監査役の財務会計的知見(その2)
5月1日のエントリー(監査役の財務会計的知見その1)では、なぜ会社法施行規則は、監査役に「財務会計的知見があるときはその旨」を事業報告書に記載させて、「法務的知見」については記載させないのだろうか・・・会計士さんは会社法が「監査役になってほしい職業」として期待されて、どうして弁護士は期待されていないのだろうか・・・・といった(半分ひがみのような気持から)問題点を指摘させていただきました。(^◇^;)
今月号の「ジュリスト」(1315号)では、「会社法規則の制定」といった大きな特集が組まれておりまして、上村先生、尾崎先生、稲葉先生をはじめとした稲門軍団の諸先生方が、新会社法とその政省令の問題点を鋭く批判する・・・といった内容で完結している、とてもヨミごたえのある論稿集になっております。(この特集記事は1850円で購入するだけの価値がありますねぇ)そして、この特集論稿のなかで、おひとり早稲田大学以外の教授として寄稿されていらっしゃいます中東正文氏(名古屋大学教授)の「株式会社の監査と内部統制」については、もっとも私的に興味のあるテーマでしたので、じっくりと拝読させていただきましたが、そのなかにこの「監査役の財務会計的知見」に関する問題点が指摘されておりました。(ちなみに、会社法施行規則121条8項では「監査役又は監査委員が財務及び会計に関する相当程度の知見を有しているものであるときは、その事実」を事業報告書の内容にすべきである、と定められております。「財務及び会計に関する相当程度の知見というのは、会計専門家としての国家資格を有していることだけでなく、長年経理や財務の職に就いていたことなども含むとされているようですが、ひょっとすると私が保有している公認不正検査士(CFE)の資格なんかも、継続研修の単位が会計士さんと互換性があったりしますので、これに該当するのかもしれません)そして、私の不知を恥じるのみですが、すでに早稲田大学の意見(会社法規則へのパブコメ)として、監査役等に求められるのは法的な思考力であって、法的な視点から財務及び会計に不正な操作が行われているのではないかを監督することが期待されているのであるから、監査役等の資質については法律その他の会社経営に関する相当程度の専門的知見を有している場合も事業報告において開示すべきである、といった主張がなされていたんですね。また、中東教授も同様の意見を述べて、現在の規則に対する問題点として挙げておられます。
そして、この中東教授の論稿では、もうひとつ「会計監査人による監査」のなかで、計算関係書類の監査の実効性に関する(会社法規則の)問題点を指摘されていらっしゃいます。要するに、新しい会社法のもとでは、会計監査人による監査は、事業報告の内容については監査対象になっておらず、もっぱら計算書類の監査のみを担当することになったわけですが、会計関係書類の作成過程を(会計監査人が)検証しないままに、監査を求められた数字や会計処理の適正性をどうやって判断できるのであろうか・・・といった疑問を呈しておられます。もちろん、会社法上の会計監査人設置会社の商法監査と上場企業における証取監査とは異なるわけですから、金融商品取引法24条による内部統制報告実務とは異なる取扱もありうることはわかるのですが、たしかに会社法上の計算書類の作成過程というものは、上場企業の場合は概ね、財務情報の信頼性確保のためのシステムが構築される必要がある、といったところでは類似ではないかと思われますので、事業報告が提出されないで、会計監査人にとって、どうやって計算書類の作成過程の適正性が担保されるのだろうか、との問題点が生じてくるのも当然のことではないか、と思われます。
私もこの「会計監査人による監査における計算書類の監査実効性」については、金融商品取引法との関係から疑問に思っておりましたが、「会社法規則はおかしい」とまでは言い切れないのではないかなぁ、とも考え直しております。といいますのは、さきほどの会社法が期待する監査役像(会計的知見をもった監査役)と、この計算書類に対する会計監査人の監査との規定が連関している、といった考え方も成り立つのかもしれない、と思うからです。会社法が定める内部統制の中身というのは、取締役の職務執行の適正性を確保するための体制整備が中心でありまして、その体制には機関としての監査役や会計監査人の職務執行の仕組みや運用状況も「株主への開示の対象として」含まれているはずです。そうしますと、監査役と会計監査人との「連携」の仕組みや運用状況も評価対象になるはずだと思いますし、もし監査役に会計的知見を有する者が就いているとするならば、そういった連携も充足されやすくなりますし、会計監査人による計算書類の監査においても、(書類作成過程に関する適正性について、会計監査人が監査役に質問するなどによって)監査役の事業報告内容への理解度が生かされることになります。たしかに、個別に規則条文を眺めておりますと、私も同様の疑問を抱いておりますが、それぞれの規則の相互関係を会社法の精神にさかのぼって検討してみると、違う解釈もあるのかなぁとも思えますが、どうなんでしょうかね。。
もちろん、私も法曹ですし、監査役に要求される資質として、法務的知見を要求すべき、といったスタンスのほうが少しだけうれしいのは間違いありませんが、でもなぜ法務的知見が会社の機関たる監査役に要求されるのか、法曹は会社に必要なときだけ「外部の第三者」として関与すれば、その法務的知見は十分会社の要求を満たすのではないか、といった疑問に、現在のところ明確な回答は持ちえておりません。「会計的知見」というのは、やはり企業経営にとっては、会計処理が恒常的な作業であって、会計監査人とは別個に「恒常的に」監視する必要性というものが理解できるように思えます。そのあたりにも、たとえば社外監査役として「法務的知見」と「会計的知見」とでは、開示対象としての価値に差があっても不思議はないといった判断に至る理由があるのかもしれません。
7月 6, 2006 監査役の財務会計的知見 | Permalink | コメント (6) | トラックバック (0)

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