2010年2月24日 (水)

闘うコンプライアンス(しまむらVS加茂市)-その2

昨年12月に闘うコンプライアンス(しまむらVS加茂市)その1でとりあげました話題の続編であります。本件は、あれから読売や朝日でも話題としてニュースになりましたし、本日も毎日新聞ニュースでとりあげられております。(事件の概要はその1または毎日新聞ニュースをご覧ください。なお簡単に申し上げますと、

地元商店街の保護を図るため、しまむら加茂店の売り場面積拡張に「待った」をかけようと、2009年7月、加茂市が臨時議会で条例を改正した。条例違反には行政刑罰が規定されていた。(加茂都市計画地区計画による建築物の制限に関する条例の制定 7.17 原案どおり可決された)、すでにしまむら社は新潟県から拡張に関する許可を得ていたことから、そのまま加茂市の制止を振り切って面積拡張に踏み切ったというもの。これに対して加茂市はしまむら社を刑事告発。2009年に入ってからしまむら社と加茂市とは交渉を繰り返してきたようですので、この7月改正はまさに「しまむら対策」として制定された可能性は高いようである。

これまでの主要なニュースには目を通しているつもりでありますが、いまのところはこう着状態のようで、新潟県加茂市の刑事告発を受理した地元警察もしくは検察庁が動き出した・・・という様子はみられないようであります。

前回のエントリーを読まれた方の印象では、私がしまむら社のほうを応援しているように思われたようですが、私としては、とくにどちらかを応援しているつもりはございません。加茂市側は、地方自治体として住民の生活を守るために、企業の財産権を制限してでも積極的に権力行使に出たのであり、「なかなか大胆やなぁ」と感心しております。いっぽう、しまむら社につきましては、(たとえ刑事処分の内容が、わずか罰金50万円だとしましても)上場企業のコンプライアンス経営として、罪を犯しながらも、そのまま営業を続けていいのだろうか?という「罰金どころでは済まされない企業の社会的責任」問題に直面するわけでして、譲ることのできない「企業風土」に関わる問題に直面するわけであります。同社の今後の反応を含め、事の成り行きを見守りたいところであります。もし、ここでしまむら社が黙って刑事処分に甘んじてしまえば、今回の加茂市の手法はおそらく(他の地方自治体による称賛のもとで)全国の自治体のモデルになりそうな予感がいたします。

朝日や読売の報道では、主に条例による「上乗せ規制」の是非が、(行政法に詳しい大学の先生方のコメントとともに)掲載されていたように記憶しておりますが、私的には今回の毎日新聞ニュースの報道内容が一番しっくりきました。たしかに条例自体の違憲性(違法性)を真正面から議論するのであれば、果たして県条例と同一目的で制定された市の条例が、県条例以上に厳しい規制を私人に課すことが許されるのか?という点を問題にするべきかもしれません。しかし、私は今回の加茂市の条例の問題は「狙い撃ち条例」「後だしジャンケン的条例」の点だと思います。狙い撃ちかどうか、後だしジャンケンかどうかは、立法事実に関わるものであり、どこかで線を引かねばならないような実質的な判断が必要だと思いますが、今回の加茂市としまむら社との事前交渉の経過や、しまむら社が県の条例について適正な手続きを経てきた事情など、報道されている内容からみますと、やはり加茂市としては、しまむらの営業権だけを制限する目的で、今回の条例制定に至ったものと認識できそうであります。

私もあまり行政法に詳しくはありませんが、加茂市としましてはいきなり刑事罰とせずに、その前に行政行為を介在させる、という手法は無理だったのでしょうか?刑事告発をするくらいですから、条例制定から実際の工事までは時間的な余裕があったと思われます。そうであるならば、工事続行禁止命令のような行政命令を先行させる、という方法はとれなかったのでしょうか。(手法としては緩やかでも、むしろ行政行為のほうが会社に対するダメージが大きいと判断されたのでしょうか?それとも行政手続法によるプロセスを経るだけの時間的余裕がなかったのでしょうかね?)たしか条例制定に刑事罰を設ける場合には、地元の地方検察庁との協議が必要ですが、その際には立法事実も含めて検討されるでしょうから、県や検察も「この条例は憲法違反ではない」と考えて制定されたものだと思うのでありますが「問題なし」と判断されたのでしょうか?

