので、あえて問題を提起いたしました。

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2011年3月11日 (金)

法定監査を受けていない大会社と会社法上の内部統制

以前のエントリー(例外的取扱いが招く企業不祥事の教訓)でも触れておりますが、バイオテクノロジー企業である林原社の不正会計問題で、同社が会計監査人の法定監査(会社法監査)を受けていないことをメインバンクさんが確認していなかったことが話題になっておりました。おそらくこの件を契機として、日本公認会計士協会さんが調査されたようですが、同協会は、会社法で監査が義務付けられている大会社のうち、約500社が法定監査を受けていない可能性がある、との調査結果を公表されたようであります(産経ニュースはこちら)。ご承知のとおり、会社法では資本金5億円以上または負債200億円以上の会社(いわゆる大会社)については、たとえ非公開会社であっても会計監査人(監査法人や公認会計士)の監査を受けなければならない、とされております(会社法328条)。上記の調査は国税庁の資料と協会の内部資料を突き合わせて算出されたものでありますから、負債200億円以上、という点についてはきちんと判明はされていないものと思います。したがいまして、9日の朝日新聞で報じられていたように、1000社程度は法定監査を受けていない大会社があるかもしれません。

会社法は(大会社の場合)会計監査人を設置しなければならない、と規定しているので、選任せずにそのまま放置すれば法令違反となり100万円以下の過料という罰則が適用されます(会計監査人の選任懈怠-会社法976条22号)。たしかに「制裁が科されるとしても過料100万円以下なんだから、いろいろと指摘されるまで監査人は置かないでおこう」と考えておられる会社もあると思います。しかし会社法上の大会社は、会計監査人の設置義務だけではなく、内部統制の基本方針を決定する義務があります(たとえば取締役会設置会社の場合、会社法362条5項)。これは事業報告へ記載しなければならない事項ですから、会計監査人を置かずに放置している大会社の場合、事業報告への「基本方針」の不記載もしくは虚偽記載も問題となるのではないかと(会社法976条7号)。また代表者および業務担当取締役には、おそらく計算関係書類の適正性を確保するための内部統制構築義務も存在しているものと思われます。会計監査人による監査を受ける体制を具備していない、というのは、この計算関係書類の適正性を確保するための基本的な体制整備に不備があるものと考えられますので、これは各取締役、監査役の任務懈怠になる可能性も高いのではないかと考えます。とりわけ子会社たる大会社にこのような問題が残っているとすれば、親会社の役員についても内部統制構築義務違反が問われるケースも出てくると思いますので要注意であります。

日本公認会計士協会さんがこういった調査結果を公表する背景には、法定監査の要請が広がることで、会計士の職域が拡大し、ひいては業務対策になることが挙げられるものかと思います。しかしこれまで会社法監査を行ってこなかった企業の監査は、ちょっとコワイ気もいたします。なかには、銀行の財務制限条項にひっかからないために、もしくは官公庁の指名からはずされないために、相当に無理して計算書類を作成している会社もあるのではないかと。確信犯的に会計監査人を置かなかった企業や、そもそもコンプライアンス意識が乏しくて、会計監査が必要だとは思っていなかった、という企業もあろうかと。そう考えますと、これまで会社法監査が必要であるにもかかわらず、これを長い間放置していた大会社の会計監査を行うことはずいぶん勇気がいるのではないでしょうか。実際、会社法監査ではありませんが、法定監査において会計監査人の監査見逃し責任が認められた裁判例も過去にありますし(たとえば日本コッパーズ事件第一審、東北文化学園大学事件地裁、高裁判決等)、監査人の法的責任は否定されたものの、キムラヤ粉飾事件判決なども監査人の注意義務違反の有無が大きな争点となりましたので、会計士としての職業的懐疑心をもって臨まなければ監査リスクが高いと思いますね。大会社といいましても、先日の林原社のように、「会計監査人が登記事項だとは知らなかった」というのが現実であるならば、金融機関の決算書に対する審査体制にも疑問が出てきますし、会計士さんたちもあまりこれに依拠できないように思います。

