2013年6月25日 (火)

ますます重要性を帯びる証券取引所ルールとその実効性

最新号(1972号)の金融法務事情「時評」欄に「ソフトローとレピュテーション」と題する小稿を掲載いただきましたが、ここのところ、ソフトローの代表格ともいうべき証券取引所の自主ルールが俄然注目されているのではないかという気がしています。

1つは本日(6月24日)金融庁HPで企業会計審議会監査部会の資料が公開されていますが、東証から提示された資料において、特別注意市場銘柄指定の弾力的運用について解説がなされています(特設注意市場銘柄の積極的な活用等のための上場制度の見直しの概要)。オリンパス事件について上場廃止にすべきかどうか、いろいろと議論もありましたし、また最近の不正リスク対応監査基準新設の議論の中でも、制度活用の提言がありました。そういった中で、この特設注意市場銘柄指定制度の拡大適用の流れは極めて興味深いところです。詳細は別途具体的な事例をもとに検討したいと思います。

2つめは、自民党のIFRSに関する提言です(国際会計基準への対応についての提言-自民党)。IFRSを適用するにあたり重要なことは、そのルールの改訂や解釈において日本がイニシアティブをとれるかどうかである、というのは私も強く賛成するところです。IFRSも最近の海外不正問題(たとえばアンチトラスト法違反やFCPA問題)と同様、相手の対応を受け身で待っていて、これを研究するという姿勢よりも、積極的にこっちから運用に関与できる体制を整えて、自国企業の利益を守る姿勢のほうが現実的ではないでしょうか。そういった日本の体制を整えるためには、たとえば任意適用を300社に増やすことが喫緊の課題だそうですが、どうやって300社に増やすのか、というところで自主ルールに期待がかかるのだそうです。でもこれはかなり困難が伴うので、東証としては任意適用につき推奨はするがルール改訂までは消極的のようです。

そして3つめが不正リスク対応基準の環境整備問題。企業内容開示ガイドラインの改訂に関する論点です。たとえば有価証券報告書の提出時期直前に重要な虚偽記載を示唆する状況が監査法人に判明した場合、監査人が意見を表明できないので、企業からは報告書提出期限の延期申請がなされるわけですが、これについて当局はどのような場合に、またどの程度の期間、延期を認めるか、という問題です。これは企業にとって上場廃止となるかどうかの死活問題ですが、この申請に対する承認判断において、当局は企業の自律的行動を審査の対象とします。その中で、たとえば証券取引所の行動規範をきちんと遵守しているかどうか、といったことも審査の対象となります。

つまりソフトローは国家権力によって実効性が担保されているわけではないのですが、これが実に巧妙にハードロー化しつつあるのではないか・・・という気がします。また、そこまで言えなくても、先の金融法務事情における拙稿のように、ソフトローに反する企業行動違反は社会的な信用を失う(レピュテーションリスクが顕在化する)という事態となり、法令違反に匹敵するような制裁を受ける時代が到来しつつあるのではないでしょうか。本日は証券取引所の自主ルールを例にあげて、抽象的なお話だけとういことで、ほんの「頭出し」にすぎないのですが、このテーマは今後も様々なソフトローの具体例を通じて、検証していきたいと思います。とくに企業の「トライ&エラー」によるコンプライアンス経営(不正リスク対応)にとってはとても重要な課題ではないかと思っています。

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2010年1月31日 (日)

KDDIのJCOM出資手法の適法性と公開買付規制の解釈

1月28日の日経新聞にKDDIのJCOM(ジュピターテレコム)株式の相対取得の是非に関する記事が掲載されております。JCOM社の約38%の株式をKDDIが取得することで資本参加をめざす、ということでありますが、その取得方法については、JCOM社の実質的な大株主から相対で取得(ただし、直接取得するのは大株主の中間持株会社の持ち分)するにあたり、金商法上の公開買付規制に違反しているのではないか、との疑念が持ち上がっている、ということのようであります。(なお、毎度申し上げるところではございますが、私はとくにM&Aに詳しい法律専門家でもございませんので、意見にわたるところは普通の弁護士のつぶやき程度にお読みいただけますと幸いです)

実はこの問題は、1月27日東京の某会議室にて開催されました例の「ふしぎな開示研究会」第2回会議でも話題になっておりました。(参加されていた15名程度の方々は、「あぁ、あれね?」と思って記事を読んでおられたのでは・・・)私は、その会議で初めてこの話題を知りましたが、村上ファンド事件やライブドア事件の裁判所の解釈手法を例にあげて、ロイターの記事で上村先生(早大教授)がコメントされていらっしゃるのとほぼ同様の意見を述べさせていただきました。

たしかに買付対象会社は有価証券報告書提出会社ではありませんし、KDDIが直接JCOM株式を買い付けるわけでもなく、さらに(KDDIの開示情報を読んだかぎりでは明確ではありませんが)中間持株会社が「このために設立されたもの」でもないようであり、公開買付規制(33%以上の株式を取得する場合には公開買付によらなければならない)には抵触しないようにも思われます。しかしながら、刑事罰による適用場面の明確化(罪刑法定主義)の要請が強いインサイダー規制、有価証券報告書虚偽記載においてさえ、金融商品取引法があれだけ実質的な解釈がなされるわけで、同様に刑事罰が適用される公開買付規制についても実質的な解釈の要請が働かないと軽々には言えないのではないでしょうか。もちろん「このために中間持ち株会社が設立されたわけではない」ということも「実質的な解釈」の余地があるからこそ出される理由のひとつであることは承知しておりますが、だからといってとくに公開買付け手続きを排除すべき必要性は認められず、またその必要性を買付希望者をして予測困難にさせるほどの経済的合理性があるようにも思われません。公表されているスキームを拝見しますと、中間持株会社の持ち分はすべてKDDIが取得して100%子会社化するようですので、支配権についてはすべて移動するわけですし、また100%子会社ということであれば、KDDIの意向によっていつでも再編手続によって自ら直接JCOMの株式を保有することは可能ですから、むしろ「実質的には」買付対象会社は有価証券報告書提出会社であり、直接買い付けるのと同様である、と解釈することも可能なように思われます。