先の毎日新聞ニュースでは、地元の声も賛否両論とありますが、個人的な意見としましては、かなり問題を含んだ条例ではないか・・・と考えております。もちろん行政刑罰を必要とする場面もあるかとは思いますが、①本件では本当に刑罰をもってしなければ行政目的を実現できないと言えるのか(ほかに選択できる緩やかな手段はなかったのか)、②刑罰をもってしてまでも行政目的を実現すべきものだったのか、③しまむら社だけを「狙い撃ち」にするという実質に鑑みれば、刑罰の遡及的活用となり罪刑法定主義に反することはないのか、という点でどうも疑問がありそうな気がいたします。条例の「制定」における上乗せ規制的な手法自体は合憲と考えて、ただ今回のしまむら社への「適用」自体を問題とする・・・というあたりがバランス的にもよろしいのではないか、と思うのですが、ちょっと安易でしょうか?(行政法に詳しい方がいらっしゃいましたら、ご教示いただければ幸いです。)

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2009年7月16日 (木)

ビックカメラ元会長による金商法・課徴金処分に対する初の審判手続き

ずいぶんと前から、行政法専門弁護士待望論なるカテゴリーでエントリーを書いてきましたが、ついに「開かずの扉」が開くときが来たようですね。朝日新聞ニュースによりますと、ビックカメラの元会長さんが、金商法に基づく課徴金賦課処分を不服とする初めての答弁書を提出されるようです。証券取引法に課徴金制度が導入された平成16年以降、これまですべての事件において金融庁の処分を認める旨の答弁書が提出されてきたわけですが、これで金融商品取引法の後ろの方に規定されている審判手続きが初めて活用されることになります。(そのまま行政訴訟にまで発展すると、課徴金の法的性質や、会計処理方法と公正なる会計慣行、金融庁の行政処分前例が法解釈に及ぼす意義、といった重要な論点についての司法判断が期待できるところです)外野の人間としては実に楽しみであります。

でも、法人としてのビックカメラは課徴金処分を争わないそうですが、これって、元会長さんの異議に影響はしないのでしょうかね?

私は警察行政(公安委員会)に関する審判手続きしか経験がないもので、エラそうなことは言えませんが、おそらく代理人(補佐人?)をされる弁護士の方々にとっても貴重な体験になると思います。もし本当に審判手続きが開始されるのであれば、以前の長銀事件のように、本ブログでは定期的にウォッチングすることになりそうです。(とりあえず備忘録程度で失礼いたします)

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2008年7月27日 (日)

企業サイドからみた「消費者庁リスク」(その2)

当ブログでは、2006年5月にエントリーしました「行政専門弁護士待望論」以来、行政とケンカしたり折衝のできる「政策法務」に強い弁護士の必要性を何回か訴えてまいりました。また、そういった機運が高まる大きなきっかけとなるのではないかと考えているのが臨時国会へ提出が予定されている「消費者庁設置法案(仮称)」であります。(企業サイドからみた「消費者庁リスク」 )

200809no6 さて、まだまだ中身がよくわからない「消費者庁構想」でありますが、このたび(企業を動かすリーガル・プロフェッションのための専門誌)「ビジネスロー・ジャーナル」9月号におきまして、この消費者保護行政と企業側の法的対応について大きな特集が組まれております。とりわけ消費者行政推進会議の委員であり、消費者庁構想案の土台部分を作ってこられた松本恒雄教授(一橋大学)のインタビュー記事は、これまで新聞などでも報じられていなかったような内容も多く含まれておりまして、今後の「消費者保護行政」の方向性についても少しばかり予測できるところであります。