ところで、キムラヤ事件では銀行から派遣された会計士とキムラヤ経営陣とのバトルがありましたが、有価証券報告書提出会社以外の大会社において、会計監査が義務付けられているとしても、会計士さんはどういった切り札をもって被監査対象会社に対する優越的地位を確保するのでしょうかね?上場会社の場合には意見を表明できない、とすれば監理対象になってしまいますし、財務報告が義務化されている会社であれば有価証券報告書を提出できない、という事態にも陥ってしまうことになります。しかし会社法上の大会社については、そのような「脅し」が効かないのでしょうか?監査役が会計監査人を解任する、といった事案が昨年2件ほどありましたので、ちょっと気になりましたがよくわかりません。(すいません、勉強不足でこのあたりはあまり自信がないもので。。。しかしそう考えますと、なおさら会計監査は結構きつい作業になるのではないかと思うのでありますが)

会計士協会さんは、こういった問題は不正経理などにもつながる可能性があるため、対策について関係省庁と協議する予定とのことであります。こういった事例を通じて、金商法上の内部統制報告制度だけでなく、会社法上の財務報告内部統制(上場会社ではないので、計算書類等内部統制といったほうが適切か?)についても関心が高まればいいですね。

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2009年2月12日 (木)

続・貴乃花親方名誉毀損事件判決にみる「出版社の内部統制構築義務」

ある方のご厚意により、閲覧を渇望しておりました「貴乃花親方名誉毀損事件」地裁判決(コピー)と、事件の発端となりました週刊誌記事(5つほど)を頂戴しました。さっそく平成21年2月4日付け東京地裁民事41部判決の全文を読ませていただきました。(民事38部ではなかったようですね。ホント、どうもありがとうございます m(__)m )係属中の事件につきまして、いくら「場末のブログ」といいましても、法律家の身分で詳細な法律意見を述べることはエチケット違反になるかもしれませんので、自身に関心の高い「内部統制」に関する争点のみ感想として書かせていただきます。

本件は新潮社が貴乃花親方にまつわる記事を平成17年2月17号から同年7月14日号に至るまで計5回、「週刊新潮」に掲載した件につき、貴乃花親方側が名誉毀損に基づく損害賠償請求および謝罪広告を求めて訴えを提起した事件であります。相手方は新潮社(法人)と、編集長、そして新潮社の代表者の3名でして、709条、715条(使用者責任)、719条(共同不法行為)を根拠とする点については普通の名誉毀損損害賠償事件と変わらないところでありますが、特筆すべきは旧商法266条ノ3(取締役の第三者責任)を根拠として法人の代表者個人の損害賠償を求めているところであります。そして、先日のエントリーでご紹介したとおり、東京地裁は「週刊新潮」の編集長と法人の不法行為責任(謝罪広告1回掲載を含む)を認めたうえで、さらに旧商法266条ノ3第1項に基づき、新潮社の代表者ご自身の損害賠償責任を認めております。

判決書の24頁以降で、新潮社代表者の旧商法266条ノ3に基づく法的責任認容に関する判断理由が記載されておりますが、当裁判所は明確に、出版社は名誉毀損等の権利侵害行為を可及的に防止する効果のある仕組み、体制を作っておくべきものであり、株式会社であればその代表取締役が業務統括者として社内にそういった仕組み、体制を構築すべき任務を負うもの、と判示しております。具体的には(新聞報道にありましたように)

①記事の執筆に関与する従業員について、名誉毀損等の違法行為の要件や「あてはめ」に関する正確な法的知識、名誉毀損等の違法行為を惹起しないための意識と仕事上の方法論を身につけるための研修を行う体制を構築する、②出版物を公刊する前の段階で、相応の法的知識、客観的判断力等を有する者に名誉毀損等がないかどうかチェックさせる仕組みを社内に構築する、③出版物を公刊した後の段階で、客観的な意見を提示しうる第三者視点をもった者によって構成される委員会等において、記事内容に名誉毀損等の違法性がなかったかを点検させ、社内責任者を交えて協議し、すでに発行した出版物中の記事の適否を検討する体制を構築する、

といったあたりが内部統制の骨子と思われます。(判決文ではもっと詳細な説明がなされておりますが、いちおう要旨のみということで)なお、社内体制の構築ということについては、新潮社側からも反論がなされておりますが、2年に1回程度の社内研修を行っているということでは到底不十分である、週刊新潮担当取締役が編集長に毎回説明を求めており、また問題があれば代表者へ報告される仕組みは存在することについても、社内体制としてはまったく論外、といった判断内容となっております。

