2016年11月 2日 (水)

さが美へのTOB争奪事例-少数株主保護への尽力はいずこへ?

ニッセンホールディングスの上場廃止(10月27日)に伴いまして、私も残務を済ませ、本日(11月1日)同社の社外取締役を退任いたしました。3年8か月にわたり、関係者の皆様にはたいへんお世話になりました。後半の2年ほどは取締役会議長も務めましたが、とりわけ上場子会社の独立社外取締役という、たいへん難しい職務も経験させていただきました。セブン&アイの100%子会社となりましたが、これからもニッセンの熱烈なファンの一人として、応援していきたいと思っております。

さて、「難しい上場子会社問題」といえば、さが美さんの件が話題になっています。東証1部上場のさが美さん(呉服販売)の親会社であったユニー・ファミリーマートホールディングスさんが、TOB(株式公開買付)を通じて、投資ファンドのA社に対してさが美株式をすべて譲渡しました(さが美社のリリースはこちら)。一般株主がTOBに応じないように(つまり上場を維持するために)、時価80円の株式につき、買付価格は1株56円に設定されました。一方で、A社のTOBに対抗提案を出した再生ファンドN社は、A社の買付価格(1株56円)よりも約60%も高い買収提案(1株90円+5億円の第三者割当+ユニーさんのさが美さんに対する貸付債権の買取り)を出しましたが、ユニーさんもさが美さんも、この提案には応じなかったことが国内外のメディアで報じられています。

たしかにユニー社取締役、さが美社取締役の善管注意義務違反の有無が議論されてもおかしくない事例ではないかと思います。とりわけ、さが美の取締役としては、コーポレートガバナンス報告書(最終更新2016年8月22日)において、立派な「支配株主との取引等を行う際における少数株主保護の方策」を宣言している以上、たとえN社が対抗TOBに至らずとも、買収提案が出された時点で40%以上を占める少数株主保護の措置をとる必要がありそうです。さが美さんは上場子会社であるため、経営陣が大株主の意向に従わざるをえない状況にあるわけですが、「高い価格による買収は、さが美の将来価値を上げる自信のあらわれであり、また現経営陣に対するシビアな監督も期待できる」として、少数株主はN社による買収に期待をするところです。つまり、たとえ金銭によって少数株主を排除する場面ではなくても、現経営陣は構造的な利益相反状況にある中でTOBに関する意見表明を行うことになります。

しかし「親会社の意向には逆らえない」として、さが美さんはA社によるTOBに賛同の意見表明をしており、ここに疑問が呈されています。さが美さんには独立社外取締役がいらっしゃらないので、たとえば取引所に独立役員として登録しているお二人の社外監査役の方々が「少数株主保護を目的とした第三者委員会」を構成して、独自に親会社のユニーさん及びA社との間で交渉する、その交渉経過を取締役会で説明する、ということが公正な手続きとして必要だったのではないでしょうか。たとえば10月31日のダイヤモンドオンラインの記事で東大の田中亘教授も「売却後の経営を考えた場合、高く売ることが正しいとは限らない。しかし対抗的な提案が出てきた場合、株価をそこまで引き上げるように掛け合うことはできるはずだ」「そういう努力をどこまでやったのかは疑問だ」と述べておられます。

この田中教授の見解は、ユニーさんの取締役に向けたものか、さが美さんに向けたものかは明らかではありませんが(記事の要約部分を読むと、おそらくさが美の取締役さんの行動について述べておられるものと解されますが)、少なくとも上場子会社の取締役としては、ユニーさん、A社いずれに対しても、少数株主保護のための方策(働きかけ)を検討する必要があるように思います。また仮に方策をとったのであれば、その結果については説明義務が発生するものと考えます。

いくつかのメディアで取り上げられているように、このような状況でこそコーポレートガバナンス・コードの規範力が問われているにもかかわらず、ユニーさん、さが美さん、いずれにおいてもコードに沿った対応がみられなかったのは残念です。海外メディアが指摘しているとおり、結局のところガバナンス・コードは「お飾り」「仏作って魂入れず」の状況にあることを示す一例かもしれません(ちなみにさが美さんは、8月22日現在、ガバナンスコードへの対応は開示されていません)。たしかガバナンス・コード原案では、「コードには取締役の法的責任(善管注意義務違反の有無)を判断する規範になることも期待されている」と述べられています。もちろんコード自身に法的拘束力はありませんが、「なんだ、一生懸命コンプライするように努力しているけど、しょせんコードとはこの程度のものか・・・」と他社が認識することを危惧いたします。

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2016年8月 8日 (月)