ただ、ひとつ疑問に思いますのは、公開買付規制の条文のなかに、そもそも3分の1ルールに関する潜脱行為自体を個別に規定する条文が存在することであります。(金商法27条の2第1項3号、同4号)つまり市場内取引を組み合わせて、脱法的な態様の取引によって3分の1を超える「急速な」株式取得は公開買付によらなければならない、と定められております。また、トストネット等の取引所市場内取引により潜脱行為が図られることを防止するための規定も存在します。それだったら、そもそも脱法的な行為は個別に規定している場合にかぎり、金商法は違反行為とする趣旨ではないのか?そもそも公開買付規制に関する規制文言は実質的に解釈すべきではない、ということではないか?という疑問であります。このあたりはかなり難しい問題ではないかと思いますが、結局のところ投資者保護のための公開買付制度ではありますが、一方においては企業再編を円滑に行うための必要性もありますので、そのあたりのバランスをどのへんで保つべきか、というところでの判断となるのでしょうね。要は本件のような事案については、その解決を法の認識(解釈)によるべきか、法の創造(立法)によるべきか、整理すべき点があるのではないか、と思います。いずれにしましても、公開買付け規制違反は刑事罰とともに課徴金制度の対象にもなりましたので、金融庁の事前意見照会等でスキームの合法性についての確認作業なども必要となってくるのではないでしょうか。

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2009年11月12日 (木)

IFRS(国際財務報告基準)の強制適用は憲法違反ではないか?

最近の「旬刊経理情報」(中央経済社)さんは、IFRS関連の特集記事が目立ちますが、最新号(11月20日特別増大号)はまたまたスゴイ!「IFRS開示・徹底解説」ということで、総論と各論に分かれて、たいへん読み応えのあるスグレモノの内容になっております。本日リリースされました国際会計基準(IFRS)に関する豪州調査報告(日本公認会計士協会WEBより)でも、2005年にIFRSが強制適用されたオーストラリアにおきまして、注記情報が約2倍にもなり、膨大な開示情報の量となったことが報告されております。(その分、コストアップの要因になったとか。また「原則主義」といいつつ、金融商品の認識、測定など、詳細なルールが規定されているものもあるのですね。)IFRS開示の重要性からして、上記旬刊経理情報さんの企画はたいへんタイムリーなものかと思われます。(さっそく勉強させていただきます)

ただ、先のIFRSに関する豪州調査報告の内容として、IFRSの強制適用に係る法制度上の問題点(豪州はどのように法制度上、IFRSを合法的に適用したのか)に関する報告は出ていないようであります。だからといって、法制度上の問題が解決しているわけではなく、オーストラリアにおきましても、国際会計基準審議会が開発した国際財務報告基準は当然に法規範として扱われているわけではないようであります。(企業会計61巻5号弥永論文66頁参照)日本におきましても、IFRSの任意適用・・・ということであれば、「IFRSによる会計基準を許容する」というものですから、これまでの企業会計基準委員会が開発する会計基準と同様に金融庁のガイドライン等で承認すれば足りるものと思われます。しかし強制適用・・・ということになりますと、にわかに難問が生じることとなるわけでして、「一般市民の権利制限、義務負担に関わる強制力を、なぜ海外の民間セクターが開発した会計基準に付与するのか?」という法的な問題が浮上することになります。つまり日本国憲法においては、国会が唯一の立法機関であり、私人に対する立法権(国民の権利制限の根拠)の包括的な委任は認められない、とされております。したがって、民主主義的統制に服さない国際会計基準審議会の開発したIFRSなどには、当然に法的拘束力を認めることは、我が国の憲法に基づく法秩序と矛盾することになります。(これは、上記論文における弥永教授のご意見であり、また私も理屈としてはこのとおりかと思います)つまり、IFRSを会計基準として「許容」する(金融庁がお墨付きを与える)ことはとくに大きな問題ではありませんが、強制適用するということになりますと、憲法違反の疑いが生じるのではないか、というものであります。

将来的にIFRSが強制適用されたとして、その会計基準による処理方針、処理の結果に問題があり、粉飾決算とされて起訴されたような場合、被告人はこのIFRSの違憲性を主張して最高裁まで争う・・・という事態にもなるかもしれません。したがいまして、このIFRSの強制適用にあたり、どのような手続きを経て日本の法秩序に組み入れるのか、真剣に検討しなければならないものと思われます。そもそも連結財務諸表規則あたりで強制する・・・ということも考えられますが、これでは日本の立法機関が国際会計基準審議会の開発内容を(日本法の目的によって)強制できることが前提となりますので、どうも現実的ではないように思われます。このあたりは、いくつかの工夫が考えられるところでありますが、その工夫につきましては、また来週の日本証券アナリスト協会における講演会のなかで、私見を述べさせていただこうかと思っております。

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2009年10月 2日 (金)