消費者問題について、消費者側の視点から、その救済に重点を置いた法律雑誌向けの特集は何度も拝見してきましたが、こういった企業サイドから消費者行政や消費者団体訴訟にどう対応するか・・・・・、といった特集というのは(たしか食品行政問題に限っては「ビジネス法務」さんで勉強した記憶がありますが)あまりなかったのではないでしょうか。(なお誤解のないように申し上げますが、企業サイドからの対応といいましても、けっして不祥事を起こした企業がミスを隠ぺいしたり、報告を怠ることを助長するようなものではありません)この特集記事をすべて読ませていただいての感想は、やはり「行政専門弁護士」は待望されるところであり、かつ、大規模な法律事務所によって企業リスクに対応すべき問題である、ということであります。その理由としては①消費者庁に移管が予定されている法律は(共管を含め)30を超えるものであり、消費者問題リスクに関する企業支援への専門性は多岐にわたっていること、②松本教授のインタビューによると、消費者庁職員としては、「任期付公務員」としての弁護士採用の可能性が高いとされており、まさに「政策法務」に強い弁護士が育成される土壌が作られること、そして③移管対象とされる法律には競争法、PL法が含まれており、企業における国際的な対応が不可欠になる場面が想定されること等からであります。また弁護士だけでなく、BtoCの企業のみならずBtoBの企業においても、消費者コンプライアンスに関する組織的対応の必要性が出てくることについては、ほぼ間違いないものと思われます。

そして、もうひとつの感想としましては、企業としての消費者問題リスクへの対応として、いくつかの整理が必要ではないか、ということであります。たとえば、上記ビジネスロー・ジャーナルにも記載されているように、移管される法律の性質から「表示」「取引」「安全」に分類して、それぞれのリスクを検討したり、「独り立ちできる消費者」と「できない消費者」に分けて、それぞれの企業の対応を検討したり、違法か適法が不明瞭な「グレーゾーン」(たとえ違法でないとしても、従わないことによって企業のレピュテーションリスクが発生するような場合)に関する経営判断、といった問題が考えられます。とくに、最後の問題は企業行動指針に従うことと、信用毀損リスクを回避することとは相反する場面が生じる可能性がありますので、経営判断としてはきわめて難しいところであり、法律家としてもどのように回答すべきか悩ましいときがあります。いずれにしましても、「まじめに経営に取り組んでいる企業が損をしない。消費者と真正面から向き合っている企業が競争に勝てる」消費者庁構想であってほしい、と願っております。

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2008年4月16日 (水)

「行政処分リスク」は両刃の剣か?

関西では「チャペクリ」(チャペル・クリスマス)とか「チャペココ」(チャペル・ココナッツ)としてお馴染みの超大手ファッションホテル運営企業と、その経営者の方が風営法違反で書類送検された、という報道があり、私もたいへん驚きました。規制条例の合憲性が争われたケースがあるものの、風営法違反ということで立件を目指そうとする対応はおそらく初めてではないでしょうか。(たとえば毎日ニュース)ニュースによっては「偽装ラブホテル」なる用語で紹介されておりますが、あまり聞きなれない言葉であります。別の毎日新聞ニュースによりますと、今年に入ってから市民団体によって警察庁などへの取締要望があったようですので、これが契機となったものと推測されます。業界大手への「見せしめ」的取締とか、再三の要請を無視されたことへの対応、といったことも原因しているのかもしれません。しかし、風営法違反というのは、風営法の許可を得ずして「ラブホテル」を営業していた、ということですが、運営会社としてはこの「ラブホテル」に該当しなければいいわけでして、問題となっているチャペル・スイートについても一応は事前に行政の「旅館業」の許可は取得しているわけであります。そもそも行政は、このチャペル・スイートの外観や中身を審査して「ビジネスホテル」として許可したわけでありますので、警察が「ラブホテル」と認定したことと、事前の行政の「ビジネスホテル」と認定したこととは矛盾しないのでしょうか?今回警察が「ラブホテル」と認定した決め手は①駐車場進入口に目隠しがある、②部屋のなかでアダルトグッズを売っている、③部屋の値段表の看板が玄関前に置かれている、④宿泊者名簿が備え置かれていない、といったあたりのようであります。つまり、行政が旅館業の許可をおろした後の、ホテル側の対応のよろしくない点だけを捉えていますので、あえて行政の事前許可との矛盾が生じないような配慮があったのではないでしょうか。だとすれば、ホテル側としましては、先の決め手となった点に留意しながら、ちょっとした改装をして反省してみせれば、それでビジネスホテルであることの「お墨付き」がもらえるわけでして、なんとも要望(地域からのラブホテル締め出し、営業停止)を出した市民団体の意図とはまったく正反対の結果が生じてしまう可能性があります。日本全国に数え切れないほど存在する「偽装ラブホテル」のオーナーの方々も、「なんだぁ、警察が動いてもこの程度かぁ・・・」とホッと胸をなでおろしているのではないでしょうか。ただ、誰も「行政処分はないだろう」と考えていたところで、市民運動を契機として行政処分が動き出す・・・というのも、企業にとっては大きなリスクであり、いわゆる行政処分リスクの特色の一端であります。なお、最近は普通のビジネスホテルやシティホテルでも「デイユース」(お昼の2名さま時間利用)をやっていますし、ツインの宿泊でも代表者のサインだけでいけますし(ラブホテルで車のカギを預けるほうがよっぽど個人特定としてはましだと思いますが)、ビジネスホテルの外観で、中はラブホテルというのも出現しておりますので、ますます境界は曖昧になってきていると思います。

