2022年3月23日 (水)

今後注目すべき「法人処罰」に関連する2つの論点

ひさしぶりの更新です。といってもあまり時間がないので要点のみですが。

3月22日の日経ニュースでは、SMBC日興証券が金商法違反(相場操縦罪)で立件される見込みであることが報じられています。先日の日産自動車の法人処罰(罰金2億円)を認めた裁判とともに、今後の展開が注目されます。

3月7日に「日産自動車・金商法違反事件-法人処罰と役員の法的責任」なるエントリーを書きましたが、甲南大学の梅本先生「法人に対する罰金・課徴金と役員等の損害賠償責任-オリンパス事件判決を手がかりとして-」と題する高橋教授(京都大学)のご論稿があることを教えていただきました(どうもありがとうございます!)。なるほど、法人に課される課徴金や罰金について、これを法人の損害として会社役員に賠償請求できるかどうか、ということは研究者の間でも議論されているのですね。たいへん興味深い論稿です。

そしてもうひとつ、法人処罰との関係で興味深い論点は(企業の内部統制システムとしての)コンプライアンス・プログラムの導入です。もしコンプライアンス・プログラムを導入して実践していれば、不幸にして法人が起訴された場合にどのような法的効果が発生するか、という論点です。日本ではまだ裁判上の効果があまり議論されていませんが、課徴金や罰金に裁量の余地があるかぎりは、処罰が軽減されることにつながり、また役員の損害賠償責任を基礎付ける根拠事実の認定にも影響が出てくるのではないかと思います。私個人としては、法的な理屈の上で問題はあるものの、実務的に検討するだけの価値はあると考えています。

このあたりは、もう少し時間に余裕がでてきたときに、日本企業における内部統制の議論の深化のひとつとして詳しくお話したいところですが、とりあえず「頭出し」程度で失礼します。

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2010年5月31日 (月)

連邦量刑ガイドライン改正と日本法への適用可能性

企業の内部統制やコンプライアンスに詳しい方であればご存知だと思いますが、米国には「連邦量刑ガイドライン」が定められております。米国の連邦法では、企業犯罪に対しては非常に高額の罰金が規定されておりますが、いっぽうで裁判所がその量刑を判断するにあたり、企業内において一定の法遵守プログラム(コンプライアンス・プログラム)を備えていた場合には、量刑上の軽減を認める指針のことであります(いわゆるアメとムチによる政策)。このガイドラインは1991年に制定されたものですが、2004年に改訂され、SOX法の影響を受けて企業自ら内部統制システムを構築するためのインセンティブになっていることは周知のとおりであります。

ところで「月刊監査役」2010年6月号における柿崎環先生(東洋大学法科大学院教授)の論稿「米国における連邦量刑ガイドラインの改正と内部統制」によりますと、このガイドラインが2010年4月7日付で改正されたそうであります。(米国量刑委員会のWEBを拝見してみると今年11月から施行予定とされております。)

これまではコンプライアンスプログラムの内容については「犯罪の予防」に重点が置かれ、また経営幹部が関与する不正事件には適用されなかったのでありますが、このたびの改正では「たとえ上級幹部が違法行為に関与していたとしても、改正条件を満たす法遵守プログラムが機能していれば、会社の量刑上の軽減が認められる」ことになったそうです。その改正の条件というのは、「犯罪の発見とその是正」に重点が置かれておりまして

①法遵守・倫理プログラムの運用責任者に取締役会・監査委員会等への報告義務が明記されていること

②法遵守プログラムが、犯罪を社外の者よりも先に、または合理的に発見しうるものであること

③会社は適切な統治機関に対して直ちに犯罪を報告したこと

④法遵守・倫理プログラム担当者が不正への関与、黙認、意図的な無視をしていなかったこと

というものだそうであります。企業としての量刑は軽減される余地が広くなりそうですが、その分、運用の面において厳格な対応が要求されることになる、とのこと。不祥事は予防できるものではなく、かならず発生するリスクと捉えるならば、そのリスク低減のための運用実績こそ評価されるべきだと思いますので、こういった改正への流れは自然のように思われます。

我が国においても、独禁法上のリーニエンシー制度(自主申告制度)が比較的実効性が高いものとして評価されておりますが、こういった企業の自浄能力を高揚させる施策が講じられる可能性も十分にあると考えます。課徴金制度の普及もさることながら、昨今の判例にもみられるとおり、企業経営者自身への厳罰化、という流れが出てくるのであれば、過失犯認定のプロセスまたは情状の面において、こういった制度も活用できるのではないでしょうか。そこでは当然のことながら情報ラインの透明性や、犯罪発見時の迅速な対応などが要求されるのであり、今後は内部通報制度や公益通報への平時の対応が、法制度面においても注目されることになるのでしょうね。証券市場の健全性確保、という面におきましても、すべての上場会社に重いルールを課すのではなく、ルール違反にはあらかじめ重いペナルティを決めておいて、ただし各企業の法令遵守体制への取組みを量刑において反映させる、ということも考えられるのかもしれません。(ただし行政処分に裁量が認められる、ということの合意が前提となりますが)

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2006年4月 1日 (土)

