神田教授の「会社法入門」
最近、内部統制システム関連の勉強をしておりましたところ、昭和57年に出されました神崎克郎教授(関西学院大学法科大学院教授、当時神戸大学)の「法曹時報34巻4号」の論文で、「内部統制組織の構築」が論じられておりまして、たいへん驚いた次第です。なぜ神崎先生が「内部統制」を商法のなかで議論しようとしていたのか、と申しますと昭和48年に出されておりました「取締役会を構成する業務担当以外の取締役の監視義務」に関する最高裁判例と、当時さかんに議論されておりました「企業の社会的責任論」(いまのCSRと違い、ずいぶんとイデオロギー色の強かった議論ですよね)に焦点をあてて、アメリカの内部統制システム構築に関する判例などを参照しながら、会計の世界ではなく、法律学の世界で「内部統制構築を議論する意義」を公表されていたのです。取締役の監視義務を、個々具体的な事案のなかで議論する「場当たり的な」事実認定(およびその法的評価)では、取締役にとって、どこまでの監視をすれば免責されるのか、非常に曖昧であって、萎縮的効果も発生してしまうため(その結果、取締役の職務執行の効率性まで失われてしまう)、取締役の「やるべき範囲」を自ら構築して、その代わり業務の適正を確保する体制の構築整備に努力していれば、監視義務違反には問わない、といった理論を提唱されていました。
いままさに新会社法のもとで、内部統制システムが重要な柱として議論されるに至り、この神崎教授の論文で用いられている「内部統制システム」の定義も、ほぼ同じままに会社法の条文、会社法施行規則の条文に採り入れられておりまして、24年も前に神崎先生が遠くに見つめておられた「法律学における内部統制システムの構築」が、ついにこの5月、姿を現したことになります。残念ながら、神崎教授はこの「内部統制の法律学における意義」が世に現れる瞬間を見届けることなく、若くしてこの3月に逝去されましたが、その魂は神田教授の岩波新書「会社法入門」76ページで(わずかではありますが、しかし明確に)記述されております。
ろじゃあさんもご紹介されていらっしゃいますが、この「会社法入門」、私などが評論するなど、到底畏れ多いのですが、感動モノであります。私はまず「あとがき」から読みました。あの「会社法(弘文堂)」のはしがきを読んだときと同じか、それ以上の感動を覚えました。あえてここではご紹介いたしませんが、どうか会社法を学ばれている方、この「あとがき」をご一読ください。どんな感想を持たれるでしょうか。私は一読して、なんかとっても肩の力が抜けて、楽な気持になりました。それから、内容的には「株主代表訴訟の問題点」「会社の法令違反行為と取締役の責任」あたりに、ビックリするくらい斬新でおもしろいことが書かれております。各論につきましては、またブログのいままでの関連エントリーと絡めて考えてみたいと思っています。
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