金融商品取引法における国際会計基準のエンフォースメント

ブログの書籍化に関しまして、たくさんの方よりコメントをいただきました。(どうもありがとうございます)ということで少し浮かれ気味でありましたが、私的にたいへん関心のあるテーマとしまして、東京大学法科大学院ローレビュー(第4巻)、松尾教授の「金融商品取引法における国際会計基準のエンフォースメント」なる論文が公表されておりました。IFRS適用時におけるエンフォースメントの在り方につきまして、刑事処分や課徴金付加に係る諸問題がわかりやすく書かれているようです。(迷える会計士さん、ご教示ありがとうございました。早速勉強させていただきたいと思っております。)

東証からも、この9月29日、(上場会社の適切なコーポレート・ガバナンスの実現に向けて、極めて重要なものと思われる)「上場制度整備の実行計画2009」がリリースされておりました。どちらも資本市場の在り方に重大な影響をもつ報告書だと思いますので、ゆっくり時間をかけて拝読させていただこうかと思っております。またいつもの当ブログのトーンで更新していきたいと思っております。(とりひそぎ、本日は備忘録までにて)

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2008年3月 5日 (水)

金融商品取引法改正と企業コンプライアンスへの影響度

金融商品取引法等の一部を改正する法律案の概要が金融庁HPにアップされておりますが、3月4日、政府はこの改正案を閣議決定した、とのことであります(日経ニュースはこちら)銀証分離の見直し、ファイアーウォール規制の見直し、利益相反管理体制の構築など、多様で質の高い金融サービスの提供のための制度作りについても大森氏の著書を愛読している私的には非常に関心がありますが、当ブログのこれまでの注目点としては、やはり課徴金制度の見直し(公正・透明で信頼性のある市場の構築)に関する内容であります。現行の課徴金の金額水準を引き上げ、対象範囲を拡大し、さらに加算制度、減算制度を導入することとなりましたので、基本的に「利益はきだし(不当な利得を返還させる)制度」から「実質的な罰則制度」へと転換することとなります。(そもそも加算制度を導入する以前に、現行の課徴金の金額算定基準が変更されるわけですから、加算制度を論じるまでもなく、課徴金はペナルティになったと言っていいのでしょうね)

HPにアップされております「概要」を読みますと、「課徴金の減算制度」に関する解説にて「コンプライアンス体制の構築の促進、再発防止の観点から、当局の調査前に以下の違反行為を報告した場合には課徴金を半額に減算(する)」とありまして、対象となる違反行為は自己株売買によるインサイダー取引、発行開示書類・継続開示書類の虚偽表示、大量保有報告書の不提出とされております。再発防止の観点からの減算・・・というのはすぐに理解できるのでありますが、こういった対象違反行為を自主申告することと、コンプライアンス体制とはどのように結びつくものなのか、少し明確ではないものと思います。たとえばこのたび法定化される四半期報告書に「重要な事項」において虚偽記載があった場合、その虚偽記載について企業側に故意、過失が認められなくても「ペナルティとしての」課徴金が課せられる事態が想定されるわけでありますが、そのあたりから考えてみますと、おそらく①重要な事項において虚偽の記載とならないよう社内の「開示統制システム」を構築することと、②うっかり虚偽記載が発生した場合でも、その虚偽記載を速やかに発見できるような内部統制システムの構築、③そして企業自身が虚偽報告を発見した場合には、これを隠蔽することなく速やかに公表する体制を具備すること等が、コンプライアンス体制として要求されることになるものと思われます。自己株売買におけるインサイダー取引についても、ほぼ同様のことが言えるのではないでしょうか。(なお、「調査前か否か」というのは、そもそも企業側において申告前に認識することは可能なのでしょうか?)

すこし疑問に思いますのは、重要な事項に関する「うっかり虚偽記載」(金商法172条の2)のようなものは、多くの企業で発生する可能性があると思いますし、とりわけ四半期報告制度への適用(同条第2項)が開始されますと、なおさらのことではないかと予想されるところであります。もし証券取引等監視委員会に対して「うっかり虚偽記載」をしてしまった上場企業が、大量に申告を行った場合には、証取委はすべて調査のうえ(減算してでも)課徴金を課すことになるのでしょうか?これまでは、こういった減算制度というものがなかったために、かならず証券取引等監視委員会による調査が先行しているものでありまして、(その調査能力を理由として)狙いをさだめた企業のみが対象となっていたからこそ、委員会の能力に見合った結果を残してこられたものだと考えられます。しかしながら、企業コンプライアンスと減算制度(自主申告)とを結びつけて考えますと、企業側からみて、課徴金の対象となる「重要事項の虚偽記載」かどうかが不明(グレー)であったとしても、とりあえず申告しておこうということになり、証券取引等監視委員会の調査能力を超える事態になってしまう、ということは心配しなくてもいいのでしょうかね?私の理解がまちがっていなければ、この改正案を読みましても、これまでどおり、課徴金の賦課処分は行政裁量の余地がないものであり、賦課すべき違反行為を見つけた場合には、かならず処分を下さなければならないことになりそうであります。(加算制度に関する解説を読みましても、行政裁量の余地がないように思えます)ということは、申告された事案については、手を抜くことなく、いずれも厳格な調査活動を要することになり、本来、ピンポイントで狙いをしぼっていた事件への調査などに支障を来たすようなことにはならないのでしょうか?