法人処罰の実効性を考える

やっとココログも平常運転に戻りつつあるようでして、コメントもストレスなく、つけていただけるようになったようです。さなえさん をはじめ、メールでご意見を頂戴しておりました方々、ご不自由をおかけしました。とりわけ、「カネボウTOB問題」につきましては、「一般株主の会」の方々や、証券取引法、M&Aに精通された法曹実務家の方のご意見なども頂戴しておりまして、きちんとお礼もしておりませんので心苦しいかぎりです。ご覧のとおり、私はブログという性格上、できるだけ公平な(というか冷静なというか)立場から、自分の能力の及ぶ範囲において意見を書かせていただきましたが、ブログの最後のところで疑問を呈しておりました「支配権プレミアムの考え方が、再生処理案件にも及ぶのかどうか」といった点につきまして、「ふぉーりんあとにーの憂鬱」(47thさんのブログ)が(個別案件とは離れたものとして)解説されていらっしゃいますので、そちらを一度十分に拝読させていただいたうえで、また続きを書かせていただこうかと思っております。

いつも、こうやってどなたかにフォローしていただいているのが私のブログの悪いところ(先日、ある方に「あなたのブログはおもしろんだけど「起承転結」の「結」がない、とご指摘いただきました・・・)なのかもしれませんが、またまた新聞報道などと読んでおりまして気になりましたのが、今日の本題である「法人処罰の実効性の問題」であります。企業不祥事の防止ということが、いろいろなところで叫ばれ、またその対応策に四苦八苦している官公庁も多いようですが、目立ったところでは独占禁止法の改正による「自主申告によるリーニエンシー制度」がいきなり機能したとされる「水門工事」事件、ライブドア法人起訴による両罰規定適用問題、そして今朝の新聞では、粉飾決算時における監査法人の刑罰適用問題が掲載されております。こういった法人処罰(ここでは刑事罰だけでなく、課徴金賦課のような行政処分も含む意味で考えております)規定を設けることが、果たして企業不祥事防止につながるのかどうか、といった素朴な疑問であります。

たとえば自然人の場合、刑事罰を受けますと、多くの事件について「執行猶予」が付くわけです。そして、再度悪いことをすれば、今度は「実刑で刑務所行き」が確実、ということでその刑事処罰の運用自体が犯罪者の再犯を防止する重要な機能を果たしているわけです。しかしながら、法人処罰の場合は、純粋な応報主義といいますか、「犯したことに対して正当な罰を受けてしかるべきである」ということだけを満足させればいいのでしょうかね?たとえば上の事例におきましても、罰則の内容というのは、罰金や課徴金の賦課ということでして、「解散命令」のような処分はよほどのことなない限りは罰則の内容にはならないと断言できそうです。よく従業員の犯罪行為が発覚した後に、企業トップが「今後二度とこのような不祥事が起きぬよう、コンプライアンス体制を徹底し・・・」とリリースをしておりますが、こういった賦課処分による法人処罰は、「なんか不祥事が発覚したら、その都度お金を払えば(もしくは、営業を30日間停止してしまえば)解決済み」という思想につながってしまい、本当に再犯を防止するだけの抑止力があるかどうかは、極めて疑問があります。むしろ、企業としても、「従業員の犯罪」というリスク管理の問題として捉えてしまえばいいわけでして、(年間100の売上があるとして、売上向上のためにはやむをえないところの「年間1件の不祥事」があって、5を損失と考えて、差し引き95を予想しておく、とか)自然人への刑罰適用とは、その運用面において大きな差があるように思えてなりません。

さらにレピュテーションの問題ということもあります。法人が課徴金を賦課されたり、罰金処分を受けた場合、その企業はそれでけで社会から受け入れられなくなるんでしょうか。そういった面において日本は寛容であり、おそらくほとんど影響はないと思います。有名人が覚せい剤や破廉恥罪で逮捕され、有罪になったことは記憶していても、過去5年の間に多大な罰則を受けた企業というものをどれだけ記憶しているでしょうか。もし記憶しているとすれば、それは法人の犯行、ということよりも「犯行を隠蔽しようとした」とか「犯行発覚後の社長の対応がまずかった」という犯行後の問題をマスコミから指摘されたケースがほとんどではないでしょうか。こういったことを考えておりますと、企業不祥事防止のための法人処罰の実効性というのは、刑罰規定をもうけるだけでは、ほとんど機能しないのではないか、と思います。

以前、「東証のシステム障害」のエントリーのときにも書かせていただきましたが、企業不祥事、とりわけ従業員や経営陣の不祥事はかならず起きる、内部統制には限界がある、という前提で議論すべきではないでしょうか。そしてもちろん法人処罰の必要性はあるわけでしょうから、罰則をもうけることは不可欠でしょうが、その際には企業の日常の不祥事防止システムの設置状況や、その運用状況などを考慮して、ある程度明確な基準を設けて量刑や課徴金判断を検討すべきではないでしょうか。また、業界団体の登録や、官公庁の入札指名基準などの運用についても、一回目は大目にみるけれども、刑罰適用後5年以内に、また罰則を賦課された場合には、永久に登録や指名からはずされる、といった厳しい規則を自主的に策定する、といったことも検討しておかないと、個々の企業が本当に不祥事を防止することを考えているのかなぁ、ポーズだけとちがうのかなぁと、そろそろ一般の国民も不信感を抱き始めるのではないでしょうか。

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