さて、もうひとつの話題のホテルといえば新高輪プリンスホテルでありますが、こちらは旅館業法違反(正当な理由なく客を宿泊させなかったこと)で港区から行政処分を受けるのは必至と考えられておりましたところ、始末書を提出したことで「口頭注意」で終わってしまいそうであります。行政処分というのは過去の行為に対するペナルティではございませんので、なんともその裁量の具合がよくわからず、処分を受ける可能性のあるリスクというものは計り知れないところがございます。しかしながら、このプリンスホテルの件のように、始末書を上手に提出することで明らかな旅館業法違反の事実が認められても、すでに行政目的は達成できたとして、重大な処分は課されずに済むことがあるというわけであります。ひとつ予測を間違えますと、行政処分が刑事処分に発展することとなりますが、裏をかえせば、やり方次第では何もなかったかのように処分の対象からはずれてしまうという、この「両刃の剣」たる性質は、企業コンプライアンスの観点からは十分弁えて(わきまえて)おいたほうがよさそうであります。何度か当ブログでもとりあげましたが、改正された金商法上の課徴金制度(行政処分)によって、取締の歴史をつくっておいて、後から刑事罰(ただし証券取引等監視委員会は、あまり刑事罰に持ち込んで検察庁と共同作業をすることがお好きでないようですが)でピンポイントで締め付ける、という手法にも要注意であります。このままでは、「世の中の気分次第で」行政処分が出たり、出なかったりする風潮が高まるばかりであり、市民にとっても企業にとっても「よろしくない」事後規制社会が到来するのではないでしょうか。私が税務、独禁法以外の分野で行政と闘える有能な弁護士を待望する所以であります。

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2007年9月 4日 (火)

事後チェックバブルの時代

(4日夕方 追記あり)

帝国データバンクのまとめによりますと、行政処分を受けたり、粉飾決算をするなど、コンプライアンス違反が確認された負債額1億円以上の法的整理は、2006年度には102社にのぼり、前年比で37.8%も増加しているそうであります。あまり詳細な引用は避けますが、今週号の日経ビジネス誌では「ルールなき『事後規制社会』」特集ということで、行政処分を受けたことで企業が大きく信用を失うことの功罪と、場当たり的な行政処分を達観できる企業作りを目指すことへの提案が示されており、コンプライアンス経営に関する関心を持つ方にはお勧めの記事であります。(先の帝国データバンクの数字も、また本日のエントリーのタイトルも今週号の日経ビジネス特集記事より引用)実は同じような問題意識につきましては、私自身も昨年5月16日に行政法専門弁護士待望論というエントリーのなかでも少しばかり示しておりました。事前規制から事後規制の社会へ、という時代の流れのなかで、企業には自由を確保することと引き換えに自律的行動が求められるわけでして、ルール違反があれば事後的に厳しいペナルティが課せられるのも当然のこと(自己責任原則)と考える傾向が強まりつつあると思われます。

行政処分を受けることでマスコミからも標的にされ、事件の内容が一般消費者の脳裏にこびりつく前に、たとえ行政処分に不満はあったとしても、役員一同で謝罪をして、マスコミの騒ぎを一回ポッキリで済ませてしまおう・・・・・。この「一回ポッキリで済ます」ことができるかどうかも、結構企業におけるクライシスマネジメントとしては重要なところでありますので、こういった企業の対応もけっして「弱腰」と決め付けることはできないところであります。しかしながら、社会からどのように非難されようとも、自分たちの言い分が正しいと思うのでありましたら、企業の名誉にかけて、断固行政処分の不適切であることを主張し、戦う姿勢を持つことも企業コンプライアンス経営の一方法であると考えます。ただし、その場合には、行政と互角に渡り合えるような有能な「行政専門弁護士」が不可欠である・・・というのが私見であります。(税務訴訟の分野では、著名な弁護士の方々もいらっしゃいますが、税務以外の行政分野となりますと、行政書士さん方の独壇場でありまして、風営法等の警察行政も含めて、なかなかいらっしゃらないのではないでしょうか?)