いずれにしましても、この金融行政の場面で、これまで以上に課徴金制度が多用され、その実効性が高まりますと、その後に控えているであろう、消費者行政庁(新設)における被害者救済制度として導入される課徴金制度への期待も高まることになるでしょうし、司法制度から離れたところでの企業コンプライアンスのあり方に、ますます注目が集まるようになるのではないかと危惧しております。

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2007年12月12日 (水)

金融商品取引法≠証券取引法

東証1部の名門企業であるIHI社の監理ポスト入りは驚きました。まだあまりブログなどでは詳しい解説はありませんが、一番問題となるのは、2007年3月度(過年度)の決算について訂正をするわけですから、結局虚偽報告がなされたままで今年1月に600億円もの公募増資が行われたあたりになるんでしょうかね?(いや、平成18年3月期まで遡る必要がある、ということですかね)とりあえず、この件もおそらく社内と社外の調査委員会報告が出ることで、だいぶ論点が明らかになってくるものと思いますが、今後の東証さんの対応等、注目しておきたいと思います。

さて、金融商品取引法も本格施行となりまして、金融商品取引業者に対する金融庁の集中検査なども行われておりますが、どうもこの金融商品取引法というものはわかりにくい法律であります。証券取引法の大部分が改正された法律である、ということはわかりますが、そもそも証券取引法自体、そんなに勉強したことない・・・といった方も多いのではないでしょうか。大きな書店などへ行きますと、たくさんの解説本が並んでおりまして、いったいどれを選んで勉強したらいいのかわからない、というのがホンネのところだと思います。

とくに解説本を推奨するわけではないのですが、12月10日に金融庁HPでは、西原監督局長の「最近の金融監督行政上の諸課題について」と題する講演録と、その資料が公開されておりまして、金融商品取引法に関する解説と、その解説資料が掲載されております。このなかに、ルールベースを中心とした法体系であった証券取引法とは少し異なり、金融商品取引法はプリンシプル・ベースの観点も加味されており、これで隙間を埋める横断的な体系へと、(証券取引法が)大幅に改善された旨の説明がなされております。たくさんの「金融商品取引法」の解説本が出版されておりますが、こういった「ルール・ベース」なる用語とか、「プリンシプル・ベースの観点が加味されている」といった説明はあまりされていないんじゃないでしょうか。(ひょっとしたら、私が不勉強なだけかもしれませんが・・・)おそらく、この西原氏の講演は、金融監督上の視点から述べていらっしゃるわけですから、金融機関向けにお話をされているのであって、あまり一般事業会社には関係ないのでは・・・といったことも考えられるのでありますが、それでも明確に金融商品取引法の法体系と、証券取引法のそれとでは、異なる観点があることを西原氏は解説されておりますので、金融商品取引法全般にわたる解説書にも、同様のことが記述されていてもいいように思います。

ところで、上記解説(およびそのための資料)は、私としましては、非常にわかりやすい説明ではないかと思っております。行政があらかじめ詳細かつ明確に規制をかける部分と、抽象的な目的だけを規定しておいて、具体化は金融商品取引業者や一般事業会社の自主的な判断にまかせ、そのかわり法目的に反するような行動に出ている場合には、そこに法令違反がなくても、行政目的に適合するような対応を企業に求めていく(改善命令)部分とを分けて規定している、というわけであります。つまり金融商品取引業者としては、情報管理のあり方や、顧客との利益相反問題など、「法はいったいどのような行動を期待しているのか」を探りながら、自主的に判断していかなければならない部分も存在するわけであります。そして、そういった企業の自主判断の是非を常時監視するために、行政への報告義務や株主への開示義務などによるモニタリングが必要になるわけであります。また、金融商品取引所(証券取引所)や、自主規制機関(証券業協会等)が、どのような自主規制ルールを定めるか、ということにつきましても、正当性を基礎付ける法根拠とは別に、ルールの中身につきましても、法が期待している自主ルールのあり方を実現しているかどうか、といったあたりも、このプリンシプル・ベースによって説明されることになろうかと思われます。

冒頭のIHI社の件につきまして、「虚偽記載」が認められて、投資家に与える影響が重大であれば上場廃止(注意銘柄市場?)となる可能性とも言われておりますが、その判断は基本的に東証の裁量によるものであります。ただ、上場廃止基準の解釈にしましても、やはり自主ルールであるところの上場廃止基準がいかに金融商品取引法の法目的に沿って運用されるべきか、といった方向性を持つ必要があるわけでして、日興コーディアルの上場維持決定の場合以上に、判断過程の理屈がわかりやすいものであることが必要ではないでしょうか。また、こういったルール・ベース、プリンシパル・ベースといった区別におきましては、いま最も関心の高いところである内部統制報告制度についてはどのように位置付けたらいいのでしょうかね。また次の課題として検討してみたいと思います。

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2007年12月10日 (月)

金商法193条の3と会計士の粉飾発見義務

金融商品取引法改正案(193条の3)に関するパブコメ(パブリックコメント)の結果が12月7日付けにて金融庁HPで公表されております。公認会計士、監査法人の独立性強化、責任の厳格化の一環として、公認会計士法(およびその周辺政省令)の改正とともに施行が予定されておりますが、会計士さん方のお仕事、とりわけ監査に携わる先生方にはかなり重要な法改正ではないかと思っております。

この金商法193条の3といいますのは、以下のような規定であります。

(法令違反等事実発見への対応)第193条の3 

公認会計士又は監査法人が、前条第1項の監査証明を行うに当たつて、特定発行者における法令に違反する事実その他の財務計算に関する書類の適正性の確保に影響を及ぼすおそれがある事実(次項第1号において「法令違反等事実」という。)を発見したときは、当該事実の内容及び当該事実に係る法令違反の是正その他の適切な措置をとるべき旨を、遅滞なく、内閣府令で定めるところにより、当該特定発行者に書面で通知しなければならない。

