2006年3月15日 (水)

PSE法と経済産業省の対応

私のブログでは過去に一回しか取り上げておりませんので、あまり偉そうなことは言えないのですが、PSE法(電気用品安全法)改廃運動の盛り上がりで、経済産業省は少しばかりの妥協案を発表しました。いわゆる文化財的価値を有すると思料される音楽・映像機器をマニアの方に売却する際にはPSEマーク不要としたり、全国500箇所に検査機器を設置して、中古品販売業者に検査機関としての申請、登録をしてもらうことなどを発表したそうです。以下は毎日新聞ニュースの引用です。

安全性を示す「PSE」マークがない一部家電製品の販売が4月から禁止される問題で、経済産業省は14日、希少価値の高い中古電気楽器などを規制対象から外すなどの対応策を公表したが、リサイクル業者などからは場当たり的な対応への反発が強い。とくに一般の中古品販売業者は「一部の愛好家の問題として片づけようとしている」と批判しており、混乱が収束するかは不透明だ。

 経産省の対応策は、「ビンテージもの」と呼ばれる音響機器や映写機などを取り扱いに慣れた顧客に販売する場合は検査を不要にするほか、中小事業者がマーク取得のため漏電しないかを自主検査する機器を無料で貸与することなどが柱。

このPSE法問題につきましては、私もどういった結末になるのかは、未だに不透明だと考えているところでして、この法律を改廃すべきかどうか、賛否両論あることは承知しておりますが、すこしばかり場末の法律家の立場から気になるところを考えてみたいと思います。

1 経済産業省は、「5年の猶予期間」を有利に主張できるか

この問題が社会問題化しはじめたときに、私は経済産業省が5年の猶予期間を設けて、その間に中古品業者が対策を練るための十分な期間を与えてきたものだとばかり思っていました。たしかに経済産業省は広報活動が不十分ではあったものの、この「猶予期間」の抗弁によってなんとか乗り切ることができるのではないだろうか・・・・とも考えたりしておりました。しかしながら、どうもこの最も経済産業省側に有利な主張が、根拠として薄いような気がしてきました。といいますのも、この5年という期間は、PSE法をよく読んでみますと、製品流通前の措置という意味でしか触れられていないのではないでしょうか。つまり、このPSE法が規制を予定しておりますのは、新品製品の製造事業者およびその販売者ということであって、5年の猶予措置を採用したのは、おそらく製造から新品流通までに在庫期間が相当年数を要する電気機器もありうることから、新品製造業者(および販売業者)のために設けられた期間のようです。したがいまして、なにも中古品販売業者のために5年の猶予期間を置いたものではないのでありまして、だからこそ中古品業者へのガイドライン発表が今年2月17日となったわけでして、また古物商免許を管理する警察庁への経済産業省からの説明も、今年までなかったことが合点がいきます。この5年の猶予期間という主張が崩れてしまいますと、かなり経済産業省には分が悪いような気がするのは私だけでしょうか。いずれにしましても、これは私なりの考えですので、また「5年の猶予期間は、もともと中古品販売業者に対しても向けられていた」といった反論の根拠がありましたら、お教えいただきたいと思います。

2 同じ製品に「製造事業者」が二人?