「裁判所はなぜここまで厳格に出版社の内部統制構築義務を論じたのか?」という点でありますが、やはり新潮社の週刊誌出版の歴史からみて、この部門(週刊誌公刊)においてはとりわけ名誉毀損による人権侵害のリスクが高いことに注目したのではないか?と推測しております。裁判所の判断は抽象的な判断理由だけをセンセーショナルに捉えるのではなく、判断の基礎となった事実との関連性をきちんと押さえておく必要がありますが、5つも立て続けに貴乃花親方の周辺記事を掲載した…という点よりも、むしろこれまでの著名な週刊誌公刊の歴史のなかで、名誉毀損的な訴訟も数多く、実際に人権侵害と判断されたケースも非常に多いことから、「とりわけ週刊誌部門においては」リスクが高いと認識すべき・・・といった点を裁判所は重視したために、こういった内部統制の構築は代表取締役の必須の任務だと判示したようであります。ですから、冒頭「出版を業とする企業は」で始まる判断理由でありますが、すべての出版社にこの新潮社と同様の厳格な内部統制構築義務が課されるとみるべきかどうかは、別途考慮を要するところだと認識しております。このあたりは(おそらく)原告側から明確な主張がなかったところだと思いますので、裁判所のリスク管理としての内部統制構築義務の捉え方として、今後の同種紛争には極めて参考になるところだと思われます。

そして、もう一点特徴的なのは、先に掲げました③の事後チェック体制であります。「週刊誌を出すのに、なんでいちいち事後に第三者委員会の検討なんかしないといけないのか?現実離れした見解ではないか?」といった感想を持たれた方も多いのではないでしょうか。しかし当ブログの常連の皆様でしたらおわかりのとおり、内部統制は「整備と運用」もしくは「PDCAプラン」が基本ですので、整備された内部統制がうまく運用されているのか、改善すべき点はどこか・・・といったチェックがなされてはじめて「体制が構築されている」と評価されるわけであります。したがって、名誉毀損等の違法行為を防止するための仕組みが必要・・・といった判断が妥当するのであれば、当然のことながら、この事後チェック体制の構築は基本要素として備わっていなければならないことになります。新潮社という株式会社が、内部統制の基本方針について取締役会で決議をされている以上、当然のこととしてPDCAプランが機能していなければ会社法違反になるはずですので、こういった表現になるのも当然ではないかと考えております。

もちろん名誉毀損事件特有の論点とか、被告側が主張されている「編集権の独立」との関係とか、リスク認識の問題など、意見が分かれる可能性のある争点が他にもありますので、これがそのまま高裁でも維持されるのかどうかは未知数だと思われます。また、取締役会を構成する他の役員が被告になっていたら、はたして旧商法266条ノ3による連帯責任が認められただろうか・・・、といった問題点も残っております。しかしながら、会社法上の内部統制に関する議論が相当に進み、また内部統制の構築が経営トップの責務である、との認識が周知されてきた今日、こういった判断が企業法務を取り扱う裁判のなかでも普通に行われるようになってきたことについては、出版社のみならず、広く企業のリスク管理の一環として検討されるべきではないでしょうか。本件につきましては、おそらくマスコミ全般にとって、非常に悩ましい話題であり、真正面から採り上げられることもないのでは?と思いますので、当ブログでは今後も継続的に採り上げていきたいと思っております。

PS 匿名受験生さんから情報をいただきました「福島銀行違法配当事件」ですが、これも非常に関心のあるところです。私個人としましては、この問題は地方紙で小さく報道されるだけでは済まないような問題だと思うのでありますが・・・・たとえば記者会見で「分配可能額を超えた配当がなされても、会社法上は有効」と銀行側が発表した、とのことですが、それは配当決議が有効ということなのでしょうか?それとも配当決議は無効だけれども配当行為自体は有効ということなのでしょうか?著名な商法学者の皆様は、そもそも会社法上は無効である、と述べておられるようですし、このあたりはまだ決着がついていないものと認識しております。(かなりヤバイような気もしますが。。。またの機会に・・・)

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2009年2月 6日 (金)

貴乃花親方名誉毀損事件判決にみる「出版社の内部統制構築義務」

常連の皆様は、おそらく日綜地所会社更生手続きのほうにご関心があるでしょうし、あまりブログでも採りあげられていないようでありますが、(昨日のエントリーの最後でも少し触れましたが)この貴乃花親方名誉棄損事件の東京地裁判決についてはかなり注目すべき判決ではないかと思いまして、いちおう私自身の備忘録として記しておきたいと思います。