2前項の規定による通知を行つた公認会計士又は監査法人は、当該通知を行つた日から政令で定める期間が経過した日後なお次に掲げる事項のすべてがあると認める場合において、第1号に規定する重大な影響を防止するために必要があると認めるときは、内閣府令で定めるところにより、当該事項に関する意見を内閣総理大臣に申し出なければならない。この場合において、当該公認会計士又は監査法人は、あらかじめ、内閣総理大臣に申出をする旨を当該特定発行者に書面で通知しなければならない。
1.法令違反等事実が、特定発行者の財務計算に関する書類の適正性の確保に重大な影響を及ぼすおそれがあること。
2.前項の規定による通知を受けた特定発行者が、同項に規定する適切な措置をとらないこと。前項の規定による申出を行つた公認会計士又は監査法人は、当該特定発行者に対して当該申出を行つた旨及びその内容を書面で通知しなければならない。

そして、この規定に違反したような場合には、30万円以下の過料に処せられるようです。

第208条の2 次の各号のいずれかに該当する者は、30万円以下の過料に処する。
1.第79条の23第2項の規定に違反した者
2.第162条第1項(同条第2項において準用する場合を含む。)の規定に違反した者
3.第162条の2の規定による内閣府令に違反した者
4.第193条の3第1項の規定に違反した者
5.第193条の3第2項の規定に違反して、申出をせず、又は虚偽の申出をした者
6.第193条の3第3項の規定に違反して、通知をせず、又は虚偽の通知をした者

これらの改正条項が、「粉飾決算の防止と公認会計士の役割」にとって、どのような影響を及ぼす可能性があるのか、という点につきましては、これを考えるための道標としまして、先のパブコメでも話題になっておりますように、旬刊商事法務1812号44頁以下におきまして、岸田雅雄早大教授の貴重な論文がございます。私自身、会計士さん方の「法令違反等事実発見への対応」が規定されたとしましても、それは「たまたま発見ときの対応(通知義務)」を定めたものであって、そもそも法令違反等発見義務そのものを規定したものではない、したがって、これまでの監査人による監査の本質とはなんら矛盾するものではないと考えておりました。しかしながら、以下の著書を読みまして、「本当に関係ないのだろうか?」と少し考えが変わりつつあります。

Kensazu_kaikei001 「公認会計士VS特捜検察」(細野祐二著 日経BP社1800円税別)

会計士の方々はご承知のことと思いますが、キャッツ事件で一審、二審とも有価証券報告書虚偽記載罪の「共同正犯」として有罪の判決を受けて、現在上告中の公認会計士の方の手記をとりまとめたものであります。読了して、かなり重い気持ちになりましたが、この本はぜひとも弁護士の方々にもお読みいただくことをお勧めいたします。(また、将来的には裁判員に選ばれた方にも、審理に臨む前には、ぜひお読みいただきたい・・・・と個人的には思います)この本の内容を論評することは、とてもブログという媒体では(執筆者に失礼にあたると思いますので)差し控えますし、私個人の感情としては、ぜひ細野さんには最高裁で無罪を勝ち取ってほしいと願うばかりでありますが、個人の感情を抜きにして、冷静かつ客観的にこの本から考えたことは、法律家と会計士とでは、「事実」の捉え方も、法や会計原則への「解釈」の仕方もまったく違うのではないか・・・というところであります。会計士協会さんのほうは、この判決を受けて、「あくまでも一会計士の個人的事情によるものである」と冷静にコメントをされたそうでありますが、この金商法193条の3との関係でみると、果たして「個人的事情による」ものといった観点から捉えるだけでいいものだろうか・・・と少し疑問を抱いております。とりわけ控訴審では、原審での関係者の証言が覆り、「共謀」に関するアリバイなどが成立し、会計専門家(大学教授)の意見書まで提出されたにもかかわらず、著者である監査人の有罪判決は覆らなかったわけであります。つまり会計士さん方の常識が、法律の世界ではそのままでは通用しないわけでありまして、金商法193条の3にいうところの「法令違反等事実」の解釈にもご留意いただいたほうがよろしいのではないか・・・というところであります。著者である細野さんは、「もっと司法制度の制度疲労について、目を向けてほしい」と述べておられますが、私はミクロ的には、刑事事件として粉飾決算が問題となる場合の、双方の認識の違いのような点が、とても気になったような次第であります。そして今後、公認会計士法が改正され、懲罰的な課徴金制度が導入されるなか、この傾向はますます強まるのではないかと懸念するところであります。(もちろん、課徴金制度の場合は、直接的には行政と会計士さんとの関係でありますが)

たとえばひとつの例としましては、「たまたま監査の時点で、粉飾の事実を発見したら、監査人は監査役に通知すべし」と言うことは簡単なことであります。しかし、法律家と会計士との間で「事実」と「解釈」において、認識が共有されているとは思えません。「事実」とはどこまでの証拠があれば「事実」と言えるのでしょうか?また、法令違反というのは、会計原則や金商法等の解釈抜きに一義的に決まるのでしょうか?「これって、違反事実が認定できるじゃないか?なぜ報告しなかったんだ?」「いや、まだそれだけでは事実が確定しているとはいえないと思っていました」とか「これって法令違反にあたるだろう。なぜ通報しなかったのだ?」「いえ、会計原則からみれば、法令違反とまではいえないと思いましたので」といった会話がなされるおそれはありませんでしょうか?もし、こういった会話が成り立ってしまうのであれば、「たまたま発見したら通報する義務」を超えてしまって、かぎりなく「会計士さんの不正発見義務」が認められたことに近づいてしまうおそれがあります。上記の著書のなかで、細野さんもおっしゃっていますが、「監査とは、たとえそこで不正行為が行われていたとしても、その不正行為による損得も、すべて正確に反映している財務諸表であれば、適正意見を書くものであって、不正行為を非難するのが監査の役目ではない」はずであります。そして、かろうじて、会社法にも規定がありますが、不正を発見した場合には、別途会社に対する通知報告義務を課すことで、本来の使命との両立がとれることとなります。しかしながら、不正発見義務となりますと、もはや本来の使命自体に変革が生じたこととなりますので、193条の3の運用次第では、本来的使命の変革にもつながりかねないのではないでしょうか。

