きょう(11月11日)は、お昼から郷原信郎先生(桐蔭横浜大学法科大学院教授)によるコンプライアンスと企業法に関する講演(関西講演)を拝聴してまいりました。フルセット・コンプライアンスに関する郷原先生のお考えにつきましては、かねてよりたいへん興味を持っておりまして、何点が意見交換もさせていただき、非常に有意義な3時間半でありました。とりわけコンプライアンス経営における「環境整備」につきましては、日本の企業の抱える問題などをどう払拭していくべきか、そのあたりのヒントなども頂戴しまして、またエントリーの中でいろいろと考えてみたいと思っております。(あっ、そういえば、このブログに登場されるコンプライアンス・プロフェッショナルさんもお越しになっておられたような気がしましたが・・・)
さて、私よりも大先輩の(恐縮してしまいますが)監査役でいらっしゃる「酔狂さん」より、内部統制監査に関しまして、コメントを頂戴しました。(たしか2回目ですよね。先日は叱咤激励のコメントを頂戴した、と記憶しております)また藤野正純先生(システム監査にたいへん造詣の深い会計士の先生です)からも、たいへん貴重なアドバイスを頂戴しました。(藤野先生の事務所に、システム監査の方法についてお教えいただくために伺ったのは、もう1年半ほど前のことになりますね。当時なんの面識もなく伺ったにも関わらず、いろいろとご指導いただき感謝いたしております。また、システム監査に関する藤野先生作成にかかる冊子を頂戴し、何度も読み返しておりました。ちょうど内部統制評価報告実務の実施基準が出たところで、またIT統制に関してお教えいただくためにご連絡をしようかと思っておりましたところです。どうもコメントありがとうございます)藤野先生のご指導の点につきましては、また平日の「その2」のエントリーのなかでさらにご質問させていただくとして、監査役という立場からの「酔狂さん」のご質問に対して考えてみたいと思います。
1 内部統制監査の相当性判断について
酔狂さんの第1のご質問は以下のとおりです。
第1は、内部統制監査の相当性判断は誰がするのか、しないのか、ということです。私自身は、単純に、会計監査の相当性判断は監査役に委ねられていますので、会計監査の補助監査である内部統制監査についても、監査役が相当性判断をするものとばかり思っておりました。ところが監査案を見ても、そういった記述はどこにも見当たりません。あるいは、内部統制監査は会計監査の一部であり、会計監査の相当性を監査役が判断するのであれば、そこでまとめて判断すればいいのではないか、との趣旨とも受け取れます。本当にそういう解釈なのか、どなたか、ご存知の方がおられましたら、ご教示ください。
監査役による会計監査の相当性判断の根拠条文は会社計算規則155条2号によるところだと思われます。おそらく会社法上の会計監査につきましても、その補助監査として、試査の範囲を確定するために、これまでも内部統制監査がなされてきたのではないでしょうか。しかしながら、このたびの内部統制評価報告制度における内部統制監査につきましては、あくまでも証券取引法(金融商品取引法)上の(投資家のための)財務諸表監査の一貫(もしくはこれと一体となった監査)として創設された制度だと認識しております。いちおう公開草案(資料)のなかでも、「財務諸表監査人と内部統制監査人は同一監査法人における同一の担当者によるものでもいい」と記述されておりますし、また会計監査人と財務諸表監査人とは通常は同一の監査人が務められるでしょうから、(実質的には)会計監査人の内部統制監査という概念も考えられるのでしょうが、形式的には無関係であるために、金融商品取引法上の内部統制評価報告制度のなかでは「監査役の相当性判断」については検討されていないものと思われます。
2 日本版SOX法と監査役の立ち位置
さらに第2のご質問は以下のとおりであります。
もう一つは、内部統制監査の中で、圧倒的に重要なことは、経営トップの業務執行が内部統制に反していないかどうかをチェックすることと考えています。評価報告案で、全社的内部統制が有効であれば高く評価されるとのことですが、取締役会の有効性よりも、経営トップの有効性のほうがはるかに大事ではないかと思います。この点、日本監査役協会では、監査役監査基準において、それはまさしく監査役の職責である、と宣言しています(第2条)。いろんな専門家がばらばらに活動するよりも、集積効果を発揮するほうがはるかに強力ではないかと思います。
証券取引法(金融商品取引法)上の財務諸表監査にせよ、新設される内部統制監査にせよ、それらはいずれも経営者による意見表明への監査、というスタンスがとられています。(経営活動を計算書類として表した経営者の意見への監査、その計算書類が出てくるシステムがある一定水準の正しさを確保している、という経営者の意見への監査)したがいまして、「経営トップの業務執行が内部統制に反しているかいないかのチェック」という概念が、もし業務執行監査という意味でしたら、それは監査人(もしくは公認会計士)としての職務範囲を越えたものになってしまうと思います。たしかに、経営者が企業の内部統制を無視もしくは逸脱した行動に出ていることを内部統制監査人が知りえた場合の対処ということも考えられますが、そういった場合には経営者のそういった態度自体が「全社的内部統制の重要な欠陥」と「評価」される場合もあると思いますが、その行動チェックということにつきましては、あくまでも取締役会に報告する、監査役に報告する等、差止の権限と職責を担う監視部門へ委託することが基本になるのではないでしょうか。このように考えますと、日本監査役協会の監査基準の内容とも整合性があると思われますが、いかがでしょうか。ただし、会社法上の会計監査についてでありますが、会計監査人の監査については監査役がその相当性を判断するとされていながら、金融商品取引法の世界においては監査役による代表者の業務執行のチェック機能について「統制環境」もしくは「全社的内部統制」の評価対象とする、となっておりまして、この監査人と監査役との上下関係(指揮監督関係でみた場合の優劣関係)には理論的にみたところの曖昧さが残っていますよね。バラバラに活動するよりも、集積効果を発揮できるようにすべき、とのご指摘は私も同感でございます。このあたり、企業実務のおいて大きな混乱をもたらすほどのものでもないと考えておりますが、やはり監査役から見た会計監査人、金融商品取引法上の監査人との協力関係のあり方を考えるにあたりまして、ちょっと今後の理論的整理を必要とするところかと思います。