やっとココログも平常運転に戻りつつあるようでして、コメントもストレスなく、つけていただけるようになったようです。さなえさん をはじめ、メールでご意見を頂戴しておりました方々、ご不自由をおかけしました。とりわけ、「カネボウTOB問題」につきましては、「一般株主の会」の方々や、証券取引法、M&Aに精通された法曹実務家の方のご意見なども頂戴しておりまして、きちんとお礼もしておりませんので心苦しいかぎりです。ご覧のとおり、私はブログという性格上、できるだけ公平な(というか冷静なというか)立場から、自分の能力の及ぶ範囲において意見を書かせていただきましたが、ブログの最後のところで疑問を呈しておりました「支配権プレミアムの考え方が、再生処理案件にも及ぶのかどうか」といった点につきまして、「ふぉーりんあとにーの憂鬱」(47thさんのブログ)が(個別案件とは離れたものとして)解説されていらっしゃいますので、そちらを一度十分に拝読させていただいたうえで、また続きを書かせていただこうかと思っております。
いつも、こうやってどなたかにフォローしていただいているのが私のブログの悪いところ(先日、ある方に「あなたのブログはおもしろんだけど「起承転結」の「結」がない、とご指摘いただきました・・・)なのかもしれませんが、またまた新聞報道などと読んでおりまして気になりましたのが、今日の本題である「法人処罰の実効性の問題」であります。企業不祥事の防止ということが、いろいろなところで叫ばれ、またその対応策に四苦八苦している官公庁も多いようですが、目立ったところでは独占禁止法の改正による「自主申告によるリーニエンシー制度」がいきなり機能したとされる「水門工事」事件、ライブドア法人起訴による両罰規定適用問題、そして今朝の新聞では、粉飾決算時における監査法人の刑罰適用問題が掲載されております。こういった法人処罰(ここでは刑事罰だけでなく、課徴金賦課のような行政処分も含む意味で考えております)規定を設けることが、果たして企業不祥事防止につながるのかどうか、といった素朴な疑問であります。
たとえば自然人の場合、刑事罰を受けますと、多くの事件について「執行猶予」が付くわけです。そして、再度悪いことをすれば、今度は「実刑で刑務所行き」が確実、ということでその刑事処罰の運用自体が犯罪者の再犯を防止する重要な機能を果たしているわけです。しかしながら、法人処罰の場合は、純粋な応報主義といいますか、「犯したことに対して正当な罰を受けてしかるべきである」ということだけを満足させればいいのでしょうかね?たとえば上の事例におきましても、罰則の内容というのは、罰金や課徴金の賦課ということでして、「解散命令」のような処分はよほどのことなない限りは罰則の内容にはならないと断言できそうです。よく従業員の犯罪行為が発覚した後に、企業トップが「今後二度とこのような不祥事が起きぬよう、コンプライアンス体制を徹底し・・・」とリリースをしておりますが、こういった賦課処分による法人処罰は、「なんか不祥事が発覚したら、その都度お金を払えば(もしくは、営業を30日間停止してしまえば)解決済み」という思想につながってしまい、本当に再犯を防止するだけの抑止力があるかどうかは、極めて疑問があります。むしろ、企業としても、「従業員の犯罪」というリスク管理の問題として捉えてしまえばいいわけでして、(年間100の売上があるとして、売上向上のためにはやむをえないところの「年間1件の不祥事」があって、5を損失と考えて、差し引き95を予想しておく、とか)自然人への刑罰適用とは、その運用面において大きな差があるように思えてなりません。
さらにレピュテーションの問題ということもあります。法人が課徴金を賦課されたり、罰金処分を受けた場合、その企業はそれでけで社会から受け入れられなくなるんでしょうか。そういった面において日本は寛容であり、おそらくほとんど影響はないと思います。有名人が覚せい剤や破廉恥罪で逮捕され、有罪になったことは記憶していても、過去5年の間に多大な罰則を受けた企業というものをどれだけ記憶しているでしょうか。もし記憶しているとすれば、それは法人の犯行、ということよりも「犯行を隠蔽しようとした」とか「犯行発覚後の社長の対応がまずかった」という犯行後の問題をマスコミから指摘されたケースがほとんどではないでしょうか。こういったことを考えておりますと、企業不祥事防止のための法人処罰の実効性というのは、刑罰規定をもうけるだけでは、ほとんど機能しないのではないか、と思います。
以前、「東証のシステム障害」のエントリーのときにも書かせていただきましたが、企業不祥事、とりわけ従業員や経営陣の不祥事はかならず起きる、内部統制には限界がある、という前提で議論すべきではないでしょうか。そしてもちろん法人処罰の必要性はあるわけでしょうから、罰則をもうけることは不可欠でしょうが、その際には企業の日常の不祥事防止システムの設置状況や、その運用状況などを考慮して、ある程度明確な基準を設けて量刑や課徴金判断を検討すべきではないでしょうか。また、業界団体の登録や、官公庁の入札指名基準などの運用についても、一回目は大目にみるけれども、刑罰適用後5年以内に、また罰則を賦課された場合には、永久に登録や指名からはずされる、といった厳しい規則を自主的に策定する、といったことも検討しておかないと、個々の企業が本当に不祥事を防止することを考えているのかなぁ、ポーズだけとちがうのかなぁと、そろそろ一般の国民も不信感を抱き始めるのではないでしょうか。