「違反したとしても、たかだか30万円の過料ではないか・・・」といった楽観論は否定すべきだと思います。たしかに行政罰としての30万円はたいしたことではないかもしれません。しかしながら、法令違反等事実の報告義務違反の疑いをもって、広範な行政調査権を行使できる根拠が増えたことで、「その奥にある刑事罰への足がかり」が作れますし、またなんといいましても、会計士さん方の崇高なる「守秘義務」の壁を突き崩すことができるわけであります。(法令違反等事実の通知報告義務を根拠に、検察やSECさんは、会計士さんの守秘義務による証言拒絶を懐柔することが可能になるはずです)そういったところも、今後の193条の3の運用において見逃すことができないところであります。

さらにまた別の例としましては、「法令違反等事実」というのは、いったいどのような事実を指しているのか、(岸田教授が指摘されているように)談合とか、耐震偽装とか、食品表示の不正など、ダイレクトには財務報告の信頼性に影響を与えるとは言えないような「不正」を発見したときまで、通知報告義務を認めるべきなのか・・・といった論点も出てくるわけでありますが、先のパブコメ結果公表における金融庁の回答では、このあたりが曖昧なままでありまして、これはまた別の機会に検討してみたいと思います。(不定期にてつづく)

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2007年8月 1日 (水)

金融商品取引法制パブコメ回答集(速報版)

こんばんは、山口利昭です。金融庁から遂に出ましたね、金融商品取引法制に関する意見の概要と金融庁の考え方 & 政令案・内閣府令案等に対するパブコメ結果と金融庁の考え方 とりわけ後者は700ページを超える大部でありますし、ともかく金融庁の見解がてんこ盛りですから、今後いろいろなところでこの解析が始まることでしょうね。しかし、このような大作、皆様はきちんとプリントアウトして解析されるんでしょうかね?これ、印刷して製本するだけでもたいへんですよね(^^;;

私的に関心の高いところも多いのでありますが、このブログにお越しの皆様にとって最大関心部分はなんといいまいしても「財務報告に係る内部統制報告制度」に関するパブコメ結果と金融庁の回答だと思われますが、この「政令案・府令案パブコメ結果」のほうの133ページから139ページにかけて記載されております。一読して、先に公表されております企業会計審議会の意見書の中身を超えるようなものはそれほど見当たらないようにも思えますが、ざっと目を通しただけですので、また皆様方の印象などございましたらお教えくださいませ。ただ、金商法24条の4の4関連の項目16あたり(ページ数でいいますと136ページあたりでしょうか)に、財務報告に係る内部統制報告の評価範囲などが不明確なので、記載例などもうすこし示してほしいとの要望に対して、金融庁は各企業の状況の応じて一律ではないとしながらも、今後事務ガイドライン等によって記載例を明示する、と回答されていますね。(今後はやはり金融庁の事務ガイドラインのようなものが作成されるようですね。また内部統制報告書の添付書類は何か?といったエントリーを以前書きましたが、同じようなことを金融庁に問い合わせた方もいらっしゃるみたいですね。笑 ちなみ今後検討のうえで決定されるようであります。)

その他、法定化されました「経営者確認書」につきましては、技術的な部分がほとんどでありますが、四半期開示制度につきましてはどうなんでしょうか?(まだ目を通しておりません)会計士の先生方のブログなどで概説いただけますとありがたいです。本日は、村上ファンド事件を題材にして、経済刑法関連のエントリーを企画しておりましたが、急遽速報版に変更させていただきました。

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2006年12月18日 (月)

金商法と監査役実務対応セミナー

日本監査役協会関西支部における研修会(金融商品取引法と監査役の実務対応)に多数、ご参加いただきまして、ありがとうございました。年末のお忙しいなか、310名の監査役さんを前に3時間半の長丁場の講演をさせていただきまいしたが、ご理解いただけましたでしょうか?(監査役サポーターさんはお越しになっておられたのでしょうか?)日興コーディアルやミサワHDのお話しを交えて、課徴金制度がこれからの一般事業会社に及ぼす影響などについて力説させていただきましたが、予想以上に早い展開になっているようです。(証券取引等監視委員会、日興コーデへの課徴金納付を勧告)連結はずしや取引先との共謀、収益認識時期のズレなど、どれも売上計上に関する典型的な粉飾決算の論点が問題となっておりますが、内部通報制度や監査法人の審査対応の厳格化などによって、今後も同様の課徴金賦課を前提とした問題はいろいろな企業で出てくると思います。課徴金賦課のための調査体制が整備されつつあることや、金融商品取引法成立時における衆参両議院の附帯決議の内容からすれば、多少問題があったとしましても、「課徴金納付」を前提とした監視委員会の活動は益々積極的なものになることは十分予想されます。一般事業会社における監査役としましては、「課徴金」が「刑事告発」にまで及ぶかどうか、自主的に訂正することで株主代表訴訟のおそれが出てくるかどうかなど、企業の社会的信用をおとしめる事態への最大限の配慮をしなければいけないところです。

また、お越しになった監査役の皆様方の最大関心事は、やはり「金融商品取引法上の内部統制報告制度」でしたね。かなりオリジナルな見解(このブログですでに主張しているところです)を申し述べましたので、またいろいろとご批判もありますでしょうが、どうかコメントにて、ご批判、ご意見をお待ちしております。(なお、今週22日は名古屋支部での講演です。また鋭いご批判ご意見、お待ちしております)