出光創業家の株式取得で改めて考える「公開会社法待望論」

9784492732588日本選手の金メダル獲得でリオ五輪も盛り上がりを見せていますね。しかしその一方で、逃亡していた元弁護士の方が9年ぶりに海外で身柄を確保され、送還後にさいたま地検に逮捕されたとの報道に、五輪や高校野球どころではない・・・と、真っ青な顔でビクビクされている方も多いのではと拝察しているところでございます。いやいや、高橋篤史さんの名著「兜町コンフィデンシャル」をひさしぶりに読み返しておりました。。。

さて話は全く変わりますが、出光興産社の現経営陣と創業家との対立は溝が深まる一方のように報じられています(ただ、ホントのところは「大戸屋さん」のところと同じように、水面下で話し合いが行われているのかもしれませんが、私は単なる野次馬なのでまったく存じ上げません)。創業家は金融商品取引法上の公開買付ルールを逆手にとって、ロイヤル・ダッチ・シェルと出光との相対取引を妨害する「強硬手段」に出ました。創業家の方々は、出光興産の社外取締役の方々に情報開示等を求めておられるようで、コーポレートガバナンス・コードによる「健全な株主との対話」も活用されているそうです。

双方とも(裏事情が公表されてしまうような裁判沙汰だけは避けたいところなので)協議を有利に進めるための地位確保に向けた動きが活発化しているわけで、これもその一環ではないかと思われます。企業法務に精通した方であれば、おそらく創業家側の株式取得についても予想していたものと思いますが、ただ日経新聞の8月4日朝刊記事で早稲田の黒沼先生がおっしゃっているように、そもそも「特別関係者」の概念は支配権異動を伴うTOBから一般株主を保護するために定められたものなので、支配権異動で協調行動が想定されないような場合まで「特別関係者」の概念を適用すべきかどうか疑問をぬぐいきれません。金商法という性格上「形式基準」はあくまでも形式的に解釈されるべきですから、ルールに反する行動の違法性を排除するということまでは言えないかもしれませんが、なんとなくモヤモヤするものが残るのも事実です。

8月5日の日経朝刊記事によりますと、出光経営陣は取得数を減らして、あくまでも相対取引で株式を取得する方向だそうですが、これに対してはまた創業家が買い増すことも検討されるようで、どこで終息するかわからない様相です。そこで、たとえば「特別関係者」規定の趣旨を逸脱した金商法の活用を敢行したのは創業家なのだから、出光経営陣側も強硬手段として当初の合意どおりロイヤル・ダッチ・シェルの株式をすべて買い取ったらどうなるのでしょうかね?(まぁ、コンプライアンス経営の視点からみて実行されることはないと思いますが)。

そういえばこの問題は平成26年改正会社法で解決されるはずだったのではないでしょうか?TOB規制に反して取得された株式の議決権停止については、会社法と金商法の狭間で残された課題として会社法改正の中間試案までは改正条文が存在したのですが、最終的に内閣法制局の意見で削除されたものと記憶しています。民事上は株式取得は有効ですが、議決権行使というごく一部の権限だけが金商法違反によって停止する、といった建てつけだったと思います。改正会社法で規定されなかったということで議決権は停止しないとみるべきか、それとも金商法の解釈問題として停止される、もしくは民事上の合意そのものが無効とされるのでしょうか。また民事保全は使えるのでしょうか(そもそも本訴の原告適格はあるのか?)。いずれにしてもビミョーにグレーゾーンの問題です。

こういった事例は大量保有報告書制度や委任状勧誘規則との関係でも実際に起きるわけですから、法務省と金融庁との管轄の垣根を超えて、公開会社法の制定を真剣に検討してもよいのではないかと考えますが、いかがでしょうか。

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2010年2月15日 (月)

金融庁・公開買付け追加Q&A出てますね(例の件も・・・)

住友商事のTOBでまたまたJCOMの支配権問題が浮上しておりますが、先日のKDDIによるリバティグループ会社の持ち分取得についてTOB規制にひっかかるのか?という問題、本日金融庁からリリースされた「TOB規制に関するQ&A」(案)でズバリ出てますね。MBOに関する対象会社の役員問題などにも言及されており、合計27問(意見公募)については検討すべき点があるように思われます。

ここのところ、大手の法律事務所さんが編集しているTOB関連の解説書が相次いで出版されておりますが、この時期に詳細なQ&Aが出るのもタイミング悪いですよね。(執務中なので、速報版ということで失礼いたします・・・・・)

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2006年4月10日 (月)

