2006年3月 4日 (土)

裁判所の内部統制システムの一例

最近はよく、公開企業や公開予定企業の担当者の方より、「内部統制の具体的なイメージがつかめない。どうしたらいいのでしょうか」といった相談を受ける機会が増えました。私も一般的な説明をさせていただくのは簡単なのですが、各企業におけるシステム構築につきましては、その業界やその企業固有の組織について熟知しなければ容易ではないこととを申し上げております。なぜ、そう回答させていただくのか、きょうは私の仕事に近いところにある「組織」、つまり裁判所の内部統制システムの具体例から考えてみたいと思います。なお、このお話では、弁護士や司法書士といった手続関与者も裁判所内部の人間として捉えております。また手続の詳細な部分は、一般の方向けにエントリーしたものですから、すこし割愛したところもあるため、そのあたりご了承ください。

「財務報告の信頼性確保」といった部分に近い具体例が適切ですので、「破産手続と裁判所」といったところで考えてみましょう。
私たち弁護士の多くは、サラ金などで多額の負債を抱えた人たちの破産手続(いわゆるサラ金破産)を、本人に代わって代理申請することがあります。(ひところは、この破産代理ばかりで事務所経営を維持しておりました弁護士のことを「サンドイッチ弁護士(はさんでたべる)」と内輪で表現していた時代もありました。まぁそんなことはどうでもいいのですが・・)

毎年たいへん多くの破産申請が行われるわけですが、個別に裁判所がその資産、負債状況や支払不能に陥った経過を厳格に調査していては、到底処理することは困難であります。だからといって、(破産管財人がつかないサラ金破産の場合ですと)審査をいい加減にしておりますと、「資産隠し」や「浪費による破産申請」「虚偽破産」などの不正利用を許してしまう土壌を作りかねず、破産債権者のみならず国民一般の裁判所に対する信頼まで失ってしまうことになりかねません。そこで裁判所としましては、限りある資源を「弁護士、司法書士など専門家がついていない事件、非常に負債額を大きくて、問題のありそうな事件」への取組に集中できるよう、ほとんどの申請を弁護士もしくは司法書士が代行しているといった現状を活用しながら「内部統制システム」を考案し、これが成功して、現在の主流になっているわけです。その内容を「システム整備状況」と「システム運用状況」にわけて説明いたします。

1 破産手続審理のシステム整備状況

業務の適正に一定の社会的信用のある弁護士、司法書士が破産手続を代行する場合には、まず「申請者本人から、これだけはきちんと調査するように」といったチェックリストが裁判所より交付されます。そして、代理人はそのチェック項目(これがたくさんあります)ひとつひとつについて、本人からの聞き取りとその真偽判断に要した証拠の存否について確認したかどうかのチェックをします。そして最終的には、「私はこのチェック項目については、すべて本人持参の証拠を確認したうえで、まちがいないものと判断いたしました」といった確認書を裁判所に提出するシステムになっています。あとで債権者からの異議申立によって申立事実の虚偽が発覚しようものなら、自身の職業的信用に傷がつくだけでなく、懲戒対象にもなりかねませんから、この作業は弁護士、事務職含めてけっこうたいへんです。裁判所としては、この法律専門家の社会的信用を担保とした調査制度を通じて、申請内容の「真実性」を確保しようとしています。そして、代理人を通さずに破産手続を申請してきた本人申請事件に、多大な調査エネルギーをつぎ込むことが可能になるわけでして、だからこそ破産法が改正される場合などは、この法律専門家への破産手続説明などは(裁判所として)惜しみない労力を注いで、その代理人としての能力向上の支援をしていただけるわけです。

2 破産手続審理のシステム運用状況

上記の整備状況は、頭脳明晰な裁判官集団が作ったシステムとして、実によくできていると感心しておりますが(すこしばかり、巧妙な責任逃れではないか、との疑念もありますが)、それでも法律専門家が作ったチェックリストと確認書だけで不正防止が可能であるとは考えておられないようです。ここで登場するのが破産裁判所の有能な書記官の方々です。チェック漏れがある場合に、事実を担保できる証拠の提出を求めるくらいなら簡単ですが、チェック間の矛盾を指摘して、偏頗弁済のおそれ(破産申請の直前に一部の債権者だけに有利に弁済したのではないかといったルール違反)、資産隠しのおそれ、浪費の可能性などを厳しく指摘され、これに対する法律家としての意見書提出を求められます。この段階まできて、最終的には裁判官自身が申請の適否を判断することになるものと思われますが、こういった運用はまさに「弁護士や司法書士といった法律専門家」と五分に渡り合える裁判所内部の「人材」に大きく依存するのが実情ですし、また背景には「たとえ弁護士といえども、職業上の倫理に反したり、誤謬、ミスといった不正見逃しのリスクからは逃れられない」といった厳しい思想があります。

3 一般企業への投影 

一般企業の内部統制の問題として考えた場合、上記のように不正が発生するリスクをどのように効率的に発見するか、といった問題は、やはりその企業内部の人間でないとわかりづらいと思われます。詳細なチェック項目の作成は、不正の発生の経験に基づくものでしょうし、作成の巧拙を外部第三者が判断することはかなり困難なことがわかります。そして、そのシステムの運用面になりますと、さらにムズカシイ。上記の書記官の例でおわかりのとおり、「内容が正しいことを保証します」と文書で宣誓している現場の人間の行動について、ある意味で性悪説の立場に立って、その内容の誤解、意図的な不正を評価するためには、相当程度の専門知識を必要とするものでして、今後金融庁主導によって要求される内部統制といい、新会社法によって取締役会に要求される内部統制といい、こういった運用問題までの構築を求められることは、たいへんな作業ではないか、と考えております。ただ逆に、こういった問題を真摯に検討し、上手にステークホルダーに開示できる企業といったものは、時代が要請するコーポレートガバナンスのあり方を適切に理解して、企業価値の向上にうまく結びつけることができる企業にもなりうるものと期待をしています。

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