事案は大相撲の貴乃花親方夫妻が、相続問題や八百長疑惑に関する新潮社の雑誌記事によって名誉を傷つけられたとして、発行元の新潮社と同社代表取締役個人に対して損害賠償請求訴訟を提起したものでありますが、東京地裁(たぶん第38民事部かと思いますが)は法人に対してだけでなく、社長個人に対しても375万円の損害賠償を命じた、というものであります。この事案でもっとも注目すべき点は大手出版社の代表者個人に対して、旧商法266条の3(現行会社法429条1項)を根拠として「名誉毀損防止体制の構築を怠ったことについての悪意、重過失」を認めた点であります。

また、重過失認定の根拠に関しては、出版社の代表者は名誉棄損の記事を防ぐため、①社員の研修体制、②出版前の記事のチェック、③第三者委員会など事後の検討体制等を社内に整備する義務があるにもかかわらず、新潮社社内では十分な体制ができておらず、会社内部に名誉棄損を防止する有効な対策がとられていなかったことにつき、社長に重大な過失がある、という理屈であります。(なお、取締役の第三者責任に関する規定によるもので、「任務懈怠」が立証されますと、被害者に向けられた故意・過失であることまで立証する必要はないものと思われます)通常、取締役の第三者責任といえば、倒産事件などで、債権者が法人の責任を問えないケースに奏功するイメージを持っておりましたが、こういった内部統制構築義務違反事例においても活用されるようになってくるのでしょうか。

日経朝刊の記事からの推測でありますが、いわゆるリスク管理の一環としての内部統制構築義務違反を社長さんの「任務懈怠における重過失」と結びつけて、第三者への責任を認容しているもので、以前ご紹介いたしました東証二部の某企業の事件(平成19年11月26日東京地裁判決 判例時報1998号141頁以下)における判例構造と非常によく似ているものと解されます。(会計不正事件を防止するための内部統制システムを構築することを怠った点について、社長の「不注意」と認定し、社長個人の元株主に対する不法行為責任を認容した事例)本件の理屈からすると、他の取締役の方々についても重過失が認められる余地もあるのかなぁと思いましたが、いずれにせよ「コンプライアンスは経営トップの姿勢次第」などと、よく言われるところでありますが、ついに法的責任という面においても、経営トップの姿勢が問題視されるようになってしまったようであります。

おそらく新潮社の社長さんとしては、「寝耳に水」といいますか、法人に対する損害賠償命令までは予想していたとしても、まさか社長個人にまで直接責任が認容されるとは思ってもいなかったのではないでしょうか。ちょっと、事案の詳細までは存じ上げませんが、出版社の社長さんに名誉棄損事件で損害賠償リスクが発生する、となりますと、かなり衝撃的なものでして、出版社だけでなく新聞社、放送局に至るまでマスコミの内部統制体制については見直しを要するものなのかもしれません。ただ、今回の事件においては出版社における内部統制構築義務違反まで判断すべき事案だったのか、名誉毀損的表現行為が5回にもわたっていたことを捉えて、代表者の「不作為の過失」として事案限定的に注意義務違反を議論すれば足りるのではなかったか等、もう少し中身を検討してみたいところであります。(もちろん、高裁で逆の結論となる可能性も十分にあるようにも思えます)

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2007年10月14日 (日)

財務報告内部統制と内部統制システム基本方針改定

(10月14日深夜 追記あります)

昨日(12日)の適時開示情報のなかにおきまして、大証ヘラの燦(さん)キャピタルマネジメント社が「内部統制システム構築の基本方針の改定に関するお知らせ」をリリースされておりました。燦キャピタルさんの基本方針の最後に、財務報告内部統制確保のための体制整備について記載がされておりますが、こういった財務報告に係る内部統制システムの整備運用方針を追加的に記載するために、内部統制システムの基本方針を改定する企業が最近目立つところであります。金融商品取引法が全面的に施行され(ただし財務報告に係る内部統制制度については来年4月以降)、内部統制府令(第62号内閣府令)も正式に公布されるに至りましたので、企業としても体制整備の一環として、財務報告内部統制確保に関する基本方針を追加しているのでしょうね。また、監査役協会が財務報告内部統制に関する監査基準を新設して、監査役による監視検証の対象として採り入れていることなども、こういった改定の要因になっているのかもしれません。

