オリンパスCEOの違法薬物疑惑とコンダクトリスク(31日追記あり)
上場企業の現役社長の薬物疑惑(自ら会社に報告して辞任)といえば昨年の4月ころに一件ありましたが(東証グロース企業)、10月28日の各メディアが、オリンパス社のCEOによる違法薬物購入疑惑を報じており、疑惑のCEOは辞任されたそうです(たとえば朝日新聞ニュースはこちらです。取締役、代表執行役社長、指名委員の役職全てを辞任とのこと)。あくまでも「薬物疑惑」でありますが、オリンパスとしては捜査機関の捜査に全面的に協力することをリリースしています。なお、取締役会は社内調査の結果を受けて、企業理念に反する行動があったとして辞任を要求した(同CEOもこれに応じた)そうです。
同社のHPには、オリンパス行動規範とともに、同CEOのメッセージが以下のとおり記されています。世界有数の医療機器メーカーのトップによる薬物疑惑はかなり大きなイメージダウンです。
・患者さんの安全以上に重要なものはなく、私たちは患者さんの健康と安全の実現に全力を注がなければなりません。品質、患者さんの安全、そして適用される法規制の遵守は、私たち一人ひとりの責任です
・行動規範について質問がある場合、また、何か不安や懸念がある場合は、信頼できるマネージャーや人事、法務、GRC/コンプライアンス部門の担当者にいつでも相談してください。また、オリンパスインテグリティラインを利用することもできます。
今年9月に会社側からの相談を契機として警察も捜査をしているそうですが、現時点で薬物が押収されたわけでもなく、ひょっとすると今後不起訴処分となる可能性もあります。そこで「違法行為が確定していない現時点で辞任要求?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、たとえ薬物使用や所持の疑惑がグレーのままだとしても、おそらく薬物所持・使用を疑われる行動があったとすれば、同社の取締役会は「(当該疑惑を生む行為自体が)世界中の人たちの健康を推進する企業のトップが遵守すべきコンダクトに反する」と判断して辞任要求に至った、ということだと推測いたします。
昨日のエントリーでも触れたセクハラ対応もそうですが、たとえセクハラが認められなくても、そもそもセクハラと疑われるような行動があったとすれば、それは企業理念や企業行動規範に反する行為と評価され、懲戒規定上の「当社の役職員としての品位を害する行為」があったとして懲戒処分等の対象(役員の場合には辞任要求等)になることが多いですね。最近は大規模上場企業を中心に「役員行動規範」を別途策定して「社員よりも役員は高い倫理規範が適用される」として処分の対象となるケースもみられます。
そういえば、反社会的勢力と認定できない人(もしくは団体)と親密な交際をしていた社長さんが、「(たとえ反社と認定できないとしても)世間から反社会的勢力と疑われている(噂されている)人と経営トップとの交際が会社のレピュテーションリスクを顕在化させる」として、社外監査役さんからの辞任要求は適切だったとした判決もありました(たとえばこちらのエントリー「富士通元社長事件判決と上場会社の反社対応実務への影響」参照)。
オリンパスのリリースでは「通報をきっかけに社内調査が始まった」とありますが、この「通報」は内部通報(オリンパスインテグリティライン)なのか、それとも外部への情報提供があり、調査要請がなされたのかはわかりません。ただ、過去には内部通報者(H氏)や内部告発者(W氏)への不適切対応で大きな問題を発生させた企業なので、今回こそ自浄作用が発揮されたものと期待したいです。
(10月31日追記)すでにご承知の方も多いと思いますが、週刊文春デジタルにて驚愕の報道がなされています。1年8カ月も前から文春は取材を続けていたのですね。事実関係からすると、コカインとMDの売人から社内に通報があったということなので、オリンパスとしては「自浄作用を発揮したとは評価できない」ことだけお伝えしておきます。