先にあげました毎日新聞ニュースでもおわかりのとおり、経済産業省は、苦肉の策としまして、中古品販売業者に、PSE法の定める電気安全検査(検査方法は指定商品によって異なるようです)を行うことを推奨しております。どういうことかと申しますと、たしかにPSEマークの付いていない特定指定商品は(この法律によりますと)今後販売することはできないわけですが、その中古品販売業者が自ら国の指定する検査方法によって電気安全性を確認することが可能であれば、中古品販売業者自身が「事業製造業者」に該当するために、あらたにPSEマークを付けて販売が可能になる、というものです。しかし・・・・、なんとなく奇妙ではないでしょうか?新品を製造した大手電気メーカーと、中古品を販売する事業者と、同じ製品について、二人の製造者が誕生するわけですよね?現に、この奇妙な解釈に異議を唱えたのが特許庁でして、大手電気メーカーの製造した商品に、若干の検査をもって新たな事業者の製造品とすることは、商標権侵害、不正競争防止法違反の可能性があるのではないか、と経済産業省に問い合わせているようです。たしかに、若干の電気安全検査を施した業者が、大手電気メーカーの製造した同商品を「わが社が製造しました」と言える、というのはなんとも不思議な気がしますし、特許庁の見解も無理はないように思えます。また、大手電気メーカーとしましても、法律に基づいて正々堂々と他社が手を加えた商品によって、消費者に拡大損害が発生した場合に、その製造物責任を全面的に負担しなければいけないのでしょうか?おそらく製造物責任法の趣旨からみて、最終的には負担を転嫁することは可能でしょうが、消費者への第一次的責任は大手電機メーカーが負担しなければならないはずです。そういったリスクというものは、大手メーカーは熟知しているのでしょうか。(それとも、これは私の勘違いにすぎないのでしょうか)

3 経済産業省は脱法行為を許容するのか?

「中古家電、知恵絞る、PSE法に備えて」と題する朝日新聞ニュースが掲載されております。ニュースはこちら です。

このニュース、かなり気になる内容でして、中古品の販売は禁止されるけれども、中古品取扱事業者による「レンタル」や「無償譲渡」はかまわないそうです。これは経済産業省のQ&Aにもズバリ記載されております。そういたしますと、この新聞報道にもありますように、大手中古品取扱業者のなかには、賃料全額前払い、使用貸借方式、利用期間経過後に無償譲渡といったレンタル方式を採用するところが出てくるのは当然であります。何億という商品価値の在庫を抱える中古品取扱業者が「生きるために」必死に対策を練ること自体、私はまったく問題にするつもりはございませんが、こういった営業活動を経済産業省は今後黙認するのでしょうか。生きるために必死な業者の方には失礼ではありますが、これって実質的には販売行為であって、単なる脱法行為ではないでしょうか。たとえば新会社法において、自己株式を市場で売却することは株価操縦などの不安があるとして、禁止されましたが、自己株式を消費貸借契約によって貸し株とすることはどうか、といいますと、法務省の相澤参事官は明確に「脱法行為として許されない」と明言されています。(商事法務1739号座談会記事にて)販売行為に関して禁止されるのであれば、そのレンタルについても、限りなくグレーの取引ではないでしょうか。また、新品電気機器の販売とレンタルを区別することは、その修理の容易さや電気安全性能の確認の容易さからみて、まだ法目的には合理性が認められそうですが、中古電気製品について区別することの合理性は果たして認められるのでしょうか。私はあまり認められないんじゃないか、と思います。そもそも中古品の場合には、修理は容易ではありません。PSE法によりますと、新品を製造したメーカーに在庫部品が存在していればいいですが、もし在庫部品が存在しない場合ですと、新たな規格の部品を代替するわけでして、その際には再び電気検査を受けなければならないわけですから、おそらく中古品の修理は困難かと思われます。もともと、PSE法が中古電化製品の流通を予定していなかったとするならば、販売とレンタルの合理的な法目的からの区別が困難なことも首肯しうるところです。

私のようなPSE法の知識に乏しい者であっても、以上のような疑問点が次々と浮かんできます。二階さんは「猶予措置はこれ以上はない」ときっぱり断言しておりましたが、断言するかぎりにおきましては、こういった素人の疑問点をスッキリ理路整然と解決できる根拠を経済産業省の優秀な方々に(広く国民に向けて)ご説明いただく必要があるのではないでしょうか。

※なお、このPSE問題につきましては、中古品の廃棄問題と環境権という大きな論点もあるようですが、そもそも平成13年当時、いまと同様の環境問題が議論されていたかどうかは不明であることと、「国民の安全性確保」と「国民の環境保護」とどっちが大切か、といった議論は、人の価値観に委ねられるべきものでありまして、理屈で話し合いが有益に展開できるものではないような気がしましたので、あえてここでは取り上げませんでした。

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