さて、このところの基本方針の改定を調べてみましたところ、上記の財務報告内部統制を確保する体制については、概ね3つの改定パターンがある ことがわかります。(追記 改定を検討してみたが、諸々の理由によって改定をしなかった、というものをパターンのひとつと捉えれば4パターンということになりそうです。技術屋の内部監査人さん、のらねこさん等のコメント 参照)ひとつは取締役、使用人の職務執行が法令定款に基づき適正に行われるための体制確保のなかで追加するパターン、ひとつは連結財務諸表の適正性確保を主たる目的として内部統制報告書が作成されることから(金融商品取引法24条の4の4)、企業集団における業務の適正を確保するための体制として捉えているパターン、そしてもうひとつが、上記燦キャピタルさんのように、これまでの条項とは関係なく、独立条項を設けて体制整備を謳っているパターンであります。いずれのパターンによるかは、各上場企業の置かれている経営環境によって異なるものと思われますが、いずれにせよ、会社法における内部統制システムの構築と、金融商品取引法(内部統制報告制度)における内部統制との融合的理解といったことが前提となりますので、各企業とも、統一的な理解をもって体制構築を企図されているようであります。以前からこのブログでも述べておりますように、私自身は会社法上の内部統制とJ-SOXはまったく別次元のものであり、安易な統一的理解はすべきではない(異質説 ただし、いずれの法目的をも充足させるような共通部分が相当にあるので、企業はそこから対応すべし)と考えておりますが、最近の法曹界の通説では統一的理解が可能である(同質説)とみるようでありますので、注1 最近の基本方針の改定は、そういった通説的理解との親和性は高いものと思います。

注1この分野における秀逸な論文として、「金融商品取引法の内部統制と法令遵守体制の関係」池永朝昭著・旬刊商事法務1796号22頁以下がある。会社法上の法令遵守体制と財務報告内部統制との関係について整合的に理解するには大変参考になるものと思われる。

ところで、取締役や使用人の職務執行が法令および定款に適合することを確保するための体制の一環(会社法362条4項6号、施行規則100条1項4号等)として「財務報告内部統制を確保する体制」を捉える場合、そこで適合性が求められる「法令および定款」とはいったい何をさすのでしょうか?金融商品取引法をさすのでしょうか?金融商品取引法では、上場企業が内部統制報告書を有価証券報告書と併せて提出すること(金商法24条の4の4)、その報告書には監査証明を付すこと(同193条の2、2項)、および報告書の虚偽記載に関する罰則等が規程されているのみでありまして、財務報告内部統制の確保に関する具体的な定めはありません。ただし(金融商品取引法の委任もしくは細則的な意味合いをもって作られております)今年8月10日に公布されました「財務報告に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令」(内閣府令第62号)によりますと、当該会社(もしくは当該会社が帰属する企業集団)における財務報告が、法令等にしたがって適正に作成されるための体制のことを、財務報告に係る内部統制と定義されておりますので(上記府令3条)、この府令3条の「法令等」の具体的な中身の問題になろうかと思われます。注2 そして、この法令等の中身につきましては、当該府令1条1項において、当該府令と「一般に公正妥当と認められる財務報告に係る内部統制の評価の基準」とされているようでありまして、同1条4項では企業会計審議会により公表された基準が、この「公正妥当と認められる基準に該当する」と定められておりますので、結局のところは「内部統制実施基準」までが「法令等」に該当することになろうかと思われます。そして「実施基準」が、経営者評価にあたり、各上場企業に広範な裁量範囲を付与していることは皆様ご承知のとおりであります。

注2 立案担当者は、この内部統制府令3条について、「この体制は、各社の状況(置かれた環境や事業の特性、規模等)により異なることから、一律に示すことは困難であり、各社において適切に判断されることになるものと考える」とされる。(谷口・野村・柳川 「開示制度に係る政令・内閣府令等の概要(上)」旬刊商事法務1810号38頁)

