月刊監査役の最新号(618号)に、公認会計士・監査審査会事務局の方(審査検査室長)執筆による論稿「監査事務所検査結果事例集の公表について」が掲載されています。CPAAOB(公認会計士・監査審査会)の職務のひとつに監査法人の立ち入り検査を行うことがありますが、その具体的な検査によって監査法人の品質管理上の問題点などが明らかになります。そのような検査結果事例を集めたものが「検査結果事例集」としてCPAAOBから公表されており、監査法人の品質管理上で指摘された事項等が(どこの監査法人の問題なのかは特定できませんが)一般の方にもわかるようになっています。今回の月刊監査役の論稿は、こう検査事例集の一部を監査役さん向けに紹介したものです。
なぜこのような事例集の一部が月刊監査役において紹介されたのか、という点につきましては、月刊資本市場2013年9月号に掲載された金融庁検査局審議官兼CPAAOB事務局長の(あのレオン風ちょい●おやじこと)S氏の講演録を読むとおわかりになろうかと思われます。監査役は(会社法上)会計監査人の内部統制をチェックすべき立場にあり、さらに今回の会社法改正では会計監査人の選任者たる地位にあるわけですから、「当然のこととして」監査法人の品質管理についてきちんと理解しておかなければならないということで、今回の事例集紹介ということになったものと推測されます。ただ、ホンネで言わせてもらえば、
「これ、当監査法人の品質管理レビューの要約ですわ」
「なんでんの?これ。お宅のような大手の監査法人やったら監査の品質なんてなんにも問題ないでしょ」
「いやいや、最近は当局もうるさいんですわ。ま、いちおう読んどいてくださいな」
・・・といった会話が監査法人と監査役さんの報告会でつぶやかれているとかいないとか。実際のところ、監査法人の品質になど、ほとんど関心を示さない監査役さんもいらっしゃるはずです。しかし大手監査法人といえども、上の検査事例集を読みますと、すべての現場の担当社員による監査の品質にまで管理が行き届いていないケースとか、それなりに管理をやっていても、現場の監査担当者が「俺には関係ないよ」という風情でまったく管理事項を無視している状況なども掲載されています。つまり大手は大手なりに、また中小は中小なりに監査法人さんの品質管理に問題が生じることは十分に考えられるわけです。このような問題点に何ら気を留めることもなく監査役さんが監査報告書にサインをすることは、いざというときにリーガルリスクを背負う可能性が高まる、ということです(上記S氏の講演録参照)。
もちろん監査法人側も、会計士協会からの品質管理レビューの結果報告書やCPAAOBによる改善勧告書については、第三者に開示すべき文書ではない、ということで逐一開示することまでは求められないとは思います。昨年10月ころ、このあたりの取り扱いは会計士協会から各監査法人宛に広報されています。しかしこれだけ監査人と監査役との連携が必要とされる時代、不正会計事件に巻き込まれたときのリスク管理の一環として、金商法24条の4等による虚偽開示に基づく賠償責任から免れるための行動くらいは考えておいたほうがよろしいのではないでしょうか。監査役と監査法人では若干法律の文言は異なりますが、要するに「私はきちんと注意義務を尽くして有価証券報告書の開示をチェックしました」ということが立証できなければ多額の賠償責任を負担することになります。
また、これは最近の私の関心ですが、(会社法上の機関である)監査役も(金商法上で期待される)「市場の番人」としての活躍が注目され、監査役の平時における監査環境整備のために、監査法人の内部統制をチェックする姿勢が求められるものと考えています。上場会社の監査役さんの場合、「株主との対話」がガバナンス上で強く求められる中で、取締役の業務執行としての開示統制システムの構築は、監査役さんにとっても監視・検証の重要なテーマとなりつつあり、さらに新設された不正リスク対応基準の運用によって不正会計の抑止・早期発見が求められる中で、監査法人の品質管理も開示プロセスの重要なポイントとして留意すべきだからです。つまり開示統制システムの構築についての監査役さんによるチェック自体が金商法24条の4における「相当な注意を怠らなかったこと」の根拠事由となるはずです。
アーバンコーポレイション株主損害賠償事件の第一審判決(東京地裁平成24年6月22日)では、有価証券報告書の中身を決定する役員会に出席していた監査役には金商法24条の4に基づく責任が認められ、たまたま欠席していた監査役には認められませんでした。つまり職務に熱心な監査役さんほど責任が認められやすく、そうでない監査役さんほど免責される可能性がある、というのは(理屈の上ではその通りかもしれませんが)感覚的には非常におかしな結論です。そういったアンバランスを回避するためにも、今後は「相当な注意を怠らなかった」かどうかは、平時における開示統制システムの構築や、これに対する監査という職務遂行の度合いを認定していくべきだと思います。そういった考え方に立ちますと、監査役と会計監査人との連携にも、今後関係者の熱が入っていくことが期待できるのではないでしょうか。