この日経ビジネス誌の特集記事のなかで、すこしだけ気になりましたのは、フルキャスト社の全営業所における業務停止1ヶ月(神戸市内の営業所は2ヶ月)という処分が、ほかの具体的な前例などと比較すると理由もわからず重い処分であり、なぜフルキャスト社だけ重いのか、その説明もほとんどないのは不合理ではないか?との認識が書かれております。(もともと今回フルキャスト社が労働者派遣業法違反と指摘されている港湾運送業務といったものも、どこまでが普通の検品作業であり、どこからが港湾運送作業となるのか等、かなり曖昧な部分も残るところでありますが、本日はそのあたりまでは論及しません)たしかに、私自身も行政処分については平等原則、比例原則、ディープロセス原則といったあたりは重要だと思いますし、納得できなければ、争うべきものと思います。ただし、行政処分というものの性質を考えた場合、比較すべき材料はたくさんあって、他の面からみれば行政処分に差があっても不合理とはいえない、といった最終判断が下される可能性もありますので、留意する必要があると考えます。

たとえば労働者派遣業法違反を例にして考えましても、同じ違反行為であっても、それがどれだけ労働者を過酷な状況にしていたか、被害者たる労働者たちは、実際にどれだけの被害を受けていたかといった被害状況の差や、同様の行動が繰り返されていたのかどうか、実際の行政処分発令までの間に、未然防止のためにどれだけコンプライアンス体制を構築したか、問題とされる事実関係を企業自身が自社独自で十分調査できたか、最終責任者を特定して、しかるべき対処をしたか、といった状況によって、客観的には同じようにみえる他の事例とは行政処分に軽重が出てもおかしくないと思われます。この日経ビジネス誌のフルキャストの事例を読みましても、こういった部分においても同じだったのか、差があったのかは不明であります。最近でこそ、課徴金賦課のように、ペナルティを主目的とした行政処分が発令されるようにはなりましたが、もともと行政処分は行政目的を達成するための手段、つまり先の例でいえば、労働者の生命身体および財産の安全を守るために発令するためのものでありますので、客観的な事実における前例と今回の対象行為が同様に見える場合でありましても、その代表者の属性とか、違反行為の累犯性とか、再犯防止のための反省や行動などによって、事業停止期間や免許取消など、必要な対応は千差万別であってもとくに不合理とはいえない世界ではないでしょうか。これを「行政の恣意性」と捉えるか、「行政目的を達成するための柔軟性」と捉えるかは紙一重であります。

この紙一重のところを、できるだけ明確に行政に説明責任を尽くさせることこそ、行政に精通した弁護士に期待されるところであり、私が行政専門弁護士を待望するところであります。(ただし金銭的にはあまり儲かる分野ではないかもしれません。(^^;;)今後の金融行政におきましても、同様の問題点が大きくとりあげられるときが近い将来に到来すると思ったりもしております。

(追記)

こういった行政関連の話題となりますと、普段お越しいただいていない方も合わせて、たくさんのアクセスをいただきました。(ありがとうございます)そういえば、以前「耐震偽装」に関する話題のときにイーホームズ社のコンプライアンスを採り上げましたが、事前規制から事後規制へ、といった流れのなかで、これまでは行政権限だったものが民間委託されるケースが増えておりますので、こういった民間に委託された処分行為といったものをどう扱うべきか・・・というのも「新しい論点」になってくるように思います。また、別の機会にでも検討してみたいと思っております。

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2006年5月16日 (火)