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2006年10月15日 (日)

金融商品取引法における「異質なるもの」

世間では「内部統制ブーム」がまだまだ続いているようでして、私もセミナーの参考にさせていただこうと、いろいろな学者、実務家の方の「金融商品取引法」解説本を読んだりしております。(私の知りうるかぎりでは、メジャーなところでは9冊~10冊くらいは出版されているのではないでしょうか)しかしながら、どの本も、これだけ「日本版SOX法」と言われ続けているにもかかわらず、ほとんど内部統制報告実務(内部統制報告書関連)について「突っ込んだ解説」がなされているものは見当たらないようですね。もちろん、省令・府令が公表されていないので、深く解説したくても解説できない、といった事情があるかもしれません。ただ私としましては、どうも金融商品取引法(改正証券取引法)といった大きな法律のなかにあって、この内部統制報告実務に関しましては、(体系的にみて)かなり他の部分との「関連性の薄い」項目であることに起因しているものではないか、と推察しております。

まずなんといいましても、金融商品取引法は、従来から「投資サービス法」と言われてきたわけでありますが、この内部統制報告実務というのは、投資サービス法とはほとんど関係を持っていない分野ですよね。昨年7月に神田教授が責任編集をされている「投資サービス法への構想」におきましても、「内部統制」という言葉は索引にすら出てきません。だいたい解説本を執筆されている方は、平成10年ころからの金融サービス法の構想からワーキンググループなどに参画している方が多く、金融商品に関する横断的規制、柔構造規制といった内容についてはお詳しいのですが、途中から問題になってきた企業開示関連の行為規範については、ワーキンググループで議論されていなかったと思いますので、そのあたりが関係しているのかもしれません。まず、これだけでも内部統制報告実務というのは異質な存在ではないか、といった思いがいたします。

もちろん、投資サービス法構想のころから、企業情報の開示に関してまったく注意が払われていなかった、というわけではないようです。先にあげましたように組織再編時において株主や一般投資家が不利益を受けないような仕組みや、企業情報のうち、何を強制的に開示させるようにすべきか、といった開示規制問題については議論されていたようです。しかしながら「財務計算に関する書類その他の情報の適正化を確保するための体制評価制度」についてはあまり関心がもたれなかった。ただ、これもなんとなく納得できるところがあります。「企業情報の開示に関する項目」として考えてみますと、内部統制報告書の報告内容自体はなんら「開示」とは関係ないわけですよね。開示と関係するのは、財務諸表についてでありまして、その根拠となっている数値、項目の信頼性を確保するための制度が内部統制報告書制度であります。したがいまして、四半期報告や公開買付制度、大量保有報告書制度などにように、その報告内容が投資家の判断指針になる、というものではなく、むしろ代表者の確認書と同じく、財務情報の報告内容の透明性を高める制度ということになりそうです。(ちなみに、企業改革法の本場アメリカにおける内部統制報告書はどうなっているかといいますと、たとえばIBMの2006年アニュアルレポートの12ページには、内部統制報告書が記載されておりますが、その報告内容をみましても、八田先生が著書・日本経済新聞社「内部統制の考え方と実務」95頁で見本として記載していらっしゃるものと、ほとんど同じでありまして、報告書自体が投資判断に資するような記載内容は一切ありません。まぁアメリカの場合は、日本の金融商品取引法とは異なり、内部統制報告書自体真正に作られたことが、CEOの宣誓義務の対象となりますので、あまり余計なことは書かないのが当然といえば当然かもしれませんが。)そうなりますと、企業開示といいましてもその中でも、この内部統制報告書というものは、かなり異質な存在になるものと思われます。衆議院や参議院で、この金融商品取引法の成立におきましては、たくさんの附帯決議が出されておりますが、どちらの附帯決議におきましても、この内部統制報告実務に関するものはひとつもありません。金融商品取引法案が議論されていたころには、この内部統制報告実務というものはあまり大きく採り上げられることもなかったわけです。業者ルールの横断化、柔構造化、自主規制のあり方や敵対的買収防衛ルールと投資家保護といったあたりが中心課題であって、この内部統制報告書といったものが、「横からスルっと」入り込んだようなイメージではないでしょうか。

ところが世はまさに「内部統制ブーム」となりました。内部統制部会長の八田教授の言葉をお借りすれば「内部統制ビッグバン真っ只中」といった感がいたします。ただ、どうも金融商品取引法のご専門の方々の見方と世の中のパッションとは「乖離(かいり)」といいますか「齟齬(そご)」といいますか、大きな溝が横たわっているように思えてしかたありません。会社法と金融商品取引法と別個に「内部統制」といった言葉が登場したことや、不正会計事件の頻発によって監査法人の信頼性に疑問が呈されて政治的配慮が働いたことなど、すぐに思いつくところの要因もあるでしょうが、それだけでは一過性の話題にはなるかもしれませんが、世を挙げての「ビッグバン」とまではいかないような気もします。そこで、これまでブームとなってきた大きな要因というものを私なりに二つ挙げてみたいと思います。

