内部統制監査の相当性判断(2)
会計監査人設置会社におきまして、監査役が会計監査人より計算関係書類を受領した際に、会計監査人の監査の方法または結果を相当でないと認めたときはその旨およびその理由を内容とした監査報告を作成しなければならない、とされています。(会社計算規則155条2号、156条2項2号)もちろん、これは会社法監査における監査役の「会計監査人の監査方法、結果に対する相当性」を判断することの根拠条文でありますが、それでは証券取引法(金融商品取引法)上の財務諸表監査、内部統制監査に対する監査役の相当性判断、という概念は成り立つのでしょうか?これまで、金融商品取引法における企業情報開示の問題と監査役の役割との関係、という論点はあまり議論されてこなかったように思います。筑波大学大学院の弥永真生教授も、「現在の証券取引法の下で、監査人と監査役・監査役会・監査委員会との連携がどの程度要求されると解すべきか、監査役・監査役会・監査委員会が有価証券報告書などに関連してどのような職務を行うべきかについては、必ずしも、十分に議論がなされてきたとはいえないように思われる」と述べておられます(月刊監査役11月号№519 14頁)。したがいまして、先日の酔狂さんのご意見のように、「内部統制監査について、その方法や結果の相当性を監査役が判断することはできるのだろうか」という疑問は、よく考えてみますと検討に値する論点ではないか、と(現在は)思ったりもしています。なお、誤解のないように申し上げておきますが、今回の検討の目的は、内部統制監査を監督する権限が監査役にあるのか、といった優劣を決めたいといった趣旨からではなくて、先の弥永教授が指摘されているような、金融商品取引法上の監査人監査と監査役との連携はいかにあるべきか、といったところをマジメに考えてみたい、といったところにあります。
そこで、こっから先は弁護士でありながら、会計士さんの「監査論」の領域に踏み込んで、オリジナルな考えを展開することになりますので、おおいにツッコミが入ることを承知のうえで検討したいと思うのですが、とりあえず財務諸表監査と内部統制監査というものを、概念図で示したものが以下のとおりであります。勝手に自分で作成したものですから、完全なオリジナルですが、「監査論」をきちんと学んだ経験がありませんので、ひょっとするとそういった教科書のどこかに似たような図式があるかもしれません。
いちおう、監査態様と監査の対象を分けて考えてみました。会計士監査としての財務諸表監査については、原則としては「意見表明監査」つまり、上場企業が一般に公正妥当と認めることのできる会計基準にしたがって、算出した企業情報が正しいと合理的に保証できるかどうかを監査する、というものだと思います。「不正摘発監査」というのは私が勝手につけた名前ですが、違法な献金があったり、下請いじめなどの不当目的で得た利益など、その収入支出に違法性があった場合に、その不正に関する発見(摘発)まで認めることを目的とした監査態様であります。通常、財務諸表監査におきましては、たとえ違法な政治献金などの支出があったとしましても、また重要性が認められるほどのものであったとしましても、「使途不明金」として正しい数字が表示されていれば、それは財務諸表としては「適正である」と監査証明がなされることになると思われます。ただ、企業が情報として提出した数字自体が投資家の判断対象になりますから、その数字およびその根拠情報が監査の対象となるはずであります。いっぽう内部統制監査といいますのは、企業の内部統制システムを開示させて投資家の判断にするための「独立した監査」とすることもできますし、財務諸表監査を補強するための「財務情報の信頼性確保のための監査」と位置付けることも可能であります。とりあえず、金融商品取引法では、上場企業に内部統制システムを開示させて、その監査を行うといった態様は採用せず、あくまでも財務報告の信頼性確保のための監査としています。そして「不備がある」「重要な欠陥がある」といった意見は、あくまでも経営者が表明するわけで、監査人による監査結果は「適正かどうか」といったものに限られておりますので(もし監査人の意見として、不備がある、欠陥があるというものが存在するならば不正摘発監査とも結びつく可能性があるわけですが)、やはり財務諸表監査と同様、意見表明監査に分類されることになります。
さて、ここから先の問題でありますが、金融庁の内部統制ルールにおける監査が、経営者の意見表明に対する監査だとしましても、論理的にはアメリカのSOX法404条(これも意見表明に関する監査です)と同様に、ダイレクトレポーティングを採用することによって、情報監査も業務監査も可能となるわけです。しかしながら、日本の内部統制ルールはダイレクトレポーティングを採用しなかったのですから、ここで意見表明監査→業務プロセス監査といった関連性は消えてしまい、意見表明監査→情報監査という流れが、いわゆる会計士監査のあり方といえそうです。つまりは、経営者が内部統制の評価基準として、一般に公正妥当と認められた会計ルールにしたがって評価しているかどうか、その「あてはめ」に関して精査することが本義であって、「内部統制ができている」「できていない」ということを検討するのではなくて、会計ルールにしたがって経営者が評価しているかどうか、つまり「経営者が有効と評価するには、その判断要素として、まだこれとこれが足りないですよ」といった判断こそ、監査人に求められることになるのではないでしょうか。つまり、内部統制評価報告制度におきまして、経営者がその評価にあたって考慮すべき事項以外に、監査人も独自に調査すべきことがあるのならば、それは上記のとおり「この企業において、内部統制の有効性を経営者が評価するためには、こういった要素を判断材料にしなければいけない」といった監査人の意見形成のためであって、監査人自らが「内部統制が完璧かどうか」「内部統制に不備があるか」を判断するためのものではない、というのが論理的ではないかと思われます。
ところで監査役監査でありますが、金融商品取引法における内部統制評価報告制度も、法令に基づく制度であるために、違法性監査の領域に含まれますし、また内部統制ルールがダイレクトレポーティングを採用しなかったためにできたポケット、つまり業務プロセスに関する監査につきましても、これは経営者から独立性を保持している立場上、業務監査の一貫として可能になってくると思われますし、会計士監査とは競合しないところであります。もし本来、内部統制監査というものは、アメリカSOX法で示されているとおり、業務監査が基本であるところ、会計士責任の低減や、費用低減といった目的からダイレクトレポーティングが採用されず、情報監査で収めることとした、というものであるならば、そもそも監査人による「経営者評価の適切性を判断する重要ポイントの指摘」に問題があるとするならば、業務監査を行っている監査役がその指摘の相当性を判断したとしましても、上記の監査図式と日本の内部統制評価報告制度からみて、なんら矛盾はしないと思いますし、もっとも重要なことは、経営者による財務報告の信頼性を高めるための内部統制ルールを前提とするならば、個別企業の業務を熟知した監査役と、その内部統制監査を担当する会計士が、「評価ポイントの重要性」について協議することにあるのではないでしょうか。
11月 16, 2006 なぜ「内部統制」はわかりにくいのか | Permalink | コメント (6) | トラックバック (2)

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