行政法専門弁護士待望論

私は「行政法」を選択科目として司法試験を受験しましたが、ここ数年、受験生の負担軽減ということを理由に行政法が試験科目から廃止されておりました。(新司法試験においては公法系ということで、すこしだけ復活したようですが・・・)戦後の司法試験では、商法と行政法のいずれか選択、という時代もありましたので、本当は法曹にとってたいへん重要な法律学のひとつだと思っております。ここ数日、中央青山監査法人の行政処分(一部業務停止)といった大きな事件を中心にエントリーを書いておりましたが、こういった企業社会に影響を与える行政処分といったものの正当性を担保するためには、行政法に強い弁護士というのも社会の要請として必要ではないかなぁ・・・・と考えたりしております。

もちろん、公害関連の国賠事件を多数手がけていらっしゃる弁護士とか、環境問題の取消訴訟や不服審査手続をライフワークとして頑張っていらっしゃる方も多いとは思いますが、ご推察のとおり、ある思想とか信念に基づいて原告団長をやるとか、集団訴訟をとりまとめる、といった高尚なことを考えているものではございません。このたびの監査法人に対する行政処分のように、企業活動に多大な影響を与える行政処分の適正性や、その根拠となる政令や自主規制ガイドラインの是非などを、法律を根拠に当該行政庁と交渉のできる法律家という意味であります。東京の大手法律事務所の著名な先生が、昨年の夢真事件の際に政令の解釈問題を直談判したことなどもこれに該当すると思いますし、独禁法や税務に関しても、ときどき活躍される先生方がいらっしゃるようです。

ただ、こういった行政法に強い弁護士が育たなかったのは、クライアントと行政との関係から由来しているものだったと考えられます。いくら弁護士が「これは行政の解釈が間違っているから、ぜひとも闘いましょう」と慫慂しましても、お上にたてついて、「江戸の仇を長崎で討たれる」のではかなわない、といった風潮が強いために、結局のところ泣き寝入りを余儀なくされるといったことが多かったように思います。しかしながら、最近の耐震強度偽装事件やPSE問題の発生原因でもありますように、事前規制から事後規制(大きな政府から小さな政府)へと時代の流れが変わってきますと、企業を取り巻く「お上の規制」も廃止され、もっぱら規制撤廃のリスクは企業の自己責任に変わってくるわけでして、行政に反抗することによる「仕返し」的規制概念が今後も次第に少なくなってくることが予想されます。そうなりますと、行政処分の違法性、行政裁量の妥当性などを、企業が真正面から取り上げるインセンティブも生まれてくるわけでして、そこに「カラダを張って」企業を違法・不当な行政処分から守る弁護士の職責といったものもクローズアップされる時代が来るのではないかと思います。ただ、なんでもかんでも、訴訟に持ち込むといった対応では、そのぶん企業もリーガルリスクを背負い込むことになってしまって、あまり得策とはいえないでしょうから、「比例原則」「平等原則」「適正手続」などの諸原則を用いて、行政裁量の範囲で交渉できる能力だったり、自社だけには処分が適用されないための「行政庁側の言い訳」をこちらで考えてあげて、その既成事実をきちんと作り上げる工夫だったりするわけでして、おそらくこういった能力は机上の「行政法」の学問では身に付くことはないと思います。むしろ、任期付き公務員になって政策立案者側に回ったり、処分を下すほうに回ったり、紛争の裁定人の経験を積んだりしたほうが専門的知識を涵養するには得策かもしれません。もちろん、(これまでのエントリーでも何度か紹介しましたが)私のように、たとえ「風俗弁護士」といわれようとも(?)、風俗産業のクライアントの警察行政処分に異議を述べて、「3ヶ月間の営業停止」を「30日間の営業停止」にもっていくような経験を積むことも大切かもしれません。(監査法人とファッション○○○では、ちょっと比較もできませんが)

平成16年以降の改正公認会計士法が適用されるような監査法人の行政処分の指針をみましても、監査法人が処分される懲戒事由および処分の加重・軽減事由はきわめて曖昧なものでして、いくら公認会計士・監査審査会が発足したから客観性が担保されると言いましても、とうてい法の支配が妥当するような運用は期待できないと思われます。私自身、市場の活性化のために刑事罰ではなく、行政処分を多用することはやむをえないものと考えますが、それならばフリーハンドの世界のまま「行政処分」を放置しておくことはなんとしてでも避けるべきでして、そのためにも(とりわけ大型法律事務所におかれまして)行政手続に強い若手弁護士を育成していただきたいものです。

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