1 コンプライアンス経営への企業の渇望

病院やファッションホテルのM&Aや、今はなつかしい「住専」の顧問などの仕事を楽しくやっておりました4年ほど前に、ひょんなことから「内部統制」ということに興味を覚えまして、それから会計士さんにいろいろと教えていただいたりして、この言葉をずっと追っかけてきたわけでありますが、「内部統制」がメジャーになる過程ではCOSOフレームワークにある「法令遵守」と密接に結びついて登場してきた、と記憶しております。(ちなみに、私が保有しております資格に公認コンプライアンス・オフィサーというものがございますが、この試験科目にも「内部統制」というのがございます。)ご承知のとおり、金融商品取引法における内部統制といいますのは、主として「財務情報の適正化を目的とする」ということですから、直接的には法令遵守とは結びつかないのではありますが、内部統制≒法令遵守≒コンプライアンス、といったイメージが今でも非常に強いことは事実です。「真の会社の姿を投資家に見せる」ことが目的のはずなのに、それ以上のコンプライアンス経営が実現できる、といった目的までがくっついてしまっているのではないでしょうか。(それはどちらかというと会社法における内部統制システムの整備構築のほうの話に近いと思います)もちろん、金融商品取引法における内部統制の実現によって、そういったコンプライアンス経営の向上に寄与することは間違いないのでしょうが、それは各企業の戦略的な部分(攻めの内部統制システム)であり、本来は内部統制報告実務とは無関係のはずです。しかしながら、コンプライアンス経営の処方箋というものが、「目に見える形」ではなかなか掴むことができないところへ、可視的な魅力をもつ「COSOフレームワーク」をひっさげて「内部統制」が登場してきたわけですから、まさに「藁をもすがる」気持ちで皆が飛びついた、といったところが真相のような気がします。

2 「小さな政府」「事後規制の社会」と企業の自己責任

最近の「企業の事故報告義務の法制化」にも見られるところですが、「小さな政府構想」によって「事前規制から事後規制の社会へ」といった社会の風潮に、少しずつですが法制度も変わりつつあるようでして、そういった社会風潮に、この「内部統制システムの整備」という社会的なルールが非常に親和性があるのではないでしょうか。つまり、社会的なルールを企業に遵守させるにあたり、行為規範や厳罰によって「お金をかけてでも権力が関与する部分」と「企業の活力ある行動によってルール遵守を期待する部分」の明確な峻別の思想に合致したシステムだと思います。ご承知のとおり、会社法の改正や(改正証券取引法を含む)金融商品取引法の成立というものは、いわばひとつの国策でありまして、いかにして日本の資本市場を繁栄させることに寄与するか、というところに焦点があてられております。(もちろん、会社法は有限会社の株式会社化といった中小企業改革も重要なポイントになっておりますが)この資本市場の繁栄のためには、大きく二つの方法があって、ひとつは市場参加者に競争をさせて、全体のレベルを上げて、投資金額を増加させる方法であり、もうひとつは「1社のために1000社が信用を失わないための政策」つまり、不正な手段で競争しようとする参加者を断じて許さない、とする方法であります。政府の限られた資源を有効に配分するためには、この「1社のために1000社の信用を失わない」ための政策、つまり「競争にまかせておいては、ルールが守られない部分」につきましては、証券取引等監視委員会の充実とか、監査法人改革だとか、会計士さん方の権限と責任の強化とか、証券取引所改革、証券取引業協会の改革、そして金融庁と検察庁の組織強化などに充当されることになると思います。内部統制の議論のなかにも「内部統制の限界論」というものが出てまいります。これはまさに、この「1社のために1000社の信用を失う」可能性のある場面が想定されているわけでして、そこでは内部統制は残念ながら機能しない、とされております。したがいまして、そういった場面には「経営者や財務の最高責任者による有価証券報告書(半期報告書、四半期報告書なども含む)の確認制度」とその違反に対する厳格なサンクションによって補完することが予定されています。

そのいっぽうで、競争によって「自然に守られることになるルール」につきましては、各参加企業に委ねられるものと思われます。その代表的なものが、この「内部統制」であります。つまり、たとえ今後企業会計審議会から「実施基準」の草案が出たとしましても、それはけっして各企業にある独自のコーポレート・ガバナンスの姿まで変容させるものではありません。企業にはその歴史から培われた社風があり、慣習があり、行動規範があります。そのなかで、それぞれの企業が「合理的」と思われる財務情報の信頼性を確保するための内部統制システムは、上場企業であるかぎりは絶対にあるはずです。このたび内部統制報告実務が運用されることになりますが、企業の自主的な規律が、本当に上場企業として耐えうるものなのかどうか、それを経営者自身が評価し、監査人が経営者の姿勢を評価する、というものですから、決してこれまでの各上場企業のコーポレート・ガバナンスまで変容させるはずはありませんし、そのような行為規範にはなりえないはずであります。つまり、基本的には、この内部統制報告書の制度というものは、企業の自主性を尊重したうえでの「開示統制」(企業が財務諸表という開示すべき情報を、どういった手段で保管、管理、公表するかといったシステム。ただし、アメリカのSOX法では、内部統制と開示統制は異なる概念とされています)ではないか・・・というのが私の理解であります。ところが、どうも世の中では、この「内部統制評価基準」そのものが、「1社のために1000社が信用を失うのを防ぐ」ための基準のように受け止められているのではないか・・・・・、そういったところがまた「ブーム」を巻き起こしている大きな要因ではないか、と考えたりしております。

まだまだ他にも、この金融商品取引法における「内部統制報告実務」につきましては、疑問点がたくさんあります。たとえば内部統制評価の正当性を担保するものはいったいなんだろうか(これが正しい内部統制の評価である、というモノサシは最終的には誰が持っているんだろうか)とか、先日の「内部統制と真実性の原則」との関係で、財務諸表の真実性というものが「相対的」であるならば、そもそも「相対的である」ものについて、その正確性についても相対的であるはずでしょうから、担保されるべき「正確性」という概念にも幅があるのではないか、などなど。考え出したらきりがありません。

以上はまったくのオリジナルな考えですが、私はまもなく世に迎え入れられるであろう「実施基準」が公表される前に、こういった心構えで待ち望んでおります。

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