さて、上記のように「法令等」が金融商品取引法から内部統制報告制度の実施基準まで、広範な部分を包含するものと捉えますと、法令への適合性が求められるといいましても、非常に曖昧かつ漠然としたものであることがわかります。とりわけ経営者評価基準といったものは唯一の会計慣行も存在しませんので、誰か(評価に詳しい方)が「こうでなければならない」といった基準を示しても、それ以外は基準として適合しない、といったことでもありません。内部統制監査人が、(事実上)経営者評価はこうでなければならない、と指摘したとしても、それ以外の評価方法が違法という評価は出てこないということになりそうであります。(いや、「こうでなければならない」といった話はそもそも前提としては成り立たず、「こうであれば、評価方法としては適切ではない。」とまでしか言えないのではないでしょうか)内部統制システム構築に関する基本方針のひとつとして、財務報告内部統制を含ましめることに、どれほどの意味があるのかは、いまのところ私自身もよく理解していないのでありますが、とりあえず会社法と金商法との内部統制に関する統一的理解を前提とした場合には、このあたりが議論の出発点になるのではないか・・・と思った次第であります。

あまり理屈っぽい話だけではおもしろくありませんので、すこしだけ具体的なお話をしたいと思いますが、たとえば財務報告内部統制の構築体制を確保する、といった基本方針を開示する場合、単に「体制を確保すること。取締役会は代表者の整備運用への評価を監視すること」などといった抽象的なことだけでなく、もうすこし具体的なことも書いてみたらいかがでしょうかね。10月はじめに、「内部統制府令に関する金融庁ガイドライン」が「Q&A」とともに公表されていますが、そのなかで報告書に署名捺印を要する「最高財務責任者」に関する解説がありまして、単なる経理担当者にとどまらず、経営者とともに、財務報告に係る内部統制の評価に責任を負うべき者であることを要する・・・とありました。もし、そのような意味で責任を負う立場にある最高財務責任者を設置している企業であれば、そういったことも財務報告内部統制の基本方針として記述すべきだと思いますが、いかがでしょうか。単に経営者評価は代表者が責任をもって評価する、とされる企業と、最高財務責任者も併せて署名する、とされる企業とでは、現実の評価手続きを考えた場合、後者のほうがよっぽど「取り組みへの真剣度」が高いように思えますし、会社債権者や株主への開示情報からの印象度注3 にも差が生じるように思えるのでありますが。。。(記述することについても、それほど面倒なこともありませんし)

注3 そもそも会社法の規定する内部統制システムの基本方針決定(体制整備に関する取締役会決議)は、法が特別に内部統制システムの構築を企業に義務付けたものではなく、基本方針を決議するかどうかの自由を与え、もし決議した場合には適時開示情報や、事業報告(会社法施行規則118条2号)等で開示せよ、というものであり、開示制度の有するガバナンス機能が重視されているものである。(「会社法下における企業法制上の新たな課題(下)」旬刊商事法務1789号5頁相澤発言 参照)いっぽう、財務報告に係る内部統制報告制度の場合には、連結財務諸表等の信頼性を確保するに足るレベルの内部統制システムの構築が目標とされ、インダイレクトレポーティングによるものとはいえ、監査水準による監査証明も要求されるわけであるから、一定水準の統制システムの構築が法により要望されているといえるが、特別に個々の企業の財務報告の内部統制システム自体が、法によって開示されることまで要求されるものではない。なお、会社法における内部統制システムの構築の水準というものを想起するのであれば、それは個々の企業における取締役の善管注意義務のレベルを模索することになると思われる。

(10月14日夜 追記)

明朝から某会社の経営会議のため、別エントリーをたてるだけの時間がありませんので、追記とさせていただきます。のらねこさん、監査役サポーターさんのコメントを読ませていただきました。会社法と金融商品取引法の内部統制が密接不可分の関係にあるとか、財務報告にかかる基本方針は会社法の基本方針の下方に位置する等といった見解もあろうかとは思いますが、ひとつ整理をしたい問題がございます。もし財務報告内部統制が、業務の適正性確保のための体制と同質もしくは下部に位置するとすると、取締役は会計監査人による監査証明において、「内部統制は有効である」とした経営者評価に適正意見さえもらえれば責務を全うしたことになるのでしょうか?財務報告内部統制の実施基準において「内部統制の限界」とされるような事例において、不正会計が発生した場合には、取締役の責任は免除されるのでしょうか?今後、J-SOXの基準が緩和された場合、その基準の変化にしたがって取締役の注意義務も変化するのでしょうか?財務報告の信頼性を確保するための体制が一般的にみて業務の適正性確保のための体制の一部であることは私も認めるところでありますが、それは会計監査人だけでなく、監査役とか、内部監査人とか、諸々の構築、モニタリングにかかわる人たちによって、外部監査とは無関係にコンプライアンス的発想から要求されるものでありまして、そもそもJ-SOXとは次元が違うのではないでしょうかね。