TOB規制と新会社法との関係

商事法務の4月5日号(1763号)は、なかなか読み応えのある記事が目白押しで、たいそうおもしろいですね。会社法に基づく内部統制実務にも影響を与える「会社法施行規則の訂正省令」(非訟事件手続法による財産管理の報告および計算に関する書類並びに財産目録の謄本又は株主表の抄本の交付に関する手数料の件の廃止等をする省令)が掲載されておりますので、これ最新の「内部統制解説本」の「事業報告書への体制整備事項の記載方法」に関する解説を読むときには注意が必要ですね。(まぁ、本年度の営業報告書では関係ありませんが、株主総会での取締役の説明内容には若干影響があるかもしれません)そのほかにも、注目度の高い田中亘助教授(成蹊大学法学部)が、「利益相反取引と取締役の責任」という新会社法上の解釈論点について、直球ストレートで真っ向勝負するような論稿が掲載されておりまして、今後の大きな話題になるんじゃないでしょうか。(私もこの「任務懈怠」と善管注意義務違反認定との関係、新会社法における利益相反取引を行った取締役の無過失責任という説明との整合性については、以前から疑問に思っておりました。立法論としてではなく、新会社法の解釈問題として論じていらっしゃるところは今後の展開に大いに期待しております)

そんななか、一番おもしろかったのが最終ページの「スクランブル」に掲載されている「公開買付規制に関する証取法の改正」という小論です。このたびの証券取引法の改正については、公開買付規制の適用範囲の明確化と全部買付義務化に関する規制は、これまでの証券取引法の領域を一歩踏み出したものであり、いわゆる「証券取引法による会社法への実質的優越」を認めたものであって、わが国法体系を根幹から揺るがす一大変革になっている、との認識です。新規発行を含めた株式取得による株券等所有割合が6か月以内に三分の一を超えるような場合も公開買付によらねばならない(27条の2)と改正されますと、実質的には公開買付規制によって会社法の割当自由原則に制限を加えることになりますし、また株券所有割合が一定以上になる場合の全部買取義務を明文化することは、圧倒的多数者の支配下における少数株主の保護という会社法の問題点を先取りしたものである、といった解説がなされております。民法と商法のように、もともと私人間における利害調整のための法律といった「制度趣旨の合致」がみられれば「一般法と特別法」という体系にすぎないのではないか、とも思えるのですが、商法と証券取引法は、それぞれ別の立法目的があるために単純に一般法特別法という関係を認めることはできないでしょうし、作者の方と同様の疑問といいますか、問題意識というものにつきましては、私も共感できるところです。昨年11月16日のエントリー(商法と証券取引法とが逆転?)でも論じましたが、これから証券取引法がいわゆる「公開会社法」たる役割を担うようになってきて、たとえば会社法の条文解釈の際にも、先の改正条文などから「多数株主に対する少数株主保護の要請」といった「会社法の解釈指針」を導き出すことが可能となるならば、会社法を議論するにあたっての発想の転換を迫られる事態にもなりかねません。昨年のエントリーの際、neon98さんからコメントをいただいたように、(アメリカの州会社法と連邦証取法の関係のように)会社法が規制していない部分を証取法がカバーするといった手法であればそれほど大騒ぎすることもないでしょうが、先の株式割当自由とか、多数株主による権利行使と少数株主保護、といった問題につきましては、会社法が何も規制していない、といった領域ではないと思います。そうしますと、双方の法律の規制態度が異なる場合に、もし証取法が会社法に優先するのであれば、公開会社の利害調整に関する民事紛争を会社法を基準として裁判所で判断する道が狭くなってしまうことにはならないでしょうか。もし、こういった認識が私の誤解によるものであれば杞憂にしかすぎませんが、もし正しい認識だとするならば、今後金融庁企業会計審議会から発表されるような内部統制報告書実務のための指針が取締役の善管注意義務の範囲を決めてしまったり、公正なる会計慣行としての会計基準委員会が発表する運用基準が、そのまま計算法規と評価されてしまったりするケースも出てくるように思います。

公開企業をとりまく利害関係者の利益調整に関する「法のあり方」については、一度よく検討すべき問題だと思いますし、もし企業会計法や証券取引法の運用自体が会社法の解釈に影響を与えることが多くなるのであれば、それは今後の会社法の学び方にも大きな変革を迫るものになってしまうのではないか、と思い悩んだりしております。株式会社の法律問題については、裁判所を通じて個々具体的な事案ごとに漸次的に検討されるべきであり、裁判所の判決を通じて政策形成がなされるべきである、といった考え方を重視したのは、私が法曹であるがゆえの自分勝手な立場からなのでしょうか。

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