さが美へのTOB争奪事例-少数株主保護への尽力はいずこへ?
ニッセンホールディングスの上場廃止(10月27日)に伴いまして、私も残務を済ませ、本日(11月1日)同社の社外取締役を退任いたしました。3年8か月にわたり、関係者の皆様にはたいへんお世話になりました。後半の2年ほどは取締役会議長も務めましたが、とりわけ上場子会社の独立社外取締役という、たいへん難しい職務も経験させていただきました。セブン&アイの100%子会社となりましたが、これからもニッセンの熱烈なファンの一人として、応援していきたいと思っております。
さて、「難しい上場子会社問題」といえば、さが美さんの件が話題になっています。東証1部上場のさが美さん(呉服販売)の親会社であったユニー・ファミリーマートホールディングスさんが、TOB(株式公開買付)を通じて、投資ファンドのA社に対してさが美株式をすべて譲渡しました(さが美社のリリースはこちら)。一般株主がTOBに応じないように(つまり上場を維持するために)、時価80円の株式につき、買付価格は1株56円に設定されました。一方で、A社のTOBに対抗提案を出した再生ファンドN社は、A社の買付価格(1株56円)よりも約60%も高い買収提案(1株90円+5億円の第三者割当+ユニーさんのさが美さんに対する貸付債権の買取り)を出しましたが、ユニーさんもさが美さんも、この提案には応じなかったことが国内外のメディアで報じられています。
たしかにユニー社取締役、さが美社取締役の善管注意義務違反の有無が議論されてもおかしくない事例ではないかと思います。とりわけ、さが美の取締役としては、コーポレートガバナンス報告書(最終更新2016年8月22日)において、立派な「支配株主との取引等を行う際における少数株主保護の方策」を宣言している以上、たとえN社が対抗TOBに至らずとも、買収提案が出された時点で40%以上を占める少数株主保護の措置をとる必要がありそうです。さが美さんは上場子会社であるため、経営陣が大株主の意向に従わざるをえない状況にあるわけですが、「高い価格による買収は、さが美の将来価値を上げる自信のあらわれであり、また現経営陣に対するシビアな監督も期待できる」として、少数株主はN社による買収に期待をするところです。つまり、たとえ金銭によって少数株主を排除する場面ではなくても、現経営陣は構造的な利益相反状況にある中でTOBに関する意見表明を行うことになります。
しかし「親会社の意向には逆らえない」として、さが美さんはA社によるTOBに賛同の意見表明をしており、ここに疑問が呈されています。さが美さんには独立社外取締役がいらっしゃらないので、たとえば取引所に独立役員として登録しているお二人の社外監査役の方々が「少数株主保護を目的とした第三者委員会」を構成して、独自に親会社のユニーさん及びA社との間で交渉する、その交渉経過を取締役会で説明する、ということが公正な手続きとして必要だったのではないでしょうか。たとえば10月31日のダイヤモンドオンラインの記事で東大の田中亘教授も「売却後の経営を考えた場合、高く売ることが正しいとは限らない。しかし対抗的な提案が出てきた場合、株価をそこまで引き上げるように掛け合うことはできるはずだ」「そういう努力をどこまでやったのかは疑問だ」と述べておられます。
この田中教授の見解は、ユニーさんの取締役に向けたものか、さが美さんに向けたものかは明らかではありませんが(記事の要約部分を読むと、おそらくさが美の取締役さんの行動について述べておられるものと解されますが)、少なくとも上場子会社の取締役としては、ユニーさん、A社いずれに対しても、少数株主保護のための方策(働きかけ)を検討する必要があるように思います。また仮に方策をとったのであれば、その結果については説明義務が発生するものと考えます。
いくつかのメディアで取り上げられているように、このような状況でこそコーポレートガバナンス・コードの規範力が問われているにもかかわらず、ユニーさん、さが美さん、いずれにおいてもコードに沿った対応がみられなかったのは残念です。海外メディアが指摘しているとおり、結局のところガバナンス・コードは「お飾り」「仏作って魂入れず」の状況にあることを示す一例かもしれません(ちなみにさが美さんは、8月22日現在、ガバナンスコードへの対応は開示されていません)。たしかガバナンス・コード原案では、「コードには取締役の法的責任(善管注意義務違反の有無)を判断する規範になることも期待されている」と述べられています。もちろんコード自身に法的拘束力はありませんが、「なんだ、一生懸命コンプライするように努力しているけど、しょせんコードとはこの程度のものか・・・」と他社が認識することを危惧いたします。
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