また、判例上では、会社法上の内部統制システムの構築については、取締役の経営判断原則が成り立つものと言われておりますが、(実際、ダスキン高裁判決においても、広範な経営判断原則の適用を認めております)たとえば財務報告に係る内部統制の構築といった問題は(同質説の場合)どう捉えるべきなのでしょうか?やはり広範な経営判断原則の適用があるのでしょうか?

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2006年3月 2日 (木)

内部統制と新会社法(2)

なぜ新会社法は、株式会社の経営陣(取締役、取締役会)の職責として、内部統制システムの構築といったことを明文で求めているのでしょうか。金融庁主導による「財務報告の信頼性確保」のための内部統制とは目的が異なるのでしょうか?(ちなみに、私のブログでは仕事柄、この内部統制に関する議論が多いんですが、これを扱うと一気にアクセス数が落ちるのが不思議です・・・)

企業会計審議会内部統制部会によって、内部統制報告書や監査のあり方が検討された目的は、そもそも内部統制部会の検討課題が粉飾決算や違法配当に絡む不祥事の予防対策といったことから始まりましたので、その目的は「企業不祥事防止、会計監査の適正化推進」といったところにあるのは間違いないようです。したがいまして、企業不祥事を防止する、という目的は非常に大きなウエイトを占めることは理解できます。しかしながら、会社法で内部統制を議論するようになった目的というのはいったいどこにあったのか、といいますと実はあまりはっきりしていないように思います。もちろん「企業不祥事の防止」といったところに目的がある、という意見が多数を占めるのかもしれませんが、(ちょっと屁理屈かもしれませんが)企業不祥事が発生したとしても、それがなんら世間に発覚しなかったり、会社に損害を与えなかった場合(談合など)であれば、内部統制システムの構築義務違反の事実それ自体が株主や債権者にはなんら不利益を被らせることにはならないわけでして、どうも会社法で議論するための目的としては説得力に乏しいように思われます。

そこで、私は会社法で「取締役や従業員の業務執行の適正を図るための体制整備」を明文化する必要性(内部統制システムを構築する必要性)といったものは、会社法なりの理屈によって考え直すほうが、今後の会社法の解釈指針としても適切ではないか、と思っています。まだはっきりと思考が整理されているわけではありませんが、この内部統制構築の必要性といったものは、新会社法が意図している「経営自由度の拡張」の裏腹に位置するものだと認識すべきではないでしょうか。(委員会等設置会社においていち早く、明文化された経緯なども参考になります)新会社法は定款自治原則、機関設計の自由化、経営意思決定の迅速化を図り、(規模や株式譲渡制限の有無によって差をつけているものの)株式会社の使い勝手をよくして、利用者の株式会社制度の利用につき選択の幅を広げています。しかしながら、これは一面においては便利であるけれども、一方では会社制度の使い方を間違えたり、恣意的に利用したりしますと、資金調達先である株主や取引先である会社債権者に多大な損害を与える危険性も増えるわけでして、その対策を検討しなければなりません。そこで監査役制度を強化したり、株主や会社債権者への会社情報の開示制度を強化するわけですが、これと並んで株式会社自身の迅速な意思決定の伝達が効率的になされたり、リスク管理の方法が確立されていたり、法令違反行為が未然に防止されるための「仕組み」を強化する必要も出てくるわけでして、これが会社法で明文化されるところの「内部統制システムの構築」ではないか、と思われます。「自由を保持しうるためには、責任を伴う」といった自然な感覚から会社法における内部統制のあり方を検討するのがシンプルでわかりやすい議論になるのではないでしょうか。こういった視点で、一度会社法施行規則100条で立案された体制整備として決定すべき事項の中身を検討してみてはいかがでしょうか。ある規程は会社外部からの監視(開示)と結びつき、ある規程は会社内部からの監視(モニタリング)と結びつき、またある規定は迅速な意思決定とその執行の適正性(業務の有効性、効率性、リスク管理)などと結びつくはずです。いずれも内部統制に関する法務省令案(パブコメ案)の冒頭で謳われていた「良質な企業統治を実現するため」といったガバナンスの理念との関連性が認められるのではないでしょうか。(各論は次回につづく・・・・)

