会社の有事における監査役辞任に潜むリーガルリスクにご注意!
最近は当ブログへ直接お越しの方以外にも、ヤフーニュースさん、楽天ニュースさん、ブロゴスさん、さくらフィナンシャルニュースさん、財経新聞さんなど、さまざまなメディアでエントリーを転載いただいていることから、当ブログも多くの皆様にお読みいただいているものと認識しております(どうもありがとうございます)。誤解を招く言い回しは控える等、それなりに配慮する必要もありますので、本日のエントリーは、すこし柔らかめに書かせていただきます。
最近の適時開示を読んでいたところ、ある上場会社の監査役さんの辞任に関する通知に、やや関心を抱きました。同社では、12月初旬に外部機関から会計処理に関する疑義が呈されたようで、「このままでは四半期報告が出せそうにもない」と判断して、直ちに社内調査委員会を設置することになりました。同社のA監査役さんは、その社内調査委員会の委員として会計処理の適切性を調査する任務を会社から打診されたそうです。
しかし、A監査役さんは、社内調査委員会における職務のボリュームを考慮した結果、その社内調査委員会委員としての役目を果たせないとして就任を断り、さらに監査役としての任務も全うできないとして、辞任の意思を表明し、会社もこれを受理された、とのこと(正式には受理せずとも辞任の法的効果は発生しますが)。同社リリースによれば、A監査役さんの辞任後も、同社には法定数の監査役さんは存在するので、とりあえず会計に精通した社内調査委員候補者を探す予定、とされています。
A監査役さんが辞任に至る経緯は、おそらく諸事情があり、会社も納得のうえで辞任されたものと思います。しかし、開示された情報だけでみると、私は少し危険を感じます。取締役、監査役はいつでも自由に辞任できるのが原則ですが、会社に不利な時期に辞任した取締役、監査役は債務不履行として会社に対して損害賠償責任を負う場合があるからです(江頭「株式会社法-第5版」391ページ参照)。会社役員と会社との関係は、民法の委任に関する法律関係に従うわけですが(会社法330条)、委任契約の解除を規定した民法651条2項では、当事者の一方が相手方にとって不利な時期に委任の解除をしたときは、相手方の損害を賠償しなければならない、と定められています(ただし、やむをえない事由があるときはこの限りではありません)。
同社は今まさに会計不正疑惑に直面している時期であり、これは会社にとって明らかに有事です。しかもA監査役は財務会計的知見を有する会計専門家であり、多忙であるために社内調査委員会の委員に就任できないことは致し方ないとしても、監査役としての職務を全うして、すこしでも会社の損害を防ぐために尽力しなければならないところです。いや、私の見解としては、本業が多忙であったとしても、同社の監査役としての有事の職務は、他の本業よりも最優先で取り組むことが監査役としての善管注意義務の内容になってくるのではないかと。このあたりが(一般論として考えても)有事の監査役の職務として十分に留意すべき点ではないでしょうか。本業が多忙であり、監査役職務を全うできないため、やむなく辞任する、というのは平時では当然のことかもしれませんが、有事に辞任する、という選択は職務放棄ととられかねません。
民法651条2項但書は、たしかに「やむをえない事由」がある場合には会社の損害を賠償する必要はない、と規定していますが、この「やむをえない事由」とは健康上の理由で監査役としての職務を遂行できない、職務を遂行することが、本業における職業倫理に反する、利益相反行為に該当する、といった事由であり、ここに「多忙であること」は原則として含まれないと考えるのですが、いかがでしょうか。
最近のガバナンス改革の中、上場会社には社外取締役や社外監査役の方々が増加するものと思いますが、平時であれば自由に辞任できるものも、有事となれば逃げることはできず、当該不祥事と真っ向から対峙しなければ法的責任を負う可能性が高いことを肝に銘じておくべきです。有事においては、たとえ現経営陣と意見相違が生じたとしても、安易に辞任することはリーガルリスクを背負い込むことになるものと考えます。
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