内部統制報告制度(J-SOX)運用に関する具体的提言(追補)
すいません、昨日書き忘れたことだけ補足しておきます。とくに「具体的提言」というほどのこともありませんが、内部統制報告制度が施行されて、最近はいわゆる「評価マニュアル」の指南書がずいぶんと出版されてきましたし、私が知るかぎりでも、今後もいくつかの評価マニュアル書が出版される予定であります。そういった「評価マニュアル」は、これまで以上にIT全般統制の評価や、業務プロセスの評価内容(評価手続きの具体例)が詳細であり、(おそらくこれまでの監査法人さんの内部統制評価方式を基本としたものだと思いますが)各企業の内部統制担当者の方には実践的で有益なものだと理解しております。
しかしながら、こういった評価マニュアルを拝読していて新たに疑問が生じるのでありますが、もし評価手続きについての理解不足が経営者(実際には現場担当者)にある場合、これはおそらく、一般に公正妥当と認められる経営者評価の基準に準拠して内部統制評価が行われていないとして、内部統制監査人としては「不適正意見」を出すことになると思います。(会計士協会の「実務上の取り扱い」においては、「不適正意見」を出す場合の例として、監査人が重要な欠陥を特定しているにもかかわらず、経営者がこれを記載しない場合と、内部統制の評価範囲、評価手続き、評価結果について、著しく不適切な記述がある場合があげられておりますので、おそらく経営者評価の基準に合致しない(内部統制評価の理解不足)場合は、この評価手続きについて著しく不適切な記述がある、ということに該当するのではないでしょうか)
評価マニュアルや、実施基準等の意見書を十分理解し、また監査法人さんとの十分な意見交換を行う企業であれば問題は発生しないでしょうが、最近の評価マニュアルを拝読していて「本当にこれだけの評価手順を経営者(実際には現場プロジェクトチームや内部監査人)が理解できるのだろうか?」と皆様は疑問を抱かれませんでしょうか?最近は、内部統制報告制度においての大きな課題が「重要な欠陥」の判定にあることは間違いないでしょうが、それと並んで、もっと広い意味で経営者が「一般に公正妥当と認められる経営者評価の基準に準拠して評価しているのかどうか」という点についても大きな問題になるのではないでしょうか。そもそも、「重要な欠陥」の判断基準が問題となるのは、その前提として、経営者は一般に公正妥当と認められる経営者評価の基準に準拠して評価手続きを行い、きちんと不備を指摘しているわけですよね。でも、そんなに簡単に会社と監査人とで合意に達するような不備って見つかる(評価できる)ものなのでしょうか?「経営者が財務報告の信頼性に重要な影響を及ぼす内部統制を統制上の要点として識別すること」って、素人に簡単に理解できることなのでしょうか?この点、ダイレクトレポーティングが採用されず、経営者評価報告書が監査対象となるわけですから、なおさら監査人としては、経営者報告書の「評価基準への準拠性」とそれを前提とした「有効性」への配慮が必要になるのではないかと思います。もうすこしわかりやすく言えば、「なにが不備がわからない、不備がみつけられない」という「評価基準の理解不足」のレベルの話と、「不備は基準どおりに正確にみつけることはできるけれども、その重要性判断に監査人と意見の食い違いがある」というレベルの話とでは大きな差があり、いま世間で問題となっている「重要な欠陥」の判断基準の問題は後者のレベルではないかと思うのであります。
金融庁の方々は「重要な欠陥があれば、そのまま開示すればいいじゃないですか。あとは説明義務を果たせば合格点です」とおっしゃいますが、そもそも一般に公正妥当な経営者評価の基準に準拠していれば重要な欠陥でもなんでもない(たとえば代替統制がきちんとあったりして)のに、理解不足のために重要な欠陥だと錯覚して報告書を提出しているケースとか、どう考えたらいいのでしょうか。これでは「合格点」もあったものではないですよね。内部統制監査人が適正に指導していただけるとは限らないでしょうし。アメリカのように8割の中小の上場企業に制度の施行が猶予されるのであればいいのですが、ヨーイドンで一斉に始まったJ-SOXの場合、こういった問題点についてもどなたか解説していただけるとありがたいのですが。「重要な欠陥」よりも先に、「重要な理解不足」をどう考えるか、という問題が横たわっているように思うのでありますが。
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