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2006年2月27日 (月)

内部統制と新会社法(1)

私が社外監査役を務める株式会社も、いよいよ「新会社法」の施行を予定した動きが目立つようになりました。すでに6月の株主総会の運営についても(旧法、新法)検討済みですが、会社法362条4項6号、5項への対応につきましても鋭意準備中でありまして、とりわけ財務報告の信頼性に影響を与える(使用人の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制)重要な内規、規約の改定作業に追われている状況です。もちろん、会社法施行までに体制整備を行わなければいけないわけではありませんが、(体制整備に関する事項を決議すればよい)まずは規約と企業内の業務執行の実務との乖離が生じている部分は最低限度、修正しておかなければなりません。とりあえず、監査法人からアドバイスをいただくこともできませんので、外部から公認会計士の方をコンサルタントとしてお招きしたうえで、財務報告の信頼性に重要な影響を与える規程の選択、実務とISO取得時における実務指針との整合性、業務執行プロセスの明確化と、その実務にあわせた規約の変更などなど、一連の作業を進めているところであります。また、このあたりの作業は、会社法における内部統制システムの構築と、金融庁主導による内部統制システム構築提言と、ほぼ重複するところではないかと予想しておりますので、もっとも効率的な整備を可能とし、かつ企業不祥事を防止するには効果的である、と判断いたしました。

さて、昨日紹介させていただきました野村総研のアンケート結果によりますと、まだまだ体制整備が完了した、と言える企業も少ないのではないかと思いますが、「取締役や従業員の職務が法令定款に適合することを確保する体制の整備」といいましても、おそらく人的、物的設備を具備しただけでは「整備」したことにはならないかもしれませんね。なぜかといいますと、いくら立派な体制を整備したとしましても、普段のモニタリング機能(整備状況が目的達成のために効果的に運用されているか、また業務上のリスクを低減するための仮説を検証しうるデータを生み出しているか)が発揮されていなければ、取締役の忠実義務を尽くしたことにはならないでしょうし、取締役会の専権事項とされている関係からみて、そのモニタリングの報告が、担当取締役より、取締役会に上程審議されていなければならないからです。おそらくCOSO報告書によるマネージメントを念頭に置いたものであるならば、こういったシステムまで含めて「体制」と捉える必要があるでしょうし、そうであるならば、「整備する事項を開示して、その開示内容に沿って作ってしまえば一件落着」にはならないはずです。

そもそも会社法施行規則公表以前のパブコメ案(法務省令案)にありました第一条(施行規則では削除されております)では、この「株式会社の業務の適正を確保する体制に関する法務省令」は、我が国の株式会社の企業統治の質の向上に資することを目的とする、とありました。体制整備そのものの行為規範性も重要かもしれませんが、この目的からみますと、整備を決めた体制とはどういったものなのか、常に株主の監視の下に置くために「事業報告によって開示すること」も同様に重要なのだと思われます。おそらく今後は、事業報告や普段のIR活動のなかにおきまして、体制整備に関する進捗状況とともに、その体制の運用状況についても開示されなければいけないでしょうし、そういった開示によって初めて内部統制システム構築が良質な企業統治と関連付けられることになるのではないでしょうか。

でも、企業としては「体制整備事項」については、IR活動として、なるべくいろんなことを書きたいという気持になるかもしれませんが、一方においてはたくさんのことを書いてしまいますと、後で株主からキビシイ指摘を受ける可能性も高まってくるわけでして、そのあたりのバランス感覚のようなものも必要かもしれません。なお、これまでも大和銀行事件などに代表される、いくつかの司法判断におきまして、「内部統制構築義務違反」といった争点が出ておりますが、こういった体制整備事項の取締役会専権化、整備事項決議の義務化によって、取締役の善管注意義務違反といったもの(任務懈怠責任といったもの)が特別に認められやすくなるのかどうか、そういったあたりを次の機会に考えてみたいと思います。(私は、この内部統制というものを会社法のレベルで検討した場合、憲法の勉強に出てくる制度的保障の理論に近いものを想像してしまいます)

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