会社法の「内部統制」と悪魔の監査(2)
いよいよ「悪魔の監査」シリーズの内容に入っていくわけでありますが、今日は問題点だけを提起しておきたいと思います。先ごろ(2006年3月9日)日本監査役協会より、「内部統制システムに対する監査役の当面の実務対応(会社法施行後、最初の取締役会での決議に関する監査役の対応)」といった監査役実務指針が出されております。いつもながら、この監査法規委員会の出される指針は私のような社外監査役にとりましても、非常に参考になり、バイブル的存在なのでありますが、どうも今回、その内容においてよくわからない部分がございます。
この18ページに及ぶ指針の4ページ以下の部分が非常に重要なところでありますが、大会社の取締役会が会社法施行規則100条および会社法362条4項6号に規定された体制整備に関する決定事項を5月の取締役会(まで)に決議したとき、監査役はその相当性を判断しなければならないとされております。そして監査役が決議事項を相当であるかどうかを判断するための三つの視点が示されておりますが、たとえば二つ目には決議された内容が、その企業の業務の適正化をはかるために適切と言えるかどうかといった視点から判断せよ、とのことであります。
おそらくいろいろなセミナーや、講習会などにおいて、法曹が内部統制関連部分を解説するケースにおきまいしても、やはり同様の解説になろうか、とは思います。しかしながら、これって、監査役の能力をはるかに超えたことを要求しているのではないでしょうか。理屈で考えてみますと、これは監査役がまず「どういった体制整備をすることが、業務の適正化をはかるために妥当か」といった視点なのですから、取締役の誰よりも「この会社において、もっとも価値の高い業務の適正化策を監査役が知っていること」が前提となるはずであります。これを監査役が知らなければ、果たして取締役会の決議した事項が妥当なのかどうかは判断することは不可能であるはずです。また、運用の適否についても判断せよとのことですが、これも「最も業務の適正化をはかるために効率的な運用方針」というものを監査役が熟知していて、その監査役の知識からみて「相当かどうか」を判断できることが前提となるはずです。だいいち、「業務の適正」というのは、一体何を指すのか、これは考えてみますと、企業によって、というよりも個人によって見解はいろいろと分かれるところでしょうし、業務の適正をはかること、といった目的はダイレクトに体制整備の具体的な措置の当否とは結びつきにくいのではないでしょうか。
こういった疑問を監査役をされていらっしゃる方々が、お持ちなのかどうかは、私にはわからないのですが、少なくとも「財務諸表にあがっている数字の正確性を確保することのために、どういった体制が整備されるべきか」といった企業会計審議会主導の内部統制システム構築論とは、かなり様子が異なるものであるようでして、さらに日常の監査役の業務であります「妥当性監査、違法性監査」に属する性質の監査とも異なるものがあるようです。そこで「監査役からみた取締役会決議事項(体制整備に関する)へのアプローチ」というものにつきましては、もし株主総会で質問があったならば、私だったらこのように回答したい、と考えているシナリオがございます。こういったシナリオについて、また次回に考えてみたいと思っております。
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